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月と魔法に花束を/3『外から埋める』 投稿者:へたれっぽいG 投稿日:05/20-12:44 No.562

「ハアッ・・・ハァッ・・・・・・なんで私があんなに怒鳴らなければいけなかったのだ」

夕日の黄昏色が差し込む居間のソファーに座るエヴァは一人愚痴ていた。
そんな主の様子に茶々丸は『本当にあそこは怒鳴るところだったでしょうか?』などと自立思考回路統制回路(簡略的な言い方だとAI)で考えていたが、口にはしない。ネジは巻かれたくないから。
現在、二人の"拾い者"は用意した寝室で眠っている。どうやら、男の方――冬馬の体力はまだ完治せず、女の方――深雪もまたずっと隠していた心労がたたったのだろう。
まぁ、積もる話も、二人が回復してからでも十分間に合う。問題は、これからだ。

「・・・茶々丸、アレは何処に置いてある?」

不意に、主人の雰囲気が変わった。何処か人間的に言うなら氷を思わすような鋭い視線が、茶々丸を射抜いている。
姉であるチャチャゼロのいう"悪"の状態となったエヴァの問いに、茶々丸は茶葉を入れ替えた急須にお湯を淹れてから振り返った。
本物ではないフェイク(偽者)のエメラルドグリーンの髪が、オレンジの色に染まりながら舞う。

「現在、地下室の人形部屋に保管しております。・・・出してきましょうか?」

「いや、構わん・・・むしろ、時が来るまで一切手を出すな。あの二つの"武器"は、おそらくあの二人が使おうとすれば厄介なことになりそうだからな」

何か、隠し事を身の内で押し込めるようなエヴァの口調。だが茶々丸は深く追求はせず、急須を持ち、エヴァのための至高の緑茶を彼女専用の湯のみに注ぐ。
長年使われることによって味のある風格を醸し出す陶器に、液体が丁寧に注がれていく。日本茶特有の香りがエヴァの鼻腔をくすぐり、少し苛立っていた感情を和らげて良く。

二つの武器――それは、エヴァが冬馬と深雪を見つけたとき、二人の傍らにあった槍と羽のことであった。
物体を解析する魔法や、茶々丸の機能である物体解析能力で調べてみたが――材質はどちらも不明、わかるのはそれぞれに何かしらの強い力――それもとびきり強力なのが備わっていることだ。
どうやらマジック・アイテムなどと同じらしく魔力や気を使わなければ発動しない、ということだけがわかったが――それでも、エヴァは強い興味と危惧を感じた。その、内包された圧倒的な力に。
そして――それを持って現れた、二人の存在に。

「・・・ジジイへの報告は・・・するな。時期が来れば、私が報告しにいく」

「・・・了解しました、マスター」

主の反論を許さぬような口調に、茶々丸は何も言わない。疑問を抱いたとしても、二人を置いておくメリットがあまりに少なくデメリットが多いと思っても、言わない。それが従者としての正しき姿であり、自身が人形でもある故に。
エヴァは何も言わずよく考えれば、湯気の立つ緑茶の入った湯飲みを傾けた。
ふと、二人の生い立ちをまだ聞いてなかったな、と心の中で呟く。それにより湯飲みの口を一気に傾けたことに気付かず、

「――アチッ!!」

熱すぎたお茶で口内が火傷した。


~~~~~~~~The River~~~~~~~~~~~~


ズブズブ
ズブズブ

堕ちていく。

体が、どこかに、堕ちていく。


ここは、何処だ?

冷たく、孤独で、光に溢れて・・・・・・・・・・


ここは、何処だ?

何処まで、堕ちていく?

それとも、流されている?

わからない、わからない、わからない。


ズブズブ
ズブズブ


何かが、零れて、流されていく

何処からか、零れて、なくなってしまう。

残ったのは、僅かだけ。

大切なものの、欠片だけ。


ズブズブ
ズブズブ


ああ・・・・・ここは、何処だ?


何が、零れていった?


俺は・・・・・・ダレだ?


~~~~~~~Rivers End~~~~~~~~~


しんしんと、窓の外で雪が降っていた。
その、どこか幻想的な光景を、冬馬は痛みの引いてきた体を起こして見ていた。
もう包帯をするようなほどの酷い傷はある程度癒えている。ひとえに、深雪や茶々丸の献身的看護と深雪のホワイトウルフとしての治癒能力のおかげだろう。
――が、無茶をすればまた傷が開きそうだと深雪や茶々丸から言われている。故に、小屋の中は好きに歩いてもいいと家主から許可はとっているが、外へと出たいという目下最大級の欲求は「アホか貴様は!」という王様的口調で全面禁止を喰らっている。
既に冬馬としてはもう五日、いや寝ている間も含めてまるまる一週間も小屋の中にいるのだから、せめて今の世界のことを見てみたい。
しつこく言うが、冬馬は激しく外に出たいのである。出来れば愛しの深雪と。

「・・・けど、深雪さんに駄目って言われてるからなぁ・・・・・・」

憑物を落すかのように、溜め息。
今は、俗に正月と呼ばれる連休だ。即ち――麻帆良学園は現在、冬休みを迎えているのだ。

「冬馬、起きてるか?」

不遜な態度とともに、先ほどから茶々丸に着付けを頼んでいたエヴァが部屋に入ってくる。
いつもは好きに流してるウェーブ掛かった金髪を結上げ、小さな体を包むのは普段とは違ったクロを基本に桜の柄が成された振袖だった。真っ白なフォアを首に巻きつけ、ほんのり化粧をしてただでさえ大人びた表情をする顔には、見た目に合わぬ妖艶ささえ付加され、その姿は、正しく日本の正月の象徴にすら見えた。
見惚れてしまった。今まで知り合いには、ここまで和服が似合う女性(というか女の子)がいなかったから、ある意味不意打ちに近かった。そんな冬馬の態度にエヴァは「ふふん」と鼻で笑うと、口元を吊り上げた。

「予想以上の反応だな、とりあえずお前が私のような女に欲情していたと深雪に報告できるぐらい、イヤらしい緩みっぷりだ」

エヴァのその姿に違わぬ妖しさと女らしさが入り混じった言葉は、まさしく冬馬の心を心を一瞬で現実に戻すほどに強力であった。
ハッキリ言って、冬馬の周りにはこんなストレートな口調をする他人はいなかった。唯一彼の姉がエヴァの口調・性格に似ていたが、如何せん彼女は"肉親"であった。
そして、彼は肉親からすら『根性なしのヘタレ男』と呼ばれるほど女性付き合いが無い。深雪がいなければもしかしたら一生独身だったかもしれないのだ。
要約すれば、彼の恋愛に対する免疫は中高生とさして変わらないのである。そんな精神だからこそ、恋愛ドラマのような恥ずかしいセリフをいえるのだが。
冬馬は自分の顔が紅潮していくのがわかる。頭が一瞬真っ白になり、思考がグチャグチャにこんがらがって行く。
故に――言ってはならないことを、言ってしまった。

「ッッ!? ちょ、今の違うんだエヴァちゃん! 今のは――」
「エヴァちゃん言うなぁッ!!」

エヴァの小さな体が一瞬で移動した。
速い、まるで空間転移をしたかのようだ。冬馬は特徴的な金髪が懐に入り込んだ瞬間、自分の失言に気付いた。そして、これから起きるであろうことをシナプスの限界速度で思考し、反射神経が咄嗟に体を仰け反らせた。
だが、遅い。遅すぎる。魔力は既に黄金の右手に集約している。間合いは存分に入り込んだ。両足は十分に力を溜め、全力で解放すれば天まで掴めるほどに跳べる。だが、今は天を掴むことより、天の代わりに罰を与える為にこの足は存在する。
後は――その技の名を唱え、放つのみ!

「昇・○・烈・破ッッッッッ!!!!!!!」

《ゴガシッ!!》という顎を穿つかのような音が気持ちよく響いた。冬馬の体が宙に浮かぶ。だがそれで終わらない。エヴァはさらに体を回転させながら屈みこみ、今度は鳩尾から抉りこむように拳を突き上げた。
さらに、冬馬の体が浮かび上がる。そして――その真下へと陣取り、止めの一撃を突き上げた。

【7HIT!! NEWRECORD!!】

完璧に、決まった。愚か者は「ぶぺらっ!?」と意味不明な断末魔をあげて部屋の中を吹っ飛んでいき、天井で弾み、ドアの目の前へと叩きつけられる。受身すら取れていない。大ダメージだ。HP(ヒットポイント)がグリーンからレッドに変わった。一撃必殺だ。
エヴァはその決まりっぷりに普段ではありえないぐらいの爽やかな笑顔を浮かべ、握り締めた小さな拳を天高く掲げた。

【K.O.!!! WINNER EVA!!】
 
妙なテロップが二度出現したが、気にしてはいけない。

「まったく・・・何度その呼び方を改めるよう言ってるんだ!! 次言ったら北○の名を冠する技を叩き込んでやるぞっ」

そんなことをしたら人体破裂だ。体を痙攣させながらも、心中ではツッコミをいれておく。言ったら百%叩き込まれるだろうが。

エヴァはこの数日間、冬馬とは何度か話をしている。話の内容は、この世界の詳しい成り立ちだったり、向こうの獣人とはどんなものかだったり、互いの嫁(従者)の料理の自慢だったり・・・
傍目から見れば、体格差さえ気にしなければ、性別違いの親友のようにすら見えた。もし体格を考慮するならば、兄弟か親子にしか見えないが。勿論エヴァは妹or娘だ。
それくらい、二人が会えば話が弾んでいた。二人も気付かぬ間に。
その中で、エヴァは冬馬から『エヴァちゃん』と呼ばれることを激しく嫌っていた。
冬馬は新年を迎える前に理由を尋ねてみたが、エヴァは代わりに世界すら狙える延髄蹴りを返してくれた。そして深雪にそのことを言ってみると「冬馬さんは、女の子の心に鈍いんですよね」と苦笑いした。
――けっして、それが恋心ではないことを、彼と彼女の名誉のために記載しておく。

だが、そんな仲が縮まったように見えても、二人は決して"生い立ち"を話し合おうとしなかった。
まだ、互いに時期ではないと、感じていたから。いや、それ以上に――

「イテテッ・・・」

起き上がろうとしても、脳震盪を起こしたようで力が入らない。仕方なく回復するまで待とうと、仰向けになって目を瞑ろうとして、

「冬馬さん、大丈夫ですか?」

ドアを開いて現れた深雪の姿に、今度こそ意識が逝った。
エヴァと同じように栗色の髪を結上げ、牡丹雪を意識したような柄の振袖に包まれた華奢な体。丁寧に塗られた桜色の口紅は小さな唇を彩り、エヴァと同じ白いフォアを身に着けるその姿には、いつもと違った深雪の雰囲気があった。あえて言葉にすらなら、華族のお嬢様という言葉だろうか。
とにもかくにも、今の深雪は街に繰り出せば誰もが振り向く姿と言っておこう。
だが――冬馬の思考と視線は、違う場所に注がれていた。
和服とは、元来下着を着ないものである。近年では下着を着ながら和服を纏う女性が多いが、この小屋の家主は違う。
エヴァンジェリンとか外国な名前で15年間茶道部に在籍し、一世紀もの長い時の合間に合気鉄扇術を極め、今こうして見事な振袖を纏っている彼女の心は誰よりも日本人であった。
妙な(バカな)言い方をすればクイーン・オブ・ジャパニーズ。
無論、振袖の着こなしは昔ながらの下着無し。そしてそれは――彼女の指示に従って着付けをした茶々丸と深雪もであった。
冬馬は現在、仰向けなのだ。そして、深雪は丁度自分の真上にいて――その振袖の合間から、普段の衣服なら下着に隠れている部分がバッチリ見えてしまっているわけだ。

「みへろっ・・・・・・?!」

呂律が回らない。なぜなら自分はソレを視界に認識しているからだ。
目を離さなければいけないのに、体が言うことを聞かずに釘付けのまま。哀しき男の性だと誰かが笑う。

「み、みみみみ・・・・・っ」

「深雪さん、どいてっ!!」と言おうと心の中で思うのに、口が違う生物のように動く。
深雪は不思議そうな顔で「どうしましたか?」と尋ねてくる。
気付いていない、ならこのままでもいいんじゃないか? いや気付いてないなら余計言ってあげなければ!! だが言ってしまったらもう見えないわけで――

「このスケベがぁっ!!!」

瞬間、冬馬の体をエヴァが思いっきり蹴り上げる。
浜辺に打ち上げられたクラゲのように無抵抗な冬馬は再び床とキスする羽目になるが、正直これ以上アレを直視する自信がなかっために助かったとも思った。
――残念という気持ちも強かったが。

「まったく・・・深雪、お前はどうしてこういうことに鈍い。このエロ狼はお前の(18禁的単語なため閲覧禁止)をずっと見ていたのだぞ」

エヴァの言葉に、ニ、三回目をパチクリさせた深雪は、ようやくその言葉を飲み込んだかのように白い肌を赤くし、スカートと同じ要領で振袖を抑えた。
しかし顔は笑っている。言葉にするには非常に判りにくいものであるが、無理矢理に言うならば『困』と『苦』と『愛』と『微妙』が程よくブレンドされた笑みというところだろう。

「まったく、ただでさえお前たちが居たせいで初詣に遅れたのに、どうしてまた送れるような真似をしなければならないのだ・・・」

まるで先ほどの冬馬のように「はぁっ・・・」と溜め息を吐くエヴァ。何時の間にか彼女の横に立っていた茶々丸(深緑色の振袖)が持っていたコートらしきものを取ると、あまりのダメージに痙攣を起こしている冬馬に投げつけた。

「・・・?」

もはや具現化すらしてる疑問符の上に被せるように、さらに男物のシャツ、ズボン、トレーナーが投げられる。

「早く起きて支度をしろ、初詣には遅いが、行かないよりはマシだ」

相変わらずの不機嫌そうな口調で、エヴァはそんなことを、唐突に、言った。


~~~~~~~In TATUMIYA ZINNJA~~~~~~~



龍宮真名は麻帆良学園にある龍宮神社の一人娘だ。
だからこそこの時期はもっとも忙しい時で、もはや戦場といっても過言ではない慌しさの中に身を置いている。
境内の掃除、売店の売り子、酔った客を千切っては投げ、ナンパ男には強化BB弾の鉄槌を・・・こんな感じだ。
そして今、真名は人並みの間で再び「巫っ女さ~~~~ん!!!!!」とル○ンダイブをしてきた変態男を蹴り落すと同時に愛銃のデザートイーグルにて裁きを下したところだ。
もはや一種の観光名物となっており、周りには晴れ着姿の女性や厚着の男性の姿が多い。むしろこれこそが目当てのために神社に足を運んでる人は少なくはないだろう。真名としては真逆であって欲しいが。
・・・ともかく、人にこれ以上囲まれると面倒な真名としては、何か脱出口がないか捜していた。
人並みの合間、そこに見慣れた学友二人と、見慣れぬ美(少)女と、疲れたような顔をする知らない男がいた。
絶好の、標的(かも)だった。




「世界は違っても、お祭りとかは変わらないものなんだなぁ」

「それは当たり前だ。『文明の電波』という言葉もあるが、人間の進化は無限に等しい・・・つまり、人間自体には知ることも数えることも出来ないが可能性は限られているということだ。同じようになってもなんら不思議ではない」

子供のように辺りを見回す冬馬の何げない呟きに、エヴァがあることないことを闇鍋状態にして突き出すよう答えた。『文明の電波』などという言葉は存在しない。
尚、闇鍋がわからない人は愉快な友達に聞いてみよう。パーティなどで喜んで作ってくれるはずだ。それを食して食中毒に陥っても作者は一切責任を取りません。

「マスター、そのような言葉は私のメモリーにありません」
「黙れ茶々丸、巻くぞっ? 巻いてしまう?!」

叫ぶと同時にエヴァは茶々丸の背後に回り、自分の二倍はあるだろう背に飛び乗り、後頭部についているネジに手を掛ける。
その動きは流れる水の如く見事なものだ。無駄なところに力を入れてるともいう。

「ああ、そんなに巻いてはいけません・・・」

何故か悩ましげな、それこそ時と場所と無機質ということを考えなければ違うベクトルに聞こえてしまうような呻きだ。
その様子に冬馬は苦笑し、深雪は口に手を当て必死に笑みを押し殺そうとしているが、殺しきれないで声が漏れ出してしまっている。
なんとも微笑ましい図だ。事実(居候二人、家主一人、メイド一機)を知らないものが見れば、久々に再会した従姉妹同士のじゃれ合いにもみえる。
その中に入ってくるように、砂利を草履で踏むしめる独特の音が聞こえた。
それに最初に気づいた深雪が振り返った。彼女の耳は、獣人として常人の数倍に近いものがあるからだ。

「わぁ・・・」

そこには、自分よりもスタイルも背もいい黒肌の女性が、巫女の衣装を纏って立っていた。その顔には大人の風格が漂う笑みが張り付いており、同性である深雪も見惚れてしまうほどだ。

「ん・・・龍宮か」

「あけましておめでとうございます、龍宮さん」

ネジを巻いていたチビッ子と、ネジを巻かれていたロボが友達にでもあったかのように挨拶をする。
いや、事実同じクラスであり、同じ『世界』の住人なのだから当然の行為だった。

「ああ、お二人さん。あけましておめでとう。・・・そして、そこの二人は、初めましてかな?」

姉妹のように肩車をする学友に挨拶を終えた真名は、今日初めて会う二人に向き直る。その顔に不敵な笑みらしきものを浮べているのが、何となく姉に似てると冬馬は思った。後、スタイルとかスタイルとかスタイルとか・・・

「・・・冬馬さん」

唐突に右肘に痛みが走った。同時に力が衰えたせいでなくなったはずの感知能力が大音量で警鐘を鳴らしている。隣から不穏な獣気と冷気すら感じる。
自然、冷や汗が流れ始めた。そこを見てはいけない、見てはいけない、感じてはいけない、今すぐ後でエヴァに殴られることになろうが逃げろ今すぐ早く煩悩退散・・・

「・・・目、エッチです」

視界に、深雪が入る。頬を膨らませ、上目遣いな様子がとても22歳とは思えない。なのに、声音に絶対零度が混じっているような気がするのは勘違いだろうか?
むしろ、そんなことを言われたのははじめてだ。ショックだ。破壊力ならゴ○ディオンハンマーとタメを張れる。
突然地面に突っ伏して『orz』状態になった青年に、会話が丸聞こえだった真名は悪いことをしたなと思うより自業自得だと思った。
非なんて誰にもないが。

「まぁ彼氏にそんな怒んないでやらないほうがいいぞ。それに・・・貴女だって充分可愛いはずだ」

「あ、ありがとうございます」

真名の言葉に嘘偽りはない。
彼女自身、自分の容姿のことに関しては自覚があるが、目の前の女性のように"可愛らしい"という言葉が似合うとは思っていない。
それに、可愛らしさで言えば、充分目の前の少女は麻帆良学園でもトップクラスに入れる。幻想の中の姫君の如き可憐さは真名も少し羨ましいと思うほどだ。
――そういう意味では、何故このような"顔"だけは冴えなさそうな男と付き合っているのだろうとも思った。彼女の脳内では既に『冬馬と深雪はカップル』という公式が出来上がっている。惜しい。

「とりあえず名乗っておくよ。私は龍宮真名。ご覧の通り、ここの娘さ」

まるで戦場の中で名を告げる傭兵のような佇まいで告げる彼女は、一瞬、ここが戦争時のベトナムか中南米かと錯覚してしまいそうであった。
それほどまでに自然で、華麗で――刹那を数刻にすら感じさせてしまう程の、警戒するような"殺気"。
深雪と冬馬の体が咄嗟に反応する。それは獣人としての本能というより、まだあの戦いを引きずっているような感じさえ思わすほど、力の込められたものだった。
冬馬が這い蹲った状態から一瞬で起き上がり真名の眼下からは死角になるべき所から腕を突き出す。

突き上げた手の甲に、IMIデザートイーグルの世界最大級の銃口が押し付けられた。

「バンッ・・・なんてな。エヴァ達といるから何かしら"裏"があると思って・・・試させてもらったよ、すまなかった」

袴の袖から圧縮魔法を発動させたかのように現れた鋼鉄の鷲を仕舞い、本当に申し訳なさそうに頭を下げる。
その様子に、口をマンボウのようにポカンと開ける冬馬と深雪。その後ろではエヴァが右側笑い、左側引き攣るという奇妙な表情をしており、小さな体を肩車したままの茶々丸はその様子を見ているだけだった。
緊迫した空気が、元の燦然とした正月のものに戻っていく。
かに、思えた。

「あまり家の居候を虐めるな。コッチに来たばかりでまだまだ緊張しているのだからな」

「ああ、そうか。そいつはすまなかった・・・なら、学園長には報告したか?」

談笑のような会話。だが、その中身は真名が二人の"部外者"のことを、連れて来た本人であろうクラスメートに聞いているものだ。
真名は、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの裏の名と事情を知っている。そして、ここ最近広まっている『桜通りの吸血鬼』の噂についても耳に入れていた。

故に警戒するのは当然だ。
不意に、エヴァが冬馬と深雪の方を向き、目配せする。途端、何かの言葉が頭の中に浮かび上がり、響く。

ここは任せろ、口出しは許さん

少し緊張しながらも、話が見えず当惑している冬馬達はそれに従う。今は任せたほうが得策だ。

「いや、する必要はない。元々この二人は、この学園都市に新しく住むことになって来たからな。今は事情でゴタゴタしているが、いずれ居候から市民に戻るさ。ジジイに報告する必要性はない」

不届きな思考をしている茶々丸に気付かず、エヴァは不敵な、自身が"悪"だと言わしめるような笑みを浮べた。
真名の鋭い視線が、エヴァの余裕を持った視線が、白銀のカーペットの上で交差する。

「・・・そうか、てっきり私は、クリスマスの日にあった"不思議な色の月"から現れたかと思ったが・・・いや、私の考え自体、可笑しなものだったな、すまない」

「わかってくれればいい」

「そうしておこう。それじゃお二人さん・・・と、名前を聞いてなかったね。確か・・・」

エヴァとの対話が終え、今度はこちらを向いてくる真名に少し慌てながら、足についた雪を払い冬馬が答えた。
無論、先ほどのエヴァの辻褄に合わせて。

「俺は月森冬馬。一応獣医師の卵、かな。で、こっちが・・・」

深雪を横目で見ながら、冬馬は考える。
どうする。エヴァはさっき、自分達がこの街に住むために来たといった。なら、自分達はどういう関係と言ったほうがいいか。
姉弟? そうすると実際にいる深雪の弟から『殺ス』とか言われそうだ。世界が違ってもあの視線に怯えることになりそうでイヤだ。
親子? いや、そんな離れてるようには見えないだろう。むしろそんなこと言ったら『・・・鬼畜か』とか後ろ指を刺されそうだ。却下。
恋人? 一番ありえそうだが、何か怪しまれそうだ。説得力も薄く感じる。
ならば・・・
最後の選択肢を思い浮かべようとした瞬間、不意に、右腕に何かが絡んできた。そして、重く、軽く、温かく、柔らかい感触が、腕全体を包み込む。
香る、甘い花のような匂い。
それが、深雪が腕を組んできたのだと気付くまでに、彼女は言葉を発した。
主に爆弾発言の類。

「妻の、月森深雪です」

・・・。

冬馬、噴火。

「みみみみ深雪さ・・・」

「そうか。けどなんだか初々しいな。籍は入れたばかりなのかい?」
「はいっ、丁度クリスマスの時に」
「成る程、ロマンチックだね・・・女の子として、羨ましいよ」

が、そんなことは気付かない、否、気付いてワザと無視しながら、真名と深雪は話している。
この状態で話すのは止めて欲しい。確かに妻という件は気になった。自分達は過去、籍を入れたことは有ったがすぐに破棄した。そして改めて恋人からの関係が始まったはずだ。
いや、本当はクリスマスの日、冬馬はプロポーズをしようとしていたのだ。それを話してはいないし、こっちでは誰も知らないはずだ。出来れば恥ずかしい記憶ワースト1として墓の下まで持っていきたい。

「まぁでもそこの甲斐性なしのせいで家に泊まることになったのだから、深雪の苦労が知れるがな」

そこの幼女、何を楽しそうに言っているんだ! こっちの顔を見てニヤニヤするな!
深雪に苦労をさせているのは、冬馬的にはぶっちゃけ否定はできないのは確かだが。

「・・・辛いなら、いつでもこの神社に逃げ込んでくれ。私が力になろう」

真名まで右手で深雪の手をとって言う始末。冬馬は目の前が真っ白になった。再び崩れ落ちたから。
その様が異常に似合ってる風に見えるから、余計に冬馬のへたれ加減が窺える。冬馬を除いた四人は、思わず声に出して笑いそうになってしまった。

「大丈夫です。私、冬馬さんのことが大好きですから」

そんな、深雪の囀りのような声が、その場を締めた。後、エヴァが不機嫌になりその標的が冬馬になったのはまったくの蛇足である。



真名と別れ、四人は本来の目的となる御参りのため、長蛇の列に割り込み、エヴァが凱旋の如く吼え、賽銭箱の真ん中に陣取っていた。
チリン、と賽銭箱の中に投げた五円玉が斜めに張られた格子に滑り込むように入っていった。
冬馬はそれを確認し、鐘から吊り下がる荒縄に手を掛け、ガラガラと鳴らす。そして、願いを込めて拍手を二回、力強くする。
パンパンと、左右隣からも聞こえる。それは他の音とも交じり合わず、冬馬の耳にだけ特別なように聞こえた。
きっと、みんなも願いたいことがあるんだ。そう思いながら、自分も強く願う。

神様、正直、貴方のことが嫌いです。エヴァちゃん達にも、深雪さんにもそれを言いました。
だから、手を出さないでください。
幸せは、深雪さんを幸せにするのは、自分達の手だけでしたいから。
新しい世界で生きていくのは、エヴァちゃんや茶々丸ちゃん、これから出会う人たち・・・そして、深雪さんと支えあっていくから。
だから、どうか・・・
手を出さず、壊さないで下さい。

願いを伝え、目を開ける。
顔を横に向けた。丁度こっちを見ていた深雪と、目が合った。
互いに、微笑みあう。
きっと、願いは二人とも、同じはずだから。

「キサマ等、さっさと行くぞ」

後ろから、今だ茶々丸に乗ったエヴァが叫ぶような声を出している。
さっきから不機嫌なのだから、これ以上怒らせるのは不味い。
苦笑して、本殿から降りる。
自然に、手を握り合っていた。




「・・・月森冬馬さんに、深雪さんか」

賽銭箱の前で拝む四人を見ながら、真名は再び境内を歩いていた。
自分でも知らず知らずさん付けをしているのは、あの二人がそういう雰囲気をしていたからだろうか? 
そう・・・様々な苦難にも打ち負けず、生きてきたような、強い力を感じたからだろうか。気のせい、ではない。

「エヴァがあんな嘘をついたのだから、やはり何かあるか? それに、常人にしては"反応出来すぎ"ている」

長い裾の中に隠れてあった、握り締められた拳を開く。
じっとりと、粘つくような汗が出ていた。

「・・・学園長への報告は、そうだな・・・」

そうして、周りを見渡す。人の合間には、様々な学年の生徒が、一張羅で騒ぎあっていた。
そこに、いつもはある人物の護衛のはずでいないはずの人物が、こちらに向かって歩いてくるのが見えた。
思わず、誰にも気付かれないように顔を緩ませた。
本人には悪いと思いながら、試す方法を考えたから。

「龍宮、いるか? 仕事の件なんだが」

「ああ、言いたいことはわかる。今回は特別にタダで手伝おう」

「・・・何かあったか?」

「察しがいいな。それでこそお前だ。仕事が終わってからでいい。実は・・・」

少女、桜咲刹那は、眉を顰めた後、愛刀の柄を握り締めていた。




/End

軽い後書き

かなり遅れました。不定期でもこのペースは、マズイっすよね?(汗)忘れ去られたときに更新予定・・・(ぇ

月と魔法に花束を

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