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第四話“YELLOW ALERT” 投稿者:SKY 投稿日:09/28-03:20 No.1359
「ラス・テル マ・スキル マギステル。風の精霊11人。縛鎖となって敵を捕まえろ」
ネギ・スプリングフィールドは悲鳴が聞こえた現場へと、文字通り空を飛ぶ速度で急行していた。
そこに確認できたのは4人の人影。そのうち一人、自分の受け持つ生徒である宮崎のどかを、さらに小柄な黒衣の人物が乱暴に抱えているのが目に入る。
その瞬間、理性は沸騰していた。
「僕の生徒に何をするんですかー!! 魔法の射手。戒めの風矢!!(サギタ・マギカ アエール・カプトゥーラエ!!)」
11本の魔法の矢。文字通り風の速度で解き放たれ、目標を縛る戒めの矢。
相手は確実に自分に気付いていなかった。奇襲を仕掛けるのは心が痛むが、人質を持つ相手を行動不能にするための最良のタイミングは今しかなかった。
最高のタイミングを制した。命中を確信する。これで後は、のどかを除いた二人。
しかしその目算は、
「氷盾(レフレクシオー)!」
黒衣の人物が唱えた一言によって、驚愕と共に潰えざるをえなかった。
【ブルージィ・マジック&クロス&ホーン】【第四話“YELLOW ALERT”】
“あれが、魔法か”
初めて目にした魔法という奇跡は、しかしホーンフリークには落胆しかもたらさなかった。
確かに、発射された10本余りの飛び道具は脅威だっただろう。しかし、それだけだ。
あれほど長い呪文を唱えている時間があれば、自分はいくらでも相手を殺すことが出来る。結局、銃弾が一発あれば魔法使いには勝てるということか。実に、つまらない結論だった。
“興が削がれたな”
金髪の少女と機械人形。恐らく魔法使いとそれを守る前衛のコンビ。二人を相手取ることができれば、今後魔法使いと戦う羽目になったときの行動指針を得ることが出来るかと思っていたのだが。
確かに、魔法の矢も魔法の盾もなかなかの代物だった。だが、矢は発動までに時間がかかりすぎ、盾についてもフラスコを投げ放ち呪文を口にするなどという、2動作も必要な代物だった。単純なクイックドロウの前に敗北するとしか思えない。その僅かな時間を前衛がカバーするのかもしれないが、ホーンフリークの攻撃ならば前衛もろとも吹き飛ばすことも出来る。正直、この距離では負ける気がしない。
「驚いたぞ。すさまじい魔力だな」
盾で防いだ小柄な魔法使いは、不敵な笑みで少年に話しかける。
なるほど。その間は人形がこちらを警戒しているわけか。
戦い慣れたコンビなのだろう。
「え!? き、君はウチのクラスの……エヴァンジェリンさん!?」
エヴァンジェリン。それが少女の名前か。自信に満ちた口調。
実戦経験もかなり積んでいるのだろう。機械人形との連携にはどこにもぎこちなさはなく、行動一つ一つに迷いも見られない。
「10歳にしてこの力、さすがに奴の息子だけはある」
感心したように笑うエヴァンジェリン。だが、そのセリフに少年は明らかな狼狽を見せていた。
「何者なんですかあなたはっ。僕と同じ魔法使いなのになぜこんなことを!!」
少年の叫び。まだ幼いが故に悪というものを認められない潔癖さがその中には込められている。
「そうだな。そこの得体の知れない音楽教師もいることだし、改めてご挨拶と行こうか。ネギ・スプリングフィールド先生」
ネギ・スプリングフィールド。最後の先生という呼称が気にはなるが、それは大した問題ではなかった。少年の実力はエヴァンジェリン達の足元にも及ばないだろう。初めの奇襲は大したものだが、それ以降が続いていない。先手を取ったのならばそのままねじ伏せるか、相手が立ち直る前に撤退することが鉄則。数で優る相手の前にそのまま留まるなどというのは自殺行為でしかなかった。
「私の名はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。最強無敵の悪の魔法使いだ!」
その言葉が耳に入った瞬間、ホーンフリークは乾いた笑いが漏れることを防ぐことが出来なかった。
「最強無敵とは、また大きくでたものだな」
失笑。目の前の存在からはまったく恐怖を感じない。きっと知らないのだろう。本当に“最強”や“無敵”などの名を冠するに相応しい存在を。
“アレ”に比べれば目の前の少女など道化でしかなかった。確かに少女は戦いの妙を知っている。その動作は研ぎ澄まされ、魔法だけではなくかなりの体術も使うことも推測できる。
しかしそれでもホーンフリークにとっては、“脅威”ではあるが“恐怖”の対象ではなかった。
「なにがおかしい? 音楽教師」
凍りつくような視線がホーンフリークを突き刺す。なかなかの殺気だが……。
「別に……」
ドン。
そんな音が夜空に響いた。
「こんなものも躱せない存在が、無敵を名乗るなど滑稽な喜劇でしかない。そう、思っただけさ」
皮肉と微笑。
気付けば、エヴァンジェリンの頬には一筋の赤い線が走っていた。
見れば、ホーンフリークの右腕は彼女に向け真っ直ぐに伸ばされ、その手には無骨な鋼の凶器が握られている。
45口径オートマチックハンドガン。即ち、先程の音は銃声だったということ。
誰も、反応できなかった。
ネギも、エヴァンジェリンも、そして、本来ならば身を挺して主を守らねばならない茶々丸さえも。
懐に手を入れ、取り出し、狙いを定め、引き金を引く。最低でも4動作は必要な行為だったにも関わらず。
闇の福音とまで呼ばれたエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルが頬を掠る銃弾に全く反応できなかったという事実。
「キサマァアアア!」
明らかな挑発。激昂する。あの男は闇の福音を侮辱した。たかだか人間の殺人鬼風情が、地獄への片道切符を最も容易い方法で買い取ったのだ。確実に、殺す。
エヴァンジェリンはのどかをネギの方へ投げ放つと、そのまま高く前方へ跳躍する。同時に茶々丸が異様な前傾姿勢で文字通り地を這いながらホーンフリークに突撃。
最早遠慮は何処にもない。エヴァンジェリンは自らを侮辱した相手に迷いなど抱かない。常に誰かの死を嫌う茶々丸でさえも、主を銃撃した存在を許すつもりはなかった。
上と下からの同時攻撃。完璧なる連携。どちらかを迎撃してももう片方が確実に相手を破壊する必殺の型。多少の銃弾など構うものか。魔法障壁を最大限に展開すれば致命傷など喰らわない。二本の死神の鎌は天空から振り下ろされ大地を薙ぎ払う。
しかし……ホーンフリークがサックスに息を吹き込む方が、主従の必殺よりも若干早かった。
ヴオン!!
一瞬にして大量の空気が震える。衝撃が二人を襲う。
たまらず吹き飛ばされた二人が体勢を立て直したときにはもう、その場にホーンフリークの姿は見当たらなかった。
「何や今の音?」
“本屋ちゃん”こと宮崎のどかを迎えに戻った明日菜と木乃香が耳にしたのは、夜の学校には不釣り合いな轟音だった。
“もしかして、またネギが何かやったんじゃ……?”
明日菜は魔法使いと呼ばれる人々を知っている。そして様々な経験から、今では何かあるたびに最も身近な魔法使いであるネギ・スプリングフィールドを思い浮かべてしまうのだが。
そういえば、昼間も何か様子がおかしかった。帰りが遅くなる。晩ご飯はいらない。あの様な態度はやはり少し怪しい。
この轟音にネギが関わっていると思ってしまうのも無理はなかった。
ザ、と、木陰から人が飛び出してくる。先程までの思考からその人影がネギであると明日菜は決めつけ、怒鳴りかかる。場合によっては少しきつめに叱ってやらないと。
「ちょっとネギ! アンタまた、いった……い?」
だが、目の前に現れたのは白い服。手には大きな管楽器を持った、見知らぬ男。
思い浮かんだのは今朝、クラスメイトの一人が明日菜に向けた言葉。
“ウワサの吸血鬼はお前のような元気でイキのいい女が好きらしい”
桜通りの吸血鬼。
見れば、木乃香もその可能性に至ったのか、震えを隠せていない。
夜に現れた見知らぬ男。あんな楽器を持っているのは理解に苦しむが、男の纏う黒い雰囲気。明らかに普通の人ではない。
警戒する。いざとなったら木乃香だけでも逃がさないと。そんなことを思う。
しかし。
「ネギ? あの少年のことか?」
目の前の男がネギに対して何かを知っている。それを知ると、明日菜からは遠慮というものが一切消えていた。吸血鬼がネギを知っている。ならば、今夜の吸血鬼の被害者は?
「アンタ、ネギを一体どうしたのよ!?」
既に恐怖は消えていた。大切なもののためならば、人は強くなれる。
「あの少年なら向こうにいる。最も、出来る限り平静さを失わせたからな。今無事でいる保証はないが」
無事でいる保証はない。
その言葉に、明日菜は平静ではいられない。
すぐさま男が示した方向へと走り出す。
「ネギーーーー!!」
「あーん、待ってよアスナーーー」
全速力で走り出した明日菜の後を、木乃香は必死になって追いかけていった。
その場に残されたのは男一人。
男は深く溜め息をつくと、夜道をゆっくりと歩き去っていった。
日は移る。
昨晩エヴァンジェリンに血を吸われかけたネギが授業のサボタージュを画策したところを明日菜に抱えられて運ばれる等といったささやかな事件はあったが、それでも平穏な授業風景が進められていた。
「パートナーを選ぶとして10歳の年下の男の子はイヤですよね」
訂正するべきかもしれない。
それでも“それなりに”平穏な授業風景が進められていた。
「ハハハ……すみません、授業と関係ない質問しちゃって……。忘れてください。じゃ、今日はこの辺で」
顔を赤く染め、ふらふらした様子で教室へ出て行こうとするネギ。だが、教室を出ようとしたときにドアの向こう側に立っていた人物にぶつかってしまう。
「おー、ネギ君。ちょうどいいタイミングじゃったかの」
ぶつかった人物は学園長。“ほれ、戻って戻って”などと言いながら押し込んでくる学園長に逆らえず、再び教壇に立つ。
学園長はネギの横に立ち、生徒達に話しかけた。
「あー、今日から新しい先生が赴任してきての。彼が受け持つクラスを一つ一つ回って紹介していたんじゃ」
新しい先生という言葉に沸き立つ3-A。生徒達から次々と質問が投げかけられる。
何の先生なんですか? から始まって、果ては格好いいかどうかまで。
「彼が受け持つのは音楽じゃよ。格好いいかどうかは、見てからのお楽しみじゃ。ホーンフリーク先生。入ってきなさい」
音楽。という言葉に反応する若干4名。明石裕奈、大河内アキラ、絡繰茶々丸、そしてネギ・スプリングフィールド。
そんな彼等を余所に、白いスーツを着た男が、キャスター付きの黒い長方形のケースを転がして入ってくる。
「あーーーーーー!!」
叫び声。それは、誰もが予想していなかった人物からあげられる。
「桜通りの吸血鬼やぁあああ!!」
その瞬間、教室中の視線が近衛木乃香へと集中していた。
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