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其の十 恐怖 投稿者:鉄人 投稿日:04/14-02:08 No.2258
――――深夜――――
普段ならとっくに夢の中、笑顔でそれを満喫しているはずの少女は
今日に限って半分寝ぼけた目を開かせて、何かに導かれるように窓の外へと顔を出した。
(……風が無いなぁ…………)
どこか寂しげな顔をして手を動かし、垂れ下がった長くて黒い髪を一束すくう。
今日の夜はめずらしく、風が全く無い。
そのまま、何も起こらないまま……しばらく時間がたった。
何をするでもなくただボーっとしていただけの時間、全ての世界がぼやけていた。
感覚が狂ったように思う。時の流れが余りにも速いようで、途轍もなく遅いようにも感じた。
また時間だけが過ぎたとき、再び眠気が襲ってきた。
さあ、じゃあそろそろ眠ろかなと歩き出したときに、耳の奥にピシッと小さく何かが聞こえた。
何かな? と足を止めると音のした方へとフラフラしながら歩を進めた。
――それは、なんの予告も無く、ひび割れていた。
お気に入りのティーカップ。
雪のように真っ白な色に、美しくて可愛い白鳥の絵がプリントされているもの。
何時買ったのか、はたまた誰かに貰ったのか詳しいことは覚えていないのだが
“彼女”はもう、気が付いたときにはこのカップを愛用していた。
だが、なぜこのカップを大事にするに至ったのかも、実はよくわかってはいない。
人並みの理由なら考え付く。
――汚れ無き純白に惹かれた。
――その中で美しく映える白鳥に惹かれた。
……違う。合っているようで、どれも違う。
このカップの魅力は確かにそれらだと言えるのになぜか「ピン」と来ない。
ただ解っているのは、自分の大切にしていたものがこの瞬間、
はっきりと『壊れた』事だけだった。
「あ~ん、なんでー? なんで壊れるん……?」
泣きそうに曇った声がポロリと漏れた。
それほど大切に使っていた。毎回使うたびに一倍気を入れて洗ったものなのだ、
実際に今手の中に大事に包み込んでいるそれには、今さっき発生したひび以外のどこにも不純物が見当たらない。
まぁ専門家ではないので正確な寿命は知る由も無いが、傍目で見た感じあと10年以上はもつと思える品だった。
それが……突然割れた。
自分の好きな占いに絡めて言ってみると、これは『不吉な予感』というものでは……?
考えた瞬間、急に寒気を感じた。
そういえば最近のネギくん――吸血鬼事件の後らへんから――は妙に元気が無い。
悩み事が苦手なアスナも、最近はため息が自然に思えるくらいよく頭を抱えている。
考えていると、なんだかぞっとした。
持っていたカップを素早く手放すと大慌てでベットに駆け込む、
ふわりとした触感がある布団は頭からかぶってみるととても暖かく、
その暖かさは少女の気分を少しだけ落ち着かせた。
……気が付くと、いや、正確に言えば気が付かないうちに少女は深い眠りへと誘われていた。
「…………せっ……ちゃん…………」
薄れゆく意識の中で、少女が最後に発した言葉だった。
『N&D』
其の十 恐怖
恐ろしい気の塊が猛スピードで『桜崎 刹那』へと突進した。
「くっ……」
防御が間に合わないと判断した刹那は瞬動を用いて横に跳び、さらに身を捻ることでそれを“何とか”かわす。
見晴らしの良くなった部屋から再び、破壊の光が飛び立つ。
それから一秒と立たないうちに、はるか遠くでこのボロ廃墟(おそらく元病院)を揺らすほどの爆音が響いた。
続いて余震のように小さくとだが、大地が確かに左右に揺れた。天井やカベのひびからパーツがポロポロ剥がれ落ち、
全く人の手が加えられていないために溜まっていたホコリの数々が邪魔臭く宙を舞う。
その煙たさに、刹那は彼女らしい小さなくしゃみを一つこぼした。
しかし、男を鋭くにらむ目つきは変わらない、弱みを見せるわけにはいかなかった。
刹那は【例えどんな困難でも必ず生きて戻る】と自分自身に、そしてお嬢さまに誓ったからだ。
呼吸を整え、自らを奮い立たせる。
見据えた先に立つ男は、さも意外なものを見たような驚きに目を丸くしていた。
「ほーう……なかなかやるじゃねぇか……」
男のにやけた口から次に出た言葉はおそらく賞賛だった。
しかし、それはあくまで下等なものに対して使うような言い方で、
聞き手にとって、聞き取って嬉しく思うものでは全く無い。
「く……そっ!!」
悔しさだけがにじみ出た。
しかし、正直な話で、さっきから夕凪を持つ手がカタカタと震えて止まらない。
――――――……“怖い”
それは突如として、はっきりと浮かび上がる感情だった。
『怖い』、『怖い』、『怖い』、『怖い』、『怖い』…………
あの男によって殺されるのが怖いわけではない――……
いや、確かにそれもあるのだろうけど、それより、何よりっ! あの人を残して逝くのが怖い!!
幼い頃を共に過ごした。一緒に笑い、私は時には泣いた。
それでもあの人は包み込むように暖かく笑ってしまう、遥か空に浮かぶ太陽のように……私ですら包み込んでしまう。
ここで殺されては、もうあの人は守れない、
傍にお仕えすることすら適わなくなってしまう。
そんなこと、あってはならない! そんなのはイヤだ!!
(なんとかして――――……なんとかして逃げなくては……生きなくては……!!)
思えば思うほどに、汗が吹き出てシャツがグシャグシャになっていった。
それでも、刹那は何とか逃れようと決死の思いをつのらせていた時、
――男の左腕に、さっきよりも“さらに”巨大な気の塊が集まり始めていた。
「!!」
「ぎひひひひひっ、コイツは避けれるかな……?」
気の塊の完成を見た刹那は、途端に身体の全てから力が抜けていく感覚に襲われた。
「(あ、あんなものを喰らっては……)」
考えたときには、既に光の弾は男の手からはなれ、若干の弧を描きながら自分へと向かってきていた。
「(速い! 避けきれ…………)」
――次の一瞬、山の一角を切り崩して立てられていた巨大な廃墟は跡形も無く粉々に吹っ飛んでしまった。
かろうじて焼き消えなかった存在の全ても、もはやかき集めても茶碗一杯分にもならない塵へと変わってしまっていた。
男は延々と立ち込める煙の中から、何事も無かったかのようにのっそりと姿を現した。
肩や腰に付いた様々なホコリを邪魔臭そうに手ではたくと、着ている鎧がまたキラリと月を反射する。
男は、なんと宙に浮いていた。
しかも、それが当然であるかのように、男の態度には慣れている感があった。
それからジロリと、まださんさんと緑の生い茂る地面を見下し始めた。
男が向きを変えて別の地面を覗き込む、そのたびに、まるで逃げるかのように木々の隙間を強い風が通っては
緑を揺らして、嵐でも来たようなざわめきを生んだ。
……次第に、男の表情が険しくなる。
マユがつりあがって額に筋が浮かぶ、歯軋りが聞こえてきそうなくらいに
強く噛んでいる顎がイラつきを決定的に表していた。
「クソガキがあああぁっ!!! 生きてるのはわかってんだ!! 隠れてねぇで出てきやがれ!!!」
男が良く通る低い声で怒号を上げた。
明確な殺気の篭ったそれはどの強風よりも強く木々を揺らしたが、そこから人の気配が漏れる様子はどこにも無かった。
「…………チッ、しょうがねぇ」
しばらく様子を伺っていたが、
間を空けて、残念そうに舌打ちを一つするとゆっくりと地上に降り立った。
「オイ聞けクソガキ!! この『ナッパ』様から逃げられると思うなよ!!」
再びの怒号、しかし、返答は無い。
男――ナッパ――の顔が、いやらしい形で笑った。
右腕を軽く突き出し、クンッと効果音が付きそうなくらい素早く
人差し指と中指を天に向かって軽く振っ……
全てが――文字通り、地上にある全てが吹き飛んだ。
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