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EPISODE.10「侵入」 投稿者:偽・弓兵 投稿日:07/02-01:15 No.846

EPISODE.10「侵入」


SIDE:翔馬

「さて――――それじゃあ、相棒!! 今からこいつらをぶちのめすぞ!!」

そう言いながら突っ込もうとした俺を止めるエヴァ。

「待て。アイツ…あのコウモリのヤツは私が相手をする」

「は? ――――でも、エヴァ大丈夫か? 今日は満月じゃねーぞ?」

エヴァは、呪いのため全力を出せない。コレが満月ならばある程度無理が効くらしいが…。

「ふん、私を誰だと思っている?」

そうニヤリと笑う.

「真祖の吸血鬼にして、“闇の福音(ダーク・エヴァンジェル)”だぞ? ――――まあ、忌々しい呪いのおかげで全力は出せんが、ヤツごとき3流吸血鬼気取りに負けるわけがなかろう?」

ふむ…勝算は有るみたいだな。――――ん? 吸血鬼きどり? あのコウモリがか?

「ああ…どうやら、ヤツは吸血コウモリのオルフェノクらしいな。――――さっきから自分が血を吸った人間の数を得意げに自慢していたよ…!!」

吐き捨てるように言うエヴァ。

「確かに私も人の血を吸って生きてきたが、その数を自慢するほど下種ではない。――――そして、ヤツのような3流が生きているのを許すほど私は寛大では無い」

なるほど…吸血鬼としてのプライドってやつか?

「でも、魔法が満足に使えないんだろ?」

「ふん…魔法があまり使えなくてもやりようは幾らでもある」

その自信ありげな様子にコウモリをエヴァに任せようかと考えるが――――

「血を吸えば、少しは力が戻るんだろ?」

「何? …確かに血を吸えば力が一時的に戻るだろうが――――」

「なら、俺の血を吸えばいい」

「――――何だと?」

エヴァが驚きの表情を見せる。

「貴様――――わかっているのか? 血を吸われると言う事は――――」

エヴァの言葉を遮り、

「解かってるよ。 同じ吸血鬼になったり、操られたりするんだろ?」

「なら――――」

「超たちの話だと、オルフェノクは外部からの魔力抵抗はかなり高いそうなんだ。特に精神系とかのヤツはな。だから大丈夫だろ」

「~~~~~~っ!! ええい!!もう私は知らん!! どうなっても文句を言うなよ!?」

諦めたかのようなエヴァの返事を聞いて、茶々丸に指示をする。

「茶々丸。そーゆー訳で、エヴァが俺の血を吸っている間、奴らの足止めをオートバジンと頼む」

「――――解かりました。 では、いきましょう。兄さん」

茶々丸の言葉にオートバジンも頷き、手に持ったタイヤ型のバルカン砲――――『ホイールバスター』を構えて先に突っ込んでいく。

茶々丸も、その後に続く。



「まあ、血を吸うと決めたからには覚悟しろよ?」

そう言いながら、俺の首筋に口を持っていくエヴァ。

「まあ、この後ゴリラと戦うから手加減してな?」

「解かっているさ――――じゃあ、吸わせてもらうぞ?」

ガプッ!

「う――――」

俺の首筋に顔をうずめて、血を吸うエヴァ。

――――をををっ!? い、意外と気持ちいいかも!?

そんな俺が新たなスキルが目覚めようとしている中でも、エヴァの吸血行為は続く。

ちゅううううううう

「おーい、エヴァ?」

ちゅうううううううううううう

「えーと、もういいんじゃないかなー」

ちゅううううううううううううううううううううううう

「――――いい加減にしろ!!」

ゴツッ!!

「アタッ!?」

エヴァの頭を拳骨で殴る。

「痛いじゃないか!?」

頭を抑え、涙目でこちらを睨むエヴァ。

「幾らなんでも吸い過ぎだっ!!」

一リットルくらい吸われたんじゃねーか?

「う。――――いや、予想外にお前の血が美味かったものでな?」

顔を赤らめ、そう言うエヴァ。

「そーか?」

「私もびっくりした。そこらの女などよりもお前の方が美味いぞ? ――――それに予想以上に魔力が戻っている…全盛期の2割ほどだが」

「褒められてるのか? それは」

「褒めてるのさ…ん、やはり美味い」

そう言いながら、口元に残った俺の血を指で拭って口に入れる。

その姿は、幼い外見に似合わず妖艶な仕種だった。

「写真、写真――――って言ってる場合じゃなかった。…魔力が戻ったんなら、アレは任せてもいいな?」

「ああ、充分すぎるほどの魔力が漲っている…さっきも言ったが、あの3流吸血鬼モドキは私の獲物だ」

「じゃあ、俺の相手はあのゴリラってことで…」

そう、言いながら少し離れたところで戦っているところに向き直る。

そこでは、茶々丸とオートバジンが見事なコンビネーションでオルフェノクたちを翻弄している。

「ほう…さすがは茶々丸の元となったAI…いや、兄か。私以外に茶々丸とあれほどの連携ができるとはな」

「まー、普段からよく専用回線使ってネットで話してるみたいだし」

アイツのスペックって、ノーマル時でさえとんでもないのにあのマッドどもが改造しまくってたらしーからなぁ。

「まあいい、なら私は行くぞ?」

そう言って、空に浮かび上がるエヴァ。

「貴様の相手は私だ!! 3流吸血鬼きどりが!! 本物の吸血鬼の力を見せてやろう!!」

コウモリを挑発したエヴァは、上空にヤツをおびき出す。

どんどん空に上がっていくエヴァ。

そして、それを追うコウモリ。

茶々丸も、主人を援護するために体のブースターを全開にしてそれを追う。




「さて…んじゃ、こっちも始めるか?」

そういいながら、ゴリラオルフェノクに相対する。

「――――と、その前に、お前等の目的はなんだ?」

一応、聞いてみる。

悪役らしく説明ゼリフを言ってくれれば感謝するんだが。――――まあ、エヴァと茶々丸を襲った時点で半殺し確定だが。

そんな俺の疑問に、ヤツの幽鬼体が影から現れて話し始めた。

――――おいおい、マジで話始めたよ。

『俺たちはここにいる、近衛木乃香とかいうガキを連れてくるように依頼されてな』

――――8割殺し確定。

『依頼人はしらねーが、何かの実験にでもつかうんじゃねーか? まあ、連れて行く前に俺たちが楽しませてもらうがなぁ、ははははははは!!』

おめでとう、アンタ全殺し確定です。

「へぇ…ところで何でそんな事をベラベラと喋るんだ?」

内心の怒りを押し殺して訪ねる俺。――――まあ、ありえんとは思うがこいつらが囮という可能性も捨てきれない。

警備をしている俺たちがこいつ等の相手をしているうちに、別の相手がこっそり――――

という具合に。――――木乃香ちゃんには刹那が付いているから大丈夫だろうが。

『ああ? そんなもん、いちいち探すのがメンドくせーからお前を痛めつけて居場所を聞くんだよ。 今なら、痛くないように殺してやるから早く話せよ!!』

よし、こいつらにそんな芸当はできないな。

コレで――――容赦なくブチ殺せる!!

「話すわけねーだろーが、この3流!! あの世に逝ってこい!!」

そう怒鳴りながらオーガフォンを開く。

手早く変身コードを入力し、ENTERを押す。

≪Standing-by≫

そして――――

「“変身”!!」

オーガフォンをベルトに叩き込む。

≪Complete≫

その機械音声と共に、俺の体を金色のフォトンストリームが鎧――――フォトンフレーム――――を形作り、次の瞬間、俺の体を黒い鎧を身に纏った『仮面ライダーオーガ』へと変えていた――――――――




「――――いくぞ」

俺は小さな声でオートバジンにそう呟くと、手にオーガストランザーを持ってゴリラに向かって走り出した。

シュッ!!

右手のストランザーを横薙ぎに振るう。

その斬撃を、思いもよらぬ素早い動きでかわした。

――――ちっ! 思ったよりも素早いな。

距離を一旦取ったゴリラは、連続ジャンプで橋を支える太い鋼線のロープを伝って俺たちの頭上に移動する。

そして――――

落下しながら、その拳を俺たちに叩きつけようとした!!

ドガンッッ!!!!!!!!!

その攻撃は、コンクリに放射線状のヒビをいれる

「ちっ!!!!」

俺はその場所から飛び下がってそれを回避していた。

そして、こちらを向いたゴリラの背後からオートバジンのホイールバスターからガトリングガンが発射された。

ガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!!!

それを受けて怯むゴリラ。

その隙を逃さず、ストランザーを構えて突撃。

「うりゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」

叫びながら、唐竹割りに叩き切ろうとする!!

――――が、次の瞬間、ヤツの腕が突然数倍に膨れ上がる!!

「なにっ!?」

そして、俺の斬撃をその肥大した腕で受け止める。

ザシュッ!!

ストランザーはヤツを切り裂く事は叶わずに、その肥大した腕の中ほどを切り裂くにとどまった。


攻撃を受け止められた事をすぐに理解した俺は、ストランザーをすぐに抜いて後ろに下がる。

もちろん、その時できる隙を出さないようにするために、オートバジンが援護する。



しかし予想した追撃は無く、ゴリラはその場に留まる。

そして、距離を取った俺は、改めて変化したゴリラを観察する。

あれは――――俺の“疾走態”と同じような形態変化か?

その腕を肥大化させたその姿は――――

「“剛力態”とでも言うんかね?」

唯でさえ強力な腕力をさらに強化したらしい。

「――――ん?」

俺はあることに気付いた。

「傷が――――消えていく?」

俺がストランザーで中ほどまで切り裂いたヤツの右腕が、少しずつ再生されていく。

「強力な再生能力か…厄介だな」

あそこまで再生能力があるとするのならば、通常攻撃は意味が無い。

それこそ、ゼロスマッシュかオーガストラッシュを直撃させなければならないんだが――――ゼロスマッシュはともかく、ストラッシュはここでは使えない。アレは威力がデカすぎる。

「――――ん? そー言えばアレがあったんだよな」

とあるツールの存在を思い出す。

そして、再生が終わったのかこちらに向かってこようとするゴリラ。

だが――――

その時、俺の後ろから聞き覚えのある声がした。

「“我が手に宿りて 敵をくらえ――――紅き焔”!!!!!」

グワッ!!!

俺の後ろから放たれた焔が、ゴリラを焼き尽くそうと迫る。

その焔は、ゴリラに直撃するが――――

「ええ~~~っ!? あ、あれが効かないんですか~~~!?」

そう、俺の後ろで叫んだのは先ほど別れたはずの『佐倉愛衣』ちゃんだ。

なら――――

「愛衣。この程度で動揺するんじゃありません!!」

やっぱり。

「翔馬さん。私たちも協力します!」

高音…じじいに報告してこいって言ったろ?

「もちろん、学園長には魔法で報告いたしました。見回りの私達が侵入者を放って置けるはずがないでしょう?」

――――ま、いいか。

ここで無駄な口論をしている場合じゃないし。

「まー、来たんなら手伝ってもらうぞ。――――いつもの通り、愛衣ちゃんは後ろから援護。高音はそのガードとヤツの牽制だ。…OK?」

俺たちが組んだ時のフォーメーションをとる。

コレが刹那と真名と組んだ時は、援護を真名に任せて俺と刹那が突撃する。真名ならば仮に敵に接近されてもどうにでもできる技量を持つが、愛衣ちゃんは魔法専門なのでどうしても護衛がいる。その点影の使い魔を持ち、接近戦用の術を持つ高音はオールラウンドに戦え、相性がいい。

「じゃあ――――いくぞ!!」

まずはオートバジンがガトリング砲を撃つ。

ガガガガガガガガガ!!!!!

ゴリラは腕を盾にして、その攻撃をしのぐ。

射撃が止んですぐに俺はヤツに突っ込む。

後から、オートバジンと高音の影が後を追う。

シュッ!!

高音の使い魔が俺を抜き去り、ゴリラを取り囲んで牽制する。

周りを取り囲んだ影を見るが、俺から目を離さない。

――――警戒しているのだ。俺の剣――――オーガストランザーを。

あの腕を中ほどまで切り裂いた剣――――アレにさえ気を付ければ良いとでも思っているのだろう。

――――ならば、それを逆手にとる!!

「高音!! アレの動きを一瞬だけ止められるか!?」

「は?――――“黒衣の夜想曲”なら――――でも、ホントに少ししか持ちませんよ!?」

一瞬だけあれば充分!!

「なら、頼む!!――――愛衣ちゃんはもっと後ろに下がって!!」

念のために、愛衣ちゃんを後に下がらせる。

これからする攻撃には援護はいらない。

「――――“黒衣の夜想曲”!!」

高音の体を影が覆い、高音の背後に黒衣の仮面を被った巨大な使い魔が顕現する。

それを横目に、俺はストランザーを構えて突っ込む。

「シッッ!!!」

剣を袈裟懸けに振り下ろす。

それを受け止めずに下がるゴリラ。しかし、すぐさま距離を詰めて襲い掛かる。

ガシッッ!!

その襲い来る巨大な拳を、ストランザーで受け止める。

――――だが、その強力な一撃はストランザーを俺の手から弾き飛ばした。

それを好機とみたのか、再び拳を振り上げるゴリラ。

だが――――

バシッッッ!!!

それを受け止めたのは、高音だった。

巨大な拳をしっかり受け止める高音の影。

その事態に、ヤツの動きが完全に止まった。

その間に、俺はストランザーが弾き飛ばされた次の瞬間から用意していたオーガショットにミッションメモリーを装着する。

≪Ready≫

そして、オーガフォンでチャージ。

≪Exceed-charge≫

瞬時にフォトンストリームを伝って、フォトンエネルギーがオーガショットに集まる。

そして、ジャンプ!!

「高音!!」

俺の呼ぶ声に、すぐに後に下がる高音。

そして――――

ジャンプした俺に気付いたヤツは、俺を迎撃しようと拳を振るう。

それに対して俺は右手に装着したパンチングユニット――――オーガショットを構え―――――

「“グラン――――インパクトッッッ”!!!!!!!」

俺の叫びに応えるかのように光輝くオーガショットと、ゴリラの拳が激突する。

バシィィィィィッッッ!!!!!

凄まじいエネルギーが俺たちの間で激しく弾ける。

そして――――

俺は後ろに飛び、高音のいるところまで下がる。

次の瞬間――――ゴリラオルフェノクの体は、青い炎を吹き上げ、Ω(オメガ)の紋章を浮かび上がらせながらゆっくりと灰化していった。




「片付いたな…」

変身を解いた俺は、側にいた高音に話しかける。

「ええ…そうですね」

「しかし、よく俺が剣を飛ばされた時に動揺しなかったな?」

「アレがわざと飛ばされたという事は解かっていましたしね」

そう返す高音。

確かに、剣を警戒しているヤツの油断を誘うために剣をわざと弾き飛ばされた。

「まあ、そこそこ長い付き合いですし」

まあ、一年ちょっとの付き合いにしてはよく出来たコンビだよなぁ…。

それに、この俺がこっちの世界に入ってからの仕事の4割は高音と愛衣ちゃんでやってきたからなぁ。

ちなみに残りの4割は刹那と真名。2割はその他の人――――学園内に住むオルフェノクの人たちなどだ。

「まあ、それより――――」

俺は高音の方を見て、

「お前、服は大丈夫なのか?」

「は?」

その高音の返事とともに、高音の背後の使い魔が崩れる。

「え?」

それと共に、高音の着ていたボディースーツも消え去った。

――――うん、そーなると思ったんだよね? ゴリラの拳を受け止めたときに使い魔に火花――――魔力漏れた証拠――――が見えたからね。

「き――――きゃあああああああああ!?」

素っ裸になった高音。

説明すると、高音のこの奥義は、全身を影でできたボディースーツで覆うので、魔法が解除されると裸になるという、何とも萌えな――――ゲフンゲフン!! ちょっと困った状態になってしまうのである。

「ほら、コレを着ろよ」

そういいながら、着ていた上着を差し出す。

「うう、ありがとうございます」

涙目になりながらもそれを受け取る高音。

その様子を、勿論先程ゴリラを倒したオーガショットで撮るのは忘れない。

――――ん~、やっぱり高音も可愛いなぁ…。

そんな事を考える俺だったが、上空で戦っているエヴァの事を思い出す。

空を見上げると、エヴァたちが撃ちあいをしている。

そして――――

「“来れ氷精!! 闇の精!! 闇を従え 吹雪け 常世の氷雪!!――――闇の吹雪”!!!!!」

エヴァが放った強力な吹雪と闇の攻撃魔法は、コウモリが放った風の刃を飲み込み、ヤツ――――ヴァンパイアバットオルフェノクを、灰も残さずに消滅させてしまった。

これが“闇の福音”の実力か――――

エヴァの実力を実際に見て、まだまだ自分が未熟だと改めて感じた。





SIDE:愛衣

「――――ということが昨日あったんですよ」

私は昨日あった事を話し終えると、注文していたオレンジジュースを口に含む。

「へぇ…そんな事があったんだ」

そう言ったのは、この喫茶店――――『クローバーハーツ』のマスターである『明石祐成(あかしゆうや)』さん。

翔馬先輩と同じオルフェノクで、少し前まで警備員をやっていたけど喫茶店を開くために引退したそうです。

「しかし、翔馬君も大変だよねぇ…昼は2‐Aの子たちの面倒をみて、夜は警備員として戦うなんて…」

グラスを拭きながら明石さんがそう言いました。

「いや、大変なのは2‐Aの先輩達ではないかと…」

汗を額に浮かべながらそう言った。

翔馬先輩は、確かに優しい時もある。だけど、人をからかっている時が圧倒的に多いのはどうなんでしょうか?

「ははは、まあそれもいい経験さ。それに翔馬君は結構いいんじゃないかい? 外見はあの通りかなりいいし、頭もいい。彼氏にするならいいんじゃないかい?――――まあ、妹の祐奈に手を出したら殺すけどね。はははははは」

「それは――――そうなんですが…」

明石さんのその言葉――――後半はスルー――――に頷く私。

――――確かに、性格を除けば翔馬先輩はかなりのLVだ。実際、高等部には翔馬先輩のファンクラブがあったりするし、中等部でもその動きがある。

――――2‐Aの人達や私達以外の人がいる場所ではネコを被っているし。

性格といっても、悪戯好きで人をからかうのが好きなだけで本当に人を傷付ける人じゃないってお姉さまも言ってたし…。

「うん…翔馬先輩ってかなりいいですよね」

そう呟く私に、

「駄目だぁぁぁぁぁ!!!!!」

バンッ!!

と、喫茶店のドアを開けて入ってきたのは――――

「お、お兄ちゃん!?」

私の実の兄――――『佐倉宏樹(さくらひろき)』が、コンビニ店員の格好のまま入ってきた。

「翔馬君は止めときなさい!! 確かに彼は実はいい人かもしれないけど――――もし愛衣が付き合うことになったらどんなことをされるか…!!」

ちなみに、お兄ちゃんもオルフェノクです。

――――お兄ちゃん、普段は基本的にお人よしで、大抵の頼み事は断れない(人に迷惑をかける様な頼み事は断固拒否している)。誰にでも優しく接し、周囲の評判は割と良いんだけど…。

「愛衣!! 本当に翔馬君は止めときなさい!! お兄ちゃんは許しません!! まー他の男でも許しませんが!!」

実はシスコンなんです。明石さんと同じように。

「いや~、愛衣ちゃんと翔馬君が付き合えば祐奈は無事になるからいいなぁ。はははは」

ほら。

「あ、明石さん!? 裏切るんですか!? 同じように妹を持つ仲間なのに!?」

「はははは、祐奈のためなら裏切り者の汚名を着る事も辞さないよ? 私は?」

「う、裏切ったな!? 俺の気持ちを裏切ったんだ!!」

そんな、コントじみた光景が繰り広げられている喫茶店に、またお客さんが――――

「また、愛衣ちゃんを困らせているんですか…」

あきれたような口調の女性は、『矢上ユウ』さん。

麻帆良大学医学部でオルフェノクの研究をしています。

そして――――

「あはははは、宏樹さん。今、何か、俺の悪口を言ってませんでしたか?」

翔馬先輩が入ってきた。

「しょ、翔馬君!?」

顔が引きつるお兄ちゃん。

「しかたないなぁ…そーゆー事を言うなら、この写真を愛衣ちゃんに――――」

そう言いながら、懐から写真をとりだそうとする翔馬先輩。

「ごめんなさい、額を地面にこすり付けて謝りますからそれだけは勘弁してください」

お、おにいちゃん…土下座するほどの弱みを握られてるの…?

「いやー、もっと誠意ってやつを見せてもらいたいなぁ~」

にこやかな翔馬先輩。――――とっても楽しそうです。

「それより、愛衣ちゃん。高音ちゃんと待ち合わせてるんじゃなかったのかい?」

「ああっ!? そういえば!!」

お、お姉さまとの待ち合わせまで――――あと10分!?

「す、すみません!! ご馳走様でした!!」

そういいながら、私は慌てて「クローバーハーツ」を後にした。





SIDE:翔馬

「じゃあね。愛衣ちゃん」

「はい、それでは!!」

そういいながら、走り去る愛衣ちゃん。

「それで、翔馬君。約束のブツは――――?」

マスター――――明石さんの言葉に、

「ええ…コレです」

そう言ってカバンから約束されたブツを取り出す。

「ほお…さすが、いい仕事をするね」

「お褒めに預かり光栄です」

ははははははは、と笑い合う俺とマスター。

「こ、コレって…」

ブツを見て、顔を引きつらせる矢上さん。

「マスターの妹さんのフィギュア…?」

そう、コレこそ俺が作り上げた『HGシリーズ』第2弾!!

『HG 明石祐奈』!!!

資料提供 明石祐成

だっ!!!!

「なにやってるんですか!? アナタたちは!?」

バンッ!!

と、カウンターを叩きつける矢上さん。

「幾らなんでもやっていいことと悪い事があるでしょう!?」

「そうですよ? 翔馬君?」

頼んだ本人がそーゆー事いいますか?

「とゆー事で、コレは兄である私のモノと…」

いそいそとフィギュアをしまうマスター。

「そうゆう事では…!!」

激高しかけた矢上さんの言葉を遮り――――

「ところで、翔馬君。昨日のオルフェノクについてなんですが――――」

話を急に変えるマスター。

こーゆーとこは上手いんだよなぁ…。

ま、俺も助かるけど。

「ええ…昨日のヤツらはどうやらフリーのオルフェノクみたいですね」

「フリーの? つまり、スマートブレインの刺客とかじゃないわけね?」

矢上さんがそう言った。――――誤魔化せたみたいだな。

「ええ…どうやら、誰かが木乃香ちゃんを攫ってくるように依頼したみたいです」

「そうか…しかし、近頃スマートブレインも不振な動きを見せている。安心はできないな…」

「そうね…」

「まあ、スマートブレインのオルフェノクが襲ってきても、俺たちは愛衣や生徒――――皆を守るだけですよ」

と言ったのは宏樹さん。――――やっと復活したらしい。

「そうだな…それより、他の奴らは?」

今日は学園内のオルフェノクを集合するはずだったのだが…

マスターの言葉に、

「他の皆は仕事が忙しくて都合が悪いみたいです。――――俺もバイトの休憩中に抜け出してきたんですから」

だから宏樹さん、コンビニの制服なのか。

「まぁ、急だったしな…」

仕方無いといった顔のマスター。


そこで、今日の話し合いは終わり、各々仕事に戻っていった。



俺は、自分の家に帰りながら、宏樹さんの言葉を思い出す。


――――そうだよな…俺たちが皆を守らないとな…

新たに、皆を守る決心を固めながら俺は家へと帰っていった。


――――To be contenued

MAGISTER MAGI&MASK’D RIDER 000 EPISODE.11「魔書」

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