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Re: 零崎故織の人間読殺(×零崎シリーズ) 投稿者:隙間風 投稿日:08/07-21:13 No.2786

01

零崎故織という少女は、殺人鬼集団零崎一賊の中において、おそらくはもっとも殺人数が少ないであろう殺人鬼だ。
実際彼女は麻帆良の地に来てから、他の零崎の要請に応じて遠征に出たときくらいにしか人を殺していない。
これには二つの理由があった。
まず、この麻帆良という学園都市が、非常に強固な要塞であると言う事。
故織は一賊の中では、戦闘能力そのものはそれほど高くない。故に、外的の存在を速やかに探知し排除するこの要塞の中にあって、迂闊な行動は命取りに繋がった。
だが、ただそれだけならば、呼吸をするように人を殺す零崎一賊にとって、けっして大きな抑止力にはなり得ない。
彼女が零崎でありながら殺人を抑制できる最大の理由は、殺人に代わるある代償行為を持っているという事だった。
そしてそれこそが、彼女が他の零崎と決定的に異なる一点であった。

その代償行為とは、『殺人方法の蒐集』である。

この世には、一体何通りの殺人方法が存在するのだろう。
当時、綾瀬夕映と言う一つっきりの名前のみを所有していた少女が、その考えに思い至ったのは、小学校中学年の頃の話だった。
別段、それで彼女の読む本のジャンルが激しく変わると言う事は無かったが、それ以来、あらゆる人の殺し方、壊し方を追及し、たとえ血なまぐさい話とは無縁の本であっても、活字の端々から、様々な人間の殺害方法を連想するようになった。
そんな自身の異常性に、はじめは少しだけ戸惑った夕映だったが、それほど激しく動揺することもなく、やがてそんなものかと自然に受け入れた。
それは哲学や心理学の本などをはじめ、読書を通して、擬似的にではあるが様々な価値観に触れてきたからかもしれないし、
幸運(と言っていいものかどうかは知らないが)にも、丁度その時期に『家族』と巡り会えたからなのかも知れないし、
或いは『殺人』という極めて決定的な一線を、『家族』と出会ったその時に、あっさりと飛び越えてみせてしまったからなのかもしれない。
だが、その時に零崎故織という新たな名を得た少女は、殺人方法の蒐集さえしていれば、自分の意思で人を殺す事は決してなかった。
だからこそ彼女は、一賊の猛反対を押し切ってでも、知識欲を二重の意味で満たす事の出来るであろう、この麻帆良へとやってきたのだ。

ともあれ、それ以降、少しだけ変化した生活を送り始めた少女は、時折一賊の名に則って麻帆良の外で人を殺しながらも、概ね何事も無く麻帆良という巨大な学園都市の中学校へと入学し、それから更に二年の時間が過ぎていった。





「双識さん、春休みに入ったら死んでも遊びに来ると言っていたのに……嘘吐きです」

図書館探検部の活動の帰り、右手に鞄を、左手に購買部試供品のけったいなドリンクを持ち夜道を歩く彼女は、深く溜息をついた。
年の離れた兄の訃報を別の一賊から知らされたのは、つい最近の事であった。
だが知らされたその時には、既に事態は完全に、完膚なきまでに片が付いており、その時点で彼女に出来る事は何も無かった。

殊更に普通である事を意識し、普通であるように振舞おうとしていたその男の事は、彼のマニアック過ぎる趣味の事も相まって、あまり好きにはなれなかった。
だがこんな事になるなら、もう少し愛想良く接してあげればよかったかも知れない。
出会えば常に、気持ちが悪くなるほどに親切にしてくれた兄のだらしない笑みを思い浮かべ、再び溜息をつく。
彼は、零崎でありながら殺人を曲がりなりにも制御できる自分を、よく褒め称えてはドサクサ紛れにセクハラ行為に及ぼうとして、故織のハードカバーの鉄槌を受けていた。
あのやり取りも二度と再現される事はないのだと思うと、ホッとすると同時、どうにも言葉に出来ない衝動が故織を苛立たせる。
それは実に、五年ぶりに彼女が自覚した、確たる殺人衝動であった。

周囲に人気が無いのが幸いした。この分だと、気付いたときには見知らぬ死体を引きずっていたりとかしかねない。
この学園内では、不用意に殺気を振り撒くだけでも、要らぬ面倒を引き起こす事にもなりうる。
純粋な戦闘能力なら故織を軽く上回るであろう、幾人かのクラスメートの顔を思い浮かべ、故織は苦笑した。
そして二つ三つ雑念を振り払うように首を振って、空になったパックのジュースを適当に潰して鞄に放ると、代わりに鞄の中に常に持ち歩いている一冊の重そうなハードカバーを取り出し、歩きながら読み始めた。
既に陽は沈んでいたが、代わりに煌々ときらめく満月が夜道を照らしていた為、活字を追うのに苦労は無い。
やがて衝動が完全に鎮静しようとしたその時、前方の暗がりから一つの気配を感じ取った。

「…………」

極めて、良くない気配だ。
或いは零崎一賊をも上回る、圧倒的な闇の気配。
立ち止まるべきではなかったかもしれない。相手の意表を突いて一目散に逃走する機を逃し、故織は内心で舌打ちした。
そのまま可能な限り殺意を抑え何事も無かったかのように、『愛読書』であり『愛用品』でもある本から視線を離さずに再び歩き出す。ページの端が月光を反射して鈍く輝いた。
だが、ふと暗がりから声が聞こえ、すぐにまた歩みを止める事になった。

「……四番、綾瀬夕映か。悪いけど、少しだけその血を分けてもらうよ……」

姿と同じく、闇に溶け込むかのような声に、しかし故織はわずかに聞き覚えがあった。
予想外の相手に戸惑いながらも、故織は鞄脇に備え付けてあるペンライトで声のほうを照らし、とりあえずは声をかけた。

「――エヴァンジェリンさん、ですか? こんな時間に、こんな所で、ついでにそんな格好で、いったい何をしているです?」

この現代において、ハロウィンの仮装くらいでしか出番の無さそうな、黒衣と黒いとんがり帽子というまんま悪の魔女ルックに全身を包んだ声の主は、故織と同じクラスの生徒、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルであった。
クラスメートである以外、あまり――と言うか、全然まったく接点の無い相手だ。
故織も、(殺人鬼であることは考えないとして)年頃の少女にしては社交性があるとは言いがたいが、エヴァンジェリンは更にその上を行く。
実際公私共に、一度でも口を利いた事があるかどうかすらも疑わしい。
互いに、道端で会ったからといって声をかけるような柄でも無ければ、因縁を吹っかけられる覚えも無い筈だ。

……零崎故織という少女は、自分の趣味と一致することか、自分に直接関係のあることにしか関心を示さないという、ある種のオタク的気質を持った人間だった。
そして彼女は殺人鬼だった。人を殺す事には関心があっても、人以外のモノを殺す事は彼女の興味の対象外だったのである。
もし彼女が、自身も所属する裏の世界というものに対し、あとほんの少しだけでも興味を示していたなら、こんな間抜けな対応はしなかったであろう。
何故なら、今故織が向かい合っている少女は、裏の世界では、零崎一賊などよりも遥かに名の知れた存在なのだから。
だが、今回は知らなかった事が功を奏したのかもしれなかった。
ただの一般人なら、その強烈な威圧感に、まず呆気に取られるか、恐怖に呑まれるか、パニックに陥るかのいずれかしか選べなかっただろう。
裏の世界の住人ならば、戦うか、逃げるか、応援を呼ぶか。自身の力量と相談した上で、ふさわしい対応を選択しただろう。
だが、そのどちらでもありどちらでもない故織の中途半端な態度は、図らずも相手の出鼻をくじく事となった。

「……貴様、随分と冷静だな?」

面倒の無いよう、有無を言わせず速攻で吸血行為に及んでしまおうとした思惑を外され、エヴァンジェリンが低く呻く。

「……パニックに陥る理由でもあるですか?」

しかし殺人鬼の少女は、まさか夜道で出会ったクラスメートが吸血鬼だったなどとは露ほども思わず、ただ場違いなまでに肌を刺す戦慄の気配に、本気で首を傾げていた。
同年代の中では平均以下の体格の故織よりも、更に幼い外見のエヴァンジェリンを咄嗟に敵と判断するには、故織の踏んできた場数はあまりにも少な過ぎたのだ。

いっぽうエヴァンジェリンのほうは、正体がバレた時点で吸血を断念していた。
知られた以上は記憶の操作をしなければならない。しかし吸血に併せ記憶操作までするとなると、相手の身体にかかる負荷が大きくなりすぎる恐れがある。エヴァンジェリンは僅かな黙考の末にそう判断したのだ。
そして気を取り直して、さっさと術中に陥とし次の獲物を探しに行こうと、エヴァンジェリンは改めて綾瀬夕映に向き直ったが、その時既に標的はその場から姿を消していた。
……珍しい事ではあるが、エヴァンジェリンは通常では考えられないような己の失態に、数秒ほど呆然としていた。





相手の心理を読み油断を突き、まるで忽然と消えたかのように場から離脱して寮の自室に辿り着いた故織は、何となく嫌な汗をかいてしまった制服を洗濯カゴに放り込み、ベッドに転がり込んだ。
結局、故織は理性よりも直感を優先させたのだ。通常、何かにつけ筋道立てて行動しようとする故織にすれば、珍しい事であった。

「エヴァンジェリンさん、ですか……」

自身の今ひとつ頼りにならない直感を信じるなら、尋常ならざる相手だった。

「一応今度、軋識のお兄さんあたりに調べてもらったほうがいいかもしれません」

一見、田舎のとっぽい大将にしか見えないあの男は、その実、極めて優れた情報技能を持つ。
一賊の中でも比較的(あくまで比較的にだが)常識的な感性を持つその兄を、故織はそれなりに頼りにしていた。

と、そこで、故織はルームメイトの宮崎のどかの不在に気付いた。
本日の図書館探検には参加していなかったし、図書委員の仕事も無かった。もうとっくに帰ってきていていい時間の筈だ。
携帯にかけてみたが、繋がらない。
学内で数少ない友人であり、親友とすら言えるほどに仲の良い彼女。
一賊と同等以上に大切に思える人間の、不自然な不在に、故織は不安を募らせる。
最近良くない事や、想定外の事態が続いたせいか、どうにも嫌な予感がする。

ふと脈絡無く、故織は現在のどかが熱を上げている子供先生の存在を思い出した。
若干十歳の教師と聞いたときは、「何だそりゃ」とも思ったが、すぐに若干十四歳の殺人鬼もいるんだということに気付き、そんなものかと割り切った。
それ以降は、完全に興味を無くして、忘却の彼方だった。
そういえば最近ののどかは、彼女にしては積極性を見せて、出来る限り、その子供先生の傍にいようとしているらしい。まぁ、それでもあまり功を奏していないのが現状だが。
何とかしてやりたいと思う気持ちも無いではないが、他人の色恋沙汰になど例え親友のことであっても、可能な限り、関わりあいになどなりたくはない。

まぁ、それよりも今はのどかの居場所だ。
のどかは見た目に反さず、抜けている所がある。携帯の電源が入っていないか、電池切れか。そんなところだろう。問題は無いとは思うが、一応、安心だけはしておきたい。
そう思って故織は再び外に出ようとしたが、眠くなってきたし、汗になった制服をもう一度着込むのも億劫なので、やっぱりパジャマに着替えてそのまま眠る事にした。

次の日の朝、故織が目を醒ますと、のどかはベッドの上で静かに寝息をたてていた。
だから故織はその時点で安心し、そして興味外の事にあまり執着しない彼女は、昨夜の事をほぼ完全に忘却することにした。
というより最初から結構どうでもよかった。

零崎故織の人間読殺

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