ブレイブXXIX 希望の炎を灯す勇気



京都での激戦から既に十数日が過ぎていた。麻帆良へと戻った面々はまるで魂を失ったように落ち込んでいた。明日菜はエヴァの別荘において寝かされており、日に日に肉体が衰弱しつつあった。そして、魔獣との戦いで命の光を走りきった少年は、ピンク色の灰となって、彼を愛する者たちの手に渡っていた。






そして文化祭が近づく中、麻帆良に世界最悪の存在が近づいていた。まさに、史上最悪といってもいい存在が・・・。










「・・・明日菜さん」


エヴァの別荘にて。授業を終えたネギはすぐにエヴァの別荘に寝かされている明日菜の所へと来ていた。10歳の少年の瞳が濁っており、かの黄金の輝きは失われつつあった。


「僕は・・・・明日菜さんを護れなかった・・・・・僕は・・・・」


ネギはただ、静かに泣いた。大切な人を護れなかった事が、彼の心に大きな傷を与えていたのである。そんな中、その様子を静かに見守る小太郎と千鶴の姿があった。


「ネギ・・・」
「小太郎くん。ネギ先生はまだ・・・・立ち直れてないの。慰めはしたらだめ」
「そんなん分かってる!!だけど・・・・アイツにはあんな表情が似合わないんや!!アイツは・・・・俺のたった一人のライバルなんや!!」


叫ぶように、小太郎が吼える。友の辛さを、小太郎は一番理解していた。千鶴もそれを察しており、何も言わない。そんな中、落ち込むネギに近づく人影があった。




「何をしんみりしとるかぼーや!!」




そう言って、エヴァは魔力パンチをネギの頬に叩き込んだ。それにより、ネギは吹っ飛ばされ、浅瀬にばしゃんと落ちた。小太郎と千鶴が固まる中、エヴァがズンズンとネギに近づき、無理やり立たせた。


「何時まで落ち込んでいる!!神楽坂はまだ死んではおらんだろ!!」
「でも・・・・でも僕は」
「あ〜〜〜〜〜〜〜!!いいかぼーや、その女に呪いがかけられたなら、解呪する方法でも探さぬか!!」
「でも・・・そんな方法どうやって・・・」
「甘ったれるなガキ!!」


そう言って、エヴァは再びネギを殴り飛ばした。フラフラと立ち上がるネギに、エヴァが吼えた。


「自分の道は、自分で見つけるものだろ!!誰かに頼るな!!己の力を持って探し出してみろ!!そうしなければ、お前は暗黒に堕ちたアイツと同じだ!!」


エヴァがナギもとい牙の事を口にした瞬間、ネギの脳裏にある言葉が思い浮かんだ。






(お前が百の魔の陰我を断ち、己が一番恐れる恐怖を乗り越えた時、お前には黄金の騎馬が手に入るだろう・・・その騎馬を呼ぶ事で得られる剣ならば、呪いの陰我を断ち切る事が可能だ)






その言葉を思いだした瞬間、ネギの瞳に僅かながら光が宿る。そしてそのまま、震える膝を抑えながら立ち上がった。


「・・・・ありがとうございます、エヴァンジェリンさん。僕、諦めません!!必ず、明日菜さんを救って見せます!!」
「・・・いい返事だ。その言葉、忘れるなよ」


エヴァの言葉を聞き終えたネギは、すぐさま“ある場所”へと向かった。それを見た小太郎もまた、ネギの後を追うのだった・・・。










その頃、KKKの皆もまた心に影を背負っていた。授業を受けても心在らずといった感じで、皆から見ても落ち込んでいる事が分かるぐらいだった。


「ひゃ〜っはっは!!3−Aども、今こそ我等3−Bの餌食に《ターン》《ザシュ》《ベキ》《ガガガガ》ぐはっっっ!!」


3−Bのバカが攻めてきても、ただ淡々と防衛するKKK.。特に真名と刹那がひどかった。何せ命を使い切る姿を面前で見ていたのだから。おかげで、二人に至っては機械のように、最低限の言葉以外発する事がなくなってしまったのである。


「ギシャーーーー!!」
「グエエエエエエ!!」


妖魔などが攻めてきても変わらず、二人はまるで感情無き暗殺者のような戦いをしていた。
刹那は夕凪を血で汚し、真名は敵が肉片になるまで弾丸を撃ち続けた。その場には、まさに修羅が二人存在していた。それを見ていたクーと楓は、その気持ちが痛いほどに伝わっていた。護れず、ただ命が消えていくのを黙ってみているしか出来なかったという事が。
日に日に、少女たちの心は曇っていく。そんな悪循環が続く中、麻帆良には長く雨が続き始めた。まるで、何か暗雲を呼び寄せるように、少しずつ・・・悪意は近づきつつあった。










「はぁ・・・はぁ・・・どこかに・・・・ないのかぁ・・・」
「そんなアッサリ見つかったら、都合良すぎるやろ・・・」


その頃、ネギと小太郎は図書館島に出向いていた。何かヒントがないかと考え、すぐに思いついたのがそこだったからだ。何せ、かのメルキセデクの書という貴重書が安置されているほどの場所である。


「それにしても・・・本当に本が多いね」
「そりゃ、仮にも島ってつくぐらいだからな〜」
「一体何冊あるんだろう?」
「億ぐらいはあるんちゃうか?」


二人がそう言いながら探していると、突如後ろに気配を感じ振り向いた。すると、そこにはフードで顔を隠した男が立っていた。


「何かお探しですか?」
「あ・・・・あの、貴方は?」
「申し遅れました。私は、この図書館島の司書をしているクウネル・サンダースと申します。以後お見知りおきを」
「は・・・・はぁ」


ネギがなんともいえない表情の中、小太郎がストレートに尋ねた。


「なぁ、この図書館に呪いを解くことに関する本はないんか?」
「呪い・・・ですか?私でもそういった類はあまりみませんが・・・・あそこにならあるかもしれませんね」
「どこや!?」


小太郎が凄い気迫で尋ねると、クウネルは小太郎の後ろの奥にある扉を指差した。そこには、狼の顔の像が掘り込まれたドアが存在した。しかし、そこには取っ手が無かった。


「取っ手がないね」
「なら、強引に押すまでや!!」


小太郎がそう言ってドアを強く押すが、まったくビクともしなかった。


「ちっ!!ビクともせん!!」
「待って!・・・・・何かを差し込む穴があるよ」


ネギが注目した場所には、鍵穴ではないが何かを差し込む穴が存在した。


「・・・もしかして」


ネギは何かを思ったのか、背負っていた杖から魔戒剣を引き抜いた。そしてそれを、その穴に差し込んだ。すると、穴から白い煙が発し、次の瞬間



《シュン》



ネギは、魔戒剣ごと穴に吸い込まれてしまった。


「ネギ!!・・・んにゃろ!!」


それを見た小太郎は意を決し、自身も剣を差し込んだ。それにより、小太郎もまた穴の中に吸い込まれてしまった。それをクウネルは見送ると、バサっと被っていたフードを外した。


「ナギ・・・・・貴方の息子が・・・・行きましたよ。そして銀牙、貴方の子もです」


クウネルはそう言うと、どこかへ去って行った。










同時刻。雨雲が麻帆良を包む中、麻帆良の時計塔に三人の男と一人の少女が立っていた。少女は白く長い髪を伸ばして瞳には冷酷さが浮かび、一人は白い髭を生やした紳士服の男、黒いフードを纏った牙、そして最後の一人は・・・巨鬼と戦い魔法を使い果たした少年と瓜二つの少年。


「準備はいいかい?スラム、ヘルマン」
「だいじょ〜ぶだよ。ここ一体には結界が張ってあるから、外界との連絡は遮断されてる」
「こちらも準備は万全です」
「そうか・・・じゃぁ、行くよ。“アイツ”が過ごした場所、“アイツ”が信頼した者、“アイツ”が・・・・・愛した者・・・・・全て、この手で壊してやる!!」


少年はそう言うと、右手に黒い宝玉を作り出した。それも、多量にである。そしてそれを、少年は天へと放り投げた。すると、その宝玉は各地にばら撒かれるように飛んで行った。






「時は満ちた。英雄は消え・・・・・俺が・・・この“カズキ”が世界を支配するんだ」






少年が歪んだ笑みを見せる中、ヘルマンが淡々を告げる。


「では、私は人質を攫ってきましょう。もしもの事態がないよう、最善を尽くさねばならないので」
「分かった。頼むぞ、ヘルマン」
「お任せください」


そう言うと、ヘルマンは大地を蹴って跳躍した。そんな中、少年たちから離れたヘルマンはボソっと一言呟いた。




「やれやれ・・・年寄りを労わって欲しいものだね・・・・・アイツからの願い・・・・叶えてやるか」










「痛たた・・・ここは?」
「いっつ〜・・・」


ネギと小太郎は頭を抑えながら立ち上がった。すると、そこにはまるで灰色の世界とした表現できない光景が映し出されていた。ネギたちが驚いている中、突如地面から黒い何かが這い出してきた。その姿は、まるで悪魔のような醜悪さを秘めており、強い邪心が伝わってきた。


「な、なんなんやコイツら!?」
「わ、わかんないよ!!・・・・・もしかして」


ふと一瞬、ネギの脳裏に牙が言い残した言葉が再び蘇った。


「百の陰我を断つ・・・・そうか、これだよ!!」
「な、なんやネギ!?」
「この怪物は、皆・・・何かしらの陰我なんだよ!!だから、これを断ち切ってしまえば」
「つまり、こいつ等全部ぶっ倒せばええんやな!!」


ネギが頷くと同時に、ネギと小太郎は大地を蹴った。そして剣を引き抜き、陰我を断ち切るために立ち向かっていった・・・。








あとがき
さ〜遂に始まりましたネギまぶ最終章!!麻帆良に迫る敵の正体と目的は?KKKたちは立ち向かえるのか?そして、再びヒーローは蘇るのか!?
全ての運命の歯車が、急速に加速し始めていた・・・。


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