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第04話:魔人、拘束される 投稿者:SIN 投稿日:04/30-22:50 No.2372 <HOME> 





『方舟』、空中都市キング・クリムゾン・グローリーは今、墜落・崩壊の危機に瀕していた。邪神群を依代として降臨した神の軍団、『天使』の猛攻によるものである。

その攻撃は外部からだけでなく、内部でも行われていた。『支配』を授かる第4位の天使、『主天使(ドミニオン)』を始めとした天使群が放った最下位の『天使(エンジェル)』が暴れ回っているのだ。

そして、その凶行は、アンスラサクスとダーク・シュナイダーの戦いによって仲間と離ればなれになってしまったアビゲイルとヨーコの身にも迫っていた。







世界の真実を告げるアビゲイル。その内容に悲嘆し、絶望するヨーコ。

そんな彼らの前に現れた天使(エンジェル)は、躊躇いなく、そして無慈悲に己が爪牙を揮い、まず始めにアビゲイルがその一撃によって倒れたのだった。


「(……しまった……この私としたことが天使の接近を許してしまうとは……。 お喋りに熱中しすぎてしまいましたね……なるほど、テレポーテーションですね)」
この間、0.2秒。

「(メイン脳(・・・・)はダメージが大きすぎですね。 これはしばらく使えそうにありませんね……それにしても、このアビちゃんに2つの脳があると誰が知るでしょうや? いえ、誰も知らないでしょう〈反語〉クス♡)」
0.3秒。

「(フフフ、どこにあるかはヒ・ミ・ツです。 しかし運動中枢にもダメージがあるようですね、動けません。 これはいけませんね。 天使とは思ったより凶暴な生物のようです。 補助として使っていたこのサブ脳(・・・)では呪文に必要な『念』を集めるのに時間がかかってしまいますし―――― )」
0.1秒。

「(このままではティア・ノート・ヨーコの生命がキケンですが、私には成す術がありませんね。 責任を問われ、ダーク・シュナイダーに殺されそーですが)」
0.01秒。

「(考えてみれば、ダーク・シュナイダーの闇の力では神の『封印空間』からの自力脱出はムリムリムリですね。……打つ手なし! 残念です。 さようなら、美しいお嬢さん)」
0.02秒。


と、脳みそが半分飛び出ながらもそんなことを考えていたアビゲイルを尻目に、天使(エンジェル)はヨーコに牙を剥いた。

だが、その時―――― 


「(ムッ! これは……!? 何かが来る!! 凄まじい力を持つ何者かが、ここに現れようとしています!!! 信じられません!! この力は……)」


空間に突如として現れた光。それは一瞬にして天使(エンジェル)数体を粉々に吹き飛ばした。


「「「「「ギギィ~~~~~!? 」」」」」


言葉として認識できない声で驚愕を表す残りの天使(エンジェル)たち。

光は徐々に人型を成していく。


天使どもよ……この方を傷つけることは許さん 


ヨーコの危機を救った存在。それは、光り輝く12枚の翼を持った『ルーシェ・レンレン』だった。










 △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △










「(……あ?)」


何か……普段では感じないような硬く冷たい無機質な感触に、ダーク・シュナイダーは目を覚ました。


「(……今、オレは何を見ていた…?)」


『夢』のようだが、その内容が思い出せない。が、次の瞬間には関心は失せた。ダーク・シュナイダーは元々、『夢』というものは睡眠時の脳内パルスが見せる思考ノイズだと認識している。手に触れられない、手に入れられない幻想などに興味はない。しかし、何故かアビゲイルだけはとりあえず殺しておこうと心に誓っていた。

そんなことよりも―――― 


「(……んだぁ…?)」


脳内物質をコントロールし、まどろむ意識をはっきりとさせたダーク・シュナイダーは、自分が今、自由に身動きが取れない状況なのだということを悟った。だが、然して慌てることもなく、そのまま目を開けずに周囲の様子を窺い始めた。

辺りは、しん……とした静かさだった。物音は何も聞こえない。はぁ、という自分の息遣いが響くほどだ。これでは心臓の音まで聞こえてきそうである。

自分以外の気配はなく、隠行などの魔力の動きも感じられない。

そこでようやくダーク・シュナイダーは瞑っていた目を開け、視覚により自分の状況を捉えた。


「……………………」


薄暗い場所(ところ)だった。とは言っても、意識して『魔眼』を発動させるような暗さではなかった。採光の為に開けられているのだろうか、結構な高さの天井近くに横一列で綺麗に並べられた幾つもの正方形の窓状の穴から入ってくる光。それ以外に不必要な明かりが抑えられた『ここ』は、四方を壁に囲い閉じられた長方型の空間であった。しかし狭くはなく、充分な広さが取ってあり、奥には一台の机と、それを挟むように前後へ椅子が一脚ずつ配されている。

まるで牢を兼ねた尋問室だ。そして、そこに放り込まれて寝転がされている自分。頭と足以外の全身を(ロープ)でグルグル巻きにされ、自由に動く事もできない。およそ囚人を思わせる姿。

ここまでくれば、誰でも状況が理解できるだろう。


「…………あ~~~~…マズった……」


捕らえられたのだ、あの連中に。

ダーク・シュナイダーは、何ともらしくない自分の情けなさに溜息をついた。絶対無敵、最強無比、古の大魔法使いにして伝説の魔人。邪悪の極限に位置し、地獄の皇太子とも呼ばれた者としては、あまりにも惨めだ。

それもこれも、あのタイミングで効力を発揮した『封印』の所為だ。(ロープ)で隠れて見えないが、この身体の小ささは、まだ自分が忌々しくも『ルーシェ・レンレン』の姿のままだという証だ。


「けっ……! 何なんだよ、この『マホラ』ってトコわよォ……」


悪態をつきながら、ダーク・シュナイダーは意識を失う前のことを思い出していた。機械の目が自分を監視していることなど知る由もなく……。










 △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △










「な…な、な……なんじゃこりゃあああああ!!!???」


絶叫する少年を前に、魔法教師たち一同は唖然とするしかなかった。激しい光の明滅が収まったかと思うと、先程まで戦っていた魔法使い・ダーク・シュナイダーと召喚された三つ首の黄金竜は忽然と姿を消しており、代わりに彼と同じ服を纏う少年が焦りと困惑、そして驚愕を一緒に貼り付けた表情でそこに立っていた。

今日は厄日か……、と近右衛門は頭を抱えた。次から次へと予想外の事態ばかり起こる。

一体、あの少年は誰なのか?

ダーク・シュナイダーは何処へ行ったのか? 

ここまでメチャクチャなことは、さすがに経験がない。適切な対処法がすぐには思いつかなかった。他の教師たちも同じようだ。手を出し倦んでいる。

とは言うものの、このまま雁首ならべてボケボケっとしているわけにはいかない。それに、あの少年は不思議とダーク・シュナイダーに似ていた。容姿だけを見れば全くの別人だが、その口調や雰囲気は確かにあの魔法使いのものだった。それをエヴァンジェリンも感じていたのだろう。「おい、じじい……」と自分の推測を肯定するように頷いてくれた。


「あ~~……ちょっと訊ねたいんじゃが……」

「あぁ!? んだよ! オレ様は今、テメエらに構ってる暇はねェんだよ!」


近右衛門は半ば確信した。


「おぬしはダーク・シュナイダーかの?」

「だから何だよ! この超絶美形(エクストリームハンサム)様のサインが欲しけりゃ後で来な!!」


このバカ台詞、もはや確定である。これは好機(チャンス)だ。逃す手はない。近右衛門は、すぐに魔法教師たちへ指示を出した。


「今じゃ! あやつを捕らえよ!!」


教師全員が一斉に動いた。指パッチン一つで無詠唱魔法を撃つことができる神多羅木が牽制を掛ける。一息に6発のカマイタチを放つと、それに合わせてナイフを逆手に構えたガンドルフィーニ、太刀を抜いた刀子がダーク・シュナイダーに向かって飛び込んだ。


「うぅぅざってェェぜ、テメエらぁっ! そんなにヤリ合いてェか!!」


風の刃はダーク・シュナイダーの魔法障壁に弾かれた。だが、全てではない。1発が障壁を貫いて頬を掠め、薄く血を滲ませた。


「んあ!?」


驚きで一瞬、固まってしまったダーク・シュナイダー。魔法障壁の硬度が格段に落ちていた。

だが、今は原因を解明している余裕はない。すぐそこに得物を持った男女二人が仕掛けてきているのだ。


「【 爆炎障壁(ガンズン=ロウ)!! 】」


叩き付けるように腕を振り下ろすと、眼前に炎の壁が生まれた。その名の如く炎による攻撃と防御を同時に行える、ダーク・シュナイダー十八番(おはこ)の魔法だ。

しかし、この魔法の威力も魔人が知っているものではなかった。炎の壁の高さが半分以下である。


「ちっ! これもかよ!!」


理由が分からず、苛立ちが先走る。ダーク・シュナイダーは舌打ちするしかなかった。だが、それでも攻撃を止めることには成功したようだ。炎の壁の向こうに、服の所々を黒く焦がして膝をついている二人が見えた。

そのガンドルフィーニと刀子だが、瀬流彦と弐集院が咄嗟に張った障壁のおかげで、どうにか耐火(レジスト)することができたのだ。それが無ければ、まともに炎の中に飛び込んでいただろう。

二人はアイコンタクトを交わして頷き、一旦退いた。作戦変更かと思われたが、そうではない。この攻撃の本命は、彼らではなかったのだ。

ざわり、とダーク・シュナイダーの背筋に悪寒が走った。殺気というほどのものではないが、明らかに敵意を示す気配。そして、それと同時に背後から聞こえた声。


「すまないね」


その主は、若い男だった。スーツ姿に眼鏡、顎の無精ヒゲ。


「テメ―――― 


ダーク・シュナイダーの言葉は、それ以上は続かなかった。『瞬動術』により一瞬で後ろに回りこんだその男―――― 高畑・T・タカミチの一撃が彼の顎を打ち抜いていたからだ。咸卦法で強化されたタカミチの拳だ。居合い拳ではなくとも、魔人の弱った対物理障壁を貫くのは容易いことだった。


―――― っか…はァ……」


テコの原理で脳を揺らされたダーク・シュナイダーは、抗う間もなく意識を断ち切られ、その場に倒れた。


「…………終わった、かの? やれやれ……老体には、ちと堪えるわい」


見事に伸びる顎鬚を触りながら、近右衛門は安堵の溜息をついた。

そんな彼を、エヴァンジェリンはジト…とした目で見る。封印解放状態の自分を除けば、この中では未だ最強とも云える実力を持っているにも拘らず、この体たらくだ。まあ、今回は精神的疲労ということで納得しておこう。


―――― む……どうりで眠いはずだ」


気付けば、いつの間にか東の空が僅かに白み始めていた。

ようやく、麻帆良の長い夜が明けようとしていたのだった。










 △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △










―――― で、その数時間後。日は既に天高く上っており、久々の快晴と陽気、そして休日であることも重なって、街は賑わっていた。

そんな日に、学園長の近衛近右衛門は自分の執務室、『学園長室』にいた。昨日の―――― 正確には今日の早朝であるが―――― 侵入者騒ぎの事後処理のためである。

一段落して、んん……と身体を伸ばした近右衛門は、「今日が日曜で良かったわい……」と漏らした。これが平日であったなら、あの騒ぎの疲れを残したまま教師陣は仕事をこなすことになっただろう。もちろん自分も。4~5時間とはいえ、布団の中で身体を休めることができたのは助かったと言うしかない。

不意に、近右衛門は席を離れた。室内のほぼ中央にある接客用のソファーと机、その上に置いてある数紙の新聞。その一つを手に取り、ふう……と溜息をついた。これらの新聞こそが今、彼の頭を悩まし、休日返上でさらに仕事を続けさせる原因となっていた。


【湖に謎の水柱。 噂の巨大水棲生物『マホッシー』現る!?】

【夜を彩る光の乱舞! U.F.O襲来に辺りは騒然!!】

【世界樹が謎の発光現象を見せる! 研究サークルが調査を開始】

【世界樹前広場、大損壊! 何者かの凶行か!?】

【建設中の職員寮が倒壊!? 空から氷が降ってきた、との証言もあり!】


各紙―――― さすがに全国紙である『毎朝新聞』は違うものの、都市ローカル紙の『麻帆良新聞』、学生サークルが発行している『まほら新聞』・『麻帆良スポーツ』などの一面は、あの騒動を報じる記事で飾られていた。


「ふうむ……」


記事の中身を読み、唸る。真実に至っているものはないが、これだけ大々的に報じられては噂が噂を呼び、不必要に騒ぎ立てる者も出てくるだろう。だいたい、『人払いの結界』を張っていたとはいえ、場所をあちこち移動しながら、あれだけ派手に暴れた。誰にも気付かれないと思う方がおかしいというものだ。

とはいえ、これは―――― 


「フォッフォッフォッフォッ……」


―――― おもしろすぎる。特に麻帆良学園新聞部が出した号外チラシなどは秀逸の出来だ。

学園に優秀な生徒が揃って、近右衛門は嬉しかった。


コンコン


と、近右衛門が新聞を愉しんでいたところに扉をノックする音が割り込んだ。

無粋じゃな……と思いながらも、それを口にも表情にも出す事はない。それはこちらの傲慢な思い上がりであり、訊ねてきた人物には全く関係ないことであるからだ。


「どうぞ」


主の了承を得て学園長室に入ってきたのは、葛葉刀子だった。


「お仕事中、失礼します学園長」

「いや、かまわんよ。 で、どうしたんじゃ?」

「独房を監視中のガンドルフィーニ先生から連絡が入りました。 あの男が目を覚ましたと……」

「フム! では、話を聞きに行こうかの」


刀子を連れ、近右衛門は学園長室を後にした。行き先は『魔法使い・人間界日本支部施設』にある『魔法使い専用独房』である。










 △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △










こんなことになった経緯を思い返していたダーク・シュナイダーであったが、よくよく考えてみれば、どうでもいいことが多かった。

彼の頭には自分を捕らえた魔法使いたちに対する怒りや恨みなどはない。何故なら、すでにブチ殺すことが決定しているからだ。

敵対者は誰であろうと皆殺し。それが『ダーク・シュナイダー』なのである。


「……メンドクセーことばかりだぜ」


そんな程度の小さいことよりも、ダーク・シュナイダーには片付けなければならない問題があった。それは『ルーシェ・レンレン』の肉体に戻ってしまったことと、今度は魔法出力が弱まっていることである。

『封じの接吻』無しでルーシェに戻ってしまったことは、前に一度だけあった。アーシェス・ネイの配下である鬼道衆の3人と戦っている時だ。その時は連戦による魔力の枯渇、精神の疲労などが原因で戻ってしまった。

しかし、今回は状況がまるで違う。魔力量は十二分にあり、精神の疲労などは皆無。気分はサイコー、うりゃうりゃ状態だ。

そして何より分からないのは、人格が『ルーシェ』ではなく『ダーク・シュナイダー』のままであるということだ。以前は人格まで戻ってしまっていた。

ルーシェは眠ったままだということなのだろうか。そう考えて、ダーク・シュナイダーは意識の中に潜ってみて驚いた。いない。見つからないのである、ルーシェ・レンレンが。

一体どういうことだ!? と思う前に、ダーク・シュナイダーは心底愉快そうに笑った。理由なぞ何でもいい。これは喜ばしいことだ。人格すらも封じ込める『愛と美の女神(イーノ・マータ)の封印』に綻びが生まれたのだ。意識が自分のままなら自由度は上がる。あとは何とかして肉体の封も解いてしまおう。でなければ、大勢の女が泣くことになる。ヘソまで反り返った自慢の××××(ピーー)を、皆が待ちわびているのだから。

次に魔法出力の問題だが、これはすぐに分かった。外部からの干渉、すなわちこの都市全体に張られた巨大な結界の作用である。


「ちっ、やっかいだな……結界(アレ)がオレ様の封印と相互干渉を起こして、効力を中途半端に増大させてやがる。 そればかりか精霊への働きかけも妨害してんな。 呪文発動の言霊(キーワード)に精霊どもが反応しづらくなってんのか……」


さらに付け加えるなら、肉体が『ルーシェ』に戻った所為で、書き換えたはずの魔導駆式と魔力回路が変質していることも分かった。上手い具合に魔力出力が半分に抑えられるように。しかも、いくら書き直しても、その度に結界が作用して元へ戻すのだ。

これでは、どんな魔法も威力が落ちてしまう。そして一定レベル以上の出力を必要とする魔法は使用不可の印を押される。


「なるほどな……道理で『皇龍破(マーノーウォー)』が発動しねーわけだ。 極大系、禁呪系はダメ。 『七鍵守護神(ハーロ・イーン)』も怪しいな。 ギリギリ全力で出せんのは『琰魔焦熱地獄(エグ・ゾーダス)』くれーかよ」


それでも、意識して出力を調整し、魔力を集中させてやっとである。一対多の時のように、魔法障壁を張りつつ、というわけにはいかなくなっているのだ。


「……んだかよォ…」


(ロープ)による拘束がなければ頭をガシガシと掻いていただろう。それだけ困った事だということだ。

ともあれ、このままじっとしているというのも面白くない。まずはこのうっとうしい(ロープ)を解くことにしよう。


「ふんっ……ぐっ! おおっ……!?」


力任せに(ロープ)を引き千切ろうとしたが、これは不可能に近かった。力が入り難いように計算されて巻かれているようだ。

ならば、と今度は魔力を使うことを考える。出力は半分ほどに抑えられたとはいえ、元々の魔力が大きいだけに、この程度の拘束を解くための力など微々たるものだ。

しかし―――― 


「ご丁寧なこった。 魔術処理がされてやがんのか」


思えば当然のことだった。自分が『魔法使い』であることは知られている。それ専用の拘束具を使うのは当たり前だ。

魔力行使が無理やり押さえ込まれている感じがした。魔眼を発動させて縄目をよく見てみると、細かい文字で『呪紋』が施されてあった。さらに、その気配は四方の壁からも感じる。

前後にある幅の狭い壁、そこに刻まれている何らかの文字。読めないことはないが、それはダーク・シュナイダーがよく使う文字ではなかった。旧世界の時代でも更に古い言葉の一つ、古代ギリシア語であった。ダーク・シュナイダーの時代では魔法書でしかお目にかかれない文字だ。


「あれも『呪紋』かよ」


けっ……! と唾を吐くように舌打ちした。これでは誰かが拘束を解くまで自分はこのままだということだ。

そう考えると、だんだんイラついてきて―――― 


「あ~~~~~~~! っぁたくよー!! 何だってこ~~んなメンドクセー状況になるかねぇ~~~~!」


盛大に愚痴り出した。


「アンスラ野郎をブッ飛ばしたと思ったら、身体はぶった斬られるわ、異世界に飛ばされるわ、わけわかんねー連中に襲われるわ、ヨーコさんはいねーわ!」


一度始まると、もう止まらない。それはドンドン加速していく。


「氷漬けにされるわ、ルーシェに戻るわ、魔法は使えなくなるわ、(ロープ)で縛られて三角木馬と蝋燭が用意されてるわ!」


ねーよ、んなモノわ!


「腹は減るわ、休みは少ねーわ、仕事はうまくいかねーわ、金は足りねーわ、散髪にいかなきゃいけねーわ、歯が痛ぇわ、小説の続きが書けねーわ、ホームページは更新できねーわよぉっ!!」


オイ! 途中から違う愚痴が混じってんぞ!?


「それもこれも誰の所為かと言うとォ―――― !!」


その時、何の前触れもなく、ガコン! という音が響いて壁が一箇所せり上がっていく。どうやら、あそこがここの出入口らしい。


「……あ~~、すまんのう、こんなところに閉じ込め―――― 

「てめえの所為だああぁぁぁっ!!」

―――― てぷぎゅるぎばふぁーーーっ!!」


ダーク・シュナイダーは器用にエビ反り大回転から錐揉み式のドロップキックを繰り出した。もちろん、顔面にそれを喰らって吹っ飛んだ人間のことなど知ったことではない。何故なら、それは単なる八つ当たりなのだから。










 △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △ ▼ △









―――― その少し前。近右衛門は刀子と共に武蔵麻帆良にある『魔法使い・人間界日本支部』を訪れていた。

教会にカモフラージュされている建物の奥へと進み、エレベーターを使って地下30階まで降りる。

チン、と電子音が響いてエレベーターのドアが開くと、そこには独房監視の任を受けていたガンドルフィーニが待っていた。


「待たせたの、ガンドルフィーニ先生」


近右衛門の言葉にガンドルフィーニは「いえ」と首を横に振り、共に独房へと向かった。


「あの男の様子はどうかの?」

「大人しいものです。 とてもあれだけ暴れた魔法使いとは思えません」

「ほう。 あの苛烈な性格から考えれば信じられんのう……」

「何か企みがあるのでは?」

刀子が一つの可能性を示した。それも考えられることではある。『魔法使い専用』の独房として『呪文封印処理』がなされているとはいえ、闇の福音を殺しかけ、竜を召喚するほどの術者だ。対応について慎重にならざるをえない。

とはいうものの、術者拘束用である特別製の(ロープ)であれだけグルグル巻きにしているのだ。魔法使用が不可の上に身動きができないというのであれば、それほど大袈裟に考えることはないだろう、というのが近右衛門の思いだった。

だが、ここでハッキリと言っておこう。こと、あの魔人に関しては、それは『甘え』というしかないのだ。






カツン、カツン……と、支部施設の通路に靴音が響く。

施設の奥の奥、最奥部といえる場所にダーク・シュナイダーが入れられた独房はあった。

3人は扉の前に立つ。近右衛門が頷くと、ガンドルフィーニが扉の脇にある装置を動かし、錠を外した。なかなかハイテクだ。


ガコン! と大きな音が鳴り、次いで扉が上へ()がっていく。


「……あ~~、すまんのう、こんなところに閉じ込め―――― 


そうして、近右衛門が中のダーク・シュナイダーに声をかけた瞬間!


「てめえの所為だああぁぁぁっ!!」

―――― てぷぎゅるぎばふぁーーーっ!!」


怒号が聞こえ、近右衛門は吹っ飛んだ。何だか妙に回転しながら床を滑っている。

一方、近右衛門を吹っ飛ばした加害者、(ロープ)で縛られているはずのダーク・シュナイダーだが、蹴りを喰らわした後、「よっ!」と空中で体勢を立て直し、見事に着地した。そして、あまりのことに唖然呆然としているガンドルフィーニと刀子には目もくれず、(ロープ)から出ている足首を気持ち悪く……もとい、器用に動かして走り出した。


「あばよ!」


すたこらさっさと逃げ出すダーク・シュナイダー。


「あっ!」


刀子とガンドルフィーニはすぐに我を取り戻し、得物を構えてダーク・シュナイダーを追う。が、二人よりも速く動いた人物がいた。吹っ飛ばされたはずの近右衛門だった。


「ま、待たんか! 【 魔法の射手(サギタ・マギカ)戒めの風矢(アエール・カプトウーラエ)! 】」


近右衛門は無詠唱で魔法を一矢だけ放つ。それは風の帯となってダーク・シュナイダーの足首に絡み付いた。


「う! おおおおっ!?」


急だったので動きが止められない。そのまま慣性が働き、ダーク・シュナイダーは勢いよくつんのめって地面とキスをした。早い話が顔面を強打したのだ。


「ぐおぉっ! 鼻があ!!」


さすがに痛い。鼻血を撒き散らしながら転げ回る。


「てめえ、ジジイ! 放しやがれ!」


戒めの風矢(アエール・カプトウーラエ)』は『魔法の射手(サギタ・マギカ)』の中でも基本の魔法だが、近右衛門レベルの魔法使いが使うと、それはとても強力な拘束魔術となる。魔力が半減しているダーク・シュナイダーでは解く事ができない。


「くそー、児童虐待だー! 人権蹂躙だー! 弁護士を呼べぇ! 訴えてやるー! 衆道趣味(ボーイズラブ)のジジイに犯されるーーー!! 助けてー、お巡りさーーん!!」

「人聞きの悪い事を言うでない!」


くっきり赤く足型がついた顔をさすりながら、近右衛門は「あいたたた……」と立ち上がる。

ダーク・シュナイダーは通路の床に押さえ付けられ、首にガンドルフィーニのナイフ、刀子の太刀を突きつけられていた。


「まったく……なんてことするんじゃ。 ワシらは話を聞きに来たんじゃぞ。 おぬしの今後の処遇を決めるためにのう」

「あ~~~ん?」


いかにも胡散臭そうな目で、ダーク・シュナイダーは近右衛門を見上げた。










第05話に続く




魔法使いの少年と伝説の魔人

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