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第9話 バカレンジャーの無謀な挑戦(完結編)-最後に笑うのは誰?- 投稿者:夏野竜輝 投稿日:08/26-03:30 No.1159
夕方、ランディウスは管理人室に戻ってきた。
「2日ぶりの我が家……」
そう言うと、バッタリ倒れ込んだ。主に精神的な疲労で。
某妖怪似の老人のちょっとしたお茶目とはいえ、DEAD OR ALIVEすら生温いとも思えるトラップの数々。
ほとんど素人同然な彼女達に危険が及ばないようにと、常に図書館島の地下では気を張り続けていた。張っていただけならなんということはない。
数多の戦場を経験しているランディウスにとって、それは容易いことであったが――――あくまでそれは何も事が起こらなければという話。
事実、夕映と木乃香に襲い掛かったトラップは魔法による水増しした矢の嵐であった。が、防ぐ手立てのない2人にとって……それは避けようのないものであった。
あと数分2人に遅れていたら――――某老人の、古韮や楓が傍にいると見越してだったであろう危険性の高いトラップ。
最悪は彼女達の死、もしくは少なくとも大怪我を負っていたことは間違いようのないことだった。
その他、某老人の仕掛けたものは到底気の抜けるようなものでなく、気が気でなかったことも確か。
まるで、たった1人で何十人ものシビリアンを連れて、誰1人傷を負わせることもなく、敵中を突破するかのようなミッションである。
……といっても、そのシビリアンの中に、くノ一(楓)がいたり、武闘家(古韮)がいたり、ソルジャー(明日奈)がいたりするのだが……
何はともあれ、無事にあの図書館島を脱出することができたのは多分に幸いだ。
ネギも教師としての自身と自覚を手に入れることができ――――バカレンジャー達もあの最深部での勉強で、通常の2倍の経験値を得ているはずだ。
後は、実践でどれだけ発揮できるかにかかっている。
「後は彼女達次第だな……」
倒れ込んだベッドの上。
一仕事終えたという安堵感と共に重く圧し掛かっていたかのような肩の力が、ほうっと吐かれた息と共に抜けていく。
そのまま眼を瞑って一時の安住の地に赴かんとするが、部屋の扉の向こうに気配を感じると同時に、
音を立てて開いたその向こうには、既にこの部屋の食客として君臨している2人の姿があった。
「遅かったですね、ランディウスさん」
「やっと戻りましたか……」
真名と刹那が労いの言葉と共に部屋へと入ってきた。
何故だか分からないが、真名が丁寧な口調であるところを聞くと、薄ら寒い気がしてならないランディウス。
そう感じるのも無理はない。
多少引き気味になっている刹那もそれを感じているのだろう。
真名がこれまでにないくらいにイイ笑顔を浮かべているのだ。それはまるで清々しく雲ひとつない、どこまでも突き抜けていきそうなくらいの青空のような笑顔。
だがどんな空の向こう側にも、存在するのは星の光のみが存在を許される暗黒の宇宙である。
しかも、その暗黒を通り越して、ブラックホールの存在すら感じさせる。
それはともかく、ランディウスは事の顛末の報告を2人に尋ねることにした。
「あ、ああ、久しぶり……学園長から説明は受けたか?」
言葉を発した途端、部屋の中の空気が一瞬にして変わる。
真名の顔に張り付いていたはずの笑顔が壊れ、その下からは「コーホー」と呼吸音が聞こえそうな暗黒面剥き出しのドス黒い笑顔があった。
「もちろん」
「それはもう、懇切丁寧にされました」
ああ、きっと魔族最強のグレートデーモンですら裸足で逃げ出しそうなくらいの2人の笑顔。
心なしか、2人の目が赤く輝いているようにすら感じる。
(死んだな、学園長……)
2人の語気はいつもより強く、重い。そして、何よりも黒い。
その怨念の対象とされているわけではないランディウスだが、目の前のその光景に一層冷や汗を感じざるを得ない。
心中で十字を切るランディウス。
ひょっとしたらカオスに1名様ご案内の連絡を入れたのかもしれない。
「きょ、今日は風呂入って、そのまま寝るからよろしく」
何だか事後報告を受けたつもりが、一層疲れを増したような気がするランディウス。
肩を落としつつも、2人の暗黒面に取り込まれないように、この場の収拾をつける。
2人も、ランディウスが某老人のお茶目に巻き込まれていることを見やってか、
「……仕方ないね」
「お疲れのようですし……今日はゆっくり休んで下さい」
今までの黒い状況もどこ吹く風と引き下がった。
少なくとも、ランディウスに労いの言葉をかける辺り、刹那はまだ暗黒面にとらわれていないのかもしれない。
二人が部屋を出てまもなく、というかどこかで2人が部屋を出るのを待ち構えていたかの如く、備え付けの電話が鳴り出した。
ちょうどシャワーをすぐにでも浴びて仮眠を取ろうとしていたランディウスだが、それを邪魔され些か不機嫌になった。
「人が休もうとしている時に……もしもし?」
電話の相手が誰であれ、応答した声が不機嫌になってしまうのはランディウスがまだまだ若いといえるからであろう。
もしくは、電話の相手が某老人であることを見越しての所業か。
しかしランディウスの予想とは裏腹に返ってきたのは、無感情ながら多少にも控えめな女性の声だった。
〈もしもし、絡繰茶々丸です〉
フルネームで答える辺り、プログラムされた会話機能が優秀たる由縁だろう。
ランディウスの不機嫌な応答に対しても、一切の感情の惑いも見せずに答えるあたり彼女の性格が覗える。
普段のことを考えると……彼女からランディウスに電話がかかってくるといえば、エヴァ繋がりであることは確か。
「どうした、何かあったのか?」
〈マスターがお呼びです。すみませんが、ご足労願えますか?〉
(何か厄介ごとでも起きたのか!)
多少の危機感を覚えながらも、聞き返してみれば疲れ果てたランディウスにすぐ来いというエヴァの命令。
そう聞いた瞬間、プチッと何かが切れたような音が響いた。
(あのヤロウ……俺が帰ってくるのを探知してやがったのか?)
電話をかけてきたタイミング。
まるで知っていたかのようなその間合いに、ある種の陰謀めいたものを感じざるをえない。
そんなことを考えていると、茶々丸からはそういえばといった感じで言葉を続けた。
〈付け加えさせていただくと、マスターはランディウスさんの魔力をサーチするアーティファクトをお作りになられていました〉
「なんて無駄な作業だ……」
〈……〈おい、茶々丸! 無駄話をするな、こっちによこせ!〉あ、マスター……〉
電話の向こう側で、何やら争っているような声が聞こえる。
痺れを切らしたのか、電話機の向こう側でなにやらひったくるかのような音がしたと思った途端に、少女特有の甲高い感情に任せた怒鳴り声が受話器から鳴り響く。
〈おいランディウス! 無駄とはどういう意味だ!?〉
「チッ、聞いこえていやがったか」
〈何だ、その舌打ちは!〉
どうやら茶々丸との会話は向こう側に筒抜けだったらしい。
それどころか、独り言めいたランディウスの呟きにすらツッコミを入れるあたり、エヴァの性格たるものだろう。
しかし、もう少しで眠りにつくところだったランディウスにとって、エヴァの怒鳴り声は頭が痛くなるほど鳴り響く。
このままでは埒が明かないと判断したランディウスは、反撃とばかりに冷静なツッコミを入れる。
「1人でエキサイトするな。意味は言っての通りだ……全く、その行動力をもっと別の方向に向けられないのか?」
〈それは、私の知るところではないな……〉
聞く耳持たん、とはまさにこのことだろう。
エヴァのゴーイングマイウェイさに多少の頭痛を覚えながらも、わざわざ電話してきたという本来の目的に話の矛先を向ける。
……少し考えれば、余計なことにツッコミを入れず、さっさと話という名の交渉を始めればよいのだが……
余すと所なく発揮されていたランディウスの交渉力も、疲労困憊といった今の状況では発揮されないらしい。
「そうか……で、一体何の用だ?」
〈日課だ。ここ2日ほどしてないだろう〉
(日課?)
ランディウスの頭にハテナマークがいくつも浮かんでくる。
もとより半分眠りの世界に沈みかかっているランディウスの思考だが、それでも思い当たるような節はない。
エヴァ関連でといえば彼女の家で、もとい彼女の魔法の別荘で繰り広げた文字通り死合い。
エヴァ、茶々丸、チャチャゼロの3者にボコられて酷い目にあった(しかも延長戦付)のはランディウスの記憶に新しい。
確かにランディウスはエヴァとあの幻想空間で殺り合った。
一歩間違えれば、命を落としていたことは確実なその出来事。
どちらかといえば、彼女とはその戦いを通して強敵とかいて「とも」と呼ぶような関係であったはず。
何より、再戦の申し出などどこにもなかったはずだ。
当然の疑問をそのまま声に出してランディウスは問いかける。
「いつ俺の日課になったんだ?」
〈私が決めた!!〉
どこぞの王様がふんぞり返って誇らしげに断言するかのように切り捨てるエヴァ。
電話越しの向こう側では、きっと仁王立ちで胸を張っているに違いない。
こちら側の状況など一切無視したまさに女王様的エヴァの発言に、交渉の場で鍛えた忍耐力などとっくに限界点を振り切っていたランディウス。
受話器を全力の握力で握り締めているせいか、ブルブルと震えながら、込み上げてくる何かを必死に耐える。
「……か……よ」
〈嬉しいだろう。「嬉しくない……」むしろ盛大に喜ぶがいい。この闇の福音たる私が貴様を「……というか知るかボケェ!!」ガチョン!!〉
盛大にエヴァが口上を述べる途中で、ランディウスの堪忍の尾プッツン。
どこか間抜けな音を立てながら電話が切れる。
そして、電話機から伸びているコードを力任せに引っ張って完全に電源を沈静化。
念入れにコンセントまで抜くあたり、一刻も早く寝たいと考えていることが窺える。
「付き合ってられるか、畜生!!」
もう俺は知らんとばかりに布団を被り、外の世界との繋がりを一切断つかのように眠りに入るランディウス。
しかし、この行動は後日に災厄となって跳ね返ることをランディウスは知らない。
第9話 バカレンジャーの無謀な挑戦(完結編)-最後に笑うのは誰?-
期末テスト当日……予鈴が鳴っているにも関わらず、バカレンジャー+は現れない。
これには、あやかを筆頭に2-A一同も動揺を隠せない。
「ほら君達。テスト始めるから、早く席について」
試験官の瀬流彦が呼びかける。
「くっ、このまま5人分全教科が0点となると……いくらバカレンジャーとはいえ、2-Aの平均点は大幅に下がってしまいますわね」
5人も欠席が出ると、最下位はほぼ不可避となる。
「皆さん!! 今回は1人あたり15点増しでよろしく!!」
「ムリだってー」
朝倉が言うように、普段の平均点が85点以上の子には無理な注文だ。
まして85点以下の者には尚更厚い壁でしかない。
「あれ? よく見たら図書館探検部の3人もいないよ」
「わ――――――!! もーダメやー!!」
祐奈の一言に、亜子は諦めムードどころか絶望ムードに突入してしまった。
8人欠席では最下位を約束されたも同然なのである……が、神(ルシリスか? それともカオスか?)は2-Aを見捨てなかった。
「あっ、見て!!」
村上夏美が指した方を見ると、バカレンジャー・図書館探検部とネギ・ランディウスが走ってくるところだった。
「やれやれ、徹夜で勉強して遅刻とはな……俺も人のことを言えた義理じゃないが」
「1時間で起こしてって言ったのにー!」
猛然と突っ走る明日菜達は微妙にテンパっている。
「ハァッ、ハァッ……み、皆! ゴメ―――ン!」
「遅れてスミマセン。この娘、足をケガしてて」
夕映の負傷を言い訳に持ってくる明日菜だが、理由としてはいいのかもしれない。
「ああ、君達か……遅刻組は別教室の方で受けなさい」
「は、はい、スミマセン」
「ほら、フラフラしないで」
図書館島で2日間過ごし、帰るなり徹夜で勉強したため……肉体的精神的な疲労は甚大なものになっている。
が、そんなことを知らない新田の一言は現実的なものだった。
「君達はよくやった……後はテストで3日間の結果を出すだけだ。頑張れよ?」
「ま、任しといて~~」
「本なんかなくても何とかなるアルよ~~」
「ず、ずっと勉強に付き合ってくれてありがとうネギ先生」
「後は任せるでござる~~」
ランディウスの呼びかけに答えるものの、自信のじの字もないという感じだ。
その様を見たネギは不安一色に染まる。
「大丈夫よ、ネギ。私達にだって意地があるんだからさ」
ネギの肩に手を置き明日菜が言った。
「あの時は本を捨てるしかなかったでしょ……何とか下から2番目くらいにはなってやるから、あんたはもう安心して休んでなさいよ」
「は、はい」
フラフラしつつ、バカレンジャー+は新田指定の教室に向かった。
「……ネギ君。彼女達の気分をスッキリさせられる魔法はあるかい?」
「あるにはありますが……ランディウスさん?」
「では行こう。それくらいならやっても問題はなかろうよ」
ネギとランディウスも別教室へと歩いていく。
そして午前9時、期末テストが始まった。1科目50分で行なわれるそれは、学年最後の難関と言えよう。
学生諸君がもっとも嫌うものであるが、否応なく現在進行形で戦うのだ。
一方、明日菜達も戦っているのだが――――図書館島での探検と勉強、昨夜の徹夜が祟って極度の疲労感に見舞われていた。
夕映・木乃香・古韮に至っては舟を漕ぎ始めている。
(やはり、こうなっていたか……)
「ラス・テル マ・スキル マギステル」
ネギが魔法の始動キーを唱える。
その主たるや、教師として皆を支えたいという純粋なネギの気持ち。
直接的に何かができるわけではない自分。
試験という実戦の場での体調不良はその人物自身の管理の問題。
現実的な側面しか見ないものであれば、そう判断するであろう。
何も出来ない自分。
だけど、願わずにはいられない。
必死で勉強していたバカレンジャー達を含め、ネギのために何とか成績を上げようと努力してくれた2-Aの面々。
せめて、彼女達が全力を出し切ることができることを祈らずにはいられない。
テストに立ち向かおうとしている彼女達に、まるで心からの祈りを捧げるかのようなネギ。
ランディウスもそのネギを見て、自分に出来る最大限の心配りをしようと、両手にネギの思いを乗せるかのように魔力を展開する。
「花の香りよ 仲間に元気を 活力を 健やかな風を」
触媒にした花から、穏やかな波動が放たれる。
ゆっくりと柔らかく広がるそれは、ネギの思いをありったけに込めた彼自身の優しさそのものであった。
続いて、ランディウスが両手に集中した魔力を展開せんと、力のある言葉を小声で呟く。
「refectio……」
「フォースヒール1」
窓辺から差し込む光が、まるで慈悲深い母の温もりのように教室中に広がる。
そして、教室にいる生徒全員が感じた、春の訪れのような花の香りのそよ風。
一瞬にして咲き誇るスミレの花畑に寝転んだかのような爽快感。
まどろみという名の霧が嘘のように吹き飛び、残ったのは春の息吹にも似た活力。
大地を突き破ってその芽を出さんとする自然の力のようなものが2-A全員の中に溢れ始めていた。
連日の疲労感など、残滓すら感じさせない。
眠気も吹き飛んだところで、真剣にテストを受け始めた。
「僕達にできるのは、これくらいですね」
「ああ。あとは彼女達次第だ」
まだ結果は出ていない。
しかし2人の、とりわけネギの心中に浮かんだのは結果ではなく、その過程。
きっと彼女たちは全力を出し切ってくれるだろう。
その確信が、今までの不安などかけらも残さずに全て吹き飛ばしていた。
そして、2人はその場から立ち去っていった。
夕方、期末テストは終了した。
全神経を集中していたためか、学生諸君は机に突っ伏している者が多い。
張り詰めていた緊張の糸が切れたとも言えそうだ。
遅刻組も例外ではなく、終了と同時にグッタリしている――――もう動くのも面倒だと言わんばかりに。
「―――おお、遅刻組の答案はそれかね」
「が、学園長!? そのお怪我は……!!」
答案用紙回収後に退室した新田が遭遇したもの――――それはボロボロなうえに松葉杖をついている近右衛門だった。
ランディウスにヒモなしバンジーをさせられ、ダメージがフィードバックされた結果なのは言うまでもない。
包帯に包まれたぬらりひょん頭がことさらに異様な雰囲気を醸し出している。
普段と変わらない様子で話す近右衛門だが、平常で話せば話すほど、その格好が異様に見えてしまう。
「フォッフォ、ちょっと階段から転落してのう」
(いやいや! それだけでこんな怪我をするとは思えないのですが……!)
新田がそう心中でツッコミを入れたくなるのも無理はない。
どう見ても、近右衛門の姿は入院すら生温く、一般人なら半年近くはベッドの上での生活を余儀なくされることを予想させるくらいのもの。
というか、東京タワーの最上階から転げ落ちたとしても、ここまではいかないだろう。
平静を保てない新田を尻目に、近右衛門はここに来た目的を新田に切り出した。
「ところで、あの8名の採点はワシがやりたいんじゃが」
「は、はぁ……分かりました」
色々と突っ込みたいところではあるが、相手は近右衛門。
これ以上の厄介事は仕事が増える元とばかりに、近右衛門に答案用紙を渡し、新田はその場を辞する。
答案用紙を受け取った後、すぐ学園長室に戻った近右衛門は、赤い墨汁で採点を始めた。
「……ほう。フォッフォッフォ、なるほどのう~~」
意味深なその笑みは、何を表しているのだろうか――――
成績発表日、学園内は異様な雰囲気で満たされていた。
報道部主催の元、大画面にクラス別成績順位が発表されているようだ。
もはやお祭り騒ぎな状態であり、トトカルチョまで行なわれる始末――――が、誰も文句を言わない。
読者諸氏は経験済みと思うが、テストの結果発表は知りたくないのに知りたいと思う、何とも不思議な考えになることが多い。
自分はどのくらいの成績なのか、どれくらい上がったのか――――こんな風に。
麻帆良学園に籍を置く生徒達もご多聞に漏れず、もどかしい思いを抱えて発表の時を待っていた。
ちなみに学園内なので大多数は制服、ごく少数は体操服なのだが――――何故か古韮は私服だった。
図書館島の時も1人だけ私服だったのだが――――案外目立ちたがり屋なのかもしれない。
それはさて置き、ネギとバカレンジャー+も緊張していた。
特にネギは自分の首がかかっているだけに、余計プレッシャーを感じてしまっている。
『2年生の学年平均点は73.4点! ―――では第2学年のクラス成績を上位から発表しましょう!』
発表員の声に、2年生全員の動きが止まった。
『第1位――――2年えー……』
「【え】……?」
「もしかして……!」
バカレンジャー+が色めきたつ。
『2年F組! 平均点80.8点!』
それを聞いた瞬間、バカレンジャー+はコケた。まさにぬか喜びである。
『第2位、2年えー……S組! 79.8点!』
こうして微妙な溜めが発生するので、ぬか喜びを繰り返してしまうバカレンジャー+。
その間にも次々と発表されていき……第10位が2-M、第11位が2-Cと進んでいく。
『下から3番目の22位―――2-P! 70.8点!』
「ひいいっ!」
「ま、まずいよ! 次出てこないと最下位決定……!」
ネギへのプレッシャーはますます強くなり、明日菜と木乃香も心配そうに見守っている。
『次は下から2番目、ブービー賞です。えーと、これは……』
そこで、しばらく言葉が途切れる。
例えるなら、クイ○ミリオ○アのみ○溜めだ――――心臓に悪いことこのうえない。
『2-Kですね。平均点69.5点、次回は頑張って下さいねー』
――――現実は厳しく無情である。
「最下位確定~~~~!?」
バカレンジャー+は真っ白に燃え尽きていた。
それこそ風でも吹けば飛んでいってしまうぐらいに。
脳裏に浮かぶのは、この先幼稚園児と一緒にお遊戯する自分達の姿。
そんな中、ネギはひっそりとその場を去っていった。
自分の出来ることは全てやった……それが通じなかった以上、この場にいる資格はない……と。
無力感を感じつつも、どこか肩の力が抜けたネギの足取りはゆっくりであったが、そこにある種の暗さはなかった。
ランディウスは1人、その状況を静観していた。
未だ2-Aの名前は発表されていない。
しかし、2-Aの面子は既に自分たちの最下位を認識してしまっている。
しかも、ネギですらそれを受け止め、自分からある行動を起こそうとしてしまっている。
「……やれやれ。高くつきますよ、学園長……」
苦笑気味に愚痴をひとつ。
ランディウスはそっとネギを追いかけて、その場を後にする。
バカレンジャーの面子がネギの失踪に気づき、慌てて周囲にいる生徒から行き先を聞き出すのは、もう少し後のことであった。
所変わって、校内廊下にて。
松葉杖をつきながらのため、急いではいるものの歩くよりも遅い近右衛門。
採点の終わったバカレンジャー達の解答用紙を、手が塞がっている近右衛門の代わりに持っているしずな。
慌ててある所に向かっている2人の行き先は、既に結果発表を行なっている放送室であった。
「いかんいかん、発表会は学生達が勝手に始めてしまうんじゃった」
「何やってるんですか学園長……ほら、さっさと行きましょう」
「分かっておる……ん?」
「あら?」
近右衛門としずなは放送室、もとい報道部の元に向かっている時、窓の向こう側に走り去るネギ。
言葉を交わさずに目線のみで意思疎通する近右衛門としずな。
向かっていたはずの報道部の所とは異なり、今度はネギの向かっていった方向へと歩いていくのであった。
そして麻帆良学園中央駅。
構内には駅員以外に人の気配はなく、ただ1人スーツ姿の少年が荷物すら持たずに佇んでいる。
自分は自分に出来ることをやり尽くした。
そして、彼女達バカレンジャーも全力を尽くしたに違いない。
ランディウスにも助力を貰った。
きっとこれまでにないくらいの状況――――それでも勝てなかった。
何が悪かった……のではない。2-Aの担任になって、彼女達のことを全然知らなかったからだろう。
もし、その時から彼女達の成績のことを知っていたら……
想像しても仕方のないことばかりがネギの頭の中をよぎる。
そのどうしようもない思考に、ネギは少しばかり苦笑する。
過程はどうあれ、結果として自分達の力は及ばなかった。
自分に出来ることは全てやったにも関わらず、変わることのなかった結果。
まさに自分の力の無さが招いたに違いない。
今、まさにネギは故郷へと帰ろうとしていた。
ウェールズの大自然の中で自分を見つめ直し、そして父のような魔法使いになって再び帰ってこよう……と。
構内に電車が入ってくる連絡が流れる。
ネギの視線の向こう側に、この地に来た時とは逆方向の電車が見え始めている。
改札口に背を向けて、電車の訪れを待つネギ。
その背に、静かだが力強く聞こえるランディウスの声が届いた。
「ネギ君、君はもう諦めてしまうのかい……?」
振り向くと、改札口の向こう側でランディウスがネギを見つめている。
その視線を感じて、思わず振り返るネギ。
怒っているわけでもなく、悲しむわけでもなく、ただただ穏やかにネギを見つめるランディウス。
その表情に込められているのは、最下位脱出失敗という悲嘆ではなく、ある種の確信めいた輝き。
改札口を挟んで学園側のランディウスと構内のネギ。
ネギは力なく微笑むとかぶりを振った。
「もういいんです、全ては僕の力不足です――――でも僕に出来ることは全部やりました。だからここで僕に出来ることはないんです」
その微笑すら込められているものは、どこか頼りないネギの表情。
では、と呟くと到着しつつある電車の再び向き直る。
そこに、ランディウスが背を向けているネギに構わずに言葉を続けた。
「確かに君はそれで納得したかもしれない……だがな、それでも納得していない連中がここにいるんだが……」
その言葉と同時に、ランディウスはその場からそっと離れた。
ランディウスが退場すると同時に、明らかに全速力で駅へと向かってくるバカレンジャー+のメンバー。
ドカドカと足音を盛大に立てて向かってくる彼女達の気配を感じ、電車に足を踏み出しかけたネギが一瞬止まる。
到着と同時に改札口から辺りを憚らない彼女達らしさ全開でネギを呼び止めた。
「「「「「「ネギ(坊主)(君)(先生)!!!」」」」」
「み、皆さん……」
ネギがゆっくりと改札口の方に再び向き直る。
その間に電車のドアは音を立てて閉まり、ゆっくりと構内から出発していく。
が、いつにもなく真剣な表情をしているバカレンジャー+にネギの視線は縫い止められ、走り去っていく電車の風すらネギには認識できない。
改札口を挟んで、最初に口火を切ったのは明日菜であった。
「ちょっとアンタ、何勝手に逃げようとしてるのよ!!」
「だ、だってもう僕に出来ることなんて他にないから……」
明日菜の火を噴出しかねないほどの剣幕に、ネギが気圧されつつも反論する。
魔法使いとはいえ、自分は生徒達よりも年下の子供。そんな自分がこれ以上できることなどない。
そう感じていたネギが零した心からの本音。
そして、一旦零れ出したネギの本心は留めることを知らず、堰を切ったかのように流れ出す。
「もういいじゃないですか……皆さん全力で頑張ったんです。それでも最下位を脱出できなかった……全ては僕の力不足なんです。
だから、僕はもう1度力をつけるために「だから、何逃げようとしてるのって言ってんのよ!!」……えっ?」
ネギの独白を遮るかのように明日菜の言葉が発する。
今度は明日菜の素直ではないが真っ直ぐの感情がネギの元へと届く。
「まだ、結果が全部出たわけじゃない。納得できないけど、私達は出来ることをした。
んで、アンタも出来ることをしたんでしょ。結果が出来る前に諦めるなんて、だから逃げるのかって言ってんのよ!!」
「そうだよ、ネギ君。私達馬鹿だけど一生懸命頑張ったんだよ。
結果が出ちゃったらどうしようもないけど、まだ出てないんだよ? 最後まで見届けようよ」
明日菜に続いて、まき絵が言葉を続ける。
明日菜とは異なり、自分の感情をストレートに、そして素直にネギにぶつけるまき絵。
ここぞとばかりに楓&古韮コンビがいつものお気楽な調子でネギに問いかける。
「人間万事塞翁が馬アルよ。諦めるのはまだ早いアルよ、ネギ坊主」
「ニンニン。人事を尽くして天命を待つ、されど天命がくるまでは人事を尽くすのが人の定めでござる」
薀蓄があるんだかないんだか分からない2人の言葉。
しかし、込められた感情は明日菜とまき絵のものと同じものであろう。
続いて、木乃香と夕映がこれまでの面子の台詞を補うかのように語った。
「……もし明日菜達が幼稚園児からやり直すことになったら、ネギ君が面倒を見たらええんやないか~」
「そうです。それに、幼稚園児に格下げとなったなら、逆にもう1度元に戻すチャンスがきっとあるです」
「……そうよ。例えどんなになったって私達は諦めないんだから――――それでもアンタは逃げ出すの?」
最後にネギの意思を確認するかのように明日菜がネギに問いかける。
迷っていた。
ネギは迷っていた。
今、ここに自分がいていいのかと。
今、ここに自分がいなくてはいけないのではと。
ネギがその両天秤にかけられた葛藤に返答を返せない中、改札口を挟んで無言の空間が流れる。
ネギを焦点にして、バカレンジャー+の視線が期待を帯びてその返答を待つ中――――
「フォッフォッフォッ……」
やけに間延びする想像するに難くない笑い声が構内に木霊する。
というか、駅員のアナウンスをひったくって響き渡るそれ。
駅員室を見れば、いつのまにか想像していた通りの人物がそこに鎮座していたのである。
バカレンジャー+とネギの視線を集中的に浴びたところで、何も知らなかったかのように近右衛門が全員に問いかける。
「おやおや、一体何を揉めておるんじゃ?」
「学園長にしずな先生!?」
駅員室の中には、近右衛門の他にいつもの微笑みを湛えたしずなの姿があった。
「いやー、すまんかったのネギ君。実は「あなた達の採点を学園長がやってらして、その分を足し忘れてたのよ」……」
近右衛門の釈明をブッタ切るかのように、しずなが事の顛末をあっさりと語る。
既に携帯電話で、その内容について報道部には連絡済みだが……無論、報道部の説教を受けたのは言うまでもない。
「え……え――――!? 何ですかそれ!?」
告げられた事実に仰天する一同。
言葉巧みに有耶無耶にしようと画策していた近右衛門だが、しずなの告発により一気に容疑者として位置付けられてしまう。
2-Aが最下位脱出できなかったら、ネギのクビとバカレンジャーの幼稚園児からやり直しというあまりにも重大なペナルティーの割りには、
それを評価する立場にあるはずの近右衛門のド忘れという顛末。
生徒とネギの進路という人生の重みに対し、近右衛門の所業はもはやお茶目では言い訳できないほど杜撰なものだ。
当然のことながら、近右衛門に非難の視線が集中する。
しかし、2-Aが最下位を脱出する可能性が出たのは揺るがない事実である。
「う、うおっほん。ここではなんじゃからのう、皆の所に戻って発表するとしようかのぅ……」
まるで非難の視線から逃げるかのように駅から学園へと戻るよう促す近右衛門。
一同はその背中を睨みつけながらも、その後に続いていくのであった。
所変わって、その他の2-Aの面子がいる教室。
「では、ここで平均点を発表しようかの……まずは佐々木まき絵。66点!
部活熱心なのはいいが、勉強もな」
まき絵は些か照れ気味に頭を掻いた。
「次に……古韮67点! 長瀬楓63点!」
この調子で頑張るように、と釘を刺されるものの――――2人の表情は意外だと言いたげだが喜びに満ちていた。
「綾瀬夕映63点! 普段から真面目にの」
内心では即刻拒否している夕映――――真面目にやると、さらなる飛躍を期待できるだろう。
「早乙女ハルナ81点! 宮崎のどか95点! 木乃香91点! ……このへんは問題ないのぅ」
上位キープ組は今回も上位だった。
前回と違うのは、平均点が上がっていることだ――――ネギのおかげか、メサイヤンペンダントの加護か……
「最後に神楽坂明日菜……71点! よく頑張った、感動した!!」
どこぞの首相のような台詞を言う近右衛門。
バカレンジャーでも極めつけの明日菜が唯1人70点の大台に乗った事実に、一同は万雷の拍手をもって称えた。
「これを2-Aに加算すると平均点が81.0点になり、0.2の差で……2-Aがトップよ」
瞬間、2-A陣営は大いに沸いた。
最下位と思っていたところに降って出たトップという現実は、彼女達を喜ばせるには充分すぎるのだ。
「で、でも魔法の本がないのに一体どうやって……!?」
「これのことか?」
そう言ったのは、ランディウスだった。
幸い、2-Aの面子はいつもどおりの彼女達らしさで騒いでいる。
というか、バカレンジャーの面子を胴上げすらし始めているので、こちらに気づいている様子はない。
「こんなもので頭が良くなるなら苦労はない。君達や他の子達の実力が2-Aをトップに導いたんだよ」
ランディウスが本を開けると、ただただ白紙ばかりのページが続く。
「え!? でも、そんな……!」
「あれは学園長がネギ君に直接知識を送っただけだ。加えて、この本に魔力を通したのも学園長……君達に本物と信じさせるためにな」
万一に備えてと、ネギにだけ伝わるように小声で事のあらましを語るランディウス。
その内容にネギは驚きを隠せない。
「学園長が?」
「ああ。それに、ああいう類のものは読んだ者に知識を詰め込もうする場合が多い……下手をすれば精神崩壊を起こしかねん」
何故かコソコソと逃げかけている近右衛門の肩を掴む。
「おい皆、聞いてくれ。事のついでにバラすが……ネギ君がクビになるというのも嘘だ。
これは学園長が2-Aの危機感を煽るために打った芝居で、俺も立場上言えなかった」
「「「「「「「「「え!?」」」」」」」」」
「あとは、図書館島のトラップも全て学園長の仕業だ。俺は君達をサポートするために向かうよう命じられててね……いやぁ参った参った」
おちゃらけな口調とは裏腹に、ランディウスは内心キレかけていた。
丸2日かけて行動するハメとなり、加えてバカレンジャー達を襲ったトラップの数々にはランディウスも気が気ではなかった。
少しでもランディウスの合流が遅れれば、取り返しのつかない事態になりかねなかったことも確かだ。
(まぁ、それでも命の危険性は無かったはずだろうけどな……)
考えてみれば、ネギの試験と銘打って置きながら、近右衛門のはっちゃけたお茶目に散々振り回されたのである。
(学園長?)
(な、何じゃ?)
(危険出張手当・夜間残業手当はきっちり請求しますよ……?)
有無を言わさないその思念に、近右衛門は首肯するしかない。
「と、君達も俺も見事に学園長の掌だったってことだな」
そこまで言った時、一同から黒いオーラが発せられた。
ランディウスが言ったことを理解したらしく、キレてしまったようだ。
「おじ~ちゃ~ん、ちょっと一緒に来てくれへんか~★」
「そうです。学園長……詳しく、それこそバッチリはっきり聞きたいことがあるです」
特に、ランディウスに助けられたものの、もう駄目かと思われるくらいの目に遭わされたうえ、泣かされた木乃香と夕映の怒りは凄まじい。
「こ、このかや。ほんの、ほんの出来心でって……フ、フォォォォォォォォッ……!」
両肩を木乃香と夕映に掴まれ、2-Aの面子に取り囲まれながら連行されていく近右衛門。
文字通り引き摺られるようにして教室の方へと向かっていく。
その光景を眺めながら、ランディウスはそれはそれは爽やかな笑顔で自分の大仕事が終わったかのような達成感に満たされていた。
「よし、これにて一件落着っと。帰ってゆっくりと風呂にでも入るかな……」
「ほぉう……私の誘いを断っておきながら、そんなことが大事だとは……な」
ランディウスが自室へと帰ろうとしたその時、その場に怨念めいた声が辺りに響き渡る。
ビクッとその声に反応するも、右肩に置かれた小さな手がランディウスにある種の恐怖感を覚えさせる。
「ククククッ、こんなところにいたとはな……さぁ、今日こそ日課を受けてもらおうではないか」
「え、エヴァ!!」
「こんばんは、ランディウスさん」
「ケケケ、ゴ主人ゴ立腹ダゼー。今夜ハ寝カサネートヨー!!」
盛大に偉そうに胸を張るエヴァと、従者らしく恭しく礼をとる茶々丸に人形1体。
そう、エヴァの電話から成績発表である今日まで、ランディウスは目立たないように過ごしていたのである。
なんだかんだ言って、エヴァの性格を考えれば電話の次は強引に誘いにくるに違いないのだ。
だからこそ、彼女に捕まらないように居場所を隠匿していたのだが……ここに来て気が緩んだか、警戒を怠っていたランディウス。
「まだ夜も早い……存分に日課を楽しもうではないか。行くぞ茶々丸!!」
「ランディウスさん、失礼します」
「ケケケ、地獄行キ特急、発車シマース!!」
「ちょっと待てやぁぁぁぁぁっ!」
低空飛行でランディウスをガッチリと捕まえた後、麻酔銃でランディウスの行動を束縛。
あえなくランディウスはお持ち帰りと相成ったのであった。
さて、その後は悲惨の一言に尽きる。
事の発端を抜け目なく2-A全員にもバラされていたため、近右衛門は制裁を頂戴することになってしまった。
2-Aの面子に連行されたのは、勝手知ったる2-Aの教室である。
珍しく夕映がリーダーシップを取って議題進行がなされ、近右衛門への制裁措置が論争される。
その間、近右衛門は真名が用意した十字架に縛り付けられていた。
逃走防止のために真名の拳銃、刹那の野太刀が押し付けられており、無駄口すら叩けない様子。
というか、猿轡がされている時点で、近右衛門が喋ることなどできないのだが……
「それでは……学園長への制裁措置を決議します。賛成多数で、この案でいくことにするです!!」
拍手喝采と共に、夕映が近右衛門の下にテクテクと近づいていく。
近右衛門の目の前に到着すると、まるで居合いを抜くように、取り出した油性マジックを抜き放つ。
シュダッ!
(フ、フォッ!)
一瞬の閃光が走ったかのように、夕映の右手が近右衛門の額辺りで一閃される。
その時間、僅か数秒。
スッと近右衛門の額から離したマジックを、ゆっくりと左手に握った蓋へと戻す。
「……つまらんものを書いた、です……」
その結果すら確認すること無く、ニヒルな哂いを表情に残したまま教室を後にする夕映。
タイミングを見計らってか、いいんちょが一同に号令をかける。
「起立! 礼!「「「さよなら、ぬらりひょん学園長!!!」」」」
一斉に、それこそ一糸乱れぬ統率で学園長に挨拶をし、教室を去っていく2-Aのメンバー達。
去り際に何人かが理事長の叩きやすそうなおでこを叩いていく。
そして、
(誰もいなくなった、なんて言ってる場合じゃないの~)
置き去りにされた近右衛門。
ご丁寧に真名か刹那の所業か、後頭部に張られた呪符が近右衛門の四肢を束縛している。
そして、額に達筆で書かれた夕映の作品。
『ぬらりひょん、参上!!』……と。
何とか用務員に見つけてもらったのが翌日の午前6時。
その後にあった会議で出席者を笑いの渦に巻き込んだのは、また別の話である。
とある老人のお茶目が迎えた笑いの結末。
後日、近右衛門の元にランディウスから手当の請求書が届き、それを知らん顔したところ、マジックアイテムもいくつかせしめられてしまったのである。
……まさに【因果応報】である。
さて、ランディウスはというと……
「そらそらそらそら! どうしたランディウス、避けぬと死ぬぞ!!」
「機動力25%ダウン。これ以上落ちると直撃しますよ、ランディウスさん」
「ケケケケケケケケ、遅イ遅イ遅イィィィィィッ!!」
「ぐわっつー!! 何でこうなるんだ~!!」
エヴァ一家の一斉攻撃にさらされる5日間(現世の時間で5時間とちょっと)。
エヴァの溜まりに溜まったストレスの解消相手に付き合わされたとか。
今回は人を呪わば穴二つという故事を、身でもって体験するランディウスであった。
『辞令 ネギ=スプリングフィールド
2003年4月2日を以て
麻帆良学園中等部教諭に任命す。
麻帆良学園学園長 近衛近右衛門』
余談だが、同時期に有力な国会議員経由で埼玉県の教育委員会からランディウスに教員免許が発行された。
誰の行動かはバレているかもしれないが。
おまけ
「ふぃーっ、散々な目に遭ったな……」
身も心もボロボロになったランディウスが自室に辿り着いたのは午後9時を回った時刻。
エヴァの日課といいつつも、死と隣合わせなストレス解消に体内時間で5日間も付き合わされたランディウス。
最初のうちは魔力で対抗していたものの、こちらは消費する一方だがエヴァは無尽蔵の魔力というハンデつき。
最後の5日目は逃げの一手でエヴァの体力切れを待ったようなものだ。
事実、これ以上にないくらいにストレスを解消できたエヴァは、お肌艶々でご満悦の表情のまま眠りについたし。
「さて、今度こそ風呂に入ってゆっくり寝るとするかな……」
懐から鍵を取り出そうとして、自室の扉に違和感を感じる。
扉の隙間から光がこもれているのを見ると、ランディウスのいない間に誰かが入り込んだようだ。
「全く、またあいつ等か……」
溜息を吐きつつも、自室のドアを開ける。
扉の向こう側では、備え付けたコタツでヌクヌクと垂れている刹那と、コタツの上で愛銃の分解整備をしている真名の姿。
「あ、お帰りなさ~い~」
「ふむ、遅かったじゃないか」
締結したはずの協定はどこ吹く風。
常備してあるお茶と煎餅、それと蜜柑の籠がコタツの上に出されている。
「ああ、もう勝手にやってくれ……っと?」
入り口の反対側、仰向けの状態で寝転びながらコタツに入っているもう1人の侵入者がここにいた。
部屋に入ったばかりのランディウスは気付かなかったが、手を洗うため奥にある流しに行こうとしたところ、その姿が目に入ったのである。
「あ、どもです。お邪魔するです……」
仰向けに寝たまま、愛飲の抹茶コーラのパックを傍らに置きながら読書に耽っているのは、誰あろう夕映である。
挨拶も束の間、再び開いている本に目を戻す。
が、図書館島の最深部で寛ぐ夕映の姿を知るランディウス。
その今のコタツで寝転びながら読書に耽る夕映が、これまで以上に幸せそうであることを――――
ツッコミはいらない。
心境の変化であろうと、その幸せそうな彼女を邪魔する気にはなれない。
「寛ぐのはいいが、消灯時間になったら帰るんだぞ……」
ただ一言だけ、釘を刺す。
返る言葉は無かったが、その場の雰囲気に和やかな時間が再来する。
刹那と真名の2人はともかく、許可もなく押し入ったことに、いくら夕映とはいえ気にしていないわけではなかったのだろう。
とりあえず、照れ隠しに抹茶コーラをひと啜りする夕映。
それを見た真名が、どこか楽しげな笑みを浮かべていたとか……
少し気恥ずかしくなったランディウスはそそくさと自分の着替えを持ち、風呂場へと向かうのであった。
後日、ランディウス亭には静かな読書空間を求めて、ある少女が時折出入りするようになったのは言うまでもない。
刹那はともかく、真名よりも礼儀正しいこの少女にランディウスはホッと胸を撫で下ろしたとか――――
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