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第00話:プロローグ 投稿者:SIN 投稿日:03/29-22:09 No.2185 <HOME> 




「はあっ!」


桜咲刹那は、大上段から振り下ろされる棍棒を躱すと、すれ違い様にその鬼を叩き斬った。上半身を両断された鬼は現世に留まる力を失い、消えていく。しかし、これで終わりではない。まだここには十数体にも及ぶ鬼が残っている。そして、それらを操る術師も。

彼女は、14歳の身体には似合わぬ野太刀『夕凪』を構え、次に備えた。












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ここ『麻帆良学園都市』の学園長、近衛近右衛門より退魔の依頼を受け、刹那は学園都市郊外の森の奥に向かった。そこには既に数体の鬼と、その妖気に惹かれて集まってきた幽鬼が中空を舞っており、刹那の姿を見ると、奇声を上げて襲い掛かってきた。


「遅い!」


瞬時に2体を屠る。その間に残りの鬼や幽鬼たちに囲まれてしまったが、彼女に焦りは見られない。この程度、何の問題も無いのだ。


「神鳴流 奥義! 百烈桜華斬!!」


幾条もの剣閃が異形の者たちを斬り裂いていった。

消えていく(あやかし)に目もくれず、刹那は進む。邪な気を感じる、この先に。












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森の中にあって、少し拓けた場所となっていたそこに、この鬼どもの召喚主である術師はいた。既にお互いを敵と認識していた彼らは、邂逅すると問答無用で戦闘を開始した。

鬼を手足のように操り、攻めてくる男。一方の刹那も負けておらず、本来ならば乱戦には不向きな野太刀を用いて鬼どもを倒していく。これには彼女が使う剣の流派、退魔の剣『神鳴流』の力が大きく働いているのだろう。一撃で数体の鬼を薙ぎ払っている。


「へぇ……」


と、術師の男は、彼女の力と技に感嘆の拍手を送った。

「なかなかやるじゃねぇか、小娘。 その太刀筋……神鳴流だろ?」


「だから何だ……」


ぶっきらぼうに言葉を返す刹那。質問にまともに答える意味などないし、義理も理由もない。

が、術師の男の方は違った。


「だったら、それなりの対応が必要なんだよ。 摩訶迦羅(マカカーラ)……鬼神の王『大暗黒天』よ、俺に力を。 
【 唵 摩訶迦羅 莎訶(オン マカキャラ ソバカ) 】」


男は印を結び、真言を唱えた。


「(この男、陰陽……いや、密法使いか……。 やはり『西』の……)」


そう思い、男に対する認識を改めたのも束の間、刹那の顔色が驚愕に染まった。新たに喚び出された数体の鬼が男の身体に憑依したのだ。そればかりか、男の身体が変貌していく。身体は大きくなり、筋肉は膨れ、額からは2本の角が生え出した。身の丈3mほどになった男、それは正に『鬼人』だった。


「く……化け物が」


驚いてばかりではいられない。己が任務を果たし、こいつを倒す。でなければ、何よりも大切な『あの方』を護ることなどできない。


「くらえ! 神鳴流 斬岩剣!!」


刹那は『気』を纏った凄まじい斬撃を放つ。それは威力だけでなく速さも伴っており、男は反応する間もなく、それをまともに喰らった。ドォォン!という衝撃音が辺りに響き、砂煙が舞う。


「こ、これは……!?」


一撃を入れたはずの刹那の表情が強張っていた。効いていないのだ。太刀は、男の皮膚を斬り裂いただけだったのだ。


「この馬鹿が!」


嘲笑う男。危険を察知して逃げようとする刹那よりも早く、男は彼女の腕を取った。


「は、放せ!!」


「神鳴流は技の後の硬直が長い……ってか。 情報通り ♪ 」

ニヤついた顔で、男は刹那の腹部を殴った。


「ぐふぅっ!!」


一瞬、意識が刈り取られた。鳩尾に拳が入ってしまい、肺から吐き出された空気と、その後の数瞬の呼吸困難が酸素欠乏を促し、気絶寸前までいってしまったのだ。

刹那の身体から力が抜け、だらりとなった四肢。右手から夕凪が地面に落ちた。


「けけ……他愛もねぇな、この程度が『護衛』かよ。 さあて、と……」


男は改めて刹那を見た。自分の嗜好とはいささか違うが―――― 


「まあいいや。 このまま終わりじゃ納まらねぇからな」


これが、この術の難点だった。『鬼』という異形を憑依させて力を得る代わりに、それを全て発散させて『鬼』を満足させないことには術が解除されないのだ。一種、呪いのようなものだが、好きに暴れれば勝手に外れるのだ。それが例え、獣欲の発散でも。


「ほれ、起きろ」

「う……何を―――― 


虚ろな刹那の目に飛び込んできたのは、大きくそそり勃つ男の分身。


「ひっ!?」


意識を取り戻した刹那の表情が青褪め、引き攣った。


「何をする気だ!?」

「けっけっけ……喧嘩に負けた女の末路は決まってんだろうが」


鬼と一つになった男のモノは、途轍もなく巨大であった。恐怖が刹那の心を、身体を支配していた。


「(こんな奴に……)」


刹那も昔、魔や妖怪との戦いに敗れた女性神鳴流剣士の最後がどういうものかを聞いていた。が、それはまだ幼かった刹那には、よく分からない話だった。しかし、今なら分かる。自分が何をされようとしているのかが。


「(嫌だ……いや……いやぁ……)」


男が期待に目を輝かせ、舌なめずりした。その時―――― 


「うぅぅぅるせーーっ!!」


どこから現れたのか、怒号と共に何者かが男に対して後ろから飛び蹴りを喰らわせたのだ。


「なぁっ!?」


突然の衝撃に驚き惑い、男は捕まえていた刹那を放してしまった。


「あ!」


と思ったが、もう遅い。刹那は落としていた太刀を手にし、その場を飛び退いた。


「誰だ! この―――― 


振り向いて、男は愕然とした。そこにいたのはパジャマ姿の中学生らしき少年だったのだ。

刹那も同じだった。自分を助けたのがこんな少年だったとは。自分と同い年か、一つくらい下か……。

少年は、そんな二人に構わず、怒りのままに言葉を続ける。


「せっかく人がいー気持ちで寝てたっつーのによーっ! ちゃちい魔力でチマチマ暴れてんじゃねーよ!! 気になって仕方ねェだろうがっ!!」


「こ、このガキィ……てめぇ、何者だぁっ!? 邪魔を―――― 

「まほーつかい様だよ、コノヤロウ!!」


少年のジャンピング・アッパーが鬼男の顎を打ち抜いた。よろめいた巨体に対し、少年は更なる攻撃を加える。


「テメェみてーな名前もねえ、設定も中途半端なオリキャラがぁ……この小説の主人公様を差し置いてオープニングから好き勝手やってたらなぁっ! 読者様が感想をくださらないだろうがァァァッ!! ほら、ちゃんとお詫びしねーか! 頭を地べたに擦り付けてよぉっ!!」


反撃の余地も許さないほどに殴り、蹴り、倒れたところを顔面へストンピングをかます。あまりの苛烈さに逃げ出そうとした男だったが、少年は男の頭を掴み、地面へ叩きつけて擦りあげた。荒地の地肌だ。鬼と一体化しているとはいえ、男の顔面は擦傷で爛れてしまった。


「ぎぎぎ……な、何が『魔法使い』だ! バカ力だしやがって!」


男は信じられなかった。『鬼道』と呼ばれるこの術を使って鬼人となった自分の力は、通常人の約10倍にも跳ね上がる。防御・耐久力も言わずもがなだ。神鳴流の一撃にも耐えたことでも分かるだろう。にも拘らず、この自称・魔法使いは、そんな自分を吹っ飛ばし、ここまでダメージを与えたのだ。おそらく、本質は『気』を使う戦士系の人間だろう。


「んー……何だ? 見たいのか、魔法?」


攻撃を止めた少年が訊ねてきた。


「使えるんならなぁ! ま、ガキの魔法なんて大したことねぇだろうがな! ククククク」


せめてもの仕返しとばかりに、男は少年を嘲笑う。そして考えた。


「(呪文を唱え出したら、その隙に殺してやる)」


だが―――― 


「そうか! んじゃー特別に見せてやろう!! 光栄に思えよ。 オレ様のオリジナルだぞぉ! 【 ザーザード・ザーザード・スクローノー・ローノスーク…… 】」


少年が呪文を唱え始めると、男の下卑た笑いは驚愕と恐怖に取って代わった。立ち上る強大な魔力。暗黒と負に満ちた、おぞましく禍々しい力。

動けない。呪文を唱える隙に攻撃する? 冗談じゃない!


「な、な、な……」


「【 漆黒の闇の底に燃える地獄の業火よ……我が剣となりて敵を滅ぼせ!! 】」


ブゥン!と唸るような音を立てて、少年の前に魔法円が浮かび上がった。


「【 爆霊地獄(ベノン)!!! 】」


「ぴぃ!? ぴギゃうワえあ~~~~~~!!!」


呪文の完成と共に男の身体が吹き飛んだ。魔力により暗黒の門から呼び込んだ破壊酵素が男の身体の新陳代謝(異化)を異常加速させ、それにより塵芥となった細胞が空気に触れたことで破壊されたのだ。


「ひぎぃ……あぐ……うぎぎぎ」


首だけを残したまま、それでも男は生きていた。憑依した鬼の生命力により即死は免れたのだが、それは彼にとって、とても不幸なことだった。


「ワハハハハハ!! まだ生きてるぞ、コイツ! すげーぞ、お前! かっくいいーーっ!!」


少年は本気で感心し、そして笑いに笑った。 オモチャを見つけた幼児の如く、楽しそうにそれを持ち、玩ぶ。


「クックックック……さあ~~て、この後、どーやってイビリ殺してやろ~か?」

「痛い痛い! た、助けて……死に、た、くない……助、け、てくだ、さい……」


泣いて懇願する男の首を、少年はゲラゲラと笑いながらボールのように高く放り投げたり、蹴ったり、お手玉して遊ぶ。

その残忍さを、刹那はこれ以上、見ていられなかった。だが、止めることもできない。恐ろしくて動くことが出来ないのだ。

しばらくして興が冷めたか、少年はゴミのようにそれを地に落とし、踏ん付けた。


「ぐえ」


汚い悲鳴が上がった。


「オレは大事な大事なお寝むの時間を邪魔されてイラついてんだ。 けどな、オレの質問に答えるなら、助けてやってもいいぜ?」

「答えます! 何でも答えます!! だから助けてぇぇぇぇっ!!」

「話によると、テメェらみてーな奴らがしつこく麻帆良(ココ)に攻めこんでくるらしーな? コノエモンとかいうジジイは、ここにある『霊脈』や『魔力溜まり』を狙ってくるとか言ってたが……どうも妙だぜ。 そんなもん、世界中を回りゃあ幾らでもあるだろーが。 その程度の理由なら、わざわざこんな強固な結界が張ってある―――― まあ、オレ様にとっちゃあ紙きれみてーなもんだけどよ……とにかく麻帆良(ココ)じゃなきゃいけねぇ必要はねーよな」

「あぐ……」

「それでもってこたぁ、ここにしかねーもん……物か、人か……まー何でもいいや。 とにかく、お宝なんだろー? ほら、言わねーと殺すよ?」

「あ、あ、あ……言う! 言います! だから!」


「ああ……約束は守る♡ 早く言いな」

「はい、その通りです! 近衛の孫娘が―――― 


言い終わるのを待つことなく、少年は グシャリ! と男の頭を踏み潰した。柘榴のように砕け、辺りに血や目玉、脳漿などが飛び散る。


「ふん……やはりな。 それにしても、あのジジイの孫娘ね……おもしれー事になりそうだ」


少年は愉快そうに笑みを深くした。

一方の刹那だが、少年の行為が恐ろしくなり、腰砕けに座り込んでしまった。何の躊躇もなく、約束を反故にして殺した。いや、最初から約束などしたつもりはなかったのだろうが、それでも、この少年の非道は刹那の理解の範疇を超えていた。

彼も倒すべきなのだろうか。残忍で、非道で、凶悪で、邪悪。そんな言葉が似合ってしまう少年。そして、あの魔法。こんな仕事をしている以上、何度か魔法を目にしたことはある。だがあれは、そのどれにも当て嵌まらない気がする。もっと違う……そう、別のものだ。

刹那が太刀の柄を握り締める。


「で―――― 


少年は、いま気付いたのかのように刹那を見た。


「てめーは誰だ?」


これが桜咲刹那と、『ルーシェ・レンレン』の姿をした伝説の魔人『ダーク・シュナイダー』との出会いだった。










第01話に続く










魔法使いの少年と伝説の魔人 第01話:魔人、麻帆良に堕ちる

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