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第十五話“MURDER MACHINE” 投稿者:SKY 投稿日:01/23-13:47 No.1915
いつかと同じだな。
そう、ホーンフリークは思考する。もしかするとこの様な状況になるように、目の前の男に演出されたのかもしれない。
トリガーにかけた指に、力を込める。理性はこのまま引き絞れと命令を送り続けていたが、本能がそれを押し留めている。今、それをすることは自殺と同義だと、そう警告し続けていた。これ以上指に力を込めれば、目の前の男も確実に引き金を引くと。
均衡は、指一本で保たれていた。
【ブルージィ・マジック&クロス&ホーン】【第十五話“MURDER MACHINE”】
共にいた男の様子が目に見えて変わっていったことは、千草に大きな動揺を与えていた。
この男は実に頼りになった。ニコラス・D・ウルフウッド。あの夜に邂逅した男。
気も術も使えず、さりとて何か特殊な武術が使えるわけでもない。身体能力こそ優れているが、それでも犬上小太郎や月詠といった強力な気の使い手に比べれば、明らかに劣っている。
しかし、それでもこの男は二人を圧倒した。
ただ、その腕前を確認するだけの余興に過ぎなかった。明らかに常人ではないウルフウッドだったが、その正確な実力まではわからない。だからこそ、小太郎と月詠という計画のために雇った二つの懐剣で彼を試す。それだけの余興。
小太郎も月詠も、かなりの実力者であることには違いがない。千草自身が戦闘向けな術師でないこともあるが、千草ではどちらを敵に廻したとしてもろくな勝ち目はない。だからこそ、二対一という状況でウルフウッドがどれだけ二人に抗えるか、それを見たかったのだが。
結果は、期待以上のものだった。
巨大な十字架から撃ち出される50口径12ミリの無尽の牙。それは小太郎の気の防御を持ってしても防ぎきれるものではなく、尽きない嵐は彼の接近を許さない。
『飛び道具は効かない』と自負する神鳴流。その使い手である月詠は決死のステップで弾丸を見切り、弾き、避け、ウルフウッドに接近を果たしたが。
十字を象った巨大な鉄塊に、殴り飛ばされた。
この瞬間。ニコラス・D・ウルフウッドは千草の中で、最も使える男として認識されていた。
咄嗟に戦いを止める。ただの余興で肝心な同志が重傷を負うなどという馬鹿げた事態だけは避けねばならない。戦いを続ければ小太郎や月詠にもまだ勝ち目はあったのかもしれないが、趨勢は既に見えていた。ウルフウッドの実力も、予想以上に千草を満足させるもの。これ以上余興を続ける必要は何処にもない。小太郎等二人は不満を漏らしたが、それはそれで仕方がない。裏の世界に生きているのならば潔さも必要だろう。何よりも不覚を取ったのは二人の方なのだから。
大宮駅。新幹線の乗降口の一つに人払いの結界を張り、近衛木乃香の存在する麻帆良学園の一行を見張っていた千草とウルフウッド。次第に集まる教員や生徒達一人一人を真剣に吟味する。目付き、体格、気の配り方、纏う空気。例えそこにいるだけでも脅威となる者は判断できる。そうウルフウッドは千草に言う。
そして、その男がホームへと立った時、ウルフウッドの気配が変わった。
驚愕。
疑念。
恐怖。
警戒。警戒。
殺意。殺意殺意殺意。殺意。
共にいることが怖かった。
空気が変質してゆく。高密度の感情、主に殺意が満たした空間は、千草に呼吸をすることすら許さなかった。
声も出せない。隣に立つ男が、“恐ろしくて仕方がない”。
「千草」
一言。声をかけられるが応えることは出来ない。千草の心は死に瀕していた。甘かった。怖かった。自分が最も使えると思った男は、想像を遙かに超えた死神だった。こんな、生きようとする気力すら無くなるような、今すぐにも死んでしまいたくなるような殺意を放てる男だったなどと、思いもしていなかった。
「厄介なことになったようや」
ようやく、空気が弛緩する。大きく息を吸い込む。普段は味など感じないはずの大気が、妙に苦い。融け出した殺気がこの様な味に染めているのだと、有り得ないことを思う。
「いるはずのない奴が、おる」
ようやく、ウルフウッドへ振り向くことが出来た千草が見た物は、まるで、人として何か大事な物を切り捨てたかのような、そんな相貌だった。
「なぜここにいる」
銃を突きつけながら、問う。
浮かび上がった数多の疑問。だが、状況はそれを解決させる刹那の間すら許さない。今、目前の男から少しでも意識を逸らせば、命は容易く尽き果てるだろう。
「お互い、随分と生き汚いもんやな。“あんなもん”に呑み込まれて、こうして無事でおるんやから」
あんなもの。プラントの光。悪魔の業。天使の力。
一人は地球(ホーム)へ。ならば、もう一人が同じく飛ばされていない保証など、どこにもない。
「なんのために、ここにいる」
次に口に出た言葉は、先程の問いに非常に似通っていながら全く異なる意を含んでいた。即ち、今現在の目的を。
「“あの場所”に、戻るためや」
そしてその男は、酷く濁った底の見えない眼で。
そんな事を口にした。
「戻る、だと? 何の意味がある。俺もお前も、ようやくこうして生きることが許されたというのに」
互いのトリガーに、力がこもる。
奇遇にも互いの銃は同じ45口径。この距離この角度で弾丸が射出されれば、間違いなく頭蓋を貫き脳を蹂躙し後頭部から突き抜ける。必至の状況。
「ワイにとっては、今ここでのうのうと生きることにこそ、意味がない。それこそ豚以下の生き方や」
奈落。闇の底。光のない世界。
その全てを内包する、黒い瞳。ボトム・オブ・ザ・ダーク。
押し潰されそうだった。
「随分と変わったなチャペル。あの時と同じ人間の目とは、とても思えん」
“チャペル。俺にはわかるぞ。貴様のその目……裏切り者の目だ”
“何を今さら。ブレードとナインライブズを屠った事をいうてるんか”
「これから一体何人を殺すつもりだ? 百人か? 千人か? それとも一万人か?
その目は“そういう目”だ。全てのモノの価値を切り捨て何か一つを選んだ、魔人の目だ」
「それがなんやと―――」
「そのまま全てを切り捨てて、血にまみれて、それでもお前は目指すのか? “終わってしまった”出来事を、覆すために」
終わってしまった。その言葉を決して、男は許す事が出来ない。
「終わっとらん!」
初めて、声を荒げる。だが、例え激昂していようとも、彼等がその戦いにおいて判断を誤る事は、無い。
感情にまかせて引き金が引かれる事もなく、機先を制して引き金が引かれる事もない。完全なる拮抗。しかし、綱渡りの拮抗。何かの切っ掛けがなければ絶対に崩れる事はないが、ほんの少しでもバランスを乱せば容易く崩れ転落する。
「まだや、まだ終わらん! 戻ってみせる。辿り着いてみせる。絶対に。必ず。必ずや!!」
慟哭。
それは先の見えぬ現状を知るからこそ溢れた、血飛沫にまみれた咆吼だった。
確信する。
自分も、そして相手も。本当にあの場所に戻る事が出来るとは、信じていないと。
まるで絵空事のように遠く儚いあの場所。
どの様な奇跡が起これば戻る事が出来るのか、想像もつかない。
しかし、一人は何よりも戻らなければならないと追い詰められ。
そして、一人は二度と戻りたくはないと心底考えている。
今も昔も、誰よりも死を忌避してきた自分達は、しかし、決して分かり合う事が出来ないのだと。悟った。
「ワイからも訊く。おんどれは何で、ここにいる」
闇の底のような目をした男から、一際低い地獄の使者のような声。返答によってはこのまま斃すとの恫喝であり意思表示だった。
「それが、お前が“戻る”ことに関係があるのか?」
だが、揺らがない。その様な恫喝程度で綱から転げ落ちる様な無様な心は、彼等は持っていない。
しかし、減速する。どちらかの死という結果へ向けて集束するための、減速を。
これ以上この綱の上を二人の人間が渡り続ける事は不可能に近い。ならば、どうすればよいか。簡単だった。その場で立ち止まり、相手を突き落とせばよい。彼等がその人生において数えきれぬほど繰り返してきた行為を行えばよかった。
「近衛木乃香。知っとるか」
知っている。当たり前だ。あの生きた妖怪の様な老人に、その娘の護衛を託されたのだから。
「戻るには、そのガキが必要や」
さらなる減速。シフトダウン。サード・ギアからセカンド・ギアへ。トリガーの指に緊張を。全身に、この上ない意識を。隅々にまで。
「どうやら、今回も敵同士……らしいな。チャペル」
ギアをセカンドからローへ。
急激なる停止はバランスを崩す。それは致命的。そんな隙は見せられない。
「また、立ち塞がるいうんやな」
「ああ」
―――――――――――――――――――停止。
動き出したのは同時だった。ウルフウッドは“引き金を引きながら”後方へと身体を倒すように飛びずさり、ホーンフリークは潜り抜けるかのように前方に身を投げ出し“トリガーを引き絞る”。
鳴り響く轟音。結界によって外へは漏れず。
二人して身を投げ出したまま宙に浮く時間。完全なる停止。だがその勢いは止められない。
照準を、再調整。互いが互いの心臓に。頭部よりも的の広い胴体ならば、容易い回避は望めない。
宙で身を捻る。引き金を引く。連射する。例え防弾チョッキを着ていようが、45口径オートマチックから繰り出される強装弾を至近距離から浴びれば、無事ではいられない。
飛び交う牙。服を破り、肉を剔り、血飛沫が舞う。
しかし、直撃はなかった。互いが互いの銃弾を避ける事を優先したために、致命傷を与えるには至らない。
そして二人はバランスを崩し、そのまま転がるように“ホームに躍り出る”。
彼等の時間が停止した瞬間。互いが引き金を引き合った瞬間に、JR新幹線あさま506号は名古屋駅へと到着していた。
狼同士の共喰いが、始まる。
『作戦は、単純や』
ウルフウッドの言葉。しくじるわけにはいかない。なぜなら、あの男があれ程までに警戒する敵が、麻帆良側についていたのだから。
『悪戯程度の妨害で様子を見るっちゅう案は変えんでええ。しかし、奴がいるからには百パーセント気付かれる。そういう能力を、奴は持っとる』
隠行呪符。ただ単に己の気配と姿を隠すためだけの代物。優れた術者には簡単に察知されてしまう程度の効果しかない。今、こちらに向かってくる少女剣士から隠れきれるかどうかは、分の悪い賭けでしかなかった。
『だからこそ奴を誘き寄せる。ここの人払いの結界は音を遮断するんやろ? ということは、奴は間違いなく、お前を追うかこの場所の確認に来る』
足音が聞こえる。懸命に息を殺す。気付くな。気付くな。アンタの相手など、しとる暇はあらへん。
『重要なのは仕掛けるタイミングや。奴を連れて駅へと降り、奴だけを孤立させ、二対一で確実に仕留める。そのためのタイミングを、間違うわけにはいかん』
列車が減速する。駅が近い。こちらに男は来なかった。きっとウルフウッドの方へと行ったのだろう。後はただ、この小娘をやり過ごしてウルフウッドと二人で男を殺す。それだけだ。
『奴がワイの方に来たのなら問題はあらへん。だが、もし千草の方へと行ったのなら、絶対に“あのケースを開かせる”んやない』
あのケース? 中に何が入っているかは知らない。間違いなく物騒なものだという事ぐらいしかわからない。
そして、足音。
トイレ。乗降口。車掌室。ありとあらゆる空間を探す音。ほら、だんだんと近づいてくる。
とたとた。
ぷしゅう。ばたん。
とたとたとた。ぷしゅう。ばたんばたん。
急ぎ足の足音。ドアが開く音。ドアが閉まる音。
とととたたたた。
すぐそこで。
ぷしゅう。
列車が止まる。
乗降口の、ドアが、開く。
「そこか!!」
逆袈裟の斬撃は突然に。恐怖のために後ろに倒れる。開いたドアからよろよろと外へ出た。臆病さが功を奏したのか、斬撃は当たらなかった。追撃を覚悟したが、相手は何故か、躊躇っている。
当たり前だ。少女の目的は護衛。列車を降りて引き離された際、万が一発車時刻に間に合わなかったら? それを考えると易々と降りられないのだろう。
少し、余裕が出来た。
「逃がしてくれておーきに、お嬢ちゃん」
全力で走り出す。ホームの前方へ。ウルフウッドと合流するために。
それを見て少女も列車の中を走り出す。万が一にも回り込まれターゲットへと近づかせないためか。
人混みに紛れる。隠れるために。逃げるために。逃がさないために。
初めの障害を、殺すために。
大河内アキラは、うとうとと心地よい睡魔に襲われながらも、この騒がしいけど暖かい空気を楽しんでいた。
昨日は、あんまり眠れなかった。楽しみにしている旅行の前日に興奮しすぎて眠れないなど、まるで子供のようだと自分でも思っている。それでも仕方がないと思う。昨日、知ってしまったから。音楽教師ミッドバレイ・ザ・ホーンフリークも、今回の修学旅行に同行する事となった事を。
話をしたいと思った。
どんな話が良いだろう。今から考えると心が躍る。班別自由行動の時に誘うなんてどうだろうか。裕奈もいるのだから、きっと断らないと思う。そう思いたい。
別にあの人を独占したいと思うわけではなかった。
ただ、傍にいられればよかった。それだけで不思議と安らげる。あの人の演奏を聴くと尚良い。だから、よくあるドラマのように親友といがみ合ってまでとは考えた事もない。実際、これが本当に恋愛感情なのかどうか、アキラにはよくわからなかった。
また、眠くなってきた。裕奈達は元気だなぁなどと思いながら、皆のはしゃぎ様を観察する。彼女達がやっているのはカードゲーム。アキラにはルールも内容もよくわからなかったが、皆が楽しんでいるのは伝わってくる。微笑ましい光景だった。
そういえば、ミッドバレイさんは何処へ行ったのだろう。
胡乱な頭で、そう思う。先程、車両の前の方へと歩いていったのだけど、見回りなんだろうか。受け持っている教科は音楽だけど、指導員も兼ねているとか?
『まもなく名古屋――――――』
今の放送はなんて言ったのか。到着します? 発車します? 寝ぼけた思考では上手く聴き取れない。窓の外の風景を覗く。
ああ、いつの間にか列車が止まっていたのか。気付かなかった。本格的に眠いみたい。普段と変わらず無表情だから、みんなはあまり気付いていないみたいだけど。
風景が動き出す。寝ぼけた眼を醒まそうと、隣の亜子に無理を言って場所を変わってもらう。見慣れぬ景色を見続けていれば、目も覚めてくるだろうと思って。
しかし。
「あ、え、え?」
加速していく風景に、アキラが見たものは、とてつもなく冷酷な眼をしたミッドバレイ・ザ・ホーンフリークが、黒服の男と向かい合いながらホームの先頭から線路へと飛び降りてゆく光景だった。
新幹線の音に紛れて、バン・バン・バンと爆竹のような音が、聞こえたような気がする。
その音の正体と、一瞬見えたホーンフリークの右手にあった物体との関連性に気付く事も出来ず、景色は急速に流れ過ぎていく。
ただ、アキラにわかるのは、その物体が、拳銃だということだけで。
何がどうなっているのかなど、見当もつかなかった。
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