HOME  | 書架  | 

当サイトは「魔法先生ネギま!」関連の二次創作投稿サイトです。ネギま!以外の作品の二次創作も随時受け付け中!

書架

[]

『彼』を追え!(6) 詰問×乙女心×自爆 投稿者:毒虫 投稿日:08/02-17:07 No.1029




「一体、どういうつもりだ横島ァッ!!」 

げしげしと、倒れ伏している横島に追い討ちをかける。 
横島の白昼堂々のナンパ劇から、既に半日が経っていた。エヴァンジェリン宅での事である。 
あの後、大混乱の中、エヴァンジェリンが横島の延髄に強烈な一撃を決め、意識を刈り取り、茶々丸が自宅まで運んだのだ。 
午後の授業は全てサボタージュした。古菲も横島と同様にしてやろうかとも思ったが、学園長に電話で確認したところ、手を出すなと釘を刺されたのだ。 
その腹いせが横島に回ったのは、言うまでもない事である。ミイラになるまでエヴァンジェリンに血を吸われてから、未だ意識は戻らない。 
腕を組んで何事かぶつぶつ呟いては、時々こうして横島を打擲するエヴァンジェリンであったが、気が晴れる事はない。 
茶々丸も、主の暴虐を止めるでもなく、若干冷ややかかつ複雑な瞳でカサカサになった横島を眺めるのみ。 

「よりにもよって、あのバカ娘に……ッ!! たとえ誰であれ納得はすまいが、ヤツだけは本当に納得がいかんぞ!! 
 こ、このエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルがあんなカンフーバカ一代に敗けるなどと……絶対にあってはならない事だッ!! 
 なのに、なのに貴様はぁ……ッ!!」 

「マスター……」 

「なんだ、茶々丸ッ!? 今の私は気が立っている!! 邪魔するようなら、何をするか分からんぞッ!!」 

「いえ、横島さんが……意識を取り戻したようです」 

見ると、確かに、今までピクリとも動かなかった横島の背が痙攣している。 
耳を澄ませば、う、うう……と、微かな呻き声も漏れ聞こえた。 
ここぞと言わんばかりに横島の上着の襟を引っ掴むと、エヴァンジェリンは片手で横島ごと持ち上げた。 
横島の下半身は床についているが、その膂力たるや凄まじいものがある。今の彼女は、魔力による身体強化もなされていない状態なのだ。 
軽く驚いた表情を浮かべている茶々丸を気にも留めずに、エヴァンジェリンは半死半生の横島に詰め寄る。 

「横島、貴様ッ!! 昼間のアレは一体、何のつもりだ!?」 

「ぅ……え? な、何? てか、ここどこ?」 

首は固定されているため、眼球のみを動かし、状況を探る。 
頭まで血が行き渡らず、しばらくぼんやりとしていた横島だったが、次第に状況を飲み込むと、すぐさま元気を取り戻し、弁解を始める。 
女性は怒らせるべからず。もし怒らせたようならば、とりあえずその場だけでも口八丁で何とか丸め込むべし。横島が25年間に及ぶ人生の中で学んだ教訓だ。 
なぜエヴァンジェリンが怒っているのかは解らないが、とにかく横島は必死だった。 

「そ、それはほら、あれだよ! 敵を知り己を知れば百戦危うからず……とかまあ、そんな感じ? みたいな?」 

「む……。つまり、相手を油断させ、情報を引き出し、分析し、その上で対処しようとした……それゆえの行動という事か?」 

「そう! それ! まさにそれっ! ジャストイット! そーゆーことっ!」 

「なるほど、流石だな……」 

うんうん、と思慮深げに頷くエヴァンジェリン。 
ホッと安堵に胸を撫で下ろす横島だったが…… 

「…と、言うとでも思ったか!!」 

ボグシャーン!!と、謎の効果音を発する蹴り! 
天井に頭をぶつけ、血反吐を撒き散らしながら、横島は頭から落下した。 

「…古菲には、私の方から断りを入れておくからな。貴様はそのまま、猛省してろ!」 

サッカーボールキックを側頭部に蹴り込みまたも横島の意識を失わせつつ、吐き捨てるエヴァンジェリンだった。 




エヴァンジェリンが夕食を済ませ、入浴し、一息ついたところで、ようやく横島は目を覚ました。 
どうぞ、と差し出された水を飲み干し、茶々丸に礼を言う。エヴァンジェリンも気がついたようで、呆れた口調で話しかけた。 

「ようやくお目覚めか、よくも暢気に寝ていられたものだな。 
 …ジジイからの言伝がいくつかある。1度しか言わんから、心して聞け」 

エヴァンジェリンの言うジジイとは、学園長の事だろう。しかし横島に思い当たる点は特にない。 
という事は、また何か新しい仕事でも舞い込んだのか。例えば……そう、この前頼まれた、孫娘の木乃香嬢の護衛の件かもしれない。 
頷く事で、横島は先を促した。 

「まず、古菲と大河内アキラの事だが……妙な事に、記憶操作など、特にこれといった処置は考えていないそうだ。 
 事態を静観せよとの事だが、あの狸ジジイの事だ。何かロクでもない事を企んでいるのかもしれん。 
 私としては、無論納得がいかないが……立場上、決定に逆らうわけにもいかん。 
 …ああ、特にジジイは言及しなかったが、これ以上奴らへ接触する事は許さんぞ」 

「え、けど……あの子との約束は?」 

「貴様、私の話を聞いていなかったのか!? 私から断っておくから、貴様は大人しく校庭の隅でも掃いていろ!」 

「や、俺も男だし、いくら守備範囲外とはいえ、女の子との約束を破る事はできないなぁ」 

「貴様ッ……」 

激昂しかけるエヴァンジェリンだったが、タイミングを見計らって、茶々丸がスッと間に入る。 
また撲殺ショーが始まりでもしたら、全く話が進まない。それは困る。 

「お言葉ですが、古菲さんは何か明確な返答をしたわけではありません。 
 彼女の合意が得られなければ、約束が成立したと見なす事は不可能かと思われます」 

「う…」 

正論だった。 
確かに、古菲からの返事を聞く前に、エヴァンジェリンに拉致られてしまっていた。 
古菲からイエスを得られない限り、約束が成立したとは言えないだろう。 
それを指摘したのは茶々丸なのだが、何故かエヴァンジェリンは得意気に鼻を鳴らした。 

「フッ、見ろ! 約束など、そもそも取り交わされていないではないか! 
 これで口実もなくなったな。何に拘っているのかしらんが、機密保持の問題上、古菲に接触するのは諦めてもらうぞ!」 

「ぐ……。け、けどっ」 

「………」 

反論しようとする横島だが、何か言えばすぐにでも、傍に控えている茶々丸にことごとく論破されてしまうだろう。 
結果が見え、横島は勢いをなくした。所詮、舌戦で男が女に勝とうなどというのは無茶な事なのである。 
力なく肩を落とす横島とは対照的に、エヴァンジェリンはやたらと上機嫌だ。茶々丸も、心なしか満足気な表情を浮かべているように見える。 
最大の懸念事項が解決したところで、ああそうだ、とエヴァンジェリンは話を切り出した。 

「それと、ジジイが明日、学長室へ来いと言っていたぞ。 
 何でも、来週の修学旅行に関して込み入った話があるそうだ」 

「え、修学旅行って……4月にあんの、ここ? まだ新しいクラスも団結してないだろうに」 

「中等部は3年間、よほど特殊な事情がない限り、原則的にクラス替えはありません」 

茶々丸の説明に、あ、そうなの…と相槌を打つ。 
クラス替えといえば、気にあるあの娘と一緒のクラスになるか、ドキドキしたもんだけどなぁ……と思ったが、そういえばここは女子校だった。 
いや、男子校エリアには、麻帆良学園男子中等部が存在するのだが、言うまでもなく横島はその存在を知らなかった。まあそんなもの、知ったところで、3歩も歩けば忘れるのだろうが。 
とにかく、確かにクラスを替えてもそこにいるのが同性ばかりなら、思春期特有の、あの甘酸っぱい思い出も生まれないだろう。 
いっその事一緒くたにすればいいと思いがちだが、それでは女子校が一つ消える事になる。それはあまりにも悲しい事だ。 
女子校とはすなわち、寒風吹きすさぶ荒涼の現代社会における、数少ないサンクチュアリなのだ。失われる事など決してあってはいけない。 
それを考えれば、ここ麻帆良の方針は実に素晴らしいと言える。女子校と男子校をわざわざ分けてまで、女子校という美しき形を残す。 
まさに新発想だが、英断である。この方策を採った人物は、物事というものがよく分かっている。要するに何が言いたいのかというと、 

「やっぱ………女子校って、イイよねっ」 

「「…はぁ?」」 

染み入るような声音で呟く横島だったが、返って来たのは二対の奇異の視線だった。 
迂闊な事に、考えを口に出してしまっていた。これも女子校の持つ魔力が成せる業か。 
慌てて咳払いすると、横島は露骨に話題の転換を試みた。 

「そ、それで、行き先はどこなんだ? 最近だと、やっぱ沖縄とか北海道とか、下手すりゃ海外だったり?」 

「いや、京都だよ。一昔前の定番だな」 

「ん、そっか……京都か」 

横島にとって京都といえば、第二の故郷とも言える地だ。 
実質の滞在期間を考えると、むしろ京都にいた時間より、仕事で方々駆けずり回っていた時間の方が長い気もするが。 
ともかく、京都といえば青山、青山といえば鶴子、とイコールで結ばれる。 
京都を離れてまだひと月と経っていないが、それでもやはり若干の寂しさは感じる。 
そんな感情が顔に出ていたのか、ん?とエヴァンジェリンが片眉を上げた。 

「なんだ、京都に思い入れでもあるのか?」 

「そりゃまあ、ここに来る前は京都を根城にしてたからなあ」 

故郷を懐かしむような口調の横島に、エヴァンジェリンは意味深に口許を歪める。 

「それでは、ジジイの話は朗報かもしれんな」 

「ん? なんか知ってんの?」 

「直接聞いたわけではないがな。…まあ、明日になれば分かる事だ」 

ククク、と、どうしても悪役っぽい笑い方。どうやらエヴァンジェリン、長年の間に骨身から悪役らしさが染み付いてしまっているらしい。 
何か不安を掻き立てられるような笑みに、物騒な話でも待ってるのか?と邪推したくなる。 
それを努めて気にしないうようにし、また新しい話題を振る。 

「しっかし、修学旅行かぁ……。学生生活最大のイベントだよな。 
 エヴァちゃんと茶々丸ちゃんは、もう準備とか済ませたんか?」 

「…貴様、何か忘れてないか?」 

三白眼で睨まれ、ああ、と横島はようやく思い出した。 
『登校地獄』の呪縛に縛られ、茶々丸はともかく、エヴァンジェリンは麻帆良から一歩も外に出る事はできないのであった。 
つまりは、15年に渡る中学生活の中で、ただの一度も修学旅行や遠足を体験していない事になる。横島は不憫に思った。 
何せ横島、学生時分は、遠足や校外学習、修学旅行のために学校に通っていたようなものだった。 
体調を崩したわけでもないのに、そんなイベントの数々に参加できないとは……とても耐えられた事ではない。 

「そっか、そうだっけか……。 
 特に今年なんかは、担任からしてあのボウズなんだろ? 想像してみるに、ハチャメチャで楽しそうなのになぁ…」 

「よせ。ガキどもに混じってはしゃぐつもりなど、毛頭ない。 
 それより、いい休日が出来る事の方が嬉しいさ」 

「そんなもんかねー」 

無理をしているのではないか、と一瞬考えが浮かぶが、すぐさま思い直す。 
エヴァンジェリンからしてみれば、中学の同級生などほんの子供なのだろう。子供の中に一人大人が混じって……それが楽しいと思えるのか。 
割と子供好きの横島であれば、それなりに楽しめるだろう。しかし、茶々丸はともかく、エヴァンジェリンはどうしたって子供好きには見えない。 
修学旅行の期間だけ封印を一時的に解除してやろうかとも思ったが、流石にそれは過ぎた世話だろう。 
それに、そんな勝手な真似をしてのければ、横島と、ひいては青山と関東魔法協会の間に深刻な軋轢も生じかねない。 
エヴァンジェリンからそう頼まれたのなら、考えない事もないが……現時点では余計なお節介だ。 

「そんならいいんだけど……気が変わったらいつでも言ってくれよ。 
 事と次第によっちゃ、まあ修学旅行の間だけなら何とかするからさ」 

「大口を叩くな、身の程知らずが。貴様ごときにどうにかできる呪いでは………いや、待てよ。 
 まさか、例の文珠とやらでどうにか解呪できるのか!?」 

「んー……ま、多分ね」 

「な、なぜ黙っていた!? …いや、それはいい。それより、今すぐこの呪いを解けっ!!」 

「や、そりゃ無理だよ。んな勝手な事すれば、学園長に怒られて、青山に送り返されて、下手すりゃそこで首チョンパだ。 
 親兄弟とか仲間とか親友とか恋人のためならともかく、さすがに昨日今日知り合った奴のためにそこまでやれるほど、人間できてないし。 
 ……俺に青山を捨てさせるに足る見返りを用意してくれるんなら、考えない事もないけどね」 

「む、むう……」 

シャクだが、横島の言っている事はもっともだ。 
しかし、見返りと来たか。エヴァンジェリンは考えた。今、自分に用意できるもの。 
まず一番最初に考え付くのはやはり金銭の類だが、サウザンドマスターに捕まった際、全て没収の憂き目に遭った。 
それからの15年間でコツコツ貯めた日銭は、中学生が持つにしては結構な額にはなったが、とても横島を満足させられるものではない。 
それより他になると、やはり『人形遣い』の技術を活かし、横島用に一体、最高級の人形を作ってやるのは……いや、却下だ。 
作り与えたところで、その人形を従者として扱いきれるのは、やはりエヴァンジェリンを置いて他にいない。 
そもそも、横島に魔力は皆無なのだ。せっかく作ってやった人形も、悪趣味なインテリアにしかなるまい。 
金銭も技術も提供できないとなると、残ったのはあと一つ。しかし、これをやるのはやはりどうかと思う。 
『闇の福音』とまで謳われた最強の闇の魔法使いが……いや、それ以前に、一人の女性として、それは守るべき最後の一線。 
しかし、今のエヴァンジェリンにはそれしか残されていないのだ。忌まわしき呪縛からの解放に比べれば、と決意を固める。 
…彼女自身気付いていないが、エヴァンジェリンの頬は紅潮していた。怒りというより、むしろ照れと羞恥で。 

「…生憎だが、以前ならともかく、今の私にはこれといったものを用意する事はできない。 
 だ、だから……だからだな、そのぉ………わ、わわわっわわ私をっ! く、くれてやるっ!!」 

「………へ?」 

「か、かかか勘違いするなよっ!? し、仕方なく、仕方なくなんだからなっ!! そ、そうでもなければ、だ、誰が好き好んで貴様なんぞにっ!!  
 ……ああ、いや、その、だからといってだな、き、貴様の事が嫌いだとかそういうわけじゃないんだぞ? 早とちりするなよっ?」 

「…………」 

慌てふためくあまり、つい本音っぽいものを口走ってしまうエヴァンジェリンだったが、横島の反応は芳しくない。 
わけのわからない焦燥を感じ、エヴァンジェリンは更にテンパってしまった。 

「な、なんだその反応はっ!? こ、このエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルが、『闇の福音』が貴様のモノになると言ってるんだぞ!? 
 涙を流して感謝するとか、狂喜のあまりに私に抱きつくとか、もっとそれらしいリアクションをしろっ!!」 

「いやぁ……」 

困ったように、横島はぽりぽりと頬を掻く。 
なぜ私に抱きつかない!?と、いささか論点のずれたところでキレかけたエヴァンジェリンだったが…… 
横島に優しげに頭を撫でられ、ふにゃあっ!?と妙な声を上げて硬直する。 
そして横島は無謀にも、呆然から陶然へと変わりつつあるエヴァンジェリンに生暖かい視線を送りながら、考えもなしにのたまった。 

「そーゆー事は、もっと大きくなってから言おうな?」 

「「…………」」 

ピキ、と何かに亀裂が入る音が、確かに横島には聞こえた。 
大人しく頭を撫でられていたエヴァンジェリンも、それを羨ましげに眺めていた茶々丸も、時が止まったかのように動きを止める。 
そのまま十数秒の時が過ぎたところで……ようやく、エヴァンジェリンが動いた。顔を俯かせたままで、パシンと頭に乗っていた横島の手を叩き除ける。 
茶々丸は音もなく移動すると、玄関の扉を開けた。猛烈に嫌な予感を感じる。横島の背は、いつの間にか冷や汗でびしょびしょに濡れていた。 

「あ、あの、あのぉー……」 

「…………」 

必死に弁解しようとするが、緊張か、それとも恐怖のためか、呂律が回らない。 
そうこうしている内に、エヴァンジェリンの拳は固く握られていた。気のせいか、全身からオーラっぽいものが出ているように見える。 
その拳を腰だめに構え、ここに至ってようやくエヴァンジェリンが顔を上げた。般若だった。 

「このきたならしい阿呆がァーーッ!!」 

「ペサァーーーーーーーーーーッ!!」 

思いッきり頬を殴られ、横島は地面と平行に吹っ飛んだ! その威力は、まるでカノン砲を喰らったようだったと、後の横島が証言している。 
上手い具合に茶々丸が開けたドアから外に飛び出すと、木の幹にぶつかり、2,3本ぶち折ったところで、ようやく動きを止める。 
その顛末を見届けると、胸の前で十字を切り、茶々丸はドアを閉めた。まあ、死ぬことはあるまい。多分。 
一発で横島を死の淵に追いやったエヴァンジェリンだったが、まだ溜飲下がらぬといった様子で、ソファの上にあったぬいぐるみをぼすぼす殴っている。 

「あ、あのナチュラルボーンバカがァァァッ!!」 

吼え猛るエヴァンジェリン。 
ここまで元気が良い主は初めて見たが、果たしてこれは良い事なのだろうか、と茶々丸は疑問に思った。 
…翌朝、若干冷たくなった横島がそのままの形で発見され、2人は相当焦る事になるのだが、それはまた別の話だ。 

裏方稼業 京洛奇譚(1) 近くて遠きは男女の仲

  HOME  | 書架top  | 

Copyright (C) 2006 投稿図書, All rights reserved.