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第三話“Carot & Stick” 投稿者:SKY 投稿日:09/26-12:49 No.1353  



“もしかして、魔法関係者じゃなかったのかな……”

 タカミチの額からは脂汗。魔力こそはほとんど感じないものの、その在り方、実力、出現方法、そして彼が話した敵の力という言葉。それによりタカミチはホーンフリークが魔法関係者だと判断していたのだ。恐らく、学園長もそうだろう。

 だが。

「魔法、だと?」

 これはまずいんじゃないんですか? 学園長。
 心の中でそう呟く。見ればあの妙に長い頭部からも脂汗が流れている。

 一般人相手ならば記憶を消せば構わないのだが、ホーンフリークほどの実力者から記憶を消すなどという行為がどれほどの重労働か。まさしく、命懸けの戦いをする羽目になってしまうだろう。せっかく平和的に話し合いで解決できると思っていたのに。

「あー、もしかしてホーンフリーク君は……、魔法使いや魔法使いの従者だったり、しないのかの……?」

 学園長。声、震えてますよ?







【ブルージィ・マジック&クロス&ホーン】【第二話“Carot & Stick”】







「つまり、お前達は“魔法使い”で、ここはその“魔法使い”達の拠点の一つ、というわけか」

 結局、学園長の失言により自分たちのことを説明するしかなかったタカミチはひどく疲れた顔で苦笑する。

「そういうことだよ。まあ、君も明らかに一般人じゃないようだし、誰かに喋ったりはしないでくれるかな」

 念押し。パフォーマンスとして、ポケットに入れた拳に力を込める。並大抵の者ではこの行為に気づかないが、ホーンフリークには恐らく伝わるだろう。彼はこちらのありとあらゆる動きを注視している。そんな気がする。

「わかった」

 拳から力を抜く。同時に、ホーンフリークの右腕から僅かに力が抜けたことが理解できた。まったく、感づいているとは思っていたけど、その生き方は疲れないのかな。
 しかし、そうなると彼はどうやってここに転移してきたのだろうか。その問題が残ってしまう。彼が魔法関係者だったのならば、8割方解決されていたはずの問題が。

「ではホーンフリーク君。訊きたいのじゃが、君は一体どんな“力”に巻き込まれてここに飛ばされたのかのう」

 やはり、それだけは聞いておかなければならないだろう。彼がここに転移してきた時に観測された絶対的な“力”。その“力”が我々に振るわれないという保証はどこにもないのだから。
 だが、学園長の言葉に対し、ホーンフリークは口を噤んだままだ。答える気がないということなのだろうか。
 しかし、不意にその身体が異常なまでに緊張してゆくことに気付く。
 これは、解る。自分では決して届かない者に対する、恐怖という絶対的な感情。ホーンフリークの精神は、恐怖に震えている。

「恐らく……プラントだ」

 少しは平静を取り戻したのだろう。静かに彼は呟く。あまり聞き慣れない単語を。
 プラントと聞けば思い浮かぶ物は何かの植物か、生産工場か。しかし、そんな物に対して彼ほどの者が恐怖を感じるはずはない。

「やはり、プラントがわからない、か」

 こちらの疑問が伝わったのか、溜め息をつくようにホーンフリークが呟く。
 そして、何やら決心をしたような面持ちで、口を開いた。

「一つ聞こう。この星は……。現在我々が立っている星はなんて名前だ?」

 予想外の質問には答えようがなかった。








 数十分にも及ぶ会話を終え、ホーンフリークは夜空を見上げていた。
 夜だというのに妙に明るい。あの星では夜は深淵の底のように暗く、圧し潰されそうな威圧感を持って迫ってくるものだった。
 ふと、あの夜を思い出す。

“闇に底があるとしたら、きっとこんな所なんだろう”

 そう言ったのはガントレット。はたしてあいつは無事だろうか。
 あの光に一番近かったのはガントレットだったはずだ。ホーンフリークは数多の偶然が重なりこんな場所に飛ばされたが、あいつもまたどこかに飛ばされているのだろうか。
 血も涙もない。ホーンフリークは自分のことをそう評価していた。
 しかし、それでも情のようなものはある。あの時自分は、ガントレットに対して確かに友愛のようなものを感じていたはずだった。

「ここが、ホーム。か……」

 ホーム。
 あの砂の星の人間が、いつか帰ることが叶うようにと名付けた、“地球”の愛称。
 しかし、辿り着いてみれば大した感慨のようものはない。何処にいても同じ。血と硝煙の世界でしか自分は生きられないと知っている。

 だが、、近右衛門は言った。ここ、麻帆良学園で音楽教師として働いてみないか? と。

 質の悪い冗談にしか思えなかった。タカミチに言ったあの言葉がそのまま自分にも当てはまる。自分のような者が人を育てられるのかと。
 しかし、近右衛門の返答はにべもない。

『大丈夫じゃろう。きっと君にもできるはずじゃ。それに、“未来”……しかも“違う星”から来たというホーンフリーク君から、ワシが目を離すわけにはいかないという理由もあるのじゃからのう。どうにかやってもらえんか?』

 監視という目的があり、なおかつこちらの正体をカモフラージュするための日常を用意する。確かに、悪くはない手なのかもしれない。
 こちらでの戸籍、職業を持たない自分では、基本的に裏の仕事に就くことぐらいしか出来なかっただろう。しかし、コネもなくその様な仕事に就くのは危険だった。どの世界にもルールという物がある。それを知らず守らずただ縄張りを荒らすだけの厄種になるつもりはなかった。基本的にその様なイレギュラーは周り全てから追い立てられ排除されてゆくのだから。

 近右衛門から出された条件は大まかに分類すると二つ。音楽教師として特定のクラスを担当することが一つ。二つ目は有事の際に戦力として働くこと。
 一つ目の条件には辟易するしかないが、二つ目に関してはむしろ望むところだった。
 常に生と死の狭間を身に感じていないと、精神が鈍る。平和と安寧だけの生活は求めていない。逃れられない死はごめんだが、さりとて完全なる安全の元では生きられない。我ながら難儀な性質をしているとホーンフリークは思う。

 現在ホーンフリークは夜の学園を散策している。少なくとも今日の寝床となる場所が用意できるまで時間を潰して欲しいとのこと。寝床の都合がついたら渡された携帯電話に連絡が入るらしい。こんな物でもあの星ではロストテクノロジーだったと、タカミチに対し皮肉を洩らしたのは愛嬌だった。どうやらあの男は嫌いなタイプではないらしい。決して油断は出来ないのだが。

 空を見上げる。
 数多の星の輝きが見える。あまりにも遠く、決して手など届かない。

 それを見て、ついに、逃げ切ることが出来たのだと理解した。

 感動はなかった。感傷もなかった。ただ、事実を淡々と受け入れる冷えた心だけがあった。
 “アレ”から逃げ出したくなるのは当然だった。生物として当然の行動。当たり前だ。自分の“種族”を根絶やしにしたいほど憎んでいる圧倒的な存在があったら、逃げることしか出来はしない。存在としての次元が違うのだから。

 ホーンフリークが戦っていた“敵”とは何なのか? とのタカミチの問いに対し、答えた言葉を思い出す。

『人間以上の知能を持ち、人間全体をこの上なく憎んでいるプルトニウムを想像すれば大体は間違っていない。ただし、爆発の規模は核ミサイルよりずっとハードだ。星すらも吹き飛びかねないほどに、な』

 どんな人間だって、そんな危険なモノの傍にいたいなどと思わないだろう?

 皮肉をまじえて放った言葉に真実を嗅ぎ取ったのか、彼等二人は絶句していた。
 想像すらつかないからなのか、想像できてしまったからなのかはさすがにわからなかった。

“そろそろ、頃合いか”

 あの部屋に戻るために歩き出す。
 無性に、バーボンが飲みたくなってくる。“GRIFTER”。愛飲していたあの酒をストレートで呷るのは、もう二度と出来ないのだろう。そんな他愛もないことを考えていたとき、



 夜を切り裂く悲鳴が聞こえた。







「今日はやめておいた方がいいと思われますが、マスター」

 絡繰茶々丸は己の主である少女と共に行動していた。
 行動。両腕で少女を支え、噴出する炎が生み出す推進力で空を飛ぶ。常人には不可能な奇跡でさえも、茶々丸にとってはただの日常とかわりがない。

 問題は、何のために飛行しているかということ。

 茶々丸の主、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。その少女は真祖と呼ばれる強力無比な吸血鬼だった。人よりも永く、老いもせず、生き続けることが出来る存在。その中でも少女は屈指の力を持っていた。裏の世界で600万ドルもの賞金をかけられるほどに。

「それはできん。せっかくの満月の夜を無駄に過ごすわけにはいかんのだからな」

 鈴のような声とは不釣り合いな、傲慢ともとれる口調。しかし、それは妙に少女に合っている。

「しかし、あれほどの緊急事態の後です。確かに、事態は収束されたらしく先程までの警戒は解かれましたが……、やはり思いとどまった方が」

「くどい。もし魔法職員に見つかったとしても、撃退すればいいだけのことだ。職員が複数なら撤退すればいい。どのみちジジイにはもうバレている頃だろうからな」

 確かに、学園長は平凡な人物ではない。既に彼女等主従の行動は察知していると思うべきだろう。そして如何に魔法職員といっても、茶々丸とエヴァンジェリンの二人がかりで攻めれば勝機はある。むしろ、勝算の方が高いほどだ。

 しかし現在、エヴァンジェリンはその力の大半を封印されている状態。その状態で戦闘になど及べば、今まで満月の夜にこつこつと補充してきた魔力を消費してしまうこととなる。そのことに関してはエヴァンジェリンも解っているのだろうが……。

「あれは……」

 主が目標を発見する。麻帆良学園の制服に身を包んだ十代の少女。彼女の血から魔力を摂取することが、今日の目的。

「27番、宮崎のどか、か」

 なかなかに魔力が高い。そんな呟きが聞こえる。
 エヴァンジェリンの行為を止めるつもりは茶々丸にはない。しかし、茶々丸にも譲れない一線はあった。

「……マスター、あの」

「分かっている、茶々丸。殺しはしないさ」

 この辺りの問答は慣れたもの。今までに幾度となく繰り返してきた故に。
 礼を述べる茶々丸を背に、エヴァンジェリンが降りてゆく。
 天使のような吸血鬼が空より舞い降りる夜は、まるでおとぎ話に出てくる夜だった。







 悲鳴。
 あまり遠くはない。声の質から変声期前後の十代の少女と分かる。
 ホーンフリークは自らの知覚領域を広げる。居た。およそ200mほど先で、幼女が少女を襲っている。だが、ホーンフリークが瞠目したのはその異常事態ではなく、事態を上空で見守っている人型の存在だった。
 機械。
 心臓の鼓動も呼吸音もなく、代わりに電子回路と動力が僅かな音を立てている。
 あの星ではあれほどの出来の機械は見たことがなかった。あれはロストテクノロジーの塊と言ってもいい。少し、興味が沸いた。

 幼女の行動を止めるつもりはなかった。自分にはそんな権利はない。もっとも、この学園で働く羽目になった現在では、止める義務が発生している可能性はあったが。

 現場に向けて歩き出す。
 程なくして、空飛ぶ機械人形が幼女に注意を促す。男が一人近づいていると。
 随分と夜目が利くものだと、何の意味もないことを思う。
 機械人形は幼女に“チャチャマル”と呼ばれていた。マスターと呼び返したことから、チャチャマルは幼女の従者らしい。
 明らかに戦闘用の機械人形。幼女の方もそれなりに使えるようだった。むしろ、幼女に関してはどこか違和感がある。普通の人体が立てる音とはどことなく違う音が、彼女からは聞こえてくる。

“さて、どうなることか”

 愛用のサクソフォンを左腕に携え、ホーンフリークは彼女たちに接近していた。







 茶々丸の警告に従い、接近してくる人物を注視する。
 白いスーツを身に纏い、早くもなく遅くもない速度で歩いてくる男。
 スーツは所々に鉤裂きや血の跡が見られ、なぜか左手にはサックスを抱えている。
 だが、エヴァンジェリンが男に驚愕を感じた最たる理由は、スーツの傷でも血の跡でもサックスでもなく、男の放つ微かだが異常な気配だった。

 人殺し。

 すぐにわかった。あの男は人殺しだと。それも、自分のように立ちはだかった者達を相手にしてきた気配ではなく、女も赤子も老人も、弱者も強者も無関係な者ですら殺してきた。そんな気配。
 すでにそれは気配というレベルではなく、怨念といってもよいレベルまで昇華されていた。
 その怨念は誰にでもわかるように漏れているわけではなかった。恐らく自らを一般人へと偽装することにより、その気配を見事に隠蔽している。羊の皮を被った狼のような男。
 常人ならば感じ取れまい。高位の魔法使いでさえ、今の男を一目で見て判別できるかどうかは疑わしい。
 しかし、吸血鬼。真祖としての感覚と、悠久の時の流れを過ごしてきた人生が、あの男が身に纏う怨念を的確に感じ取っていた。

「そこで止まれ!」

 距離は20m。得体の知れない殺人鬼に、これ以上接近させるつもりはなかった。
 茶々丸がエヴァンジェリンを守るかのように前に立つ。ミニステル・マギ、魔法使いの従者。契約に従い、エヴァンジェリンと共に戦う者。

「貴様は、なんだ」

 エヴァンジェリンが男に問う。殺意と警戒の入り交じった視線。気の弱い者ならばそれだけで卒倒しそうな視線だった。

「なんだと言われても困るな」

 淡々と、平静に答える男。緊張をしているそぶりすらない。

「強いて言うのなら、音楽教師……か? もっとも、成り立てだが」

「あなたのデータと一致する教員は、記録上存在していません」

 茶々丸が男の言葉を否定する。茶々丸には男の纏う怨念が理解できていない。だが、エヴァンジェリンがこれほどまで警戒する相手がマトモであるはずがない。あらゆる方法で男の分析を続けている。身長体重などの身体データから、心拍数や血圧、さらには持病の有無まで見抜かんと、男をスキャンしてゆく。

「言っただろう、成り立てだと。恐らくまだその辺りの処理もできていないんだろうさ」

「貴様……まさか先程の……」

 エヴァンジェリンには心当たりがあった。空間転移による侵入者。圧倒的な力が観測されたために、封印状態の彼女は後方支援へとまわされたが……。もしも、あの侵入者がこの男だったとすれば……。

「まったく、ジジイの道楽にも困ったものだな……」

「同感だ」

 溜め息と共に呟いた言葉に、同意を示す男。まさか、賛同されるとは思わなかった。出会う状況さえ違えば気が合ったかもしれない。そんなことを思う。

「さて、どうしようか」

 男の言葉。何を今さら。我ら主従は既に決戦を覚悟しているというのに。

 そして、お互いの言葉が止む。
 エヴァンジェリンと茶々丸の放つ敵意は臨界を迎え、悠長に言葉を紡ぐ時間は終わりを告げる。
 後は、互いの牙を突き立て合うのみ。
 男からは敵意や殺意は出ていない。だが、男の肉体は弛緩しながら緊張するという矛盾を果たしている。必要な部分だけの緊張、残りは弛緩。戦場でリラックスをするなどという非常識な行為を見れば、男の実戦経験の豊富さが目に見えてくる。
 それは、明らかな戦闘体勢だった。

 両者に戦闘を避けるつもりがなければ、もう衝突を避けられない。



「待てーーーーー!」



 身の丈を超える杖に乗った少年が、この場に乱入して来なければ。










後書き
 ネギも明日菜もほとんどだせませんでした……(汗

ブルージィ・マジック&クロス&ホーン 第四話“YELLOW ALERT”

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