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其の十四 近右衛門の頼みごと 投稿者:鉄人 投稿日:07/04-23:45 No.2637
彼女が目を覚ますと、体が暗闇に浮いていた。
まだ半開きのぼーっとした眼はまだ状況の理解ができていないのだろう、
口を開くこともせず、彼女はただ、乱れた髪を整えるようにぼりぼりと頭をなでた。
「……ふぅ、またこの夢か……」
頭に刺激が言ったことで目が覚めたのか、少々きつい感じのする眼をいっそう細く鋭くする、
つぶやいた拍子にやや落胆気味に肩をすくめる彼女に、慌てる様子は見られない。
そして、耳を澄ますまでもなく、下方から流れてくる落ち着かない足音に気づいた。
――――また、あの女か――――
バタバタとせわしなく音を立てるそれは一刻ごとに、間違いなく彼女に近づいていた。
空の闇に、まるで下界を見下ろすようにうつ伏せに漂う"少女の外見を持つ彼女”はすぐに音の正体がわかった。
彼女には聞き覚えのある、ありすぎる音だったのだから、一心不乱に何かから逃げ回る音。
慌ただしく落ち着きのない、可愛らしい地鳴りを起こす原因は大分前からわかっていたことだった。
儚い程度のしわを寄せた気難しい顔で、長く、絹糸のように繊細で艶のある髪の端をいじくりながら
彼女は何もするでもなくそこに寝転がる、まるで暗闇の中にいることがが当たり前のであるように溶け込んでいた。
やがてどこからか、小さな影が現れた。
彼女の思うとおりの小柄な少女だった。
今年に入って何度も見てきた、まだ年端もいかぬ少女は金色の長髪を持ち、人形のように華奢な外見は彼女とよく似ていた。
何度も見た来た光景。もう慣れてしまったとはいえ、それでも驚きに目を見開きそうになるのをこらえた後、
身を乗り出すようにして暗闇から離れ、息を切らしながらも泥にまみれたぼろぼろの体で靴も履かずに懸命に走る少女を、
覗き込むようにして宙空から見入った。
彼女の、髪をいじる手が隠せない感情になぞって少し速くなっていた。
それからすぐに、またどこかから――今度は大剣を手にした薄汚い大男が現れた。
無精ひげの無造作に生えた醜い顔には下卑た薄笑いを貼り付け、陰険な目で少女を見下ろしている、
男は少女の姿を見るや否や、何の躊躇もなく大剣を天に――――暗い空を漂う彼女に――――掲げた。
いつもはこのこのあたりで途切れる夢、この世界で暗転し、向こう側に覚醒する意識。
しかし今日は、さらに映像時間が長かった。
不意に吹いた風に少女の髪が流されて、彼女の眼にやっと、少女の顔が映えた。
剣先を向けられた少女らしき者に、彼女はもう我慢できずに目を見開く、
髪をいじる手は無意識的にか何本かの髪をくるりと巻き込んだまま止まっている。
(おい――――?)
彼女はぞっとした、体中に悪寒が走り、寒くて体が震えた。
それでも彼女は叫んだ、しかし、思い浮かべた言葉は一切が声として出せなかった。
(キサマは一体――――)
心で叫んだとき、頭の中で重い何かがガツンと鈍い鐘を鳴らした。
頭痛を引き起こしたように、締め付けるような痛みとめまいと吐き気が彼女を襲う、
「いつもだ!」
痛みをこらえながら、彼女は思い、言った。
「……いつもそうだった、この訳の分からない夢の中に投げ出されたとき、必ずこのあたりの場面から頭痛がする!!」
苦痛に体を折る彼女は、それでもなお、目の前に起こっていることから眼を離せない。
「キサマは一体誰なんだ!!」
分かりかけてきた事実を否定するように声を張り上げるも、男にも少女にも聞こえるはずが無い、
だが、男は彼女が叫ぶのを待っていたかのように、言葉が終わると同時に剣を振り下ろす。
ただ、そのわずかな一瞬だけすれ違うように、しかし引き寄せられるように、彼女と少女の眼が合った。
――少女は、彼女とまったく同じ顔をだった。
――死ぬかもしれない少女は、それでも凛とした眼をしていた。
――痩せこけた頬が、それでも笑みを作っていた。
少女の髪が左右に分かれ、やっと少女は彼女に出会った。
夢はそこで終わった。
世界は、真っ暗になった。
N&D 其の十四 近右衛門の頼みごと
「おーい、新入り。ちょっとそこにある荷物持ってきてくれぃ」
「あっ、ハイ。わかりました」
土色に薄汚れた作業服を着た中年男性に言われ、草刈の作業を中断したトランクスは足元にあったダンボール箱を軽々と持ち上げた。
ダンボール箱はずっしりとしていて、男性が抱き抱えなければならない大きさもあるのにもかかわらず今にもはちきれんばかりに膨らんでおり、
箱自体もだいぶ使いまわされている物なのだろう、歩くたびにしわのはる軟らかくなった角などから、湿った黒土が粉雪のように落ちている。
「どこに置けばいいですか?」
「ああ、そこにおいてくれ――って、おい! おまえさんそれ一人で持ってきたのか?」
「え!? ええ……まぁ……」
ほーっと感心した中年男性は、汚れた軍手をはめたままの手であごをなで、
荷物を置いたトランクスの両腕を食い入るように見つめた。
「こーんなほっそい腕のどこにこれを持ち上げる力があんのかね? あの大きさのモン、ありゃー俺だって結構きついんだぜ?」
傍から見てトランクスの腕周りの倍はあろうかと見える腕に力を込めると、
横ひじをはり、ぐっと腕を折りたたんで膨らんだ上腕をもう片方の手でやや自慢げにたたいた。
浅黒く盛り上がるその腕は、言葉に説得力を持たせる太さではある。
「いえ、少しばかり武術をしていたので……」
「へぇー、少しねぇ……クーフェちゃんを追い詰めたやつを倒すくらいの使い手って奴が少しときたか」
男性はさらに疑るようにトランクスの顔を覗く。
トランクスの額から、ポタリとたれるものが出てくる。
「あっ、あれはまぐれです! ほ、ほら、あの小っちゃいのは弱ってたんですよ! その……クーフェイさんと戦ったあとだったから」
言いながら思う、実際にはそんなことは無い、と。
あの時あの小さい怪物を倒したのは実質的にトランクスだったし、クーフェイが与えたダメージなど
戦闘力(気の)差から考えてみれば有って無いようなものだったろう。
身近に見てみて確かにクーフェイという少女は一般のそれとは少々かけ離れたものを持っているようだったが、
トランクスからしてみれば――比べるのもアレなのだが――あたりまえにすずめの涙程度の力、
むしろ、なぜあれっぽっちの戦闘力で殺されなかったのかが不思議なくらいだった(怪物が手加減していただけだろうが……)。
「……い……入り……」
……まぁ、磨けば確実に光るものを持っているようだったけど。
「おい、新入り……」
そこまで考えて、不意にはっとした。
何自分はあんな少女のこと考えているんだ、と。
タイムマシンが直るまで、最低限以外でこの世界の人とかかわりを持たないと決めていたのに、と。
頭を悩ませてつつ、脳とは便利なもので、別の部分に一つの疑問が浮上した――
「オイっ、新入りィィ!!!」
「うわーっ!!?」
――ものの、耳元で脳を貫通するように響いた男性の弾丸声に思考を断ち切られた、
思わず耳を両耳に手で蓋をして地面を転がる。戦闘民族形無しだ。
「な、なんですかいきなり! 耳元で大声出さないでくださ「呼ばれてんぞ」え?」
「いや、さっきまでおまえ、わざわざ放送で呼ばれてたぞ、学園長に……」
「学園長……? 近右衛門さんにですか」
「ああ、その近右衛門さんにだ。……で、新入り、何やらかしたんだ? え?」
男性はにやりと口を曲げてこの、このっといいながらひじで胸を2、3ついてくる。
トランクスは男性の行動を無視し、腕を組んで考えていた。
もしかしたら、あの怪物のことかもしれない、一瞬とはいえ戦ったわけだし。
自分なりの考えがまとまった時には、すでに駆け出していた。
「あー、おい待てよ! そんなに大事やらかしたのか、新入り!!」
「教えてくれありがとうございました。終わったらちゃんと仕事再開しますので心配しないでください!」
呆気にとられた男性がかける声に顔だけを反転させて礼を言う。
走るといっても本気で走ったらそれこそ(速すぎて)目立つだろうから、あえてゆっくりと走った。
「おーい新入り! 教えてやったんだし仕事俺に押し付けたんだからっ、今度昼飯ぐらいおごりやがれよ――――!!!」
とりあえず、その声は聞こえないことにして。
風を受けた白いカーテンがやさしく広がり、目の隅に止まった。ゆらゆらと波紋を生むそれに
少女はしばらく眼を向けていたが、やがて興味を失ったようにぷいと眼をそらす。
起こした上半身から伸びる腕は太ももで組ましている、もともと細い代物だったそれはさらにずいぶんと細く、
今の少女の目には、より頼りなく映った。
意識を取り戻した自分は、体もそうだが心も幾分かやつれてしまったようで、
ずいぶんとけだるさが体を覆っている。壁に体を預けていないとすぐにでも倒れそうなのだ。
少女――桜咲 刹那は顔を俯かせた。
身体は眠りたい気持ちで一杯なのだろうが、頭がそれを許さない。
見る夢は、必ずと言っていいほど決まっていたから。
場所はあの廃病院、スキンヘッドの男が目の前に現れてにやりと笑うと、指を二、三本上に向ける。
とたんに巻き起こるすさまじい爆発、圧倒的な力ですべてを蹂躙する【気】。
刹那が張る神鳴流の強固な結界をなすすべなく破壊し、刹那と、その後ろにいるあの人をばらばらに引き砕いていく。
何もかもが消え去った場所で、あの人だったものが横たわり、延々と言うのだ。
――――『守ってくれるんて、うそやったん? なぁせっちゃん。せっちゃんのウソツキ! ウソツキ……』と。
思い出して、吐き気がした。
護ることが適わぬなら、いっそのこと自決でもしたほうがいいかもしれない。
しかし、それもできないだろう。どちらにしろ、あの人はこんな私のために涙を流すだろうから。
ため息もつく気力が無い。仕方が無いので重力に身を任せ、また、崩れるように横たわった、
枕がもふっと音を立て、程度に軟らかいそれに頭はずぶりと沈み込んだ。
倒れた反動で起き上がった両腕に、また目をやった。
本来ならこの手が握る愛刀、護るための刃――夕凪は今ここには無い。
なんでも夕凪――特に刀身へ――のダメージは私より大きく、
刃こぼれやヒビ程度ではすまないくらいにボロボロになっているらしい。
そのため、現在は刀子さんの"つて”でとある刀匠に預けられているのだそうだ。
…………情けない。本当に情けないものだな、私は。
改めて、本心から思う。
この細い手は、鍛えてきたはずの手はなんと非力で、なんと頼りない手なのだろうか、
大切な人どころか、長年つらい時をともに過ごした愛刀のひとつ護れなかった。
「いっそ……斬り落としてしまうか……」
うつろな瞳のまま乾いた笑みを浮かべ、つぶやいたときだった。
風が吹いたわけでもないのに、木のきしむ音を苦しそうにはきながら、ゆっくりとドアが開いたのは。
「失礼します」
ポピュラーすぎる挨拶だと我ながらに思いつつ、トランクスは扉を開く。
飛び込んできた視界の真正面すぐ先には、手に持つ何枚かの紙を眺めている近右衛門が大きい机に行儀悪く腰掛けていた。
「おお! すまんのう、わざわざ仕事中に呼び出ししてしまって」
トランクスに、もとい扉の開いたことでトランクスが来たことに気づいた近右衛門は、
視線を紙からはずし、手に持った紙を机上に放ると「よいしょっと」とつぶやきながら机から降りた。
覗き見えた紙にはなにやら端整な顔の男性の写真や、畳敷きで赴きありそうな部屋の写真などがちらほらあるようだったが
あまりに字が小さいのと、距離が離れていること、そして覗く視線に気づいた近右衛門が、
慌てた様子でトランクスの視線を遮るようにして立ちはだかったために、内容の把握まではできなかった。
とりあえず体を左右に振って、視線を変えることで見ようとするも、
視線を変えた一瞬後にはぬらりひょんの笑い顔がどアップで見れるという近右衛門の
苦笑いとも取れる笑顔はなんとなく怖かったので、無駄な体力を使いたくないと思うとあっさりとやめた。
「どうも。……で、近――学園長さん。用件は一体…………」
土色に汚れた軍手で、少し余裕のある作業帽を深くかぶりなおし、
最後の調整を終えた手をつばの部分から放すとき、トランクスは近右衛門のシワを寄せた、
なにかよからぬ悪巧みを考えた子供のように無邪気な笑顔に気づいた。
さらにいうと、トランクスはその顔に、さりげなくかの武天老師の影を見たような気がした。
「突然ですまんが、何も言わずにわしの孫とお見合いをしてくれ」
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