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第一話:紅茶、永劫の剣、異世界へ(後編) 投稿者:アゥグ 投稿日:04/08-01:16 No.13

「あら、結構似合ってるじゃない」



それが病室から出てきた悠真の格好を対するはるかの感想だった。



「そう、ですか?」



「そうよ。それじゃ行きましょうか」



そう言うとはるかは広い廊下を歩き始めた。その後を追いながら悠真は自分の格好についてもう一度聞いてみた。





「本当に似合ってます?」



「似合ってるわよ。どこも変じゃないし」





「ん~・・・・記憶がないから何とも言えないけど、何となく高校は卒業していた感じはするんですけど・・・・」



「そうなの? でも、顔は少し童顔みたいだから違和感ないわよ。ぱっと見だとまだ15、6歳と言ってもおかしくない感じだし、別にいいんじゃない?」



「・・・さいですか」





実を言うと、悠真も着替え終わって病室に有った鏡を見たとき、「下手すると中学3年でも通りそうだ」と、思っていたのだ。後、その時気付いたのだが自分の瞳の色が青かったのだ。何故、日本人(だと思う)である自分の瞳が青いのか少し疑問に思ったのだが、クォーターか何かだったのだろうと自分を納得させた。





第一発見者であるという人物がいる部屋に向かっている途中、どこからか爆発音と男の悲鳴が聞こえてきた。そのことをはるかに言うと彼女は、「・・・・・・気にしなくていいわよ」と、言った。返事までにあった妙な間が気になったが、自分でもその方がいいと何故か思ったので気にしないことにした。





しばらく歩いていると一つの扉の前に着いた。





――コンコン



「はるかです。天城悠真君をお連れしました」



「どうぞ」



――ガチャッ



「失礼します」





そう言いながら室内に入るはるかに続いて悠真も中に入った。そして、気品と穏やかな威厳を漂わせ、趣味のいいアンティークの調度品が飾られている部屋の中央にあるソファーに座ってティーカップに口をつけている、薄い青を基調としたドレスを身に纏った少女を見ると、動きを止めてしまった。





少女はティーカップをテーブルの上のソーサーに戻すと悠真に顔を向け、





「お待ちしていました。それでは、お話をするのはひと息ついてからにするとして―――」





その顔に微笑を浮かべながら、





「―――紅茶、お飲みになりますか?」





そう言った。









魔法先生と永劫の転生者 第一話:紅茶、永劫の剣、異世界へ(後編)









「それでは、私はこれで失礼しますね」



「ええ、ご苦労様です」



「はい。悠真君、くれぐれも粗相のないようにね」





はるかはそう言うと部屋から出て行った。だが、悠真にその声は聞こえていなかった。悠真は少しの間、目の前にいる少女に見惚れていた。「綺麗だな~」と思うと同時にどこか懐かしい様な感じもしていた。そう、自分はこの少女とどこかで――――。





「? どうかしましたか?」





部屋に入った所で動きを止めて、こちらを見ている悠真に気が付いた少女はそう声を掛けた。





「! い、いえ、何でもないです」





その声を聞き、悠真は自分が少女に見惚れてずっと立ったままなのに気が付き、慌てて返事をしてテーブルを挟んで少女とは反対側のソファーに座った。そして、少し呼吸を整えてから自分の為に用意されていたと思われる紅茶の入ったティーカップを手に取った。まだ、湯気が出ていたので淹れてからそんなに時間がたっていない様だ。





「あっ、美味しい」



「そう。それは良かったです」





そう言うと、少女はもう一度紅茶に口をつけた。それに習うように悠真もまた紅茶を飲んだ。





しばらくして、二人はほぼ同じタイミングで紅茶を飲み終えた。すると少女は話を始めた。





「それではまず自己紹介をしましょうか。私の名前はアンゼロット、世界を守護するために更なる高次に存在する者より遣わされた“世界の守護者”です。それと同時に、ここアンゼロット宮殿を本拠とするロンギヌスの創設者にしてロンギヌスのトップです」



「トップ?」



「そう、トップ、言い方を変えれば長、刑事ドラマ風に言えばボスです。つまり一番偉いんです」



(何かいきなり軽くなったような気が・・・・)





そう思ったが口には出さず、部屋に入ったときよりも幾分軽い雰囲気になった少女――アンゼロットにさっそく質問をすることにした。





「えっと、とりあえず質問したいんですが・・・」



「ええ、どうぞ」



「それじゃあ、まず、どうして僕はここにいるんですか?」



「それはね、転移してきたの」



「転移?」



「そうです。あなたはこの宮殿の地下にいくつかある宝物庫の一つに転移してきたの。ううん、喚ばれてきたの」



「よばれてきた?」



(よばれてって、もしかして「召喚」の「喚」って書いてか?)





普通なら信じられないような単語だが、何故か素直に受け入れていた。そんな自分に少し驚きながらも、悠真は質問を続けた。





「喚ばれてきたって、一体何に?」



「あなたを喚んだのは、その宝物庫に安置されている一振りの“剣”です」



「“剣”、ですか?」



「そう、“剣”です。そして、その“剣”は元々あなたの物なのです」



「俺の?」



「はい。それも今のあなたとして生まれる前から、遥か昔からずっと・・・・」



「???」





悠真はますます分からなくなってきた。今の自分が生まれる前からというと、それは前世からと言うことになる。





(いくらなんでも、そんなこと「あるんです」・・!?)





悠真は、まるで心を読まれていたかのようなタイミングでそう言われ、思わず目を見開いてアンゼロットの顔を見詰めてしまう。





「理由ならあります。ですが、その前に今のあなたにこの世界について少し説明しなければなりません。はるかから記憶喪失だと聞いていますから」





そう言うと、アンゼロットはこの世界のことと起きている事、存在している者の事を話した。

常に危機に瀕している世界、その世界を守っている“世界結界”、その世界に“裏界(ファーサイド)”より紅き月の門を通り侵入してくる存在“侵魔(エミュレイター)”、そのエミュレイターから力なき存在“イノセント”を守っている存在“ウィザード”。



そして、ウィザードと呼ばれる存在の内、悠真は“転生者”と呼ばれる存在らしい。





「俺が転生者?」



「ええ、そしてあなたを喚んだ“剣”こそ、あなたの未来永劫のパートナーなのです。名前を“アイオーン”と言います」



「アイオーン―――」





―――ドクンッ





「!?」



「どうしました?」



「えっ!? な、何でもないです!」



(な、何だ!? 今の感覚は?)





先ほどの感覚に悠真が戸惑っている間にも、アンゼロットは話を続けた。





「そうですか・・・・・・。話を続けますね。それで、何故アイオーンが地下の宝物庫に安置してあるかといいますと、預かっていたのです」



「預かっていた? 誰から?」





返ってくる答えが分かっていながらも悠真はそう尋ねた。





「はい。前回のあなたからです。生まれ変わった自分を見つけたらここに連れてきて渡して欲しい、と。でも―――」



「見つける前にアイオーン自身に喚ばれた、と言うわけですか。しかも、大怪我をした状態で」



「そうです。ちょうど何となく様子を見に行ったときに」





そこで、もう一つ気になっていたことを聞くことにした。





「なら、どうして怪我が治っていたんです? はるか先生の話だと魔法を使った痕跡もなかって言うし・・・・」





そう、発見場所から運ばれてきた時には傷口がどこにもなかったそうなのだ。先ほど聞いたウィザードの話のなかで出てきた魔法を使って治したわけでもなかった。なら、一体どうやったのか?



その質問に対し、アンゼロットは少しだけ考えてから答えを口にした。





「ごめんなさい、私にもよく分からないのです。いきなり目の前に転移してきたと思うと急に身体が光に包まれ、すぐにその光は消えてしまいました。そして、急いで救護班を呼んで医務室に運んでもらって診てもらったのですけど、その時にはどこにも怪我がなかったそうです。たぶん、あの時光に包まれたときだと思うのですけど、その光の正体については分からないのです」



「そう、ですか」



「本当にごめんなさい」



「い、いえ、謝らないでください!! 別に怒っているわけではないので・・・・。少しでも原因が分かっただけでもいいんです。だから―――」



「そうですか。それでは本題に入りましょうか」



――ズルッ





少し落ち込んだ感じで言った言葉に対して謝れてしまい、悠真は慌ててフォローした。だが、悠真がそう言うとケロッともとの調子に戻って話を進めた。それに悠真は思わずソファーからずり落ちてしまいそうになる。





「どうかしましたか?」



「い、いえ、何でもないです、何でも・・・」



(い、今のは演技か!?)



「それで、本題とは?」





表面上、何とか取り繕い話の続きを促す。





「ええ、実はあなたにお願いしたいことがありまして」



「何ですか?」



「最近、エミュレイターの中に裏界に戻らずにどこか別の世界に逃げていくものがいるのです」



「異世界っていうやつですか?」



「そうです。私たちもいくつか異世界の存在を知っています。そして、この世界も数ある異世界のうちの一つで他の世界からは第八世界“ファー・ジ・アース”とも呼ばれているの。ですけど、今回の件でエミュレイター達が逃げ込んだりしている異世界と言うのが、今まで存在が確認されていなかったものなのです。他の世界から来た“来訪者(ビジター)”からも聞いたこともありませんでしたし」



(嫌な予感がする。今すぐここから逃げなくてはいけない気がする)





悠真は直感でここにいてはいけないと感じた。これ以上話を聞くと大変な目に遭ってしまうと。





「そこで―――」





―――だが、もう手遅れだった。





「あなたにその世界に行って欲しいのです」



「・・・・・・え~と、拒否権は?」





だからと言って、簡単に諦めるわけにはいかない。悪足掻きと知りつつもアンゼロットに言ってみる。



しかし―――





(にこにこ)





―――やはり無駄だったようだ。





「はぁ、分かりました。行きますよ」



「そうですか、よかったです」





諦めの溜め息をつきながらも、悠真は承諾の返事をした。しかも、どういう訳か昔っからこんなやり取りをしていたような気がしていた。





――コン、コン





悠真がそのことを考えているとドアがノックされた。





「あら、来たみたいですね。どうぞ、入りなさい」



――ガチャッ



「失礼します」





アンゼロットが許可すると一人の男性がそう言って部屋に入ってきた。その男性の格好を見て、悠真は心の中で思わず突っ込んでしまった。

(何故仮面をつけている!!)



そう、白いスーツを着ているのは特に問題ない。が、何故かその顔の上半分を仮面で隠している。

しかし、アンゼロットはそんな悠真の心の中には気付かずにその男に話しかける。





「ご苦労様です、ロンギヌス00。天城さん、このロンギヌス00がアイオーンを安置している宝物庫まで案内してくれます」



「よろしく、天城悠真君」



「よ、よろしく」



いつの間にか傍に来ていた仮面の男――ロンギヌス00に挨拶をされてしまい慌てて立ち上がり、差し出されていた右手を握り返しながら自分からも挨拶をした。そこへ、アンゼロットから声が掛かる。



「そうそう、あなたに渡しておかなければならないものがあったんです」



そう言って部屋の奥に置いてある、これまた高そうなアンティークの机の引き出しからあるものを取り出してきた。それは、表面が少し古くなりタイトルが読みにくくなった一冊の本だった。



「これは?」



「魔導書よ。魔術師なら誰もが持っているものよ。あなたは転生者になる前は魔術師だったのよ、昔もね」



そう言って、悠真に手渡す。ついでに腰にベルトを巻いて固定するタイプの皮製のホルダーも渡した。渡されたホルダーのベルトを制服の上着を脱ぎ、ワイシャツの上から腰に巻き、魔導書をそこにしまい固定した。そして、また上着を着直した。悠真はそれを無意識に行っていた。



「どうやら体は記憶していたみたいですね」



その様子を見てアンゼロットは微笑を浮かべながらそう言った。



「それでは、ロンギヌス00。彼を『永劫の剣の間』へ。その後は、あの場所へ案内して」



「分かりました。それでは天城悠真君、行こうか」



「えっ、は、はい!」



悠真は先ほどの自分の行動に驚き呆けていると、そう声を掛けられ慌ててロンギヌス00の後について行った。



――バタンッ







アンゼロットは二人が出て行ったドアをしばらく眺めていた。



「やっぱり、『彼』ですね」



今、彼女の脳裏には一人の人物の姿が浮かんでいた。かつての仲間であった蒼銀の髪をした、戦士のような魔術師の男である。





「でも、普段の髪の色が違うから、どちらかと言うと前回の『彼』によく似ていますね」





そう、前回は今の彼と同じで瞳は青く、普段は黒髪だったのだ。



本当は、何故悠真の身体に傷跡がなかったのかを知っていた。それは、あの時彼の身体を包んだ光を見たときに気が付いていた。かつて、「彼」のパートナーであった“大いなる者”の「彼女」が奇跡を使ったときの光と同じだったから。



アンゼロットは先ほどの机のところまで歩いて行き、引き出しから一枚のB4サイズの紙を取り出した。





「記憶を失う前からも、どこかに覚えていたのかもしれませんね」





その紙を眺めながらアンゼロットはそう呟いた。



そして、その紙にはこう書かれていた。





――ナイトウィザード キャラクターシート









悠真はロンギヌス00の後に続いてアイオーンが安置されている宝物庫に向かって廊下を歩いていた。





「あの・・・」



「ん? 何だね?」





その途中、彼はロンギヌス00に話しかけた。





「後で、自分の力を確認したいんですけど」



「ふむ、それならちょうどいい場所があるから後で案内してあげよう」





実を言うと先ほどアンゼロットから話を聞いているときから、今の自分の力を確かめてみたいとずっと思っていたのだ。





「ありがとうございます」





そうお礼を言うと、その後は無言で歩き続けた。



そして、今、悠真の目の前には鉄製の一つの両開きの扉があり、扉の上には「永劫の剣の間」と書かれていた。





「ここが・・・」



「そう、ここが君の“剣”が安置されている場所だ」





そう言うと、ロンギヌス00は予め預かっていた鍵を鍵穴に入れ、扉を開けた。



――ギイィィィ・・・



扉を開け中に入ると、どういう原理か左右の壁に並んだ蜀台に明かりが灯り、部屋の中を照らした。そこは石造りの部屋だった。そして、奥の少し高くなった場所に一振りの剣が台座に刺さっていた。





「あれが、アイオーン・・・・。俺の“剣”・・・・・」





剣は蜀台の明かりを反射し淡く輝いていた。それは白い両刃の剣だった。刀身と鍔、柄が一繋がりになっていて、刃の部分は鍔の所まであった。刀身部分と柄の間には青いオーブがはめ込まれており、その左右には青い翼が描かれていた。



そして悠真は台座のところまで歩いていき、その剣の柄を握った。するとオーブが青く光り、刀身が白く淡い光に包まれ、それと同時に台座から簡単に引き抜くことができた。





「ほう・・・」



(やはりアンゼロット様が言っていた通り、彼がこの剣の主なのだな)





ロンギヌス00は感嘆の声を出してその様子を見ていた。この100年間、誰も抜くことが出来なかった剣をこの少年はいとも簡単に引き抜いて見せたのだ。それが何よりの証拠だった。



悠真は引き抜いた己の半身とも言うべき剣を目の前に掲げて眺めていた。





――ドクンッ





(やっぱり、この感じはさっきのものと同じだ)





悠真は先ほどアイオーンの名前を呟いたときに感じた感覚を思い出していた。それは今感じているものと同じ、どこか懐かしく、そして愛しいような感覚だった。



しばらくすると、アイオーンは強い光を放った。そして、光が収まるとそこには白い剣の姿はなく、代わりに白い一つのブレスレットが右腕にはめられていた。そのブレスレットには、小さいが剣と同じ青いオーブが一つだけはめ込まれ、その左右には青い翼が描かれていた。





「どうやら、普段はその姿のようだね」





悠真がアイオーンの姿が変わったことに疑問を感じているとロンギヌス00がそう言ってきた。





「たぶん、どうすれば元の姿になるかは君自身が知っているはずだ」



「そう言うものですか?」



「そう言うものなのだよ。その剣の力が必要になったらおのずと思い出すことが出来るはずさ」





そう言うと彼は踵を返し扉に向かう。そして、その手前で立ち止まり、未だに台座の所に立ったままでいる悠真の方へ振り返った。





「それでは、先ほど約束した力を試せる場所に案内しよう」





そう言うと、そのまま扉の外に出て行く。悠真もしばらくしてその場から歩き出し、同じく扉の外へと出て行った。



そして、誰もいなくなると蜀台に灯っていた明かりが消え、





――ギイィィィ・・・バタンッ! ガキンッ!





扉はひとりでに閉じ、鍵をかけた。









あの後、悠真はロンギヌス00に連れられ、そのまま力が試せるという場所に来たわけだが・・・・・・





「何でこうなってるんだあああああ!?」



――ドオオォォォンッッ!!





その手に一振りの剣を持った一人の男が大勢の人たち――たぶん皆ウィザード――に追い掛けられ、逃げ回っていた。





――パァーンッ



「一対多数で何て聞いてねぇぞおおおおおっっっ!!」



――チュゥンッ



「あの~」



「何かね?」





後頭部に大粒の汗をかきながら悠真は隣に平然と立っている仮面の男に問いかけた。





「ここは?」



「アンゼロット宮殿の中庭だ。ここはロンギヌスの構成員の訓練にも使われている」



「それで、彼は?」





そう言いながら、ここに来た時からずっと逃げ回っている人物を指差す。





「待てぇぇええ!! 憂さ晴らしの的おおおお!!!」



――ヒュンッ



「うお!? 刃物を投げるなあああ!!」



「ha――――hahahahaっ、ゴ主人様と鬼ゴッコっ! ベリベリサイッコーデエエェエエエエスっ!!」



「ヴィオレットっ! 俺を助けろっ!!」



「ソレは遠慮サセテモライマースっ!!」



――シュンッッッ



「ぅおい!!」



――ザンッ



「何故攻撃する!! 俺はお前の主なんだろ!? て言うか何でお前がここにいるんだあああ!?」



「ソレはオモシロソウだったカラデエエェエエエスっ!!」



「全っ然、面白くねえええっ!!!」



――ドォォォオオンッ



「・・・・・・」



「ああ、彼ですか。彼は“魔剣使い”の柊蓮司君です。今日は彼には新人の皆さんの訓練相手として呼んだのだよ」



(もしかしてさっき聞こえてきたのってこの音だったのか?)





ちなみにどう贔屓目に見ても訓練には見えない。どちらかと言うと、日頃の鬱憤をぶつけている様にしか見えない(約一名違うようだが)。





「そうだ。どうせなら彼に向けて力試しをしてみてはどうかね?」



「いいんですか? 彼、何かかなりいっぱいいっぱいのように見えますが?」



「別にかまわんだろ。今更一人分増えたところで特に変わりはしまい」



「そう、ですかね?」





そう言われたがやはり躊躇してしまう。と、柊が何やらこちらに気付いたようで、すごい勢いでこちらに向かってきた。それもかなり必死の形相で。





「そおおおこの人おおおっ!! 助けてくれえええっ!!!」



「!?」





その顔を見て恐怖を感じ、咄嗟に左手をこちらに向かってくる柊に向けてしまう。そして、その手に直径20センチの漆黒の球体が生み出される。そして―――





「『ヴォーティカル・カノン』!!」





―――放った。





漆黒の球体はまっすぐ柊に向かって飛んで行った。





「うおっ!?」



――サッ



――トンッ・・・・・・バキバキバキッ





が、直前でかわされ延長線上にあった木にあたり、その木を歪めた空間が押しつぶしてしまった。





「おい! 危ないだろうがっ!!」



「っ!!」





だが、今の悠真にはその声は届かなかった。悠真はそのまま掌に光を収束させ、臨界に達したそれをまた―――





「ちょっと待てっ!? それはさすがに避けられ――」



「――『リブレイド』!!」





―――放った。





ちなみに、ルールブックにはこの「リブレイド」という魔法の命中値は[絶対命中]と書かれている。つまり、どんなに避けるのが上手くてもこの魔法を回避するのはほぼ無理。故に、うまく防御が出来ないと―――





――ピカッッッ!



「ぎゃあああああっっ!!!」





―――このように聖なる光に焼かれます。それと、この魔法、範囲が1Sqと書かれているのだが、先ほどまで柊を追いかけていた皆様は全員範囲外に退避しており被害を受けませんでした。哀れ柊蓮司、安らかに眠ってくれ。





「か、勝手に殺すな・・・・(がく)」





あ、まだ生きていた。さすが柊、ナイトウィザード一死に易いキャラ。伊達に生死判定で生き続けてきたわけではないようです。





「はぁ、はぁ、はぁ・・・」



「ほう、記憶喪失のはずなのに中々やるな」



「はっ!? 俺は一体何を?」



「しかも無意識かね? そうなると、これからは対応に気を付けなければならないな」



「あっ! しかもさっきの人が死にかけてる!? もしかしてこれは俺が?」



「・・・・・・本当に覚えていないのかね?」



「ど、ど、どど、どうしっ」



「なら、治癒魔法を掛けてあげればいいのではないか?」



「っ!! そうですね。やってみます」





自らが無意識にやってしまったことに慌てているところに、ロンギヌス00からの助言を受け、治癒魔法を使ってみることにした。



意識を集中する。使用するのはアカシックレコードにある情報に干渉し、傷を受けなかったことにする虚属性の治癒魔法―――





「―――『フリップ・フラップ』」





悠真がそう唱えると柊の負った怪我が治っていく。ついでに、先ほど追いかけられていたときの分も少しだけ治しておく。





「ふむ、力の使い方は大体大丈夫のようだな。それでは、アンゼロット様が待っている例の場所に向かうとしよう」



「え、あっ!? ちょっと待ってください!!」





悠真は慌てて先に歩き出したロンギヌス00の後を追いかけ始めた。が、すぐに立ち止まって振り返り、





「ひ、柊さーん! が、がんばってくださーい!!」





そう大声で言い、急いでその場を後にした。





「ん? どういうこ―――」





柊が悠真の最後の言葉を聞いて首を捻って考えようとすると―――





――ヒュンッ



「おう!?」



――ザクッ!





手裏剣が飛んできた。恐る恐る後ろを振り返ってみるとそこにはたくさんのロンギヌスの新人さん達(もちろん全員ウィザード)が自らの得物を構えたり、魔法を発動できるようにして立っていた。



それを見て柊は迷わず逃げ出した。





「こういうことかああああっ!!!」



「「「「待てぇぇぇえええ!!!」」」」



「ha――――hahahaっ、ゴ主人様との鬼ゴッコ再開デエエェエエスっ!!」



「お前はさっさと帰れええええ!!!」









「今度はどこに向かっているんです?」





悠真は自分の前を歩いているロンギヌス00にそう尋ねた。





「アンゼロット様からの依頼の内容は覚えているかね?」



「え? あっはい、覚えています」



「今向かっているのはその異世界に転移するための“ゲート”があるところだ」



「あ、そうなんですか」





悠真はその返答で納得した。ちなみに、アンゼロットから聞いた説明の中でここアンゼロット宮殿には世界各地へと転移することができる“ゲート”があると聞いていた。だから、それと似たようなものだろうと考え、納得したのである。





そうこうする内に目的地に着いたようだ。そして、中に入ると既にアンゼロットと何故かはるかが何かを持って立っていた。





「さて、どうやら魔法の使い方も分かっているようですね。これならすぐにあちらに送ることが出来ます。ですが、その前に・・・・」





そう言ってアンゼロットははるかの方を向き、何かを促す。それに気付き、はるかが持ってきていたものを悠真に渡した。





「これは?」



「それは0-PhoneとMugen-Kunと言って、ウィザードなら誰でも持っています。そして、そのノートパソコンのようなものはピグマリオンです。それと0-Phoneの方には向こうに行ってもこちらと連絡できるように少し改良してあります。これらの詳しい説明はこの子に聞いてください」



「こんにちは、ますたー」



「えっ!」





アンゼロットがそう言うと彼女が持っていた腕輪から声が聞こえ、そこからホログラムで小さな女の子が映し出された。





「この子は“箒”につけるオプションの擬似人格システム“Iris”の改良版です。記憶喪失のあなただけでは心許無いと思いまして用意させたのです」



「よろしく、ますたー」



「ちなみにこのブレスレットはただの端末で、本体はこちらです」





そう言うとアンゼロットは何もない空間――月衣(かぐや)から一本の“箒”を取り出した。その箒は全体的に紫色をしていてどこか機械的な感じをした、箒というよりも魔法使いの“杖”の形をしていた。ちなみに、端末のブレスレットの方は薄い紫色をして濃い紫色をした石がはめ込んであった。





「えっと、こんなにどこに仕舞えばいいのでしょうか?」



「月衣に仕舞えばいいのよ」



「えと、どうやって?」





その後、しばらく月衣の使い方のレクチャーを受け何とかピグマリオンと箒をしまうのに成功した。それと、箒はかなり軽量化してありあまり重さを感じなかった。



そして、ついに異世界に旅立つことになった。





「それでは「ちょっと待ってください」・・? 何ですか?」



「その前にこの子の名前を決めてもいいですか?」





そう言って、悠真は端末を指で軽く叩いてIris改を呼び出した。





「どうぞ。それで何ていう名前にするのですか?」



「するんですか?」



「えーとね、アイリスってどうかな?」



「あいりす、ですか?」



「そう、アイリス。ほら、ちょうどホログラムで映っている髪も紫色をしているし、本体の箒もちょうどそんな感じの色をしているしね。それに、可愛いからね」



「あいりす・・・」



「どうかな?」



「うん!! 気に入りました」





悠真がそう言うとIris改――アイリスは本当に嬉しそうにして言った。





「そ、よかった。それじゃこれからよろしく、アイリス」



「こちらこそよろしく! ますたー!」





そして、今度こそ魔法陣――ゲートの上に乗り、悠真はアンゼロットたちの方に向き直って立つ。





「それではあなたを向こうの世界に送ります。何かあったら連絡してください」



「分かりました」





徐々に魔法陣が輝きを増していく。





「がんばってきてくださいね」



「はい。それでは行ってきます」





そして、輝きが一層強くなり悠真の姿が見えなくなり、光がはじけた。すると、そこには悠真の姿はなかった。





こうして記憶喪失の永劫の転生者は未確認の異世界へと旅立った。はたして、どんな運命が彼を待ち受けているのか? それはまだ誰にも分からない。

魔法先生と永劫の転生者

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