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其のニ たった一人の戦士、来訪 投稿者:鉄人 投稿日:01/28-00:28 No.1938
「ちっ……ちくしょ…………おお…………」
断末魔と呼ぶに相応しい、怪物の最後の声が聞こえた。
しかし、命をかけたその叫びですら、たった今怪物――セルの身体を覆いつくしたエネルギー波によって遮られてしまう。
エネルギー波が地球を飛び去り、光の中、トランクスの目の前に青空がうっすらと現れたとき、
セルという存在は文字通り、肉片の欠片も残さずに消え去っていた。
セルの最後を確かに見届けたトランクスは静かに超サイヤ人をとき、
その空を見上げながら、静かにつぶやく……
「これで全てが終わりましたよ……ありがとう悟空さんたち……」
空に向かって言ったそれは、静かに風に運ばれ消え去る。
トランクスはもしかしたら、その言葉が違う未来を歩み始めた世界に届くようにと
願っていたのかもしれない。
【……かくして、辛く苦しい地獄のような世界に、
その世界を生きてきたトランクスたちに、やっと真の平和がおとずれたのだった……】
『N&D』
其のニ たった一人の戦士、来訪
「いってらっしゃい」
人造人間、そしてセルを倒せたことをあの世界に報告しようとタイムマシンに乗り込む寸前、
背後から聞こえた母さんの見送りの言葉は、どこからしくないものだった。
いつものはりのある、芯のしっかりした若々しい声色が、この一言に限って消えていきそうなほど
切なくて悲しいものに聞こえたんだ。
「母さん……」
おそらく、母さんは何か不安を感じている。オレのことを心配しているんだ。
昔、この世界の悟飯さんに聞いたことがある、
この世界の悟空さんが心臓病になる数日前、実は母さんだけが急に絶望的な不安に襲われたらしい。
その時は気のせいだと思い込み、みんなの前でも平静を装ってたらしいけど、
悟空さんが心臓病にかかり、死んでしまわれたときには「なぜあの時、気のせいだと言っちゃったんだろう……」
と相当後悔して、めったなことで泣かない母さんが声を上げて泣いたらしい。
そんなことがあったせいか、それ以来母さんはこういうカンに対して、
らしくない心配するようになってしまった。
「……いってきます!」
だからこそ、オレは少しでも母さんを安心させるように元気よくこたえたんだ!
スイッチを、押した。タイムマシンが空に浮かび上がり、
母さんが、町がどんどん小さくなっていく。
次にタイムマシンが音を発したとき、心配そうにオレを見つめる母さんの顔は、
――もう、見えなくなっていた
■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■
――タイムマシンは故障してしまったようだ。
母さん――ブルマを見届けた後、瞬きよりも速い一瞬で
タイムマシンは何か硬いものに激突したかのように大きく跳ね上がった。
それに続くように、今度は車がジャリ道を突き進むときのがたがた揺れる衝撃を
何倍か増したような強い揺れが定期的にタイムマシンを、その中のトランクスを襲う。
タイムマシンは前と同じような警告音を鳴らしまくり全ての画面が「ERROR」を表示した。
トランクスは大慌てで作業に移った。
スイッチを押し、レバーを引き、あの時と同じようにカバーを外してコードを繋げた、
しかし、それでも衝撃は休まることはなかった。……むしろドンドン強くなっていく。
「くそっ……」
呟いた悔しさを交えた声すらも、けたたましいブザー音にかき消された。
ドン……!
もう一度、大きな衝撃を受けてタイムマシンは大きく歪んだ、
それはトランクス自身にも大きなダメージを与えてしまう。
――こ、これは……あのときの…………
今頃になって思い出したトランクスは、身に覚えのある痛みに、目を細めた。
――と、いうことは……
案の定、トランクスを乗せたタイムマシンは彼自身の考えたとおり、
あの時と同じような見たことの無い“予想外の景色”の見える世界へと誘ってしまった。
■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■
「なんだ……ここは……一体どこなんだ……?」
随所にヒビの入ったタイムマシンの強化ガラス越しに、一つの扉を見ることが出来た。
人の身体の何倍も大きく、分厚いであろう鉄(?)で出来た扉の周りには無造作に見えてその実、よく手入れのなされている草木が生え、
扉自体も所々に裂傷や錆び、また部分部分で欠けていたりと非常に古い人工物であることが見ているだけでわかった。
ここはどこだろうと改めて思い、いつかと同じように目線を下に向ける。
映し出されていたタイムマシンの座標画面は“いつか”とは違った。
もはやエラーの文字すら掲示されておらず、ただただ何も無い真っ黒が映し出されている。
開閉スイッチを押すとギギギッと金属の擦れる音が聞こえ、ガラスで覆った“ふた”は
歯車の噛み合わせの悪いからくり人形のようにのろのろと開いた。
やっと全てが開き終わり、座席の隣に寝かしていた剣を取って、トランクスはタイムマシンから飛び降りた。
……改めて肉眼で見上げた扉はガラス越しで見たときの倍近い存在感がひしひしと伝わってきた。
“威風堂々”そんな言葉がこの遺跡のように見える扉には相応しいと、
トランクスはそんなことを思ったのだった。
よし、と顔を正面に向け、扉を開いてみようと触ろうとしたとき
突然、背後に強い気があらわれた。
そして、トランクスの身体を大きな影が覆いかぶさり
…………グルルルル…………
影の主は地獄から聞こえてくるような、低い低い唸り声で大地を揺らす。
「(! ――…ドラゴン!!)」
振り向いたトランクスは、背後にあらわれた気の正体に思わず目を見開いた。
巨大なドラゴン……岩のような見た目の肌を付け、隆々とした筋肉に包まれたその身体。
ただの恐竜とは決定的に違う広くナイフのように先の尖った羽はその身体を支えるにはいささか
小さいように思えた。 ・・・・・
トランクスなど、このドラゴンと大きさだけ比べてみればライオンとウサギ。
――まぁ、神龍に比べたら存在感も大きさも激しく劣っているが……
そんな非現実的で巨大存在はトランクスの様子を知ってか知らずか、
どちらにしろ関係ない、とでも言うように殺意をむき出しにしたまま
トランクスに、おそらくは自身の自慢の爪を振り下ろした!
「!!」
大きく後ろに跳び、トランクスは難なくその一撃をかわす。
かわしたことにより倒すべきターゲットを失った爪はそのまま地面を大幅に抉りとった。
「(くそっ……わけがわからない。……ここはいつの時代で、どこなんだ?)」
矢継ぎ早に繰り出されるドラゴンの攻撃を一つ一つ丁寧に、紙一重に見えるようにかわし続けるなか、
トランクスは数少ない情報を脳内で必死に整理し続けていた。
「(あの大きくて随分古い鉄の扉や、ここの植物を見る限りじゃここはどこか昔の遺跡みたいだが……
おっと! ……こんな風に絶滅したと言われるドラゴンに、あの微妙なバランスで手が加えてある植物たち……
……人がいる気配はまったく無い、上下左右を探ってみてもそれだけははっきりわかる……うおっ!)」
大樹の丸太のように太い尻尾を一蹴りで飛び越え、あの扉へと目を向ける。
さきほどの切り裂き攻撃をかわした際に、小さいながらも水の流れる音が扉の向こうから確かに聞こえてきた!
だいたいコレほど立派なドラゴンが守護している場所……
考えれば考えるほどに過去か未来か現在なのかわからなくなっていったが、
あの扉を開けることで何かを知ることが出来る。彼はなんとなくそういう感じがしたのだった――――
コッ――、
垂直に振りぬかれた右腕を下がってかわそうとした時――足が何かに引っかかり、トランクスはバランスを崩してしまう。
多分地面の出っ張った部分にでもつまずいたのであろうが、それは普段の彼ならありえないミスだ。
大体戦闘中にまったく別のことを考えている時点で大間違いであろうが、
そんなことを今更脳裏に浮かべたって後の祭りだ。
彼の目と鼻の先には既に、彼の体の半分の大きさはあるであろう巨大でごつごつしたものが迫ってい――――……
鉛をぶつけた様な鈍い音が響き。
ライオンは、すばしっこくチョコマカ逃げ回るウサギを……ようやく、しとめたつもりだった
今度は――、ドラゴンが驚く役になった。
おそらく、彼の記憶にはどれだけ掘り返してみてもこんな事態は見つからないかも知れない。
彼がもし人語そのものを理解しているとしたら、彼は初めて――“例外”というものの意味を理解しただろう。
――この一撃に決して手加減はなかった。
生物学的に言えば『本能』と呼ばれるものが、小動物にしか見えない今回の敵の隠れている部分の力を
無意識的に読み取ったからだ。
『あの人』にこの場所に使わされるより昔には、大量の人間と戦ったものだが、
ある程度の力を持ったものであろうと加減なく放った己の一撃には耐えられない。
肌を切り裂き、肉を抉り、骨を砕く。
いつもならするハズの、食欲をそそられる生々しい感触が一切感じられない。
それもそのはずだ……視線の先にいるこの小さな敵は、
圧倒的なパワーで己の右腕を、それも片手で受け止めながら平然と立っていたのだから……
「まい…た……こ…なんじ…とうさ…にし…られ…しまう……」
敵は何かを呟いた。
だが己自身は人語を完全に理解出来ないため、それが何を意味するかはわからない。
ただ、二つほど解ったことがあった。
呟きが聞こえなくなった途端に、小さい敵の身体から異常なまでの『力』があふれ出したこと、
そしてその力は確実に、己という存在をもってしても比べ物にならないほど巨大で、絶望的なほど強大なものだということ。
反射的に飛び立とうと懸命に翼を羽ばたかせた、
だが、どれだけ本気で飛ぼうとも右腕だけはピクリとも動いてはくれなかった。
「闘う」と決めたが、気を増幅させただけで超サイヤ人にはならない。
いや、はっきり言って“この程度”の敵にわざわざなる必要などないからだ。
事実、こうして気を込めて掴んだドラゴンの右腕は、ドラゴンの意思とは裏腹にピクリとも動いていない。
おそらく飛ぶことでオレから逃げようと考えているのだろうが、
大げさに上下運動を続ける翼は強風を巻き起こして砂埃を飛ばし続けるだけだった。
殺すつもりはハナから無いのだが、こうまで力に差があると闘う気も失せてくる。
差があることは解っていたことだが、やっぱり、どうしても拍子抜けしてしまう。
気の流れをある程度で押さえて安定させると
トランクスはドラゴンに気付かれないようにため息をついた。
右腕も放してやる。
するりと抜けたそれはドラゴンの身体に引っ張られるように、あっという間に舞い上がった。
動きを追って見上げた視線が、ドラゴンの目と合った
まだまだ死んでいない、目の奥に光が垣間見える。
「ドラゴンは知能の高い生き物だった」と、昔何かの本で読み聞かされた気がする。
しかしこのドラゴンの行為はハタから見れば、その言葉がいかに信憑性が無いかを示していた。
本能的に――ましてや知能が高い生物なら、自分と相手の力の差ぐらい気を読めずとも解るはずだ。
それでも、ドラゴンの瞳からは強い意志が読み取れる。
自然と気を探ってやれば、ドラゴンの口元に気が集中しだして熱を帯びているようだ。
「最後の攻撃にする気か……」
思わず、口に出た。
こんな所まで来てなんだが、トランクスは心に迷いが生じていた。
これほどのドラゴンが圧倒的戦力差がありながら向かってくる、ということは
あの扉の向こうというのはドラゴンにとって心の底から守りたいもの、誰にも汚されたくないものがあるのかもしれない。
「もしそうだとしたら」と考えると、あのドラゴンの必死な姿がかつての自分たちにダブって見える。
かつては自分たちもそうだった。
壊されたくない世界、愛すべき者たちを圧倒的な力の差がありながら守ろうとした。
『人造人間』
全てを破壊し、殺しつくした悪魔の殺戮兵器。
絶対にかなわないと知りながら、幼いオレを守るために二人に立ち向かった戦士。
オレの恩師に、ダブってしまった。
ドラゴンの、最大にして最後の攻撃が放たれた。
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