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其の十五 見合い本番 投稿者:鉄人 投稿日:07/17-13:36 No.2698
「なぜ……こんな事になったんだ……」
理解したくない状況下において、深い後悔を含めたトランクスの呟きは
誰にも聞こえることなく、ただしっとりとした空気に溶け込むようにして消えていった。
N&D 其の十五 見合い本番
前日、お見合いをしろと唐突に言われてなすすべなく近右衛門の言葉に流されてしまった。
なぜ、あの時、力ずくでも抵抗の意を表さなかったのかトランクスの胸中には、
今更ながらに自分の『どうしようもなく激しい後悔の波』が押し寄せてきていた。
かといって思い返せば「とても断れる様子でも無かった」と言い訳してしまうだろう自分に腹が立つ。
トランクスにはサイヤ人の血を継いでるだけあって、自らが『押す』ことには強いがその実、
他人から『押されること』には実滅法弱いという、ちゃんと“あっちの世界”の地球人の血も継いだ部分もあった。
尤も、その半分の血を普段はありがたいと思っているのだが、このときばかりはほんの少しだけ、その血の分を恨んでいる。
目を流すようにして用意された部屋を脇目でぐるりと見回す。
床には畳が何畳にも敷き詰められ、隅にはかなり大きくて見るからに立派そうな仏壇が
上品に黒く塗られた体を怪しく光らせて威圧的に佇んでいる。
外では少しずつ水を溜める竹筒が岩をたたく“カコーン”という音が定期的に、
まるで別世界での人事のように鳴り響く。
やはり、『お見合い』として用意された部屋だけあって、かなりお金のかかっていそうな部屋だと
トランクスは思った。
が、
――あ……足がしびれる……っ!
今日の朝、近右衛門から急ぎで(強制的に)教わった正座――正確に言うとそれによって引き起こされた感じたことの無い痺れ――が、
幾多の強敵との戦い、数々の死線を乗り越えてきたトランクスの思考回路でさえ、そのほとんどを奪ってしまっていた。
力を入れても力を抜いても、ちょっと体勢を変えても、それぐらいでは痺れはビクともしない。
この座布団の意味はあるのか?
足でつぶれているクッションを見て、意味は無いだろうと自問自答する。
そんなことを考えていると耐えがたい痺れに顔が俯いた。
この痺れは間違いなく、この世界に来て一番の強敵だとトランクスは真面目に思った。
「あの……」
聞こえた儚い声に、トランクスは半ば冷や汗をかきながら顔を上げる。
部屋の中央――ちょうど長い机を挟んだ向かい側には、トランクスと同じように正座をして、
それでいて全く苦痛を感じさせない顔をした、過去の悟飯さんと同じくらいの歳であろう少女がいた。
美人……と言うにはまだ早すぎる歳だが、小顔で可愛らしいこの子は将来はそうなるだろう。
黒色長髪で着物を着込んだ姿は、着慣れているのか全く違和感が無く、
それどころかこの少女の可愛らしさをさらに引き立てている。
まぁ、この子に関して最も驚くべきところは、ここまで端整な容姿をしているにも拘らず、
なんとあの学園長……すなわち、「近衛 近右衛門」の孫娘であるところなのだが。
初見したときは正直に嘘だと思ったが、彼女がやや独特のイントネーションで
「『近衛 木乃香』です」、と抵抗無く言ってきたことから本当なのだろうと納得できた。が、
こうまで遺伝子の神秘、が顕著に現れたのをまじまじと拝見(体験)したトランクスは、元の世界に戻ったら
バイオテクノロジーを本格的に研究しようかと、一瞬本気で悩んだという……
「顔色が悪いようですけど……大丈夫やえ?」
少女――木乃香は聞いてきた。
声はやや怯えている様だったが、顔には裏の見えない、本当に心配そうな表情を浮かべている。
「え! いや、大丈夫です」
にこりと笑って見せるが、神経が脚に行っているせいかうまく作れていない、
仕方ないのでトランクスは今にも崩れそうな苦笑を見せた。
――逆に、なぜ君は平気なんですか?
それを教えてほしいです。とおまけに訊ね返したかったがなんだか恥ずかしい気もしたのでやめておく。
このかさんは消え入りそうな声で聞き取れない何かを言うと、口を閉じた。
そしてまた、本質を隠すように薄っぺらい微笑を顔に貼り付けた、
顔は次第に俯いて行き、室内に重苦しい空気が訪れる。
雰囲気をぶち壊すようにしてカコーンと竹筒が鳴った。
痺れの所為でイライラしていたからか、アレはいっそ破壊した方がいいかもしれないとトランクスは思った。
それから一時間近くが経過したかもしれないが、会話は一向に弾まなかった。
というよりも、それ以前にお互いがお互いに話しかけようともしないのだから、それも無理はない。
ただ、二十分ほど前に痺れを通り越して何も感じなくなった脚をひとまず置いといて、
トランクスは探るように、じっ、とこのかの顔を見ていた。
そして、決断に至った。
この子は、このかさんはこのお見合いを嫌がっているのだと確信できた。
落とされた目はこちらを向くことが無い、苦虫をつぶし続ける苦笑は今だ張り付いたままだ。
身に纏わり付く雰囲気も落ち込んでしまっていて、明らかに元気が無いのレベルで済まされる空気じゃない。
このかさんは(まだ少し信じられないけど)近右衛門さんの孫だ。
前日の近右衛門さんがこのかさんのことを語る楽しそうな顔からして、
近右衛門さんはこのかさんを心底大事にしているのだろう。
もしかしたら……
トランクスの頭に、一つの懸念が生まれた。
このかさんは嫌なのに、近右衛門さんはもう何度もこういったことをやってきているのかも知れない。
しかも、おそらくは強制的にだ。
「このかさん」
「!」
名前を呼んだ瞬間、このかさんがびっくりして顔をあげた。
反応の良さにふと思いだす。そういえば、何時間もいて名前を呼んだのはこれが初めてだ。
「君は……お見合いするのが嫌なんだろ?」
「――――えっ!」
びくっと肩が震えた、どうやら図星のようだ。
なんでわかったんですか!? とこのかさんの驚きに見開かれた目が訴える。
「このかさんの表情を見ていれば一目瞭然ですよ」
このかさんは俯いた。
「どうして、嫌な事をしているんですか?」
「おじいちゃんの、はからいなんや」
このかさん語りはじめた。
なんでも、近右衛門さんはこのかさんの為を思って、いつも半ば無理やり
お見合いをするんだと。
予想通りの結果に、後で近右衛門さんを問いただすことに決めたトランクスであった。
その後、ここから話題が広がったおかげで二人はだんだんと和気藹々とした雰囲気になる。
時には笑い、と言うより常に笑い。このかにもだんだんといつものペースが戻ってきていた。
トランクスも足のことなど忘れ、話に夢中になっていた、
…………そんなときだった。
振り下ろされた一刀の剣が、トランクスのほほを掠めたのは……
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