HOME  | 書架  | 

当サイトは「魔法先生ネギま!」関連の二次創作投稿サイトです。ネギま!以外の作品の二次創作も随時受け付け中!

書架

[]

IFストーリー…やさしい巨人 投稿者:鉄人 投稿日:04/28-19:50 No.2357  



 kinokoさん のアイディアから、『人造人間16号』のイフ。








 ――彼は機械だった。それも外観、動作を人によく似せて作られた。人造人間だった。
 
 
 人の平均を超えた上背、筋肉質に創造(つく)られたボディは見るものに彼が『屈強』な戦士であることを感じさせる。
 そう……彼は本来、製作者の作った者たちの中で最も屈強なはずだった……が、
 
 今の彼は首だけになって自ら動くことすらできない見るも無残な姿へと変わっていた。 

 回路がショートし火花を上げる。次々に壊れ行くデータの洪水を視野の片隅で眺めるしかなかった。
 警告音が頭蓋にとどまることなく、やかましいほどに鳴り響くがそれを止める術は無い。
 次第に画像の再生と処理が追いつかなくなると、目の前に霧のようなものが広がって映像に霞が掛かっていき、
 一つ一つのシステムが確実に、恐ろしい速度でオフラインになっていくのがわかった。
 
 しかし、それでも――首だけになっても――まだはっきりと機能するものも残っているあたり、
 彼は残り少ない思考回路で今更ながらに自分を生み出した技術力に深い感心をおぼえた。
 
 
「そ……孫悟飯……正しいことのために、た……闘うのは罪ではない……」


 だが、意識があるのは今だけの話であり、こうしている間にもどんどんデータは壊れている。
 彼はあと数刻もしないうちに死んで……いや、“壊れて”しまう。止める術は、やはり無い。
 そしてそれは彼自身が最もわかっていることだった。


「せ……精神を怒りのまま自由に開放してやれ…………」 


 とうとう、目の前が真っ暗になった。
 どうやら映像認識・識別装置、またそれに関わる回路がすべて破壊されたらしい。
 
 ――目の前にいた『孫悟飯』はどんな顔をしていただろうか?
 肩を震わせて涙をなが――……思い出せない。 記憶回路も壊れ始めたようだ。 


「オ……オレのスキだった自然や動物たちを…………ま……守ってやってくれ……」  


 彼は、自分に可能な限りの感情を込めて言った。
 “無”からつくられた彼には、『セル』に吸収された2人のようにはっきりとした感情が無い。
 
 最後の力を振り絞って、彼は笑った。
 次の瞬間、深い暗闇と孤独の中で、彼はとうとう何も感じなくなった……
   


 ――――『人造人間16号』の、最後だった。







    『N&D IF』
          やさしい巨人……




 -
 -
 -
 --
 ---

 ・ボディ――――損傷率0パーセント。
 
 ・各部状態――――良好。

 ・認識システム――――正常。

 ・識別システム――――正常。

 ・データフォルダ――――損傷なし。

 ・CPU・システム――――オールグリーン。



 ・再起動――――開始。








 暗闇にぼんやりと浮かんでいた文字が消えると同時に、彼は勢いよく目を開いた。
 

「ここは……」

 
 ポツリとつぶやいた言葉が、彼の心情を表していた。
  

 ――――なんだ、この場所は? ……ありえない。オレは壊れたはずだ……


 『あの世』というものが存在することは製作者――『Dr’ゲロ』がインプットしているデータにあるため
 「データ内にあること」だけは十分に理解している。
 そして、そのデータから導き出した計算には、こう判断されている。
 「物であるオレはあの世に行くことはできない」、と。   
 
 
 ――ならば一体、ここはどこだというのだ?  


 “死んだ”のではなく“壊れた”のだ。
 どれほど人に似せてあっても、所詮は物でしかない自分が壊れたときにたどり着くのは
 何も感じない原点――すなわち“無”であるはず。

 可動域の限界まで見開いた目のまま、驚いた顔つきであたりを何度も見回す。
 どこを見ても映し出される映像は、この世のものとしか思えないものだったからだ。



 
 リンゴーン ……リンゴ――――ン……




 16号があらゆる計算を立て、自分はいったいどうしてしてしまったのか可能性を模索していたとき、
 傍に在った大きな建物から不意に鐘の音が聞こえてきた。
 目を向けて、建物を見やる。建物は精巧に作られた美しく「無駄」な飾りを多くつけている。
 どうやら、神聖な雰囲気を無理に出そうとしているらしい。
 データ内を検索したところ、あれは『教会』という、神に祈りをささげるための建物とのことだ。
 
 教会に向かって、彼は歩き出した。

 特別、教会自身には彼は興味を持たなかった。いや、持ちようも無い。
 なにせ彼は人が信仰すべき『神』の姿を知っていたし、それ以前に人ではない彼にとって、
 教会など所詮はただ大きい建物、程度にしか認識していない。
 眼中に無いのだ。

 ただ、そんな彼が教会に向かって歩いているのは、
 今、ちょうど彼の足元に頬をすり付けてくる小さくて可愛らしい生物のせいだった。


 ニャー、ニャ――……


 ぐずるような可愛らしい鳴き声を上げ、どこから来たのかまた一匹の猫が彼の足に寄り添った。
 彼はそのたくましい見かけや厳つい顔に似合わず、非常に動物好きだった。
 美しい自然も大好きであり、本来戦闘をするために……『孫悟空』を殺すためだけに作られた存在にとって、
 それはあってはならない感情だと、彼を作った後にDr’ゲロは怒りを露にしていた。
 
 ゆえに16号は、Dr’ゲロいわく『失敗作』なのである。 

 ニコリとした笑みを浮かべ、16号がそのまま歩き続けていると猫はどんどん増えていった。
 器用なことに、その内の何匹かは彼の広い肩に飛び乗ってさえいる。
 しかし、彼はそんな状況を楽しんでいるように、かすかな微笑をまた、顔に浮かべたのだった。




 教会の角を曲がったところで、突然猫たちが一斉に走り出した。

 肩に乗っていたやつ、足元でゴロゴロしてたやつ、気持ちよさそうに体を伸ばしてたやつ。
 そのすべてが――――肩に乗った眠っている一匹の子猫を除いて――――ではあるが。
 この角に差し掛かった瞬間ほとんど反射的といっていいほどすばやく顔つきを変え、
 みながみな、同じ方向に慌ただしく走り出したのだ。

「……………………」

 猫たちのイキナリのかけっこに慌てるような16号ではなかったが、
 さすがに呆気にはとられたらしく、呆然とした目で猫たちの行く所を見届けていた。

 

 先には―― 一人の少女がいた。

 エメラルドグリーンの長い髪を持つ、どこかおぼろげで焦点の合ってなさそうな目をした少女の周りには、
 さっきまでかけっこをしていた猫たちがほとんど集まっており、少女に何かを訴えるようにニャーニャー鳴いている。
 少女は猫たちをなだめるように小さく微笑むと、うつろに見える瞳を16号に向けた――……


 二人の目が、ばったりと鉢合わせをした。
 少女も、16号も、このときばかりは両者ともどもらしくない、呆然とした顔で相手の瞳を覗きこんでいた。







……多分、続きます。

N&D

  HOME  | 書架top  | 

Copyright (C) 2006 投稿図書, All rights reserved.