ネギ補佐生徒 第42話





 部屋に篭ったのは、学校で自分が襲われることにより3−Aの生徒を巻き込んでしまうと恐れたから。
 そして、自分に余裕を作りたかったから。
 とにかくこの状況を整理したい。
 夕方に訪れた学園長……澤村翔騎の現・育て親である近衛近右衛門の話。
 それは、澤村にとっては予想していたことでもあり……あってほしくないと思っていたことであった。

 もう一人の自分の存在。

 考えた。
 考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて。
 考えた。

 考え着いた真偽は、わからないというだけだった。
 自分が偽者なのか本物なのか、わからない。絶対的な根拠を自分は持っているような気がするのに、わからなかった。
 近右衛門は、自分が澤村翔騎だと信じていると言ってくれた。

 けれど、信じられなかった。

 かといって自分が偽者だと思っているわけでもない。
 本当にただわからない。
 ちょっとしたことで天秤のように傾くほどの不安定さである。

 ――――――ただ、結論は出ている。

 たとえ、本物でも、
 たとえ、偽者でも、
 たとえ、恐怖しても、
 たとえ、傷ついても、
 たとえ、迷っても、

 他の誰のためでもない、自分のためだけに決断した、身勝手な想い。
 それでも決めたのだ。

 自分に正直に生きようと。
 泣いても笑っても、惨めでも格好良くても、なんでもいいと。
 自分で決めるのならば、何も無い細い道より何かがたくさん詰まった大きい道に行こうと。

 前に進むだけ。

 故に澤村は、決断した。


    澤 村 翔 騎 は 、


        魔 法 使 い と し て 、


            こ の 踏 み し め て い る 境 界 線 を 越 え る 、 と 。







  ネギ補佐生徒 第42話 前進する想いと





「そんなこと……」

 重く冷たい沈黙を破ったのは彼を嫌いなネギだった。

「そんなこと、あるはずないじゃないですかっ!!」

 静まり返っていた部屋に今にも椅子から立ち上がりそうなネギの声が響く。
 それが合図だったかのように、明日菜達もネギの意見に賛同した。

 自分達の知る澤村翔騎こそが、本物の澤村翔騎だと。

 しかしエヴァンジェリンは、にやりと口を歪めたまま皆を見回すだけだった。茶々丸はいつものように静観している。
 沈黙が訪れる前に、ネギは言葉を放つ。

「僕は、澤村さんのことが確かに嫌いです。嫌いですけど……彼が悪い人だなんて思ったことは、ありません」

 このネギの発言には、皆が耳を疑った。ただ、茶々丸は微動だにせずにいて、エヴァンジェリンは笑ってすらいた。カモも苦い笑みを浮かべて彼を見るのみ。
 生徒好きの彼が、澤村翔騎という生徒を嫌いだと言ったのだ。皆がネギを見つめる。

「ちょ、ちょっとネギ。あんた、翔騎君が嫌いって……」

 明日菜の言葉にネギは彼女を見て一瞬だけ目を見開いたが、すぐにこう言った。

「僕は、彼が嫌いです。教師としてではなく、僕自身……ネギ・スプリングフィールドとして」

 ……ネギにしては、ひどく冷たい声だった。
 澤村を嫌いというネギの顔に普段の穏やかなものはない。無表情ともとれるし冷たい表情ともいえる。ただわかるのは、普段の明日菜達が知る彼と少し違うということだけだった。

「でも僕は、澤村さんを偽者だなんて思っていません。思う必要もありません。本物は、僕の知る澤村翔騎さん、ただ一人です」

 ―――――彼は、悪い人ではありませんから。
 そう言うネギの表情は、普段の彼のものだった。
 そしてそれを聞いたエヴァンジェリンは、

「ぼーやらしいな。……その言葉、忘れるなよ?」

 とまた口を歪めた。





 本物か偽者かどちらにせよ、自分はもうここに長い間いることはないのだ。
 魔法界がヘルマンのことでごたついているかもしれないが、魔法学校の方はいつでも受け入れてくれると、学園長は去り際に言ってくれた。
 なら、自分が本物でこの一件が済めばすぐにでも自分はここから去って魔法学校へ行こうと思った。夏の大会は、諦める。自分の進む道が決まった以上、ここでサッカーをしている暇はない。

 そしてもし、自分が偽者なら――――――。

 とにかく、どちらにせよ澤村には時間がなかった。
 お別れの言葉……なんてことをクラスの皆に言えないが、それでも約束は果たしたい。
 本当に小さな小さな二つの約束だけど、果たしたいと思う。それ以外にもやることがあったのだが、それはもう自分の部屋で済ましてしまった。
 とりあえずまずは、約束の一つ目だ。
 澤村はそこに立ち、インターホンを鳴らした。

「はーい!」

 元気な声。
 一日だけのことなのになんだか、すごく懐かしく感じられた。
 扉が開く。その向こうに現れたのは……明石裕奈だった。

「あれ、澤村君!? 風邪は!?」
「完全復活した」

 ニカリと笑ってそういうと、裕奈はそっかそっかと笑ってくれた。

「それで完全復活を果たした澤村君が、手にビニール袋なんかさげてなんの御用かにゃ〜?」

 ちょっとニヤついている裕奈はそう言いながらも澤村を部屋にあげる。男としてみていないのか、それとも友達として信頼してくれているのかは不明だ。ちょっとねと言いながらも奥へ行くと、ベッドに腰を下ろしているアキラの姿があった。

「大河内さんに用があってさ」

 あやかの招待で海に行って以来、彼女ともあまり会話していなかった。意図的に距離をとっていたのだ。
 彼女達に魔法関連のことで巻き込むのは嫌だった。昨夜の一件で自分が狙われているのがわかった以上、彼女達の関わるのはこれで最後となるだろう。

「……用って?」

 少し強張った声が帰ってきた。キッチンへと姿を消す裕奈に促されたが腰を下ろさずにそのまま澤村は答える。

「何か奢るって言ってから、何もしてないの思い出してさ」

 がさりと音を立てながらビニール袋を見せる。ビニールついていた雫がぽたりと落ちた。
 首を傾げてしばらくアキラの動きが止まる。
 時間が惜しい。
 澤村は小さく苦笑しながらも、

「ほら、下着ドロの話のとき」

 そう言う。
 ああ、と言うアキラの声が聞こえてきた。

「そんなこと、あったね」

 ありましたとも。
 そんな風に心の中で頷いていると、裕奈がキッチンの方からやってきた。
 手には麦茶の入ったコップが三つとお菓子が盛ってある皿を乗せたお盆。まだ座ってなかったのと言われて腰を下ろすが、長居する気はなかったので少し困る。

「なになに、なんの話?」

 下着ドロの話、とアキラが答えてくれたのはいいが、当事者としては少し複雑であった。しかも下着ドロの話と言ってしまうと、下着ドロについて話しているみたいで……なんとも言い難い気持ちが湧き起こる。
 首を傾げる裕奈に軽く補足を澤村が加えると、すぐに彼女は納得してくれた。

「それでビニール袋持ってたってわけか」

 裕奈の言葉に小さく頷く。
 澤村は、ビニール袋の中から缶を二つ取り出す。一つはアキラので、もう一つは裕奈のだ。アキラにだけあげて裕奈にあげないのは少し気が引けた。

「え、私も? ありがとー!」
「ありがとう……」

 よろこんで受け取る裕奈と小さく礼をいってくるアキラ。二人ともらしい反応である。
 それを見てニカリと澤村は笑うと、麦茶を一気に飲み干して立ち上がる。

「あれ、もう行っちゃうの?」

 裕奈が、残念そうに言う。修学旅行でも同じようなやり取りがあったな、なんて笑みが零れた。
 アキラも少し訝しげな表情をしている。
 澤村は、ニカリともう一度笑って見せて、

「もう一人、奢んなきゃいけない大事な友達がいるんだ」

 と、言ってみせた。





 扉を開けると、今日会うことのなかった友達の姿があった。
 服装は、黒のタンクトップに紺の半袖Yシャツで下はダメージのジーンズ。ほんの少しだけオシャレである。

「さ、澤村君……?」
「こんばんは」

 辺りはすっかり暗くなっていたので、その挨拶はあっているはずなのに妙な違和感があった。いつもはこんな時間に会わないからだろうか。
 和泉亜子は、ビニール袋を片手に微笑する澤村翔騎を見て、目を真ん丸にしていた。

「先に言っとくけど、風邪は治ったから」

 苦笑して言ってくる彼に、はぁ、と気抜けした返事を一度したものの、すぐに亜子は声を発した。

「あ、あかんて! 風邪は治った思うた後が大事なんよっ?」
「わかってるって。だから用事を済ませたら、すぐ帰って寝るから」

 そう言ってビニール袋ごと手渡される。
 意味がわからない。亜子は首を傾げて澤村を見た。
 ニカリと笑って澤村は、

「肉じゃがのお礼。遅くなったけど」

 と言ってきた。
 ああ、確かにそんなこともあった。
 彼が来たばかりのときの話だ。ほんの一ヶ月ほど前の話なのに、随分前のように感じられるのは、自分だけだろうかと亜子は頭の隅で思った。

「缶ジュースだけど、お勧めの炭酸買ってきた」

 それじゃ、と言って澤村はくるりと振りかえ……る前に、亜子の後ろへと視線を送り、

「佐々木さんの分もあるから」

 と笑って去って行った。

「バレてたかー」

 頭を掻いて照れ笑いを浮かべるまき絵の声を聞きながらも、亜子はバタンと閉められた扉をぼうっと見つめ、

「―――――っ!!」

 まき絵の驚きが含まれた自分の名を呼ぶ声とどさりという投げ捨てたビニール袋が落ちる音を背に受けて、亜子は衝動的に走り出す。
 廊下に出て、澤村の背を追った。
 何故そんな行動に出たのかはわからない。わからないけれど、何か。

 何か、彼に言ってあげなくてはいけないと思ったのだ。

「い、和泉っ?」

 戸惑いと驚きを含んだ澤村の声。
 亜子は振り返ってくれたことに感謝しながらも彼を見た。

「どうした?」

 心配そうに聞いてくる澤村に、亜子は躊躇いながらも彼の服の裾を掴んだ。
 何か。
 何かないのだろうか。
 顔を上げることすらできない自分が、情けなく思えた。
 彼に、何か言わなくてはいけないのに!
 何か。何か!

「――――和泉」

 穏やかな音色が耳に響いた。
 それでようやく、顔を上げることができる。

 ―――――穏やかな彼の笑顔に、泣きそうになった。

「大丈夫」

 穏やかな笑う彼が儚くて、

「大丈夫だから」

 自分の手をそっと握る彼の手が温かく、逞しかったから。

 ―――――嗚呼、彼は自分の憧れる主人公ヒーローだ。

 それが嬉しかった。

「ありがとう」

 お礼を言うのは自分なのに、先に言われてしまった。
 今自分は、どんな表情をしているのだろう。澤村は、小さく肩を竦めて笑って見せると、そのまま別れの言葉を告げて去ろうと踵を返した。
 離れる背中。
 何かが、お腹の奥底から湧き起こってきた。

「澤村君っ!!」

 廊下に、声が響く。
 わんわんと自分の声が響く廊下に歩いていた澤村は、鋭い目を丸くして顔だけ振り返った。

「あの……そのっ、ウチ……っ!」

 足音がこちらを向いた。
 澤村が首を傾げている。
 言え、言うんだ!
 なんでもいい。
 自分が彼の友達なら、言わないといけないはずなのだ。

「ま、またなっ……!」

 ―――――ほんの一言しか言えなかった。
 もっとたくさん言うことがあったはずなのだが、どうにも形にできなくて……結局こんな一言しか言えなかった。
 でも澤村は、

「――――……ああ、またな」

 自分とは違うイントネーションで同じ言葉を、笑顔で返してくれた。





 彼の姿を見たのは、たまたまだった。
 本当にたまたま。別に今日休んだからどうしたのだろうなんて想いは全くなく、何かジュースでも買いに行くかと廊下に出ただけである。
 女子寮の構造は少しだけ特殊であり、中が筒抜けな状態になっている。
 廊下の手すりから覗いてみれば、ロビーが見えるのだ。

 長谷川千雨にとっては、少し不愉快というか難儀なものなのだが、反対側の廊下が見えるようになっている。これは、女子寮に住む者達とのふれあいを増やすためなどというのを聞いた覚えがあった。

 千雨側の廊下には、誰もいない。いるのは反対側の廊下だ。
 澤村と亜子がぽつ、ぽつ、と廊下に立っている。まるでドラマのワンシーンのように、澤村は亜子に背を向けて歩いており、亜子は澤村の背をじっと見つめたまま動かない。

 千雨は眉間に皺を寄せる。

 2人の雰囲気がなんだかおかしい気がした。
 特におかしいのが、澤村。
 いつもとは違う、精悍な顔付きで気持ち悪いほど落ちついた表情をしている。

 多少おかしな点があれど、彼自身はそれなりに常識のある人間だと思っていた千雨にとって、“異常”なものに見えてしかたがなかった。

 千雨は無意識に歩き出す。
 すぐ近くに階段があるというのに、反対側の廊下に近い階段に向かって歩く澤村の姿を追う。

 ――――――引き戻さなければ。

 ズンズンと進んでいくと、すぐに階段につく。視界を激しく揺らして澤村の姿を追おうと階段を下りていくが―――――

「……いない」

 ――――そこに、澤村翔騎の姿はなかった。

 閑静な階段があるだけ。
 そして、ようやく自分の行動に気が付く。

「――――は、」

 口が変に釣りあがった。
 誰かの――――それも異常な奴を追いかけるだなんて。しかも引き戻さなければ? いったい何処から何処へ? そもそもあいつの背を追いかける必要がどこにあった?
 数える程度しか話したことのない、最近クラスメイトになった男子にどんな思い入れがあるというのだ。
 ……あんなものを見てしまったからだ。
 反対側にいるあの二人の―――――澤村翔騎を見てしまったからだ。いや、それでも進んでしまった足への言い訳にはならない。
 感情的に、衝動的に動いたというのか。まったくもってらしくない。らしくないとも。
 千雨は、階段の中央で立ち竦んだまま眼鏡を外すと、

「ばっかみてぇ」

 踵を返して下りた階段を上り始めた。





 妙にすっきりとして、温かな心境だった。
 澤村は、歩く。エヴァンジェリンの家へと。
 理由は至極簡単。
 昨日の関係者のほとんどがいなかったからだ。いたのは千鶴と黒髪の少年のみ。
 彼女達がエヴァンジェリンの元へと行ったのはすぐわかった。だから今、向かっている。
 自分だけの問題と言い切りたいところだが、どうやってもネギ達に迷惑をかけるのはわかっていた。
 自分の身は自分で守ると決めたというのに、こういう風に頼ることは情けないのだが、それでも躊躇ってはいられないのだ。自分のプライドなど汚れてもしかたない。歩む道を決めたからには、穢れることを恐れていてはいけない。
 未熟で惨めな自分には、ネギ達の力が必要なのだ。
 魔法使いとなると決めたのだ、そのためには、まずこの問題を一早く解決することが先決。
 優先順位を履き違えてはならない。
 目的地には思ったより早くついた。
 この扉をノックするのも、三度目くらいではないだろうか。思ったより多いような気がする。
 聞きなれた落ち着いた声。
 やはり出迎えたのは茶々丸だった。

「こんばんは、絡繰さん。エヴァンジェリン、いるよね?」

 静かに頷いていくれた茶々丸の後に続いて二階にあがる。
 すると、

「やっぱりここにいたか」

 苦笑して辺りを見回す。
 思った通りの面子が澤村の視界に入ってきた。皆、驚きと戸惑いを含んだ瞳で自分を見ている。

「期待を裏切らずに来てくれるな、貴様は」

 にやりと笑ってエヴァンジェリンが言ってくる。今回も澤村が自分の元へくることを解っていたのだろう。
 しかし、澤村だってエヴァンジェリンの行動は、予想してあった。
 それがどんなに自分の扱いが酷かろうと、殺人を犯した吸血鬼の行動であるからと納得してしまうし納得しなくてはならない。

「俺だってそっちが考えていることは、わかっているつもりだ」

 ほう、とどこか愉しげにエヴァンジェリンは、澤村を見た。

「……越えたか」

 小さな呟きが耳をくすぐった。
 ニカリと笑って見せる。
 ネギ達には、わからないだろう。首を傾げている。それでもいい。
 彼女に伝われば、十分だ。胸糞悪いことは、彼女に任せよう……いや、甘えさせてもらおう。

「役者が揃ったところで、これからのことを言っておこう」

 席はいっぱいいっぱいだったので、澤村は部屋の奥へと歩を進めることなく階段の傍でエヴァンジェリンの話に聞き入った。案内してくれた茶々丸は、主人の隣についている。

「ほとんど正体がバレているもう一人の澤村翔騎は、今日中にでも動きはじめるだろう。恐らくは、今夜だ」

 でなければただの間抜けだ。
 そう言って腕を組むエヴァンジェリンの姿がなんだか少しおかしいが、笑うと大変な目に遭うので堪える。
 彼女の言葉に耳を傾けながらも視線が入れ替わりながら自分に向けられているのを感じた。きっと、いろいろ思うところがあるのだろう。
 ふと視線を散らすと、明日菜と目が合ってしまった。彼女は体をびくりと震わすとすぐさま視線をエヴァンジェリンへと向ける。他の皆も同様……かと思えば、一人だけ違った。

 ネギである。

 自分をしっかりと見つめていた。
 目で、大丈夫ですと言っているかのように視線を外さない。
 嗚呼、らしいななんて思ってしまった。
 こういうところは、尊敬できるし微笑ましい。

「貴様も不意打ちをくらうより、くると解っている方がいいだろう?」

 急に話題を振られる。
 聞き返すと、少し怒られながらも説明してもらえた。

 ようは、わざと狙われるようにするということらしい。
 昨夜戦闘に使われた広場に行き、敵をおびき出す……という内容だ。
 敵にも時間が無い。とにかく狙ってくるだろう。
 彼女らしいことに、結界は既に張ってあるという。

「後は貴様次第だ。どうする?」

 挑発的な口調でそう問われたが、澤村は静かに答えた。

「決着は着ける。それも含めてここに来たんだからな」





 澤村のことを知りたい。
 そのためにネギはここに来た。
 それなのに、ますます彼のことがわからなくなる。
 掴み所がなく、空気でも掴んでいるような空虚な感じが焦燥をかきたてた。
 そんなネギを置いて、澤村は行動にでる。
 エヴァンジェリンの方を向いていた彼は皆の方にもその顔が見えるように動くと、

「これから俺は、皆に迷惑をかけると思う。自分のことだから、自分で済ませたいと思ってるけど……俺には、まだそれができない。だから―――――」

 皆をその強い群青の瞳で見て、

「―――――力を貸して欲しい」

 頭を深々と下げた。

 修学旅行のときと、少し被る。
 ただ……彼の立ち姿とその想いは、大きく違っているような気がして、皆が大きく頷いた。
 もちろん自分も。

 彼の力になりたいと、純粋に思えたから。

「ありがとう」

 苦笑にも近い微笑を浮かべながら澤村は、

「本当は、朝倉さん達には付いて来て欲しくないんだけどな」

 と冗談交じりでそう言った。

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