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第11話 拳の流儀 料理の心④ 投稿者:クローンウィング 投稿日:07/09-23:35 No.2662  

「ハッハッハ! 死ねやぁ!!」
「……派手だねぇ」

言葉とともに建物が一つ、吹き飛んだ。
麻帆良の学校を強襲しにやってきた二つの影。
片方は先ほど、古菲たちを襲撃したアサシン星人ジンギ。

その隣にいる怪人はマキリカではなかった。
恐竜に装甲を貼り付け二足歩行させたようなその外見。
かつて時空戦隊タイムレンジャーに封印された凶悪な犯罪者 『爆弾魔 ジェッカー』

ダークアライアンスの中でも怪人単体の能力が極めて高い、未来からの刺客である。
そのジェッカーの横で両腕を頭の後ろで組み、つまらなそうに呟くジンギ。

「こういう目立つ破壊活動って僕の柄じゃないんだよなぁ」
「何言ってやがる。怪重機使って地球署の連中と派手に戦りあったくせに」

ジェッカーはけたたましく笑いながら、『何か』を右手の掌で遊ばせた。
その時である。

「なんだ! この味は! 作り置きにしても不味すぎる!!」

その言葉とともに数メートル先の飲食店が一つ猛火を噴き炎上した。
だが、店が炎上しても、人影は出てこない。誰一人いないからか、もしくは店内で全員が息絶えてしまったからか。

「へへっ。派手にやってるじゃねぇか。ビンセントの奴」
「どういうことだ! 客はおろか、料理人すらいないとは!! これではせっかく私が解放された意味がない!!」

ジェッカーの呟きに呼応するように現れたのは茶褐色の体を持つ、地球上にいるどの生命体とも合致しない不気味な生き物。
不味い! 不味い! と連呼するからにこの生物は店で食事をしていたらしい。
それに付き添うようにビンセントと呼ばれた生物の後ろから現れる、獣人態のマキリカ。

「人間どもは俺達に恐れをなして閉じこもっちまっているらしい………どうやら一匹もいねぇみてぇだな………」

マキリカの人差し指が目の前にある建物を示す。

「あそこを除いて」

麻帆良学園。


そこは学園中枢にして魔法使いに残された最後の砦。

背後に瓦礫の山を築きあげ。
人々の絶望と美食を求め。

そいつらは悪しき侵攻を、破壊を続ける。その行為の意味はただ一つ。
己の欲望を満たすため。
征服欲、食欲、復讐欲。

そういったくだらないものを満たそうと彼らは進軍する。
彼らを阻む障害はない。もとより外には人っ子一人いない。
故に彼らは我が物顔で街を闊歩する。
だが、下賎な連中が校舎入り口へと来たとき。

そこで進軍する彼らを阻む影があった。
レジスタンスのリーダー・超鈴音と気の使い手たる麻帆良の戦士たち。

超鈴音
桜咲刹那
葛葉刀子
高畑・T・タカミチ

「そこをどけ」
「断る」

マキリカの放つプレッシャーをものともせず、超は頑として言い放つ。
だが、彼らは道を開けなければならなくなる。

爆弾魔ジェッカーの差し出したある物によって。
それは先ほどから彼が、ずっと掌で遊ばせていたものだった。

「いいのか? 俺様の気分一つでこの辺一体が人間ごと吹っ飛ぶぜぇ? もちろん、俺達はボタンを押すと同時に離脱させてもらうがなぁ?」

卑屈に笑いながらジェッカーはその手に持つリモコンを示した。爆弾魔の名が示すとおり、彼は爆破を無上の喜びとする。その彼が指し示すリモコン。スイッチがいくつもあり爆弾魔の手にしっかと握られている。間違いなく起爆スイッチであるそれを、彼は躊躇うことなく押すだろう。

「馬鹿な!……一体いつの間に爆弾など!」
「何のために俺達がヒドラー兵を連れていると思っているんだ?」

ジェッカーの自慢に答えるようにボコボコと地面から湧き出るヒドラー兵。地面が青く染まるその様はB級ホラーを連想させる。

今、体育館には2重の檻の中に捕らわれてしまった。
『無数の爆弾』と『怪物の大群』という檻に。

「とりあえず、全員武器を捨てろ。それから手初めに無力な人質……ガキがいいな。そいつらをありったけ。ここに一列に並べな」

こういう交渉を何回も行っているだけあってジェッカーの判断は素早かった。
続けるようにビンセントが言った。

「それから食事を用意してもらおうか。私は腹が減っている。言っておくが毒を盛ろうとなどと野暮なことを考えるなよ?」
「ふざけるな! 無力な子供を人質にしたうえで食事を要求するだと!!」

あまりに厚顔無恥な要求に戦士の一人、神鳴流の使い手たる葛葉刀子が構え、いきり立つ。
彼女の麗しい顔に深い怒りの線が一本刻まれた。

「いいんだぜぇ? 別に断ってもよぉ? この町に住むゴミどもがどうなってもいいならなぁ?」

両手を広げ、リモコンを見せびらかすジェッカー。
一見隙だらけに見える彼だが、脇にいる2人……マキリカとジンギが完璧なまでに戦士たちを威圧していた。
おそらく、瞬動を使って全員でジェッカーに掴みかかっても彼らに2、3秒は動きを拘束される。そうなったらお終いだ。

「さぁ、とっとと武器を捨てな。じゃねぇと押しちまうぜ? ポチっとよぉ?」
「………全員、武器を捨ててくれ」

超の言葉に神鳴流の戦士、刀子と刹那が悔しそうに顔を歪め、己の太刀を悪漢どもの足元へと放り投げた。
気を己の両拳に集中させていたタカミチは気を霧散させ、両手を挙げる。

「それから、僕達の後ろにいる2人……出てきな」

ジンギが素早く、背後に向かって呼びかける。
長瀬楓と龍宮真名がそれぞれの獲物であるクナイと拳銃を草むらへと放り、両手を上げ、悔しさに顔をゆがめながら投降する。



「万策は………尽きたか」

龍宮が呟く。
その言葉が聞こえているのか、いないのか。
今まで黙っていたマキリカが建物の一角へと絶叫を響かせた。

「さぁ、とっとと出てこいやぁ! ガキどもぉぉ!!」



Side People

麻帆良学園の体育館。
そこに非難できるだけの人々が体を寄せ合うようにその身を固めていた。

「さっさとでてこいやぁ! ガキどもぉぉ!!」

外から聞こえてくる言葉に小さい子供や、女性が泣き出す。
やがて………ドアが開いて一人の少女が現れた。

超だ。
彼女はとある一団の前まで歩くと、驚くほど低い声で言った。

「ネギ坊主。すまない。向こうが子供の人質を欲しがっているんだ。行ってくれるカ?」
「な、超! アンタそれ本気で言ってるの!?」

超が向かったのは自らの属する3-Aの生徒達のいる場所。
その中のアスナの問いに超は首を縦に振った。

「子供といっても向こうは幼児を指定してきている。私たちはアウトなんだ。幼児ギリギリのネギ坊主が外に出てもらって時間を稼いでもらっている間に援軍を待つ」
「………分かりました。行きましょう」
「ネギ!」

止めようとするアスナにネギは笑った。アスナが止めるのも当然。超はネギに「時間稼ぎをするために生贄になってくれ」と頼んでいるのだ。

「大丈夫です。アスナさん。こんな状況だけど、僕、きっとこの戦いに勝てると信じているんです」
「……ネギ」
「凌駕さんやティラノさんを僕は信じています。今は信じて待つことしか出来ないけど………だからこそ、僕に出来る正一杯のことをやりたいんです」

言葉としては無謀としか言いようがなかった。
相手は大群だ。
それをたかだか10人程度で何とかしようなどと夢でしかないだろう。
それでも、ネギは思う。
機関車仮面に殺されかけたとき、自分は偶然でもアバレッドたちに命を救われた。
だったらこの命、自分もまた大切な者を護る為に使いたい。

ネギにとって大切な者とは目の前にいる自分を止めようとするアスナであり、自分に無表情で頼み込む超であり、この建物にいる全ての人々だ。

「待ちな!」

だが、そのネギを止める声が響いた。
ネギたちは声のした方を振り返る。
五月に付き添われて現れたのは、禿頭にはっぴのオヤジ――文左衛門。

「俺が行く」
「おい? 誰だ アレ?」
「あんな人、うちの学区内に住んでいたっけ?」

人々がざわめく。
そして文左衛門の背後から、のそりと現れた『化け物』の姿に人々は絶叫した。

「いやぁぁぁ!」
「怪物だぁぁぁ!!」

人々は恐慌状態に陥る。
絶叫する者。罵倒し、手に持っていた物を投げつける者。嗚咽し、恐怖にむせび泣く者。
顔に生ゴミをぶつけられながらも文左衛門は事態を混乱させた主に言った。

「ワニ公。お前、何で出てきたんだよ」
「ベルベル。このまま迷惑かけるわけにもいかないからねん。何より、彼女の冷たい目で睨み付けられた瞬間、ワニは恋という名の情熱の炎にジャッジメントされたのです」

同じく、顔に生ゴミをぶつけられながらもヤツデンワニは超に向かって手を振った。
当然、無視する超。
文左衛門はヤツデンワニに悪癖があったのを思い出した。
このワニ、女癖が悪いのだ。爬虫類のくせに。
しかも、女性から軽蔑を込めた目で見られるとその女性に惚れてしまう、いわゆる変質チックな性癖の持ち主なのだ。

文左衛門はため息をつきながら、ワニを視界と頭から追い出して、険しい眼差しの人々に釈明を始めた。

「連中が本当に欲しいのは俺達の命。俺達が嘆願すればこの建物の人質の命だけでも保障してくれるはずだ」

はずだ、といっても確証があるわけではない。最悪、自分達もろとも連中は爆破を行うかもしれない。だが、その言葉に『ざわ……』と観衆に波紋が広がった。

「なぜ、お前達がここにいる?」

超は拳銃の狙いを文左衛門に突きつける。
だが、背後から現れた人影が、そっとその銃を下ろさせた。

「五月。君が………」
―信じましょう。彼らを―

五月は超の激白を制し、口を開く。だが、それより先、人々の耳朶を打つ嫌な音が響いた。

『ドゥン! ドゥンドゥン!!』
「な!?」
「嬢ちゃん! 伏せろ!!」

超の、皆の目の前で、その人物がまるでスローモーションのように宙を舞う。鮮血を散らしながら。
どしゃり、と音をたて床に落ちたのはヤツデンワニと文左衛門。

そして、穴だらけのドアの前には。
扉すら貫通させる銃弾を放った男。爆弾魔と3人の怪人……ジンギとマキリカ、そしてビンセントが怒鳴りながら入ってくる。

「へへへ。人質を出すのがおせぇんだよ。このダボがぁ!」
―文…左衛門さん……ヤツデンワニさん?―

五月は震える手で、心優しき怪人達の安否を確かめる。
呼吸はしていた。
幸いにも銃弾が当たったのは急所ではない。致命傷になる部位ではない。
それでも、かなりの量の血が流れてしまっている。
彼らは……文左衛門とヤツデンワニは、自分と超をその身を盾にして守ったのだ。
五月は2人の傷を止血しようと辺りを見回す。
彼女は自らの服の袖を千切り、手早く血を止めようと必死に傷口を縛った。
一方の超は僅かに顔を下に向けているため、表情を読み取ることは出来ない。
だが、拳を震わせているのだ。おのずと怒りか悲しみにその心が支配されていると察することができる。

「……なぜ、私たちを助けた。誰も、助けてくれとはいっていないのに」
「人を助けるのに………理由はいらねぇ。強いて言うなら………俺には嬢ちゃん達を助けられる………力があった。それだけのこと」

文左衛門は超の問いに絶え絶えながらも答えた。
その彼の言葉に、文左衛門とヤツデンワニを敵視していた人々の視線が和らぐ。
だが。

「ヒャハハハ! 馬鹿な奴だ。おとなしく俺達の下で料理番やってたら死なずにすんだのになぁ?」

弱者を見下す笑みを顔に貼り付けながらマキリカが文左衛門達を嘲る。その言葉に、この場にいた人々全ての怒りが凶悪な男達へと矛先を変えた。

「……なぜ、建物の中に入ってきた? こちらは人質を用意するつもりだったのに」
「はぁ? 君たちが遅すぎるんだよ。第一、人質を用意しろとはいったけど、『生かしといてやる』なんて、僕達は一言もいってないよ?」

ジンギの言葉に超はギリ、と歯を噛み締める。
やはり、連中は約束を守る気など最初からなかった。

「だがな、食事を用意すれば助けてやらんこともないぞ? 最も料理を作った者は我が軍の料理人として永遠に働いてもらうがな」

謎の怪生物、ビンセントは自分の腹をさすりながら言った。
彼の腹からは『ぐぎゅるるる』と、腹鳴の音が聞こえている。

それに合わせる様に外からヒドラー兵が屋台を持ってくる。文左衛門の使っていた物だ。
だが、誰も其処に出向いて料理を作ろうとはしない。
そこで作ってしまえば一生厨房に閉じ込められ、死ぬまで料理を作らされ続ける。

しばし、文左衛門の上げるうめき声だけが辺りに響いた。ちなみにワニは撃たれたショックで気絶している。

―やります。だから、皆には手をださないで下さい―

沈黙を破った一人の少女。
四葉五月はそういうと、コック帽を被り、エプロンをつけた。彼女は誰にも反論を言わせず、包丁を振るう。その様を腕を組み、面白そうに眺めるマキリカとジンギ、そしてジェッカー。

その巧みな包丁捌きに『ほぅ』や『むむ』など唸り声を上げるビンセントを横目に五月は料理を完成させた。

―鳥の串焼きです。食べてください―

彼女が差し出された料理を黙って口に運ぶビンセント。
そして………

「……ふん。確かに料理の腕は中々だ。特にこの焼き加減は素晴らしい……だがな!」

ビンセントは料理の載った皿をひっくり返す。
焼き鳥が地面に落下し、彼はそれを踏みつけた。

「なんだこの鳥は! 大方市販の冷凍肉でも使ったのだろう! こんな食材を使うとは貴様もそこの裏切り者の料理人どもも所詮、クズよ!」

五月は動じない。自らの料理を踏みつけられて尚、彼女は冷静だった。

――貴方に他人の料理を批評する資格は無い――
「なに!?」

五月は、ビンセントの足を払いのけ、地面に踏みつけられた焼き鳥の汚れを取ろうと雑巾で拭った。彼女は床を磨きながら言葉を続ける。

―素材にこだわるのは確かに大切です。でも、最高級の料理ばかりを作るのが、本当の料理人ではありません―

冷静ながらも五月は怒っていた。

―大統領専属の料理人や三ツ星レストランのオーナーだけが一流の料理人じゃない。安くて美味しい料理をたくさんの人に食べて欲しいという料理人だって一流だ。料理人にはおいしくつくる腕が必要です。食材を選ぶ目、味を見る舌、臭いを確かめる鼻、僅かな音を聞く耳が必要です。でも……一番重要なのは誰かに美味しく食べて欲しいという『料理の心です』―

背後にコアラのオーラを背負いながら五月は言葉を続ける。

―私は自分が一流だなんて思っていません。まだまだ未熟な私がどんな評価を受けようと言いたい者には言わせておけばいい。
でも、彼らは……文左衛門さんたちは真の料理人だ。私はここに来る途中で彼の夢を聞いた。一人でも多くの人に自分の料理を食べて笑顔になって欲しいと。その為に決して自らの腕で罪無き人を傷つけることはすまいと。そんな彼らを貴方達は哂いながら撃った――

五月は、ビンセントに鋭い目を向けた。怪人は怯む。

―もう一度言います。貴方に料理を語る資格は無い。料理どころか人の心すら分からない貴方達には―
「う、うるさい! 黙れ!!」

宣言した五月をビンセントは殴りつけた。
理由の分からない恐怖に襲われる怪人。
そしてビンセントを押しのけ、背後からマキリカが五月の髪を掴んだ。
彼は顔を持ち上げると低い声でささやく。

「いぃぜぇ。許すも許さないも好きにしろ。どっちにしたって、てめぇら全員生かしておかねぇがなぁ」

その言葉を聞いた超は己を呪った。

(ダークアライアンスが掲げる征服とは名ばかりのもの………彼らは人間を改造し自分たちに従順な僕にし、ただひたすらに破壊の限りを尽くす……それはもう、侵略じゃない!蹂躙であり、殺戮だ!!)

この台詞を言ったのは超自身だというのに………!
文左衛門たちのような例外がいようと連中はやはり外道の集まりだ。

「にしても、本当にこの土地の連中は馬鹿だぜ。外にいる連中なんか『建物を爆破されたくなきゃおとなしくしてろ』っていったら本当に抵抗しねぇでくたばるんだからよぉ」
「せっちゃん! せっちゃんが!?」

再びジェッカーの罵倒が始まる。
黒髪の長い少女が悲鳴を上げた。
少女の名はこのか。外にいる桜咲刹那の親友である。

「嘘だ! 楓姉はとっても強いんだ! お前らなんかに負けるもんか!!」
「そ、そうですぅ!!」

長瀬楓の友人である鳴滝風香と鳴滝史伽が立ち上がる。
それを皮切りに、口々に多くの人々が怪人を罵倒し、戦士たちの無事を叫び続ける。

「そうだよ! 長瀬さんと龍宮さん。2人で青い骸骨の兵隊をいっぱい追い払ってたし!」
「あのデスメガネの高畑がそう簡単にくたばるわけねぇよ!」
「ていうか人質を取って暴行するなんて恥を知れ! 恥を!」
「大体、爆破予告なんて、実は嘘なんじゃないのか!?」
「そうだ! じゃなきゃ、こいつらが建物に入ってこれるわけないし!」

ジェッカーはしばし、その罵倒に聞き入っていたが……。

「うるせぇよ。カスどもが」

低い声で言うと同時、その手に持ったリモコンを押した!

『ガアァァァン!!』

体育館のガラスが軒並み割れ、人々の頭上に降り注ぐ。
爆弾魔はリモコンをしまい込むと、今度は腕に仕込まれた銃を3-Aの生徒たちに向ける。

「今のは一箇所窓を破壊しただけだ。何故、貴様ら全員を爆弾で殺さなかったか分かるか? 俺様を怒らせた罰だ。てめぇら全員地獄の苦しみを合わせてハチの巣にしてやる」

醜悪な笑顔を向け、その銃口を少女たちと、彼女達を庇おうとする子供先生に向ける爆弾魔――
人々は目を閉じた。

誰もが終わりだと、諦める。
そして………無情にも銃声が響いた―――!

「ドゥン! ドドドドゥン!」

放たれる幾多もの弾丸。銃口から煙が吹き出る。
人々はそっと目を開けた。









凶弾は一つとして誰かを傷つけてはいなかった。



後に、その場にいた鳴滝姉妹はこう語る。


――初め、それは巨大な龍の様に見えた。
――龍の顎が、放たれた銃弾を全て飲み込んだように見えた。

――でも、違った。其処にいたのは一人の青年と自分達のクラスメイト。
――料理用の白衣を着た青年。麻帆良学園の制服を身に纏った少女。

「……てめぇら、いつの間に」
「……くそ、ヒドラー兵は何をやっていたんだ」

驚愕するジェッカー。悪態をつくジンギ。

「よくも……」

青年から言葉がもれる。そこに含められた意味は怒り以外のなにものでもなかった。
だが、その青年―亮の脇を抜け……誰より速くその場を動いた者がいた。

「殺してやるぜぇぇぇ!」

マキリカだ。
彼の目に映っているのはただ一人。
視線の先には少女。
古菲。

高層ビルすら両断する獣人の鎌が少女の元へ迫る。
だが、彼女は『死』が迫っても動じない。
ただひたすらに鎌を見つめ続ける。

―ようやっと分かったアル。私が何のために拳を磨いていたのか―

そう、考えてみれば単純なことだったのだ。
自分は今まで強さを求め続けて生きてきた。『つわもの』がいると知ればその場に出向き手合わせを願い。己に鍛錬が足らぬと知った時はがむしゃらに体を鍛え上げた。
だが、それは過程に過ぎなかったのだ。

強さを求める真の意味は『護る』ことにあった。
だが、古き友の憎しみを目の当たりにし、出会ったばかりの友が自己の存在を否定された時、彼女は前後不覚に陥った。迷いが古菲の拳を曇らせたのだ。

疑念が頭をよぎった。護る事は不可能だと。
「……違う!」

不安が少女の心に刺さった。思いは届かないと。
「……違う!」

 ―ならば何故迷うのですか? 

「………私は馬鹿アル。でも、ようやっと『道』を見つけることが出来た」

―ならば進みなさい。あなたが見極めし道を。

「もう迷わない。私は………この道を行く!」

古菲は迫る鎌に合わせて、体を地面すれすれまで反らせる。
リンボーダンスを思い起こさせるその様は非常にゆっくりであるのにもかかわらずマキリカの鎌はかすりもしない。

思いっきり一歩を踏み込み、古菲はがら空きになった胴に肘打ちを打ち込む。
それは八極拳の技の一つ。 

「硬開門!」

気で覆われたその一撃は見事にマキリカを数m先まで吹き飛ばした。
体育館の壁にぶつかり、マキリカは腰を上げながら上ずった声で叫ぶ。

「バ、馬鹿な! てめぇ 何者だ!?」

獣人の声の端に滲み出るのは恐怖。
死人であるマキリカが糧としていた物だ。

「……私の名は古菲。己の拳の在りかたに迷った馬鹿者ダヨ」

少女は友から託された懐中時計を掲げた。
先ほど彼女に疑問符を投げた声はそこから響いてくる。

「そして、私の意志である天時星の……『黄の魂』を継ぐ者ですよ」 
「な……!?」

懐中時計は声を発する。
古菲はロケットの蓋を開いた。

そこには文字盤とともに刻まれた一枚のカード。

『第17代目 スーパー戦隊イエロー キリンレンジャー』

「ば、馬鹿な! 貴様、その戦士の力を得たというのか!?」
「ハッタリだ!! この世界の人間が変身するできるわけがねぇ!!」

驚愕するビンセント。
マキリカは再び起き上がり、断言しながら少女に向けて襲いかかる。
いや、マキリカだけではない。ジンギの拳、ジェッカーの銃弾。
全ての暴力が彼女に迫る。

「言ったはずネ。私は古菲。キリンレンジャーではない。……でも、その力を借り受けし存在だ!」
「行くぜ!」

亮は古菲の隣に立ち、彼女を見る。少女が頷きを返すのを見届けると

「気力転身!」

亮はオーラチェンジャーを起動する。
赤い輝きに包まれた彼が纏うのは赤龍の仮面。

「ハッ!」

古菲は自らの学生服を一瞬で剥ぎ取る。
その下には彼女が普段身につけている胴着。
戦士として目覚めるべく、彼女は自らの気力を最大まで満たす。
彼女の手にある懐中時計。キリンレンジャーの魂を宿したその機械。
それが起動する。








「気力全開! 天時星……時間返し!!」







その瞬間、時が静止する。それだけではない。皆さんもビデオの巻き戻し映像というものをご覧になったことがあると思う。今、麻帆良の人々の前でそれと同じ現象が起きていた。
すなわち、“時間の巻き戻し”である。

ジェッカーのはなった銃弾は主の銃口へと帰り、襲い掛かった怪人たちは再び同じ場所に突っ立っている状態に戻ったのだ。

「な、なんだこれは!?」
「馬鹿な! 俺達は確かに攻撃をしたはずだ!」

怪人たちは戸惑う。
周囲から見ればよく分かるその映像も当の本人達にからすれば何が起きたのかまったく分からない。

「説明してあげましょうか?」

先ほど五月たちが出てきた場所から澄んだ靴音を響かせて白衣を着た一人の少女が現れる。
葉加瀬聡美。
カツン、と床が響き、少女は口を開く。

「確かに特殊スーツを私たちが装着するのは不可能です。専用の変身器具が必要ですし、歴代戦士のスーツのほとんどには本人しか変身できない科学的、あるいは神秘学的なプロテクトがかかりますから。……でも、その力の一端だけでも借り受けることが出来たらどうでしょう?」
「!!」
「………時空航行機『カシオペアVer.2』 魔力を動力とするかわりに気を使い、綿密な機械による調整の換わりに時間を操る戦士の力を宿した、気の使い手の最強の武器ですよ」

怪人たちの肌を恐怖が貫いた。
時間を操る女拳士とかつてスーパー戦隊を率いて戦った赤き戦士の競演。
古菲と亮は……否、今は違う名の戦士二人は己の正義を示すべくその名を名乗った。

初めに名乗るは赤き戦士。
構えるは龍の顎。放つは怒気。例え人数は一人でもその背には在るは五人の魂。

 「リュウレンジャー! 天火星 亮!!」


亮にとって恐れるものはもはや何も無かった。キリンレンジャーだけではない。
亮は自らの背後に数々の多くの気を感じることが出来た。

マキリカとジンギは幻視する。リュウレンジャーの背後にいる碧獅子を、蒼い天馬を、桃色の鳳凰を、そして巨大な玄武と白虎を。

「き、貴様何だ!? その背後の獣どもは!?」

(俺は一人じゃねぇ。この背にみんなの想いを乗せているんだ。もう二度と、この世界の人たちに理不尽な涙は流させちゃいけねぇ!)

そして古菲もまた考える。己の守護星は天時星ではない。
そして、自分はキリンレンジャーではない。
(なら、さしずめ私は武術の星を守護星にもつ黄色い馬鹿者……アルかな?)

ゆるゆると流れるは己の周りの時間。右手に戴くは杯の構え。
古菲とキリンレンジャーは別々の存在である。
にもかかわらず、彼と彼女が同じ構えをしていることが、隣にいる亮に懐かしさと力強さを分け与えた。

「バカイエロー! 天武星 古菲!!」    


亮は己の左手を天に掲げた。本来なら両手を広げて掲げる手を彼はVサインにして出している。その名乗りは普段、彼が行うものとはまったく別のものであった。

「「今日は特別、天に輝く二極星! 双星戦隊 ダイレンジャー!!」」


今ここに、嵐が起きる。
散るは拳。
咲くは血潮。
数千年の時を得て闇と光の存在が、真っ向からぶつかり合う!!






次回予告 ついに反撃を開始したリュウレンジャーと古菲ことバカイエロー。そして五月たちの盾となった文左衛門達の命やいかに?

次回、拳の流儀、料理の心⑤


お楽しみに!!











今回の新規登場


爆弾魔・ジェッカー (時空戦隊 タイムレンジャー)

西暦3000年の未来で数々の爆破事件を起こした犯罪者。ロボットを思わせる重工的なフォルムや体についている重火器で戦う。また、爆破予告をした建物に身代金を要求した後でその建物を必ず爆破するという悪辣な手口を用いる。



美食放火魔・ビンセント (時空戦隊 タイムレンジャー)

ジェッカーと同じく西暦3000年から来た犯罪者。罪状は『食い逃げと放火』 完璧でない料理には金を払うどころか、料理を出した店に放火するというとても迷惑な美食家。ちなみに戦闘能力はかなり低い部類に入る。



(補足説明)時空航行機カシオペアVer.2 

葉加瀬聡美の作ったカシオペアの亜種とでも言うべき発明品。本来なら魔力で起動するカシオペアを気で扱うという代物。ただし、使える能力は『周囲1km以内の時間の巻き戻し(巻き戻す時間は5分以内)』に限定される。
カシオペアVer2とはアーカイブカードの封印を解除できない『五星戦隊ダイレンジャー』の一人、キリンレンジャーの能力を使用する機械。ちなみにカシオペア内のキリンレンジャーには意識がある。
そのため、世界樹に匹敵するほどの魔力と同量の気を使う必要は無く、また本編でハカセが述べている『ナノ秒以下の精密操作と事象予測』も必要としない。
ただし、内部にあるキリンレンジャーがその想いを認めた者にしかその力を貸さないのが唯一の欠点。

麻帆良レンジャーズストライク!!

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