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其の六 始まり 投稿者:鉄人 投稿日:02/12-00:08 No.2036
『誰か』と、『何か』と戦うとき、心の中で己に迷ってしまう自分がいる。
その『迷い』は、この世界で初めてであった存在――巨大なドラゴンと戦ったときにも、
いつの間にか、さも当然のように心に入り込んで、カビのように染み渡っていた。
「このドラゴンは相当に強いだろう」
それはドラゴンと対峙したときに、自身の体を軽々と多い尽くす巨大な姿を見たときから、
肌にひしひしと伝わっていたことを知らず知らずのうちに脳が言葉として胸中に吐き出したものだ。
――『血』が反応した。
おそらくは、あっちの世界で宇宙一強い民族の身体に巣食うその『本能』が、無意識的に踊ったのだろう。
だが、『理性』ではわかっていた。
あくまでもそれは、“普通の人”たちの目線からの言葉。
わかっていた、自分が本気を出したらドラゴンはものの一秒足らずでこの世に存在することは出来なくなる、と。
そして、「だからこそ殺せ」と、理性に言い訳を見つけた本能が頭の奥底で叫んだ……
「オレは悟空さんのようには甘くはないぞ」
いつかフリーザに言った言葉は本当だ、オレはどんな命であろうが『悪』には容赦などしない。
“それ”は幼いうちに父さんや悟飯さんを失ってたオレに、いつのまにか植えつけられていた想いだ。
そのことを踏まえた上で――つくづく、体に流れているもう半分の血をありがたく思う。
オレの体に流れているのが宇宙一の戦闘民族の血だけなら
それこそオレは何の躊躇いも無く、ドラゴンをこの世から消し去ってしまっていただろう。
植えつけられている想いなど、間違いなく根底からひっくり返される。
二度目にいった過去の世界で、完全体のセルに挑んだとき、
父さんをも超えたパワーを手に入れたと勘違いしていたオレには、らしくなく自信があった。
それはたぶん……オレが人生で最も種族の『血』と『力』にのまれていた時だったと思える。
次々にみなぎってくるパワーに酔い痴れ、相手の実力を見抜けなかった。
強くなったと思い上がった自分よりも強かった相手など――未来の世界でイヤというほど知っていたハズなのに……
だからセルに悟らされたとき、オレは「殺せ」と言ったのだろう。
愚かにも『血』と『力』に魅せられてしまった自分を恥、思い知らせるために。
『戦う』たびに『血』が反応を示し、“トランクス”を飲み込もうとする……
――これがトランクスの『迷い』だった。
『N&D』
其の六 始まり
うっかり踏んでしまった小枝から十歩と進まないうちに襲い掛かったきた“押し殺した殺気”を持つ何者かに
カウンターのパンチを喰らわせた。
そのたったの数歩先、妙な『にごり』を孕む気の発生源に到着したトランクスは
ほんの少しばかり理解しがたい場面に遭遇してしまったようだ。
正面先の足元にはうずくまる様にして地面に伏している、おそらく自分と年の変らない青年。
少し先のナナメ横を見てやると、こっちにもうつ伏せに倒れている浅黒い肌の男が、
そしてその男を見下ろすかのごとく、一本の短くて黒い刀を持った黒服の男がそれぞれ目を見開いてトランクスを見つめている。
……ちなみに、そのすぐ隣には刀を持つ男と同じ格好をした男が、
身体を小刻みに痙攣させながら大の字になって寝転がっていた。
おそらくはオレが殴ったやつだろう、とトランクスは思う。
それにしても、満月は雲に隠れているというのに、この場所だけは今も光が当たり続けているかのように
ほんのりとした明るみを持っている、実に、奇妙な場所だ。
「何奴!?」
ドラゴンにも負けないくらいの低い低いバス声で、刀の男が開いている手から手裏剣を投げてきた。飛んできた数は三つ。
反射的に剣を抜く、幸い数も少ないし、対した速度でも全然無かったために
薄暗い中でも充分に斬り落とす事はできた。
それを見た男の眉が、少しだけへの字に曲がってシワをつくり、沈んだ。
男の身体から、わざわざ探ってやる必要も無いくらいに殺意ある気があふれ出す。
「き……、君。はやくっ……逃げるんだ!」
倒れている青年が叫んだ。
どうやら、この青年も男からあふれ出す殺気に感づいたのだろう。
額に、頬に滲んでいた汗が、叫ぶ際にぼらばらと撒き散らされている、
顔色は、もはや半死人と言っていいかもしれないほど青ざめていた。
トランクスが、心配そうに青年を見つめたその――
――直後、恐ろしい速度でトランクスに接近した男が、スキ有りと言わんばかりに刀を突き出した。
「…………?」
何が起こったのかわからないといった表情で、私は“何も刺さっていない”愛刀の矛先を眺めた。
“何も刺さっていない”というのはそう、
目の前についさっきまで確かに立っていた青年が、刀が刺さったと思った瞬間、唐突に消えたのだ。
あの紫髪の優男はチームの中で抜群の『力』、『速』、『技』を兼ね備え、
それゆえにリーダーを任されていた自分の全力最大最速の『瞬動』を。
……いや、もはや『縮地』の域にまで達している速度での奇襲攻撃をあっさりかわしたと言うのだろうか?
――ありえん!
声に出さず、不信感を抱く自身の考えに全力で言い聞かせた。
――己の力に信頼を持てぬ者が、何故人の上に立てると言えるのだ?
さらに身体に諭す。
しかし、それは背後から聞こえてきた声に無駄であると知らされた。
「だいじょうぶですか、立てます……?」
聞いたことの無い声に、大慌てで振り向いた。
目線の先にはあの紫髪の優男が膝を突いて、倒れている麻帆良の魔法使いに手を差し伸べているではないか。
「見えなかった……」
珍しく、声として呟いてしまう。
マスク越しに開いた口など、閉じることすら忘れていた。
差し伸べられた手を握り返している、麻帆良の魔法使いの方も見た感じ呆然とした顔だ。
おそらく、奴にもあの優男が消えたように見えたのだろう。
「貴様ッ!」
短く叫んで、私は再び優男へと瞬動を使用する。
麻帆良の魔法使いはすぐに気付いたらしく、優男に何かを叫んだ。
しかし、肝心の優男の方は迫る私に対して背を向けたまま、微動だにしていない。
あっ! という間に優男に接近した私は、その無防備すぎる背に光速で短刀を振り下ろした……
ガッ!
私の耳に届いたのは、肉が斬れてあらわになった皮膚の下から鮮血が噴水のように
ビチャビチャ飛び散るような、ノイズのように耳障りないつもの音では決して無かった。
太刀音とはかけ離れて違う、むしろ太い木をへし折ったような軽快な打撃音だったのだ。
私は悟られぬよう生唾を呑み、『音源』――後方へと顔を向けた。
――そして、絶望感を感じた。
くるりと回った視覚に現れたのは、だれであろう、優男だったのだ。
「キ……キサ……」
振り返り、手を振り上げようとした途端に首筋に強烈な痛みがじわりと染み込む様にして浮き出てきた。
悔しいことに、私の意識は――もう、……そ……まで……は、はたら……なか……た……
がしゃり、と糸の切れた操り人形のように、男の身体が地面に伏すのを見届けてから、
トランクスは振り返って瀬流彦の元へ歩み寄った。
「あの、大丈夫でしょうか?」
トランクスが心配そうに声をかけてやった瞬間、
細めの男性はシャボン玉がはじけるようにビクリと跳ね上がった。
「え……ええああ、っとぉ……はい……」
困惑した様子で答えてくる。
どうやら、自分で立ち上がる余力は充分にありそうだ。
「さて、次は、」
――あの浅黒い肌の人を助けなければ。
トランクスは、その男性の倒れていた方へと振り向いた。
「!」
視線の先にあった光景に、トランクスは驚いた。
でも、それは軽いノリのときに使われる薄っぺらいギャグ的な『驚いた』ではなく、
真剣な表情で口をムの字に曲げ、先に向けている目だけを軽く見開くというマジメでシリアスなものであった。
トランクスのその先には、さきほどまで確かに倒れていた男がよろよろと立っていた。
そしてあろうことか、トランクスに対し右手に握りしめる薄いグレーの硝煙を吐き続ける銃の口を向けていたのだった。
その行動に、一目散にケチをつけたのはようやく立ち上がった隣に並ぶ細目の青年。
「な……何をやっているんですか! ガンドルフィーニさん!?」
イマイチバランスが取れていなかったのか、よろけながらも目の細い男性が浅黒い男性に決死の表情で叫ぶ。
「離れるんだ瀬流彦君!!……君は一体、何者だっ……! なぜ、あんな力を持っている……」
静かに、しかし乱れた息が口から漏れ、両肩はがたがた震えている。
本当ならもうしゃべるどころか立つことすら辛いはずだろう。
男――ガンドルフィーニの背からは赤い液体がポタポタと垂れ、
足元に、水に赤色絵の具を一本全部使い切って混ぜたような、黒に近い濃さを持つ真っ赤な水溜りを造っている。
当然、それはすぐにトランクスの目にも止まった。
「ガンドルフィーニさん!! 今はそんなことよりも、背中の傷を治療しないと……」
「! うっ……」
また瀬流彦と言う名前らしい隣の男性が叫んだすぐ後、
まるでその叫びがスイッチだったかのように、ガンドルフィーニの身体は膝から落ちた。
「ガ、ガンドルフィーニさん!!?」
とっさに瀬流彦がガンドルフィーニの腕を取り、倒れないようにと力を込めて支える、
力を失いかけているガンドルフィーニの身体が、地面にキスする寸前にがくんと揺れた。
そのまま腕を肩に回して何とか支えようとしたとき、
ふいに、逆の腕を肩に回して支えようとする影が、瀬流彦に見えた。
「手伝います」
ニコリ、とでも効果音がついても文句がなさそうな笑顔で、
力強くガンドルフィーニの身体を軽々と持ち上げたのは……トランクスだった。
瀬流彦の顔にほんの少しの安心と、ちょっぴりの余裕が生まれた。
――――ピリリリッ! ピリリリリッ!
そんな時、唐突にどこかからベル音が鳴り響いた。
思わずトランクスは顔を左右に揺さぶったが、瀬流彦の方はむしろ怒りにあふれた顔で、
音源である自分のポケットから携帯を取り出した。
ポケットからだして音量が大きくなった折りたたみ式の携帯を開き、
どこかしらのボタンを押すと、申し訳なさげにトランクスの方をチラリと見た後電話を耳に当てた。
その瞬間、瀬流彦の顔がこれまで以上に驚きを帯び、身体がびくりとはね上がった。
ぺこぺこと、おそらく電話の向こうの人物に届かないお辞儀をして、
またもや申し訳なさそうに、トランクスの顔を横目でチラリ覗き込んだ。
そしてようやく携帯を耳から外し、ポケットに直す。
トランクスはゆっくりと、負担がかからないようにガンドルフィーニを寝かせ、
何かを言いたげにコチラを見つめる瀬流彦に視線を合わせた。
「すみませんが、あなたの名前は……」
彼の、さっきまでの弱弱しい態度から180°変った。
「トランクスです」
しっかりと自分を見据えるその姿勢に、トランクスは名乗らざるを得ないと感じた。
「トランクスさん、いきなりこんなことを言うのもなんなんですが……
少し、僕たちについて来てはくれませんか? ……あわせたい人が、いるんです」
「あわせたい人……」
「ええ」
目の前に立つ男は悪人には見えない。
むしろその目になんらかの決意をぎっしりと詰め込んでいる。
嘘はついていない、いや、つけそうも無い表情。
――少なくとも、あのクウネルさんよりは信頼できると思う顔。
トランクスは答えた。
「わかりました」
と……
たった今、手に持っている電話の電源を落とした、1人の老人がいた。
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