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麻帆良に来た漢!第十五話(ネギま!×リアルバウトハイスクール) 投稿者:ゆの字 投稿日:08/11-11:02 No.2798


 麻帆良大学工学部の地下、製作された機械の運用データを取る為に作られた実験場があった。無論あらゆる事態を想定して、その強度は核シェルター並みに作られている。データを取るための部屋が実験場の横には備わっており、そこには超と葉加瀬がパソコンを起動させていた。
 慶一郎はその実験場の中で準備運動をしていた。

「そろそろ始めていいカネ、南雲先生?」

 実験場に付けられたスピーカー越しに、こちらを見ている超が話しかけた。

「ああ、こちらの準備は済んだ」

「すいません、茶々丸のお礼だけの予定だったのですが……」

 申し訳無さそうに謝ってくる葉加瀬に、慶一郎は気にするなと手を振る。



 超に研究室まで案内された慶一郎は、茶々丸を守った件に関して葉加瀬に謝礼された。ちなみに茶々丸はメンテが済むと、主の元に早々と帰っていったそうだ。どうもエヴァの調子が良くないと連絡を受けたらしく、何とも主思いのロボットと言える。
 とりあえず茶々丸の無事を聞いた慶一郎は、用は済んだと帰ろうとするが超に呼び止められた。

「ふっふっふ、南雲先生。さっき言てた事忘れては困るネ」

「……ちっ」

「超さん、さっきの事って何ですか?」

 さりげなく誤魔化して帰ろうとした慶一郎だったが、超はそれを見逃さず葉加瀬はそれを聞いてきた。そんな葉加瀬の反応に、超は猫のように目を光らせる。

「いや~南雲先生が私達の開発を手伝ってくれるそうネ!」

「えっ!?もしかして、T-ANK-α1の事ですか?確かに実動データの取得に、問題があるのは分かりますが……」

 葉加瀬も超の計画の賛同者の一人だった。しかしその計画故に、学園の魔法関係者に協力は頼めない。かといって大掛かりな実験だと目立ってしまうし、学園側に探りを入れられるかもしれない。
 それを避ける為に基本動作のチェック等を先に行っていたが、やはり実動データが不足して開発が遅れていた。このままでは数は用意できても、その性能から計画に支障をきたす可能性がある。既に完成の領域にある茶々丸を使えば実動データの不足を補う事が出来るのだが、その場合茶々丸のマスターことエヴァに筒抜けになってしまう。
 超はエヴァが学園側に手を貸すとは思わなかったが、万に一つという事もある。

「いいんですか?南雲先生も、学園に雇われている側だと聞いてますよ?」

「大丈夫ネ。あくまでも開発に協力してもらうだけ……例の計画についてはまだ保留ヨ」

 小声で話していた二人は、揃って慶一郎を見る。そんな視線に、頭を掻きながら佇む慶一郎がいた。読唇術で超が言う『計画』とやらが気になったが、死人が出るような事態にはならないだろうと黙殺する。

「まあ、古菲との手合わせみたいなものだろ?俺は別に構わないぞ、葉加瀬」

「す、すいません!それじゃあお願いしてもよろしいですか?」

「ああ。俺も加減が出来ずに壊すかも知れんから、それは勘弁してくれ」

「いえ!耐久性のテストは何より大事なので、出来る事なら遠慮なく壊しちゃってください!全壊しても、実験場の横の部屋でデータはちゃんと収集出来ますから」






『第十五話 南雲慶一郎VS田中さん』






 そして現在慶一郎の目の前には、ほぼ外見は人間に近い一体のロボットが立っていた。その身長は慶一郎と同じくらいで、頑丈さを追求されたその骨格は鍛えられた肉体を思わせる程である。サングラスを付けているのを見ると、まるでター○ネー○ーのようだ。

「では、軽く手合わせの形から初めて欲しいネ」

「わかった」

「行キマス」

 超から開始の合図が入り、慶一郎は真っ直ぐロボット……田中に向かって足を踏み出す。
 射程距離に入った瞬間、田中が先行して動く。前に進みながらもガードする慶一郎の腕を、田中が放つ連撃が抉る。しかし慶一郎はその攻撃に足も止めずに、田中の懐へと潜り込もうとする……が強烈な前蹴りで後ろに吹き飛ばされた。
 飛ばされる前に自ら後方に飛ぶ事で、慶一郎はダメージを緩和する。しかし距離を取られたので一旦体勢を立て直そうとするが、距離が離れると田中は不意に口を開く。その口に内臓されている光学兵器が、光線となって慶一郎を襲う。

「おわっ!?」

 相手の不自然な行動に警戒していた慶一郎も、さすがに口からレーザーが出てくるとまでは予想してなかった。紙一重で避けたが、掠った革ジャンは焼き切れている。直撃したら慶一郎と言えど、身体に穴が開くのは必至だった。

「中々のパワーだな。見た目とは違い、動きも滑らかだし光学兵器まで……って軽く手合わせじゃないのか?」

「一応茶々丸の実動データがあるからネ。大雑把な動きでは相手に読まれやすい、動きを滑らかにする事で初動を読まれにくくして見たヨ。南雲先生ならそれくらい平気だと思うけどネ?」

 田中が放った光線が、慶一郎の革ジャンを焼き切ったのを見て葉加瀬は慌てる。確かに開発時に光学兵器を田中に内臓はしたのだが、人体に危害を与えないようにリミッターをかけていたはずである。
 急いでパソコンを使い、田中の現在の状況をスキャンすると基本制御が全て解除されていた。

「って全然軽くじゃないじゃないですか!?しかもリミッターまで外れてる!?超さん、さすがにこれは……」

「全力の田中でないと、あの南雲先生の相手をまともに出来ないと判断したからネ」

 平然と言い放つ超に、葉加瀬は愕然とする。

「何にせよ南雲先生との戦闘のデータは、田中のスペックを格段に上げる。そうすれば、例の計画の成功率も上がるのは間違いないヨ。それに科学の進歩と考えれば、ハカセにとってもこれは望む事じゃないカ?」

「で、ですが、現段階でのリミッターには非殺傷設定も組み込まれています。それを外しているという事は、開発しておいて何ですが安全面で南雲先生の身の保障は出来ませんよ?」

「ハカセ、私は私の目的の為なら手段は問わんヨ。例え南雲先生が重傷を負っても、計画の成功率が上がるならそれは仕方ない事ネ。まあ、そんな心配はそもそも杞憂だと思うが」

「それはどういう……?」

 葉加瀬がそう超に訊ねた時、実験場では再び二人が接近していた。

「ちっ!!(距離を取ると光線が飛んでくるし、近づくしかないか……)」

 慶一郎は先手を打とうとするが、田中は慶一郎の虚を突く形で逆に接近戦を仕掛けてきたのだ。ローキックからミドルキックへの変化等、およそロボットとは思えないくらいの奇抜な動きを取ってくる。そんな田中のタイミングが掴めず、防戦一方になる慶一郎。
 下手に距離を取ると光学兵器の的になる為に、敢えて接近戦を受けるしかない。しかし、人間と違い体力に限りの無い田中の攻撃は、息切れすることなく続く。図書館島で戦った動く石像よりパワーは若干劣るが、その分大雑把な動きがなく速い……慶一郎は思案する。

(こいつは厄介な相手だな。〈神威の拳〉を使えれば、もう少し楽に戦えるんだが……)

 ちらりとデータ室に目を向けると、超がこちらを見て笑っていた。

「心配ないヨ、ハカセも私も『魔法』に関して知っている。だから南雲先生の持つ力を、見せてくれても構わないネ」

「(俺の力を知っているのか?)……一つ聞きたいんだが」

「何カネ?」

 独特の呼吸法から身体に龍気を纏いながら、慶一郎は超に訊ねていた。

「この田中とかいうロボット……対人戦を想定して作られているみたいだが、その理由を聞いていいか?」

「……何故そんな事が分かるのカナ?」

 慶一郎の指摘に一瞬動揺するが、すぐに冷静に返す。田中との実戦の依頼をしたが、例の計画に関しては一言も漏らしていない筈である。それなのに、計画の前提とされている魔法関係者との対立を見透かされている気がした。
 その為に、普段冷静沈着な筈の心臓が高鳴っている。

「簡単な推理だ。俺くらいの戦闘能力を持った人間相手に、力負けしないパワーとタフネス。ただのロボット開発に、そこまで追求する必要性が感じられないからな」

「…………」

「それほどの相手となると、俺としてはタカミチみたいな奴を想像する。つまりは魔法関係者……それに対立するような戦力の開発、まさかとは思うがテロみたいな物騒な事を考えてたりはしないよな?」

 超は沈黙していた。洞察力の高い人間だとは思ってはいたが、ここまで自分の計画を予測されるとまでは思っていなかった。横にいる葉加瀬も、そんな慶一郎を見て口を閉じている。

「……おいおい。そこで沈黙されると、こちらとしても困るんだが?」

 既に〈神威の拳〉による身体強化は終えていた。田中の攻撃を、持ち前の防御力を駆使して捌き続ける。

「もし、それが本当だたらどうするネ?私を止めるカ?」

 感卦法のような現象を起こしつつ、田中の相手をしている慶一郎を見ながら、超は不意に疑問を口にしていた。

「お前といい、エヴァといい、どうしてそんなくだらない事を人に聞きたがるかな?」

「ム?くだらない、とはどういう事ネ」

「あのな。俺は他人の事に一々口出しする程、酔狂な性格じゃないんだよ。お前がお前の意志で決めた事に、俺みたいな奴がとやかく言う必要もあるまい?」

「……あの学園長に雇われているとは思えない主張ネ、南雲先生?」

 正直、超は戸惑っていた。自らの分析では、慶一郎が嘘をついている感じはしない。しかし、仮にも『サウザンド・マスター』の息子であるネギの補佐についた人物が、ここまで放任主義なのはどうなのだろう。
 南雲慶一郎という人物が掴めない。その保持する戦闘能力がありながら、他人がどうなろうと知った事ではないと平然と言い放つ。その言葉に超は、慶一郎の中に秘める危険な本質のようなものを感じ取った。

「それに雇われているからと言って、何が何でも従えるほど人間出来ちゃいないさ」

「フフフ……確かにエヴァンジェリンと相性は良さそうネ?」

「ん?そうだな。確かにこちらに来てから、上手く気が合ったのはエヴァくらいか?」

「補佐しているネギ先生はどうカナ?一生徒として興味があるネ」

 これだけの雑談をしているにも拘らず、慶一郎は田中の攻撃を完全に防いでいた。慶一郎の身体が青白い燐光に包まれ始めてから、葉加瀬が計測する限り田中の攻撃に決定打は一回も見られない。
 感卦法による強化だと推測はしていたが、高畑が使う感卦法とは何かが違う気がする。それが何かまでは、さすがの超にも想像がつかなかった。

「ネギ先生か。将来が楽しみな少年ではあるが、今のままでは周りの環境がそれを駄目にする可能性があるな。まあ、俺には関係ない事だが」

「中々辛辣な言葉ネ。……それにしても、先生のソレは感卦法なのカ?」

「タカミチが使う奴か?似ているらしいが少し違うな。俺が習得した技は……」

 身体に蓄積した龍気の量は十分に溜まっている。後は両手を組み合わせるようにして、その掌に龍気を集中させる。身に纏っている青白い粒子が、そこに集束してソフトボール大の球状の形をとると、それをサイドスローで田中へと投げつける。

「――〈神飛拳〉!!」

「ッ!?」

 両手を前に突き出して、その龍気弾を受け止める田中。抑えようとするが、その手の中の龍気弾の勢いが衰える事はない。

「集束した気弾を打ち出す?それだけでは別に珍しい事は……」

「まあ、普通ならな。だが俺の習得した技は奥が深くてな?」

 慶一郎が指を鳴らした瞬間、田中の手の中の龍気弾が炸裂する。田中は数メートルは吹き飛んで、実験場の壁に叩き付けられた。その威力に驚く超ではあったが、田中の耐久性はこの程度でどうにかなるレベルではない。
 超の顔に不敵さが戻る。田中は既に体勢を整えている……それは慶一郎の攻撃に耐えられるという実証に違いない。
 しかし、次の慶一郎の一言でそれは崩れ去る。

「表面装甲の堅さは分かった。もう一度確認しておくが、壊してしまってもいいんだよな?」

「は?」

 そんな言葉に、思わず超は二の句を継げずにいた。その間にも田中は動く。
 田中は慶一郎に対しての、光学兵器の使用法を学習していた。相手はその並外れた反射神経から、体勢を崩さない限り中距離では絶対に当たらない。ならば回避が出来ないように拘束し、ゼロ距離射撃を与える……田中のAIはそう結論した。
 確かに慶一郎の防御のレベルは高いが、攻撃を全て回避されている訳ではない。ガードされるという事は、身体が接触しているという事でもある。未だ一度も使用していない有線式のロケットアームも使えば、一時的にでも動きを捉える事が出来ると判断する。

「LOCK!」

 そして田中は先程と同じように正面から突っ込み、同じような迎撃をしてくる慶一郎に対しわざと攻撃を空振る。それと同時にロケットアームを展開し、完全に死角から慶一郎を拘束する為の腕が放たれる。しかし、その腕は空を切った。

「ば、馬鹿なっ!?」

 超の驚愕にその横にいた葉加瀬も、実験場にいる田中もまた同意する。
 何故なら田中と真正面で組み合っていた筈の慶一郎が、気付くと田中の背後に回っていたからだ。不意打ちの為にわざと攻撃を外したが、慶一郎本人から視線は外していなかった。それなのに田中は、慶一郎の姿を一瞬ではあるがロストしていた。
 当然死角から強襲した腕も空を切っており、田中は無防備な背中を慶一郎に晒していた。そのまま自然に両手を、田中の無防備な背中に置く。

「――〈双龍勁〉!!」

「ガッ!!?」

 背中に当てた両手から、龍気を田中の内部へと送り放つ。中国武術等でよく見かける発勁と呼ばれる技に近いが、慶一郎が使うソレは相手を強引に内部から破壊した。どんなに表面装甲が堅かろうと、内部に浸透する衝撃までは防ぎ切れない。
 人間であれば体内器官が著しく損傷する程の衝撃である。精密機械の塊ともいえる田中の内部に、それほどの衝撃が加わったらどうなるか?勿論、まともな作動が出来るわけがなかった。

「……被害確認。駆動系ノパーツニ異常発生、動力炉ニモ損傷アリ。安全ノ為、本機ハ緊急スリープモードヘ移行シマス……」

 機械的に状況分析し、立ったまま活動を停止する田中。
 慶一郎も龍気を霧散させ、戦闘状態を解いていた。

「ハカセ!今のはまさか……時間跳躍なのカ!?」

「い、いえ!その反応は出ていません!それに魔力反応も僅かで……」

 そんな実験場とは別にデータ室では、超と葉加瀬が一瞬に起こった出来事を慌しく話し合っていた。
 魔力による時間跳躍ではなく、慶一郎が使ったのは〈旋駆け〉という〈神威の拳〉の技の一つだった。それは特殊な歩法を使い、瞬動とは違い直線以外の動きを可能とする。
 だがその動きは、超達の計画において核を成す技術……航時機を使った時に酷似する。実際には擬似的に時間を止めたり、時間跳躍による絶対回避のような領域には至らない。しかし発動に大量の魔力が必要な航時機と違って、大気中の自然の気も取り込めるのが〈神威の拳〉である。それには科学における精密操作や、正確な事象予測等は必要では無い。

「航時機も無しに、コレ程の芸当をやってのけるとは……。やはり、只者じゃなかたネ」

「……駄目です、先程の現象の解析は出来ませんでした。恐らく、魔法とも科学とも違う技法なのだと思います」

「となると、唯の感卦法では説明がつかないネ?ふむ、どうしたものカ……」

 実験場に目を戻すと、慶一郎は動かなくなった田中を壁際に運んでいた。最終的に〈神威の拳〉まで使う事になった田中を、慶一郎としてもかなり評価していた。機械でプログラムされた存在といえど、田中との勝負は実戦に近いものを感じたからである。
 さすがにソルバニアのような異常な緊張感までとは言わないが、あれだけの出力を持つ光学兵器の相手はいい経験となった。〈旋駆け〉を使ったのも、最後の田中の攻めに直感で危険を感じたからだ。
 慶一郎は田中を動けなくする瞬間、彼の腕が有線式ロケットアームになっている事を初めて知る。もし、あのままでいたら死角から放たれた彼の腕に掴まれ、かなりの至近距離で光学兵器の直撃を受けていただろう。
 いかに龍気を纏っていようとも、あの出力では無事には済まない。

「おーい、コイツ動かなくなったけど如何する?終わりにしとくか?」

 中々良い訓練が出来た慶一郎としては、もう少し付き合ってもいいかと思っていた。超達としても、田中さんことT-ANK-α1はあくまで試作型に過ぎない。量産の為のフレーム生産は順調に進んでいるし、慶一郎との戦いで得られたデータが量産型田中のスペックを上げる事になるのは間違いない。このまま彼に実動データの取得に協力して貰いたかったが、残念ながら問題が一つある。
 今用意出来る機体は、このα1一体しか無かったのだ。

「済まないネ、南雲先生。コレ程までに有意義な勝負になるとは、正直予想してなかたヨ」

「すいません、その田中さんは試作型で予備は無いんです。量産型はまだ完成の域に達していないので……」

「それはまた、悪い事をしたな?一体しかない試作機だったとは……余裕無かったから、彼の内部機関遠慮なく壊したぞ」

「い、いえ、最初に言ったとおりデータは取れてますから。機体の予備はありませんが、パーツの予備は全然余ってますので大丈夫です」

 葉加瀬も言葉に安心する慶一郎。壊しておいてなんだが、あれだけの精密機械の修理に一体どれだけの費用が掛かるかと不安だったのだ。いつも満員御礼の『超包子』で働いているとはいえ、相変わらず暇があれば3-Aの一部の生徒は飯を集りに来る。一々誰とは言わないが、その数は様々な噂の拡散により前より増えていた。
 一週間くらい何も食べなくても、別に死ぬ事は無いと思っている慶一郎であっても、帰還がいつになるかは未定なのだ。元の世界に戻る前に経済的破産による栄養失調、その挙句に衰弱死など笑えない。

「それならいいんだが、茶々丸のメンテとかあったんだろ?」

「田中の整備は私も手伝ってるから、ハカセだけに負担は掛からないヨ。それよりも南雲先生?最後のあの動き、どういう理屈なのか教えてくれないカネ?」

「どういう理屈等は俺も良く分からん。まあ感卦法の応用の形みたいなもんだろ、エヴァの話ではタカミチは使えないらしいが……」

「ほほぅ?(あの『闇の福音』が言うとは真実味があるナ?)」

 慶一郎の言葉に、超は興味深そうな目を光らせる。

「それなら南雲先生に提案があるネ。先生にはこれから暫く、試作型田中との訓練を依頼するヨ。実動データを取らせてもらう代わりに、毎回強化する遠慮のいらない訓練相手を用意するネ!もちろん報酬も出すヨ♪」

「……裏のありそうな提案だな?まあ、俺としても田中は訓練相手には丁度良い。あのパワーとタフネスさは、俺のトレーニングにもなる」

「私としても田中さんのスペックアップには賛成なのですが、あまり危険な事はどうかと思いますよ?」

 葉加瀬は科学者でもあるが、元々はまだ中学三年生である。エヴァや超と知り合って、裏の世界の事を一部耳にしたりしたが目の当たりにはしていない。故に生死を分ける訓練等を、そう簡単に許容出来る筈もなかった。

「気にするな、これくらいは日常茶飯事だったんでな。別に構わないぞ」

「……どんな日常ですか、それ」

「依頼を受けて貰えるようで何よりネ。個人的には、もう少し色々と聞きたいんだガ……」

「必要以上に詮索はしない事だな。聞きたいのはそれだけか?それだけならそろそろ俺は帰るぞ」

 そう言いながら、足は既に出口に向かっている。
 超としても聞きたい事は山程あったが、慶一郎の性格上そう簡単に話してくれるとも思わなかった。それに葉加瀬と共に、今回の結構な量の実動データをまとめる必要もあったので、帰りの道順を教えるだけに留める。
 あれだけ計画の一部を見せておいて、学園側として動くつもりがない慶一郎。超も向こうに『超包子』をやめる気配が無い以上、下手な詮索は下策と判断した。とりあえず田中はそのまま置いておき、先に二人は慶一郎を見送る事にした。
 工学部の入り口まで戻ってくると、慶一郎は言い忘れた事があったのを思い出す。

「帰り道ありがとな。あと葉加瀬、折角お前が作った田中?を壊しちゃって悪いな。許可は出てたけど、実際に目の前で壊されると気分良くなかっただろ?代わりと言っちゃなんだが、『超包子』は俺が暫く出ずっぱりになるから、修理や開発の方に集中していいぞ」

「え?い、いえ、先生にそこまでして頂くわけには……」

「フフ……南雲先生?それは遠回しで私に、今まで以上にウェイトレスをやらせようという策略カ?」

 葉加瀬が来ずに慶一郎が来るという事は、結果的に厨房は五月と慶一郎になる。五月は表で働くより、厨房で働いた方が効率が良い。慶一郎は表で働くにしては、見た目が暑苦しいのが問題だ。そうなると必然的に、超は表でウェイトレスを務める事になる。

「はっはっは、超オーナーは考えすぎだな?そんな事あるわけないだろう?」

 慶一郎と超は乾いた笑いを上げる。そんな居心地の悪い空間で、葉加瀬は一人オロオロしていた。





 超とそんな出来事があった翌日、慶一郎は3-Aの教壇で米神を押さえていた。
 山奥で楓と話したり、明日菜達と話し合った結果かどうかは知らない。ネギは朝早く出勤し、エヴァが登校していないのを確認すると明日菜を伴って教室から出て行った。と、現在残っている生徒はそう証言している。
 つまりは担任であるネギは、今現在教室にいない事になる。職務放棄と言われても仕方の無い事態だ。

「……今はHRの時間なんだがな。まあいい、副担任から特に伝える連絡事項は無い。君らから何か聞いておく事はあるか?」

「あ、あの、南雲先生。エヴァンジェリンさんが風邪でお休みで、茶々丸さんがその看病に付き添うて言うてました」

「風邪?(そういえば、呪いで身体機能は十歳並みとか言ってたか?真祖の吸血鬼でも風邪くらい引くか……)わかった、和泉。二人は病欠と付けておく……が、神楽坂はサボりでいいな。誰か欠席か早退の話を聞いた奴いるか?」

 その慶一郎の問いに答える者は誰もいなかった。同室の木乃香は、今日は日直でバイトに出かけた明日菜より先に登校していた。ネギと一緒に教室に入ってきたものの、エヴァの所在を尋ねるとすぐに出て行ってしまった明日菜から事情を聞く暇は無かったようだ。
 ルームメイトとして、親友として、木乃香は明日菜のフォローを上手く出来ない事に落ち込んでしまう。しかし確認の為に聞いた事に、そこまで彼女が気を遣う必要は無いと慶一郎がフォローした。

「近衛。面倒見が良いのは構わんが、自己の責任くらいつけさせろ。本来なら教師から厳重注意をする所だが……」

 厳重注意と聞いて教室がざわつく。早合点する生徒達を手で制しながら、慶一郎は言葉を続ける。

「まあ彼女もバイトやらで、色々と複雑な事情があるのかも知れん。今回は教師の俺からは何も言わんが、近衛。今日の事はお前から神楽坂によく言っておけ、明日同じような事が続けば見逃せんからな?」

「は、はい!わかってますえ~」

 木乃香の顔に元気が戻る。
 近頃の娘は一喜一憂が激しいものだ、などと慶一郎は黄昏てしまう。何故なら木乃香の顔を曇らせてしまった瞬間、彼女の忠犬……刹那から殺気を浴びせられたのだ。何とかその場を言い繕うと殺気は治まったが、精神衛生的に何度も続くと身体に悪い。自分の発言にも気をつけようと、慶一郎は思っていた。



 ネギ達は結局午前中の授業に戻ってこなかった。

「エヴァを意識するなとは言わんが、職務放棄するのはどうかと思うぞネギ先生。でもまあ、俺が言えた台詞でもないが……」

 ソルバニアへの召喚という理由があったとはいえ、散々行方を眩ましていたのは事実である。
 エヴァの所へ行って戻ってこないという事は、下手をしたら交戦中という事もありえる。そこまで短絡的な暴挙に出るとは思わないが、見舞いついでにエヴァハウスの様子を見てこようと慶一郎は足を向ける。

「あ……南雲先生」

「ん?茶々丸か?」

 エヴァの家に向かう途中で、紙袋を抱える茶々丸と出会う。

「こんにちは……欠席届けは出しておいた筈ですが?」

「違う違う。エヴァの家に行った筈のネギ先生と神楽坂が、授業になっても戻って来ないから確認に来たんだ」

「それは……私がマスターの看病をネギ先生達に頼んだからです。すいません」

 頭を下げる茶々丸に、慶一郎は頭を掻く。授業に戻って来なかった理由は分かったが、目の前の主に忠実な筈のガイノイドの思考が分からない。今現在エヴァとネギは、一応とはいえ敵対関係にある。その相手に無防備な主を晒すのは、慶一郎には理解できない行動だった。

「ネギ先生にエヴァの看病を?それは迂闊じゃないのか、茶々丸」

 慶一郎の危惧する所を察した茶々丸は、静かに首を振る。

「大丈夫です。ネギ先生は病人に鞭打つようなタイプの人間ではありません、神楽坂明日菜さんにしても同じです」

「む、確かにそれはそうだが……。茶々丸はあれだけの事をされて、彼らを恨む気持ちはないのか?」

「私はマスターの従者にすぎません。マスターが望む事にのみ、私は全てを捧げるだけです」

「エヴァはネギ先生を鍛える予定だから、か。なるほど、つまらない事を聞いたな」

 そういう考え方であるなら、慶一郎にも理解できた。主に尽くす方法は何も一つに限らない。先んじて手を打つのもあれば、敢えて動かずに見守るのも結果的に主の為になる事もある。
 茶々丸と話しながら歩いていると、エヴァハウスが見えてきた。しかし、遠目からでも何やら騒がしいのが分かる。エヴァ達の叫び声のようなものまで聞こえてくる。

「あ……マスターが元気に、よかった」

 そんな状況に、無表情に感想を述べる茶々丸。何処かずれているような感想に、慶一郎は思わず溜息をついた。

「やれやれ。何をしているんだか……」

麻帆良に来た漢!

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