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其の五 出会い 投稿者:鉄人 投稿日:02/04-23:56 No.1979  

クウネルさんが仕掛けたであろう光がようやくオレを手放したとき、
オレはまた、全く記憶にない、見たこともない景色に遭遇した。……もう、何度目だろう?
やはり、辺りには当然のように建物が規則正しく並ぶ、一つ一つは見たことがあるような建物でありながら、
どれほど記憶を詮索してみても答えらしきものすら思い当たるものはなかった。

ただ、オレが元々居た世界と、確実に同じものもいくつか存在していた。

一つはここに来た瞬間から見て取れたこと。
建物を輪郭すら覆い隠し、消し去ってしまおうと闇を広げる夜と、
もう一つは、その闇の中で確かに光を放つもの。
この暗闇を絶望とたとえるなら、その中で確かに存在する確かな希望……
『夜の太陽』とも思えるもの――


――そう、『満月』だった


僅かでも見慣れたものが、自分の居た世界と共通しているものがある事を知り
トランクスは心にかすかな余裕が出来るほど安心した。思わず、ほっ、と息をついた。

どうやら、クウネルという人物はああ見えてしっかりしている、信頼の足りる人物でもあったようだ。
なぜなら、ちゃんとこうした『町』に、自分のような『珍入者』を送り込んでくれたのだから、それだけでも感謝すべきだ……

「さて、どうすればいいのかな……」

ぼつりと呟いて、上空に浮かび神々しく輝く『満月』を、眼を細めて見つめた。
輪郭すら奪い取らんとする圧倒的な闇の世界を、うっすらとだが確実に照らしてのける存在。

――あわよくば、このオレに襲い掛かる不安を取り去ってはくれないだろうか……

満月に淡い希望を無駄だと知りつつも送り、トランクスは再び正面の――かすみきった景色を眺めた。


暗闇に、どれほど輝かしく妖艶な満月が光を灯しているとはいえ、それはとても微力なものだ。
常識的な人物ならば、とてもではないがこんなに暗くなってしまっている世界を出歩こうなどと
誰が考えることであろうか? 
これほどの夜、大抵の人は家の中で暖かいベッドに横になって寝ているか、
起きていたとしても、外に出て空気を吸おうなどと考える者がいるとは思えない。
建物にムリヤリ入り込んで、強引に出会いをつくることも彼の力があれば出来ないことではないが、
彼は自分の性格上、そんな暴挙に及ぶことを許しはしなかった。

「とりあえず……寝床だけでも探そう」

疲れているのか、ややフラフラした足取りでトランクスは見知らぬ世界での第一歩を踏み出した。






        『N&D』
          其の五 出会い 





飛び上がった“影”と化した存在に、チャンスとばかりに銃を向け、引き金を引く。
打ち出されたのは3発、それぞれに特殊な術を施した3つの鉛球。
スパイラル回転しながら影へと一直線に飛ぶそれらは、初速にして音速を超えるシロモノだ。
当然人間の目に映るようなものではないし、避けることなど絶対に不可能だろう。……絶対にだ。

加えて、影と銃の距離はほんの数メートル、よく見積もった所で10m離れているかいないか程度、
ここまでくるともはや、「避ける」とかそういうレベルではなくなっていく、
「撃った」と脳が思った瞬間には、身体に3つの風通りの良い穴が開いていることだろう。
しかし、視界が極めて悪いこの漆黒の中で影は、恐ろしいことをやってのけた。


そう、瞬き一つせずに、両の手に握っている鉤状に変形しているクナイで3つ全てを叩き落したのだ。


だが、それほどまでに恐ろしいことをやってのけた影に対し、相対する銃を持つ男の表情には変化が見えない。
焦りもなければ、これといって慌てた様子もないのだ。
それはまるで、「朝起きたら顔を洗うこと」のように、至極日常的なことがあたりまえに成されただけ、とでも言いたげに見え、
さらに深く追求してみるなら、この影たちが始めからこうする事など知っていたかのように見える。

……事実、知っていたのだろう。

それは、その後に彼らが見せてくれる動きで確信できた。


影はそのまま勢いを止めることなく銃を持つ男――ガンドルフィーニへと斬り付ける。

対するガンドルフィーニはまず、振り下ろされた左手のクナイを銃のマガジンで弾き飛ばし
次に右手の、横薙ぎ振りぬかれたクナイを左手のアーミーナイフで冷静に受け止める。
そして両足が着地した瞬間に、無防備になっている影のボディに前蹴りをおみまいした。

はじけるように飛ぶ影だが、実際のところ全くではないがダメージは負っていない。
前蹴りがヒットする前から、実は自分から後ろに飛んでいたのだ、
伸びきった蹴りの衝撃など、クリーンヒットしたときと比べてみれば雲泥の差があるのは明白だ。

……ただ、そのファインプレイ的な行為すらガンドルフィーニにとって、忘れられていた瀬流彦にとって、
想定内の範囲……いや、むしろ狙っていたことだったのだから、恐ろしい。


――突如、影となっていた男の身体を、数本の「光の矢」が貫いた。


声も無く、自分の力では動けなくなった男は
焼かれる魚のように灰色の見えにくい煙を吹きながら人形のように地に倒れこむ。
その倒れ方は2人に、男が立ち上がることはもうないという確信を持たせた。

しかし、のんびりとその様子を眺めているワケにもいかなかった、
なぜなら、影男の仲間たちはそれを見ることすらしていないのだ。
すでに刃の矛先は、技後硬直で一瞬動けなくなった瀬流彦へと向けられている。

「くっ……」

反応は出来たのだが、身体が自由になったのは声を出した後だった。
しかしもう、影たちの揮う怪しく黒光りした刃がそこまで迫っていた。

――……避けられない!

瀬流彦が覚悟を決めたとき、背後から彼の両頬を掠め取るように、2本の黒いナイフが一瞬、通り抜けた。

ナイフは見事に影たちの胸に突き刺さり、大きくのけぞらせた。
1人は宙空にいたために避けることが適わず、自身も攻撃動作の途中であったため叩き落とすことも出来なかった者、
1人は瀬流彦に接近しすぎていたため、単純に回避ができなかった者、
おそらく後者は、何が起こったのかすらもよくわかっていないだろう。

2人が地面に転がったとき、瀬流彦の髪が思い出したように切れて、
何本かのか細い毛がひらひらと宙を舞った。

「ちょ、ガンドルフィーニさん、酔ってるんですからあんまり無茶しないでくださーい!!」

半分泣きそうになりながら目を尖らせる。

「な? 危ない所だったではないか! 助けたのだぞ!?」

「確かにそうですけど……! あぶない!!!

瀬流彦が細い目を見開いて叫んだ。
声にあわせるように、ガンドルフィーニは振り向きながら、頭上にナイフをかざす――――…


     ガキィィィイン!!


金属音が響く。とっさにかざしたナイフに、
今までとは一味も二味も違いそうな、黒い刀身を持つ短刀が撃ち下ろされていた。

「グッ……ァ」

予想を遥かに上回る鋭い重さが衝撃となり、衝撃が電流となって身体を伝う、
やがて身体の芯にまで響いたそれはナイフを握る左手から力という力を奪い取る。
あきらかに他の影どもに比べ、力が頭一つ抜けている。

――コイツが刺客たちのリーダーだな……

2人は同時に思う。そう思うのも、無理はない一撃だった。


「魔法の射手・連弾・光の三矢!!」

瀬流彦が叫んだ瞬間、彼の周りを囲うように漂っていた魔力が形を成し、
言葉どおり矢のごときけ異常に変化し、「矢」と言うよりはそれこそ「弾丸」のごとき速度で
先にいる2人に突進する。

彼の実力なら、三矢とはいわず百以上の矢を放つこともたやすいのであろう。
対人相手なら、普通多くても四十から五十くらいが妥当であろうし、少なくとも十以上の数を出さなければ
相対する敵の致命傷、下手をすればダメージすら期待は出来ない。
だがしかし、ここはあえて、彼はたったの三矢を選択した。

ガンドルフィーニと相手はほぼ密着した状態だ、
そんなときに四十も五十も矢を撃ち出そうものなら、どううまく当たっても相手だけでなく
味方にまで被害が及んでしまう。
かといって、中途半端に十程度の数なら威力は集中できても万が一、味方を盾にでもされたら元も子もないし、
実際、あの刺客どものリーダーの実力ならそうしてくるだろう。
しかし三矢、たったの三矢ならたとえ盾にされても致命傷になどならないだろうし、
何より、それで一瞬でも相手が気を向けようならガンドルフィーニの攻撃のスキをつくることも出来るかもしれない。
スキを作るだけなら捕縛魔法の方が良いかもしれないと思うかもしれないが、
それこそ相手にかわされる、または味方を盾に使われた場合、もっと状況を悪くしかねない。

そして案の定、刺客の気は確かに矢へと向いた。

――……いまっ!

心の中で叫び、身体を奮い立たせた。
まだしびれの残っている左手に、袖から出した予備の銃を握り締め、右手と共に正面に救い上げる。
2つの銃口が側頭部へとあてがわれたとき、刺客は慌てる様子もなく、
ゆっくりと首を回して自ら銃口へ眉間を近づけた。


「終わりだ」

皮肉交じりに言い放ち、銃の引き金を引い――――……


トスッ……


聞こえてきたのは銃声ではなかった。
金属が、静かに肉に突き刺さる小さな音――――

「か……かはっ」

ガンドルフィーニの背中に、2本の小さいナイフが刺さっていた。
               
「そ……そうか……“五人目”か」

ぐらりと前のめりに倒れこむガンドルフィーニの背後から、漆黒色の忍び装束を着た五人目の影が姿を現わした。

腕が、足が、身体が、まぶたが重い。
どうやらナイフに即効性の毒でも塗られているのだろう、
存外、意識がしっかりしているので即死につながるものではないようだが……

「……ガ、ガンドルフィーニさ……!?」

瀬流彦は叫ぼうとしたが、それは虚しくも阻まれた。
空気にでも混じっていたのか? いつの間にか背後に移動していたリーダー格の男が
障壁を軽々と破壊して、彼のみぞおちに強力な一撃をプレゼントしたからだ。

「―――――――――…ッ!」

悶絶、言葉にならない悲鳴を上げて倒れこむ。
否応無く目が開かれる、ひとかたまりの吐しゃ物が地面に叩きつけられた。
立ち上がることはおろか、腕一本満足に動かすことすら身体が拒んでいる。

刺客のリーダーが言った。

「この男を人質に取る、そちらの、少し厄介な男は速やかに消せ」

少し離れた位置にいる、うつ伏せになったガンドルフィーニを見下すように立つ刺客は
コクリと頭を一度傾け、持っているクナイを逆手に握りなおした。
なぜだろうか、瀬流彦にはその時だけ、クナイが満月の光を吸収するかのごとく、妖しく輝いて見えた。



 ――――――……パキン……



小枝を踏んで折ったような音が、ガンドルフィーニより、
クナイを振り下ろさんとしていた刺客の男よりもだいぶ奥の闇の中から響いてきた。
当然のように全員が音の聞こえた方へ顔を向けるが、
その先に映るのはやはり暗い闇だけで、何者の姿も見えはしなかった。

刺客の男はクナイを止め、リーダーと目線を合わせる、
リーダー男は人差し指と中指の2本をピンと立て、そのまま音の聞こえたほうへ倒した。
おそらく、先にいるものが誰なのかを調べて来い、とでも言ったのだろう、
瀬流彦がそう思ったときにはもう、刺客の姿はどこにも見当たりはしなかった…………



   ――ドゴッ!!!



突然、鈍器をぶつけ合わせたような、さきほどとは比べ物にならないほど大音量の鈍い音が聞こえ、
続いて漆黒の闇の中から弾き出されたように、黒い塊が飛んできた。
塊は地面に落ち、しかしその勢いは止まらず、しばらく地面を擦り通った。

……やっと止まった塊は、白目をむいて泡をはき散らしてマスクを汚している刺客その人だった。

「何奴!?」

残されたリーダーが暗闇に向かって手裏剣を投げる。
今度はすぐに、金属と金属を撃ち合わせた鋭く軽い音がする。

暗闇から――とうとう一人の人間が姿を現わした……


「……妙な気を感じるから何かと思ってみたら、なんだ、これは……?」


この暗闇でもはっきり彩色のわかる紫色の髪をもつ見たことも無い青年は、
あきらかな困り顔でいきなりそう呟いた……






そのとき丁度、満月には厚くてどす黒い雲がかかりはじめていたのだった。

N&D

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