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一章 賀茂葉子と阿部テル 投稿者:mike 投稿日:05/28-21:39 No.629


 真帆良女子寮に程近い広場。
 広場、といっても、何か遊具があるわけでもない、花が植えてあるのでもない、ただベンチがひとつだけ端の方に据え付けられているだけの簡素な空間だ。
 野球やサッカーなどの球技を楽しむには狭すぎるそこは普段、散歩に疲れた老人がちょっと一休みとベンチに腰掛ける、ただそれだけに使われているような場所だった。

 しかも今はまだ朝早い。
 昼に見かける老人たちの姿はなく、代わりに健康志向の男性・女性らがちらほらとジャージ姿でジョギングし、またペットの散歩をする者たちが見受けられた。
 どうやら彼らは毎朝この広場を横切っているらしい。
 ここは住宅地と桜並木の通りの中間辺りにある。今の時期、ジョギングや散歩ついでに桜を見物しに行こうとする人が多いのだろう。
 が、今日ばかりは様子が違った。
 家を出てちょっと桜の中を行こうとする者も、一通り走り終わって自宅に帰ろうとする者も、皆一様に広場の手前で足を止め、そそくさと迂回ルートへ足を向けた。
 
 愛くるしいチワワをつれたこの前クラスの男子に告白されて悩んでますな亜矢ちゃん(小学生・12歳)も、捲くったシャツの袖の下からボディペインティングを覗かせた一週間前にお勤めから帰ってきましたな三郎さん(自主規制・38歳)も、

 広場を避けて・・・、いや広場に佇む少女を避けていた。

 少女は左手に収めた木刀を腰にあて、半身に構えたまま虚空を凝視していた。
 どんなに神経の図太い人間でもそこを通り抜けるには、勇気がいるだろう。
 それだけの殺気を纏って。

 どれくらいそうしていただろう。
 20分か、30分か。
 少女は唐突に、その剣呑な雰囲気をぬぐい去る。


「龍宮か」
「こんな朝早くから何をしに出て行ったかと思ったら、・・・・それも修行か?」
「まあな。・・・・・まさか、そんなことを確認しに来たのか?」
「それこそまさか、さ。学園長から連絡があってな。今から学園長室に来て欲しいそうだ」
「ん。わかった」


 少女はベンチの夕凪に手を掛ける。


「そうそう、刹那。急ぐ必要はないから学校の支度をちゃんとしてから来いとさ」
「悪いな。わざわざ、言伝なんて」
「構わんさ」


 真名は肩をすくめて


「ただ今度からは携帯を忘れないようにしてくれ」






「では賀茂君が転入生として、アブデル殿が臨時教員として3-Aに、じゃな」


 アブデル評して『女子中学校というエデンを守護する神の僕』は言った。


「はい。よろしくお願いします」と賀茂。
「うむ。すでに手回しはしておいた。今日からでも通える。ただし・・・」
「ただし?」
「おぬしらの名前を決めんとの。まさか、本名を名乗るわけにはいかんじゃろ」
「あ、そうですね。それじゃあ、アブデルが『阿部テル』で、僕が・・・」


 賀茂はすこし考えて、


「賀茂・・・・『賀茂葉子』で」
「ふむ。阿部テルと賀茂葉子、じゃな」
「はい。よろしくお願いします」と再び賀茂。
「それでじゃな、紹介しておきたい者がおるんじゃが」


 誰だろう。
 やっぱり、担任の先生かな。


「3-Aの担任の先生ですか?」
「いや。これから君たちの補佐をする人間じゃよ」
「補佐?」
「うむ。そろそろ来るかと思うんじゃが」


 と、部屋の扉がノックされる。


「これだから、小説やマンガは好きなんじゃ」


 学園長は破顔して


「入りなさい」
「失礼します」






一話【 賀茂葉子と阿部テル 】







 転入初日

 の放課後・・・

 暮れなずむ空の色に麻帆良学園女子中等部の校舎が茜に染まる。
 昼はたくさんの生徒たちで賑わう廊下も、それらの姿はまばらになり、いるのは部活や委員会関係の生徒だ
け。
 その校舎の中の一郭に異質な空間があった。
 静寂に包まれた他の教室とは違い、そこはざわざわとたくさんの人の気配がする。


「賀茂葉子さん、阿部先生歓迎会!、アーンド、ネギ先生を元気づけるかーーい!!」


 教室の中心にいるのは、三人。
 皆さんおなじみの子供先生ネギ、おろおろおどおど賀茂葉子こと賀茂是雄、なにやらにんまり顔の新任臨時副担任の阿部テルことアブデル。
 そして紙コップ片手に彼らを囲む3-A一同(エヴァと茶々丸除く)とタカミチ、しずな両名。

 皆思い思いの飲み物で乾杯している。
 歓迎会というだけあって、賀茂とアブデルは生徒達に質問ぜめにされた。曰く、「彼氏はいるのか」「出身はどこか」「部活は決めているのか。良かったらうちの部に入らないか」「その帽子は取らないのか」などなど。その間中、賀茂は自分の正体がバレやしないかとひやひやしていた。

 まさか賀茂が男だと気付く人間がいるわけがないが、耳を見られるわけにはいかないし、賀茂にしてみれば論理的な思考ができる余裕もないのかもしれない。
 それに、アブデルのこともある。アブデルが余計な事を言わないか、お義兄ちゃんと呼ばせようとしたりはしないか、賀茂は気が気でなかった。

 それも杞憂に終わった。
 一通り質問が終わると次第に人はネギ先生の方に流れていく。賀茂はほっと一息ついて、真っ赤に焼けた窓に目を向けた。
 右手のオレンジジュースを一気に呷る。
 窓に映る影も賀茂と同じ動きを繰り返した。ネギ先生を取り囲む生徒達と同じ制服、一房に束ねられたマーブルのような黒と白の髪、そしてそれを隠すように被られたソフトピンクのハンチング帽。
 窓に映った自分の姿。
 それを見て賀茂は眉を曇らせた。






「どうした、賀茂」


 その声に賀茂は我に返ってアブデルを見た。


「なんでもない。ちょっと考え事してた」
「たるんでるぞ。被害者はもう十人を超えているんだ。気を引き締めろ」
「ああ。ごめん」


 分かればいい、とアブデルは再び視線を前方に戻した。
 なんとはなしに賀茂はアブデルの視線を追う。
 薄暗い建物の支柱の錆びついた鉄骨。アルミ製の薄い壁が風にガシガシと揺れる。


「なあアブデル。本当に来るかな」
「無論だ。今回の件の被害者には一様にある特徴がある。体内の魔力が根こそぎ奪い取られていた。それこそ、生きているのが不思議なくらいにな」


 賀茂は頷いた。


「恐らく犯人は、何か他人の魔力を奪い取らなければいけない理由があるのだ。それも大量に」
「だから僕らが囮になれば、奴が現れるだろうって、こんな廃屋で待ってるんだよね」
「魔力が欲しいならば、熾天使たる俺の莫大な魔力に飛びつかないわけがないだろう」
「だけど・・・・アブデルの強すぎる力に恐れをなして、むしろ奴は逃げ出すんじゃないかな」


 しかしアブデルは自信有り気な面持ちで


「大丈夫だ。さっきお前にこの建物の周りに結界を張らせただろう」
「ああ。あれって何なんだ?相手を閉じ込めるタイプの結界は勘の鋭いやつなら、一発で気付かれるから張らないって話だったけど」
「うむ。あれはな、」


 と、紙のような壁が一際大きくうねった。
 屋根の梁から粉塵が舞う。
 急に埃っぽくなった廃屋は一層暗さを増し、同時にベシャリと水っぽい音がする。
 音のした方を見ると、何かが鉄骨の陰でうごめいた。


 ―――来た!!


 アブデルの読みが当たったのだ。
 賀茂は身構えた。
 しかし、その鉄骨の向こうの何かが出てくる気配はない。アブデルの魔力に気付いて躊躇しているのだろうか。
 突然、アブデルが賀茂の前に立った。


「ここは俺に任せろ」
「でもお前、地上じゃ僕を介さないと力を使えないだろ」


 被害者を霊視した限り、事件のたびに被害者の前にはまったく違う犯人が現れる。
 ある時は中年女性であったし、ある時は杖をついた老人であった。また、小学校に上がる前の少年だった時もあれば、猫だった時もあった。
 しかし、これはどうしたことかと思って、さらに突っ込んで『見て』みると、それらが明らかに同じモノであることがわかったのだ。

 人ほどの体積をもった、流動物とも固形物ともとれないモノ。浅葱色をしたアメーバ状のそれは、モンスターとしてはもっともポピュラーで、自由にその姿形を変え、時には人間を溶かして食うこともある。

 また、風が壁板を叩いた。
 唐突に、何の前触れもなくスライムは鉄骨の陰から姿を現した。
 まるで突風に背を押されたかのように。


 ―――背を押されたかのように、だって?比喩表現とはいえスライムに、背?

「・・あるよ」


 賀茂は見た。よろめきながら出てきたそれは『霊視』で見れば、確かにスライムだ。
 だがしかし、肉眼で見たそれは明らかに、人間の女性。

 それもアブデル好みの美少女だった。つつましやかな修道服を着ているあたりが特に・・・・・






「賀茂さん?大丈夫ですか」


 顔を上げると、目の前には女の子の顔があった。


「ああ、うん。大丈夫だよ、桜咲さん」


 賀茂は桜咲刹那に言った。
 桜咲刹那。腕の立つ剣士で、優秀な退魔士。
 今、彼女について知っていることはそれだけだ。あとはアブデルのせいで逃がしたスライムを調伏する手伝いをしてくれるということ。

 近づきがたい雰囲気を持ったこの少女は、それでいて所々に思いやりが感じ取れる。
 このきつく引き結んだ顔は、生まれつきだろうか。


「明日は学校が終わり次第、案内を兼ねて見回りをしますから、体調は整えておいてください」


 ・・・本当に思いやりにあふれた言葉。

 桜咲さんはそれだけ言うと、すぐに離れていった。

 まあ、今更あの時のことを思い出してみても仕様がない。スライムが美少女姿になっていたからアブデルがあれを保護しようとして逃がしてしまったとか、そんなことを考えても仕方ない。

 これから、この恐ろしく広大な麻帆良学園都市で、スライム一匹を見つけ出さなければいけないのだ。

 賀茂は溜め息ひとつ、気を取り直すとお菓子をつまんだ。

麻帆良に涙はいらない

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