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第二十四幕 『ワカラヌコタエ 後編』 投稿者:笹谷蟹 生 投稿日:07/27-13:41 No.996
「―――――――“ネギ・スプリングフィールド”に助言者がついたかも知れん」
本日の茶道部の活動の後、エヴァンジェリンはそう告げた。
「姑息な手を使ってくる可能性が高い。しばらく、私の傍を離れるなよ」
「…………はい、マスター」
主の言葉に、茶々丸はそう答えた。
「まぁ、奴らにそんな度胸があるとは思わんがな」
エヴァンジェリンは、鼻で小さく笑った。
…………ザッザッザッ…………
「―――――ん?」
誰かが、砂利の上を歩む音がする。
…………ザッザッザッザッ…………
(誰だ? 部員の誰かが忘れ物でもしたのか?)
そう思考しているうちに足音はどんどん近づき、やがてその主が姿を現した。
「お、いたいた。おーい、エヴァ」
「…………タカミチ…………」
気さくに手を上げてやって来たのは、“高畑・T・タカミチ”。
その姿を認めると同時に、エヴァは小さく舌打ちをした。
隣で、茶々丸が会釈をする。
「…………わざわざ何の用だ。仕事ならちゃんとしてるぞ」
「学園長がお呼びだ。“一人で来い”だってさ」
予想だにできた答えなだけに、溜め息が漏れた。
「―――――わかった。“すぐに行く”と伝えろ。
………しかしタカミチ、お前は良いようにじじいに使われすぎだぞ。
そんなことを伝える為だけに、わざわざ来たのか?」
「他に適当な人がいなかったんだよ。それに、エヴァは他人に敵意を向けすぎるから、
皆ビビッてちゃんと伝えてくれないんだよ」
「別に、お前と特別仲良くなったつもりは無いんだがな」
「つれないなー………」
タカミチはそう言うと頭を掻いた。
「茶々丸、一足先に戻っていろ。すぐに済ませる。必ず人目のある所を歩くんだぞ」
茶々丸はコクリと頷いた。
「何の話だよ? “また”悪さの話じゃないだろーな?」
「五月蝿い。貴様には関係ないだろう」
やがて、二人分の足音が去っていく。
「お気をつけて――――――マスター」
抑揚のない静かな声で、彼女は主を見送った。
『魔法先生と紅蓮の聖竜騎士 ~X-EVOLUTION ANOTHER~』
第二十四幕 『ワカラヌコタエ 後編』
――――――と、人目のある場所を歩くよう主には言われたのだが、茶々丸は一人土手を歩いていた。
手には、何かが入ったビニール袋を提げている。
「「「…………」」」
その背後の草むらに、コソコソと見え隠れする影が三つ。
ネギ、明日菜、カモ達である。
「…………茶々丸って奴が一人きりになったぜ、兄貴! 今がチャンスだ! 一気にボコッちまおう!」
と、まずは小声でカモ。
「ダ、ダメ―――! 人目についたら拙いよ! もう少し様子を見ようよ」
と、次にこれはネギ。
かなり切羽詰った声だ。当然といえば当然の反応であろうが。
「な……何か『辻斬り』みたいでイヤね…………しかもクラスメイトだし」
最後は明日菜。
…………いや、『辻斬り』どころか『闇討ち』だから。まだ日は出ているけどネ。
「でもまぁ、あんたやまきちゃんを襲ったっていうのはホントなんだし、何とかしなくちゃ…………ん?」
「如何かしたんですか? アスナさん」
「あれ…………」
と、皆は明日菜の指差した方向に、目をやった。
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茶々丸の行く先で、一人の女の子が泣いていた。
どうやら、桜の枝に風船がひっかかって取れなくなったらしい。
「…………」
すると茶々丸は、しばらく枝にひっかかった風船を見つめた後、
バシャッ!!
背部と脚部のブースターを展開。
みるみる上昇し、枝に頭をぶつけながらも、風船を取ってやった。
「お姉ちゃん、ありがと―――♪」
女の子は喜び、笑顔で礼を言った。
「バイバーイ♪」
嬉しそうに手を振り、去っていく女の子に、茶々丸も手を振り返した。
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「「ポッカ―――――ン…………」」
二人は、呆気にとられていた。
何にと言えば、茶々丸が人助けをした事にではなく、勿論、先ほどの茶々丸自身についてである。
「そ、そー言えば茶々丸さんってどんな人なんですか? ―――っていうか、今飛んでましたよね?」
「い、いや………話とかしたことなかったから………あんまり気にしたことなかったな…………」
「…………いや、だから『ロボ』だろ? 流石日本だよな~~『ロボ』が学校に通えるなんてよぅ」
困惑する二人に、カモはさらっと言った。
「え゛え゛え゛っ!?」
「じゃ、じゃあ、茶々丸さんって人間じゃなかったの!?」
「オイィィィィ!! 見りゃ判んだろぉ!? 耳んトコとか、後頭部の螺子とかよォ!!」
耐えきれず、カモは思いっきりツッコんだ。
「いや…………変わった耳飾りしてるなーとは思ったけど……」
「ぼ、僕も……あれ、てっきり髪飾りなのかと…………」
「ぅおぉいっ!! 普通はヘンに思うでしょうが!」
「い、いや~~……ホラ、私、メカとかに弱いし…………」
「僕も………実は機械関係は苦手で…………」
「そーゆー問題じゃねぇよぉ!? つーか、二人ともマジボケっスか!?」
てけてん♪
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その後も、茶々丸の善行は続く。
歩道橋で四苦八苦しているおばあさんを、おぶってあげたり。
道端で転んで、荷物をバラ撒いてしまった女性を手伝ってあげたり。
車椅子が段差に引っ掛かって、困っている男性を助けてあげたり。
更には、ドブ川の真ん中を流されていた仔猫を、身を挺して川に突入し、見事助け出したり。
“一日百善”の目標でも立てているのか? と勘ぐってしまうぐらいに、茶々丸は善行を繰り返した。
彼女は、街の人気者だった。
そして、極めつけはこの後だ。
夕刻を告げる鐘の音が響く中、茶々丸はある場所へ足を運んでいた。
「ど、どこに向かってるんでしょう……?」
「こっちって――――確か、使われてない旧校舎の方じゃない?」
ネギ達はその場所まで、ついて行ってみた。
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やがて、茶々丸は旧校舎前に辿り着いた。
と同時に、校舎の陰やら柱の陰やらから、野良猫らが、続々と現れるではないか。
茶々丸は袋からネコ缶と受け皿を取り出すと、慣れた手つきで皿に移し、猫達に与えてやっていた。
猫達がエサを食べる姿を見ている彼女の表情は、夕日よりも穏やかに、しかし輝いて見えた――――――
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「………」
「…………」
「「……………………いい人だ」」
ネギと明日菜の声が、見事に唱和する。
「ちょッッ……! お二人さん!! しっかりしてくださいよぅ!!」
カモが(茶々丸には聞こえない程度の)大声(?)で、叫ぶ。
「兎に角ッ!! 人目のない今がチャンスっス!
ここは一つ心を鬼にして、ひと思いにボカーっと!」
「で、でも………カモ君」
ネギは躊躇いつつも、言った。
「これが――――本当に正しいことなの?」
「ネギ…………」
いくら敵とはいえ、教え子に手を上げるのは、ネギにはどうしても正しいとは思えない。
先ほどの善行の数々を見てしまった後では、尚更だ。
「何言ってるんスか! やらなきゃ殺られるのは兄貴なんですぜ!?」
「判ってるけど…………」
「兄貴の気持ちは判らんでもないです。
…………でも兄貴、相手は正面切ってまともに戦り合えない奴らなんですぜ?
正々堂々も良いけど、この好機は二度とないかもしれないんスよ!?」
「…………!!」
確かに、それも事実だ。
相手は『最強の魔法使い』とその『従者』。
明らかに実戦経験の少ないネギ達に、勝機は殆ど無いに等しい。
―――だから、こうしてどちらかが一人になるのを、待っていたのではないのか?
「…………」
―――だから、(不完全ながらも)【仮契約】をしたのではないのか?
「……………………」
もう覚悟は――――した筈だ。
「…………判ったよ、カモ君…………」
ネギは、背負った杖を手にした。
「…………しょーがないわねー…………」
溜め息一つ、明日菜は言った。
どちらも、苦々しい表情をしていた。
鐘の音が、止んだ。
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―――――後方より接近する存在を感知。個体数・2。
野良猫たちの食事も終わって、片付けをしている最中のことだった。
茶々丸は、背後を振り返る。
「…………こんにちは。ネギ先生、神楽坂さん」
そこには杖を携えたネギと、その傍らに立つ明日菜の姿があった。
茶々丸は受け皿を手際よく袋に入れ、立ち上がる。
「…………油断しました。でも、お相手は致します」
言いながら茶々丸は、後頭部の螺子を外す。
「あの…………」
と、ネギが口を開いた。
「茶々丸さん、もう僕を狙うのを、止めてはいただけませんか?」
茶々丸は答える。
「…………申し訳ありません、ネギ先生。それは私の一存では決定できません」
続けて、こうも言った。
「―――――――――――――――私にとって、マスターの命令は絶対ですので」
「ううっ……………仕方ない、です…………」
残念そうにネギは言い、明日菜と何やら密談を交わす。
「――――――――――では、茶々丸さん」
ネギの表情が、強張っていく。
「――――――――――はい」
茶々丸は、外した螺子を袋に投げた。
「…………ごめんね」
明日菜が悲しげに、謝罪する。
「出席番号8番、“神楽坂 明日菜”さん…………良いパートナーを見つけましたね、ネギ先生」
ぱさん。
袋が、乾いた音を立てた。
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(グレン様! 妙な気配がするっぴ!!)
それはちょうど、ネギ達の様子が気になったグレンとピィが、校内を探しているときだった。
(何? …………どこだ?)
まだ校内だったので、周りを気にしつつ小声で聞き返す。
幸いもう下校の時間なので、通行者は殆ど居ない。
(ちょっと待つっぴ…………あの建物のある方角からだっぴ!)
(あっちは…………確か、旧校舎か?)
あそこなら、人気は無い。もし万が一、何かがあったら…………
(急ぐぞ、ピィ。…………何か嫌な予感がする)
(ガッテンだっぴ!)
周囲に人が居なくなった事を確認し――――――グレンは、跳んだ。
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――――――戦闘、開始。
「行きます!!
【契約執行10秒間(シス・メア・パルス ペル・デケム・セクンダス)】!!
【ネギの従者(ミニストラ・ネギィ)『神楽坂 明日菜』】!!!」
即座に詠唱。
ネギの魔力が明日菜へと供給される。
(んッ………)
一瞬、明日菜の身体に奇妙な感覚が走る。
しかし、本当に一瞬だけだったので、明日菜は無視して一歩、踏み込んだ。
――――――地を蹴る。
ドンッ!!
「わ………」
驚いた。
ただいつも通りに地を蹴った筈なのに、明らかに速度が違うのが判る。
(身体が羽みたく軽い…………これが【契約】の効果ってこと…………!?)
********************************************
そうこうしている内に、茶々丸に急速接近。
加えて言うならば、ここまで接近するのにようした時間は1、2秒ほど。
「! これは――――」
茶々丸が、驚いた声を出す。
「っりゃ!!」
明日菜が、右手を振るう。
パシンッ!
が、あと少しというところで、茶々丸の左手がそれを阻む。
(―――! 今ッ!!)
初撃は囮。
本命は左のデコピン!
明日菜は、左手を突き出した。
「えいっ!!」
――――だが、明日菜は致命的なことをしていた。
目を瞑って、放ってしまったのである。
思い切って攻撃したのは良かったが、これでは、
ガ………ッ!
ただの「テレフォンパンチ」――――ならぬ「テレフォンデコピン」だ。
簡単に防御される。
標的を見ないで、攻撃したからだ。
「あっ!?」
デコピンは、茶々丸の前髪を、僅かに掠っただけだった。
「くっ」
もう一度、今度は右手でデコピンを放つ。
が、それもまた、ギリギリでかわされてしまう。
それでも明日菜は、攻撃の手を緩めなかった。
********************************************
(――――――迅い。素人とは思えない動きです)
一方、紙一重で攻撃をかわし続けている茶々丸は、明日菜の動作に、内心舌を巻いていた。
いくら【契約】の効果とはいえ、素人でここまで身体能力が向上するのは稀である。
少しでも訓練すれば、きっと優秀な【魔法使いの従者】になることだろう。
「ッ!!」
茶々丸も、反撃に出る。
放つは明日菜と同じく、デコピン。
「っうわッ!?」
だが、流石は明日菜だ。
持ち前の反射神経で、茶々丸の攻撃を―――やはり紙一重で―――かわしている。
双方の力量は、五分と五分。
「ってぇぇぇい!!」
――――――だった。
ガクン――――――
「え?」
明日菜の身体が、急激に失速する。
【契約執行】が切れたのだ。
「!!」
その隙を茶々丸はすかざず捉え、明日菜の足を払う。
「って、うわわわわわわわ!?」
バランスを失った明日菜は、見事に転んだ。
それを確認した茶々丸は、すぐさま目標を変更―――ネギに目を向け、
「――――【魔法の射手・連弾・光の11矢(サギタ・マギカ・セリエス・ルーキス)】!!」
それと同時に放たれた、光の矢を目撃した。
********************************************
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル!!」
【契約執行】で明日菜に魔力供給の後、すぐさまネギは呪文を唱える。
「『光の精霊11柱(ウンデキム・スピリトゥス・ルーキス)』…………」
(茶々丸さんの注意が、アスナさんに向いている今のうちに―――)
「『集い着たりて敵を討て(コウエンテース・サギテント・イニミクム)』…………」
この瞬間で、茶々丸を完全に、
(斃……す………?)
―――詠唱が、途中で止まる。
(本当に―――本当に、それで良いの?)
それは、躊躇い。
判ってる。
自分の生徒を傷つけるような行為は、教師として、人間として、愚かな行為だという事。
それぐらい判ってる。
(でも――――――)
カモの言葉が、頭を過ぎる。
『やらなきゃ、殺られる』
「ううっ…………!」
ネギは、硬く目を瞑り、
「――――【魔法の射手・連弾・光の11矢(サギタ・マギカ・セリエス・ルーキス)】!!」
全ての矢を、解き放った。
********************************************
茶々丸は冷静に、状況を分析した。
「――――――追尾型魔法至近弾多数接近。回避不能。迎撃不可能。」
絶望的な数値。
計算する必要性すら皆無。脱出は、100%不可能。
「…………」
敵同士なのだから、こうなる可能性は十分に予測できた。
後悔はない。
元より、そんな感情はプログラムされていない。
が、一つだけ。
たった一つだけ、気がかりな事があった。
―――自分が壊れてしまったら、あの野良猫たちはどうなってしまうのだろう。
今日助けたあの子猫は、この先、無事に生きていけるのだろうか。
「すいません、マスター…………」
【従者】の勝手な願いだというのは、承知の上。
それでも彼女は、主に伝えたかった。
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「――――もし私が動かなくなったら、ネコのエサを――――――」
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「ッ!!!」
その声は、ネギの耳に届いた。
感情の見えない―――しかし、悲痛な“ココロの叫び”を。
(ダメだ)
そう、駄目だ。
(ダメだ!)
そう、駄目なのだ。
(こんなことのために、僕は『魔法使い』になったんじゃない!!)
こんなことは――――――間違っている!!
――――――ドクン…………
――――――懐のペンダントに、明かりが燈る――――――
「『戻れ』!!」
『矢』に命令を下す。
無理矢理に近いやり方で、『矢』を引き戻――――――
********************************************
――――――シュシュシュシュシュッ!!!!
何か、音が――――した。
********************************************
「…………え?」
ネギは唖然となった。
“戻らない”――――――?
「ど、どうして…………!」
原因が全く判らない。
まるで、“何かに引っ張られているような”――――――
――――――ドクン…………
――――――疾走レ――――――
「――――――ッ!!」
ネギは駆け出す。
衝動的な“何か”に突き動かされて。
その耳には、明日菜やカモの静止の声も、届いていなかった。
――――――ドクン…………
――――――疾走レ――――――
疾走る。
不思議な事に、その時のネギのスピードは、人間の―――否、
“『魔法使い』の常識すら超えていた”。
――――――ドクン…………
――――――駆ケロ――――――
しかし、今のネギにそのことを考えている余裕はない。
ただ、駆けることのみ集中する。
(間に合え!!)
跳躍。
「!! ネギ先生!?」
茶々丸が、驚愕の声を上げる。
が今はそんなことを構っている場合じゃない。
「くッ……!」
ド ンッ!!
ネギは、茶々丸を半ば押し倒す様なかたちで、ギリギリ間に合った。
――――――ギュギュ ン!!!
『矢』が、二人の頭上を掠めていく。
が、
クィ…………――――――――――ギュ ン!!!
「なッ!?」
(“戻ってきた”!?)
まるで、今頃になって命令が作動したように、
『矢』は、今度はネギに牙を剥く!!
「あ――――――」
その瞳に、十二の『矢』が迫る映像が、見える。
ネギが『障壁』を展開しようと意識するよりも迅く。
「~~~~~~~~~!!」
『矢』は寸分違わず降り注ぎ――――――
――――――轟ッ
「―――――――――――――――――――え?」
ネギの目の前に、
「――――――――――哈ァああああああああああああ――――――――――ッ!!」
紅蓮の疾風が、舞い降りた。
********************************************
――――壱! 弐! 参!
紅が舞う。
――――肆! 伍! 陸!
舞う。舞う。舞う。
――――漆! 捌! 玖!
紅が、銀が、舞う度に『矢』を消滅させていく。
――――拾!
が、それからも逃れた『矢』が一本、その背後を狙う。
すかさず、
――――拾壱!!
弧を描いた蹴りが、それを叩き落した。
そして―――――
「っ痛~~~~~ッッッ! …………何て威力だよ、コレは…………」
“グレン・MD・サマーフィールド”は、痺れた足を押さえながら、言った。
「…………ぐ、グレン……せんせ…………………」
その言葉で、遂に緊張の糸が限界に達したのか、ネギはへなへなとその場に座り込んでしまった。
「ネギッ…………!」「兄貴―――――!!」
それを合図に、明日菜とカモが駆け寄ってきた。
********************************************
「…………茶々丸」
「…………! は、ハイ」
グレンの声で、自失から立ち直る茶々丸。
「この場はなんとか収めるから、今日の所は退いてくれないか?」
「……………………わかりました」
茶々丸は一礼すると、ブースターを展開。
凄い速さで飛んで行ってしまった。
********************************************
「ああッ! 兄貴!! ヤツが逃げ………ちまった…………」
茶々丸が飛んで行った方向を見ながら、カモは言った。
「兄貴! 何で『矢』ん中に飛び込んだんスか!?
あのままだったら100%ヤツをしとめられたって言うのに「違う…………」……は?」
唐突に言葉を遮られて、目が点になるカモ。
「違うんだ、カモ君。
…………僕は、『矢』を“戻そうと”したんだ…………けど、“戻らなかった”んだ」
「は………? 何を言ってるんスか?
高い追尾性と誘導性ってのが【魔法の射手】のウリでしょう?
それがコントロールできないことなんてあるわけ…………」
「――――いや、そうでもないぞ」
と、ここでグレンが口を挟んだ。
「“これ”――――何に見える?」
グレンは―――先ほどまで茶々丸が居た場所の―――地面に転がっていた物体を引き抜き、それを見せた。
「何それ……ちょっと折れてるけど…………ナイフ?」
明日菜が訊ねる。
確かに、見ようによっては“ナイフ”にも見えなくもない。
だが“これ”は、それとは機能が異なる。
「―――――【ブレイドクワガーモン】…………」
「ぶれ…………何? そ―――」
“何? それ”と、明日菜が訊こうとしたとき、
「ジ………ジジジ………ジジジジジジ………」
柄だと思っていた部分から、電気のような脚が六つ現れ、昆虫のような蠢きを始めた。
「!? ななな、何コレ!!?」
「簡単に説明するとだな神楽坂。―――――――これは“生命体”だ」
そう言うと、グレンは手にしていた【グラム】で、それを叩き斬った。
――――夕日に、銀の粒子が煌く。
「――――恐らく、さっきネギ君の放った【魔法の矢】を“掴んで”いたんだろう。
だから、制御ができなかった」
「ンな莫迦な!? 【魔法の射手】を掴んで、無理矢理軌道を変えられる生き物がいるなんて…………
俺っちも結構、“裏の事情”を知ってるつもりで生きてきたけど、
そんな“生物”が居るなんて聞いたことも無いぜ!?」
素っ頓狂な声を上げるカモ。
当然なリアクションだ。
「当然だろう。―――――正確には“生物”ですらないのだからな」
そう言うと、グレンは一度視線を地面に落とし、次に粒子が消えた方向へ視線を動かして、言った。
「???」
「“生命体”であって“生物”じゃない?」
明日菜とカモは首を傾げていたが、ネギにはそれが何を意味するか見当がついた。
「グレン先生――――――まさか…………」
「そうだ――――――」
そう言うと、グレンは振り向いて、こう言った。
「これを放った奴は―――――恐らく、“吾”の客だ」
「「「!!!」」」
ネギ達は息を呑んだ。
何故なら、グレンの―――その翡翠色の瞳の奥に、明確な怒りの炎が見えたから。
********************************************
「………真逆、もう【騎士】が出てくるとは…………少々遊戯が過ぎたか」
日も暮れ、暗闇に染まった空の下。
ソイツは呟いた。
「が、これはこれで――――――愉しい“舞踏会(パーティ)”になるやもしれんな」
半ば焦りながら、しかし愉しそうに、ソイツは口元を歪める。
「さぁ――――――<道化芝居>はこれからだ、【騎士】」
その仕草はまるで、舞台の主催者のように。
ソイツは大手を広げて――――――嗤った。
「嗚呼、待ち遠しい。待ち遠しいな――――――“舞踏会(パーティ)”の晩、が…………」
――――月も星も無い、暗闇の夜のことだった。
つづく
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
次回予告。
茶々丸襲撃失敗の翌日、重圧に耐えられなくなったネギは、寮を飛び出してしまった。
途方に暮れるネギは、ふとしたことで森に迷い込んでしまう。
杖を失くし、泣きそうになるネギの前に現れたのは――――――【忍者】と【魔王】だった。
次回、
『魔法先生と紅蓮の聖竜騎士 ~X-EVOLUTION ANOTHER~』
第二十五幕『ある日の森の中を迷ってたらクマさんよりスゴイのと出会った』
次回は一変、ハッちゃけていくぞ!
乞うご期待!!
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