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第二話“BLUE FUNK” 投稿者:SKY 投稿日:09/25-05:55 No.1344
「ねえアキラ」
寮へ戻る途中、不思議に思ったことを口にする。
「ミッドバレイさん。ここはどこかって訊いてたよね?」
そう、それが思い浮かんだ疑問。
高畑先生は学園で呼んだ音楽家だと言っていたのに。
それが本当なら、ミッドバレイさんがここが麻帆良であることを知らないはずがない。だから、高畑先生の言っていることが嘘だということになってしまう。
「そうだったかな。ごめん、あんまり憶えてなくて」
む、確かにあの時アキラはそれどころじゃなかったかもしれない。なんていうかいっぱいいっぱいだったような気が。
「あー、アキラ真っ赤だったもんねー。凄く照れてたみたいだし。もしかして一目惚れ?」
「そんなんじゃないったら」
今も少し顔を赤くして否定するアキラ。
やっぱりアヤシイ。
アキラは大人びた雰囲気と背の高さのおかげか、ああやって男の人に髪を撫でられるなんて経験はなかったんだと思う。いつも、一歩離れた場所で優しく見守っている感じだから。
だからミッドバレイさんみたいなちょっと格好いい人にあんなことされちゃうと、一発でお陀仏なんじゃないかなーって思ったりするんだけど。
「そんな真っ赤な顔してたって説得力ないよー?」
「もう……ゆーななんて知らない!」
拗ねてしまったのかどんどん先に行ってしまうアキラ。
「ごめんごめん、待ってよー」
からかうのはこれくらいにしておこう。
高畑先生の嘘も気にはなるけど、まあいいかなって思えてくる。
今夜の素敵な出会いのおかげできっと、しばらくはアキラとの話題に困らないだろう。
それに、また会える。なぜか、そう思える。
そう思えたから、最後に“またね”って言ったんだから。
【ブルージィ・マジック&クロス&ホーン】【第二話“BLUE FUNK”】
「そういえば、自己紹介がまだだったね」
隣を歩く男に話しかける。
隙がない。
先程の演奏。彼の表情。生徒二人への対応などから、そこまで警戒することはないとタカミチは判断したのだが……。
歩き出してからも、彼は戦闘態勢を解いていないらしい。彼の全神経が僕に集中していることが感じられる。
それだけで、この男がどのような人生を送っているのか察することが出来た。
「僕は高畑・T・タカミチ。ここ、麻帆良学園の教師をしているんだ」
教師という言葉に彼が軽く反応する。
「教師? お前のような“モノ”が人を育てられるのか?」
返された言葉はあまりにも鋭く心を射抜く。一瞬だが、呼吸すらも止まってしまう。
確かに、タカミチの一部分にはその様な暗い陰もあった。だが、それを自らの本質だとはタカミチ自体は思っていない。
自らの手は血に染まれど、その血は護るために振るわれた拳によってついたものなのだから。
「ひどいね。けっこう傷つくよ。それ」
「悪かった」
なるべく動揺を表に出さないように苦笑する。しかし上手く取り繕えた自信はタカミチにはない。
「俺はミッドバレイ……。ミッドバレイ・ザ・ホーンフリークだ」
「ホーンフリーク……。角笛嗜好者ってところかい?」
「通り名さ」
なるほど。まさに、名は体を表すという言葉通り。
彼自身が名乗り始めたわけではないのだろう。その仇名はあまりにも見た目に連接しすぎている。大抵の場合、このような仇名は畏れを抱く第三者が名付けるものだ。タカミチ自身も“デスメガネ”なる不名誉な名を戴いているように。
舎内に入り、廊下を歩く。
それでもやはり、隙がない。
けして前に出て背を晒そうとはせず、不用意にこちらの背後につこうともしない。
弱みを見せず、弱みを握らず。
弱みを見せないのは恐らく今までの人生故に。
彼自身の人生が戦闘だけではなく、裏切りや不意打ちなどにも満ちていたことが推測できる。
弱みを握らないのは恐らく今現在の判断故に。
余計な波風を起こせば即座に戦闘に移行せざるを得ない。二人に漂う緊張感はふとしたことで臨界を突破しかねない。
波風を起こさないのは彼自身がこちらと敵対したくはないとの意思表示なのだろう。
悪くはない傾向だった。
“会話が続かないのはちょっと問題だけどね”
こんなにフレンドリーに話しかけているのだから、もう少しこうなんというか警戒を解いてくれてもいいだろうに。
そんな考えが浮かびながらも、どこか別の思考が違う意見を出す。
きっと、この男、ミッドバレイ・ザ・ホーンフリークはどんな相手にも気を許すことはないのだろうと。
常に武器を手に、全てを恐れ、薙ぎ倒しながら生きてゆく。
そんな眼をした人間は今まで何人も会ってきた。どれも、血生臭い戦場でのこと。
生きるために戦うのか、戦うために生きるのか。そんな区別もつかなくなってしまった人種。彼等とホーンフリークは同じ眼をしていた。
けど。
先程の演奏が終わり、生徒二人の喝采を浴びていたとき、少なくとも彼は安らぎを得ていたのではないだろうか。
タカミチにはあの表情が忘れられない。そう、あの表情はまるで神楽坂明日菜やネギ・スプリングフィールドと共にいるときの自分のような……。
目の前の男と自分とは本質的に似ているのかもしれない。
そんなことさえ考え始めていた。
近衛近右衛門。
表では麻帆良学園の学園長であり、裏では関東魔法協会の理事長という二つの顔を持つ老人である。
不審者の侵入から三十分近く経つ。しかし未だ、麻帆良学園の警戒態勢は解かれていなかった。
不審者の発生と同時に観測された膨大な力。その力が指向性をもって放たれれば、麻帆良自体が消滅しかねないまでの。
学園中に戦慄が走った。この力が敵対勢力の魔法使いのものだとすると、ここ数年なかった危機が麻帆良を襲っていることとなる。
だが、その程度で馬脚を現すほど近右衛門は無能な男ではなかった。即座に学園中の戦力へと緊急事態の通達をする。もっとも、あの様な力が観測されたのだ。魔法に関わる者ならば誰もが異常事態に気づいていたかもしれないが。
あらゆる対策を打った後、近年まともに使用していなかった愛用の魔法発動体を手にした近右衛門。最も信頼できる戦力である男に先行偵察を任せ、必殺を誓い自らを高めることに集中する。
胸に抱くは大切な者。大切な孫に大切な生徒。談笑し合う教員達。思い出せる限りの人々をその胸中に刻む。彼にとっては麻帆良にいる全ての者達が愛すべき子供達。この身命賭しても護らねばなるまいと今ここで新たに誓い直す。
例えこの身、修羅と成りても護り抜くと。
戦の前の儀式を終える。自らの使命の重大さは胸に刻み込んだ。
後は、研ぎ澄ます。
脳裏を奔るはラテン語の呪文。口に出さずとも、精神の集中という意味ではこの上なく役に立つ。無論、魔法としての効果はないが、その人並み外れた集中力は彼の力をまるで剃刀のように細く鋭く研ぎ澄ませてゆく。
関東魔法協会随一と謳われた大魔法使いは、久方ぶりにその圧倒的な力を鞘から抜き放とうとしていた。
『学園長』
念話。
待ちに待った、戦力としてもっとも信頼している男からの連絡。
立ち上がり、窓の前へと立つ。溢れんばかりの魔力を放ち、いざ出陣へ。
『侵入者の件ですが、恐らくもう大丈夫だと思います』
「ホ……?」
窓を開け放ち、宙に浮き、今にも音速すら超えて飛び立とうとしていた近右衛門は、そんな自分の姿があまりにも間抜けではないかと考えざるを得なかった。
“久しぶりのシリアスだったんじゃがのー”
近衛近右衛門。冷や汗を垂らし、力無く床に座り込んだ姿からはとても想像できないが、こう見えても関東魔法協会随一と謳われる大魔法使いである。
「さて、ここだよ」
タカミチに案内された部屋の前。“向こう”では、一部の大金持ちぐらいしか住むことの出来ないような、瀟洒な造りだった。
ここに、タカミチの上役がいるらしい。
一切の油断は出来ない。
扉の前で“聴き”とることに集中する。
中にいるのは一名。呼吸が遅い。心拍数も常人に比べかなり少ない。強靱な心肺機能を持っていることからやはり戦闘者であることが窺える。
肌の皺、長い髭などから老人であることがわかる。しかし、それが相手を甘く見る原因になど出来はしない。部屋の前に立った途端、老人の意識がこちらへ集中していることが判別できたために。
「学園長。入ります」
ノックをせずにタカミチがドアを開ける。タカミチも知っていたのだろう。中の人物が来訪者に気づいていたことを。
タカミチと共に部屋に。センスの良い調度品。執務机の向こうに学園長と呼ばれた老人がいた。
ただ者ではない。
目を合わせた瞬間にわかる、強力な戦闘者としての気配。恐らく、あの老人がその気になればホーンフリークはこの瞬間にも殺されるであろうことを悟る。この部屋は、老人の間合いだ。
だが、それもお互い様。老人の間合いであると同時にこの距離はホーンフリークの間合いでもある。この時点で五分と五分。ならば、呼吸どころか心拍数まで聴き分けることのできるホーンフリークに、今の時点では分があるだろう。タカミチが隣に立っていなければの話だが。
「さて、ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク君といったかのう。ワシは近衛近右衛門。ここ、麻帆良学園の学園長をしている者じゃ」
こちらの警戒はどこ吹く風で、飄々と好々爺然とした態度で名乗る老人。
未だ、この老人に対して名乗ってもいなかったのに名を知られているということは、タカミチが何らかの連絡を取っていたのだろうと推測する。
「早速で悪いんじゃが、ホーンフリーク君。君は何故、麻帆良に侵入してきたのかな?」
眼に、光が宿る。
強烈な意志の光。心得のない者が直視すれば気絶しかねない様な。
しかし、大したことはない。ホーンフリークは心底そう思う。
この老人の威圧感は、“アレ”には遠く及ばない。比べることすら烏滸がましい。
如何に、どのような強力な戦闘者でも、“星”すらも切り裂きかねない存在の前では塵に等しい。
「侵入……ね」
確かに、侵入といえるのだろう。推測に過ぎないが、プラントの力を使ったワープドライブによって、不意にこの土地に出現したのだから。
この土地がもし、老人やタカミチなどが織りなす組織の拠点だったとしたら。彼等の態度も判らなくはない。
裕奈やアキラといった明らかな一般人がいることから考えれば、拠点ではなく街なのかもしれない。老人やタカミチは憲兵のようなものだと考えればあまり違和感もない。
「偶然、の様なものだ」
偶然でしかないだろう。
あの光に巻き込まれ、こんな場所に飛ばされたことは。まして、生き延びていたことも。
全ては神か悪魔の悪戯に過ぎない。あと少し天秤が破滅へと傾けば、ホーンフリークは微塵も残さず消滅していたはずだ。それこそ、“ロスト・ジュライ”のように。
「信じられないかもしれないが、交戦中に“敵”の力に巻き込まれた。そして、気がついたらあの場所にいたというわけだ。簡単な話さ」
交戦。敵。明らかに一般とはかけ離れた言葉を混ぜる。構わないだろう。老人もタカミチも、恐らくは人間離れした戦闘者なのだから。
「なるほどのう」
今の説明で納得したとはとても思えないが、それでも吟味をする気にはなったのか。老人はフムフムと幾度か頷きながら思考している。
「つまり君は、“敵”の“魔法使い”と戦闘中、相手の使う強制転移魔法でここまで飛ばされた……。というわけじゃな?」
「は……?」
「そんな……馬鹿なことあるかい……」
ニコラス・D・ウルフウッドが天ヶ崎千草との会話で得ることが出来た最終的な感情は、絶望という二文字だった。
あの邂逅の後、千草に連れられ身を隠したウルフウッドは、周囲の風景が光に呑み込まれる前とあまりにも違うことに気づく。
視力が回復してゆくにつれ、彼の焦りは深まっていった。ここは断じて、龍津城ではない。
そして、ついに聞きたくなかった結論。
「ここが……、この星が“地球(ホーム)”やと言うんか……」
それは、絶望の名前だった。
“明日へつながる希望をくれ……”
そう、神へ祈ったことがあった。先が行き止まりでしかない星を脱出し、“皆”で生き延びられる希望を。
ここに居れば生き延びられる。それは残酷すぎる現実だった。
その中でも彼の心を最も強く貫いた現実は、“水”だった。
千草に案内された公園には、水道が設置されていた。蛇口を捻るだけで無尽に溢れ続ける水。彼一人にはとても飲み干せない貴重な貴重な水は、喉を通るたびに心を絶望で満たしてゆく。あの星では、一滴の水を飲むために100人を殺す人間すら出てくるのに。
ここに居れば生き延びられる。
しかし、自分一人が生存できる権利を得たところで、ニコラス・D・ウルフウッドという人間には何の意味もない。
彼が本当に生きていて欲しかった人々は、この地球ではなく、未だあの砂の星にいるのだから。
後書き
何か随分と地味で展開遅い気がしますが、次の話辺りからネギ明日菜エヴァ等の主要キャラが登場予定です。そこからはペースも何とか上がっていく……筈です。
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