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00-1 投稿者: 投稿日:10/29-23:38 No.1522  










 唐突だが。
 実に。そう、実に唐突だが。
 輪廻転生というものの実在を信じるだろうか。
 とある宗教にて語られる概念であり、理屈としては生き地獄的な香りが漂ってくるようなあれ。あれだ。母より生れ落ち、生き、死に至り、また母より生れ落ちる……それがどんなものかは各々の価値観に任せるしかないが、もし実際に輪廻を巡り更に記憶をも失わずにいるような人物がいるとして、その人物がその状況を生き地獄と判断するのならば、それは生き地獄と断じていいのだろうと思う。
 そう、生まれ変わりとか言われるそれだ。前世とか来世とかいうあれだ。この場合において輪廻の部分は実はどうでもいいので省いてもらって構わない。
 その実在を確認する方法というのは無いとしか言いようが無い。少なくとも僕は知らない。確実に確認する方法なんて知り得ない。前世の記憶があるという人物がいたとして、その人物が真実を語っているのかなんて判断できないし、もし判断できたとしても、それが誇大妄想でない保証なんてどこにもありえない。
 喜劇なのだ。
 こうして懐疑主義に走っている事すらも喜劇だ。しかも観客はいない。
 いや、それは救いか。観客なんてものがいたりすればそれこそ収拾がつかなくなりそうだ。
 潮時だろう。いい加減に、妄想の真偽には眼を瞑ろう。いつもどおりに、瞑るとしよう。懐疑主義も言葉遊びもここまでだ。
 最早個人の主観でしかないが魂の実在は確認されている。転生の実在は確認されている。魂は確かに在って、転生は特殊な例ではあるが確かに事例がある。
 真実だと思い込んでいないだけ症状は軽い。
 だが。
 だが、それでも。
 妄想なのか。
 真実なのか。
 どちらにせよ。
 それが在るのは確実だ。
 確実なのだ。
 それは確かにここに在る。
 そうだ。
 僕には、前世の記憶というものがあるのだ――


           ◆


 枯葉山之路という名だった。
 因はともかくすっ飛ばしてみて、どんな形であれ魔法協会の一員としてある今。魔法協会の拠点の一つであり何かと貴重なものがあるこの地にあって荒事に対処できる人員である僕が忙しいのは、大抵はその荒事に駆り出される場合である。
 巨大学園都市に偽装された関東魔法協会本拠――麻帆良。
 カモフラージュとしては完璧だ。学園都市という名の閉鎖的環境、広大な土地、何らかの名目を持つ巨大な施設に、そこに貯蔵された諸々の魔法具――成程、宝の山だろう。
 故に、こういった事態はたまにといった頻度で起こる。
「なあ瀬流彦よォ」
「……なんだい之路くん」
 疲れたように返事をする優男系魔法先生。その前には辛うじて人の形を残した消炭。
 この消炭がいわゆる僕の飯の種であるところの侵入者であるわけだが、現状を省みる限り今では立派な消炭だ。何が目的かなんてとても聞き出せる状況ではない。忍び込もうとした場所を考えれば推測は十分に可能だが。恐らくはこいつが本命でここにある魔法具やら魔法書やらの奪取が目的だったのだろう。
「そうヘタレてんじゃねえよオイ。いいじゃねえか、一人くらい捕まえずに殺っちまっただけだろうがよ」
「……そのやっちまった張本人は君じゃないか」
 しかも問答無用で、と溜息と一緒にそう吐き出す瀬流彦。
 いや全く。……その、なんだ、あれだよ面倒臭かったんだよ色々と。
「面倒臭い、ってちょっと君ねえ!?」
 少し声を荒げながら、しかし責める様子のないコイツはやはりいい奴だ。
 そんな事を考えながら、事は粗方収拾がついただろうし帰路につくべく踵を返す僕。後始末は何やら背中に向けられる恨めし気な視線の主に任せようと思う。頼むよ先生、友達だろ?
 と、そこで携帯電話が古めかしい黒電話の音を発した。
 見てみるとディスプレイには堅物2の文字――葛葉か。願わくばこれが終了の合図であらんことを。
「之路くーんっ」
「うるせえあと頼む」
 あうー、と項垂れ後始末を進める瀬流彦を尻目に、電話に出る。
「ンだよこっちはもう一人殺っちまったぞ。見事に消炭だ」
『やっちまったって何をっ!? ではなくて!!』
「あら、知らない人? 誰さんですかー?」
 まあ、葛葉の携帯から別の奴が電話をかけてくるってのは本人は手が離せない状況な訳で、
『助けてくださいっ! 刀子さんが、今っ、刀子さんが一人で――』
 スピーカーから発せられる声色は焦燥に満ちていた。その所為で少々要領を得ない部分もあったが、状況は概ね把握できた。
 ――つまり、本命は消炭君で間違いなかったようなのだが、楊動として動いていた方が厄介な輩であるらしい。
「OKOKわかったわかった。わかったっつってんだろうが超特急で行ってやるからすこーし待ってやがれコノヤロウ」
 取り敢えずは急がなければならないらしい。場所は少し離れている。直線で行くのは少し拙いので曲線で行こう。
 上に跳んで、地面に降りることなくそのまま滞空する。足元にはボードの様にして幅広の刀身があった。人はそれ単体では空を征くことは叶わず、故に道具を使う。僕の場合は不器用なもので、杖一つを発動体にも飛行にも使える奴と違って態々飛行用の魔杖をこさえなければならない。その魔杖といういうのが、今足元にある西洋風の大剣だ。
 瀬流彦は死体袋を担いで後始末完了といった様相だった。周囲に被害が出ていなかったのでそれだけで済んだらしい。
 中空にいる僕を見上げて瀬流彦はやれやれとばかりにまた溜息を吐いた。
「終わってなかったね」
「ああ。ちょっとばかり手強いのが召喚されてんだとよ。それで終わりだ。ちゃっちゃと片付けて帰って寝る。アンタもそれ片付けたら帰れ」
「そうするよ」
 お疲れ、と労わりの言葉をかけた瀬流彦が動く前に僕はボードを扱うように魔杖の切っ先を少し上に傾けて加速していた。初速から自動車を軽く凌駕する、魔力量に任せた速度。展開された障壁が空気抵抗を受け流し、風景はあっという間に学園都市を見下ろす形になった。
 場所を確認して、速度を落とさぬままそこに切っ先を向ける。その時点で、森の中の少し開けたところに葛葉ともう一人の少女、恐らくは電話してきた奴と悪魔を肉眼で確認。
「葛葉なら援護だけで十全だろうがねェ」
 助けてと請われちゃ仕方ねぇ。
 召喚されたのは全部で十五体――それが当初の状況だった。
 内十二体は下位に属する悪魔で、問題無く撃破できた。ここで下位とはいえ十を超える数の悪魔を問題無くと言えるのが麻帆良の頑強さを示している。いくら魔法使いであっても所詮は人間、構造そのものからして違う悪魔との能力差は歴然としている筈なのだが、それを見事に覆している。
 しかし、覆せないものも確かにある。
 残りの三体の構成は爵位級の高位に属する悪魔だ。
 それぞれの分断に成功し、各個撃破というのは良策だったが――
「相手にできる人間の数が足りてねえんだよなぁ」
 おかげさまで僕の向かっているところが劣勢も劣勢。なので更に加速。加速。加速。
 同時に得物の握りを改める。只管に長大な、瀬流彦と比べてもまだ大きい歪な長柄大剣。
 魔杖と併せて用途としては突撃用――
 金と黒の柄を握り締め、
 腰だめに構え、
 接近を感知した悪魔を見据えて、
「死に、晒せ」
 喰らいやがれ、この必殺を――


          ◆


『OKOKわかったわかった。わーかったっつってんだろうが超特急で行ってやるからすこーし待ってやがれコノヤロウ』

 嵐の前の静けさ、といった時間だったのだろう。分断に成功した爵位級悪魔の一体と、何をするでもなく対峙していた時だった。
 こちらは神鳴流剣士と言えど葛葉刀子と桜咲刹那の二人のみ。さらに内一人は若輩の未熟者といった有様。
 対峙する敵の強大さに震えそうになる己の未熟に歯噛みしながら、しかし守るべき者を想って自身を叱咤していた時だった。
 ――この番号の男に援護を頼みなさい。
 枯葉山之路。刀子さんの携帯電話の小さなディスプレイ、十一桁の番号の上に、そう記されていた。
 睨み合いは終わり、とばかりに刀子さんが前へ出た。その身は既に裂帛の気勢を纏っている。
 僅かな間の筈の発信音がやたらと長く感じた。引き伸ばされた時間の果てに出たその人に発した私の言葉は、自分でも驚く程の焦燥に満ちていた。
 その男の人に状況を伝える間に自分が如何に未熟かを知る羽目にもなったが、最後には少し落ち着きを取り戻したのかその人の、男にしては少し高い声をしっかり受け止めることができた。その声色の乱暴でありながら落ち着いた口調が、何か信頼を覚えさせた。
 下位の悪魔と比べるまでもなく、爵位級の悪魔は強敵だった。
 魔力、身体能力、巧妙な戦の運び。こちらの攻撃の殆どがあしらわれているようにも思えた。
 そして、
「跳び退きなさい刹那!!」
「――え?」
 攻防の最中、唐突にそう言った刀子さんに続いて慌てて私も大きく退く。
 この隙は拙い。
 私は追撃に備えようとして、
「これは――」
 気づいた。
 悪魔は私より僅かに早く反応していたのだろう。既に防御を固めている。攻撃など考えていないとばかりに魔力を防御のみに回したその巨躯を、過剰などとはとても言えない。むしろ全霊を以って守りを固めるべきだ。
 ――気づかざるを得ない。
 地表を削る勢いで迫るそれはまるで黒い彗星だ。あの速度を出す為にどれ程の魔力が注ぎ込まれているというのか、既にあれは醜悪なまでの密度の魔力塊だ。放出される過剰な魔力が黒い尾を引きながら、彗星は加速し続ける。
 防御に全力を込めた強大な筈の爵位級の悪魔が、あれに比べればとても小さく思えた。
 攻撃。
 そんな表現が生温く思える、凶悪で醜悪で禍々しい、反則染みた一撃が炸裂する瞬間。
 確かに、私は見た。
 既に結界と呼ぶ方が相応しい強度を得た障壁が、彗星と接触するまでもなく負荷のかかった状態となり、僅かな拮抗すら許されずに砕け散る。
 あれは賞賛の笑みか。悪魔が口元を歪ませ、何事かを呟く。
 接触。
 ――そこで引き伸ばされた感覚は元に戻った。
 何の抵抗も無く悪魔は黒い彗星に消し飛ばされていた。
 轟音。砕かれ、陥没した地面。それだけが爵位級に位置する悪魔の痕跡だった。
 呆然とする私を余所に、彗星は僅かに十メートル程地面を削り取るだけで静止し、やがて纏う黒く色づいた魔力も霧散していった。
 残ったのは、削れた地面の上に浮遊したままの大剣と、その上に立つ、巨剣を腰だめに構えた赤髪の後姿。
 まず悟ったのは、今のは遠距離攻撃の類ではなく、一種の突撃だったという事実だ。成程、自身が剣を携えて敵へ一直線に突っ込むのは突撃以外の何物でもない。
 足場にしている大剣は奇妙ながらも飛行用の媒体と無理矢理納得するとしても、携える巨剣は更に奇妙だった。奇妙というよりは寧ろ、異常なのかもしれない。
 まるで一つの金属塊から鍛え上げたような、尋常を遥かに凌駕する幅と厚みの反りの浅い黒い片刃剣。僅かに斜めに傾いで伸びる柄にあたる部位は細長く刳り貫いて握りと巨大なナックルガードを形成しながら全長のおよそ半分近くを占めていて、更に刀身の根元あたりの背に片手剣サイズの金色の柄が斜めに突き出ている。
 正しく『鉄塊の如き剣』だ。
 あれを自在に操るとなればその膂力も恐ろしいが、この場合最も恐ろしいのはやはりあの密度にまで注ぎ込みながらも底無しとばかりに放出されていた魔力量だろう。直撃すれば唯の一撃で爵位級悪魔を還すあの突撃を、何度繰り出せるのか。
 莫大な魔力に任せた荒唐無稽とも思える攻撃方法。
 恐れるべきだろう。
 畏怖すべきだろう。
 だが。
 私は。
 私は、何故か打ち震えていた。
 ――必殺。
 放てば『必ず殺す』一撃。
 唯一撃にかける攻性意思の顕現。
 まるで、御伽噺。
 まるで、物語の中の英雄。

 枯葉山之路。
 その人が、小柄な私と同じくらい小柄で、一つ年下だと認識しても、抱いた敬意は些かも揺らぐことは無かった。

ハイウェイスター 00-2

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