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京洛奇譚(14) 敗北と再生 投稿者:毒虫 投稿日:09/20-22:59 No.1325



「う……うがぁーーーーーー!! 無視すんなぁーーーーーーッッ!!」 

少年のヤケクソ気味な咆哮と共に、蜘蛛の巨体が一行を押し潰さんと迫る! 
が……脅威が届く前に、蜘蛛の巨体は煙と消えた。少年は宙に放り出されるも、くるりと回転して見事に着地。 
しかし何が起こったのか把握できず、きょときょとと辺りを見渡していると…… 

「いやー、一目で判る場所に弱点あっちゃマズイだろー…」 

「!!」 

振り向いてみれば、年長の男……横島が、札を片手に苦笑している。 
どうやら、冷静さを失った少年の目を掻い潜り、カウンター気味に蜘蛛の懐に飛び込み、その頭に貼ってあった札を剥がしたらしい。 
鬼蜘蛛は札を依代として現世に顕現しているので、それを剥がされては消えるしかない。 
不測の事態に、しかし少年は逆に冷静さを取り戻した。 

「そうか……。今までのマヌケな会話は、全て俺を逆上させる罠やったっちゅう事か!」 

流石にやるな…!と舌なめずり。 
しかし横島達は互いに顔を見合わせ、気まずそうに頬を掻くばかり。 

「いや……悪い。特に何も考えてなかったわ」 

『考えすぎってヤツだな。自意識過剰とも言える』 

『何と言うか、ご期待に添えられなくて申し訳ないですね……』 

「っていうか、今でもおしるこの最後の粒が気になって気になって仕方ないんですけど」 

「こ、こいつら嫌いやぁーーーーーーっっ!!!」 




大河内アキラは混乱していた。 
鳥居の陰から横島達を眺めていたら、突然、ありえないほど巨大な蜘蛛が出て来たのだ。 
別段虫が嫌いだというわけでもないが、あそこまで大きい蜘蛛を見れば流石にビビる。 
しかもその上、添乗員は信じられないスピードで動くわ、なんか札一枚剥がしただけで手品のように蜘蛛が消えてしまうわで、もう何が何やら。 
巨大蜘蛛登場のインパクトで薄れがちだが、宙に浮く人形はオコジョと言い争いしてたし、全く理解が追いつかない事態になっている。 
これではまるで漫画やライトノベルの世界、それもちょっと頭の悪い部類のソレだ。 

「夢………じゃないよね」 

ありがちな事に頬を引っ張ってみるが、当然の如く痛い。 
そりゃあ、あの添乗員の秘密、そして彼が言う『踏み込んではいけない世界』への興味はあったが、ここまで突飛なものだと流石に困る。 
アキラとしては、もっとこう、ハードボイルドというか……映画でいうところのスパイ物やガンアクション的な、スタイリッシュな展開を期待していたのだ。 
しかし現状は、何とまあメルヒェンというか、ファンタジックというか。いやまあ、見てて面白いから別にいいかもしれないとか思うのだが。 
これが壮大なドッキリ企画や、あるいはヒーローショーの練習とかだったらいいなあ、とか思いつつ、アキラはしっかり観戦モードに入っていた。 




フーッ、フーッ、と荒い息を吐く少年。 
殺気と怒気が溢れ返っているその様子を、カモは鼻で笑い飛ばした。 

『やる気マンマンってとこだが……空しいなぁ、オイ。虚勢張ってるってモロバレだぜ! 
 前衛がやられちまわぁ、もうテメェに勝ち目なんざねぇよ! 今の内に降参すんなら、特別に俺っちの舎弟になるって事で勘弁してやるぜぇ?』 

「…勘違いすんなやクソイタチが。俺は術師やないわッ」 

『誰がイタチだコラァッ!! オコジョナメてっと痛い目見せっぞ!? 主に兄貴と横っちがなぁ!!』 

『どこに食いついてるんですかっ!』 

ぐさり。 

『イギャァァァ!! ブスッて! なんかブスッてしたあぁぁぁっ!?』 

ヒートアップするカモをミニ夕凪の威力をもって黙らせると、ちびせつなは声を荒げた。 

『気をつけてください! もしや彼はっ……』 

その言葉も最後まで効き終わらない内に、少年が動いた! 
爆発的な瞬発力をもって踏み込むと、一足で横島の懐へと飛び込み…… 

「何だその足運び。ふざけてんのか?」 

「ぶみっ!?」 

着地後の一瞬の硬直を狙われ、無造作に頭を蹴たぐられる。 
勢いよく踏み込むなら踏み込むで、直接飛びかかればいいものを、一旦着地などするからこうなってしまうのだ。 
瞬発力は人間離れしているし、身のこなしもそれなりにいいんだが、と横島は少し呆れた。 
そのままぐりぐり踏みにじるのもアレだし、引っ掻かれても困るので、足をどける。 
ぐう、と呻きながら身を起こした少年は、横島を見上げると、ニヤリと口許を歪めた。 

「……なかなか戦るやん、おっちゃん」 

「んなっ!?」 

おっちゃん。その単語に固まる横島の脇をすり抜け、少年は狙いをネギに変えて襲いかかる! 
後方で激しいバトルが始まった中、横島は愕然とその場に膝をつき、指でアリの巣穴をほじくり返していた。 

「お、おっちゃんて……俺まだ25なのに……いや、でもあれぐらいの子供からすると、俺って既におっちゃんなのか……? 
 そりゃあ、確かに10代だった頃の勢いとかハツラツさとかは失われてるかもしれないさ……それでも、おっちゃんはないだろぉ…… 
 25っつったらまだまだ若者の世代だろ……むしろ男の全盛期だろ……人生これからだろ……おっちゃんはねぇよ……ひでぇよ……」 

おっちゃん……おっちゃん……と、ひたすらヘコむ横島。戦うどころか立ち上がる気配すらない。完全に戦力外だ。 
どーすんだよアレ。無言の擦り付け合いの末、ちびせつなが渋々といった感じで横島に近寄る。 
どうやらちびせつな、カモの口八丁には敵わないようだった。 

『ええと、その………げ、元気出してくださいよ、横島さん…』 

その声にくるりと振り向いた横島の顔には、見事な縦線が入っていた。目尻には軽く涙すら浮かんでいる。 

「なあ、ちびデコちゃん……。俺ってもう若くないんか? 加齢臭プンプンなんか? 娘と洗濯物は別々なんか?」 

『だ、大丈夫ですよ! 横島さんはまだまだ若いです! ヤングです! ハッスル爆発です!』 

「え、マジ? マジで俺、爆発? 爆発ってる?」 

『はい、見事なまでの爆発っぷりです! というかむしろアフロです! アフロってます!』 

「そっか、アフロか……! よっしゃあっ!!」 

常人には理解不能のプロセスを経て、横島は何故か復活を果たした! 
その一端を担ったちびせつなでさえ、途中からテンパって何を言ってるのか自分でもよく分からなかった状況だ。 
アフロの何が横島の琴線に触れたのかは分からないが、結果オーライ。ちびせつなは内心首をかしげながらも、ホッと胸を撫で下ろした。 

横島達がマヌケ時空を発生させているその後方では、相変わらず激しいバトルが繰り広げられている。 
そして今……少年の掌底が魔法障壁を突破し、ネギの頬に入った! 

「へへ、今のは効いたやろッ!」 

「う……!」 

呻きながら身を起こしたネギの口から血が垂れる。口の中を切ってしまったようだ。 
苦戦しているネギに、カモはチッと舌打ちした。 

『マズイぜ、こりゃあ勝てねぇな。横っちはなんか使い物にならねぇっぽいし……いよいよ俺っちの出番か!』 

腕が鳴るぜ!と、カモは何やら準備を始める。 
一方少年は、ネギに止めも刺さず、ただ傲然と敗者を見下ろしていた。 

「ハハハ! やっぱ西洋魔術師はアカンな。弱々や! 
 そこのおっちゃんに守られとるだけで、自分は後ろの方で直接戦わんと……。そんなんで俺に勝てるわけあらへんやろッ!! 
 西洋魔術師はみんな臆病もんで卑怯もんや! この分やと、お前の親父のサウザンなんとかゆーのも大した事あらへんな!!」 

「……!!」 

その一言は、ネギの逆鱗に触れた。 
激昂のままに飛び出そうとするネギだったが、その前に小さな影が躍り出る! 

『兄貴ッ! ここは一旦、撤退するぜ! オコジョフラーッシュッ!!』 

飛び出したカモの体が激しく発光し……次の瞬間には、カモが抱えていたジュースのペットボトルが爆発する! 

『アーンド、オコジョスモーク!! 横っち、兄貴をよろしく頼むッ!!』 

「あいさーっ!!」 

煙幕に紛れてネギを回収すると、横島は一目散にその場から離脱する。 
少年の罵声を背に浴びながら、一行は撤退を成功させた。 
…念を入れてしばらく距離を開け、ちょっとした崖下の祠で休憩を取る。 
その間、横島に横抱き…いわゆるお姫様抱っこ状態にされていたネギが何故か頬を赤らめていた事は、横島は努めて記憶から抹消する事にした。 

「しっかし、詰めが甘いガキだったなぁ。勝ち誇るぐらいだったら、トドメ刺しときゃいいのに。や、今回の場合、刺されても困るけど。 
 挑発にも簡単に乗ってくれるし……何にせよ、戦りやすそうな相手で助かるな」 

『妙なコント始める前に横っちが始末つけてくれりゃあ、それで済んだ話なんだがなー』 

「正直すまんかった」 

速攻で頭を下げる。 
それこそ漫才のようなやり取りに視線を向ける事なく、ネギは何やら考え事に没頭している。 
チームワークの欠片もない一行に辟易しながら、ちびせつなは敵の分析を始めた。 

『あの身体能力、身のこなし、そして特徴的な耳……。あの子は狗族ですね。 
 狼や狐の変化、つまりは妖怪の類で、もちろん能力的に人間とは一線を画しています。 
 その上、呪符まで持っているようですし……厄介な敵、と言わざるを得ないでしょうね』 

『狼男みたいなもんか。そりゃ強ぇわな。 
 ま、そんでも真祖とは比べもんにならねぇだろ。エヴァンジェリンに勝った横っちの敵じゃねぇよ』 

『え、勝ったって……あのエヴァンジェリンさんにですか?』 

あからさまに訝しげな表情を作るちびせつな。 
カモのコメカミあたりに青筋が立った。 

『ちょっと前に言っただろーが! つーかなんだよその顔。絶対信じてねーな!?』 

『それはまあ…。だってエヴァンジェリンさんは真祖ですし、攻城級の魔法でも使えない限り、行動不能に追いやるのは難しいんじゃないですか? 
 横島さんの実力を疑っているわけではありませんが、やはり少し信じがたいものがあります。オコジョの口から聞くと余計に』 

『テ、テメェ……! オコジョナメんじゃねぇぞゴルァッ!!』 

「落ち着けこの馬鹿! ったく…」 

カモの首をキュッと絞めて強制的に落ち着かせると、横島は苦笑気味にちびせつなに向き直った。 

「ま、あん時はエヴァちゃんも相当手加減してくれたみたいだしな。真祖の力も使ってなかったし。 
 それに、勝ったって言うけど、実のところは途中で勝負がウヤムヤになったってのが真相だよ。大声上げて自慢できるような事じゃない」 

『戦った、というのは事実なのですか…。 
 まあ、エヴァンジェリンさんと戦って五体満足でここにいる、というだけでも凄いのかもしれませんね』 

「いや、そんなに激しい戦いでもなかったんだけど……。 
 ま、いいか。今はそれより、ボウズ。お前ケガしてるじゃないか。血ぃぐらい拭けって」 

ハンカチを取り出し、ネギの口許を拭いてやる。 
ついと視線を上げると、ネギは横島と視線を合わせた。 

「横島さん、僕……僕、父さんを探すために戦い方を勉強したんです。 
 父さんを探す内に、必ず戦う力が必要になると思ったから」 

「ほぉ。それで?」 

真剣な語り口調のネギ。 
流石に横島も茶々を挟むような事はせず、しゃがんだまま大人しく話を聞く。 

「でも……僕は、エヴァンジェリンさんに負けました。さっきの男の子にも負けてしまった。 
 いえ、さっきの場合は違うんですけど……エヴァンジェリンさんの時、実は僕、ホントはもっと戦えてた筈なんです。 
 魔力を使い果たしたり、体が動かなくなるほどのケガもしてなかった。僕は……諦めちゃったんです。もうダメだって。 
 怒ったエヴァンジェリンさんがどうしようもなく恐くて、逃げたんです。戦える力があったのに。戦えるのは僕しかいなかったのに。 
 あの時、横島さん…じゃなくてヨコシマンさんが戦ってる時、僕、横島さんの言葉を思い出しました。そして、僕自身が言った事も。 
 本当は、覚悟なんてできてやしなかった。誰かが傷付くのは確かに恐くて、でも自分自身が傷付くのはもっと恐かった。 
 …情けないって、思ったんです。魔法使いの力は、誰かを、大切な人達を守るためにあるんです。でも僕は、そこから逃げた。 
 あの後、ベッドにもぐって、たくさんたくさん泣きました。悔しかったんです。情けない自分が嫌だったんです。 
 ……もう、あんな思いはしたくありません。僕は未熟です。技術はもちろん、心構えだってなっちゃいなかった。 
 だから……僕、強くなります。強くならなくちゃ、父さんを探す事も、大切な誰かを守る事も、自分の身を守る事すらできない。 
 僕、あいつと戦います。正直、恐いです。痛い思いをするのも嫌です。でも、ここで戦わなくちゃ……きっと、強くなんてなれない!!」 

「………そっか」 

戦いを知り、敗北を知ったネギの、新たな決意。 
横島は軽く微笑んでネギの頭に手を置いた。 

「じゃあ、任せたぜ――ネギ」 

「! …はいっ!!」 

これ以上何も言わずとも、横島の目が何よりも雄弁に語っていた。横島は今、ネギを一人前の男として認めたのだ。 
ちびせつなも、10歳の少年らしからぬ心の在り方に感心した様子で、しきりにコクコク頷いている。 
しかしカモは、ネギと横島の間に結ばれたアツい友情を眩しく思いつつも、きっちり現実を見ていた。 

『で、でもよぉ、だからってどうやってヤツに勝つんだよ兄貴!? 
 言いたかないが、ヤツとの相性は最悪だ。気合や根性で埋められるような差じゃねえぜ!』 

「大丈夫だよ、カモ君」 

ネギはやけに自信ありげな笑みを浮かべると、騒ぎ立てるカモに、グッと親指を立ててみせた。 

「僕に、勝算がある」 

裏方稼業

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