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黒衣の副担任 第2話 投稿者:KAMUI 投稿日:06/25-22:12 No.798
黒衣の副担任 第2話 「関西呪術協会と神鳴流」
詠春の案内で木乃香の実家へとやってきた恭也達だが、まず驚いたのが目の前の大きな門構えとそれ
を超えたところで出迎えた
「「「「「おかえりなさいませ。詠春様、木乃香お嬢様」」」」」
左右対称に居並ぶ巫女服の女性の出迎えであった。
「(御神の屋敷より大きいな。それにしても山奥にこのような所があるとはな)」
と少し昔を思い出しながら屋敷内に入っていく恭也に詠春が
「さあ、着きましたよ。これから客室へ案内しますのでついてきてください。木乃香に刹那君は疲れ
ているだろうから部屋で休んでいなさい」
と言って屋敷の奥まで案内役を買って出て木乃香達に休むように声を掛けるが、
「いやや、うちは疲れていない。それに恭也さん達にお礼もきちんと言っていないし」
「私もお嬢様と同意見です」
どうやら、先ほど助けてもらった礼をしていないことを理由についていくつもりのようである。本当
の理由は純粋に恭也達のことを知りたい好奇心から来ているのだろう。それをなんとはなしに気付い
た恭也が
「いや、礼なら先ほど十二分にもらったし、状況説明も詠春さんにしてもらえるから、ゆっくり休ん
だほうがいいぞ」
と説得するが、
「どうしてもだめ?」
上目遣いでかつ涙目で言われてしまっては恭也も弱い。昔から妹のなのはにこういった目をされた
ときは御神の剣士といえど全戦全敗である。傍らにいる詠春に目を向けるが、どうやらこちらも娘の
この目には弱いらしく、恭也に向かって苦笑いをしていた。
しょうがなくその詠春にうなずき、木乃香と刹那も一緒に連れて行くこととなった。
近衛邸・客間
通常の客間と比べては失礼なほどの広さを持つ近衛邸の客間では現在、詠春、木乃香、刹那、そして
恭也、神楽、ざからがそれぞれ向かい合わせでソファーに座っていた。皆が落ち着いたところを見計
らって話を切り出したのが詠春である。
「それでは、着いて早々で申し訳ありませんが、お互いの状況を確認するために質問形式で話を進め
させていただいてよろしいでしょうか?」
「はい、それで問題ありません」
「それでは、改めてお互いの自己紹介をさせていただきましょうか。私は近衛詠春、ここにいる
木乃香の父親でもあります。そしてその隣にいるのが桜咲刹那君です。先ほどはこの二人が
危ないところを助けていただき、重ねてお礼をさせていただきます」
「うちからもお礼させてもらうわ。ほんにありがとう」
「ありがとうございます」
「いえ、お気になさらないでください。たまたまその場に居合わせただけで、当然のことをしたまで
ですから」
そう言って、ふっと優しげな表情で返答をする恭也に、詠春はその表情に心地良い印象を抱き、
木乃香と刹那は、
「……………………(ぽっ)」
と恭也の表情に見とれていた。恭也の並びにいる神楽とざからも恭也を見て表情を緩めていた。
「今度はこちらの番ですね。俺は高町恭也、そして一緒にいるのが」
「神楽と申します」
「ざからだ」
とここにいるメンバーの自己紹介が終了する。
「お互いの自己紹介をしたところで、先ほどの高町さんの質問から答えさせていただきます。まず、
ここは京都です。そして隠す必要もないと思いますのでお話ししますが、この屋敷は『関西呪術
協会』の総本山となっています」
恭也達がそれぞれ手練であることから、裏の人間と判断した詠春は素直に話すこととした。本来なら
それは危険と伴うはずだが、先ほどまでの恭也の態度、物腰から危険はないと判断したようだ。
「『関西呪術協会』ですか…、少し込み入ったことになりそうなのでこの件は一度置かせていただい
て」
恭也はいったん話を区切り
「まず、この地が京都ということですが、予想していた通り、ここは私達の暮らしていた世界とは
違うようです」
と、真剣な表情で切り出す恭也に
「なにか根拠はありますか?たしかに木乃香達の話では空から現れた空間から出てきたそうですが」
「はい、まず一点。私はいままで京都の地に何度も足を踏み入れていまして、さらにこういった地
があれば修行の傍ら必ずといっていいほど訪れています。その中でこういった屋敷があることを
知りまんでしたし、『関西呪術協会』と言う名称も聞いたことがありません」
「でもこの屋敷の周りには先ほど言った結界が張ってありまして、大抵の人はこの屋敷の存在に気付
かないようになっています。そのために気付かなかったことはありませんか?」
「それはありませんね。最近俺はそういったことに鋭敏になっていますし、傍らには神楽もいました
から。さきほどのやりとりで神楽の能力はご存知でしょう」
「たしかにそうですね」
「それに、詠春さんは感じておられると思いますが、俺達は「裏」の人間です。それなのにそういっ
た情報が全くと言っていいほど入らないということはありえないとまでは言いませんが、確立とし
は極僅かでしょう」
といった恭也に詠春は納得が言ったのか頷き、恭也に先を促した。
「そして、もう一点。これは、先ほど私が試したのですが、携帯電話で何人かの知り合いに連絡を取
ろうかと思ったのですが、全く通じない。圏外でもないのに。そこで一つ確認を取りたいのですが
「神咲」という退魔集団と「ティオレ・クリステラ」という名を聞いたことがありますか?」
「いえ、私も『関西呪術協会』の長を務めていますが、「神咲」という名に心当たりはありません。
この京都の地には「神鳴流」という退魔集団がいて、『関西呪術協会』と関係を持っています。
あとは、「ティオレ・クリステラ」ですか…、その方は有名な方ですか」
「はい、世界的に有名な歌手でして、CSSという最難関の歌手養成所の校長も勤めています」
「私はそういったことに少し疎いのですが、それほどの有名人なら私の耳にも入るはずです」
「うちもその人のこと聞いたことがない」
「私も」
ようやっと自分達も話せることが出来たのか、木乃香と刹那も会話に参加する。
「やはり、そうですか…。これらの話を統合するとどうやら俺達は似て非なる世界へ来てしまった
ようだな」
「まあ、あの空間に引き込まれた時点でそのような予感はしていましたが」
「そうだな」
先ほどの自分の考えに確信を持ったのか恭也がつぶやくのを聞いて神楽とざからも同意する。
そして、詠春は恭也達の様子を見て、何か考えがあるのか、また話し始めた。
「高町さん、あなた達が別の世界からやってきたとして、どうやってこちらに来たのですか?
直接の手段は先ほどの空間からでしょうが、その経緯を教えていただけませんか?」
詠春の質問に対し恭也も、自分がわかる範囲でその経緯を話し始めた。
自分の暮らしている街で突然巨大な力が発現したこと、それを追って見れば、その場に妹と
その知り合いがいて、その力の持ち主を探して見れば、突然空から空間が壊れ始めたこと。
それを阻止するため神楽とざからと力を合わせその空間を防いだこと。但しその衝撃から
別の空間が発生し、それに飲まれたことを全て話した。
「…もしかして、あの雷みたいな轟音と光は」
「おそらく俺達の攻撃だと思われます」
それを聞いて詠春は驚愕した。なにせその攻撃は異世界であるこちらにまでその影響を及ぼしたので
ある。そしてその余波でさらに別の空間ができるほどである。恭也達が攻撃した相手もさることなが
ら、それを殲滅した恭也達もとんでもない。
(実際には『ヒドゥン』を通して空間がたまたま繋がったことも要因に含まれる)
その表情を見たのか、恭也は誤解がないように説明を加える。
「俺達の攻撃と言いましたが、実際は神楽とざからの力が大半なんですよ。神楽、ざから。改めて
自己紹介をしてくれ。自分達の正体も含めて」
「恭也様、そのようなことをしてもよいのですか?」
「ああ、どちらにせよ、そこにいる二人には見られているし、おそらく詠春さんも信用できる。
それにこの世界の協力者が少なからず必要だ」
「そういうことでしたら」
「それではまずは我からだ。我はざから、太古の昔は魔獣として人々に厄災をもたらしたことも
あったが、今は紆余曲折を経て恭也の剣として行動を共にしている」
そういって、ざからの体が赤く輝きだすとその姿は小太刀に変化した。木乃香と刹那は一度見た
ので、それほど驚かなかったが、詠春はやはり驚愕の表情でそれを見ていた。
「次は私ですね。私は霊剣神楽。遠い昔に自分の力で霊剣となった「神楽流退魔術」の開祖であり、
現在は恭也様の剣となり、師となりて共にその道を歩む者」
今度は神楽の体が青く輝きだし、小太刀に変化した。その二刀を恭也は手に持ち詠春に説明した。
「こうやって、二人の力を借りて、自分の持てる最大威力の技の一つを使って攻撃したのですよ」
と言った後、すぐに二刀を元に戻した、そうすると二刀は再度元の姿に戻った。
「まあ、よほどのことが無い限り、私達は小太刀に姿を変えることも無いのですけどね」
「それほど、あの敵はとてつもない力の持ち主だったということだ」
と話す神楽とざから。それを見ていた詠春はようやく驚愕から立ち直って、少し身を乗り出すように
して、恭也に話しかけた。
「すみません。高町さん、今のは一体?」
「もしかしたら、そちらには霊剣や魔剣は存在していないのですか?」
「いえ、確かに存在してはいるのですが、剣そのものに人が宿りなおかつ自由に変身ができる物は
見たことがなかったので」
詠春も長年、裏の世界にいて、神剣、魔剣等の存在は見たことがあったが、何かが宿ってなおかつ、
形状を変化させるものは初めて目にした。
「まあ、確かに私達の世界でも剣に人、魔物が宿っている物は数本しか存在しないと言われていま
すし。それだけ、海鳴の地がいろいろな意味で特別だったのかもしれませんね」
「言われてみれば神楽の言うとおりだな、霊剣、魔剣、妖狐に魔獣、さらにはHGSあらゆる要素が
揃っているな、海鳴には」
「海鳴、ですか?」
「はい、俺達の住んでいた場所です。」
「やはり、その地名も聞いたことがありませんね。一応、調べてはみますが」
「すみません。その件についてはお願いします」
話の最中に恭也達の住んでいた地名の話が出たので詠春に調べてもらうこととなった。
「差し出がましいことで申し訳ありませんが、さらにもう一点お願いがあるのですが」
「はい、なんでしょう?」
「この地はほぼ間違いなく俺達の住んでいた世界と異なるでしょう。そうなると…」
恭也は心持ち恥ずかしげにしながら、詠春に要望を話し始めた。ただ、恭也もさすがに恥ずかしい
らしく、いつになく言いにくそうにしている。それを見た詠春はその意味を察したのか、快く答えた
「この地での衣食住の確保ですね。わかりました。その件については私のほうで何とかしましょう。
なにせ、木乃香達の恩人ですし、そのお礼として受け取ってください」
「そうや、うちも恭也さんとお話したい」
木乃香もいままで話についていけなかったため、恭也からさらに話が聞きたく詠春の提案に同意し、
刹那も何も言わないが同意しているのか頷いていた。
「ありがとうございます」
「それではこれからのことをお話したいので、もう少しお時間をいただいてもいいですか?」
「問題ありません」
「木乃香、刹那君。今言ったとおり私達はもう少し話があるから、その間に夕食の追加を厨房に
お願いしてきてもらっていいかな?夕食が出来る頃には私達も、そちらに行くから」
「了解や」
「わかりました」
詠春の言葉に従って、木乃香達は部屋を後にする。気配が遠くなったことを見計らって詠春は恭也達
に話を切り出す。
「ちょっと、ここからは木乃香にはあまり聞かせたくない話もありますので、ちょっと席をはずさせ
ました」
それに恭也が頷くと、詠春はさらに話を続ける。
「これからのお話は、先ほど話したことにも関連するのですが、まず、ここが『関西呪術協会』の
総本山ということはお話しましたね」
「はい」
「『関西呪術協会』とは、名前の通り東洋の呪術を中心に扱う陰陽師達が中心となっている組織です
そして、「神鳴流」と深い繋がりがあります。私も神鳴流の剣士です。高町さんの話から退魔組織
がそちらの世界にもあることがわかりましたが、呪術や魔法といった力は存在していますか?」
「呪術は、裏の世界で呪術士の話は聞いたことがありますので存在していると思いますが、魔法に
ついては、聞いたことがありません。もちろん、「魔法」という言葉は存在しますが、実際に使
える人を見たことはありません」
「そうですか、こちらには一般には認知されておりませんが、裏の世界では数多くの「魔法使い」が
存在します。私達『関西呪術協会』の人間はたいてい「西洋魔術師」と呼んでいまして、その言葉
の通り、ヨーロッパの方を中心に栄えています。もちろんそういった人が集まった組織も存在して
いまして、ここ日本にも存在します」
「ひょっとして、木乃香さんたちを退出させたのも」
「はい、娘にはまだ、裏の事情を説明しておりません。刹那君は神鳴流の剣士ですので、こちらの
事情も知っております」
「それでは、さきほどの「裏の人間」、「異世界の人間」などの説明はまずかったでしょうか?」
「それについては、たぶん大丈夫だと思います。「裏の人間」については、その言葉だけなので、
疑問に思いはするでしょうが、それほど気にはしないでしょう。そして「異世界の人間」ですが
これは、木乃香が直接その現場を見てしまっているので言い逃れはできませんが、あくまでも
「異世界」の人間であって、この世界にも同じようなことがあるとは思わないでしょう」
詠春の説明に納得がいった恭也。それを聞いていて、疑問に思ったのが神楽であり、その疑問を解消
すべく、詠春に事情を確認する。
「詠春殿。それでは、木乃香さんに眠っている巨大な「力」の説明がつきません」
それを聞いた詠春は少し驚いたが、神楽のいままでの行動を考え納得がいった。
「木乃香には自分に眠っている「魔力」について、説明していないのですよ」
「なるほど、そういうことでしたか…、それにしても「魔力」ですか。少なくとも私はいままでああ
いった「力」の種類は初めて見たので少々驚きました。恭也様の力を解放したときも驚きましたけ
どね」
「高町さんの力?」
「ええ、ざからさんの力は妖気、例えば私の力は霊力、それは、おそらく詠春殿の世界の認識と同じ
だと思うのですが」
「はい、そうですね。神楽さんとざからさんから感じる力は強いものですがその感覚自体はこちらの
世界にもあります。ただ、神楽さんの力は「霊力」とおっしゃっていますが、こちらではたいてい
「気」という表現で統一しています」
「そうですか。それでは私達もこちらの世界の表現に慣れたほうが良いみたいですね。それについて
は、後々話を聞くとして…、恭也様」
「ん、なんだ」
「恭也様の力の一部を解放していただけませんか?一応この部屋には結界を引きますので周りに力が
漏れることはありません。それと、詠春殿、もし恭也様の力に覚えがあれば教えていただけますか
?」
「む、了解した」
「わかりました」
そういって、神楽が部屋全体に結界を張った後、恭也は力を開放した。その直後、恭也の体に光輝く
ものが覆われる。それを見た詠春は驚愕する。
「これは、「咸卦法」!?」
「「「「咸卦法」?」」」
恭也達もつい聞き返してしまう。
「はい、通常「気」と「魔力」は相反する力ですが、それらを融合し、体の内外に纏って強大な力を
得る高難度技法が「咸卦法」です。高町さんが力を開放する時は必ずその状態になるのですか?」
「はい、そうです」
「私も恭也様の力の開放時の感覚はこれ以外ありませんでしたね」
「我もこの「力」に引かれたのだ。感じたことの無い「力」をな」
詠春の質問に「是」と答える恭也と神楽。ざからは恭也達と対峙した時を思い出しのカ懐かしそうに
している。
「そうですか…、おそらく高町さんは、気を開放するときは常にその状態となるようですね。私達の
世界でも高町さんのような能力を持った人間は見たことがありませんね。ほとんどの人間は「気」
と「魔力」は別に持っていて「咸卦法」と言う技法を持ってその状態になりますからね。それにし
ても、凄い力ですね。高町さんはその状態をどれくらい維持できますか?」
「神楽に封印を解除してもらった当初は直ぐにばてましたが、今は慣れましたのでだいたい6時間く
らいは維持できます」
それを聞いて再度驚愕する詠春。咸卦法は強大な力を得る代わりにそれに比例した体力も持っていか
れるのだ。恭也の規格外の体力にただただ驚くばかりの詠春。それを傍目に見ながらも恭也は力の開
放をやめる。それと同時に神楽の結界も解除し、話を元に戻すべく詠春に向き直った。
「詠春殿、一応恭也様の力については内密にお願いします」
「はい、わかりました。確かにその力の存在を知った人間がどんなことを考えるかわかりませんから
ね。最も、高町さん本人が強いですし、神楽さん、ざからさんもいますからね」
「はい、恭也様の場合はばれたとしてもたいして問題はないですが、娘さんについては」
「はい、それは私としても困ったもので、今回のように隙を見ては木乃香をさらってその力を利用し
ようと考える輩が後を絶たないのが現状です。そこで、高町さん達にお願いがあるのですが、あな
た達に木乃香の護衛をお願いしたい。もちろん今後の衣食住は保障しますし、給金も出させていた
だきます。たまに、別の仕事をお願いすることもあると思いますが」
と真剣な表情で話す詠春に
「わかりました。ここに来たのも何かの縁ですし、俺の剣は大切な者達を護るための剣、喜んで引き
受けさせていただきます」
「恭也様がそうおっしゃるなら私も異論はありません」
「そうだな、我は恭也と共にいればよいので特に問題ない」
快く引き受ける恭也。神楽とざからもそれに同意する形を取った。それを聞いて、ほっとしたのか
若干表情を緩めながら詠春はこれからのことを話し出す。
「ありがとうございます。まず、こちらで高町さん達の戸籍など生活に必要なものは揃えさせて
いただきます。後『関西呪術協会』の面々については、私から事情を話すことにして、神鳴流の
については、直ぐに連絡して明日にでも責任者に来てもらって事情を説明しようかと思います」
「なにからなにまで申し訳ありません」
「いえ、私のほうこそこれから助けられるのですからお互い様ですよ。では、そろそろ時間のよう
ですし夕食にしましょうか」
「はい、改めて、これからも宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しくお願いします」
とお互い礼をした後、夕食にすべく席を立った。
そして夕食の時に、木乃香は恭也達がこの地に残ることを聞いて喜び(護衛のことは伏せ、あくまで
も屋敷の警備として話してある)刹那は事情が少しわかったのか微妙な表情をしていた。
そして、その日はそのまま割り当てられた部屋で夜を過ごし…
翌日
いつも通りの朝を別の世界で迎えた恭也は、詠春に事前に教えてもらった場所で鍛錬を行い、風呂を
借りた後、夕食の時と同じメンバーで朝食を取った。そこで詠春が昨日打ち合わせた時に約束した
内容の状況を話した。
「高町さん、神鳴流のほうに連絡しましたので、今日の昼過ぎにはこちらに来ると思いますので、
それまでには昨日使用した客間へお越しください」
「わかりました」
そして、昼食を取った後、恭也達は客室で待機していた。木乃香達は学校があるためいない。
待つこと数分、詠春が袴姿の女性を連れて部屋に入ってきた。
「お待たせしました。こちらが京都神鳴流の当主の娘さんで名前は」
「青山鶴子どす」
「高町恭也です。これから宜しくお願いします」
「神楽です」
「ざからだ」
自己紹介が済んだ後鶴子が話を続ける
「一応、詠春はんから事情は簡単に聞いとります。そして、高町はん達を見る限りは話の通りだと
思いますが、直接話を聞かせてもらえまへんか」
と話を促された恭也達は昨日詠春達に話した内容をそのまま伝える。それを聞いていた鶴子の目が
一瞬輝くのを詠春は見逃さなかった。それは詠春も考えていたこと。
「高町はんはおいくつで?」
「19です。今年で20になります」
「うちの一つ上か。それなら高町はん、うちに対して敬語は必要ありまへん。それとうちを呼ぶ時は
名前で。目上の人に敬語を使われるとくすぐったいわ」
「まあ、それでしたら…これでいいか」
「はい♪それで結構どす」
なぜか機嫌が良い返事を返され少し困惑気味な恭也。神楽とざからは何かいやな予感がしだして
いる。それを尻目に鶴子は真剣な表情に切り替えて話を切り出す。
「高町はん、一応うちも神鳴流の剣士ですので…」
と一旦言葉を区切って
「手合わせをお願いできますか」
今朝、恭也が鍛錬をしていた場所で相対する恭也と鶴子。一応屋敷周辺には結界が張ってあるが万が
一を考え神楽の結界も周辺に張ってある。
恭也は、八景を腰元に十字差しをしており、懐にはこちらに来た時の武器(小刀、鋼糸、飛針)を
装備している。対して鶴子は一刀の太刀を手にしていた。
そして、観客は、詠春、神楽、ざからである。詠春は、神鳴流の歴史でも一、二を争う鶴子の強さで
あれば、恭也の強さの全てが見れると考え、神楽とざからは、鶴子の強さを肌で感じており、ひさし
ぶりに恭也の本気が見れるかと考えていた。
本来は自分の懐を教えるわけにはいかないが、今回はあくまでも「試合」であり、いくら真剣をもっ
て勝負しようとも何も言わないのは相手に失礼だと考え、恭也は鶴子にルールを確認した。
「鶴子さん、この試合では投げ物などは有りか?」
「基本的には何でもありで行くどす。もちろんそっちが言っている「霊力技」などもありどす。
神鳴流にも似たような技があるどすから」
「わかった」
その後お互いに刀を抜いた。そして二人の間に緊張が高まっていく。
最初に仕掛けたのは鶴子である。一瞬で鶴子の気が高まったかと思った瞬間既に恭也の目の前に現れ
切りかかっていた。恭也はその速さに驚きながらも直ぐに神速の領域に入り、それをかわし、飛針を
投げ、距離を置いた。
鶴子は自分の攻撃を簡単にかわし、さらに反撃をしてきたことに驚きながらも冷静に飛針をかわした
。かわした時には既に恭也は距離を置いていた。
「驚きましたえ。うちの瞬動術で動いた攻撃をかわし、かつ攻撃を仕掛けてくるなんて。それも同じ
速さで動いたはずなのに、気が発せられた気配がなかった。これは認識を改めないといけないどす
な」
「こっちも驚いたぞ。いきなり神速の速さで攻撃を仕掛けてくるなんて。相手がわからない時に行う
先制攻撃としては最良の方法だろうな。こちらも認識を改めよう。そして多少の怪我は我慢しても
らおう。たいていの怪我は神楽が治してくれる」
「そうどすか。それなら高町はんが怪我をしても問題ないどすな」
「ああ、すればの話だがな。それでは今度はこちらから行くぞ」
鶴子があの動きをいつ行うかわからない今、恭也は相手の動きがある程度読めるまで神速をいつでも
発動できる状態にして、鶴子に向かって駆け出した。そして、間合いを詰めるべく再度飛針を放った
今度は2本を同じ軌道で。
さすがに同じ軌道で放たれた飛針を刀で弾くことまずいと思った鶴子はそれを最小限の動きでかわし
たがその時既に恭也は自分の間合いの中にいて、さらに袈裟切りで切りかかって来た。それを刀で
受け流そうとするが、その瞬間、恭也の攻撃が自分の刀を擦り抜けるようにして向かってきたので
体全体を使ってそれをかわし、間合いを取るため再度瞬動術で引いた。
恭也はそれがわかると同時に神速でそれを追いかけようとしたがその瞬間、
「斬空閃!!」
と言って鶴子が放った曲線状の気が迫っていた。それをかわしたため、追撃を諦めた。
「今の攻撃はなんどす?まるでうちの防御を擦り抜けるようにして…」
先ほどの攻撃に内心冷や汗をかいた鶴子に恭也が答える。
「今のは、御神流の技法で「貫(ぬき)」という。それを初めて見てかわすとはな」
「どうやら、出し惜しみをしているとあっという間にやられそうどすから、一気にいきますえ」
と言った瞬間、鶴子の体が光りだし、圧倒的な力が周辺を支配した。それを見た恭也は目を見張るが
すぐに表情を戻した。
「奥義 雷鳴剣!」
鶴子の剣先に電気が発生した瞬間、それを振りぬいた。その先にいる恭也は神速を持ってかわすが、
次の瞬間、鶴子は目の前にいた。
「とらえたどす。奥義 斬岩剣!」
先ほどより圧倒的な速さで恭也に追いついた鶴子は奥義を連発する。そして、恭也を捕らえたと思っ
た時、恭也の体が一瞬のうちに輝き、それが二刀の小太刀に伝わった。そして、
” 御神流 奥義乃六 薙旋(なぎつむじ) ”
開放した力を小太刀に溜め、一瞬にして納刀、そして二刀の抜刀からの四連撃を鶴子の剣に放った。
通常なら、それだけの動作を間に合わせるだけの時間がないはずだが、恭也はその時既に「神速の
二段がけ」を行っており、恐ろしい速さでそれを可能とした。
それを見て驚愕したのが鶴子。必殺の間合いで奥義を繰り出したはずが、相手の奥義で相殺、いや、
自分の攻撃が完全に弾かれてしまった。さらにその瞬間に凄まじい衝撃が刀を伝って腕にきてしまい
激しい痺れを起こしてしまった。
実を言うと恭也は、「薙旋」を放つ時その斬撃全てに御神流の技法「徹(とおし)」を付加していた
だ。徹は、表面に衝撃を伝えずに内面を破壊する技であるため、その衝撃を刀だけで吸収することが
できず、腕にまで届くこととなった。
そして、恭也がその隙を見逃すはずも無く
” 御神流 奥義乃極 閃(ひらめき) ”
己が持つ御神流の最高の奥義を峰打ちで鶴子に叩き込む。
鶴子は、奥義を弾き返され、腕が痺れた後、瞬動術で間合いを取ろうとした時、恭也が何かをしよう
としたのは見えたがその瞬間、意識を手放した。
鶴子の隙のない攻撃につい、力を開放した状態の御神流奥義を連発してしまった恭也は、倒れ臥した
鶴子に駆け寄り、その容態を見た。どうやら肋骨を骨折しているようだったが、命に別状はないよう
なので、すぐに神楽を呼び出し治癒を依頼した。
詠春は一連の恭也の動きを見て、驚愕した。鶴子が斬岩剣を放ったタイミング、威力ともに申し分
ないもので、その場にいたのが詠春でも回避できるものではないと思った。だが、恭也はかわすの
ではなく、自分も奥義をもって迎撃、あの威力の斬岩剣を弾き返した。さらに最後の攻撃。詠春に
は全く見えなかった。あの攻撃は何だったのか?おそらく鶴子にも見えてはいないだろう。
それを察したのかざからが独り言のように話し始める。
「ふむ、確かにあの状態の恭也から「閃」が飛び出せば、かわせる者などいまい」
「「閃」ですか、あの攻撃は。…ざからさんならあの攻撃をかわすことができますか?」
ざからならかわせるのだろうか?と疑問に思った詠春はそのまま疑問をぶつけるが、返ってきた
答えは意外なものだった。
「あれが出る瞬間が判れば、かわす事ができる。完全でないまでもな。後はそれに耐えるか、技自体
を出させないようにするかだな」
「…そうですか…」
あの鶴子でもなすすべも無かったのだ。自分の全盛期の時でもアレをかわすことは不可能だろう。
「それにしても、「御神流」ですか、あの流派を師事している人は全てあの技が出来るものなので
しょうか?」
あの強さは「御神流」の強さなのか、「高町恭也」自身の強さなのかが気になる詠春にざからが
答えた。
「いや、「閃」は、御神流の歴史でも指折りの人数しか出来ないそうだぞ。少なくとも、あちらの
世界で「閃」が完全に使えるのは恭也のみだ。最も不完全なものであれば妹の美由希もできるそ
うだがな」
「妹さんですか」
「そうだ。まあ、現在御神流を使い手自体が世界で三人のみとなってしまっているがな」
「三人ですか?高町恭也君に妹の美由希さん、残りの方は?それに三人だけしか使い手がいない?」
「ああ、残りは高町兄弟の叔母であり母である人間だ。それと昔はかなりの数が居たそうだが、
その力を恐れたテロ組織に一族が集まった結婚式会場ごと爆破されたそうだ。ようするに今残って
いるのはその生き残りと言うことだ。我としても残念だ。御神の剣士はすべからく強い。一度
仕合ってみたかったものよ」
「そうなんですか…」
詠春とざからが話している最中、神楽から治癒を受けていた鶴子が目を覚ました。
「…ぅつうっ、こ、ここは?」
「まだ、俺と仕合った場所だ。今俺から受けた傷を神楽に治してもらっている」
「もう少しそのままでいてくださいね。あともう少しで治りますので」
鶴子の疑問に答えたのが恭也であり、それを聞いた鶴子が状況を理解する。
「そうどすか。うちが負けたんどすか」
「ああ、俺も危なかったがな」
「いや、うちの完敗どす。特にあの最後の攻撃、あれを見切れないよう内はなんべん戦っても同じ
結果どす。あの攻撃は一体なんどすか?」
「あれは、俺が使う流派の奥義の極みで「閃(ひらめき)」と言う」
「「閃」どすか…。奥義の極みの名に相応しい名どすな」
「先ほども言ったが俺もかなり危なかった。初めて戦ったから勝てたようなものだ。次回以降は
鶴子さんが今回の情報を元に戦い方も変えるだろうし」
「そんなことを言ったらうちも同じどす。まあ、流派は違えど、目指すべき人間がいるとうちも
励みになるし。少なくともうちの流派ではうちより強い人間がいないからとても良い刺激に
なったえ」
「そうか、俺としても、鶴子さんくらいの強さの人間があまりいないから、ありがたいな。特に
こちらに来てからの鍛錬の相手が神楽とざからしかいなくなったし…」
「神楽はんとざからはんどすか?お二人はそれほど?」
「ああ、強い。特にざからは未だに勝てない」
「えっ!?」
恭也から意外な事実を聞いた鶴子が驚愕する。
「もしなんだったら、今度仕合ってみるといい。ざからも問題ないな?」
「ああ、我としても、そなたと一度戦ってみたいと思ったしな」
「その時は、よろしゅうお願いします。それと高町はんも」
「ああ、俺としても強い鍛錬相手がいるととても嬉しい」
久しぶりに神楽、ざから以外の強い相手が見つかり、さらに鍛錬に付き合ってくれると判ったため
嬉しさを隠し切れず、恭也の周りの女性陣曰く「レアな微笑」を鶴子の真ん前でしてしまった。
それを見た鶴子は?
「………………はうっ(ボン)」
どうやら、まともに被爆してしまったようだ。
そして神楽とざからは、顔を真っ赤にして固まっていた。どうやらこちらも準備なしに被爆して
しまったようである。
それでも、相変わらずの恭也はその意味を全く持って理解していない。状況を理解できず、首を
かしげている。それも、どうやら彼女達にはNGのようで、さらに固まってしまった。
ついでに詠春はその光景を目の当たりにして
「(高町君は鈍感なのだな。この調子で行くと被害者が拡大しそうで恐ろしいな。木乃香と刹那君も
被害者か?まあ、高町君なら木乃香を嫁にやっても良いかもしれないな。義父さんにも相談してみ
よう)」
などと、一部とんでもないことを考えていたりした。
そして、数分後、一応被爆から立ち直った鶴子が恭也に話しかけた。
「高町はん、これから高町はんのことを「恭はん」と呼んでもええどすか?それと敬語もなくして?」
それを聞いた恭也が妹が「恭ちゃん」と呼ぶ姿をふと思い出しながらもまあ特に問題ないと判断して
「ああ、別に問題ない」
と答えた。そうしたら鶴子が深い笑みを浮かべ
「それなら「恭はん」、これからもよろしゅう(…ふふふっ、恭はん、惚れましたぇ♪)」
「ああ、こちらからも宜しく頼む」
鶴子の笑みの意味を神楽は、はっきりと理解し、ざからはなんとはなしに気付いたが、やはり恭也は
全く分かっておらず、普通に挨拶を交わすのであった。
あとがきみたいなもの
やっとできました第2話。初のまともなバトル、そして初の恭也の微笑の犠牲者!
自分なりに精一杯書いたつもりです。
さて、いまだにネギま!の本編と交わりませんが、恭也がこの世界で暮らしていくための事情を
しっかりと書きたかったもので、…ついでに鶴子さんも書きたかった!
鶴子のしゃべり方がなかなかうまく書けなかったのですが、なんとかサマになったでしょうか?
とりあえず、あと1話を挟んで、第4話から、ネギま!の主人公のネギ君が登場します。
それまではしばらくお待ちください。
あと、これからは話のキリをよくするため、1話の文章の長さがかなり変化(というか短くなる
可能性が大)しますが、その点はご了承ください。
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