麻帆良白書 第2話(×幽遊白書 オリ有) 投稿者:ケンツ 投稿日:04/08-01:02 No.8
――皿屋敷にて――
「男なら~ラリラリラ~♪」(知っている人は知っている、知らない人は覚えてね)
カーテン越しの窓から夕日が差し込み、部屋を鮮やかな橙色に染めていく。
蔵馬たちが帰った後、この何事も無く平和に暮らせる時間が幽助にとっては裕福な時である。その際にちょっと気分がのったのか、気持ち良さそうに一人歌を呟く。
――ドガン!!
そこに何者かが強行突入するかのように扉が開けられる。けたたましく鳴り響く音に幽助は反射的に扉のほうへと振り向いた。
「浦飯!!大変だーー!!」
誰かが襲ってきたのかと無意識に身構えていたのだが、そこにいたのは肩で息をし、今にもぶっ倒れてしまいそうな桑原であった。
目に入った人物が自分の知っている人物だったため、ため息をつきながら構えを解く。それでも今の雰囲気を害されたため、一秒でも早くこの無法者を追い出し気分でもあった。
「何んだようるせぇな~。今忙しいんだ!」
「嘘つけ! 今歌ってただろうが!!」
「な、なぜそれを!?」
良い気分が一気にダウンしたせいで睨んだ顔がいつもより強く感じる。
しかし桑原に自分の行動が読まれたせいか、幽助は打って変わり驚愕の表情を見せる。だが、どうして桑原がこんなに急いでまで自分の家に来るのか理由が分からない。そこでここは嫌々とはいえ、聞き出すことに決めた。
「そういや用は何だ?」
「ったく、そんなことより大変なんだよ!!」
「だから何がだ!!」
さっきから“大変”ばかりを連呼する桑原にいい加減キレてしまいそうな幽助であったが、それよりも内容を聞きたかったため、ここは何とか堪えることが出来た。
「それが……蔵馬が行方不明なんだよ!」
「な、何ぃぃぃーーーーーーーーー!!!」
幽助の大絶叫がマンション中にこだまする。
ついさっきほどまで笑顔で一緒に話をしていた仲間がいきなり行方になったと聞けば、幽助でないにしろ、誰でも驚くことであろう。
しかし、ここで驚いても何の解決にもならないため、未だに呆けている幽助にイライラしながらも急いで連れて行こうとする桑原。
「とにかく来てくれ! いま飛影が捜してっからよ」
我に返った幽助は急いで支度をし、桑原と共に飛影の待つ場所へと向かった。
ここは皿屋敷のある丘。建物がなく森林が周りを埋め尽くし、そこから皿屋敷が一望できる場所で飛影とぼたんは蔵馬の行方を探っていた。
幽助よりも小柄で黒のマントを身にまとい首には白いマフラーらしき物が掛かっており、誰も寄せ付けないようなつり上がった眼。また額には白い包帯が巻かれている。この者が飛影である。
「どお飛影、見つかった?」
「…………………………」
今にも泣きそうな表情を浮べながら飛影に尋ねるぼたん。
飛影は目を閉じ、額にある邪眼で蔵馬の氣を捜している。飛影の特殊能力でもある“千里眼”は何かと探し物を見つけるのには便利である。
探すこと数十分経った頃、飛影たちの後ろから急いで走ってくる幽助と桑原が見えてきた。
「おおい! ぼたん、飛影、見つかったか!?」
急いで来たことで桑原は額にうっすらと汗を見せるが、反対に幽助は息を乱すことは無く、また汗すら掻いていない。二人とも心配そうな表情を見せながら、幽助は現状が知りたいため取り合えずぼたんに尋ねることにする。
「今、飛影が捜してるとこだよ」
ぼたんも緊急事態のため声に落ち着きは見られず、ただ飛影の報告に期待するだけであった。
「お手上げだな、奴の妖気が全く無い」
ゆっくりと両目を開けながら額の邪眼を先ほどの白い包帯で隠し、淡々と幽助たちに報告する。
幽助たちは僅かな望みを掛けていたが、飛影の口から出た言葉はそんな期待を嘲笑うかのような返答であった。
「ま、まさかやられたんじゃ……」
飛影が喋ってから少しの間を置いた後に、桑原が少し諦め状態で言った。桑原の発言により、周りの空気がより一層重くなった。
「いや、それは無い。あいつはS級の妖怪だ。普通の妖怪が相手なら瞬殺だろうな」
素っ気無い返事での飛影の発言はもっともである。人間の蔵馬ならそれほど妖気は無い。しかし妖狐になればたとえ同じS級の妖怪でも引けはとらない。
そのことは皆も分かっている。だからこそ蔵馬が急にいなくなり、妖気すら感じることが出来なくなった今が不思議でたまらなかった。
「じ、じゃあどうして蔵馬の妖気が感じねーんだ?」
「馬鹿、だからこうして集まってんだろ!」
分かりきったことを言う幽助に桑原が思わず反論をしてしまった。
その直後、幽助は桑原に何の文句も言わず、桑原目掛け鉄拳が寸分の狂いもいなく右頬を捉える。
「ぐふぉ!」
一般人よりも強い桑原であろうとも、幽助の鉄拳を避けられるはずも無く、成すすべなくそのまま30メートル位吹っ飛ばされ、その後彼が起きることは無かった。
「さて馬鹿はほっといて」
――あんたも馬鹿なんだけどね~♪
涼しげな表情で手を払う幽助。
しかし、その反応に冷や汗を掻きながらぼたんは心で幽助にツッコミをいれる。だが、もしこのことがこの最強の男に知られでもしたらまた騒がしくなることこの上ないと思い、今はただ黙っていることにした。
「まさか、神隠しか?」
考えても原因が分からないままだったためか、不意に幽助は今日蔵馬から聞いた“神隠し”のことではないかと踏む。
確かに最近魔界で頻繁に起こっているらしい神隠しは、人間界におそらく何らかの影響が出てもおかしくは無い。
それゆえもしかして蔵馬も巻き込まれたのではないかと推測することが出来た。
「「……………………………」」
幽助の発言に二人は沈黙する。
確かに原因が未だに分からないため、もしかしたらと思ったのだろう。
幽助も半分冗談で言ったものの、真面目に反応している二人に言葉が出なかった。
「まさか~♪ あの蔵馬だよ。そんなわけないじゃん」
「そうだな、明日になりゃあ現れるかもな」
「………フン」
さっきまで重苦しい雰囲気が漂っていたのと打って変わり、今度はぼたんの言葉をきっかけに周りが明るくなったように感じる。
三人とも蔵馬に限ってそのようなことは無いと判断したのだろう。
だが、あの蔵馬がその神隠しに遭っていることなど今は誰一人知る由も無かった。
==第2話 戦いは突然に==
――麻帆良にて――
洋風な町が立ち並び、季節外れの緑色をした木々が綺麗に並ぶ並木道。
ここ麻帆良都市は日本でもどこか西洋の雰囲気を漂わせている。鎖国していた時の日本とは違い、現代では国際社会とまで言われる世の中では当たり前のことだろう。
小さな街が並んでいるが、一目を引く大きな建物が夜の麻帆良で静かに佇む。その建物は“麻帆良学園”小学校から大学まである俗に言うマンモス校だ。
その中にある“麻帆良学園女子中学校”。ある所には湖に浮かぶ大きな島、裏手には誰もが見上げる大きな木。普通の学校ではお目にかかれない光景ばかりだ。
そんな夜の女子中学校のある一室。他の教室はすべて真っ暗の闇と化していたが、そこだけは明かりがともされていた。
そこにいたのは一人の老人。手に持っている書類に目をやり、一通り目を通したら今度は机においてあるハンコに手をやり、押す準備を見せる。
その時少し離れた森林から、青白い光が一瞬放たれた。
「フム、これは……妖怪かのぅ?」
不気味な光に気づかなかったものの、その後に何かに気づいたのか、書類にハンコを押していた手を一時止め、気配のする方角に視線を変えるとおもむろに発言する。
老人は後頭部が長く、白い髭を生やしており、部屋は人一人が住むのにはとても広く、高級感あふれる家具や電灯が備わっていた。
老人はその見事に蓄えた髭を触りながら、静かにその場で佇んでいた。
またそのはずれの森に一つのログハウスがあった。女子中学校から少し離れて住んでいたのは一人の少女と一体のロボットである。
「うん? やれやれ侵入者か……、いくぞ茶々丸」
「はい、マスター」
この少女も何かを感じ取ったのか飲んでいる途中の紅茶をテーブルに置き、同じくこの家にいるロボットに命令する。
“侵入者”を排除するのが久しぶりなのか、家を出るときに表情が思わずニヤつく。それでも従者のロボットに悟られまいとなるべく顔には出さず、高鳴る心臓を抑えた。
月明かりが差し込む森の中。あたりには人影も無く静寂を保っている。夜の生き物たちが活動を始める時間帯でもあるのだろう、微かではあるものの虫の鳴き声が聞こえる。
「う、ん…………こ、ここは?」
草むらでうつ伏せになりながら漸く目を覚ます蔵馬。
ゆっくり起き上がろうとするが、さっきの出来事を思い出したため、一気に身構える。
「ここは…………どこなんだ?」
辺りを警戒しながら現在地を確かめようと周囲を見回す。見渡す限りあたり一面森林が広がっており、少なくともさっきまでの自分のいた建造物が立ち並ぶ場所とは無縁のようである。
「皿屋敷じゃ無さそうだ…………それにもう夜か。どれくらい寝ていたんだ? それにさっきの声は?」
蔵馬はその場にしゃがみ込み、顎に手を添えて今の自分の状況を整理する。場所・時間・何故こうなったのか? 少ない情報の中でも頭をフルに使い、現状について考えた。
「(さっきのは何かの呪印か?……それに“あの声”からすると何者かが使ったのは間違いないだろう。だとしたら術者がどこかにいるはずだ。しかしこれが魔界で起きているものと同じなら………まずいな)ん、誰か来るぞ。一人……いや、二人か。しかし気が一人しか感じないとはどういうことだ?」
蔵馬は気を探るだけではなく、聴力を使い人数を確認する。
一般人ではまず聞き取ることの出来ない音でも蔵馬の耳には聞こえる。そこが一般人と蔵馬の大きな違いの一つでもある。普通の人間とは違い、蔵馬は五感が異常なほど高い。
「………………来る!!」
もしかすると敵だという可能性も否定できない状況であり、蔵馬は気を引き締め戦闘態勢に入る。いつもなら遠目でも見えるのだが今は夜でもあり辺りは暗く、また障害となる木々が邪魔をするため、音が聞こえるのみで相手の姿は確認出来なかった。
空を切る音がどんどん大きくなるにつれ、相手が確実に自分のところへと来るのが分る。もう相手の姿が見えてくる距離になると蔵馬は一層気を強める。敵の奇襲に備えてであったが、漸く見えた者達を見るとすぐに気が抜けてしまった。
蔵馬の目の前に現れたのは空中に浮いている小柄な金髪の少女。また隣にはテレビで見るロボットのように足の裏でバーニアを吹かせている緑色の髪をした少女を確認した。
変わった光景に一瞬首を傾けるが、それでもこの少女も気を使えるのだなと納得すると、少しは安心することが出来た。
――良かった。空に浮いている人間とは少し変わっているが……なるほどもう一人はロボットか、どうりで気を感じないはずだ。
多少変わっていても、兎に角話が通じる者に出会っただけマシだろうと考えた蔵馬は安堵の溜息をつきながら話を切り出そうとする。
「あのすみませ『貴様が侵入者か!』な?」
取り合えず尋ねようとした矢先に会話を中断され、また侵入者扱いにされてしまいどうする事も出来ずただ戸惑うしかなかった。
「いったいなんのことだ?」
確かに不可抗力であってもこの土地に許可なく踏み入ってしまったからには不法侵入者だと思われても仕方が無いだろう。だがそれでもいきなり侵入者扱いされては溜まったものではないと感じ、理由を尋ねようと口に出そうとした瞬間。
「フン、白を切っても無駄だ! 貴様から妖気が漂っているじゃないか!」
――あぁ、なるほど。だからか……
ポンと手を叩き、納得した表情を見せる蔵馬。
しかし相手の少女はその態度が気に入らないのか背後に怒りの炎が見えたように感じられた。
「余裕だな、いくぞ茶々丸!!」
「ハイ、マスター」
ついに堪忍袋の尾が切れたせいか、茶々丸という名の従者を引き連れて先手を仕掛ける。
それに応答するロボットの茶々丸はバーニアを吹き上げて一気に蔵馬との距離を縮め、そして右のストレートを蔵馬の顔面へと放つ。
「うわ! ………っていきなり来るか普通?」
いきなりの行動に蔵馬は驚きながらも、茶々丸の攻撃を難なく避ける。さらに距離を保つため一旦後ろに引いた。そこに。
「ほう、今のを避けるとはなかなかだな。しかし…これはどうだ!! リク・ラクラ・ラックライラック 魔法の射手氷の10矢!!」
「なっ? 氷の矢だと!? 奴は能力者なのか?(遠隔攻撃……しかし、凍矢ほどじゃない)いける!」
少女の手から十本の氷の矢が蔵馬目掛けて放たれる。見れば普通の少女がどうしてこのような力を使えるのか疑問に思う蔵馬であったが、今は迫ってくる矢に対応しなければならず、そんな考えは頭から一気に吹き飛んだ。
八方から来る矢は一般人なら避けることは難しいとも思えるのだが、蔵馬にとってそれは全く苦にならない。
右へ左へとやってくる氷の矢の軌道を見極め、当たる寸前のところで一気に横へ跳び回避する。
「……ッチ!」
少女はさすがに簡単に避けられたことが悔しかったようだ。だが攻撃の手を緩めることは無く、次の一手を放つ。
「なかなかやるようだな、次はどうかな? リク・ラクラ・ラックライラック……」
「いきます!」
「くっ! 今度は同時攻撃か……不味いな」
相手の行動を読んだのは良いものの、それに対処しきれる自信は無かった。
そんなことはお構い無しに茶々丸は、拳だけでなく、蹴りも放つ。そこいらの達人とは違いスピードは勿論のこと、受け止めたときの衝動も重い。
その攻撃が体に響いたのか苦痛の表情を浮べる。だが相手に悟られまいと必死に表情を押し殺す。
「どけ、茶々丸!! 氷の17矢!!」
そこに待ってましたといわんばかりに、詠唱を唱え終えた少女は茶々丸に合図を送り、さっきと同じように矢を放つ。しかも数もさっきとは違い増えていた。
「く、いけるか!?」
目の前の相手しか意識していなかったため、反応が遅れる。無傷では回避できないと分かった蔵馬は咄嗟に最低限のダメージで済ませようと思い、行動を取る。
肩膝を曲げ、一気に数メートル真横へと飛び移る。
ヒュン、ヒュン、スパ、スパパ!!
「っく!」
大体の矢は避けることが出来たが、数本の矢が足をかする。それでも考えていた通り、何とか致命傷を避けることは出来た。
「今のは殺すつもりでいったんだが………だがこれで逃げれんぞ。」
掠った場所が不運にも足だったため思わず膝を付く蔵馬。この二人から逃げ切るのには最悪の状態である。
「(どうする……今更侵入者じゃありません! って言っても通じないだろうし、かと言って攻撃をすれば余計悪化する…………だが、ここで負けるわけにはいかない!)…………どうかな?」
蔵馬は相手を挑発するかのように笑みを見せる。だが頭の中ではこの状況をいち早く打破するための策を練ることでいっぱいだった。こんな時でも冷静さを保っていられるのも今までのこのような修羅場は幾度となく潜り抜けてきたからだ。
――やはり戦うしかないのか……あまり乗り気じゃないがな
もう選択肢は戦うことしかないと分かると思わず溜息が出た。蔵馬は覚悟を決めゆっくりと立ち上がると、殺気とともに相手を射抜くような視線をぶつける。
「ほう、まだやるか……なら行くぞ!!」
その態度に相手は不敵な笑みを浮かべ、さらに戦う気のようだ。彼女も手に魔力を込め、茶々丸は身構える。まさに一触即発の状況になったその時!!
「もうやめないか、エヴァ」
「「!!」」
二人が振り向いた先に一人の男がいた。その男はスーツ姿に眼鏡をかけ、顎には多少の髭を生やして両手をズボンのポケットに入れたまま話しかけてきた。
姿、声からすると二十から三十代のように見えた。
「タ、タカミチ!? なぜここに? いや、それよりなぜ止める! こいつは侵入者だぞ!!」
一瞬驚く少女だが、戦いを邪魔されたことが相当嫌だったのだろう、獣の様に吼える姿からは譲れない思いがあるのだろうと感じた蔵馬だった
その男の名はタカミチと言うらしい。いきなり出てきた男の名やこの少女の名前が分かったのはいいものの、どうやらこの少女の知り合いだと知るとさっきよりも警戒する。
――この男……できるな。
エヴァとのやり取りをしている間も目を細めながらタカミチをずっと見ていた蔵馬だが、瞬時にタカミチの強さを見抜き、この状況が悪いと感じたのか、思わず冷や汗が頬を伝う。
「いいや違うね。………彼は一度でも攻撃してきたかい?」
確かに蔵馬は相手の攻撃に対応はしたものの反撃までしていなかった。またこの男が現れなかったら言うまでもなく戦闘モードに入っていたに違いない。そう思った蔵馬は立場を危うくしなかっただけタカミチに心の中で感謝するしかなかった。
「う、確かに……だが、こいつの体から妖気が出てるのだぞ!」
渋々自分に落ち度があったにせよ蔵馬の体から妖気が出ていることを理由に反論するエヴァ。
この気の強い少女の名前はエヴァンジェリン・AK・マクダウェル。彼女は見ての通り普通の少女ではない、吸血鬼の真祖である。そしてもう一人の少女が絡繰茶々丸。こちらはエヴァの従者であり、見ての通りロボットである。
――良かった、今度は話の分かる奴がきたな。
蔵馬はそう考えてか、額に掻いた汗を拭いながら安堵の溜息を漏らす。
蔵馬とて誤解されたまま無駄な戦いたくはしたく無い。
――まともに戦りあっていたらここら辺一帯が無事じゃすまなかったな
あたり一面を見渡しながら戦闘後の光景を考えると嫌なことしか思い浮かばないと推測する蔵馬は一度首を振り、目を閉じた。
「それで君?」
「っ? あ、はい」
タカミチが口元を緩め蔵馬に視線を変える。
急に呼ばれたことに多少の戸惑いを見せる蔵馬。一体どんなことを聞かれるのか気が気でならない。
「ここではなんだし、来てくれるかな?」
「(ここは情報が欲しいからな……仕方が無い。) 分かた、そちらに従おう」
ここで断っても何の利益もないと悟った蔵馬はおとなしくタカミチに付いて行くことにした。
「わ、私もいくぞ!」
「マスターがいくなら私も……」
このまま帰る事がどうも納得できないせいか、エヴァと茶々丸も遅れてタカミチ達の後を追う。
不意を付かれたのか、しどろもどろするエヴァの姿に蔵馬は思わず笑みが漏れる。
――麻帆良学園内にて――
広い学園の中に入り、暫くして四人は学園長室に着いた。
蔵馬はこの学園を見ては驚きの連続であった。学校の敷地内の広さは勿論のこと、学校の大きさも蔵馬の世界では見ることの出来ない程のものである。
辺りをキョロキョロしていた蔵馬だったが不意に襲ってくる痛みに一瞬表情を崩した。
「ごめんね大丈夫かい? まだ傷が治っていないのに」
タカミチはこの表情を見逃さず、さっきの戦闘での傷を心配していたか、蔵馬の方へ振り返り心配そうな表情をしながら尋ねてきた。
「いえいえ、大丈夫ですよ。掠っただけですから」
「フン、さすがは妖怪といったところか。治癒が早いな」
蔵馬も心配されるほどの怪我でもなく、また体もどこか調子が悪いわけでも無いので飄々と答える。
またエヴァはさっきの事もあり皮肉交じりに蔵馬に言い放つ。
「そういうおまえも人間じゃないな。その血の臭いからして、妖怪と似たような存在か……」
蔵馬はさっきの戦闘のことはもう気にはしてないものの、このまま言われるだけでは面白くないと感じると、目を細め、良く利く鼻を利用し相手が何者なのか分析する。
――こいつ、一体何者だ?
エヴァも蔵馬の発言に一瞬睨んだが蔵馬は怯む様子は無い。
また蔵馬の発言に対して疑問を浮かべながら再度警戒を強めることにした。
コン、コン。
「学園長連れてきました」
そんな二人の状況を知らずにタカミチがリズム良くドアを叩き、この部屋にいる主に報告する。
「おぉ~、入ってくれ」
扉の奥から何やら陽気な老人の声が聞こえてくる。
きっとこの声の主がこの学校の長なのだろう。蔵馬は状況から判断すると隣にいる少女を相手にすることを止めた。
――さて、これからどうするかな……
一匹の妖狐が知略を巡らせながらこの後のことを考えていた。
表情に陰りはなく、挑戦的な笑みを浮べながらタカミチの後に続いて部屋に入っていった。