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第12話:賑やかな昼下がり 投稿者:物書き未満 投稿日:06/04-21:19 No.673

四校時目終了の鐘が鳴り、ネギはチョークを置き教科書を閉じた。



「ーーはい、今日の授業はここまでです。」

『『『『『ありがとうございましたー!』』』』』



ネギの言葉に3ーA生徒達は一斉に起立し、クラス委員長のあやかの号令に合わせて頭を下げる。



「午後からはスポーツテストになっているので、皆さん着替えは昼休み内に済ませておいて下さい。」

『『『『『はぁーーーい!』』』』』



昼食前の為か、それともスポーツテストが控えているからか、生徒達のテンションは異様に高い。



「ネギせんせー! 私達と一緒にお昼食べよーっ!」



のどかと夕映を引き連れたハルナの誘いに、ネギは思案するように顎に手を当てた。

ネギとしては、今日もエドワードを誘いエヴァンジェリンと共に昼食を摂る予定であった。

今日も、エヴァンジェリンが教室に姿を現す事は無かった。

エヴァンジェリンが周囲に築いた心の壁は高く厚く、そう簡単に崩す事は出来そうにない。

だからネギは、「先生」としてエヴァンジェリンと交流を重ね、少しずつその壁を取り除いていく道を選んだ。

故に、ネギはエヴァンジェリンとの昼食を諦めたくはなかった。

しかしその一方で、折角の生徒からの誘いを反故にするというのも如何かとネギは思う。

「先生」としての二つの選択に葛藤する中、不意に第三の選択肢がネギの脳裏に浮かび上がった。

どちらかを選ぶのではなく、どちらも選んでしまえば良い。



「あの、僕これからエヴァンジェリンさんとお昼を食べるつもりなんですけど、パルさん達も一緒にどうですか?」



予想外のネギの言葉に、ハルナ達は一瞬顔を見合わせる。



「あや? ネギ君エヴァちゃんとお昼食べるん?」

「あ、はい。このかさんも一緒にどうですか?」



興味津々といった表情で会話に割り込んできた木乃香にも、ネギはハルナ達と同じ問いを投げ掛ける。

どうせならば、食事は人数が多い方が楽しいに違いない。



「……ねぇネギ、あんたそれ大丈夫なの? エヴァちゃんって一応ネギの命狙ってるんでしょ?」



心配そうな声で囁く明日菜に、ネギは顔を僅かに傾けて口を開いた。



「大丈夫だと思いますよ、アスナさん。今エヴァンジェリンさんとは停戦中ですから。」





鋼の錬金先生

 第12話:賑やかな昼下がり





「やはり昼は、眠い……。」



中等部校舎屋上の唯一の出入り口である鋼鉄の扉に寄り掛かり、エヴァンジェリンは呟きながら欠伸を噛み殺した。

鬱陶しい教師達の目を潜り抜け、今日もエヴァンジェリンは屋上で時間を潰している。



ネギが3-Aの担任になってからは様々な意味で色々と楽になったと、エヴァンジェリンは独り思う。

校舎内の魔法関係者の意識はネギに集中し、エヴァンジェリンへの監視の目は一時的にだが薄らいでいる。

片や真祖とは言え力の大半を封じられた無力な小娘、そして片や強大な力を内包する『英雄』の遺児。

どちらがより優先されるかなど、言うまでも無い。



更にネギ自身の認識や警戒が未熟という点も挙げられる。

高畑が担任であった頃は、こうして授業を抜け出す事は不可能に近かった。

ネギは「教師と生徒」として、エヴァンジェリンと接しようとしている。

喩え力の封じられているとしても、喩え一時的とは言え停戦状態にあるとしても、エヴァンジェリンとネギが敵同士であるという事実に変わりは無いというのに。

覆しようも無い絶対的なその一点を、ネギは見落としている。否、意図的に忘れ去ろうとしている。



「……まさにぼーや様サマだな。」



天空を流れる白い雲を見上げながら、エヴァンジェリンはそう言って口元を歪める。

今のエヴァンジェリンとネギの関係は、「停戦」と言うよりも「冷戦」と言った方がより近いと言える。

正面からの衝突こそ避けているものの、水面下では火花を散らし睨み合っているというのが現状である。

一瞬でも隙を見せれば、即座に斬り込み斬り込まれる。

尤も、睨みを利かせているのはネギ本人ではなく、その横に立つエドワードの方であるが。

肝心のネギ自身は、己の横で無言の攻防が為されている事にすら気付いていない。

経験の不足から来るネギの致命的なまでの見通しの甘さがある限り、エヴァンジェリンの有利に揺らぎは無い。



だがしかし……。

誰かの階段をを駆け上がるような慌ただしい音を分厚い扉越しに聴きながら、エヴァンジェリンは一つ思う。



「ーー幾ら何でも、些か危機感が薄過ぎはしないか……?」



どこか呆れたように目を眇め、エヴァンジェリンは扉から身を退かせた。

次の瞬間、何かが軋むような耳障りな音と共に扉は勢い良く開かれ、



「エヴァンジェリンさーん! いますかぁーっ!?」



予想通りと言うべきか、年相応の笑顔を浮かべたネギがずかずかと扉の向こうから現れ、



「ネギ、そんなに急がなくても別にあいつは逃げはしねーよ……って、やっぱ逃げるか?」



続いてネギに引っ張り込まれたであろうエドワードが、面倒臭そうな表情で姿を現し、



「うひゃー! 眺め良さそうだねー、此所! 私屋上に来たの初めてだよー!!」



アンテナのようにはねた癖毛が特徴的な騒がしそうな眼鏡の少女が、物珍しそうに周囲を見渡しながら登場し、



「当たり前ですよ、ハルナ。本来私達生徒は屋上には立ち入り禁止なんですから。」

「あぅぅぅ、これってひょっとしなくても校則違反なんじゃー……。」



その後を追従するようにやる気の無さそうなデコ娘と気の弱そうな前髪娘が連れ立って扉を潜り、



「んー、良ぇんやないの? ネギ君やエドさんもおる事やし。」



艶やかな黒髪の天然系大和撫子然とした少女が呑気な返答を前方の少女達に返し、



「というか教師が率先して校則破ってる時点でどうかと思うわよ?」



何時の間にか子供先生の保護者に位置づけられているツインテールの少女が、戦闘の教師二人に半眼を向けながら嘆息を零し、



「まぁまぁ、もっと軽く考えようやアスナっち。気苦労で溜め息なんてアンタには似合わないって。」



そして最後に髪を結い上げた巨乳の少女が笑いながら扉を閉めた。



「ーーって、ちょっと待てぇぇぇーーーっ!!」



突如として喧噪に包まれた屋上にエヴァンジェリンは激昂したように怒号を上げ、ネギの胸倉に掴み掛かった。



「どーいうつもりだ貴様は! クラスで一番扱いに困りそうな連中ばかり連れて来おって!! アレか!? 私の平和かつ平穏な時間を取り上げる事で精神攻撃でも狙っているのか!?」



ネギの首を力任せに揺らしながら、エヴァンジェリンは錯乱したように一気に言葉を捲し立てる。



「や、そんな事言われましても僕はただ、やっぱりご飯は大人数の方が美味しいかなーって思っただけでして。そんな精神攻撃とか洗脳懐柔とかそんな事は全然全く考えてませんよー。」

「素が出たな!? 今素が出たな!! 貴様の企みなどお見通しだ! さっさと吐いて楽になってしまえぇぇぇーーーっ!!」



恍けたようなネギの言葉に逆上したのか、エヴァンジェリンは支離滅裂な事を口走りながら更に激しくネギを揺さぶる。



「まぁまぁ、そんな言い方は無いんじゃないの? エヴァちゃん。とゆーか少し落ち着け。」



顔を紅潮させ荒い息を吐くエヴァンジェリンを諭すように、朝倉が横から制止の声を掛けた。
ハルナがエヴァンジェリンの手に軽く右手を載せ、朝倉の言葉を継ぐように口を開く。



「ネギ君、エヴァちゃんの事を心配してるから態々私達を誘ったんだよ。エヴァちゃん、上手くクラスに馴染めてないみたいだからって。」

「そうそう、生徒思いの良い先生じゃん。」



「……ふん。」



朝倉とハルナの説得に幾分か感情を落ち着かせたのか、エヴァンジェリンはネギの胸倉から両手を離した。

昂る激情を鎮めるように大きく深呼吸し、エヴァンジェリンは突然の来訪者達を冷たい視線で一瞥する。



「……どういうつもりだ。」



感情を押し殺したような平淡な口調で、エヴァンジェリンは先程と同じ問いをネギに投げ掛けた。

白々しい程に教師然としたネギの行動に、言い様の無い苛立ちが募る。



「貴様なら既に解り切っているだろう、こんな事をしても何も変わりはしないという事など。」



剣呑な視線をネギに固定させたまま、エヴァンジェリンは言葉を続ける。

エヴァンジェリンを縛る無慈悲な「現実」を、ネギが忘れているとは考え難い。

今更「友達ごっこ」をした所で無駄である事も、理解出来ていない筈が無い。

その上で何故ネギがこのような「茶番」を用意したのか、エヴァンジェリンには理解出来なかった。

故に問う、如何なる偽りも誤魔化しも許さぬ絶対零度の眼差しを向けて。



氷のように冷たく鋭いエヴァンジェリンの言葉に、その場は水を打ったように静まり返った。

時が止められたかのような沈黙の中で、ネギはゆっくりと口を開く。



「……無駄な筈なんて、無いです。」



エヴァンジェリンの双眸を真直ぐに見返し、ネギは小さくもはっきりとそう口にした。



「永久に不変なものなんて、この世にそんなものは在り得ません。人の心なんて特にそうです。」



淡々と言葉を紡ぐネギを見つめ、エヴァンジェリンは見定めるように眼を細めた。



「何も変わらない「今」は辛いでしょうけど、でもそれなら尚更、今しか無い「今」を精一杯楽しまなかったら損でしょう?」



そう言って泣き顔に似た笑みを浮かべるネギに、エヴァンジェリンは一瞬言葉を失った。

理解してしまったから。

ネギが総てを理解した上で、この「茶番」を選んだ事を。

自分が如何に残酷な事をしているのかを知っていながら、自分の行動がどれ程の痛みをエヴァンジェリンに与えてしまうのかを解っていながら、そしてそれがネギ自身の心にも鋭い爪を突き立てる事をも覚悟しながら……。



「地獄を天国に変えてみせるって、昨日僕は言いましたよね。あの言葉に嘘はありません。でもそれだけだと不十分だとも思ってるんです。喩え天国に昇ったとしても、そこに光が無ければ人は笑えません。でも逆に言えば光さえ見つけられれば、喩え地獄の底でもきっと人は笑えます。」



ーーだから、笑いましょうよ。



言外に込められたネギの願いに、エヴァンジェリンは痛みを堪えるように一瞬表情を歪める。



「……本当に、お前は間違いなくあの馬鹿の息子だよ。」



長い前髪で表情を隠すように顔を俯かせ、エヴァンジェリンは呟いた。



「……ねぇねぇ、エドワード先生。一体何がどうなってるのさ?」



自分達を無視したように展開されるネギ達の重いやり取りに、ハルナは若干の困惑を含ませながらエドワードに尋ねた。

その問いに他の生徒達も気になるのか、エドワードへと視線を集中させる。



エドワードは一瞬面倒そうにネギとエヴァンジェリンを一瞥し、息を吐いた。

適当な誤魔化しで乗り切られる程、この場は甘くはなさそうである。

エドワードは観念したように再度嘆息し、ゆっくりと口を開いた。

当たり触りの無い程度に誰かに事情を知っていて貰うのは比較的有益かもしれないという、希望的打算をその心の内に込めながら。



「……俺も詳しくは知らねーんだけど、あいつ等の関係って色々と複雑らしいんだ。親の代からの因縁とか、な? でもネギの方は何も知らされてなくて、エヴァンジェリンの方から言い出す事も出来ずに、胸に蟠りを抱えたまま時間だけが無駄に過ぎていった。それで結局、エヴァンジェリンは結論を急いじまった。」



淡々と語られるエドワードの言葉に、ハルナ達は思わずエヴァンジェリンへと振り返った。



エヴァンジェリンはその視線から逃げるように顔を逸らすが、話に割り込もうとする気配は無い。

だが一瞬、その双眸に敵意と殺意を込めて、エヴァンジェリンはエドワードを睨め上げた。

まるで、「余計な事を言うな」と言わんばかりに。



「ーーで、80年代の熱血学園ドラマよろしく魂と拳と刃と硝煙で語り合った果てにだなぁ……、」

「って、ちょっと待てぇ!!」



いきなり妙な方向に歪み始めたエドワードの説明に、エヴァンジェリンは指を突きつけ怒号した。

話の腰を折られた為か、エドワードは不機嫌そうにエヴァンジェリンを見下ろす。



「何だよ、ここからが一番の山場だろーが。」

「これ以上話をややこしくするなっ!」



「良いじゃねーか、簡単に纏めたら大体そんな感じだろ? ……多少脚色はしてるが。」

「原型すらも留めておらんわ!!」



いけしゃあしゃあとのたまうエドワードに、エヴァンジェリンは幼い子供のように過敏に噛み付く。

その外見相応なエヴァンジェリンの姿に、ハルナ達は思わず苦笑を漏らす。



「何かさ、こうして見てるとエヴァちゃんって意外と普通だよねー。」

「エドワード先生も実は結構お茶目っぽいしー?」



エヴァンジェリンとエドワードの口論を微笑ましく眺めながら、少女達は和気藹々と笑い合った。

麻帆良の昼は、賑やかに過ぎていく。

鋼の錬金先生

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