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十五話 投稿者:駄作製造機 投稿日:04/09-05:38 No.223

 ネギは杖に跨り、闇夜を裂くように飛んでいた。風が渦を巻き、その音が鼓膜を震わせる。

 ネギはちらりと後ろを窺う。既に三人が居るであろう戦場は彼の遠い背後で、戦闘音も風の唸りで聞くことは叶わない。

 心配で減速してしまいそうだったが、明日菜に魔力が流れていって居るのを感じている。そして刹那の言葉を、ニコラスの言葉を思い出してネガティブな思考を頭を振って追い払う。ネギは加速しようと前を見て、気が付いた。 



「……!」

「兄貴! 感じるかこの魔力! 奴ら何かおっぱじめやがったぜ!? 急げ!!」



 遠く先に光の柱が立っていた。魔力はそこから感じ、その方向は敵が逃げていった方向なのだ。カモの言葉にネギはニコラスの言葉を思い出す。



『やりたくもないことを……』



 ネギに今、木乃香が何をされているのかは判らない。だが昨日まではなんの関わりもなかった非日常に今彼女が居て、恐らく助けを求めている。助け出すにはそれだけの理由で充分だった。

 ネギは杖をきつく握りしめてカモに言った。



「判ってる……『加速』!」



 ネギの言葉と共に杖は更に速度を上げた。眼下を流れる景色はもはや動体視力では追い切れない。

 ネギの視線は真っ直ぐに前方の光柱を見据えていた。





・十五話





 自分の頭ほどもある拳が自分に向かって振り下ろされる。それを見据えて明日菜は挫けそうになる心を奮い立たせる。

 ニコラスの言葉で少しは楽になったが恐い者は恐い。だが、



(今、木乃香はもっと辛い目に遭ってるんだ……だから!)



 今苦境の中心にいるであろう親友のことを考えれば恐がってなどいられない。

 刹那に言われたように大きく身を避け、拳の軌道から逃れる。そして同じく言われたように手にしたハリセンを目の前にいる鬼の身体に叩き付ける。

 ハリセンが当たったところを中心に鬼の輪郭がぼやけ、煙となって消えてゆく。



「これで十匹目……いけるの……?」



 そう明日菜は呟いた。だが圧倒的な数に物をいわせて、鬼達は次々に彼女に襲いかかる。だが明日菜も僅かではあったが余裕が出てきていた。

 逆にハリセンを振りかぶって向かって行く。



「わあああああっ!!」



 知らず、口から声が叫び声が上がっていた。だがそれは恐怖の物ではなく、自らを奮い立たせる雄叫び。

 敵が当てる前に手にしたハリセンを当てる。それだけでいいのだ。たった、それだけ。

 がむしゃらな振りは無駄もあったが鬼達を確実に送り返して行く。その猛攻に鬼達は一瞬怯み、



「こ、の、餓鬼ぃぃ! やっちまえいっ!」

「っつ!」



 包囲するように襲いかかってきた。今度は明日菜が怯む番だったが、彼女は自分の後ろに滑り込んだ影に気が付かなかった。

 鬼達の剣が振り下ろされる。……当たる! と明日菜が目を閉じかけた瞬間、彼女の後ろから小柄な影が飛び出してきた。



「あっ……」



 明日菜が声をかける前に、影――刹那は太刀を閃かせる。連続して一つの音のように聞こえた鋼の激突音が響き、明日菜に向かって振り下ろされようとしていた剣は全て砕かれた。だが刹那はまだ止まらない。



「神鳴流奥義……」



 一瞬彼女の身体が流れる。剣に気を込め、一歩を踏み出した。

 気を纏った剣先が月光を反射し、瞬きの内に百近く煌めいた。一撃が鬼太刀にとっては致命傷となる一撃が乱舞し、鬼の身体との激突した瞬間に剣から弾き出された気が桜吹雪のように舞い散る。



「百烈桜華斬!!」



 僅か一撃で十近い鬼達を屠った刹那に明日菜は礼を言う。同時に刹那も明日菜に声をかける。



「ありがと刹那さ……危ない!」

「大丈夫ですか……っつ! しまっ……」 

 

 だが両者の声は途中で途切れた。明日菜は振り返った刹那の後ろに剣を振りかぶる烏族を見、刹那は明日菜の言葉にその敵の存在に気が付いた。

 刹那は回避しようとするが相手の攻撃の方が早い。



(避けられない……!)



 明日菜が飛び込んでくるが間に合うまい。刹那は身体の防御に気を回そうとした。

 そして戦闘音の中、静かに響く声を聞く。



「刹那……動くんやないで?」



 とっさに彼女は動きを止めた。それと同じくして彼女の頭の横を凄まじい勢いで”何か”が通り過ぎてゆく。そして直後、眼前に迫った剣、それを振り下ろしていた烏族が爆炎に包まれた。不思議なことに爆風は刹那のほうには全く来ず、烏族のみが消し飛ぶ。爆炎が晴れたとき、そこには烏族の存在は全く見えなかった。

 それを確認して刹那は言葉を放った。



「助けてくれてありがとうございます……ですが!」



 放たれるのはお礼の言葉、だがそれには続きがあるようだった。ものすごい勢いで刹那は後ろを振り返り叫ぶ。



「滅茶苦茶怖かったやないですかーー!」

「……おぬしの関西弁初めて聞いたわ」



 刹那の視線の先にはニコラスが居た。彼女の瞳にはちょっぴり涙がにじんでいる。流石に頭の横を通り過ぎたモノが、目の前の妖怪を一撃で消し飛ばしたのを見れば当然の反応だろう。だが帰ってきたのは呑気な言葉だった。明日菜はそんな刹那を気の毒そうに見つつもハリセンを振るい、刹那は襲いかかってくる敵に向かい剣を振るいつつ叫ぶ。八つ当たりもあるのだろう。



「怖かったんですから! 本当に怖かったんですからぁ!!」

「確かにあれは怖そうだったわね……」

「判った判った。後でワビはきちっと入れるさかい目の前に集中せえ」



 半泣きの刹那が叫び、明日菜がポツリと呟いてニコラスが仕方がないと言った風に言う。



 ……明日菜は知らない。一分と経たずに刹那と同じ思いをすることに。

 ――爆音。



「う、う、う、うううウルフウッドさぁん!!」











 余裕そうなニコラスだが、その闘いぶりは凄まじかった。基本的には動き回りながら弾幕を張り、接近してきた敵をパニッシャーかハンドガンでいなす。しかも彼の動きは自分に敵を誘導するように動いている。刹那と明日菜の負担を減らすために。

 だがやがて敵もニコラスのほうが厄介だと気が付いたのだろう、ニコラスに向けて全周囲からの包囲攻撃を仕掛けてきた。

 対するニコラスは逆に前に出る。振り下ろされる烏族の剣をパニッシャーで受け止める。その衝撃でグリップを中心にパニッシャーが回転し、長い柄が地面の方を向いた。その動きに正面の烏族の剣は巻き込まれて地面を穿つ。

 ニコラスは他の方向からの攻撃が来る前に砲身を展開する。更にそれを烏族が剣を引く前にその顎に当て、躊躇無く引き金を引いた。

 爆発音と共に烏族の頭部は弾け飛び、その反動で反対の機関砲部分が後ろに突き出される。既に砲口は収納し、機関砲が展開されていた。

 ニコラスは引き金を引くと同時に右手を右に振った。それは同時に機関砲の銃口が真後ろから左側に流れるということ。

 炸裂音と共に放たれる魔弾は退魔弾を依り代としているために非常に高い威力を持つ。薬莢が足下を塗らす水に沈み、ニコラスの真後ろ~左手にいた妖怪達が弾を受けてその水の中に没してゆく。

 振ったパニッシャーはすぐに砲身を展開されて引き金を引かれる。放たれた集束魔弾は右手の敵を吹き飛ばし、



 ここで残った左前方の烏族が横殴りに剣を振るう。

 タイミングは良かった。ニコラスはやや体勢を崩しており避けきれないはずで、振るった烏族は次の瞬間に二つに分かれたニコラスを想像したのだろう。

 だが、その想像は幻想となって消える。



「なに!?」



 その声は烏族の物。必殺の筈だったその一撃を……ニコラスは避けていた。

 大きく足を踏ん張り、後ろに上半身を深く倒すことでニコラスは直撃必死の一撃を回避した。ニコラスの腕は懐に潜り込み、瞬きの内にハンドガンを抜いて敵にポイントする。

 烏族が避けようとするよりも早く、ニコラスの放った銃弾が敵を倒していた。

 だが敵は数を頼りに押しつぶそうとする。ニコラスはそれを捌く……がかなりギリギリの闘いになっていた。

 彼の黒服はいたるところが切り裂かれ、破れている。傷も深い物は無かったが決して少なくはない。



 だが彼が相手を殺すことに全能力を傾ければ、これぐらいの敵ならば無傷で滅殺することも出来る。

 そうできないのは明日菜と刹那の存在があったからだ。

 たまに先程のような援護を加え、さらには自らに攻撃を集中させることで出来る限り彼女らの負担を減らす。更には彼女達に流れ弾が当たらないように銃撃を加えているのだ。そういった制約はニコラスの闘い方を限定していた。

 そしてニコラス自身、精神的に闘い方を加減していた。



 それは単純な不安。殺し屋としての業を見せてしまって彼女達のどう反応してしまうのか、それが怖ろしい。

 ニコラス自身、自分の本質が殺人技巧者だということは理解しているし、人殺しだとも認識している。だがそれなりに親しい人物にその本質を見せるのに躊躇してしまうのだ。

 彼はそれなりに今の生活を気に入っている。だが、自分の本質が殺人者だと知られてしまい、今の日常が崩れてしまうのが怖ろしいのだ。

  ……だが、それも生きていられたらの話だ。危機に陥ったのならば皆を死なせず、かつ自身も死なないために全力を解放するだろう。

 例えその後どうなろうとも。



 ニコラスは何体目かの鬼を消しさり、ちらりとネギの飛んでいった方向に目をやる。そこには光の柱が見えた。

 

(上手くやるんやで、ネギ……!)



 そう心の中で思い、再び引き金を引き絞った。闘いはまだ終わらない。











「……見えた! あそこ!」



 ネギは思わずそう叫んでいた。視線の先には中央に大岩がある湖があった。大岩の少し手前まで桟橋があり、その先端部は儀式場のようになっている。光はそこから夜空に立ち上っていた。

 カモがその様子を見てネギを急かす。



「兄貴、急げ! 手遅れになる前に!」

「判っている! アクケ……え!?」

「なにぃ!?」



 ネギが更に加速しようと呪文を唱えかけたとき、背後の森から凄い音が響いた。突然のことにネギは呪文を途切れさせてそちらを見た。

 背後から何かが迫ってくる。それは夜の闇のように真っ黒な毛並みの獣達。それらはネギめがけて突撃してくる。

 ネギはそれが犬神だと気が付く。彼は咄嗟にそちらに手を向け、障壁の呪文を唱えようとした。



「『風楯』……!」



 だが障壁が完成しきる前に犬神がそれに激突した。集まりつつあった空気の壁はその衝撃で弾け飛び、術者であるネギすらも吹き飛ばす。

 衝撃に杖を握る手が離れ、身体が宙に投げ出された。



「う、わああぁぁ!?」



 叫び声が口からほとばしった。一瞬の浮遊感と直後に始まる落下感。高さは地上五階ほどもある。墜ちればただでは済むまい。

 ネギは咄嗟に宙に舞った杖に向かって手を向け、



『杖よ…風よ!』



 まず杖を空より回収し、それを用いて風を起こして落下衝撃を減少させる。ネギは大地に降り立った直後に先程見えた場所にかけ出そうとしたが、それを遮るかのようにネギの眼前に一人の影が立ちはだかった。



「よお、ネギ……」

「……!」

「へへっ、嬉しいぜ。まさかこんなに早く再戦の機会が巡ってくるたぁな」



 ネギは目の前の人物に注意を向けつつどうやって離脱するかを考える。ネギが思考に耽っている間も目の前の人影は言葉を紡ぐ。



「ここは通行止めや! ネギ!!」

「コタロー君……!」



 影――小太郎は宣言し、ネギの言葉に小さく好戦的な笑みを浮かべるとネギに向かって仕掛けてきた。ネギはそれをとっさに我流の契約執行で迎え撃つ。

 小太郎の放った気を纏った拳を辛うじてネギは受け流し、距離をとる。だが小太郎はネギに向かって跳躍した。

 ネギ……接敵。











 一方その頃、ニコラス達は敵を既に半数以上撃破していた。剣戟音と銃声、ハリセンの音が響いて鬼の巨躯が地に沈む。ニコラスの放った集束魔弾が爆炎を放ち、所々で盛大に煙を吐き出している。



「やあああぁぁぁぁ!!」

「奥義・雷鳴剣……!!」

「……………………」



 三者三様の闘い方で目の前にいる鬼達を屠ってゆく。彼らは開戦からの短い時間で未熟ではあるが闘い方を確立させていた。

 明日菜と刹那がペアで援護しつつ近距離で闘い、それをニコラスがやや離れたところから援護しつつ闘う。

 これまで彼らが撃破した数は刹那が最も多く、ニコラスは刹那よりも少し少ない。明日菜は刹那の半分と言ったところだ。

 調伏が本職である刹那はが最も多く敵を倒しているのはある意味当然。だが基本的に攻撃に集中している刹那とは違い、ニコラスは二人を援護しつつ刹那の次ぐ数をを撃破しているのだからその戦闘能力は凄まじいの一言だろう。

 激戦の最中、明日菜が目の前にいた鬼を張り倒した時、刹那が聞いてきた。



「大丈夫ですか、明日菜さん」

「何とかね……でも後半分も居ないし、大丈夫だよ!」

「あまり無理はしないで下さい……」

「大丈夫! ネギがこのかを連れて帰ってくるまでは……」



 明日菜がそう言いかけた時、ゆらりと煙の中から烏族が現れた。既に敵は剣を振りかぶっていて明日菜が気が付き、ハリセンを前に構えたと同時に敵の攻撃が来た。

 一息で流れるような三連撃。その衝撃に思わず後退した明日菜へ向けて、休むことなく烏族の剣が振り下ろされる。



「きゃああぁぁぁ!」



 明日菜はその猛攻に身を守ることしかできない。それに気が付いた刹那はとっさに援護に入ろうとするが、襲いかかってきた狐面に邪魔される。

 明日菜に猛攻を加えている烏族は笑みを浮かべて口を開く。もちろんその間も攻撃は止まらない。



「なかなかやるなあ、嬢ちゃん。しかし某は今までの奴等とはちと出来が違うぞ!」



 そう言い放ち、明日菜の至近に迫った烏族は手にした剣で明日菜のハリセンの柄をかち上げた。いきなりのことで柄を両手で持っていた明日菜はハリセンごと両腕が上に上がってしまった。そしてがら空きになった胴体に凄まじい連撃が叩き込まれる。



「あう! ……っ~~」



 一際強烈な一撃を受けて明日菜は近くの岩に叩き付けられる。ネギからの魔力供給のおかげなのか、身体に走る痛みはそれほどではないが衝撃に息が詰まる。

 狐面と闘っている刹那が明日菜を案じて声を上げる。



「明日菜さん!」

「だ、大丈夫……でもこの人、強い……」



 そういって身を起こそうとしている明日菜の前に烏族が立ち、口を開く。



「平安の昔とは違って『気』やら『魔力』やらを操れるようになった人間はしぶといな……だが、いつまで持つかな?」



 烏族は倒れている明日菜に攻撃しようとはしない。正々堂々と打ち合おうとしているのだ。……だが、それでも明日菜の危機には変わりない。

 刹那は明日菜のもとに駆け寄ろうとしたが、背後からの殺気にとっさに剣を構える。凄まじい衝撃が手にした夕凪を襲う。その一撃は非常に重く、夕凪ではなければ防ぎきれなかっただろう。刃を傾けてその一撃を受け流す。

 見ると鬼達の中でも一際大きな鬼が棍を振り下ろしていた。その方に先程まで闘っていた狐面がのり、口を開いた。



「神鳴流の嬢ちゃんの相手はワシ等や」



 その言葉に刹那は彼らが一筋縄ではいかないことを悟る。そして視線はニコラスを捜していた。明日菜を援護して貰おうと思っていたがある一点を見て刹那の顔色が変わった。



「また会いましたな~刹那センパイ♪、ニコラスさん♪」

「二度と会いたくはなかったがの」

「つ、月詠……!」



 刹那の視線の先には二刀を持った少女剣士がニコラスと向かい合っているのが見える。だがその様子を見ていられたのも僅かな時間のみだった。先程の鬼が刹那に仕掛けてくる。刹那は明日菜とニコラスを気にしつつもそれを迎撃する。

 微かにニコラスと月詠の会話が刹那の耳に届いた。











 ニコラスと月詠は五メートルほど離れた位置で向かい合っていた。視線は互いに絡み合い、両者の間は緊迫が張りつめている。鬼達は少数をもって二人を遠巻きに包囲し、余った者は刹那達に向かっていった。

 ニコラスが月詠を睨み、殺気を叩き付ける。だが月詠は常人ならば失神しかねないそれを受けて、逆に心地良さそうな笑みを浮かべた。そのまま口を開く。



「意外と早くお手合わせ出来ますね? 嬉しいですわ~~」

「…………なんでおどれはあのアマに手を貸すんや?」



 ニコラスはそう問いかけた。だがすぐに頭を振って言い直した。



「いや…違うな。おどれは戦えれば後はどうでもええと思うとる口や」

「わかってなはりますな。その通りどす、内は強いお人と戦えればそれでええんどす。相手が強ければ強いほど楽しい故~」

「ちっ。ブレードハッピーで戦闘狂ちゅう辺りはホンマに『ブレード』と似とるな、おんどれ……」



 ニコラスは忌々しげに吐き捨て、パニッシャーを月詠に向けた。対する月詠も両手の刀を構える。月詠は微笑みを浮かべ言った。



「全力で来て下さいな。さもなくばすぐに終わってしまいどすえ?」

「それは御免やな。生き汚くなるつもりはあらへんが……やることが残っとるんでな!!」



 ニコラスが最後の言葉を言い放つと同時に月詠は突撃してきた。ニコラスも躊躇無く魔弾を撃ち込む。

 バトルマニアと戦闘技能者の闘いが始まった。











 明日菜の目の前に立っていた烏族は彼女の仲間二人が戦闘を始めた様子を見て言い放った。



「さて、お仲間は取り込み中みたいだな。……さあ、助けはないぞ?」



 明日菜には相手の表情はよく判らなかったが、ニヤニヤと笑っているのが気配でわかる。その相手の言葉に明日菜は立ち上がってゆっくりと言った。



「……その余裕と高いクチバシ、へし折ってあげるわ」



 明日菜はそういってハリセンを眼前の烏族に突きつける。

 理由はともあれ、自分から関わったことなのだ。途中で諦めることは絶対にない。

 そして明日菜も刹那達が自分を優先してくれているのが判っていた。そのせいで余計な傷を受けていることも。感謝の思いと共にこれ以上迷惑をかけたくないという思いがあった。そして何より、木乃香が助け出される前に倒れるつもりもない。

 ……負けない!!

 その思いが込められた言葉に烏族は一瞬呆気にとられ、すぐに笑みを浮かべて声を張り上げた。



「……よう言った小娘!」



 両者は同時に前に出て互いの得物を打ち合わせる。激突音が響き、両者が見るとそこには剣とハリセンが鍔競り合っている筈だったが、違う。

 いつのまにやら明日菜のハリセンは重さをそのままに巨大な剣となっていた。



「なっ……」

「えっ……」



 これには烏族はもちろん明日菜も驚いたが深く考えることはなかった。烏族は明日菜の巨剣をかいくぐって攻撃しようとし、明日菜は一瞬戸惑いはしたが、手にした剣には不思議と違和感は感じず、むしろしっくり来るような感触を得ていた。そして無意識のうちに感じ取っていた。……これが本来の形だ、と。

 明日菜は巨剣をしっかりと握りしめ、烏族に真っ向から立ち向かってゆく。

 剣同士が激しい激突音を生んだ。











 桟橋の先、祭壇の上に木乃香は捧げられていた。詠唱が進むにつれて、木乃香からの魔力が自分の思い通りに奔ってゆくのを千草は感じていた。

 ……もうすぐ、もうすぐや。もうすぐ私の願いが叶う。

 呪詞を唱えつつも彼女の表情には堪えきれない笑みが浮かんでいた。



『………………生く魂・足る魂・神魂なり!!』



 儀式が峠を越え、彼女の眼前にそびえ立つ大岩から夜の空に巨大な光柱がそびえ立つ。その規模は先程まで木乃香から天に向かっていた光柱と比べものにならない。

 圧倒的な魔力が周囲に満ちる。……スクナ召喚まで、あと僅か。

魔法先生と鋼の十字架 (×トライガン・オリ有) / 十六話

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