HOME  | 書架  | 

当サイトは「魔法先生ネギま!」関連の二次創作投稿サイトです。ネギま!以外の作品の二次創作も随時受け付け中!

書架

[]

第九話“Perfect Night” 投稿者:SKY 投稿日:10/30-07:13 No.1527  


 空気が震えていた。
 夜の闇、麻帆良には似合わぬ漆黒の闇夜。

「なんだ……これは」

 ホーンフリークは愕然とする。
 “音”が泣いている。
 圧倒的な力の前に大気を媒介するあらゆる物質が震え続けている。
 心当たりなど、一つしかなかった。

 エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル。
 なるほど、最強の魔法使いを名乗るだけのことはあった。人の皮を被った天使達ほどではないが、それでも次元違いの力が見て取れる。

 しかし、気にすることはない。
 確かにエヴァンジェリンとは敵対をしているが、彼女自身の第一の標的はネギのようだ。こちらが狙われることはまずありえない。
 幾度か奴等の会話を盗み聞きした結果、この力は停電中にしか発揮できぬらしい。ならば、四時間。それだけ時間を稼ぐだけで、エヴァンジェリンは無力になる。自分にとっては容易いことだろう。
 むしろ、ホーンフリークは興味があった。力を取り戻したエヴァンジェリンの在り方に。

“10分後。大浴場か……”

 ホーンフリークの超人的な聴覚は、エヴァンジェリンの下僕と化した佐々木まき絵とネギとの会話を余さず聴き取っていた。果たしてどのような茶番を見ることが出来るのか。
 ホーンフリークは一路、大浴場に向け歩き出していた。





【ブルージィ・マジック&クロス&ホーン】【第九話“Perfect Night”】





「約束の時間まであと5分か。さて、ぼーやが逃げ出さなければいいのだがな」

「ネギ先生の性格からしてそれは有り得ないと思います」

「ずいぶんとまた、ぼーやの事を買っているんだな」

 会話。
 大浴場。“涼風”。あまりにも広いその空間を歩く二人の主従。人の姿をしていても、人では有り得ない二人組。エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルと絡繰茶々丸だった。

「一度、神楽坂明日菜と共にお前に挑んできたとの話だったが、どう思った? 意見を聞かせろ」

 茶々丸は無表情ながら首をかしげるような仕草を見せる。記憶を再生させているのだろう。これより戦う相手を徹底的に分析するために。

「二人とも、年齢からするとかなりの実力です。ネギ先生の魔力、神楽坂さんの素人離れした動き。共に侮ることは出来ません」

 確かにそれは事実だった。だが、ネギの魔力など今のエヴァンジェリンにとってはそれほど脅威ではない。明日菜の動きはあの晩の飛び蹴りの際にしか見ていないが、確かに常人離れした運動能力を持っている。魔法障壁を無効化した能力といい、むしろネギよりも脅威になるかもしれない。

「あと、恐らくネギ先生はマスターを殺害することが出来ません」

「なに?」

「私との戦いにおいても武装解除と捕縛属性の矢しか使ってきませんでした。原因は恐らくホーンフリーク先生との会話だと思われますが、誰かを傷つけるという行為をネギ先生は行わないと強く決意しているようです」

「敵を傷つけないか……。また、茨の道を選んだものだな」

 エヴァンジェリンは知っている。その様な甘い戯れ言の先に、どのような結末が待っているのかを。なぜならば、その道は過去に数えきれぬほどの先人が歩み、そして名を残すことなく散っていく。その様をエヴァンジェリンは幾度も見届けてきたのだから。

 だが、いかなる懊悩があったのかは知らないが、そんな道を他ならぬネギが選んだことにエヴァンジェリンは好感を持っていた。
 そんな道は決して歩めるとは思えない。ネギが未熟なのだからではなく、誰であろうと歩ききることができないと断言すら出来る道。
 そんな道を歩くことが出来るのならば、それは人ではなく神か悪魔でしかないだろう。もっとも、悪魔がその様な道を選ぶとは思えないが。

 戦いから遠ざかり、ただ逃げているだけならば傷つけないなどという絵空事も叶うだろう。だが、そんなモノをネギが望んでいるとは思えなかった。まず間違いなく、自ら進んで戦いを止めようとするのだろう。

 その姿を想像すると、前以上に興味が沸いた。

「茶々丸。その戦いの顛末を話せ。興味が沸いた」








「油断しました。でもお相手はします……」

 空気が張りつめていく。
 この場にいるのは三人。絡繰茶々丸。ネギ・スプリングフィールド。神楽坂明日菜。

「茶々丸さん。僕を狙うのはやめていただけませんか」

 悲しげな、それでも決意を籠めた目。だが、ネギの目には迷いがあった。先程まで茶々丸を数時間に渡り尾行・観察し続けていたネギには、茶々丸のことがどうしても退けなければならない“悪”には思えなかった。

「申し訳ありませんネギ先生。私にとってマスターの命令は絶対ですので」

 丁重だが確実な拒絶。それを見て、戦いを避けられないことを悟ってしまうネギと明日菜。街中の人々から好かれ、困っている人々を助け、自らの危険を顧みず弱き命を助ける。それは、ある意味自分の理想の姿ではなかったか。

「なら、仕方がないです。勝負をしましょう茶々丸さん」

「勝負……ですか?」

 茶々丸は疑問に思う。
 ネギの口にした勝負という言葉からは、明らかにこれから起こる戦いだけを示唆したものではなかった。何か、違うニュアンスを含んでいる。

「そうです。僕たちが勝ったのならエヴァンジェリンさんとの対決の時、手を出さないでください。その代わり、茶々丸さんが勝ったなら僕の血を好きにして良いです!」

 交換条件。悪くはない……と、茶々丸は判断を下しそうになり、気付く。
 それは、こちらに都合が良すぎた。
 先程の条件では、ネギは明らかに茶々丸を殺さないと言っているも同じだった。だが、ネギの命はどうだろうか。好きにして良いということは、死ぬまで血を吸われても構わないと言うことだろうか。明らかにこの交換条件は等価ではなかった。

 気付いているのだろうか。そう思い、ネギの表情から探ろうとして。言葉を失う。
 あの目は知っている。自分の命が明らかに偏った天秤に乗っていることを。その上で尚、決して曲がらない決意を持って戦いに望んでいる。
 たかだか数日前に自分達に襲われ狼狽えていた少年と同一人物とはとても思えない。

“男子、三日会わざれば……でしたか”

 そして、茶々丸は勝負を受ける。本来ならばこの様な勝手をする権利はない筈なのだが、あの決意を前に退くという選択肢は茶々丸のAIには存在していなかった。

 結局、戦いの決着はつかず、痛み分けに終わるわけだが、茶々丸にとっての二人の評価は大幅に修正されることとなった。








 大浴場に到達する。ちょうど、10分。
 とてつもなく怖かった。
 エヴァンジェリンも茶々丸も、悪い人間ではない。すでにネギはそう判断している。
 数日前に茶々丸を尾行したときに見た光景。風邪を引いたというエヴァンジェリンと、その夢の中の姿。例え、600万ドルの賞金をかけられていようが、ネギは二人に好意すら抱いていた。

 だから、怖い。

 その二人が、自分と殺し合いをするつもりなのだという事実が、とてつもなく怖い。

 自分には、殺し合いの経験などなかった。その筈だった。

“凶器だということを”

 全身を駆けめぐる言葉。今まで目を背けていた真実。
 それは、今までのたわいのない魔法行使ですら、相手を殺傷しかねなかったという事実。

 認めなければならない。自分は、ただ殺し合いを殺し合いと認識していなかっただけなのだということを。

 だけど、だからこそ。これから殺し合いをするつもりなどはなかった。目的はただ一つ。エヴァンジェリンと茶々丸。二人を止めること。

 強き決意は熱となり身体を駆け、熱は力となって溢れてくる。決心はついた。後は、行くだけ。

「エヴァンジェリンさん。どこですか? まき絵さんを放してください……!」

 声をかける。杖を握る手に力がこもる。

「ふふ、ここだよぼーや。パートナーはどうした? 一人で来るとは見上げた勇気だな」

 明かりが灯ると同時に四阿の上から聞こえてくる声。
 夢で見た妙齢の女性。エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの仮の姿。

「満月の前で悪いが……。今日はここで決着をつけて坊やの血を存分に吸わしてもらうよ」

 明らかな宣戦布告。
 佐々木まき絵だけではなく、和泉亜子、大河内アキラ、明石裕奈の3人までも下僕にされていたことに内心怒りを覚える。
 だが、怒りをぶつけるのは後だ。今はただエヴァンジェリンを止めることを考えなければならない。
 決心と共に、応えようとしたとき。

「それはたぶん、叶わぬ願いだな」

 聞こえてはならない声が聞こえてしまった。








 大浴場に到達する。ちょうど、10分。
 興味があった。
 真の力を取り戻したというエヴァンジェリン。それにネギをぶつけ、力を測る。
 力を取り戻したエヴァンジェリンは、この世界で屈指の魔法使いとなるらしい。ならば、今度こそ真の魔法使いの力を垣間見ることが出来る。そう、思いながら大浴場に向かっていたはずだった。

 だが、寮に入り、大浴場に潜り込む。そして、気付いてしまった。
 今までなぜか、大浴場の中の音が拾えなかった。魔法使い達は結界を張ることにより結界の内と外を隔絶させることが出来るとの話。ならば、大浴場に侵入すれば音を拾うことが出来るだろうと推測し、散歩でもするかの様な軽い足取りで結界を超えたのだが。

 エヴァンジェリンの回りには、裕奈とアキラが控えていた。

 なるほど、先程ネギへのメッセンジャーとして使われた佐々木まき絵は、確かに二人と共にいる機会が多かった。使える駒は多い方が良い。一人より二人、二人より四人。そう考えるのは当然だろう。裕奈やアキラ、そして和泉亜子を巻き込んだことも納得が行く。自分ですら、同じ立場になったのならばそうしただろう。

 だが、その当然の行いに苛立ちを感じた。理由など思い浮かばない。ただ、たった数時間共に過ごしただけの時間が、妙に安らぎを与えていた事実だけが脳裏を巡る。

“なるほど……つまり”

 自分は、気に入っていた“モノ”に手を出されたことが気に食わないのか。

 すべきことは決定した。
 所詮、順番が先になるか後になるかだけの差に過ぎない。

 即ち、今エヴァンジェリンを殺すか、エヴァンジェリンがネギを破った後に殺すかの差。

 バチン。そんな音を立ててサックスケースが開く。
 中から現れる相棒、シルヴィア。これを手にすれば、己は全ての音を支配できる。

 敵の数はネギを含めると7人。油断など、する気もなければ出来もしない。未だエヴァンジェリンも茶々丸もその大半の力は未知数なのだから。

 ならば、簡単だ。敵の力がわからぬのならば、先手を打って殺せばいい。何もさせないままに殺害すれば相手はもう力を揮うことなど出来ないのだから。

「まさか、貴様がここに来るとはな。音楽教師。その面を見る限り坊やの援軍というわけでもなさそうだが」

「気にするな。ただの個人的な感傷にすぎないのだから」

「ならば、手加減はしないぞ?」

 手加減か。そんなモノしてくれるのならばいくらでも歓迎なのだが。
 サックスを構える。さあ、最高の舞台で、最高の音楽を奏でよう。

「さて、一曲、付き合ってもらおうか。エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル」

ブルージィ・マジック&クロス&ホーン 第十話“BLOOD AND THUNDER”

  HOME  | 書架top  | 

Copyright (C) 2006 投稿図書, All rights reserved.