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罪と罰のその先 第九話 『かけられた王手』 投稿者:詠夢 投稿日:05/28-01:52 No.621
麻帆良学園本校女子中等学校2-Aクラス委員長、雪広あやかは焦っていた。
「な……なんてことですのォ~~~ッ!!」
長い髪を振り乱し、頭を抱えて絶叫する。
その声は、校舎全体を揺るがさんばかりの勢いで放たれた。
「期末テストで最下位脱出できなければ、ネギ先生がクビになってしまうというこの一大事に…!!
バカレンジャーの皆さんと木乃香さんに朝倉さん、おまけに当のネギ先生まで行方不明なんて~~!!」
「長々と説明口調の絶叫ありがと、いいんちょ。ついでに広域指導員の周防さんも一緒だけどね。」
そう補足したのは、件の報せを持ち帰ってきていた早乙女ハルナである。
その耳はしっかりと手で塞がれていたが、隣の宮崎のどかは音波をモロに浴びたらしく、くらくらと頭を揺らしている。
「何を落ち着いてるんですか、ハルナさん!?」
「いや~、人がパニクってるのを見て、逆に落ち着いたってゆーか。」
「どうするんですかー!? これでは一人10点増しどころか20点増しでも全然足りませんわーッ!!」
雪広あやかのさらなる絶叫に、クラス中にざわざわと波紋が広がっていく。
そんな様子を眺めながら、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルは、ふんと鼻を鳴らして頬杖をつく。
「(あのぼーやに周防の奴も一緒なら心配するだけ無駄だろう。そもそもあいつらの運動能力を考えるならそれこそ杞憂だ。)」
もっとも、そう思ってない者もいるようだがと、エヴァは前方の席でそわそわと落ち着かない、桜咲刹那を見る。
ぴくっぴくっと肩が震えては、サイドでくくった黒髪が揺れていて、その手が忙しなく傍らの包みに触れている。
「(それほど心配なら、助けにいけばよかろうに…。)」
「そうですわ!! こんなところで騒いでる場合じゃありません!! 私がネギ先生をお助けしなければ!!」
エヴァの心の声が聞こえたわけではなかろうが、あやかがそんな事を言い出す。
慌てて待ったをかけるハルナ。
「ちょ、ちょっと待った、いいんちょ!! 二次遭難の危険は避けなきゃ!!」
「離して下さい!! ネギ先生が私を呼んでおられるのです!! ほら、今も!!」
「幻聴だって!!」
かなり危ない目つきで今にも飛び出しかねないあやかを、ハルナと他数人がかりで取り押さえる。
動きを封じられ、唯一自由な手をあやかは、ぎりぎりと力一杯に伸ばして叫んだ。
「ああッ、ネギ先生~~~~!!」
◆◇◆◇◆
「ックシュン!!」
「どしたの、ネギくん? 風邪?」
図書館島最深部、幻の地底図書室。
地底であるにも関らず眩い光に溢れ、樹木にも見える巨大な根に囲まれた湖とそこに浮かぶ島々。
無秩序に並び埋もれた本棚は、さながら廃墟の神殿を思わせる。
そんな中、両手に教本を抱えて歩いていたネギは大きなクシャミをして、同じく教本を抱えたまき絵に心配されていた。
「い、いえ…そんなんじゃないと思いますので、この感じは。」
「そう?」
「お、戻ってきたアルね。おーい、ネギ坊主! テキストは見つかったアルかー?」
島々の間に架けられている橋の傍ら。
本棚に腰掛けていた古菲が、むぐむぐと口に頬張ったものを呑み込みながら、テキストから顔をあげる。
「はい! もう少ししたら、また授業を始めますので、それまでは皆さんも休憩していてください。」
「それでは、お言葉に甘えまして。」
「って、コラー! ゆえはさっきから休憩しっぱなしでしょー!! 勉強しなよー!!」
チェアに寝そべりつつ、明らかにテキストではない本を呼んでいる夕映を、まき絵がどやしつける。
しかし、そんなものはどこ吹く風と、夕映は傍らのジュースを一口すすった。
その隣で、燃え尽きたように教本に顔をうずめて突っ伏しているアスナに、木乃香がおそるおそる声をかける。
「アスナ、平気? 生きとる?」
「ううう…ほとんどぶっ通しでやってたからな~…!」
自分が人一倍頭が悪い事を自覚している彼女は、今回の試験を落とさないためにも現在がむしゃらに勉強していた。
それはひとえに、『最下位のクラスは解散・留年・やり直し』という勘違いからくるものであったのだが、ネギは素直に感激していた。
明日菜が真実を知るのは、もう少し先である。
「アレ? 周防さんは?」
「ああ、出口を探しに行くと言ってたでござるよ。」
きょろきょろと辺りを見回す朝倉に、楓が答える。
それを聞いた朝倉の目が、一瞬鋭さを増す。
「(なにぃ!? 知ってたら尾行してたのに…まあ、いいか。話は今夜にでも……フッフッフッ…!)」
「これは…。」
周防達也はそれを、茫然と見上げる。
大樹の如き、幾重にも絡まる根に埋もれるようにそれはあった。
地中海沿岸の遺跡に見られるような彫刻と文字が刻まれた、荘厳で巨大な門扉。
出口を探していのだが、不意に感じたペルソナのざわめきに従って、ここまで来てしまった。
そして、そのざわめきは、門を前にした今さらに強さを増している。
間違いなく、この向こうに何かがある。
「(……途中、妙な結界みたいなものがあったが…。)」
一つだけ気がかりなのは、何やら重要らしき場所を守るはずの結界が随分と弱く、あっさりと通れたこと。
そこに引っかかりを感じながらも、ともかくと達哉は門扉に手をかける。
ぐっと力を込めて押すが、びくともしない。
「まあ、そうだろうな……来い!!」
達哉の呼びかけに応え、彼の内から飛び出したアポロが大きく腕を振り上げる。
次の瞬間、巨神の拳が門に叩きつけられ、轟音が炸裂した。
しかし。
「やっぱり、無傷か…。」
達哉の呟いたとおり、門扉はまったく変わりなく、その荘厳な姿を誇っていた。
おそらく、何らかの魔法で塞がれているのだろう。通常のやり方では、決して開かないと達哉は考える。
「(…しかし、これは出口ではないかもしれないな。)」
根に埋もれている部分がどうなっているかは知らないが、その先が上に通じているようには思えなかった。
無駄足だったか、と達哉が踵を返したそのとき。
「……ッ!?」
心の内側から発せられた警告に従い、達哉は考えるよりも早く、その場を飛び離れる。
と同時にズンッ、と大地が揺れた。
達哉が振り返ったそこには。
「な……ドラゴン?!」
いかにも硬そうな外皮で巨体を覆い、獰猛な息を鋭い牙の間から吐きだす姿はまさに圧巻。
その目は爛々と輝き、長い首をもたげて獲物である達哉を見下ろしてくる。
ぶわりと広げられた翼が、地に巨大な影を生み、その威容を誇るかのように、それは高らかに雄叫びをあげた。
「ゴアアアアアアァッ!!」
「くっ!!」
こんな奴に、どうして今まで気付かなかったのか。
達哉は歯噛みしながら、さきほどの結界の意味を悟る。
「(そうか…あれは、人を近づけにくくするためと…こいつを外に出さないためのものか!!)」
ボッボッ…と音をたてて、ドラゴンの口から炎が溢れる。
次の瞬間、吐き出された劫火の奔流が、あっという間に達哉の身を包んだ。
周囲の巨木にも匹敵する根が、ほんの一瞬、炎に触れただけで消し炭となって崩れ去る。
人間ならば、ひとたまりもないはずの炎の中で、しかし達哉は火傷ひとつ負うことなく立っていた。
「(降魔していたのがアポロで助かったな…!!)」
「グゥルアアアアアアアッ!!」
達哉が無事だったことが気に入らないのか、怒りを感じさせる雄叫びとともに、尾の一撃が迫る。
達哉はそれを横っ飛びに躱すと、すかさず奴の横面に火炎をお見舞いする。
爆発。
ドラゴンの体が傾ぐ。だが、そこまで。
すぐさま体勢を立て直して、その牙をもって達哉を噛み砕かんと迫る。
「(思ったとおり、頑丈だな……なら!)」
達哉は自身に向かってくるドラゴンに臆することなく向き合い、その掌を向ける。
「ノヴァ・サイザー!!」
アポロの手の中に生まれる、新星の熱波。
ドラゴンの鼻面に叩き込まれたそれは、爆発と衝撃を撒き散らす。
たまらず、体ごと後方に吹き飛ばされるドラゴン。
「グアアァア、ギュアアアアッ!!」
ばたばたと暴れるそれに、しかし達哉は止めを刺さずに逃走する。
このまま戦っても勝てるかどうかは危うい。
ペルソナは精神力によって操り、使いすぎると消耗し、尽きれば最悪動けなくなることもある。
相手は相当タフだ。
あれを仕留める前に、下手をすれば達哉の精神力が尽きるかもしれない。
さらに言うなら、今の達哉にとって重要なことは、出口を探すことなのだ。
よって、ここでドラゴンの相手をする必要など、ない。
「…悪いな。」
林を抜け、結界を脱出した達哉の捨て台詞に、悔しげな怨嗟の咆哮が遠く響いた。
去り行く達哉の後姿を、結界の奥から見つめる視線があった。
裾の長いローブにすっぽりと身を包み、顔もフードに隠れて見えないが、どうやら男のようだ。
わずかに見える口の端に満足そうな笑みを浮かべて。
「フフフ…いい判断ですね。」
彼我の戦力を把握して、退き際も心得ている。
戦い…それも路上の喧嘩よりも命のやり取りをする戦場で生き抜いたものの知恵。
さらに相手の怒号を聞いても、余裕の見える台詞まで残す不敵さ。
「なかなか、私好みのいい性格をしてます。」
フードの男は、より一層愉快気に笑みを深くする。
ふと、その笑みを愉快というより、微笑みと呼べるものに変えて、男はふと傍らの門へと顔を向ける。
その向こうに、古くからの友人の面影を浮かべながら。
「ナギ……あなたの息子は、良き人々に巡りあっているようですよ…。」
呟きとともに、男の姿は霞の如く消えていった。
◆◇◆◇◆
その夜。
「ほな、うちらは水浴びに行って来るわ。」
「ネギ坊主~、のぞきは駄目アルよ~♪」
「私は別にいいよ、ネギくーん。」
そう言い置いて、木乃香、古菲、まき絵の三人は、タオル片手に橋の向こう側に行ってしまった。
そして残されたのは。
「う~~~~……!!」
「あ、アスナさん、頑張りましょう!! 大丈夫、成果は確実に出てますから!!」
教科書と問題集を前に、頭から煙を吹き始めている明日菜と、それを必死に励ましているネギ。
そして、それを呆れた様子で眺めている達哉だけだった。
「…お前も大変だな、ネギ。」
「アハハ…。」
「もー、ダメ!! 全然わかんなーいッ!!」
達哉とネギが互いに苦笑しあった時、とうとう明日菜がさじを投げた。
「ちょっと休憩入れるわ。もう、なんか熱出そう。」
「うーん…しょうがないか。昼間からずっと根詰めっぱなしでしたし…。」
疲労の色が濃く見えるその様子に、ネギもテキストを置く。
明日菜は、思いっきり背を伸ばした後、ごろりと横になって上を見上げる。
「でもさー、こんだけ勉強して試験に間に合わなかったら、それこそ本当のバカよねー。」
「大丈夫です。明日を過ぎれば封印の魔法が解けますから、ぎりぎりで間に合いますよ。」
「だといいけどねー…。」
袖をめくって、その腕に浮かぶ封印の黒線を見せるネギに、明日菜は苦笑を浮かべる。
「魔法が使えるようになれば僕の杖も使えますし…とにかく、アスナさんはテストを頑張ってください。」
「ネギの言うとおりだ。俺も必ず出口を見つけてやるから、お前は試験に集中しろ。」
「んー…そうですね。」
ネギの励ましと達哉の説得に、明日菜も頷く。
そのとき。
「ほっほぉ…なるほどぉ? ネギ先生も魔法使いだったんだぁ。」
唐突に聞こえてきた揶揄の声。
振りかえった明日菜たちの目に映った声の主は、誰あろう麻帆良パパラッチ。
「朝倉!? ……な、何の話よ。」
「とぼけるのは無しだよ、アスナっち。言質は、ホレ。」
かちり、と片手に持ったデジカメを再生する。
先ほどの一連の会話、その中にはしっかりと『魔法』という単語が入っていた。
「えと、いえッ、それは…!!」
「そんなものが証拠になるとでも?」
あうあうと慌てるネギを庇うように、達哉が前に出る。
だが、朝倉はその鋭い視線にも余裕の色を浮かべたまま。
「まあ、ね。これだけじゃ、まだ弱い。」
「何よ。えらくあっさり引くわね?」
朝倉の態度に不審なものを感じて、明日菜も達哉も眉をひそめる。
「私だけじゃ、これを証明するには足りない。だから…助っ人を呼んだのさ。」
「そういうことです。」
すっ、と別の本棚の後ろから現れた小柄な影に、驚愕する達哉たち。
「綾瀬!? お前まで…!!」
「そ、そんな夕映さんまで、何で…?!」
しかし、彼らの驚愕をしれっと受け流し、夕映はゆっくりと歩み寄ってくる。
「朝倉さんから話を聞いた直後はまさかとも思いましたが、時間が経つにつれてそれは確信に変わっていきました。」
夕映は一歩一歩と、わざとゆっくり近寄ってくる。
「明らかに、常識外の代物である図書館島そのもの。
魔法書の存在と、その書の名前を知るネギ先生。
動くゴーレムに、支えもなしに宙に浮かぶ石版型ツイスターゲーム。
そして、ファンタジー以外の何物でもない、この地底図書館。」
まるで、カウントダウンをとるように。
指折り数えながら、夕映はつらつらと淀みなく言葉を紡ぐ。
「さきほどの会話は、その決め手です。
ネギ先生、そして周防さん……あなた方は魔法使いですね!!」
ビシィッ!!と指をつきつけて、夕映は言い切った。
ネギも達哉も、声もなく動きを止めている。
つまり、反論の余地無し。
夕映はにやりと、今まで誰にも見せたことの無いであろう、会心の勝利の笑みを浮かべて宣言する。
「チェックメイトです。」
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