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第一話“H.T” 投稿者:SKY 投稿日:09/23-07:24 No.1333
いきなりだが、高畑・T・タカミチは困惑していた。
今から10分ほど前、学園の結界に反応があり、不審者が侵入してきたことが確認された。
不審者は突如学園内に現れたことにより、空間転移の魔法などを使い侵入をした高位の魔法使いだと思われる。そう推測が成された。
この様な乱暴な手段で侵入してくる不審者。
麻帆良中等部女子寮の付近ということもあり、近衛木乃香の誘拐、ネギ・スプリングフィールドへの干渉、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルへの排除行動など心当たりは山ほどある。
さらに、恐らく空間転移の時であろう。歪んだ空間から気とも魔力とも判別つかぬ膨大なエネルギーが観測されている。
どことなく“気”に似ていて、それでいて異なるエネルギー。人間というよりも、高位の精霊クラスの存在しか放てないような巨大な力。
事態は非常に逼迫していると言えた。
学園側がとった不審者への対応は、現在動ける人員の中でも最も戦闘能力の高いタカミチが状況確認、場合によっては強制排除。彼一人で対応できないと判断した場合は学園長がそこに後詰めとして出撃。そして他の魔法先生によって第二波第三波への警戒。さらには学園都市外からの同時侵攻も考えられるため、それ相応の戦力を学園結界ぎりぎりの位置へと配備する。
不審者が出現した場所は、生徒達もよく使用する通学路ということもあり、一般生徒の巻き添えなどが出てしまえばいくら後悔しても足りなくなる。
まさに緊急事態。この瞬間、麻帆良中が臨戦体制に入っていた。
“間に合ってくれ……!”
それ故にタカミチは咸卦法を使用してまで全力で急行していたのだが。
だが辿り着いた現場で見た光景は、
白いスーツの男が奏でるジャズミュージックを、楽しげに鑑賞する3-Aの生徒二名の姿だった。
【ブルージィ・マジック&クロス&ホーン】【第一話“H.T”】
“アキラ”と呼ばれた長い黒髪の少女から手を放してやる。
そして、ゆっくりと立ち上がる。
肉体の破損は大したことはないらしい。今のところチャペルから受けた爆撃による負傷と、一瞬の交錯で撃ち込まれた肩への銃創程度。双方ともに致命傷からは程遠く、夜故に目立ちはしない。身体操作に支障を来すようなこともない。
サックスの破損具合もまた、軽微だった。爆撃によって受けた破損は仕切り直しの際に応急処置をしてある。既に問題なく音が出るようになっている。時間のあるときにじっくりと手を加えればよいと判断する。
一瞬のうちにそこまで自らの状況を顧みることが出来たのは、やはりホーンフリークが一流の戦闘者であるが故だろう。
如何なる時も油断せず、如何なる時も自らの力を弁え、如何なる時も敵の力を推測する。
この心構えは奇しくも地球にある“彼を知り己を知れば、百戦して殆うからず”との有名な格言のひとつでもあるが、ホーンフリーク自身は知りもしないだろう。彼に言わせればそんなことは、してみせて当たり前のことなのだから。
そして、現在も自らの戦闘論理に従い、“敵”を測っている。
即ち、目の前の少女二人を。
二人とも運動能力自体は高いようだが、戦闘能力というものがあるとは思えない。つまり、直接の脅威となるわけではない。
だが、彼女等にとって自分は不審者以外の何者でもなく、警戒もしているだろう。アキラと呼ばれた少女のほうは未だ茫然としているが、片割れの方は警戒を解いてはいないようだ。最も、多少の会話をしたことにより安心感のようなものが彼女の呼吸や心音から表れている。どうやら、余程平穏な生活を送ってきていたらしい。
“この分なら憲兵を呼ばれることもないか”
懸念していたのはそういうこと。自分の力を持ってすれば憲兵などはいくらでも排除することは出来るが、見知らぬ土地でいきなり賞金首になるような真似はしたくはなかった。
ここはやはり、このまま彼女たちを丸め込み穏便に別れるという方向がよいのだろう。
二人を情報源に使い、この土地と現状を知るという手もあるが、それはやはりこれからの会話のもっていきかた次第だろう。
ふと、いつの間にか自分を取り戻していたアキラが、ホーンフリークを注視していた。
実際には彼の左手、サックスを見ているようだ。
「あの……その楽器は?」
物珍しさ故だろう。もう一人の少女の方も好奇心に目を輝かせ覗き込んでくる。警戒心はすでにかなり薄れているらしい。
「聴いてみるか?」
「いいんですか?」
アキラの返答には演奏をもって応える。
星空を舞台にした麻帆良の小さなジャズパーティが開催されていた。
“これはまた……どうしたらいいのかな”
こうして、話は冒頭に戻り、タカミチの困惑へと繋がっている。
彼は三人を見下ろせる位置にある樹の上に立ち、油断無くスーツの男を見張っていた。
あそこにいるスーツの男は今まで一度も見たことがない。空間転移の異変が感知された位置からも間違いなくあの男が侵入者の筈だった。
だが、当の侵入者は時折パフォーマンスまで見せて演奏を続けている。大げさではないが、それでも男が見せるとサマになる。そんなパフォーマンスと演奏にいつの間にか心を奪われているような気もする。
男からは微塵も魔力を感じることはなく、演奏が何かの儀式や魔法、催眠術である様子もない。先程観測された膨大なエネルギーと現状が、どう考えても繋がらない。
男が奏でている曲は、どこか陽気で明るく、それでいて悲哀に満ちている。所々に神業のような演奏技術が感じられ、男が一流以上の奏者であることがわかる。
ジャズという音楽自体にあまり詳しいわけではないが、どこか心の揺さぶられる演奏。きっと奏者の人生が浮かんでいるのだろうと、柄にもなくそんなことさえ考えてしまう。
どうすればいいのかわからない。
二人の生徒、明石裕奈と大河内アキラは音楽に合わせて手拍子まで始めている。こんな場面に乱入して無粋に演奏を止めてよいものかどうか。
危険は無い。そう判断しても良さそうな気がする。
演奏が終わり次第、音に誘われて顔を出したという形にすれば、生徒二人も不審には思わないだろう。後は、あの男を学園長室へ連れて行けばいい。
今はただ、この音楽に酔いしれよう。
タカミチは最低限の戦闘態勢を維持したまま、流れゆく演奏に耳を澄ませることとした。
演奏が終わると、感動したような面持ちで拍手を鳴らす二人の少女。
むずがゆい。自分がその気になれば彼女たちの脳髄を一瞬にして揺さぶり尽くすことが可能だというのに。
この様な拍手や視線を受けたのは何年ぶりだろうか。
思い出せない。
酷く、過去が蜃気楼のように遠く遠くへ離れてゆく錯覚を憶える。
すぐに思い出せるのは、血と硝煙。そして闇。
こんな視線を受けたことも、過去にはあったはずなのに。
「すごかったー」
少女の感想。悪くはない。自然と、自分の顔に笑みが浮かんでいる気がする。
「こういう曲はあまり聴かないんですけど……最高でした」
感動か興奮か。上気させた頬で賞賛の言葉を浴びせてくれるアキラ。もう一人の少女も似たような状況だ。
こういうのも、悪くはない。
「演奏、ありがとうございました。ええと……」
「ミッドバレイ。そう呼んでくれ」
今さら、名前すら聞いていないことに気づいたのだろう。僅かに鈍った口調からそう先読みし、名乗る。相手の心理状態を先読みすることは幼い頃から得意だった。なぜなら、相手の呼吸、心音、果ては血脈の流れまで聴き分けることが出来るのだから。
「ミッドバレイさんっていうんだー。外国の人なんだね。私は裕奈、明石裕奈だよ」
「大河内アキラです」
二人の少女が名乗る。どこか、独特で共通した響きをもった名前だった。外来の人間が珍しいと言うことは、単一民族によるコミュニティなのかも知れない。そもそも、“都市”ではなく“国”という言い方を裕奈はした。それほど多くの人間が生きているのだろうか。
「ミッドバレイさんは何で麻帆良に? お仕事ですか? そもそもどうして倒れていたのか……」
ようやく、当然の疑問をアキラは口にする。自己紹介すら後回しにされていた現状、緊張と警戒が解け好奇心が湧き上がってきたというわけだろう。
「彼は学園の方で招いた音楽家だよ」
都合の良い言い訳はないかと思考している所、一人の男が歩み寄りながら口を挟んでくる。先程から樹の上で様子を窺っていた男だろう。
この助け船は意外だった。精々、奇襲を仕掛けてくるか誰かを呼びにいくかと思っていたのだが。
「高畑先生!?」
裕奈が大げさに驚いているようだ。無理もない。男は足音すら立てずにすぐ傍まで忍び寄っていたのだから。
「見つかって良かった。到着が遅くて心配していたんだ。招いたのはいいけど何かあったんじゃないかなって。二人とも、彼は僕が連れて行くから、もう寮に戻りなさい」
優しげだが、厳しさをも彷彿とさせる横顔。無駄のない歩法。効率の良い呼吸法。それだけで、目の前の男が自分に匹敵するほどの戦闘能力の持ち主だと気づかされる。
警戒。警戒。警戒。
少女達から不自然に見えぬように目を瞑り、聴覚へと神経を集中させる。呼吸を聴き、鼓動を聴き、脳を流れるパルスすらも聴き分けているかのような錯覚。いつでも、サックスを構えられるように筋肉を弛緩させる。
タカハタと呼ばれた男もこちらの戦闘姿勢に気づいたのだろう。だが、警戒はして見せても戦意を見せない。よもや先程の演奏でこちらに害意がないとでも判断したのだろうか。
なんて、甘い。
「わかりました、高畑先生。もう戻りますね」
「ミッドバレイさん、またねー」
アキラが控えめにこちらに頭を下げ、裕奈は大げさに手を振って背を向ける。
二人が去ると、後には静寂と、もう一つのものだけが残った。
タカハタと呼ばれた男。
“GUNG-HO-GUNS(ガンホーガンズ)”にすら匹敵しかねない男。
「さて、君の事情を聞きたいんだけど、一緒についてきてもらって構わないかな?」
油断は出来ない。だが、断って敵対するよりも、男がこちらを好意的に見ている内に懐に入った方がいい。
そう判断した。
それが、麻帆良学園へと辿り着いたミッドバレイ・ザ・ホーンフリークの、一日目の夜の出来事だった。
巨大な十字架を構えた男。
十字架の先端からは明らかに機関銃のような銃口が見えている。
気配は傷ついた獣のように殺気立ち、その貌には凶悪な殺意が滲み出ている。
そんな獣のような男は、しかしそれでも尚、誰かを巻き込むことをよしとしないらしい。
半ば混乱の中に陥りながらも、天ヶ崎千草はそこまで思考していた。
物騒だと思った。
表の世界では明らかに見ないような凶悪な殺人鬼。しかし、恐らくはプロフェッショナルの意識も持ち合わせている男。
物騒だと、思った。
雲もない夜に響いた落雷に、風情を感じて出歩いてみればこの様な奇妙な邂逅が待っている。
そもそも、雲一つない夜の落雷に感じるのは、風情ではなく疑問でなくてはいけなかったのかも知れない。混乱した理性の奥の、どこか冷たすぎるほどに冷静な部分がそう指摘する。
物騒だと。思った。
しかし、それ以上に、冷たすぎるほど冷静な理性が“使える”と、判断を下した。
天ヶ崎千草はその判断に従い、黒服の男、ニコラス・D・ウルフウッドに歩み寄っていた。
後書き
の、ノリが重い……。もっとほのぼのしておきたかったのに……。
後悔はしません。えぇ、しませんとも!
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