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EPISODE .01 副担任 投稿者:ザヴィア 投稿日:08/25-14:29 No.2839

俺と彼女の出会い?

う~んと……確かあれは俺が確か12歳の頃だったなぁ。
小学校を卒業した時に初めての海外旅行になった『春休み欧州行き当たりばったり横断(?)ツアー』に行っていた時だね。

親父が死んで……神崎先生に出会って……色々と自分を見つめなおしたくて一人で日本を発ったんだ。
思えばお袋も良くOKしてくれたよなぁ……うん。

あぁ、ごめんごめん。
話の続きをしなくちゃな。

えっと……ドイツの、もう名前も覚えてない片田舎に宿泊したときのことだったかな。
夜、俺は自然が多いこのあたりでしか見れない綺麗な星空を見上げようと、泊まってた小さな旅館を抜け出して村の裏に広がっている森のほうにまで来ていたんだ。
森の中に丁度円状に開けた空間があって、そこに寝転んで満点の星空に見入っていた、あのときの光景は忘れられないなぁ。
宝石を砕いてばら撒いたみたいな美しい星空、天上からやわらかく暖かい光を放っている満月。

もっっっっっっう言うこと無かったね!

俺は息も出来ないほどに魅せられていて……2時間くらいかな?

いい加減寒いから戻ろうと立ち上がったとき、ふと背後から人の気配を感じたんだ。

俺は振り向いて、辺りを見回してみた。

周囲360度は木々に囲まれていて人っ子一人いない。
でも確かに人がいるって分かるんだ。
俺が首をかしげて、改めてもと来た道を歩こうと思ったその時。

「クス……どうした?私はここだぞ?」

その声は聞こえてきたんだ。

思わず俺は顔を振り上げた。
周囲にある針葉樹林の中でも一際背の高い木の、その天辺に彼女は居たんだ。

「やぁ……少年。良い夜だな。星に何か願いをかけたか?」

黄金色の髪が風邪にたなびいて、黒い外套が夜より深い闇に見えた。
ちょっとだけ笑ってる顔とかさ……もう言葉じゃ言い表せられないんだよ。

その姿がとにかくすっげぇ綺麗でさ、俺はもう女神様に会ったんだ!!って大喜びだったよ。

後で聞いたらちょっと脅かそうとしてたのに俺がハイテンションに騒いであきれてたらしいんだけどね。



これが俺、五代雄介とエヴァンジェリン・A・K・マグダウェルの、初めての出会い。



『次は麻帆良学園中央駅……』


「うっわ……すっげぇ人、人、人ばかり……」


『学園生徒の皆さん、こちらは生活指導委員会です。今週は……』

「フフフ、ここではこれが日常だ。今までのように静かな朝は迎えられると思うなよ?」

『……イエローカードが進呈されます』



「おっと、ゆっくり話をしている時間も無いな。じじぃやぼーやへの顔合わせも含め、HRまでには色々と済ませなければいけないからな。急ぐぞ」

「ん? あぁ(ぼーや?)」

二人は急いで電車を降り、一列に並ぶ数十個の改札を同時に抜ける。
彼等の前にも後ろにも隣にも、一体何百人居るのか訊きたい程の学生達。

しかも、別制服が数種類。

複数の学校を統合しているとはいえこれはやりすぎではないだろうか。

「まぁ元気なのは良いことだよ。何事も基本は体だからさ」

「限度というものもあるがな。そういえば雄介、お前はどこに配属されるのか聞いているか?」

「え? いや……突然行けって言われて後は向こうの人に聞けとしか言われてないんだ。でも見た感じの男女比率からして女子校っぽいね……」

うんうんと頷きながらエヴァは人の波を掻き分けるように走る。

「そうか……なら学園長室に行ってから纏めて話そう、担当するクラスのことも含めてな」

「わかった」

一方の雄介も大柄な体を走る少女達に当てることなくすいすいとすり抜けていく。

学園内でも女子校が多く点在する中央エリア、見渡す限りの少女達の中駆ける一人の男を見ていぶかしむものも何人かは居たが、殆どは遅刻をしたくないと走ることに再び集中し忘却のかなたへ押しやるか、自分の通っている学校とは違う学校の先生だと思って声をかけられることはなかった。

それに今日から新学期、新しく教師が赴任してきたとしても不思議ではない。
実際雄介は新任の先生なのだから。

「でもまさかエヴァが中学生とはねぇ……」

「やかましい! こっちにだってのっぴきならない事情があるんだ!」

自分の前を先導しながら走るエヴァを見て雄介はしみじみと呟く。
嫌なことを思い出させられたエヴァはうがーと叫びながら置いていってやろうと走る速度を上げる。
だがそれにも雄介は顔色一つ変えず付いていく。

(ちっ……ためしに加速魔法を使ってみたが、それに追いつくかこの男は……)

そう、二人とも既に人では出すことが出来ないであろう速度を出しながら疾走している。
その速さは既に車の法廷速度並であろうか。
エヴァは魔法を使ったと言っているが、一方の大介にはそんなことをしたようには見えない。
つまり自力で身体強化を行ったエヴァに追随しているのだ。

「つくづく面白いな、お前という男は」

思えばこの男に出会ったときから色々と驚かされてしまっている。
自分をそこらの人間と同じように扱い、生意気にも普通の女の子として守ろうとさえした。
心地よい安息、今では忘却のかなたにある在りし日の父親のような存在。

『悪』を自称する自分が、『孤高』を常としていた自分が不覚にも寄り添おうとした存在。
だが相手はまだ小学校も卒業したての小僧に過ぎない。
それに彼は表の世界に住人、自分が住む裏に引き込んでいいわけもない。
そして自分が引きずってしまってもいけない刹那の出会いでしかなかったはずだ。

だが……

「ん? 何か言った?」

「いや何でもない。さて、来賓用の玄関に回るぞ。スリッパぐらいは持って来ているだろうな」

「そりゃあね」


厳かな作りの廊下を先頭にエヴァが音も立てず、後ろを雄介がペッタペッタとスリッパで歩く。

「ここが学園長室だ」

エヴァが指差す先には木製の豪勢な扉があり、天井近くのプレートには間違いなく『学園長室』の四文字が書かれていた。

「ん、サンキュ。しっかしここはどんな学校なんだ? 滅茶苦茶広いし……」

雄介は窓の外を見ながら呆然とした。

それもそうだろう。
窓から見える景色一杯に建物がならんでいるのだから。

「まぁ、この学園は完全に一つの都市みたいなものだからな。私もどこに何があるかは全部は把握していない」

雄介がノックをする形に腕を持っていき、そこで動きが止まった。

「うぅ……ちょっと緊張してきた」

「ほぅ……まさかお前から緊張なんて言葉を聞くことになるとはな。明日はプルトンミサイルが空から降ってくるな。ジジィ! 雄介を連れてきた、入るぞ」

珍しく冷や汗をかいている雄介をそりゃあもう面白そうに見つめるエヴァ。
横をすり抜け、殴りつけるようにノックして返事も待たずに扉を蹴り開ける。



「エヴァ……せめてこっちの了解を取ってから入ってきてくれんか?」

「入って来い雄介。この妖怪がこの学園を牛耳っている悪の枢軸だ」

「スルーしないで欲しいのぅ……ついでにその言いようはひどいぞ」

「し、失礼します……」

エヴァの凶行に顔を引きつらせながらも雄介は扉をくぐり、学園長室内に足を踏み入れた。



そこはさながら南米かはたまたアフリカのジャングルを思わせる秘境!
不可思議な動植物が繁殖しどこからともなく不気味な鳴き声がこだましている。
一時たりとも気を抜けばそれすなわち即死亡な感じのデンジャーゾーン!!



というわけではなく、大き目のステンドグラスを背景にした大きめの一室であり別段変わったところはない。
室内に人影は三つ、先に部屋に入り入り口脇に立っているエヴァ。
中央にある木製の机でため息を付いている老人、その脇に立ってエヴァに苦笑を零す眼鏡を掛け、スーツに全身を包んだ30代前後と思われる男。

マホガニー製の豪華そうな机に座っていた仙人のような老人がため息をこぼす老人、彼こそがこの巨大学園都市麻帆良学園の実質的なトップの学園長、近衛近右衛門である。
好々爺然とした笑みを浮かべているが、細く鋭い視線が自分に向けられていることを無意識に雄介は感じ取り……首を小さく捻った。

(……
俺、何かしたかな? っと、それよりも挨拶だ。基本は笑顔!)

「えっと……始めまして、五代雄介です。城南大学考古学研究室の沢渡桜子さんからの紹介でここに来ました!」

「うむ、話は聞いておるよ。いい目をしているな、今時珍しい好青年じゃ。ワシが麻帆良学園学園長の近衛近右衛門じゃ。よろしくたのむよ雄介君」

カッカッカと某副将軍を髣髴とさせる高笑いを浮かべる近衛右衛門。
そこには先ほどの鋭い視線は感じられず、雄介は気のせいとして頭の中で結論付けることにした。

すると、その傍に立っていた眼鏡をかけた男が前に出て雄介に握手を求てくる。

「高畑・T・タカミチだ。この学園で教師をしている。よろしく五代君」

「あっ、はい。じゃあ俺の先輩ってことになりますね。こちらこそです!」

差し出された手を雄介は握り返す。
その力強さにタカミチは笑みを深める。
だが雄介の心の中には驚愕が広がっていた。

(凄い……手を握っただけで分かる。……この人、強い)

握られた手で表された意思ともいえるものであろうか、体の中から無意識にあふれ出る熱意や情熱といった類のものを雄介は繋がった手の鼓動から感じ取った。



「さっそくじゃが、五代君にはここ麻帆良学園女子中等部3-Aの副担任、それと社会科の歴史の授業も行ってもらいたい」

「歴史……ですか?」

タカミチから手を離した雄介に近右衛門は言った。

「うむ。沢渡君の話では君は考古学に関して広い知識を持っているらしいのぉ。何でも幾つか博士号も取っているとか。それに第一、あの城南大学の考古学研究室といえばその手の学校の中じゃ名門中の名門じゃぞ。そこに合格できるのだから学力も十分あるといって言い」

城南大学考古学研究室。

雄介が在学していたそこは、日本考古学会の中でも名門中の名門であり、かなりの知識を持った人物出なければ合格は許されない狭き門である。
そうでなければ、数年前に九郎ヶ竹に出土したあの遺跡の解析研究を任されるはずもない。
何せ他の場所で見つかった古代文明とは一線を画いた全く新しい文化体系を持った民族の遺跡だったのだから。

雄介自身は数年前に就学課程を修了させ卒業しているものの、彼を推薦した沢渡桜子は大学院へと進み今だにその方面のトップを邁進している。

「えぇまぁ。昔からそういうのが好きで世界中飛びまわって、色々な遺跡を見てきたりしてきましたから。それにそれを楽しんだり理解したりするだけの知識は持っているつもりです」

雄介にとって、正直に言えばあの大学への進学と卒業は長い人生の中での一『課程』に過ぎなかった。
幼いころから『冒険』を生きがいに生きてきた五代雄介、当然冒険の中には遺跡探検なども含まれるわけで、そういった古代文明に関しての専門知識を身につけるためにこの城南大学考古学研究室を目指したのである。

無論そういったものへの純粋な興味がないとしたら嘘にもなるが。

「ならばこそじゃ、世界史と日本史を担当してもらうことにするぞい」

日本史と世界史。

無論そういったものの知識は豊富にある。
考古学とは文字通り歴史を探求すること、必須というよりも最早必要最低限持っていて当然の知識だ。
これでも雄介は何も見ずに歴代の徳川将軍、アメリカ大統領、中国を統一したそれぞれの時代の国と王の名前くらいは挙げることが出来る。

それに分からないところがあれば分かるようになるまで努力すれば良いだけだ。
五代雄介という人間はそうやってここまで成長してきたわけであり、これからも進んでいくのだから。

「……分かりました。俺、どこまで出来るか自分でも分からないけど、やれるだけやってみます!!」

笑顔、雄介は笑い、サムズアップを近右衛門に向ける。
近衛右衛門は満足そうにしわくちゃな顔を更に歪めて笑った。

「そうか。うむ、良い笑顔じゃ。これならば安心して任せることが出来るの」

「あっ、そういえば……」

「何じゃ?」

「俺は何時からその……3-Aに?」

「うむ、今日からじゃ」

「今日から……今日?!」

思わず叫んでしまった。
幾らなんでも行き当たりばったり過ぎではなかろうか?
まぁこういう突発的な事態には悲しいかな雄介も慣れているわけで。
それはいいとして一番の問題は……

急に苦い顔をした雄介に近右衛門は目を丸くさせるが、次の瞬間には破顔していた。

「その……俺、今着てるやつしか服持って来てなくて。やっぱスーツとかじゃないと駄目……ですよね?」

尻切れ蜻蛉に声が小さくなっていく。

雄介の記憶の中では小・中・高・大と記憶を遡っても、自分のように着の身着のままの格好で着任の挨拶を行った新任の教師は居なかった。
そうでなくとしてもこの格好は名門であるこの学園には似使わないのではないだろうか?
雄介の頭に一抹の不安がよぎる。

「ふぉっふぉっふぉっふぉっ! そんなことか。構わんよ、君の受け持つクラスの子達はあまり堅苦しいことは嫌いでの、自然体に接してくれればいいんじゃ。むしろそのほうが良い」

「そうですか。それは良かった」

ほっと肩の力を抜く雄介。
着任早々マイナスイメージで自分が定着することはなさそうだ。
と言うか無いと願いたい。


「ふむ……ところで五代君。もう一個だけわがままを聞いてもらっても構わないじゃろうか?」

「? 何ですか?」


「うむ……それに関してまずは単刀直入に聞こう。君は三年前に未確認生命体と戦った……『クウガ』じゃな?」

未確認生命体。

三年前の上旬、長野の九朗ヶ岳の遺跡において起きた発掘調査隊の大量殺人を皮切りに、長野から東京近辺の間で起きた“未確認生物”と言われる謎の生物による無差別殺戮事件。

その黒幕は超古代に存在した人類に極めて近い血液構造と、様々な動物の力を併せ持った戦闘種族『グロンギ』であり、かつて存在していた『リント』といわれる古代超人類を滅亡させた存在である。

警察すら適わない力を持ち都市ひとつすらも壊滅させるほどの力を持っていた。
だがある時期を契機にぱったりとその姿を消し去ってしまった。

一説には未確認生命体の中で第四号と呼称された個体が他の未確認生命体全てを倒したといわれているが、その真偽は定かではない。

それが民間レベルでの認識。
だが真実は違う。


「はい。そうですけど?」

「…………」

一瞬の静寂。
学園長を含め、タカミチもエヴァも目を点にして固まってしまっている。
一方これに困ったのは雄介の方だ。
正直に質問に答えたら向こうが反応してこない。
これでは話がまったく進まない。

「? どうかしましたか?」

もしや期待していた答えとは違うことを言ってしまったのかと不安になり、恐る恐る近右衛門に声をかける。

「いや……随分と軽く自分がクウガじゃと認めるからのぅ。もうちょっとしらばっくれるなり、とぼけるなりすると思ってな」

「いえ。クウガへの変身は俺の2002の特技の一つですから。誇りはしたりしますけど、毛嫌いしたり秘匿する気は無いですよ。まぁ流石にいきなり自分はクウガです!とは言いませんが」

「ふむ……そうか」

「はい……で、それが何か? というより何で知ってるんです? 俺がクウガだって」

クウガ。

古代超人類リントが滅びの間際にグロンギから世界を救うために創り上げた霊石アマダムを体内に秘めた凄まじき戦士。

かつて全てのグロンギを封印し、かろうじて世界の滅亡を防いだ力、五代雄介。
彼こそがそのクウガの力を受け継ぎ、究極の闇から人類を守り抜いた戦士なのである。

「うむ。何故君がクウガであるのかを知っているとすれば簡単じゃ。君はかつて未確認生命体とこの近くで戦ったことがあるじゃろう?」

「この近く……?あぁ、確かに! 何号かは忘れましたけど、確かにこの学園の近くで倒したことがあります」

「それでの、その戦いの一部始終をそこにいるエヴァが全て見ていたのじゃよ」

「ええ?! そうだったの?!」

驚き思わず振り向く雄介。
エヴァは何時の間にやらソファに座り込み、同じく何時の間に用意したのか、カップから紅茶を飲んでいる。

「ん……あぁ、そうだ。私はこの学園の警備員をしていてな。接近する存在を感知したからそこに向かったんだが、そこで見たのは怪物を追いかけてバイクで奔って来たお前がクウガに変身する場面だったわけさ。まったく……真祖になって600年、色々なものを見てきてすっかり驚きという感情など忘れていたと思ったが……あれには流石に驚いた。あ・の・五代雄介がクウガだと言うのだからな」

さも面白いと言わんばかりに笑い声をもらすエヴァ。
一方の雄介はどこかふてくされた子供のような顔をして頬を掻く。

「見られてたのか。でもエヴァも人が悪いなぁ。声の一つもかけてくれりゃいいのに」

「ふん。見ていたといっても実際にこの目で見ていたわけじゃない。放っていた使い魔が捕らえた映像を見たんだ」

「ふぅん……」

「さて、そろそろ話を元に戻していいかの」

「あ、はい。すみません」

改めて近右衛門に向き直る雄介。


近右衛門から聞かされたことは簡単に言えばこうだ。
この麻帆良学園は日本に存在する魔法使いといわれるものたちの集まりである魔法協会の一つ関東呪術協会の総本山でもあり、それ自体や学園長の孫娘が所有する膨大な魔力を狙い、様々な魑魅魍魎や悪意ある者達、同じく日本国内において勢力を二分し一方的な敵対関係にある関西呪術協会からの刺客によって常に狙われているのだという。

その様々な外的から学園内の生徒と職員を守り、尚且つ魔法の存在を秘匿するために各学年にそれぞれ存在する魔法を使うことが出来る生徒及び教師が交代で警備に当たっているのだとか。

ちなみにここにいるエヴァはもとより、タカミチも魔法先生であり学園を守る広域指導員であるらしい。
更に先ほどの雄介=クウガであるということを知っていたということについての補足として、魔法使いの一部は各国の政府機関の中で働いているものもおリ、日本の警察もそれは例外でなく数人の魔法使いが対未確認生命体対策本部のメンバーとして存在していたらしい。


「今までは散発的な攻撃のみじゃったから生徒たちでも十分対応で着ていたのじゃが、最近は関西呪術協会の中でおかしなことが起こっているようでのぅ。組織的に攻撃を仕掛けてくるものも多くて魔法は使えるとはいえ警備に当たっている生徒の殆どが戦闘を得意としているわけではなく、時々危ないことになっておる。そこで君の力が借りたいのじゃ」

「クウガの力でこの学園を守って欲しい……と?」

「うむ。無論無理にとは言わんぞ。教師と警備員を両立するとなると、自分の生活にもかなりの影響が出ると思うしのぅ」

「……」

考え込むような姿勢をとる雄介。
近右衛門はそれを見て仕方ないと思う。

自分が否応にも変異してしまった異形の姿。
グロンギから人類を守るためとはいえ、自分が人ではなくなる姿になるというのはとても辛いことであろう。
その事件が終了してまだ3年、彼はもしや戦いの中で心に深い傷を負ってしまったのではないだろうか?

ただでさえ自分の姿が変異してしまうという異常、その中でもしも近しい人を亡くしてなどいたりしたならば、もしそうであるならば、近右衛門はこの提案を即座に却下するつもりだった。

確かにクウガの力は強力であり魅力的ではある。
しかし五代雄介という人間の感情や思いを無碍にしてまで手に入れようとは思わない。
まだ刺客や侵入者への対応は魔法生徒や教師達で十分に対応が出来る。

「分かりました。俺、やります!」

「ん? し、しかし良いのか?」

「え、何がですか?」

「い、いや……それはのぅ、あの戦いの中でお主も色々と辛い目にあったであろ? それを思い出させてまでクウガになってもらわんでも」

「大丈夫ですって、俺は」

雄介はどこか遠くを見つめるように目を細め、それでいても笑顔を絶やすことなく語る。

「確かに、まぁあの戦いで色々ありました。クウガの力を怖いと思ったことも時々ありますし、もし自分が自分でなくなって、誰かを悲しませたり、傷つけてしまったらどうしよう……とか思ったこともあります。けど……」

「けど?」

「俺が最初クウガになったとき誓ったんです。この力で、一人でも多くの笑顔を守ろうって。そのためにこの力を使おう、クウガになって戦おうって。それを思い出したら、クウガも自分の一部に過ぎないんだ、力を使うのは結局俺自身なんだって思えてきたんです。ならその力が何であろうと関係ない、俺は俺のしたいように、皆に笑顔でいてもらうためにクウガになろうって……そう結論を出しました。だから俺にとってクウガへの変身も2002の特技の中の一つに過ぎません」

近右衛門は、いや彼だけではない、タカミチもエヴァも驚きを隠せなかった。
皆が一様に雄介を見つめる。

この青年はなんと言う男であろうか。
クウガという存在を彼はあくまでも手段として受け入れている。
自分を飲み込みかねない大きな存在を、だ。

そして何より、彼の優しさが嬉しかった。
大きな力を手に入れたが故の絶望も、力への魅了も存在しない。
ただ皆の笑顔を守るためだけに、と彼は言った。
グロンギを全て倒すという意味ではない、ただ”守る”ために使うと彼は平然と言ってのけた。

その姿が裏の世界の更に裏を長い人生の中で見続けてきた近右衛門には、ひどく眩しく、そして美しく見えた。


一方のタカミチは一本取られたとでも言いたそうに苦笑している。
そしてエヴァもどこかうらやましそうに雄介を見つめている。


「えっと……学園長さん?」

「おっと、すまなかったのぅ! うむ、では五代雄介君には特殊警備員の任も任させてもらおうかの」

「はい!」

満面の笑みで頷く雄介、近右衛門は老い先短い人生の中で、彼のよう眩しい人物に出会えたことがとても嬉しかった。
そして嬉しかったが故に、こういう提案を出す。

「うむ……君になら孫娘の木乃香を任せてもよさそうじゃ。どうじゃの五代君、一度見合いなど行っては」

「は?」

なぁに27と14ならば十分に許容範囲、それに後4.5年もすれば木乃香も大人な美女になるじゃろう。
良く見れば五代君も中々の”いけめん”とやらではないか。
服の上からでもかなりいい体が出来上がっているのが分かるし博士号を持っているのならば博識なはず。
それでいて性格も二重丸、しっかり者じゃしちょっと天然入っとる木乃香にはお似合いではないか!
いける! これはいけるぞおおおおおおおっ!!!

「あ、あの……学園ちょ」

「うむ! ぜひそうしよう今度の日曜日にでもお見合いの席を設けアギャボ?!!!!」

すっかりハイテンションになった学園長の顔面に、雄介の後方から飛来した何かが直撃し爆発した。

「え……エヴァ?」

振り向いた雄介の視線の先には、ソファの上で何かを投げきった姿勢のまま顔を真っ赤にして息を荒くしているエヴァの姿。

「ハァ……ハァ……ったく、このジジィはまともなことを言えんのか? 雄介は私が目をつけていたというのに……」

途中から尻すぼみに声が小さくなっていったので、幸い最後の方は雄介には聞こえなかった。
だがそれは良かったのか悪かったのか。

「ん、んむぅ……ひ、久しぶりに良い一撃をもらってしまったぞい」

「あ! だ、大丈夫ですか学園長!!」

机にへばりついて立ち上がろうとする近右衛門を助け起こす雄介。
細かく息を吐き必死の形相を見せるその姿はご臨終寸前の御老人のようで精神衛生上非常によろしくない。

「いきなりそういうのはやめたほうがいいんじゃないか、エヴァ?」

「そうじゃそうじゃ! 今度からやめんと昨日の夜に五代君が来ると知って、今まで見たこと無いほどに嬉しそうにはしゃぎだし、朝苦手なお前が頑張って早起きしたと彼にバラしてアンドゥル?!!!!!!」

「だから黙れと言っているだろうが! このぬらりひょんアンデッドが!! いい加減にしないとぬっころすぞ!!」

「あ、アンデッドは不死身じゃああああああ……ガクッ」

エヴァが一人用のソファを近右衛門に投げつけ、一方の近右衛門も意味不明の断末魔を上げつつ事切れる。
死んでないけど。


「エヴァ……今の……ほんと?」

「え……あ……」

驚いたように目を見張る雄介。
当のエヴァはしまったとさも言わんばかりに顔を紅くする。

「嬉しいな。俺のことなんか忘れてると思ってたのに」

「な、何故そう思った?」

「だってエヴァは長い時間生きてきて……そんな人生からしてみれば俺と旅したときなんか一瞬だったろ? ただの無鉄砲なガキのことなんか直ぐに忘れてると思ったのにさ……」

「ぬ……ど、どうでもいいだろそんなこと」

まぁ面と向かって少年時代の雄介と旅をした数日が某英雄と旅をした時間と同じくらい印象に残っているとは言えまい。

「ま、いいや。とにかくありがとな、エヴァ」

雄介の掌がエヴァの頭に伸び、その金色の絹糸を優しく撫でる。
エヴァも顔を紅くし困ったように身じろぐものの、拒絶するようなしぐさは見られない。

「む……だ、だからお前は昔から私を子ども扱いするなと」

「だってしょうがないじゃん。初めて会った時に俺のほうが背高かったんだし、見た目10歳くらいじゃん」

「うるさい。だいたい小学校を卒業したばかりだというのに170cmも背があるお前が悪いんだ」

「んな無茶な」



コンコン



と、学園長室の扉がノックされた。

「ん?」

「ち……ぼーやか。悪い雄介、先に教室に行っているぞ。また会おう」

「え? あ、ちょっ」

突然苦々しげに顔を歪ませるとエヴァは隣の部屋に態々移動してから部屋を後にしていった。
不満げにきょとんとしている雄介を見つめていたのは気のせいではないだろう。

「何だったんだ? あ、ところで学園長、誰が来たんですか?」

「うむ、君の担当する3-Aの担任じゃよ」

「へぇ、じゃあしっかり挨拶しておかなきゃ」

「そうじゃな、入りたまえ」

「失礼します!」

扉越しに聞こえてきた妙に高い声。
同時に、きしむ音をたてて扉が開かれる。

(ん? 随分声高いな。担任て女の人なのか?)

「五代君」

「はい?」

「驚くなよ」

「はぁ?」

イジワルそうな笑みを浮かべる近右衛門。
いたずらを思いついた飾玉三郎こと、おやっさんの笑顔と同じ類だった。
何かいやな予感を雄介が抱いた瞬間に扉が開け放たれた。

入ってきたのは、見た目10歳前後の幼い少年。
腰まで伸びた紅茶色をした髪を一房にまとめ、鼻の上にちょこんと丸眼鏡が乗っている。
ピシッと着込んだスーツが年不相応にアンバランスだ。

少年は唖然としている雄介をちらちらと見ながら軽く頭を下げ、机の前まで来ると近右衛門に向って頭を下げる。

「お早うございます学園長! 何か僕に御用でしょうか?」

少年らしいはきはきとした口調。
元気そうな姿に孫を暖かく見つめる祖父のような瞳で近右衛門は少年を見つめた。

「うむ、ネギ君に紹介したい人物がいての」

「僕にですか?」

「そうじゃ、五代君。彼が君が副担任になる3-Aの担任のネギ・スプリングフィールド君じゃ。ネギ君、彼は今日から君の補佐のために3-Aの担任になった五代雄介君じゃ。二人とも仲良くするように」

「え? 君が……先生?」

雄介がネギを指差し

「え? 副担任? あなたが?」

ネギが雄介を指差す。






一瞬の静寂の後。






「「ええええええええええっ?!」」





少年と青年の叫び声が重なり麻帆良の大地に響き渡った。

これが、魔法先生ネギ・スプリングフィールドと2002の技を持つ男、五代雄介の始めての出会いであった。

魔法先生と凄まじき副担任

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