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其の四 クウネルサンダースの仮説 投稿者:鉄人 投稿日:02/01-00:16 No.1965  




暗い夜道。

空を見上げても雲ですら闇に同化して見えなくなっていることから、
これは新聞風にいうと「夜」というより「深夜」の、“超”大人の時間だろう。

昼はおそらくこの道も暖かい日差しに囲まれたほのぼのとした世界が作り出されているのだろうが、
現状で一見すると、何処かのお化け屋敷にも匹敵しそうなほどの不気味な雰囲気を流している。
そんな道を、2人の男がおぼつかない足取りでフラフラ歩いていた。

「ヒック……あ~~~~……瀬流彦君、どうしたんだろうね? 
私には目の前に同じ看板が三つ、並んであるように見えるのだが……」

片一方の色黒で長身の男。
きりっとした日本人と違う顔立ちに、短くカットされた黒髪。
控えめに掛けてある長方形の眼鏡がマジメさと知的さを匂わせていた。

ただし、今現在はどうやら身体にそうとうのアルコールが入っているらしく、
俗に聞く酔っ払いの歩法、『千鳥足』で今にも地面にへばりつきそうなほど
ふらふらふらふら危なっかしく歩いている。
その姿に知的さやマジメさなんてものは何処かへ吹き飛び、
もはや体中から『酒臭さ』というやつを発し、臭わせている。

ちなみに、彼の視線の先には看板は一つしかない。

「ちょ、ガンドルフィーニさん! こんな所で力尽きないで下さいよ!」

もう一人の男、瀬流彦と呼ばれた男は半分涙目になりながら
今にも倒れそうになる色黒男――ガンドルフィーニの腰と背を支え、
必死で倒さないように努めていた。

瀬流彦の顔も若干赤く、やや熱を持っている。
ほろ酔いと言うやつをしているようだが、コチラはいたって普通の足取りで歩けるはずだ。
ただ、体格的にも身長的にもガンドルフィーニより劣っている、優男のような印象しかもてない彼が
まさにそのガンドルフィーニの身体をちゃんと支えきれるはずがなかった、
そのせいで瀬流彦の歩法までもが、ガンドルフィーニのメチャクチャな体重移動に付き合う羽目になっていたのである。

「まったく、珍しく貴方からお酒の席のお誘いがあったと思ったら、僕の部屋にきていきなり
お酒を飲み始めて、大泣きして、先生らしくない……一体どうしたんですか? 何があったんですか……?」

話を終えたときには、もうほとんどガンドルフィーニが瀬流彦に引きずられていた。

「ううっ、じつは、実は妻とケンカをして……くそ、私は何であの時素直に謝らなかったんだ!?
教えてくれ瀬流彦君!! なぜ私はあの時……ううっ…………」

「いや、私に聞かれてもわかりませんよ……」

わけのわからないことを唐突に聞いて絡んでくるあたり、
きっと彼は「カラミ上戸」と言うヤツなのだろう。まあ、彼の場合はそれにプラスして、
本来の性格のマジメさが悪い方向に役に立っていた。





もう少しで目的地(ガンドルの部屋)につくだろうというところで、瀬流彦はピタリと足を止めた。

「(なにかがおかしい……)」

瀬流彦は思った。
涙で顔がほとんどクシャクシャになったガンドルフィーニも、酒に泥酔いしているとはいえ、
突如として現れた不可解な空気に感づいたらしい。

「瀬流彦君……」

さっきまでと声色ががらりと変わる。おそらくこの声こそが、ガンドルフィーニの真の声なのだろう。
ガンドルフィーニは瀬流彦の肩に回していた右腕を下におろし、ほんの少しばかり手をのけぞらせた、
すると“かしゃっ”と音がして、ガンドルフィーニの袖から小型の銃が出て、彼の右手に収まった。
警戒を高めているのだろうが、身体は正直で、彼の足はまだおぼつかないまま小さく笑い続けている。

「後ろに3……前に2……か……間違いなくプロだな」

「ええ、お酒に酔っていたとはいえ、ここまで近づかれるまで気付きませんでしたし……ね……」

くるり、と反対方向を向いてみると、そこにいたのはこの暗闇に溶け込むような
真っ黒の忍び装束を着込んだ、3人の刺客。
ガンドルフィーニが見つめていた正面の闇からも、元々闇の中に潜んで居たかのような
同じ忍び装束を着た、2人の刺客がその姿を現わした。

そして、それらは2人の眼に映った瞬間から、獣に近い殺気を持つものである事もわかった。

「瀬流彦君……死ぬなよ!」

「それは……貴方も一緒でしょう」

言うと同時に、7人の男達は一斉に動き出した。




冷たい風が、彼らの間を通り抜けていった――








           『N&D』
             其の四 クウネル・サンダースの仮説







「……なぜ、オレが遠い所から来た戦士だと思うんです?」

トランクスはゆっくりイスから立ち上がった。
平静を装っていても、額からは たらり、と滑り落ちていく。
謎の人物は深くかぶっていたフードを取り去り、長くて艶のある青色の髪を揺らす、
先程よりは見えるようになったこの人の瞳が、実は影のせいではなく、
素の状態で深海のようなどっしりとした深くて濃い青色をしているのがわかった。

「そういえば自己紹介が遅れましたね、私はクウネル・サンダースと申します……」

謎の人物――クウネル・サンダースさんとやらは、答えになってない答えを返す。

「話をそらさないで下さ「人が名乗ったなら、あなたも名を名乗るのが礼儀では?」い……」

また話の途中で割り込まれた。
しかし、こういうことは言った者勝ちなので、トランクスはしぶしぶとだが名乗ることにした。

「……オレは、トランクスと言います……これで良いですか?」

「ええ、結構です☆」

クウネルは子供のように無邪気な笑顔を見せた。
あまりにも無防備でスキだらけのその表情に、トランクスは逆に警戒を高める。
いつ戦闘開始になってもいいように、身体の中で密かに気を練り続け、
あくまで、クウネルに気付かれないであろうレベルで……それはゆっくり静かに溜まり始めた。

「さて……と、では、質問とは何だったでしょうか?」


……ズルッ!!

言葉と言うバナナの皮でずっこけてしまい、溜めていた気が爆散しそうになるのをトランクスは何とか堪えた。
やはり、トランクスはこの人のどこか飄々とした……悟空さんとは違った感じで掴めない性格が
「苦手だな」と思った。

「ですから、なぜあなたはオレが遠くから来た戦士だと思うんですか、と聞いたんです!」

「なんだ、そんなことでしたか……」

心底がっかりしたような声色で言うが、表情がそれと正反対なのではっきり言って説得力の
カケラも感じ取れない。
まあ、でも真剣な表情のトランクスを見てまた「フフフ」と微笑んでいるくらいだ、
どちらにしろがっかりしたような声色と言うのはよく出来た芝居だろう。

「あなたが何らかの戦士だと思ったのは、“あの”ドラゴンが相手だというのに
あんなにも軽々と、しかも全力を出さずに倒してのけたことで予測しました……」

「(コイツ――どこかで見ていたのか? あの時はドラゴン以外に気なんて感じなかったのに……)」

淡々と言い放つクウネルはトランクスに背を向け、
その先に“いつの間にか”存在しているホコリにまみれた布をかぶった、大きな何かに向かって歩き出した。

「そして――、もう一つは……」

コツン、と足音が止まると、クウネルは『何か』にかぶされている布をほんの少し握った。
随分下のほうだったためか、バランスのよく積もっていたホコリたちが少しだけ
クウネルの足元に、まるで砂のようにさらさらと落ちていったがクウネル本人はそんなこと全く気にせず
話を続けた。

「あなたが――


言葉と共に、クウネルはかぶらせていた布を少し大げさにむしりとった。


――――これに乗って、いきなり現れたからですよ」

「!!? ――――な……まさか?」」

さすがのトランクスも、目の前に現れた物を見た瞬間から本気で驚いていた。
それもそのはず……今、クウネルがそこにあった布をかぶせていた物体は、

―トランクスがこの世界に来るきっかけとなったものであり、

―その際にかなり故障して、どうやっても動かなくなったもので、

―さきほどドラゴンと戦っていたときから、いや、この世界に来たときから
  動かしたりカプセルにした記憶が一切ないもの……そう、


 タイムマシンが、そこにはあった。



「バ、バカな……」

言いながらトランクスは横目でちらりと幾分小さく見えるあの扉を覗いた。

――……閉まっている……。

扉は気付かぬ間に閉じており、最初に見たとき同様どっしりと構えていた
トランクスは蛇のように目を吊り上げ、真剣な目でクウネルをにらみつけた。

「一体どうやってそれを持ってきた!?」

「企業秘密です☆」

ドスの利いた声ですら、クウネルの前ではただ流された。
クウネルは人差し指を唇の前に立てて、しーっ、と聞こえる程度の声で呟く。

「フフ、そんなに怖い顔をしないで下さい。別に私はこれに何かしようというわけではないんですよ、
もちろんあなたにも……それどころか私はあなたが聞きたいであろう事を話してあげましょう」

「信用できるか?」

「それはあなたしだいです」

「…………」


しばらく眼と眼で見つめあったのち、先に動いたのはトランクスだった。
何かを理解したかのように目を瞑り、クウネルに背をむけると
元々座っていた、テーブルから出しっぱなしになっていたイスに少し乱暴に座り込む。

「クウネルさん……でしたよね。……あなたを信じてお話します。」

言われてから、クウネルもまた、
さきほどと同じようにトランクスの向かい側へとゆらりとすわった。



――その顔が、今までとは少し質の違う笑顔を見せていたことは

     ……この場にいる者では本人にしかわからないことだった















「……なるほど、あの卵のような機械はタイムマシンですか……進歩していますね」

話をあらかた聞き終えたクウネルは腕を組み、片目でチラリとボロボロの卵のようなものを見やる。
疑心暗鬼なのだろうか、その口調には今までとは違う冷めた感情が含まれていた。

「別に信じてもらえなくても構いません。……信じるかどうか、それはあなたしだいです」

最後のセリフをわざと強調して、ニヤリとトランクスが笑う。
クウネルのほうはそんなトランクスを見て「あら、やられた☆」とでも言いたげに
ばかばかしく口と眼を小さく見開いてしまった。
「してやったり…」とでもトランクスは思っているのだろう……しかし、

「ほら、やっぱり私と気が合うじゃないですか」

……やはりというか、しかしというか、クウネルのほうが一枚上手であった。

そんなどうでもいいやり取りに歯を食いしばりそうになったトランクスだったが、
ふと、相手のペースに乗せられていることに気付いて深呼吸をひとつした。
空気を深く吸い込む際に、ここの空気がとても美味しく感じられたのは
トランクスにとって、自分がいかに「自然」に不慣れているのかを思い知らせた。

「話をそらさないで下さい……全く、何度目ですか?」

「5度目ですね」

「数えなくていいです!!」

トランクスはこのクウネルという人が、
本気で「苦手」だと言うことを確信した。



その後も、トランクスが話そうとすれば流され、ペースを持っていかれてで
なかなか話は進まず、ただクウネルがニコニコ笑う時間だけが過ぎていった。
……やっとクウネルがこの時代のことについてと、トランクスのことについての「仮説」を
話し始めたのは、もうドラゴンと戦ってから数時間がたっていた、紅茶も冷めきったときだった。





「……トランクスさん、結論から言ってここはあなたのいた世界の「過去」でも「未来」でもありません。
あなたのいた世界とは、おそらく根底から違う進化を遂げた別世界ですね」

「つまりは……パラレルワールドということですか……」

「違います、『全く別の世界』です、あなたがさきほどおっしゃった『ピッコロ』や『セル』や『人造人間』
……残念ながら、私ですら全く耳にしたことがない言葉です」

「そ……、そうです……か…………」

その言葉を最後に、トランクスはイスの背もたれにがっくりと力なくうなだれた。

しかし彼、「『別の世界』に来ている」こと自体がショックではなくて、
うなだれた視線の先にあるもの――タイムマシンが壊れていることに多大なショックを受けているようだ。

「(まいったな、タイムマシンが故障するとは……クウネルさんの話し方じゃこの世界には
タイムマシンというものはまだ発明されていないようだし……)」

おいといても邪魔なので、タイムマシンをカプセルに戻し、
思い切り頭を抱えて悩む。
そんなトランクスに、“沈む沈まないは別とした”助け舟を出したのは、やはりクウネルだった。

「そうですね……私の知人なら何とかしてくれると思いますよ」

「! だれです? どこに居るんです? その人は!?」

当然、わらにもしがみ付きたかった気持ちのトランクスが、
たとえ泥で出来ていようが、紙で出来ていようが、助け舟なんていう贅沢なものに乗らないわけがない。

「この上です」

クウネルはピンと背筋を伸ばした人差し指でごつごつした岩肌の露出した部分のさらに先、
滝の向こう側です、と言わんばかりに大きく指差した。
トランクスは視線を飛ばしてその先にあるものを見ようとしたが、
やはりそこにはトランクスが期待しているよなものは何もなく、ただゴツゴツとした岩がコケを帯びているだけ、
どう見てもあの自然の中に何かがあるようには思えなかった。

「わけがわからない……」トランクスがマユにシワを寄せたとき、

……ぽん

トランクスの肩から、そんな間抜けっぽい音がした
どうやらクウネルが彼の肩に手を乗せたようだ。
トランクスは大慌てで振り返った。クウネルの手に、不気味な気配のする気の集中を
無意識的に読み取ったからだ。

「スキありですよ……」

クウネルを殴りつけようとしたトランクスだったが、
その拳は無念にも空を切るだけに終わった。理由は簡単だ……クウネルが消えたからだ。
気のカケラ一つ残さずに、まるで初めから居ない存在であったかのように。

「な?(瞬間移動か!?)」

気や、気配すら残さずに完全にその空間から消え去る。
それはかつてあの世界のあの時代に悟空がやったことによく似ていた。
トランクスははっと思い出し、そこでようやく、
と言うよりはやはり――クウネルという存在は並々ならぬ使い手であることを悟った。

「ゆ、油断した」

トランクスの身体を、足元から立ち昇る光の円が包み込んだのはそれからしばらくの後ことだった。









――トランクスが立ち上る光にかき消されたそのすぐ後に、クウネルは再び姿を現した。

「今度おいでになられたときには、美味しいコーヒーをご馳走してあげましょうか……」

そう言うと、ニッコリと笑って吹き抜けた一陣の風と共に静かに消えていった。

N&D

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