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時計が刻む物語 第二十八話(×足洗い邸の住人たち オリ有り) 投稿者:紅(あか) 投稿日:05/05-23:32 No.2399  

時計が刻む物語
第二十八話 『その男、狡猾にして策士』



ボロン! ボロン! オン、ボロン!

 地下書庫。
 その最奥に位置するドーム上の空間に琵琶の奏でる旋律が響き渡る。

「アアァアア……」
「ウオオオオオ……」

 それに呼応し、そこかしこの壁から地面から次々と実体化する朽ち果てた鎧を着た怨霊たち。

 その数、およそ百。

 そして新しく呼び出されたソレらの前に立つのは赤黒い帽子を被った一メートル程度の大きさの妖精。

「ギェッギェッギェッ!」

 数十分前とまるで変わらぬ調子で狂気の笑みを浮かべながら両手のナイフを打ち鳴らす。
 疲れを知らず、恐れも抱かず、ただただソレは殺戮に酔う。

「フンガァアアアアアーーーーー!」

 その妖精の隣。
 肩を並べて、というには余りにも違う背丈。
 三メートルを越える常識外れの巨躯を持つ鋼鉄の妖精は咆哮を上げながら、眼前の怨霊を踏み潰し、薙ぎ払う。
 隣で獲物を切り刻み続ける赤帽子に対抗するように。

 それは一見すると一方的な暴力のように見えてしまうほど圧倒的なものだ。

 だが彼らの後ろで現状を冷静に、冷徹に見定めているバロネスにはそうは見えていない。
 いや実際に圧倒的ではあるのだ。

 二体の攻撃は確かに亡霊の群れを蹂躙し、屠り続けている。
 具体的な数など数えたわけではないが一体で二、三十近くの敵を片付けているのは間違いない。

 さらに彼らの無作為な暴力の嵐に巻き込まれぬように距離をとりながら刀子も堅実にスーツ姿とは不釣合いな刀を振るっている。

 恨みを晴らすべく、琵琶の音に惹かれて現れた哀れな霊たちの悉くを蹴散らしているのだ。

 誰がどう見ても彼らが優勢であるように思えるだろう。

 だが実際に戦っている者はそのような能天気且つ短絡的な結論に至る事は無かった。

「チィ、……キリがねぇか」

 もっとも後方で彼我の戦力を分析していたバロネスが苛立たしげに呟く。

 その言葉が聞こえたようで比較的、近い位置で刀を振るっていた刀子が一足跳びで彼の真横に移動してきた。

「どう考えてもこちらの分が悪いですね。そちらの方が異様な頑張りを見せているようですがこのまま持久戦を続けていればいずれこちらがやられます」

 人間は『人外』に比べて体力という点でどうしても見劣りしてしまう。
 魔力や気と言った力よりも定義が明確であるソレは日常的な鍛錬によって上昇させる事が可能だが『永遠に持続する事』はありえない。
 息切れし、いずれは尽きてしまうのだ。


 さらに今回はその理を確かに理解した上でこのような人海戦術を繰り出してくるような相手。
 恐らくこの男は体力に自信を持っているのだろう。
 『人間などに負けるはずがない』という絶対の自信が。

「フン。お前も随分とお疲れの様子だなぁ、クズハ? クックック……へばったなら逃げてもいいぜ?」

 その事をお互いに理解している事を視線を交える事で確信しそれでもバロネスは普段と変わらぬ憎まれ口を叩く。

「お生憎ですがそんなつもりは毛頭ありません。それよりも貴方の方こそ随分と汗だくのご様子ですが?」

 刀を袈裟に斬り下ろし、返す刀を斬り上げる。
 Vの軌跡を作りながら刀子はバロネスを見つめながら二体の亡霊を仕留めて見せた。

「フン! なんだ、もう反応しなくなっちまったか。面白くねぇヤツ……」
「イチイチ反応を楽しもうとしないでください。ましてやこんな切迫した状況で」
「チッ……」

 殊更に冷静な言葉を返され、バロネスは舌打ちするがその口元は笑みの形に歪んでいる。
 だが刀子には彼の笑みの理由などを考えている暇はなかった。

「(く……。先ほどから敵の数がまったく減っていない。こちらが倒す端からどんどん新しい死霊を呼び出されてしまっては本当にジリ貧です。それに相手にはまだまだ余裕があるように思える。これだけの事をしておいてそれでも……このままでは拙い)」

 彼女が彼の罵詈雑言に対して冷静に対処していられるのは『余裕をなくしているから』なのだから。

 彼女は焦っていた。
 絶望的なまでの戦力差に。

ボロン!!

 そしてその焦りに付け込む様に彼女の耳にまたも琵琶の音が届く。

パァン!!

「あぐっ!?」

 刀子の胸部に痛烈な一撃が入る。
 それは未だ正体が掴めない謎の攻撃。
 どこから来るかまったくわからない一瞬の打撃。

「ふむ。そろそろ主らの相手も終わりとしよう。やらねばならぬ事は多い故に、な。まずは先ほどから後ろにおるそちらの男から……」

 姿を現した時とまったく変わらぬ胡坐を掻いた姿勢で琵琶を弾き続ける男。

ボロン! ボロン! オン、ボロン!

 心なしかその言葉に呼応して二人の耳に届く旋律が大きくなったように思える。
 そしてその音に比例するように攻撃の威力は上がっていた。

パアアァン!!

「がふっ!」

 宣言通りにバロネスの身体が快音と同時に吹き飛ぶ。

パァン! パァン! パァン………

 仰向けになって地面に無様に倒れた彼に襲い掛かる打撃の集中砲火。

「ぐっ、ごッ、がぁあああああッ!!!」
「バロネス先生ッ!!!」

 幾ら余裕を失っていても目の前でサンドバックのように打ち込まれている同業者を見て、何の反応も示さないわけではない。
 学園長の下にいる彼女のような人間は根本的な部分で『お人好し』なのだから。


 まぁ仮に刀子の立場にバロネスやエヴァンジェリンがいたならば鼻で笑ってやられているヤツ(彼らにとってどうでもいい人間)を見捨てていただろうが。


 痛む胸部に顔を顰めながら近づく武者姿の死霊を斬り捨て刀子は彼に駆け寄る。

「っ……」

 彼女は打撃の雨に打たれ続けたバロネスの姿に息を呑んだ。

 体中に時計が取り付けられた珍妙なスタイルのスーツはそこかしこが破け、手入れなどされていないだろう白髪は古めかしいブロックで作られた床にへばり付くようにして広がっている。
 そしてその顔には先ほどの攻撃で付いたのだろう痣がくっきりと残っていた。
 そして何よりその右腕は、人体としてありえない方向に曲がっている。
 明らかに折れていた。

 しかし彼女が息を呑んだ最も大きな要因は。
 まるでボロ雑巾のような有様になったその状態で。
 彼が『笑っている』という事実に、である。

「(この人は……)」

 未だかつてない寒気を覚え戦慄する彼女の心中を余所にバロネスは上半身を起こした。
 ボロボロの白髪が彼の動きに合わせて翻り、彼の表情を隠してしまう。

「(ククク。ようやく出来たか、エアリエル)」

 心中で歓喜の声をあげ、盛大に口元を歪ませる。
 そして刀子から見れば幽鬼のような有様の彼は大きく息を吸い込み、頼りになる相棒の名を咆哮した。

「エアリィーーーーーーー!!!!」

 ドーム上の空間一杯に響き渡る大声に刀子は思わず顔を顰める。
 琵琶の男の方も彼の突然の行動に虚を付かれたのか、弾いていた手を止めてしまっていた。
 自分たちを呼び起こした音が途切れた事で死霊たちの動きも一時的にではあるが止まっている。

「オッケー!! 教授!!!」

 彼女はずっと待っていた。
 契約者の合図を。
 息を殺し、気配を殺し、鉄枷ジャックの時計を空中から投げ落とした後からずっと。
 この戦場で、誰もが無関心になっていた『場所』で。

 彼女はエアリエル。
 空気を操り、空気と共に在り、そして『空気そのモノ』になる事が出来る妖精。

「馬鹿な! 我が耳がこの部屋の『音』を聞き漏らしていたというのか!?」

 気配は愚か生きている音など微塵もさせずに隠れていたエアリエルの突然の登場に
 声を荒げ、驚愕を顕わにする琵琶の男。
 その言葉がより一層、バロネスの理論に確信を与えていると言う事も知らずに。

 バロネスは男の能力の『正体』に気付いていた。
 あのタカミチの無音の拳打並に得体の知れないこの攻撃がどういうものなのかを。

 そして同時に編み出していた。
 ソレへの対処法と必勝の策を。

 全ては『この時』の為。

 凶悪な妖精種の召喚はこの場にいる全ての人間の目を誤魔化す為とヤツの攻撃、そして能力を分析する時間を稼ぐ為。

 後方に下がっていたのは向こうが痺れを切らし、死霊たちの攻撃が届かない自分に対してお目当ての攻撃をしてくる事を誘う為。

 それまでの戦い全てが『唯一、敵に察知されないエアリエルが呪文を完成させる為』の布石だったのだ。

 そして彼がズタボロにされて尚、笑っていられたのはエアリエルから準備が整ったという一方通行の念話が届いたからだった。

「「“午前一時のグレムリン(陰湿なビール飲み)”!!!」」

 エアリエルとバロネスの声が期せずして唱和する。
 相変わらず囮役に精を出しながら、己の欲望を満たす二体の頼もしい妖精たちを見やりながら彼の必勝の策が動き出した。



麻帆良学園中等部・学園長室

 ほどよい陽気に包まれた室内に二人の人物が対峙するように相対していた。
 一人はこの部屋の主である学園長。
 そしてもう一人は図書館島の地下でネギたちが接触した温和な女性。

 だが女性の身体は透き通り、時折ノイズを伴って揺らめいている。

 この事から察しが付くだろうが彼女は実体ではない。
 今、この場にいる彼女は図書館島の機能の一つによって学園長室に投影された一種の立体映像なのだ。

「むぅ。まさかここまで『時期』を外して出現するとはの……」

 重苦しく唸りながら両手を組む老人。
 普段は滅多に見せないその沈痛な表情が事態の深刻さを物語っていた。

「どうやら彼らの戦闘の余波で封印陣の一部が欠損してしまったようです。認識阻害を行っていますので地下にいる子供たちには異常は気付かれていませんが……」

 自身の身体をきつく抱きしめながら事務的な口調で報告する女性。
 それが震える身体を無理に押さえ込み、ともすれば押しつぶされそうになる恐怖に耐える為のやせ我慢なのだと学園長は当然のように気付いていた。

「無理はせんでいい。栞(しおり)君。……復活したのは『耳の鬼』だけかの?」
「は、はい。今のところは他の封印に異変は見られません。耳の鬼もあの封印の間から外へは出ていないようです」
「刀子君とバロネス君が頑張ってくれておるようじゃな」

 見事な顎鬚を撫でながら安堵のため息をつくもののその表情にはいまだ険しさが残っている。

「栞君。図書館島全体の認識阻害と中にいる者たちの避難誘導を……。くれぐれも『魔法に関わる者たちに勘付かれぬよう』に頼む」
「……はい。子供たちはどうされますか?」
「ワシがゴーレムを使って外へ誘導しよう。あそこならば勉強も捗るだろうと思ったんじゃがこのような事態になってしまった以上、早急に彼らも避難させねばなるまい」

 学園長の言葉に深く頷く栞。

「戦況は何か変化があり次第、逐次こちらへ報告。最悪の場合は……」

 そこで言葉が途切れる。
 学園長の表情には並々ならぬ苦悩が見て取れた。
 栞は沈黙しただ彼の言葉を待つ。
 この学園を統べる者であり、封印を監視する者でもある『近衛家の長』の言葉を。

「図書館島を『大封印』の術式により消去する。『アル』にもそう伝えてくれい。そして済まないが栞君……『そうなってしまった場合』の覚悟を、決めておいてほしい」



『大封印』
 それはこの麻帆良学園都市を守護する近衛の一族に伝わる禁断の術の一つ。
 目標物を周囲一帯の土地ごとこの世から消し去り、『こことは違うどこか』へと放逐するという強力無比な魔法の事だ。
 だがその代償はとても大きく使用者の魔力の容量が足りなければ発動させる事すらままならない。
 そして発動できるだけの魔力を有していても、その力を制御するのは容易ではなく暴走の危険性は学園最強の魔法使いと謳われている学園長ですら四割から五割。
 暴走すれば使用者は勿論、制御された規模の何倍もの範囲が塵も残さず消滅するだろう。



「……はい」

 栞は彼の言葉を受け、深く一礼すると消え去った。
 投影させていた機能を切ったのだろう。


 学園長が言った覚悟とは『図書館島と運命を共にする覚悟』の事だ。
 彼女は図書館島の護り人。
 そこが居場所であり、そこが存在意義である。
 故にそれ以外の場所に移る事は在り得ず、またそんな事は考えられない。

 老人はそれを誰よりも理解した上で先ほどの言葉を言った。

『彼女に選択肢などありはしないと分かった上で』


 学園長はゆっくりと椅子から立ち上がり、自身の背後にある窓から外を見つめる。

 言わなければならなかった。
 言って、そして覚悟を決めておかねばならなかった。
 彼女は勿論、自分も。

 己はこの学園の長。
 起こりうる事象に対し、責任を持たねばならぬ者。
 起こりうる事象に対し、最も有効だと思われる手段を講じ、時に犠牲すら厭わぬ決断をしなければならぬ者。
 最悪に備え、最悪を回避し、最悪に立ち向かわなければならぬ者。

 だが彼はそれでも人である。
 学園長である前に、関東魔法協会の長である前に。
 真っ当な感情を有する人なのである。

「バロネス君、刀子君。……出来る事ならばワシに『彼女』を、『図書館島』を滅ぼさせるような真似はさせんでくれ」

 拳を白くなる程に握り締めながら彼は祈るように呟いた。

 身勝手な願いだ。
 何も知らない彼らをあの場所に送り込み、さらに戦い続けている彼らを見捨てる算段をしている自分が望んでよいものではない。

 そんな事は彼が一番理解している。
 だがそれでも彼はそう思わずにはいられなかった。



あとがき
お久しぶりです。紅(あか)です。
約二ヶ月ぶりの更新になりましたがいかがだったでしょうか?
今回は彼らの苦戦と逆転までとその頃の図書館島の外の様子という形になりました。
バロネス、刀子の苦戦する様子。水面下で動く学園長の苦悩が文字を通して伝わっていれば幸いだと思っております。
そして次回、あるいはその次辺りで随分と長くなりました図書館島編は完結の予定です。
どういった形でこの戦いに決着が着くのか、期待して気長に待っていただければと思います。

ご意見、ご感想などございましたらお気軽に感想掲示板にお書きください。
そしてそろそろ規定の量を満たす頃合いですので次回の話より新しいスレッドを立てさせて頂きます。
それではまた次の機会にお会いしましょう。

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