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其の九 蘇った『???人』 投稿者:鉄人 投稿日:03/12-01:58 No.2129  





 “どんなときでも仕事をする時は夜の方が良い――”


 愛刀を握り締め、『仕事上の敵』として存在する相手を見て、桜崎 刹那はそう思ったのだった。






            
       『N&D』
         其の九 蘇った『???人』






「ぐ……ぐそぅっ!!」


 耳に届いたのは悔しがる相手の声、
 加減無く地面を叩くその手に、使えなくなった札の数枚をクシャクシャになるまで握り締めている。

 何時も通り『倒して欲しい』、と頼まれて今回の請け負った仕事の相手は『陰陽術士』。
 それもセオリーと言って差し支えないほど完璧なまでの『召喚術士』だった。



 追い詰める先々で札を媒介に現れる異形の者達。
 全てがどうと言うことはない、下級の鬼がほとんどだったが数だけは異様に多かった。
 一般的に例えるなら、町でチンピラ200人に襲われているようなものだ。
 
 だが、所詮は雑魚。今日は真名が別件でいないとはいえ私1人でも充分だった。
 

 (“業(わざ)”を使うまでも無い……)

 
 刀を振るうたびに消えていくそいつらを見て、私は素直にそう思っていた。
 
 そして、無様なまでに私から逃れようとする、敵の憐れで滑稽な後姿を見るたびに、
 それが自分でも知らぬ間にどこ知れぬ苛立ちへと変わっていたことに気付いていた。




 山中を追いかけっこしているうちに、森林生い茂る中にひっそりとたたずむ廃墟が見えた。
 枝の上を駆けていた男が急に進路を変更し、元々割れていた窓を飛び越えて廃墟の中へ逃げ込む。
 
 当然、逃がすわけにはいかないので私も合わせる様に進行方向を変えて、数秒後に同じ窓から飛び込んだ。
 


 中は暗かった。
 カベにはスプレーで殴り書きされた英語文字や多量の液体をぶつけた後が黄色いしみをつくっている、
 床にはゴミや天井の破片などが散漫していてかなり歩きにくい。

 なにより、入った瞬間に悪臭が鼻を突いた。


 夕凪を持っていない方の手で思わず鼻をつまむ。
 踏んでいる床の部分がキシリと音をたてた。 


「病院か何かか……」

 
 呟いて、それから想像した。
 
 この廃墟がきれいで、人があふれて和気藹々とする姿を思い描く。
 かつてはここも、人が人のために働いていた所だと。


 


         タタタタタタ……





 革靴が床を蹴る音がして、はっと正気に戻る。  
 
 そうだ ! 今は“感傷”に浸る時ではない、仕事を果たす時なのだ。
  言い聞かせて、音の鳴った方――――『第一……』と書かれた腐りかけた木の板が架けてある部屋へと急いだ。



 
 室内は驚くほど静かであった。
 外にはあれだけ充満していた劣悪な臭いも一切嗅ぎ取れない。 
 
 目を配らせ、部屋全体を見渡してみるとはっきりと概要が掴み取れた。 
 それなりに広い部屋のようだが、シーツの無い古ぼけたベットが乱雑な並びで置いてあり、
 それらが部屋のスペースをやや狭くさせていた。
 
 しかし、肝心の男の姿が見当たらない。

 窓には何のためか、分厚い鉄格子が架けられていてとてもここから逃げられるとは思わない。
  
 どこかに潜んでいるのだろうか……?
 
 夕凪を握る手に力を込め、神経を尖らせた。物音一つ見逃さない集中力を発揮する。
 

 
 ギィィ……



「!!」

 扉の閉まる不気味な音は背後から聞こえてきた。
 刹那が慌てて振り返った時には、がしゃんと鍵のかかる音がした。

 ドアの前には、敵として追っていた男が半分うつろな目をして立っていた……


「いつの間に」

 チキッ、と音を立て、男に向けて刀を構える。
 男が何をしても、瞬時に必殺の一撃が出せるようにするためだ。

 しかし、男はどこか様子が違った。
 男は半分うつろな目でありながらも、本当にさっきまで情けない後姿を見せていた男と
 同一人物なのかと刹那に疑いを持たせるほど一変して、堂々と刹那の目を見据えていた。


「きひっ……ひひひっひひひひひっ……」


 男が急に笑い始めた。
 それは普段、一般的に人が「楽しい」時に見せるものでなく、
 最近彼女の仕事上でよく見るモノに――“人が闇に堕ちる時の、絶望を孕んだ笑い”――に近かった。



 嫌な予感が身体に警告を鳴らし、夕凪を握る手に無意識に力が篭る。
 刹那は聞いた。

「何がおかしい」

 男は笑いながら答える。

「ひひっ、『おまえ』は『俺』をここに“追い詰めた”と思っているんだろうが、
 それは全くの逆だ。『俺』が『おまえ』をここに“追い詰めた”んだ……」

 
 意味がわからなかった。嫌な予感だけが身体の中で渦巻いていたが、
 今はただ、男の話に黙って耳を傾けていた。  


「裏切り者に始末をつけられる、なんてマネはできない。
 かといって俺が俺よりも数段強いおまえから逃げる……もとい逃げられるなんて思っていない!」


 裏切り者――という言葉が出たとき、刹那のマユがピクリと動いた。
 男はそんなことに気付くはずもなく、強い口調でまたひひひと笑いながら、
 さきほどの逃走劇でボロボロになっているシャツのポケットに手を突っ込んだ。


「ただ、このまま黙ってやられるだけっていうのは癪に触る。しかし、俺はこの極地において、
 おまえを倒して無傷で逃げ切ろうなどと馬鹿なことは考えない。
 ……だから『俺』は『おまえ』を倒すことに手段を選ばない、例え……俺の身がどうなってもな……」


 ポケットからようやくでた手には、傍目でわかるほど強力な魔力の篭った一枚の札が握られていた。

「! 何をする気だ!?」

 叫びながら男に飛び掛る。
 振り上げた夕凪には奥義の一撃を出すための気を既に送り込んである。


 が、次の瞬間、男の手から離れた札が爆音と共に光の柱を発生させ、
 それにより刹那の小さな身体は後方の鉄格子まで一気に吹っ飛ばされた。

 たたきつけられた衝撃で錆びれた鉄格子がビーンと音を鳴らす。
 痛みは多少あったものの、刹那はすぐに立ち上がった。
 
 天まで突き上げそうな勢いで渦を巻く光の柱を改めて睨む。
 やはり、そこから感じるのは圧倒的な魔力と、圧倒的な気だけ。
 
 どちらもが明らかに術者の男に扱えるレベルで収まるものではないことが、一目でわかった。

「何を考えている……」
「ひひ、解ってるだろうが。この札は上級の鬼神を呼ぶ。
 ……それも、術者の俺が操りきれるレベルを遥かに超越した鬼だ!」

 両手で印を結びながら、自信満々に男が叫ぶ。
 もはや刹那の姿すらまともに捉えていないその目は、狂気によってどす黒く歪んでいた。


「暴走させる気か!」
「その……通りだァアッ!!!」


 させん! と再び夕凪を振るった刹那だったが、男が狂ったように叫んだ瞬間
 光の柱が一気に膨張し、大爆発を起こした。
 その爆風によって刹那はおろか、男さえも吹っ飛んで床を転がる。
 
 



 ――――瞬間、桜崎 刹那は降りかかってきた『気』の波に、顔を青ざめさせた。



 
 
 揺れ動く膝を支えて立ち上がると、すぐに夕凪を構える。
 既に肩で息をしそうなほど顔色を悪くした刹那の前に現れたのは、鬼ではなかった。
 むしろ、人間。……それも、結構どこにでもいそうな中年の男だ。
 
 が、彼女にとって、現れた“それ”は彼女が知りうるどの鬼よりも大きく、凶暴で、凶悪に見えた。

 上背は刹那より半メートルは高いであろう長身、身体は大きく太く非常に大柄で、しかし
 その全ては肩口から見える盛り上がった筋肉と同様のものだろうと予測できた。
 顔は大きく、髪の毛は無い(スキンヘッドと言うやつだろう――と刹那は思った)。
 ただ口ひげがあることから元々毛が無いのではなく、剃っているのだろう。
 眼光は鋭かった。身に着けている鎧のようなものが黒光りして、さらに見るものを圧倒させた。  
 
 そして最も可笑しい所が、頭の上に天使の輪のようなものが浮いていたことだった。
 

「…………くっ、はーっはっはっはっはぁっ!!!」

 
 現れたばかりの大柄の男は急に笑い出した。
 両方の拳を握り、大口を天井に向けている。この場に現れることを本当に嬉しがっているようだ。

「きひっ! ……ひひひひひひひひっ」

 つられる様にして、男も笑い出した。そしてその状態のまま大柄の男に近付くと、肩にぽんと手を置いていた。

「ん? ……ああ! そうか、おまえが俺をここに呼んだんだな?」

 やや疑問系で尋ねる大柄な男に、男は口元を歪ませてああと言った。
 
「鬼ではなかったが、(まぁ、札は裏ルートの横流しで貰ったやつだから変でもしょうがねぇが……)
 お前から感じる圧倒的な力……いいぞっ、いいぞっ、きひひひひひっ。
 早速その力をもってしてあのガキを亡き者にするのだ!!」

 言われてから、大柄の男は刹那の方へと視線を移した。
 眼光が向けられたことというたったそれだけに圧力を感じた彼女はたまらず、練りに練った気を全身に纏う。

「へっへっへっ、これはこれは、どうやら“この世界”に慣れるのに
 丁度良いオモチャが転がってるたぁな。俺もなかなかどうして、運が良いじゃねぇか~」 

 言いながらにやりと笑った男から、また強い力があふれるのがわかった。
   
 
「……その前に、だ!」
 

 突如として、大柄な男は刹那に背を向け、男の方へ向いた。 
 戸惑いの表情を映す男の顔にいきなりぴたり、と右掌を押し当てた。
 なにをするんだ、と言う男の震えた声にも耳を貸していない。



「お礼がまだだったな!!」



 大柄な男がそう言った瞬間に、男の顔が恐怖に潰され刹那の顔が驚きに塗られた。


 …………男の顔が閃光のように輝き、次の一瞬には男と言う人間は跡形も無く消えた。










 巻き上がった煙が落ち着く頃に見えた景色には、
 もはや病院の廊下も、さらにその先に“あった”森林地帯も削り取られていた。
 
 ――――そう、文字通りに『削り取られてしまっているのだ』。綺麗サッパリ跡形も無く……


「あ、な、なんて……」
「ふはは、ちーとお礼をはずませすぎたか!?」

 見開いた目が渇きを覚えたとき、男に遮られてそれ以上言葉が続かなかった。
 そうだ、こんなことを言っている場合ではない。口ぶりからして次にやられるのは、……私。
 
 ……このままでは、危険だ!

 それは本能が紡ぎ出した叫びだった。


 未だに背を向け続けて笑っている大柄な男に向かってありったけの気を込めた一刀を向けたその時、
 刹那は妙なことに気が付いた。
   
(しっぽ……?)

 大柄な男(以下『男』)の黒いパンツから、茶色の毛に包まれた一本の尾が出ていたのだ。
 この男は、やはり人間ではないのか?
 思考を巡らせている時、やっと男は刹那に気付いた。


「なにぃい!!?」


 男の慌てて振り上げようとした腕よりも先に、刹那の剣は男の身体を叩き斬った。
 炸裂した気が爆発を引き起こし、男の身体を包み込む。
 すかさず刹那は男と距離をとり、さきほど男が開けた大穴――崩れかけている――を背後にして
 男へと向きなおした。 


 そして後に、その選択は実に正しいものだったと刹那は思う。
 

 姿を現した大柄な男は大したダメージを負っていなかった。
 不服そうに顎を撫でると口の端を吊り上げ、不気味な笑顔を刹那に見せた。
 
「随分面白いことしてくれるじゃねーか……」 
 
 内容と態度が全く違っている。
 口では面白いなんて言っているが、実際には頭に血管を浮かばせるほどに“キれて”いる。

 ……いや、よく見るとダメージを負っていないわけではないようだ。
 男の腹の鎧に大きな亀裂が入っており、そこから人独特の赤い血が流れ落ちている。
 そして、その――中途半端に傷つけてしまった――せいで逆に怒らせてしまったようだ。

 男の手には既に、肉眼で確認できるほどの邪悪な気が込められている。


 
「消えて無くなれ―――ッ!!」


 
 男は、それを何のためらいも無く刹那に向かって放ったのだった。

N&D

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