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其の一 たった一人の戦士(仮)来訪 投稿者:鉄人 投稿日:01/26-02:47 No.1929
希望を瞳にみなぎらせた母さんに見送られ、オレはタイムマシンに乗り込んだ。
オレ自身、遊びに行くわけではないのに、まるで新しいオモチャの販売を待つ子供のように
その心が期待と興奮に満ち溢れていたのは、確かな事実だ。
スイッチを押すとタイムマシンが正常に作動し、景色がゼリー状に歪んだものへと一変した。
おそらくコレは、時間の狭間とも言える空間であろう。
しかし変だな、タイムワープしたときに突入するこの狭間の通行時間は
「人間の感覚……つまり体内時計では計測できないほど速いため、刹那の間も体験することは出来ない」
と母さんは言っていたはずだが……
ビーッ! ビーッ!
突然だった。目の前の画面に掲示されていた数字やグラフが赤く点滅しだし、
タイムマシンがけたたましく響くブザー音を鳴らし始めたんだ。
「なっ? これは……!?」
彼――トランクスは驚嘆のセリフを言い終わる前に、至近距離でエネルギー弾を喰らったような衝撃を受けた。
トランクスが不意に訪れたその衝撃に意識を失いかけたとき、自分が辿り着くはずだった世界とはまったく違う世界が、
うっすらとタイムマシンの強化ガラス越しで目の前に現われた気がした。
『N&D』
其の一 たった一人の戦士(仮)来訪
「こ、ここは一体……」
タイムマシンから降りたトランクスは、まだどことなく痛む頭部を押さえながら、
目の前に映っている予定に無かった風景に目を丸くしていた。
視線の先には見たことの無い建物が立ち並んでいた、
そしてその一つ一つが灯を灯しており、夜の暗い世界に蛍の光のような暖かさを生み出している。
自分が居た世界では、決して見ることのできないその景色に、トランクスは少しうらやましさを含めた目を
送ってやった。
――いつかオレたちの世界でも……こんな景色が見られるのかな……
思って、はっと自分の使命を思い出す。
「そうだ、タイムマシン!」
思い出したように言うと、トランクスは一蹴りで操縦席まで跳んだ。
マシンに極力負担が無いようにと気をつけて着地すると、席に座り、
未だにピカピカと赤い点滅を続ける表示画面を見つめた。
――燃料は、全く減っていないな。
ただし、その代わりといわんばかりに隣についている「現在いる時代の座標と時間を表す表示」、
つまりこの時代に関する画面の全てに赤文字で“ERROR”と表示されている。
「エラーか、仕方ないな……」
つぶやくと、胸ポケットからミニサイズの工具箱を取り出し、その中の+ドライバーへ手を伸ばした。
ドライバーで表示画面の四隅についているねじを一本ずつ外し、ついに留め金が無くなったカバーをゆっくりと取り外すと
何本ものコードやチップなどの機器的な部品が“あらわ”になった。
トランクスはどこからか取り出した白いゴム手袋を両手にはめ、
その中へと手を伸ばしてコードの滝をかき分けていく。
一本一本見落としが無いように丁寧に調べた結果、
奥底にとうとう一本の千切れかけた黒いコードを発見した。
中に入っているべきの何本かのか細い鉄線のうち、何本か切れた状態で力なく外に飛び出し、うなだれている。
他のコードたちとそれを分けるために、左手の甲でその他のコードたちを押さえつけ、
余った右手で工具箱をあさくって一本の小さいスプレーを取り出した。
そのスプレーの発射口を黒コードの分かれようとしている部分に向けると、
一気にスプレーを吹きかけた。
――簡単な修理作業を終えタイムマシンのスイッチを入れてみる、すると……
ぱっ! パパパパパパッ! パパッ!
画面は次から次に光りだし、タイムマシンが満足そうに“プシュ――――”とうねりを上げた。
掲示されている文字は未だに【ERROR】のままだったが、タイムマシンそのものの調子は万全な状態に
戻ってくれたようだ。
「よしっ、これでとべるはず。急いで過去に――…
行かなくちゃ!」と続くはずだったトランクスのセリフを遮ったのは、
彼の百メートルほど先の、おそらく郊外に当たる場所で繰り広げられている“鬼ごっこ”だった、
つい気になってしまったトランクスは、席の横に立てかけて置いた剣を背負うと、
タイムマシンから飛び降りて、気配を殺しながら通り過ぎた何人かの影の後を追った――……
「ハァ……ハァ……く……るなっ! この……変態ども!」
長い金髪を向かい風になびかせながら、青い目を持った少女が冷たい夜風を切り裂きながら
ただひたすら、ガムシャラに走り抜けていた。
歯を食いしばるその表情は必死で、それこそ「死ぬ気」という言葉がよく当てはまっているように思えた。
それもそうであろう、少女は追われていたからだ。
銃や刀剣などの武器を持った、少女の倍は体が大きく見える男達……
……血走った目をたぎらせ、少女に対し狂ったように罵声を浴びせ続ける、男達に。
――今はつかまったら、マズイ
少女はそう思っていた。
それにしても、足幅倍以上。そして少女と大人の男の追いかけっこなど、ハタからしてみれば
すぐに少女が捕まってしまうものだと安易に想像できるだろうが、
不思議なことに少女と男たちの距離は一定間隔を保ったまま、一向に縮まる様子が見られない。
男達が手を抜いいるだけだと思われそうだが、実は男達も少女に負けないぐらい本気で走っている、
それは、そのことは彼らの表情や、体から流れる汗が物語っていた。
……では、なぜ少女が逃げ切れているのか? その理由は男達で無く、そう、実は少女の方にあったのだ。
――――少女は――……【人間】の形をしているが、【人間】では無かった。
――――少女は――……この世界で最も忌み嫌われる【バケモノ】だった。
もし少女に体力があり、餓えも乾き無い充分に満たされた状態だったなら少女は逃げなかっただろう。
立ち止まり、「愚か者どもが……」とでも呟いて男達を皆殺しにしているはずだった、
少女はそれだけの力を、この小さい身体に秘めているのだ。
だが、現在少女にとっては最悪なことに、彼女は“餓え”て“乾き”きっていた。
事情があり、もう何週間も何も口にしていないのだ。
――…一月ほど前に川の水を飲んだのが、最後の記憶だった。
常人ならばとっくに死んでいるか、その絶望的な苦しみと痛みで発狂しているか、
体の動かない死を待つだけの存在へと成り下がってしまっているだろう。
――――だが、少女は動いていた。彼女の“望まなかった肉体”はこの程度で死ぬことを許さなかった。
今回だけではない、少女はたとえ、どんなにお腹が減っても――…
どれほど疲れ果てようと――…
腕をちぎられても――…
足をもがれても――…
頭を打ち抜かれても――…
腹に穴を開けられようとも――…
――……どれほどの苦しみでも痛みでも、“決して”死ぬことは出来ないのだ。
幾度と無く苦しみを味わい、幾度も『世界』に絶望した。
その現実に――少女は、始めは「死にたい」と思っていた。
だが、どれだけそれを望もうとも、意思に反する身体が受け入れることは無かった――…
――その事実は、とうとう少女をどっぷりと闇に浸してしまう。
闇に浸れば浸るほど、今度は『人間』が立ちはだかった。
降りかかる『人間』どもを、バケモノと化した少女が払えば払うほどに、少女はより『悪』であると罵られ、
より強い力を持った“火の粉”たちが次々と少女に襲い掛かった。
……そして、現在少女を殺そうと息をまいている『英雄』気取りの獣達は、
とうとう少女を町外れの薄汚くて光の無い暗い行き止まりに追い詰めることに成功した。
すでに勝った気でいるのか、男たちは顔を見合わせて醜くニヤニヤ笑っている。
「抵抗しないなら命の保障はする。おとなしく付いて来て貰おうか、美しいお嬢さん……」
おそらくリーダー格であろう、長くて分厚い大剣を背中に背負った大男が一人前に出て嘘っぱちのセリフを言った。
「お嬢さん」のワードが出たところで周りの男達がドラ声で笑い出す。
――なんとも汚い合唱だ、涙が出そうになるな
「断る! なぜ、この私が貴様らのような豚の言うことを聞かねばならない!?」
強気で言い放ったものの、少女の身体は後ずさりして、もう既に後が無かった、
足にも手にもうまく力が入らない。くやしいことに、少女は本当にピンチに陥ってしまったようだ。
リーダー男が、フゥ、とため息をつき、無言で背中の大剣を抜き放つ、
あらわになったその姿は背中にあったときに比べて、さらに重々しくどす黒い瘴気が渦巻いている。
刀身のはらの辺りから、まだ真新しい血の生臭い臭いがするのは気のせいではないだろう。
次の瞬間、男は少女の視界から姿を消した。
「な……っ!」
少女が息を呑んだその一瞬の間に、男は少女の目の前まで迫っていた。
それは『クイック・ムーブ』、日本的に言えば『瞬動』という技術であることを、
少女はしばらく後に知る事になる。
息をつく暇も無く、男の手に握られた大剣が少女に向かって振り下ろされた。
驚くことに、それは空気すら焦がし、切り落としている。
でも、こんなもので少女が死ぬわけは無いだろう……それは誰よりも少女自身が分かっていた。
――――でも、
でも――もしかしたらこの一撃がうまいこと急所に当たって死ぬかもしれない。
でも――もしかしたらこの世界から、この苦痛から別れることができるかもしれない。
有得ないと分かっていながらもさまざまなIFを思う少女は、
どこか嬉しそうに微笑んで目を瞑った……
……痛みが、こない?
まず思ったのはそれだった、次に「コレが死なのか?」と考えたが多分違うと思った。
少女が恐る恐る目を開いてみると、そこには……
そこには――見たことも無い奇妙な格好をした紫色の髪の青年が、
手にしている一本の剣で大剣の一撃を少女をかばうようにして受け止めていたのだった。
「なんだてめあグッ!」
青年は脅しをかけようとでもしていたリーダー男の腹を殴った。
そして、それほど筋肉質でないように見える青年のその一撃で、リーダー男は気を失った。
力の抜けた手から、ガシャンと大剣が地面に落ちて少しばかり砂ボコリを巻き上げた。
それを見たほかの男たちは、当然のごとく頭にきたようだ。
さっきまでの馬鹿笑いしていた馬鹿面を捨て、各々が手に持っている武器を力強く握り締めている。
「(歴史が変わるかも知れないから)あんまりやりたくないんだが……」
青年がぼそっと呟いたのが男たちにとっての試合開始の合図だったようで、
男たちは寸分の狂いも無く同時に青年へと飛び掛った――――……
「あ、あぶない!! くっ……」
少女は叫んだが、身体は壁に寄りかかってつっ立ったまま、もはや指一本動いてはくれなかった。
「大丈夫ですか?」
青年は聞いてくるが、今の少女は青年から貰った
見たことも無いパンにかぶりつく作業に夢中で、とても答えられる状態ではなかった。
……だが、一応話はちゃんと聞いているらしく、少女はパンを詰め込んでリスのように膨らんだ頬のままニ、三度首を傾けた。
さっきの戦闘は、結果的に言うと少女の心配は意味が無かった、と言えるだろう。
青年はあのとき、剣を鞘にしまうと男たちの総攻撃を難なく回避し、全員の腹を殴って気絶させ、
あっという間に勝負をつけたのだ。
で、実は青年はそのあとそのまま立ち去ろうとしたのだが、少女が力なく倒れこんだらすぐにUターンをし、
どこからか三つのパンと水を持ってきたのだ。
さて、少女は見たことの無い容器に入った水を豪快に飲み干すと、
「あ~っ、飲んだ飲んだぁ!」とでも言うかのごとくプハァと一息ついて青年の方を見た。
「ふ~っ、いや助かった。正直に礼を言おう」
「……いや、困ったときはお互い様です……」
青年はどこかそっけなく返した。
それを見た少女は多少顔をムッと強張らせ、たけの異様に長い黒マントを身に纏う。
「さて、名を名乗る必要は無い、といったな。
ならば私も名乗るまい、……借りを作ったことは癪だが、これでサラバだ……」
少女は青年に背を向け、そのまま暗闇に溶け込むように消えていった。
「行ったか……」
少女を見届けた後、完全に気配が消えたことを確認した青年――トランクスは、
自身もまた立ち上がり、タイムマシンの方へと歩を進めた。
――ようやく、みんなのいた時代にいける……ご飯さん、悟空さん、そして……父さん。
胸ポケットに大事に入れてある薬を服越しに握り締め、トランクスはタイムマシンのスイッチを入れた。
誰も死なせはしない! あんな未来になんてさせるものか!!
オレは、オレは絶対に未来を変えてみせる!!!
タイムマシンは、この世界から完全に姿を消した。
もう会うことはない――そう思っていた人物と、
青年にとっては五年あまりの、
少女にとっては百年以上の後に再び出会うことになろうとは、
このときはまだ――本人たちですら分からないことであった。
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