「さあ、ネギくん。今度はどうするかね?」
「くう………」
完全にネギを圧倒しているヘルマン。
「ふむ、ネギくん。思うに君は………本気で戦ってはいないのだはないかね?」
「!? な、何を………? ぼ、僕は、僕は本気で戦ってます!!」
激昂するネギ。
「そうかね?」
肩を竦めるヘルマン。
「やれやれ………サウザンドマスターの息子が………なかなか使えると聞いて、楽しみにしていたのだがね。彼とは正反対。戦いに向かない性格だよ」
「くうううっ、マ、マズイぜ!! あのおっさん異常に強え!! しかも、その上、魔法が効かないってんじゃ、分が悪すぎる!! このままじゃ………」
「ネギくん、やられちゃう!?」
「どどど、どうしようーーーー!!」
慌てるのどか達。
「ん?」
と、その時、このかが何かを感じ取る。
「どうしました? このかさん」
「何か近づいて来るような………」
そんなこのか達の様子も知らず、ヘルマンはネギに聞く。
「君は、何のために戦うのかね?」
「な、何のため?」
「そうだ、小太郎くんなどいい例だ。実に楽しそうに戦っていた」
クレーターの中で横たわる小太郎を指しながら、ヘルマンは言葉を続ける。
「君が戦うのは? 仲間のためかね? くだらない、実にくだらないぞ、ネギくん。期待ハズレだ」
「人のために戦えることは立派なことです! くだらなくなんかありません!!」
激しく反論するネギ。
「戦う理由は常に自分だけのものだよ、そうでなくてはいけない」
しかし、ヘルマンは話を続ける。
「「怒り」、「憎しみ」、「復讐心」などは特にいい。誰もが全霊で戦える。あるいはもう少し健全に言って「強くなる喜び」でもいいね。そうでなくては戦いは面白くならない」
「ぼ、僕は別に戦うことが面白いなんて………僕が………僕が戦うのは!!」
「彼女達を巻き込んでしまったという責任感かね? 助けなければという義務感? まさか正義のためかね?」
ネギの言葉を遮って言うヘルマン。
「そんな物を糧にしても決して本気になどなれないぞ、ネギくん」
「そんなことありません!!」
なおも反論するネギ。
「いや………それとも、君が戦うのは………あの雪の夜の記憶から、逃げるためかね?」
「え………」
「「「「なっ!?」」」」
驚愕するネギと事情を知るアスナ達。
「な、なんでそれを………ハッ!! ち、違います!! 僕は………」
「そうかね? では………」
ヘルマンは帽子に手を掛けると、顔を隠しながら脱ぐ。
「コレなどは、いかがかね?」
「!?」
再び現れたその顔を見た途端、ネギの中に何かがこみ上げてくる。
「え………」
「あ、あれは!?」
「バ、バケモノですわ!!」
「ち、違うよ、いいんちょ! 悪魔だよ!!」
そう………かつて、幼きネギの村を襲い、ネギの姉・ネカネの足と恩人のスタンを石化させ、封印されたはずの悪魔だった。
「あ………あなたは………」
「そうだ。君の仇だ、ネギくん」
悪魔となった顔のまま言うヘルマン。
「あの日、召喚された者達の中でも、ごくわずかに召喚された爵位級の上級悪魔の1人だよ」
そう言ってヘルマンは帽子を被り直す。
「君のおじさんやその仲間を石にして村を壊滅させたのも、この私だ」
すると、再び人間の顔が現れる。
「あの老魔法使いには全くしてやられたがね」
ネギの身体が小刻みに揺れ、両手は血が滲むほど固く握り締められている。
「ネ………ネギ」
「どうかね? 自分のために戦いたくなったのではないかね?」
ヘルマンがそう言った瞬間!!
ネギの身体からオーラのようなものが溢れる。
髪が逆立ち、周りの地面がベコッベコッと音を立ててへこむ。
「む!?」
「マ、マズイ!! 暴走か!?」
「暴走!?」
「まだ修行不足で使いこなせちゃいねーが、兄貴の最大魔力は膨大だ!! それが何かのきっかけで一気に解放されれば………! し、しかし、兄貴! ダメだ!!」
そう………今の状態のネギはスペックだけなら、完全にヘルマンを上回る。
しかし、怒りに呑まれた攻撃は自滅を招く。
「おお、スゲェ!」
「面白くなってきまシタ!」
「………どうでもいいですけど」
スライム達も完全にネギに見入っている。
と、そこへ!!
ステージ屋根の上から、黒い影が舞い降り、一瞬でアスナの腕を拘束していた水のロープを大剣で斬り、ペンダントを毟り取る。
「えっ!?」
アスナが驚いている間に、影は今度はこのか達と刹那の水牢を肉薄し、同く大剣で斬り裂いた。
「わあぁー!!」
「きゃあ!!」
水に押し流されて、這い出てくるこのか達。
「………待たせたな」
「「「「「ジンさん!!」」」」」
影の正体は、ジンだった。
「あ!! てめー!! 何しやガル!!」
慌ててジンに飛びかかるスライム達。
だが!!
「フッ………ハアァァァーーーー!!」
ジンのバスターブレードを持った右手が目にも留まらぬ超高速連続突きを繰り出す。
「え………」
「あ………」
「あーあ………」
分子レベルで斬り裂かれ、完全消滅するスライム達。
「ミリオンスタッブという技だ………フッ、もう聞こえないか」
「ス、スゴイ………」
「相変わらず、強いアルなー」
高レベルな技に呆気を取られるアスナ達。
「やれやれ、これから面白くなるというのに………無粋な男だね」
視線だけをジンへと向けるヘルマン。
「安心しろ………俺は手を出さん」
そう言って、バスターブレードの刀身に包帯を巻くと、後ろ腰にしまうジン。
「ちょ、ちょっと!! ジンさん!! 何言うのよ!?」
「ジンのダンナ!! 今、とってもヤベーんだ!!」
思わぬジンの態度に慌てるアスナ達。
「………どこがだ?」
「いや、だから………」
そう言ってネギの方を指そうとしたカモだったが、そこへ、鈍い音が鳴った。
「え!?」
「あ!?」
「何だと!?」
音のした方を向いて驚愕するアスナ達とヘルマン。
何と!!
暴走寸前だったネギが、自分で自分の顔をブン殴り、暴走を止めていた。
「な、何の積もりだ!? ネギくん!!」
「痛ーーーっ!! あ、歯が折れちゃった………」
血と一緒に、折れた歯をペッと吐き出すネギ。
「ネギくん!! 怒りの力を捨てるのか!?」
「はい、そうです!!」
ネギはキッパリと言い放つ。
「バカな!? 私は君の仇だと言ったはずだ!! なのに何故、怒りを捨てる!!」
「確かに………機龍さんに出会う前の僕でしたら、あのまま飛び掛っていたでしょうね………でも、今の僕は違う!!」
「違うだと!!」
「確かに僕は、あなたを恨んでいる………強くなろうとしていたのも、あの時の記憶から逃げるためだったかもしれない………でも!! 機龍さんに出会って、僕は教えられた!!」
「むう!?」
ネギの迫力に思わず後ずさるヘルマン。
「機龍さんは………この星の人間じゃないのに、出会ったばかりの僕等や見ず知らずの人のために、命懸けで戦ってくれた………何の得にもならないのに」
目を閉じ、深く静かにだが、ハッキリと言うネギ。
「その時………僕は教えられた………強さとは!! 他人のために、戦える漢になること!! そう!!………」
カッと目を見開く。
「心に愛がなければ………スーパーヒーローじゃないんです!!」
「あ、愛!? スーパーヒーローだと!?」
「ヘルマンさん!! 僕は正義のため!! 友達のため!! そして!! 自分の過去に立ち向かうため!! あなたを倒します!!」
ビシッとヘルマンを指差し、宣言するネギ。
「ええい!! 何が愛だ!! 何がスーパーヒーローだ!! そんなものは幻想にすぎん!!」
完全に悪魔化し、ネギを片手で掴むとそのまま遥か上空へと飛ぶヘルマン。
「ぐうっ!!」
「くらえ!! 真・地獄の断○台!!」
ネギを勢い良く下に、真っ逆さまに投げつけると、脅威的なスピードで降下しながら、脚を首に掛ける。
着地すると、地面が激しくへこみ、巨大なクレーターが形成され、土煙が舞い上がる。
「ネギーーーーーーッ!!」
「ネギ先生ーーーーーッ!!」
アスナ達の悲痛な叫びが響く。
「ハア………ハア………ハア………ハア………わ、分かったかね。所詮、正義の力など、その程度だというのが………」
クレーターからやや離れた位置に着地すると、大量に魔力を消費したせいで悪魔化が解け、人間の姿に戻り、息を切らすヘルマン。
そこへ、歌声が響いた。
「歌………?」
「こ、この声は!?」
「「「「「ネギくん(先生)!!」」」」」
その歌声はネギの声だった。
「………何で『キ○肉マン Go Fight!』なのよ………」
そう………そしてその歌は、キ○肉マンの主題歌『キ○肉マン Go Fight!』だった。
「ま、まさか!!」
青ざめた顔で、ネギを叩き落したクレーターの方を向くヘルマン。
クレーターの縁に手が掛かる。
「や、やめろ!! 立つな!!」
「ああ〜〜♪ 果てない〜〜♪ 夢を追〜いかけ〜〜♪ ス〜パ〜ヒ〜ロ〜に〜〜♪ なるのさ〜〜♪ キ○肉マ〜〜〜ン♪ Go Fight!♪」
シャウトと共に、ネギが立ち上がる。
頭から夥しいほどの出血をしていたが、闘志はさらに燃え上がっていた。
「う、うおぉぉぉーーーーっ!!」
ネギへと突撃するヘルマン。
だが、逆にネギが、低い体勢からタックルする。
「ぐおっ!!」
「わぁあぁぁぁーーーーっ!!」
そのままエアープレン・スピンで上に投げ飛ばす。
「トウッ!!」
それを追ってネギも飛ぶ。
そして、ヘルマンの頭を両足で掴んで、逆さに地面へと落下する。
「ロ○ン・スペシャル!!」
両手で着地すると同時に、ヘルマンの首に4の字固めを決める。
「ぐばぁっ!!」
ネギの逆転KO勝ちだ!!
*
「………フン、乗り切ったようだな」
世界樹の上からステージを見下ろしながら言うエヴァ。
[内心ハラハラ、半ばオロオロだったようですが………無事で良かったですね、マスター]
エヴァの気持ちを代弁する茶々丸。
「茶々丸、お前な、いい加減、その方向のつっこみはよせ」
と、何かを思い出して、苦い顔をするエヴァ。
[どうしました? マスター]
「いや………ただ、アイツの親父に逆タワー・ブ○ッジでやられたことを思い出しただけだ………ああ!! むかつく!!」
世界樹に八つ当たりする。
[マスター、落ち着いて]
「うるさーーーい!!」
*
倒れているヘルマンの横に立つネギ。
ヘルマンは、徐々に消滅していく。
「………君達の勝ちだ………トドメを刺さなくていいのかね? このままにすれば、私は唯、召喚を解かれ、自分の国へと帰るだけだぞ」
だが、ネギは膝立ちになると、右手を差し出した。
「? 何かね?」
「握手ですよ。いいファイトでした、あなたはとても強かったです」
「なっ!?」
驚くヘルマン。
「いいのか!? しばしの休眠を経て、復活してしまうかも知れんぞ?」
「その時は、また戦いましょう。今度はリングの上で………」
「………ふ、ふふははは!!」
呆れていたヘルマンだったが、不意に高笑いを挙げた。
「初めてだよ………長年、悪魔をやってきたが………」
そう言って、差し出されたネギの手を握り返す。
「負けたというのに………こんなに清々しい気分なのは………」
「ヘルマンさん………」
「さらばだ、ネギくん。また戦おう………今度はリングの上で………」
そう言い残して、ヘルマンは消え去った。
「また会いましょうね」
空を見上げて言うネギ。
いつの間にか、雨は止み、月が姿を見せていた。
そして………
「う………う〜ん………何や………何がどうなったんや?」
「!! 小太郎くん、大丈夫!?」
ヘルマンにやられた小太郎も、無事に目を覚ましていた。
*
「………向こうも終わったみたいだな………ふぅ〜〜」
街灯に寄り掛かる機龍。
周りでは、チェスの駒軍団だった物が消滅していく。
機龍は見事、全てのチェスの駒軍団を倒していたのだった。
「ネギくんがやったみたいだな………1歩成長したのかな? ………にしても疲れたな………少し、仮眠を取るか」
機龍はそう言うと、そのまま目を閉じて、寝息を立て始めるのだった。
翌日、いつもと変わらぬ日常が、そこにはあった………
*
機甲兵団ガイアセイバーズ、隊員補充報告。
戦闘班………雪広あやか、犬神小太郎
整備員………那波千鶴、村上夏美
NEXT |