HOME
| 書架
|
当サイトは「魔法先生ネギま!」関連の二次創作投稿サイトです。ネギま!以外の作品の二次創作も随時受け付け中!
書架
第十三話“ALTERNATIVE” 投稿者:SKY 投稿日:01/11-00:06 No.1862
心臓の音が聞こえる。
『人生は絶え間なく連続した問題集。
そろって複雑。選択肢は酷薄。加えて、時間制限まである』
どうするべきか。近衛木乃香。ターゲット。自分のために犠牲にすると決めた少女。
『一番最低な事は、夢みたいな解法を待って何ひとつ選ばないこと』
街中。人目もある。恐らく、護衛もいる。目立つ行動は避けねばならない。
『選ばなければならない』
知ったことか。血の斑道。根刮ぎブ散らす。チャンスの前では犠牲の数など問題じゃない。
『一人も殺せない者は、一人も救えない』
この場で攫った場合。考えられる事態は護衛による足止めと、拠点からの応援。その全てを斃せるか? 今はパニッシャーすら所持していないのに?
『自分達は神ではない。万能ではないからこそ、鬼にもならなければならない』
心臓の、音が聞こえる。
動くべきか、動かざるべきか。
【ブルージィ・マジック&クロス&ホーン】【第十三話“ALTERNATIVE”】
「チアリーダーの名にかけて、いいんちょの私利私欲を応援よ!!」
この瞬間、釘宮円、柿崎美砂、椎名桜子の3人はネギ・スプリングフィールドと近衛木乃香のデート?の妨害を声高々に宣言していた。それは、チアリーディングを志す者達の神聖なる天への誓いだったのかもしれない。例えなりゆきとはいえ、一度誰かを応援すると決めたのならば全力を尽くす。それが麻帆良チアリーディングに属する彼女たちの心構えだった。
「これ買って~~~~釘男くん!」
ネギと木乃香が買おうとした物を、強引に割り込んで先に買う。それが、彼女達の選んだ妨害方法。
自分達の財布に大ダメージを与えながらも応援(妨害とも言う)を続ける彼女達はまさに、チアリーダーの鑑と言えるだろう。
しかし、その結果彼女達の財布からは大量の紙幣が消えていった。三人は誓う。後で必ず委員長に払わせると。
「あの二人、若いクセに健康志向なんだね……」
美砂の手に渡ったダンベルを見ながら、円は呟く。まさか、10歳と15歳の男女のデートでダンベルを購入しようとするとは、お釈迦様でも想像できまい。
「よーし、この調子で妨害しちゃうよぉ」
その後も、本、CD、時計などの小物から、果ては衣服に至るまで。ありとあらゆる買い物の妨害を続けていた結果、三人の財布の住人は絶滅危惧種に認定されるほどに追い込まれていた。
「こ……これ、いいんちょが払ってくれなかったらさすがに恨むよ」
美砂の言葉。そもそも、修学旅行に着ていくための服を買うという当初の目的も、今現在の所持金では決して達成できない。自分達はここまで戦ったのだ。早く援軍を。補給線の確保を。航空支援の要請を。このままでは全滅だ。
『ネギ君、疲れてもーた? ちょっと静かなところ探して休んでこか?』
「静かなところーー!?」
状況は最悪だ。もう自分達の妨害も限界だった。応援要請。委員長に連絡を。
しかし、電車で移動中なのか委員長は電話に出ない。こんな場面でも公共のマナーをしっかりと守る委員長をさすがと思いつつも、三人は絶望に沈んでいく。もう駄目だ。
「って、ちょっと目を離した間にネギ君たちいない!?」
「美砂、あっち!」
桜子の声に振り向いた二人が目にした光景は、数人の男に囲まれている木乃香と、木乃香から引き離されたネギの姿。ナンパ……にしては穏やかではない。道行く人々もちらちらとそちらを振り返る程に、その行為は目立っていた。
男達の明らかに下卑た笑み。下種な思考。その全てが空気を伝わって来る様がありありと想像できる。
「ねぇ、あれやばくない?」
「助けないと」
今までの陽気な雰囲気を一蹴するかの様な光景。美砂の言葉に円は誰よりも早く駆けつけようとする。釘宮円はこの様な光景が嫌いだった。ナンパ自体も、そればかりに精を出す中身のない男達も。そんな光景にクラスメイトが巻き込まれているなどと、悪夢でしかない。
「ちょっと円!」
二人の制止も耳には届かない。自らの危険を一切顧みることすらなく、向かう。
ところが、円よりも早く事態に介入し、男達を追い払った存在がいた。
それはまるで、不吉という言葉を自ら体現した様な、漆黒に染まった男。
黒髪、サングラス、上から下まで黒いスーツ。
その姿だけなら何処にも問題はない。麻帆良にも好んでそんな服装をする教師達もいる。そう、どこにも問題はないはずだった。
その男の眼差しを、ずれたサングラス越しに見つめてしまうまでは。
空っぽだった。
何もない。
ただ、空虚な闇だけが見える。星一つ見えない曇天の夜空を眺めるかのような。
一切の表情が、感情が、無い。
「どうかしたんですか?」
声が聞こえる。木乃香の声。彼等の声が自然に耳に入るほど、円は接近していたらしい。
我を取り戻し慌てて人混みに紛れ込む。
我を取り戻したのは円だけではなかったようだ。黒服の男もまた、その眼に表情を取り戻す。
笑顔。人懐っこく、穏やかな笑顔。先程までの表情が嘘のような。
「なんでもあらへん。それより嬢ちゃんたちはデートかいな? ああいうさっきみたいなのはどこにでもいるんやから、ボーズが守ってやらんとあかんで?」
くしゃくしゃと、ネギの頭を掻き混ぜるようにして撫でる男。それは平和な光景。見る者を微笑ましい気分にさせるはずの、平和な光景。
「いややわぁデートやなんて」
木乃香も、頭を撫でられているネギも、みんな楽しそうに笑っている。
だというのに円には、あの黒服の男の笑顔が。
「なぁ、ボーズ。嬢ちゃんのことは大切か?」
辛くて辛くて堪らないのに、痩せ我慢だけで笑っている。そんな風にしか見えなかった。その笑い方があまりに空っぽで、胸が痛くなる。
「大切なら、絶対に守ってやらなあかん。それこそどんなことをしても……例え誰かを押しのけることになったとしても、や」
ほな、これでな。そう言ってネギ達に背を向け去っていこうとする男。大きな、それでいていつか消えてしまいそうな錯覚を受けるほど、儚げな背中。それが印象的だった。
「あの、お名前は」
慌ててネギが引き留める。助けてもらったのにろくな礼を未だにしていなかったからだろうか。本当に、10歳とは思えないほど律儀な少年。
「ニコラス・D・ウルフウッドや。あんたらに、神のご加護がありますように」
そして男は去っていく。陽気な背中。弾むように。
初めにあまりにも虚ろな眼差しを見てしまったからだろうか。機嫌良さそうに弾んでいる背中が、それでも円には、泣いているようにしか思えなかった。
「話というのはのうホーンフリーク君。3年生の修学旅行についてなんじゃ」
近衛近右衛門は、狡猾さと老獪さを兼ね備えているその頭脳で、如何に目の前の男を丸め込もうかと思考していた。何せ、その男ミッドバレイ・ザ・ホーンフリークは、常に沈着冷静で石橋を叩いて渡るかのような慎重さを全身から醸し出しているような男である。加えて、身に纏っている緊張感と、刹那的な雰囲気。非常に理解しにくいその在り方から、人物を“観る”ことに慣れている筈の近右衛門ですら、この男のことを未だ掴みきれないでいる。
クールなだけなら良い。ニヒルなだけでも良い。冷酷無比でも人情家でもなんでもいい。何か一言でこの男を表すことが出来る言葉が欲しかった。何事にも興味を見せないような姿勢でいるのかと思えば、エヴァンジェリンに利用された生徒達を救出するために危険を冒したりもする。実は情に厚いのか? とてもそうは思えない。
「修学旅行?」
今もそうだ。なぜそれが自分に関係があるのか。とでも言いたそうな表情でこちらを眺めている。まったくやりにくい。まるで、この世の全てに興味一つ無いかのような、そんな表情。それでいて、こちらの予想の外で行動を起こす。この男の思考は近右衛門の理解の範疇を超えていた。
「そう、それにホーンフリーク君も一緒に行って欲しいのじゃが」
ホーンフリークがこめかみを押さえ、深く溜め息をつく。それはもう大げさな仕草。他の者がこんな仕草をすると気障なだけだが、この男が行う大仰な仕草は皆、絵に描いたように様になる。
「記憶に間違いがなければ、確か修学旅行は明後日だったはずだが?」
「その通りじゃが?」
ホーンフリークの左手はこめかみを押さえながらも、右手は微動だにしていない。完璧な脱力。その姿勢が、懐の銃を最も早く抜き放つための姿勢だと近右衛門は知っている。自分の額に流れる汗は敢えて無視することにした。それはもう多大な努力が必要だった。
「普通、そういうことは前もって伝えるのではないのか?」
「だから、いま伝えたじゃろ?」
あくまで飄々とした態度は崩さない。それが近右衛門のスタイル。
京都へ行く戦力は多い方が良い。先方から伝えられた、使者としての魔法職員を一人だけなら黙認するとの言葉。ならば、魔法使い以外の者を送ればよい。
サウザンドマスターの息子であるネギ・スプリングフィールドを使者とし、比較的名や顔の知られていない瀬流彦を全体の警備に回す。だが、それだけでは孫の木乃香の安全に懸念が残る。専属の護衛である桜咲刹那を信用していないわけではないが、念には念を入れておきたい。
そもそも、近右衛門の予定ではもっと多くの魔法職員を送り込むつもりだったのだ。それをあの詠春めがつい先程、一名までにしておきたいなどと連絡をよこすからいかんのじゃ。と、遠く関西にいる入り婿に届かない愚痴を洩らす。あの男は戦士としては優秀だったが上に立つ者としては二流かもしれぬ。そんなことすら思う。部下を抑えつけることも利用し尽くすこともできないのだから。
「実はのう。孫の護衛が足らんのじゃ。本当はもっと戦力を護衛として送る予定じゃったが、先方の都合で送れなくなってしまってのう」
先方。という言葉に反応したホーンフリークに、一から説明をしてゆく。旅行先である京都には長年敵対を続けていた関西呪術協会があるということ。敵対をやめ和平を結びたいとこちら側は考えていること。向こう側のトップが木乃香の父親で、和解に賛同していること。だが、向こう側の意見は完全に統一されているわけではないこと。そして、木乃香が極東最強と言ってもよいほどの素質を持ち、呪術協会側のみならず第三勢力にまで狙われる可能性があることを。
「そういうわけで、突然で悪いんじゃがホーンフリーク君。木乃香の護衛を頼むぞい」
だが、ホーンフリークは応えない。先程までの言葉を吟味しているかのよう。
この男を相手取る時は、一切の油断はできないと近右衛門は思っている。この男には嘘や隠し事が非常に通用しにくいのだ。こちらの言葉に偽りが混じると、露骨に表情を歪める。無言のメッセージ。『嘘を付いても無駄だ』とでも言うように。
その原因は、この男の能力にあるのだろう。エヴァンジェリンとの戦いでこの男が見せた能力。他の戦闘者達は皆、彼の演奏の威力などに気をとられがちだが、近右衛門は違った。近右衛門があの戦いで把握した、ホーンフリークの真価とも言える物。それはその異常なまでの聴覚だと。
あの時、エヴァンジェリンの詠唱が、この男の能力によって掻き消された。確かに、小さな音を轟音で掻き消すことは出来る。例え拳銃の発射音も、連続する爆発の中ではその音を聴き取ることは出来まい。しかし、この場合だとまず間違いなく、魔法は発動する。詠唱には自身への暗示だけではなく、精霊や世界そのものに語りかけるという意味合いも存在するからである。例え人が聴き取れずとも、世界や精霊には届くだろう。
だが、あの時のホーンフリークの場合はどうなるのだろうか。近右衛門にはその答えは出せなかった。“アレ”は、轟音で小さな音を掻き消したのではなく、音そのものを相殺したのだから。その音が世界に届くかどうかを、近右衛門は保証できない。
信じがたい所行だった。想像すれば容易い。砂浜に向け流れてくる波に対し、まったく同じ波を造りだし、それをぶつけて波同士を相殺させるという行為が、果たして人に可能かどうかを。まさに魔技。あらゆる“音”を支配する者。ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク。
ホーンフリークの知覚内の音は、余さず彼に伝わっていると見るべきだろう。こちらの呼吸どころか、細胞一つ一つが生命活動によって発する音さえも。さもなければ、あんな魔技は使いこなせるはずもないのだから。
「わかった」
長い沈黙の後にホーンフリークから返ってきた言葉は、予想に反した了承の言葉だった。慎重なこの男の事、或いは断られる事すら考慮していたのだが。
「確認をしておく。俺の仕事は、近衛木乃香の護衛。それだけだな?」
「他の生徒達の安全にも考慮してやってほしいんじゃが………」
こういう所も、油断できない。この男は決して余分なことを行おうとは思わない。常に、命じただけのことしか行わないのだ。未だ、その授業で笑顔一つ見せたことがないと、孫の木乃香から聞いている。
「それと、木乃香には既に一人護衛がついておる。君も知っているじゃろう? 桜咲刹那君じゃ。彼女と協力して上手くやってくれるかのう」
サクラザキ……セツナ。“アレ”か。
ホーンフリークの呟き。本当にこの男に任せて良いのだろうか? 生徒をアレ呼ばわりする男に?
近右衛門の胸の中の不安は増大してゆくばかりだったが、それを敢えて考えないようにした。やはり、それにも多大な苦労が必要だった。
街を歩く。
“なぜ、躊躇った?”
自問自答。自分に対する言い訳ならばともかく、求めている答えは決して出はしない。
『危ないと思たらためらいなく引き金を引く。祈りながら。頭に二発。心臓に二発』
それはかつて、自分がある男に向けて放った言葉。この生き方は変えない。変えられない。そう、決めていた筈なのに。
ここは街中だった。周囲には一般人が多かった。パニッシャーを所持していなかった。何より“目の前で平和を享受しているただの少女”をみて、その決意が歪んでしまった。
『ためらいなく引き金を引く』
あの少女は何も悪くない。この楽園で平和に生きて、幸福の中で死んでいく。そんな人生を全うできたはずだった。極東一の素質、などという物を生まれつき持っていなければ。
わかっていたはずだ。自分がこれから相手取るのが、今までのような外道な輩共ではなく、ただの子供だということを。わかっていたはず。
そもそも、なぜ自分はパニッシャーを京都に置いてきたのか。その様な目立つ物を偵察に持ち込むことは出来ないとの千草の言。それは確かに納得できる。だが、それは了承しても良いものだったのだろうか? 自分の相棒と言っても良い武器なのに?
何故躊躇った? 何故納得した?
思い出せ。自分の置かれている状況を。大切な家族を救える可能性の低さを。
「どうやらワイも……楽園の空気にあてられていたようやな」
呟く。
この場所は、あまりにも平和すぎる。だから、柄にもなく夢を見てしまっていたらしい。
ああ、認めよう。自分は憧れていた。この場所に。この世界に。誰もが殺し合わなくても生きていける世界。道を外れなくても生きていける世界。人類を根刮ぎ粛正しようなどと思考する存在が、いない世界。
だからこそ、もし、この楽園にあいつらを呼ぶことが出来たならと。決して叶わない夢を見てしまったがために。
『牢記せよ。自分が何者であるかを』
人間は変われない。過去は切り離せない。引き離そうとすれば鮮血をしたたらせ骨や筋まで共に剥ぎ取ってゆく。
綺麗事の入る隙間など無い。それが現実。そう、理解していたはずなのに。
この前の決意は、覚悟が伴っていなかったのか。
前を向く。
そこには天ヶ崎千草。復讐に全てを懸ける女がいる。
この楽園の光景に誓おう。
「次は絶対。躊躇わん」
後書き。
未だ修学旅行に出発すらしていませんが、修学旅行編第二話です。お待たせしました。
ウルフウッドの割合が高くなり、ホーンフリークの出番が段々と減ってきているような気もしますが、皆様お許しください(笑)
なるべく早く京都でのバトル等を書くために日々精進してゆきますので、皆様これからもよろしくお願いします。
HOME
| 書架top
|
Copyright (C) 2006 投稿図書, All rights reserved.