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二話 投稿者:kirin 投稿日:09/19-01:50 No.1298
『それじゃ、少しの間暇を潰してきてもらおうかの』
「女子校のどこに時間を潰すところがあるんだ・・・」
学園長に書類を用意する間、暇になってしまった俺は途方に暮れていた。何せ女子校だ。成人男性が一人迷い込めば目立つのも当たり前である。
「まあしばらくの間辛抱してくれないかな。昼までには準備できているはずだから」
「あんたも男ならこの肩身の狭さわかるだろ」
「いやぁ、僕は結構長いからね。もう慣れたさ」
俺の隣で温和な笑みを浮かべる男は、高畑・T・タカミチというらしい。先ほど学園長と対峙していた時に俺の背後に立っていた中年の男だ。現時点で俺はまだ部外者扱いなので一人で歩き回らせるわけにはいかないそうだ。正直、物凄く助かっている。女子校に男が不法侵入しているなど人聞きが悪すぎる。
「高畑さんは、ここの教師なのか」
「向こうでの仕事もするから臨時講師って扱いだけどね」
「向こうでの仕事、ね」
「・・・何か、含みのある言葉だね」
「俺はあんた達のことをまだ完全には信用していない。あんた達が俺を完全に信用してないのと一緒でね」
でなければ監視などつかないだろう。そう付け加えると、高畑さんは一瞬眉根を顰めたが温和な表情を崩さずポツリ、と呟いた。
「『悠久の風』」
「え?」
「聞いたことは無いかい?」
「無い。なんなんだそれ」
「僕が所属しているNGO団体さ」
「―――NGO?」
NGO、つまり非政府組織とは国際的に様々な活動をする“非営利”組織だ。所属したことはないが共に活動したことは何度かある。等価交換を是とする筈の者が慈善事業に取り組んでいるとはなんともおかしい話である。俺の疑惑の視線に気付いたのか、高畑さんは苦笑しながら小さく溜息を吐いた。
「学園長が言っていた言葉を覚えてるかい?」
「?」
「本当に僕達の仕事は困った人々を助けることなんだ」
「・・・・・・どういう意味だ」
「言葉通りの意味さ。その分じゃ立派な魔法使い《マギステル・マギ》についても知らないんだろう?」
俺は黙って頷く。
「世界のため、人々のため、その自身の持つ力を振るう者、それがマギステル・マギ。僕達は皆それを目指して日々努力を重ねているんだ」
「―――――――――」
「?どうかしたのかい?」
「いや」
一瞬、言葉に詰まる。そう、その在り方はまるで―――
「――――――まるで、正義の味方だな」
「ハハ、的を射た表現だね」
まるで無邪気な子供のように楽しげに笑うその笑顔が過去の記憶を蘇らせる。俺があの学園長に懐かしさを感じた原因はこれか、と得心した。
◇ ◆ ◇
――――――どうやらココ《この世界》は根本的に在り方が違うらしい。
“魔法”。それは如何なる手段を以ってしてもそれ以外の方法では成す事が出来ない神秘。聞き及んだ話では現存するモノは僅か五つしかないと言う。その昔、世界は魔法使いで溢れていた。しかし、人間の科学技術が発達するにつれて再現不可能だったはずの神秘はいつしか常識へと変化し、かつて“魔法”と呼ばれたモノは“魔術”へと、ソレを扱う者は“魔法使い”から“魔術師”へと身を落とした。
その残った五つの内の一つ、第二魔法と呼ばれるモノが存在する。かの『宝石翁』が扱う魔法。本来その魔法の中身などなんの縁もない俺が知る由も無いのだが、縁ある者が身近に居た為にその最秘奥を聞き及ぶ機会があった。
曰く、“並行世界の運営”。
その魔法の全貌、詳細は宝石翁自身しか知らない。話では宝石翁はこの魔法を用いて『並行世界を渡り歩き』度々魔術師達の表舞台に顔を出して騒動を起こしているという。
並行世界。無限に並行している『IF《もしも》』の世界。そう、例えば魔術師など存在しない世界。魔術師と魔法使いの区別が無い世界。多くの魔法使いが世界の平穏を願う世界。そう、俺がいるこの世界は無限に存在する可能性の中の一つだと言うことが出来る。できてしまう。
衛宮士郎を取り巻く状況はこの“第二魔法”で説明できてしまうのだ。
そうすればこのような状況を引き起こした犯人も自ずと見える。だが、同時に大きな疑問が浮上する。動機が一切不明なのだ。何故、こういう状況を作り出したのかがわからない。いったい、何が目的なのか――――――
「士郎君?」
「うらああああああああ、ぶぐふぅっ!?」
「ああ、なんでもない」
現実逃避終了。向かってきた少年の腹に膝を入れて無造作にそこに転がす。心なしか周囲の人垣が増えた気がする。どうして俺まで巻き込まれてるんだろう。
端的に状況を表すならガラの悪い少年達に囲まれている。事の発端は三十分ほど前。そろそろ食堂棟のテラスが開く時間だからそこで少し休憩しようという話になった。だが、テラスには騒いでいた先客がいた。授業をサボタージュした生徒達である。
そんな所に出くわせば教員である高畑さんは黙っているはずが無い。話によれば指導員でもあるらしい。注意を始めるとやたら怯え始める生徒達。
が、リーダー格らしき少年が腹をくくったのか高畑さんに喰って掛かりだした。高畑さんも根気強く説き伏せようとしたがそれが仇となった。いつの間にか授業が終わって人が集まり始めたテラスに少年達の仲間が混じって雪崩れ込んで来た。あっという間に俺と高畑さんは少年達に囲まれてしまい場の空気が乱れ始める。その中の誰が口火を切ったのかは知らないが場を煽りだし、リーダー格の少年が殴りかかるのがゴングとなって現在に至る。以上、状況説明終了。結論。
「俺が巻き込まれる意味が全くわからない」
「迷惑を掛けるね」
「ガッ!」 「ぶほ!?」
高畑さんに向かおうとした二人が突然倒れる。高畑さんは手をズボンのポケットに入れたまま最初の立ち位置から全く動いていない。というか、普通の人間にそういう非常識な攻撃をしても大丈夫なんだろうか。一定の範囲に近づいた少年達がバタバタと倒れていく。
「死ね、デスメガネエエエエエエエ!!」
デスメガネ?そう叫んで突撃していった少年が軽く吹っ飛ぶ。
「もう少し手加減してやったらどうなんだ、デスメガネさん」
「ハハ、止してくれよ。結構それで呼ばれると傷つくんだけど」
さっきのあだ名で高畑さんが普段どういう指導をしているのかよくわかった。最初、少年達が逃げ腰だった理由がやっとわかった。というか体罰とかで訴えられたりしないんだろうか。いや、まあ傍から見てても何やってるかさっぱりわからないんだから訴えようも無いか。
で、気付けば屍の山が出来ているわけだ。
「・・・高畑さん」
「何かな、士郎君」
「一応、正当防衛って事になるよな」
「多分、ね」
多分てなんだ。遠目から見守る人垣の視線がとても痛かった。
◇ ◆ ◇
「フォフォフォ、昼間は随分と大立ち回りだったようじゃの」
「本当に申し訳ない。しかし、士郎君が手加減が上手い人で助かったよ」
テラスの片づけが一段落したところで学園長からお呼びが掛かった。絶対傍観して楽しんでたなこの爺。それと高畑さん、できれば二度とあんたと一緒に仕事したくないな。
「とりあえず、一通りの書類は出来たから目を通してくれんか?」
差し出された書類の束をざっと目を通す。しかし、よくこれだけの物をこの時間で作れるものだ。履歴書やらなにやら全て揃っている。
「まあ、それはダミーのようなもんじゃ。君の正式な書類は向こうで申請せにゃならん。それはすぐには用意できんから追々、ということになるの」
そこで言葉が途切れる。何だろう。何かあったのだろうか。
「実はの、君の住居が見つからんのじゃ」
「先日、教育実習生を一人迎えてね。その時も住むところが見つからなくて困ったんだ」
「今は学生寮に住んどるわしの孫の部屋で寝泊りしてもらっとるがさすがに衛宮君を女子寮に居候させるわけにはいかんしのう」
当たり前だ。こちらとしても女子寮に叩き込まれたりしたらたまったものではない。
「とりあえず住居が決まるまで宿直室を使ってもらうことになるが、良いかの?」
「ああ、それは別に構わないんだが・・・」
「何か問題でも?」
「結局、俺はどの職に就くんだ?」
「決まっとらん」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「フォフォフォフォ」
決して笑いどころではない。高畑さんを見ると変わらぬ表情で沈黙を守っている。こんな学園長で本当に大丈夫なのか麻帆良学園。
「まあ何にせよ、正式な書類が来ん事にはどうしようないというのが実の話じゃ」
物事の順序は守らんとな、とまた笑い出す。なるほど、まるで考えなしというわけではないらしい。少し失礼だったと反省する。
「こちらとしては教職に着いてもらうんが一番都合がいいんじゃがな」
「高卒、になるからな。学力には期待しないで欲しい」
「最悪、大学で講義を受けてもらってからということになるかも知れんの」
「こっちは文句を言える立場じゃない。その辺は全部任せる」
ここに留まることが出来ればどういう扱いでも構わない。俺をここに連れてきた人物は何か理由があってこの麻帆良を選んだはずだ。その理由がわかるまでここを離れるわけにはいかない。組織的な庇護を受けられる上に根を張る拠点が出来るのならそれに越したことは無い。
「じゃあ、学園長。僕は授業があるのでこれで。士郎君もまたあとで」
「ああ、ありがとう高畑さん」
高畑さんが退室するのを学園長と二人で見送る。同時に、俺は高畑さんがあっさりとこの場を去ったことに驚きと疑問を持たざるを得なかった。
「そんなにタカミチが出て行ったのが不思議かの?」
「・・・っ」
「なに、その“コート”のせいで少々手間は掛かるが君の表層の意識を読むくらいなら普通に出来るわい」
―――信じられない。このコートのレジストを突破したっていうのか?
「ま、白状すると表層の感情を読むくらいが限界だったりするがの。フォフォフォフォフォ」
それでもこの護りを破ったのは驚嘆に値する。このコートはただそれだけでも一級の概念武装となるモノに彼女達がその全力を尽くして手を加えてくれた特製品である。それを破るこの老人の並々ならぬ実力に戦慄する。
「じゃから君が今までの質問に嘘をついとらん事はわかっておった。全てを語ってくれておらんのもな。こちらも不要な詮索はしとーない。君を信用すると言ったからの。タカミチを外させたのはその証のようなもんじゃ。そういったこちらの意図、汲み取ってはくれんか?」
表層の感情などどうとでも誤魔化すことは出来る。仮に嘘をついていなかったと仮定しても伏せていることがあるということはそれだけ不確定要素があるということだ。
それでも尚、目の前の老人は俺を信用するといった―――
「・・・それでもいいのか?きっと俺が黙ってることは、絶対にあんたたちには話せない。それでも、俺を信用するのか?」
「わしにしてみれば黙っていることがあると認めてくれただけで十分じゃ」
思わず笑ってしまう。この人は本当に“お人好し”だ。
「納得してもらえたかの」
「ああ、問題ない」
「それでは“早速”よろしく頼むぞ、衛宮君」
差し出される手をこちらこそと握り返す。胸中の疑心暗鬼は綺麗に消えていた。
ただ“早速”というのが気になったがその直後に答えを得ることとなる。
◇ ◆ ◇
夜の校舎というのはどことなく特別な響きがある言葉だと思う。昼間は大勢の人たちでごった返す建物が日が暮れてしまえば完全な無人の空間となってしまうのだ。昼と夜の真逆の顔。そのギャップに恐怖や不安を覚える人は少なくないのではないか。そしてこの麻帆良学園もその例外に漏れず昼間とはまるで逆の姿を見せていた。ひっそりと静まり返った校舎内は廊下に響く自分の足音しか聞こえない。
本当に俺以外の人間はいないらしい。これだけ広い校舎に宿直が一人だけというのがかなり奇妙だ。それほど巧妙で厳重な警備を引いているのか、それともただ単に無用心なのか。あの学園長を見る限りどっちも有り得そうで怖い。
どうして俺が宿直をしているのかは説明するまでもないだろう。これが俺の麻帆良学園での初仕事らしい。宿代だと思えば楽な仕事だ。
校舎内を歩き回りながらこの麻帆良学園について考える。この麻帆良学園とは何なんだろうか。最初に出会った“魔法使い”が女子生徒だったためにここは魔法使いの育成機関かと思ったが一般人も大勢通っていることからどうやらそうではないらしい。魔法使いが運営し魔法使いが通う一般の教育機関ということだろうか。それともやはり育成機関としての側面も持っているのだろうか。
もし、そうだとして学園内に関係者はどれだけいるのだろうか。ここに来て出遭ったのが生徒四人(厳密に言えば三人と一体かもしれない)と教師が二人。まさかこれだけというわけはあるまい。生徒の中に一人違う制服の子がいたことから麻帆良学園本校のみということはありえない。そう考えるならばこの学園都市内にいる魔法使いの総数は結構な数になるのではないか。それこそ一つの霊地に集まるにしては多すぎるほどの。
どこもかしこも同業者だらけの街か。まるで『時計塔』のお膝元に来たような気分だ。どことなく西洋風な町並みをしているのも手伝ってかそのイメージは驚くほど自然に当て嵌まる。確か学園長は関東魔法協会の理事と言ってたか。なるほど、お膝元というのも案外言い得て妙かもしれない。
そんなことをとりとめもなく考えつつ校舎から外に出る。あとは外を一回りするだけで十分だろう。
グランドを一回りし用具倉庫をの施錠を確認し中へ戻ろうとして、ふと木々の間の建物が目に入った。それは学園の周りに植えてある並木の中にひっそりと建っていた。一応、倉庫の類は全て施錠を確認しろと言われていたので足を向ける。
近くまでよるとどうやら予想通り倉庫であった。扉を調べるとどうやら施錠されてないらしい。だがドアノブは捻ってもビクともしない。いや、よく見るとドアノブが捻られたまま固定されていた。一歩離れて扉全体を見る。蝶番が歪んでいるのか変な形に傾いていた。その変形した扉を眺めながら少し考え、ふと思い出す。
そういえば――――――
「宿直室に、工具箱があったっけ」
「あーあ、今日もボール取られちゃったよ」
「新田の奴終わるの遅いんだよねー」
「むっふっふっふ、こんなこともあろうかときちんとキープしてあるもんね~!」
「えー!」
「あっちにドアが壊れてるとかで使ってない用具室あるじゃん?」
「あーあれねー。先輩達が中のモノ取りたがってたけど結局開かなかった奴でしょ?」
「そそ、でもこのまえさー偶然開け方見つけちゃったんだよね!」
「マジで?」
「あそこも一応用具室だし、ちゃんとしまってんだから隠してることにはならないよねー!」
「あったまいー☆さ、ちゃっちゃといこいこ!」
「ここをちょちょいと、ってあれ?直ってる?」
◇ ◆ ◇
いつまでも宿直室に篭っているのは居心地がわるかったので学園長室に向かった。ただ何も考えずに宿直室を出たので丁度昼時で生徒や職員達でごった返す学園を歩くはめになってしまった。一応、首から仮発行された臨時警備員のIDカードがぶら下がっているが奇異の視線は逃れられない。
なんとか職員室の近くまで辿り着いた時やっと見知った顔を見つけることが出来た。
「やあ、士郎君。昨晩はご苦労だったね」
「別に夜の散歩と思えば楽な仕事だったよ」
「いや、そっちのことではなくて―――」
「あ、タカミチ!」
高畑さんが言葉を繋げようとしたとき、俺の背後から声がした。振り返ってみるととても幼い少年がスーツを着て立っていた。何というか、少し元気が無さそうだ。ん?この子どこかで会わなかったっけ。
「こんにちは、ネギ君」
「高畑さん、この子は?」
「えと、教育実習生のネギ・スプリングフィールドです」
「教育実習生?この子が?」
いや、立ち居振る舞いはしっかりとしてはいるがこの子が教職につくのは法律に引っかかるのではなかろうか。どう考えても十代前半だ。
「彼は天才でね。僕が受け持っていたクラスも今は彼に担任してもらってるんだ」
「・・・あの学園長が法律なんてさらさら守る気ないっていうのがよくわかった」
そうやって眉間を押さえていると突然少年が声をあげた。
「あ、思い出した!一昨日ぶつかったお兄さん!」
「―――ああ、あの時の子だったのか」
そうだ。あの時大荷物と長い棒を背負った少年だ。ああ、話が読めた。高畑さんが言ってた教育実習生はこの子か。
・・・確かに、彼なら女子寮に居候してもなんの問題もないな。
「ごめんなさい。あの時きちんと謝れなくて」
「謝るのはこっちの方だ。俺もあの時は呆けてた。本当にごめんな」
「そ、そんなことないですよ~」
本当にしっかりした子だ。確かに大人と肩を並べて教鞭を振るおうとするだけのことはある。そこでまだこちらが名乗ってないのに気付いた。
「ああ、ごめん。自己紹介が遅れたな。俺は衛宮士郎。今は臨時で警備員の真似事をやっている。でも、実際はまだ正式に仕事が決まっては―――」
「ああ、その事なんだけど、ついさっき決まったよ」
「本当か?」
「昨晩壊れた倉庫の扉を直して中を掃除したのは士郎君だろ?」
「ああ、ちょっと気になってな。それが?」
「そんな君にうってつけの仕事ってことさ」
◇ ◆ ◇
氏名:衛宮士郎
年齢:21歳
身長:187cm
体重:78kg
趣味:特になし
特技:家事全般、ガラクタいじり
職業:用務員
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