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第八話“Fool's Paradise” 投稿者:SKY 投稿日:10/30-07:09 No.1526
アルベール・カモミールはあまりにも変わっていたネギの有り様に絶句してしまった。
マギステル・マギを目指している自分の兄貴分。彼はいつも前向きで人一倍努力を続ける少年だったはずだ。だが、発見したネギを一目見たカモは、彼の心の堤防が決壊しかけている状態であることを悟った。
カモは純粋にネギを助けに来たわけではなかった。故郷での悪事が露見し、お尋ね者となったところでネギのことを思い出した。他ならぬ兄貴分であるネギならば、自分の助けとなってくれるかもしれない。そんな思いを持ちながら麻帆良へとやってきたのだが。
広い麻帆良を探し続け、ようやくネギを発見することができたのだが、ネギの様子はあまりにも異常だった。元来の明るさは微塵も見えず、ただ懊悩と悩み続けている。カモにはネギが慟哭しているようにしか見えなかった。涙を流し髪を振り乱し声を荒げ泣き喚く。それは、カモの脳裏に映ったネギの魂の姿だった。
昔日の恩を返すときは今。
自らの現況など、カモの脳裏からは綺麗に消え去ってしまっていた。
【ブルージィ・マジック&クロス&ホーン】【第七話“Fool's Paradise”】
ホーンフリークは一人、学園内を歩いていた。
目的は特になかった。ただ、一人になれる場所を探して歩く。
麻帆良に来てからずっと、彼は気を張りつめ続けていた。見知らぬ土地で警戒を完全に解きくつろげる程、彼は大胆ではなかった。常に周囲の物音を超人的な聴覚で聴き分け、周囲数十メートルを完全に把握する。あらゆる会話や物音を聴き分け、警戒すべき人物をリストアップし続ける。それは如何に彼であろうとも重労働に違いない。
自由に使うようにと教員寮の一室を明け渡されたが、その部屋でも彼は安らぐことは出来ない。なぜならば職員には多数の魔法使いが混在しており、彼等に対する警戒を怠るわけにはいかなかった故に。
臆病ともとれるホーンフリークの警戒振りは、しかし彼の生きていた星では必須の心構え。
戦闘能力のある者には決して一定距離以上近づかず、安全だと判断した者にしか近づかせない。もし、この判断が誤っていたら命の危険を招くのだが、ホーンフリークがこの判断を誤ったことは今までに一度たりとてなかった。この人を逸した洞察力こそが、あらゆる修羅場においても彼を生き延びさせてきた要因の一つ。
だが、この都市は人が多すぎた。
他者の人格をふるいにかけるという重労働。ホーンフリーク自身あまり人と関わらないためか、普段ならば100以下の人数で済むのだが、この学園都市に存在し彼と接触しかねない人物はその10倍以上はいる。こちらに来る前の戦いから続けて休息をとっていないホーンフリークはこの上なく疲弊していた。
ふと、思い立ち彼は郊外へと向かう。
昨夜敵を撃退したあの森の中ならば、警戒するような相手もいないだろう。
久方ぶりに、独りになれる。他者のいる場所では決して真にくつろぐことができなくなったことを自覚したのは、初めて人を殺した時からだっただろうか。
途中にある商店で酒でも買い、思うがままに呷るのも悪くはない。思えば、そんな風に心休める時間は今までの人生でどれほどあったのだろう。少なくともナイブズと出会ってからは一度たりとてなかったに違いない。
ふと、そんなとりとめもないことを考えながら歩き続けていると、見知った呼吸音が聞こえてくる。明石裕奈。大河内アキラ。50メートルほど先に二人を発見した。
正直、ホーンフリークはこの二人が苦手だった。
この土地に来て初めて出会った二人。初めはただ警戒され騒がれることを嫌っただけだった。不審な所をなるべく隠し、害がないと錯覚させる。そのために演奏までしたのだが。
不可解だった。彼女たちに向けられる視線が妙に心地よくなっていくことが。
二人が自分に好意を向けているのがわかってしまう。それは警戒させないという当初の目的を理想通りに叶えたものだったはずなのに。なぜ、自分はそこに疑問を持ってしまうのだろう。
闇の底に棲むホーンフリークにとって、少女たちは眩しすぎる。
故に、ホーンフリークは彼女たちが苦手だった。
無意識のうちに避けていたと言っても過言ではない。教室で再会し、騒ぎになったときも、広場で裕奈が後をつけてきたときも。ホーンフリークは彼女たちを無視し続けた。自らの感情の高揚感と不快感が理解できない故に。
だから、今回も二人に気付かなかったふりをして、通り過ぎるつもりだったのだが。
「あ、ミッドバレイさんー」
声をかけられ、なぜか無視する気にはなれない自分がいることに戸惑っていた。
ネギ・スプリングフィールド。アルベール・カモミール。神楽坂明日菜。
それが、今現在この部屋にいる三人の名前。
ネギの惨状を一目見たカモは、自分だけではネギを救うことはできないと悟った。大恩あるネギを救えない。それを認めるのは口惜しいことであったが、それでも自分の薄っぺらい人生経験ではほとんど役に立たないことを理解していた。
故にカモは、助言をする。どんな悩みかは知らないが、最も身近な人に聞いてもらえばどうか? と。
ネギが始めに候補に出したのは、明日菜という少女。だが、ネギは彼女を巻き込むことを良しと思っていないらしく、どうにも話が進まない。
仕方がなく部屋に明日菜とネギしかいなくなったところで、ネギが悩んでいると明日菜に打ち明けたのだが。
「あー。オコジョが喋っているとか色々とツッコミどころはあるけど……」
結局、いつまで経っても話そうとしないネギに対し、力技で明日菜が聞き出すという結果になってしまったのは仕方がなかったことなのだろうか。
「つまりあんた、自分が正しいかどうかわかんなくなったってわけね?」
要約すればそんなところなのだろう。エヴァンジェリンという真祖の吸血鬼との出会い。そして、ホーンフリークという音楽教師との出会い。その規格外な二人との出会いにより、ネギの根幹はまるで泥沼のように揺らいでしまっていた。
それにしてもと明日菜は思う。まったく、なんでコイツはたった一人で悩み続けてしまうのだろうか。もっと回りの人に頼ることを覚えさせないととても危なっかしくて見ていられない。
「明日菜さんは……僕が間違っていたんじゃって、思いませんか……?」
いつもの溌剌とした表情など何処にもない。頭に来た。ようやく頼られたと思ったらこれだ。人の顔色ばかり窺って、夜に怯える子供のように震えている。何でこんなになるまで一人で頑張ってしまうのだろう。今回のことだって誰かに一言相談してしまえば良かったのに。魔法のことだから話せないというのならば、いっそのこと学園長にでも打ち明けてしまえばよかったものを。
「そんなこと、わかるわけないでしょ」
だから明日菜は、こう言ってやった。
「え?」
顔を上げるネギ。もしかして、あんたは決して間違ってなんかないとでも言って欲しかったんだろうか。
その気持ちはわかる。だけど、今それを言うわけに行かないことも、なんとなくわかる。
「あんたねぇ、そんな小難しいことが私に答えられるとでも思ってる? 正義とか悪とか暴力とか、そんなことでうじうじ悩んでいる暇があったらもっと前向きなこと考えなさいよ」
一蹴。なぜかそこのオコジョから“そりゃないぜ姐さん”なんて呟きが聞こえた様な気もするが気にしない。
「けど!」
「あー、もううるさい。大体あんたは一人で悩みすぎなの! 昨日と今日の様子を見て、私や木乃香ががどれだけあんたのこと心配したかわかってないでしょ!?
一人で出来ない事なんてそれこそ山の様にあるんだから、ちょっとは私達を頼ってよ!」
本当に、腹が立つ。なんでこんなことで怒鳴らなければならないのか。そんなことを明日菜は思う。
「魔法を知らない木乃香ならともかく、私に出来ることだったら、いくらでも助けてあげるから」
そして、沈黙。
もう言うべきことは言い尽くした。これでもまだこの馬鹿が分からず屋のままだったら、愛想尽かして絶交してやる。そんなことまで思っていた。
重苦しい空気の中で、それでも優しい沈黙だけが部屋に残っていた。
「部活?」
「そ、アキラは水泳部。私はバスケ部に所属してまーす」
結局、これだ。
森へ行き休息しようとしていた自分はどこに行ったのか。そんなことをホーンフリークは思う。
なぜ自分が彼女等と歩いているのか理由がわからない。この二人は苦手だと、そう自覚していたはずなのに。
むしろ、苦手だからこそ無視することが出来なかったのか。二人について敷地内へと引き返してゆく自分自身に酷く頭を痛める。
「アキラは水泳部のエースなんだよ。凄いんだから」
「そ、そんなことないよ」
この様な少女達と話した経験など少ないホーンフリークには、適当に相槌を打つことしかできない。女との会話は慣れていたつもりだったのだが、ここまで無邪気で幼い少女達の相手は、些か疲れる。
「逆に、ウチのバスケ部は弱いんだよねー。もしかしたら才能ないのかもっていつも思っちゃう」
才能。
嫌な言葉を聞いた。
この言葉は嫌いだった。自分自身の技術も、その類い希な才能によって成り立っていると知っていても。
「たりないのは、才能などではないだろう」
初めてまともな意見を述べる。二人の視線が集まる。どれだけ自分がおざなりに彼女たちに接していたか表れている。
「ええと、じゃあ、やっぱり努力がたりないってこと?」
そんな言葉は聞き飽きた。そう言いかけ、裕奈は口ごもる。さすがに助言をされている身が口にする言葉ではないと悟ったのだろう。
「みんなで練習だって真剣にやってるし、努力はしてる……と思うけど……」
言葉は尻すぼみに消え、ただ自信の失われた表情だけが裕奈に残る。何かを思い出しているのだろうか。その視線は現在に焦点が合っていない。
「俺に言わせれば、お前にたりないのは才能や努力などではないさ」
裕奈が顔を上げ、アキラは興味深げにホーンフリークを見る。救いを求める様な目と、友人を思いやりながらも興味を持った目。二つの視線が彼を射抜く。
「お前にたりないのは、狂気と執念だ」
二人とも、言葉の意味が解らなかったのだろう。
その言葉を口にいれ、咀嚼し、嚥下する。そうして漸く意味を飲み込んだ二人は、そのまま絶句した。当たり前だ。“狂気”も“執念”も、とても人を導く教師が口にするべき単語とは、ホーンフリーク自身さえも思っていない。
「人の執念というものは人の持つ感情の中で、最も力を与えてくれる感情だ。何かを成し遂げたい。何かを手に入れたい。何かをこなせる様になりたい。その感情はそのままではただの“欲”だが、決して諦めないと決意した瞬間、それは執念に変わる」
思い浮かぶのはあの男。半身不随の身から、執念という炎で自らを一つの弾丸へと鍛え上げた魔人。ガントレット。
「だが、執念を持っただけでは限界が訪れる。それは人間という種にあらかじめ生物的限界という枷が填められているからだ。その枷を破るということは人を超え、人を棄てること。そんなことは、正気のままではできはしない」
思い浮かんだのは自分自身。ただ、音が好きだったという理由だけで、音の“全て”を支配しようとした魔人。
「才能がないのならば努力する。それは確かに間違っていない。だが、決して負けないまでにその分野に特化しうる場所は、執念がなければ辿り着けない。それが持てないのならば遊びのまま終えた方が良い。何事も行き過ぎはろくなことにならないのだから」
話を終える。およそ中学生の少女に伝えるべき内容とはとても思えなかった。自分は何を話しているのだろうとさえ、思う。
なぜ、この二人の前では“自分自身”が表に出てしまうのか。
「ええと、つまり……、好きなだけだったらそのままでも良いけど、勝ちたいのなら決して諦めない執念を持てってことですか?」
アキラなりに整理したのだろうか。大体、的を射ている。二人にはその程度で充分だろう。
だが、裕奈の表情は晴れない。なぜかホーンフリークを不安げな顔で注視している。
「ミッドバレイさんにも、そんな諦められないものがあったの?」
悲しむ様に、哀れむ様に。そんな想いを錯覚させる様な言葉。
諦められないもの。あるに決まっていた。
いや、あったというべきだろうか。
「俺は、音さ。音について出来ない事があるのが、我慢ならなかった。おかげで随分と行き過ぎてしまったがな」
溜め息をつく様に漏れた言葉はただ、この場を安らかな静寂で満たした。
その、流れる静寂が意外にも疲弊しきったホーンフリーク自身を癒やしていたことには、彼は最後まで気付けなかった。
そして数日後。麻帆良の夜に闇が来る。
後書き
海外出張のために更新できませんでした。というわけで三話連続更新です。
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