ネギ補佐生徒 第3話




 ――――俺は、ただの学生。

 そう言い聞かせながら、女子寮へと足を運ぶ澤村。
 魔法という存在。そして自分が魔法使いの資質を持っているということ。
 昨夜のように心を躍らせるなんてこと、澤村の中にはもうなかった。
 知ってしまったという後悔だけ。

 なんであんなものを見てしまったのだろう。
 なんで学園長に聞いてしまったのだろう。

 学園長の言葉を聞いてから、澤村自身にもわからない恐怖が付き纏っていた。それが、彼に苛立ちを与えている。
 自然と女子寮へと運んでいた足の動きが速くなっていった。
 魔法があったということ自体には、なんら恐怖はない。ただ、自分が関わるとなると、言い知れぬ恐怖が襲うのだ。
 女子寮の階段を音を立てて上がって行く。
 “何か”が魔法だとわかったのに、なぜ恐怖を感じる原因がわからないのだろうか。さまざま考えや感情が澤村を襲う。

 自分の部屋の鍵を取り出し中に入ると、澤村はすぐさまベットに身体を投げ出した。
 枕に顔を押し当てて、高ぶってしまった感情を抑えるために、ゆっくりと深呼吸をした。
 正常、とまではいかないが少しだけ落ち着きを取り戻せた。
 澤村は、溜息を漏らしながらも身体をごろりと転がして仰向けになる。二人部屋用のベットなので、澤村の視界には2段ベットの裏側のベニア板が入ってくる。
 本当ならこのベットの上には、2年間の連れ添ったルームメイトが、いびきをたてながら寝ているはずだ。
 そう思うと、急に澤村の心に寂しさが襲ってきた。
 一人で暮らすには、この部屋は広すぎる。来た当初、快適だと思ったのは間違いだったと澤村は自分に苦笑した。
 きっとこんな自分をみたら、ルームメイトは腹を抱えて笑い転げるだろう。
 そんな事を思い浮かべたせいか、澤村の頭から少しづつ魔法という単語が薄れて行った。

 ゆっくりと、異世界から現実世界へと思考が切り替わって行く。
 澤村が自室に戻り、一体どのくらいの時がたったのだろうか。澤村の頭の中から魔法という言葉が消えたとき、既に辺りは暗くなっていた。
 ようやく身体を動かす気になれた澤村は身体を起こして亜子から貰っていた肉じゃがをレンジで温めたところであることに気がついた。

「やべ、ご飯炊いてない」

 朝食もパンで済ましていたので、朝の残りなんてものはない。
 幸い、肉じゃがの量は結構多かったので朝まではなんとか我慢できそうだった。
 肉じゃがの味は、文句なしにおいしかった。白いご飯がないことを悔やみながらも澤村はそれを淡々と口に運ぶ。
 肉じゃがだけという夕飯は、すぐに終わってしまう。器を洗って亜子に届けようと自分の寮から出た。
 ついでに挨拶回りも済ましておこう。
 亜子の言葉を素直に皆が聞き入れたことを願いながらも目的地へと足を運んだ。





  ネギ補佐生徒 第3話 疑念





「ありがとな。肉じゃが、うまかった」

 器と汗を拭いたタオルを渡しながら澤村は、亜子に言った。彼女は、お粗末さまでしたとにっこりと笑ってそれを受け取る。
 相変わらずまき絵は、澤村と亜子の関係を誤解しているらしく、部屋の奥から頭だけひょっこりと出して玄関で話している二人の様子を覗っている。
 亜子は、まき絵に背を向けているので気がついていないが、澤村から見ればまき絵の姿はしっかりみえている。
 明日の部活のことを話しながらもついつい視線がそちらにいってしまう。
 澤村と目が合うと、まき絵はすぐに頭をひっこめるが、しばらくするとすぐにまた頭を出してこちらの様子を見ている。
 亜子から見たら、澤村の目が泳いでいる様に見えるのだろう。亜子は、

「どないしたん?」

 と澤村に首を傾げて聞いてきた。
 澤村は片手を頭の後ろに添える。きっとまき絵は、自分が完璧に隠れることができていると思っているのだろう。澤村がまき絵を見ないからと、澤村と亜子に視線をずっと向けている。
 あまりの真剣さに、正直にばれてることを言うのが阻まれるほどだ。
 澤村は結局、そのまま乾いた笑みでなんでもないと答える。
 そのまままき絵のことは置いといて、部活の話も一段落し他のところを回るよと振りかえり、澤村が去ろうとしたときだった。

「みんな見てや、コレー」

 澤村が手にかけていたドアノブの扉の向こうから間延びした声が聞こえてきたのだ。
 ドアノブから手を離し、亜子と顔を見合わせようとしたが、亜子は既に足に靴を引っ掛けて玄関におりていた。
 澤村が驚く間もなくドアを開いて外へでていく。まき絵もすぐにその後に続いていた。
 慌てて澤村もまき絵達の後を追う。
 廊下には、6、7人ほどの女子が集まっており、学園長の孫である木乃香を囲んでいた。
 集まりの外にネギの姿が見えた。学園長の言葉が脳裏に蘇る。
 思わず澤村は顔を顰めてネギから視線を逸らして、逃げる様に女子の集まりに入っていった。

「あ、澤村君、やっほー」

 それにいち早く気がついた裕奈が澤村に近寄ってきた。

「こんばんは、明石さん。近衛さん、どうかしたの?」

 中心にいる木乃香の姿は見えるのだが、皆彼女の手元を見ているようで澤村からは何も見えない。
 裕奈は、

「ああ、ネギ先生のペットがね」

 そういって澤村に場所を譲ってくれた。
 ようやく澤村にも何なのかがわかった。フェレットのような生き物が木乃香の手に乗っていたのだ。
 可愛いと周りの女子が口するように澤村も思ったのだが、気になることが一つあった。
 何故か女子にこねくりまわされている白いフェレットはどこか嬉しそうに見えたのだ。フェレットだから表情なんてないのだが、澤村の目にはそう写った。
 羨ましいというのもあったので、フェレットの鼻をぐりぐりと人差し指で押してやった。
 いやいやと澤村の人差し指から逃れようとするフェレットの姿に満足した澤村は、すぐに女子の集まりから抜けた。
 すると、

「あ、澤村さん。こんばんは」
「――――っ!」

 目の前にネギがいた。
 澤村の身体がびくりと跳ねる。ネギは首を傾げた。
 自分を見る澤村の目が怯えていたからだ。ネギから一歩ずつゆっくりと離れて行く澤村。
 本当は走り出したかった。けれど、足が震えて動かない。
 思い出してしまう。あのイヤな感じを。だから離れたいと。

「どうかしたんですか?」

 それでもネギは彼に近づく。一時的とは言え、彼もネギの生徒だ。様子がおかしかったら心配になるのは当然。
 結局その行動は、澤村を追い詰めるだけなのだが。
 澤村は、震える足にムチを打ったかのように走り出した。
 子供とはいえ、昨夜のように戦ったりするのだ。エヴァンジェリンのように冷たいオーラはなかったが、もしかしたら逆にそんなネギの方が残酷な性格をしているのかもしれない。魔法に対する恐怖が、彼を臆病させていた。
 廊下の角を曲がり、澤村は足を止める。全身から汗ふきでていた。

「くそっ……」

 これじゃあ、どっちが子供だかわかったもんじゃない。こんなあからさまな態度をとってしまったらネギに自分のことを知られてしまう。自分が魔法という存在を知っているということを。
 そうなったら、きっと魔法の世界へ引きこまれる。それだけは嫌だ。
 両手を膝について荒い息をつきながらも澤村はできるだけ冷静になって考えた。
 ネギを見ても動揺するなと。学園長から何も聞かなかったと。魔法も存在しない。ネギも学園長も魔法使いではないと、自分が魔法使いの資質があるということをそして、

 ――――そして、君の両親も魔法使いじゃった。

「違うっ!!」

 魔法使いなんかじゃない。自分の両親は、普通の夫婦だった。澤村は、自分の両親を思い浮かべようとした。
 魔法使いではない、普通の夫婦を思い浮かべようとした。だが、

「――――え」

 はっきりと出てこない。両親の記憶が。6年前の記憶が。
 血の気が引いて、顔が青ざめる。
 澤村は、自分が今立っている場所が急に脆くなった気がした。
 なぜ今まで気がつかなかったのだろうか。自分の過去が曖昧なことを。

「嘘だろ……」

 がくりと膝をつく。
 薄っすらとしか出てこない。イギリスの小さな村に住んでいたことくらいしか、6年前の記憶がない。
 両親の顔だっていくら6年たったからといって、まったく覚えていないなんておかしい。

「そうだ、アルバム……っ」

 縋る思いで自室に戻る。この時すでに挨拶周りのことなど、澤村の頭からは消え去っていた。
 ネギたちは部屋に戻ったらしく、廊下には誰もいない。
 そんな廊下を走り抜ける。
 扉を荒々しく開けて、棚を漁る。自分の両親が魔法使いではないという証拠がどうしても欲しかった。 
 しかし、アルバムは見つからない。
 そうだ、きっとクラスメートたちがどうせすぐに戻るだろうとアルバムなんて運んでいないのだ。
 急いで制服のポケットから携帯を取り出してルームメイトに立ったまま電話をかける。

「アルバム?」
「ああ、ないか? 俺の小さい頃のアルバム!」

 切羽詰っている澤村の声にルームメイトは首を傾げながらも一冊のアルバムを取り出した。中を開くと、学園長と写っている小さい頃の澤村の姿。それは、初等部と自分の知っている中等部のものしかない。

「小さい頃って、初等部のか? 学園長と写ってるのが一番はじめみたいだぞ」

 ルームメイトの言葉が、まるで宣告のようだった。
 震える声でルームメイトに礼を言って、携帯を切る。力なくだらり手を下ろすと、携帯は澤村の手の中から零れ落ちた。

「なんでだよぉ……っ」

 頭を抱えてしゃがみ込む。なんで覚えてないんだ。なんで両親の写真を1枚も持っていないんだ。
 澤村は、幼い子供のようにそのまましばらく泣崩れていた。





 泣き過ぎで痛む頭を抱えて女子中等部へ登校する。
 あのまま泣き疲れて眠ってしまった澤村は、最悪の目覚めだった。シャワーを浴びたおかげか、それは少しだけ緩和されていたが。

 結局、自分の両親がどういう人物なのか思い出そうと思っても、まったくでてこなかった。

 溜息を漏らして澤村は隣を見る。
 相変わらず隣の金髪の幼女はいない。このまま1週間、彼女が自分の隣にいないことを祈りながら視線を前へと戻す。
 ネギは何時も通りにクラスの生徒にからかわれながらも授業を進めていた。昨日のように落ち込んだ様子がみられないところを見ると、悩みが解消されたように見られた。
 本当に自分は、このクラスにとって学園長の言うと通り魔法に興味を抱くようにと仕組まれただけの存在なのだと再確認させられる。
 ネギの様子をメモする紙なんて、もう用意すらしていない。
 だいたい、こんな平和な世の中に魔法使いとかいう存在は必要なのだろうか。
 それともこんな平和な世の中は、魔法使い達が守っているから成り立っているのか。そうなると、あの夜の戦闘はどちらかが悪い者ということになる。

 学園長は、澤村の隣の席である金髪の幼女を吸血鬼だと言っていた。ということは、彼女が悪者なのだろうか。
 なら、ネギはいい魔法使いということになる。
 ネギに怯えて逃げた自分がなんだか恥ずかしくなってきた。
 いい魔法使いに怯えるなんて。
 それでも魔法使いという存在が近くにいることが怖いのは確かで、自分が魔法の世界に引きこまれるのが嫌だった。
 そう思うのは、澤村のただの予感であったが、嫌な予感のほとんどが今は的中している。

 そんな事を考えていると、昨夜のことを忘れることができた。気にならないわけがないのだが、いろんな言葉で自分に言い聞かせたり、言い訳してみればなんとかなる。
  小さい頃のことだから、覚えていないのだ。仮令両親のことを覚えていなくても、それが魔法使いだったという証拠にはならない。6年前のことだって、イギリ スの小さな村に住んでいたことを覚えているのだから、まったく覚えていないというわけじゃない。大丈夫。きっと大丈夫。印象に残らないほど、普通の暮らし を送っていたんだと思えばいい。

「澤村さん?」

 自分を呼ぶ声にいつのまにか下を向いていた顔を上げると、

「うわっ!?」

 ネギの顔が視界いっぱいに広がっていた。
 昨夜のように怯えからではなく、純粋に驚いて澤村は上半身を逸らした。
 バランスが崩れる。

「――――え?」

 気がついた時にはもう遅かった。ひっくり返る椅子と澤村。
 大きな音を立てて、澤村は椅子と共に床へと重力に引っ張られていった。





「盛大にこけたわね」

 知らない人の声が聞こえてくる。
 視線をあげると、ウェーブのかかった長い髪の女子。そして後ろには、ショートの黒い髪の女子、二つに結っていて下の方が三つ編みになっている女子の二人がいた。

「どう? 女子寮は」

  思わぬ話題だった。驚いて、思わず妙に声が弾んでいる長い髪の女子、柿崎美砂を見上げた。席に座っている澤村を立っているため見下ろす形となっている美砂 の表情は、なんだか以前亜子の料理の感想を聞いてきた裕奈のそれと似ていると思ったのは、澤村の勘違いではないだろう。

「いや、特に何も……」

 ない、と言いきる前に、

「澤村君、今フォワードやってるでしょ!?」

 また新たな話題を振ったのは、椎名桜子。裾が三つ編みの女子だ。3人組の中で一番明るいように思える。
 桜子の言葉に澤村は頷くと、やっぱりと興味津々といった感じで桜子は、澤村を見た。

「私たちチア部だから、たまにサッカー部の試合も応援にいってたから、君のこともなんとなく知ってたんだよねー」

 美砂もそれに便乗してうんうんと頷きはじめた。
 どう答えればいいのか澤村にはわからない。こう女子に囲まれて会話するなんてこと今までの人生で一度もないのだからしょうがないだろう。
 しかも話題がころころと変わって行くのだから尚更だ。女子はおしゃべりが好きだというが、これほどとは。
 困惑気味な澤村の表情に気がついたショートの女子、釘宮 円がハスキーっぽい声で二人を止めた。

「ほらほら、澤村君、困ってるからその辺にしときな」

 ほっとした表情で澤村は円を見る。円は苦笑を澤村に見せることで謝罪する。きっと彼女は、ストッパー役なんだろうなと思った。男子中等部での澤村の役割でもある。
 しかし、さすが女子中等部3−A。ただじゃ終わらない。

「それより澤村君、女子寮到着早々に下着泥棒したって本当かな」
「――――――はい?」

 今、なんと?
 なんだか嫌な言葉を貰った気がすると澤村はもう一度利き返した。

「なんでも、まき絵の下着を盗んで、いいんちょと逃亡劇を繰り広げたとか」

 なぜここまで情報が正確なのだろうか。澤村の額に冷や汗が流れる。
 おかしい。亜子が弁解をしてくれたはずだ。

「えと……和泉から聞かなかった?」

 引き攣った顔でそう聞くと円は頷いたが、

「でも、いいんちょの話じゃ、君、下着を握り締めて逃げてたんでしょ?」
「うっ……」

 確かに握り締めていた。
 しょうがないじゃないか、衝動的に逃げてしまったのだから。なんて言い訳も言えるわけがない。
 円が自分に送る視線がとても非難的なのが痛い。
 美砂と桜子も円の言葉で少々疑惑めいた視線を澤村に向けている。
 とはいっても、二人の場合はふざけているのだが。鋭い目のせいか、澤村は何事にも動じないクールな人間に思われることがある。二人はそう見ていたのだろう。
 そんな彼が、自分たちの言葉で動揺している。ネギとは違った面白さがあるのだろう。

「もしかして、そういうの目当てでネギ君の補佐を引きうけた……とか」
「違うって!」

 六つの目が澤村を射ぬく。別にやましいことはないのだが、澤村の表情に焦りが表れる。
 否定しても聞き入れてくれない。そんな事実がなんとなく悲しかった。
 確かに澤村は、あまりいい第一印象をもらえないが、そういった下心のある男と思われることは、まったくなかったのだ。
 だが、チア部の3人は、澤村を俗に言う『むっつりスケベ』と認識してしまったのだろう。疑いの目は強まって行くばかりである。

 澤村は、なんだか自分が情けなくなってきた。

 だいたい好きでここにきたわけではないのに、なんでそう思われなければいけないのだろうか。
 いや、それよりも今は、この状況を改善してくれる人物を探さなくては。
 亜子かまき絵、もしくは裕奈、鳴滝姉妹でもいい。辺りを見まわす。だが、それらしい人物は一人もいない。
状況は最悪だった。
 円が澤村に何か言おうと口を開く。ああ、きっと何か酷いことを言われるんだろうな、と澤村は覚悟した。
 けれども、

  キーンコーンカーンコーン

 4人の耳にチャイムが鳴り響いた。
 慌てて3人は自分たちの席に戻っていく。澤村はそんな3人の背中を見送りながら、机に上半身を預けた。

「俺は無実だっての……」

 その小さな呟きはまだ鳴り響いているチャイムにかき消される。
 チャイムが鳴り止む頃、慌てて入ってくる亜子とまき絵、裕奈、そして鳴滝姉妹をそれぞれジト目で睨んでも自分の誤解が晴れるわけではないのだが、澤村はせめてそれくらいする権利はあると思いたかった。
 そんな澤村の視界に、一匹のフェレットが入ってきた。
 驚いて声をだそうとしたが、教師が入ってきたので慌てて口を押さえることで声を引っ込めた。
 起立、礼という号令にしたがって動き、着席するとフェレットと目が合う。
 ……なぜかニヤリ、とされた気がしたのは自分の気のせいだろうか。
 澤村は、フェレットを睨んだ。びくりとフェレットの身体が震える。元から目つきの鋭い澤村が睨んだのだから当然の反応だろう。
 フェレットを疑心の目で見つめる。動物のわりには、妙に表情が人間のようだった。というか、2本足で立っている。
 魔法使いのネギのペットなのだから、普通じゃないのかもしれない。
 そう思った途端、目の前のフェレットに対する嫌悪感がふつふつと沸きあがってきた。
 フェレットの首根っこをつまみ、そっと机からおろす。
 ようやく机の上からフェレットが消えて安堵した澤村は、ふぅと溜息をついて黒板に視線を向けた。
 これから後1週間、何事もないまま男子中等部に戻れることを願って。

 ―――――とは言っても。

 ちらりと澤村の目が動く。授業に集中する気なんてまったくなかった。
 右斜め前にいるこのロボがどうしても気になる。
 魔法とは全く関係ないせいだろうか。澤村の好奇心は、ロボに向いた。魔法があるならこのロボだってそういうコスプレとかではなく本物だと思ってもいいのではないのだろうか。

 試験運転で導入中とか?

 それならクラスメートたちが普通に接している理由もわかる。
 カリカリと授業のことではなく、目の前のロボの考察を書いていく。なんだか楽しくなってきてしまった。気がまぎれるし、基本的に考えることは嫌いじゃない。
 そしてこのクラスは、失礼な話だが変人が多い。ハーフの自分が言うのも難だが、留学生だってごろごろいる。というかいすぎだ。
 ネギが先生だからこそ、このメンツなのかもしれない、と澤村はクラス全体を眺めた。
 寝ていたり、遊んでいたり、小声でおしゃべりしていたり……男子中等部さほど変わらない風景で少しだけ澤村は、拍子抜けした。
 もしかして、自分が偏見で彼女達を見ていただけなのだろうか。それとも自分が異常者なのだろうか。いや、ロボがいるのだからそうではないだろう。
 もう一度、ゆっくりとクラス全体を見る。外国人や幼女、大人すぎる女子、ロボがいること以外は、自分のクラスとなんらかわらない光景。

 おかしいのは、外見だけなのだろうか。

 澤村の眉間にしわが寄っていく。混乱してきたのだ。このクラスが普通なのか、異常なのか。
 両肘を机について頭を抱える。普通なのか異常なのか悩んでいる時点で、彼はもうこのクラスに染められつつあるに気がついていないのだ。
 結局そのまま、授業の終わりを知らせるチャイムが鳴るまで澤村は頭を抱え続けていた。

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