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第十六話“HANG FIRE” 投稿者:SKY 投稿日:03/24-09:49 No.2166
弾倉を交換。淡々と狙いをつけ、引き金を引く。
『そのまま全てを切り捨てて、血にまみれて、それでもお前は目指すのか?』
お前がそれを言うんか。他ならぬお前が。ミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク!!
奴からの返信は銃撃だった。咄嗟に障害物の裏に隠れる。そして、意表を突いてそのまま飛び出した。
あの男、ホーンフリークは未だ真の武器を取り出せていない。黒いケースに仕舞い込んでいるあの武器は、使わせたら厄介な事になる。このまま、押し切る。
全速力で次の物陰へ疾走する。途端に数発の銃弾。しかし、後頭部を掠っただけ。
“やはり……や”
気付く。あの男は銃の腕も一流ではあったが、所詮それだけだった。超一流―――少なくともヴァッシュ・ザ・スタンピードどころか、自分にも及ばない。こちらの全速に奴は反応仕切れていない。
後は、千草の出来次第。それで決まる。奴を、ミッドバレイ・ザ・ホーンフリークを斃せる。
“ワイは、もう立ち止まらん!”
ウルフウッドはそのまま物陰から飛び出すと、銃を乱射しながら突進する。頭部の数センチ横を掠った銃弾など、心の内に叫んだ覚悟の前では芥のようなものだった。
【ブルージィ・マジック&クロス&ホーン】【第十六話“HANG FIRE”】
京都駅。何処からだろう。ニュースが聞こえる。
『先程発生しましたJR新幹線名古屋駅での爆発事件の続報をお知らせします』
ニュースが聞こえる。
あの人は戻って来ない。
嫌な、予感が、した。
『居合わせた目撃者の証言に拠りますと、大規模な爆発の前に連続した銃声らしきものも聞こえており―――』
ニュースキャスターの無機質な声。
あの人は連絡もしてこない。
悪い、予感は、止まらない。
『これに対し警察はテロの可能性を―――』
あの時の会話を反芻する。“気になるところがある”。確かに、あの人はそう言った。
つまりそれは、戦いが得意ではないというあの人が、自ら索敵に向かったということ。
どこかで、死神が、嗤っているような、錯覚。
『総理の緊急会見が1時間後に予定され―――』
ネギ・スプリングフィールドから聞き出した番号。それは、あの人の携帯電話のもの。しかし、先程から聞こえ続けているコール音は10分にも及んでいるにも関わらず、一度たりとも鳴りやむ気配はない。
声が、聞こえる。“お前の所為だ”、と。
『一時的に運行を見合わせるなど―――』
もしかしたら、携帯電話を紛失しただけなのかもしれない。もしかしたら戦闘によって壊れてしまったのかもしれない。そうだ。そうに違いない。きっと今頃別ルートで京都に向かっている途中で―――――――
『死者、行方不明者は―――』
考えたくもなかった言葉を、ニュースキャスターは紡ぎ出した。
死。行方不明。
考えるだけで恐怖に凍る。
あの音楽教師、ミッドバレイ・ザ・ホーンフリークがそうなってしまったと、考えるだけで。
別段、親しくしていたわけではなかった。
特別な好意を持っていたわけでもない。ただのその他大勢の教師達と一緒だった。教師達に向ける軽い尊敬の念。その程度しか、ホーンフリークのことを考えていなかった。
だから、自分・桜咲刹那がここまで後悔する必要など、ない、はず、だ。
「せっちゃん………」
いつの間にか。そう、本当にいつの間にか。
“お嬢様”、近衛木乃香が泣きそうな顔で刹那を見つめていた。
何故そんな辛そうな顔をしているのですか? いったい何があなたを悲しませているのですか? あなたを悲しませるものは全て私が切り捨てますから。どうかそんな顔をしないでください。
一瞬のうちに湧き上がってきた思考。自分の事を棚に上げているのは痛いぐらいに判っている。一番お嬢様を傷つけているのは自分だという事は、誰よりも判っているのに。
「辛い時は、ウチを頼ってくれて、ええんよ?」
なんで、そんな優しい言葉を、あなたは私にかけてくれるのですか?
気が付いたら、抱きしめていた。
抱きしめて、顔を寄せて、そのまま声もなく涙を流していた。
弱かった。私の意志はとてつもなく弱かった。たった一つの間違いで、根源から揺らいでしまうほどに、弱かった。
私の所為で誰かが死ぬ事が怖い。私のミスで誰かが犠牲になる事が怖い。私がもっと気を配れれば。私がもっと強ければ。私がもっと賢ければ。私がもっと、もっと、もっともっともっと―――――
気付けば、制服を浸透して肩に熱い水分を感じる。泪。お嬢様も、泣いているのか。嬉しいのか。悲しいのか。私はそこまで、お嬢様を傷つけていたのか。
悔恨の念は強くなるばかり。しかし、だからこそこの温もりが愛おしかった。全て、話そう。この世界中で誰よりも優しい人を傷つけ続けていた罰として、汚らわしい自分を全てさらけだそう。それで幻滅されても構わない。この温もりを思い出せれば、私はきっと地獄の業火すら耐えられる。
既に哀しいのか嬉しいのか、それすらも判らずに、ただ私は嘆き続けた。
最後にただ一つ、あの音楽教師の無事を祈って。
厄介な事この上なかった。
チャペル。ニコラス・D・ウルフウッド。死神の様な男。
ことごとくこちらの狙いを外してくる。裏をついて躱し、早さで躱し、勘で躱す。
ただ致命傷のみを外し、こちらの命を奪うための最短の道程を、躙り寄るように迫る悪鬼。
既に残弾も心許ない。愛用の45オートはエヴァンジェリンに破壊されてしまったために、現在の銃は龍宮から借りたコルトガバメントだった。銃の仕組みはこの星もあの星も大した差はなかったらしく、よく手入れをされている上に扱いやすい。しかし、それでも愛用の銃との差異が苛立たしい。
自分は、武器に拘りを持ちすぎる。
それが欠点である事は自覚している。シルヴィアが良い例だ。あれを失ったら、戦闘者としてのホーンフリークは、終わる。
だが、逆に利点であることも理解していた。己の半身といえるまでにその武器を使いこなし、完全にまで凶器に同調する。そして辿り着ける境地は、他のどんな物ですら凌駕する事を、ホーンフリークは知っている。
そして、最大の問題は、敵もそれを心得ているという事だった。
武器を抜く暇を与えない。
そんなことは不可能だった。銃と銃で撃ち合っている以上、その場に立ち尽くしていたら即座に命は尽きる。奴の武器が特に残弾を気にせず戦えるあの巨大な十字架ならばともかく、こちらと同じ拳銃なのだ。例え何丁持っていようが、弾倉の交換という作業が必要な以上、常に攻撃し続ける事が出来るはずはなかった。
しかし、それを補う存在を、相手は持っていた。
猿、だった。
デフォルメされた人形のような小型の猿の群れ。猿などというものは初めて目にするが、恐らく本物ではないだろう。心臓の鼓動も呼吸さえも聞こえないのだから。
如何に障害物に身を伏せても、猿の群れが向かってくる。猿たちの行動は皆一貫していた。サックスケース。ホーンフリークの半身とも言える武器を奪わんと、四方八方から襲い掛かってくる。
そちらに気を配れば、チャペルの苛烈な銃撃が襲ってくる。猿たちに余計な銃弾を使うわけにはいかなかったが、体捌きだけでどうにかなる様な相手でもない。残弾は刻一刻と減り続けていた。
物陰に隠れ、リロード。
そのたった数秒の間にケースをかすめ取ろうとする猿の群れ。銃弾を撃ち込み追い払いつつ、移動する。
逡巡している暇はなかった。
この使い魔を操っている女との距離は随分と離れている。指向性をカットした衝撃波ならば仕留められる可能性も高いが、それは相手も悟っている。だからこその連続攻撃。息つく暇もない波状攻撃により、着々と状況は悪化してゆく。
耳障りだった。
猿共のわめき声も、チャペルの立てるあらゆる音………心臓の鼓動でさえも。
これ以上は我慢ならない。一刻も早くこの耳障りな音を止めると決意した。
神経を集中させる。全てを聴覚へ。
猿が、来る。右から三匹。
捨て置く。途端にケースに絡みつく猿共。知った事ではなかった。最も愛用している武器を手放すという事は、とてつもなく不安を招く行為だったが、あの耳障りな音を一秒でも早く止めるためには仕方がない。
「ちぃっ」
わざと、声を出す。
誘き出す。罠。殺すための。罠
来い。来い。来い。その耳障りな音を止めてくれる。
鳴り響く足音。力強く大地を蹴る筋肉。パンクしそうな程に荒々しいビートを刻む心臓。チャペルという存在自体が一つのハードロックとなりこちらへと向かってくる。死神の演奏。とことん自分の音楽とは噛み合わない。
呼吸を聴き分ける。
激しい運動のためにチャペルは息を止めている。無酸素運動。しかし、そのままこの場所に辿り着けるほど、彼我の距離は近くはない。必ず一度、酸素を取り込む。
その一瞬に、賭ける。
息を吐ききり、吸い込み始めた一瞬。それが、虚を衝くための機だ。それを逃すつもりはない。
奴が来る。
5メートル。
集中。集中。あらゆる音を聴き分けろ。
4メートル。
ビジョンを作り出せ。明確なビジョン。奴を仕留める己の姿を。
3メートル。
そろそろだ。奴は必ず“呼吸”する。
その刹那に飛び出し、不意を衝き、地面に倒れ込むように伏せ、銃口だけを奴の頭部に向ける。勝算は7割。奴の身体能力と反射神経からの演算。自分の命をベットするには悪くない確率。その筈だった。
2メートル。
――――――声が、聞こえた。聞こえてはならない声。残り3割の敗北。それをもたらす、声が。
足元を見る。銃撃で仕留めたはずの猿。その姿に強烈な違和感。その猿だけ、形が違う。
まるで、何枚もの札が折り重なって猿の形を保っているかのような――――――
――――――何かに――――――飲み込まれるような――――――気が―――――した―――――
『三枚符術・京都大文字焼き』
それが、あの時聞こえた声だった。
「今なにか、言った?」
なんだろう。酷い胸騒ぎがする。
けど、亜子もまき絵も首を横に振るだけで。
でも、誰かの声が聞こえた気がする。
誰か、大切な人の声が。
「ゆーな、今の……」
見れば、アキラも青ざめた顔で私を見ている。さっきから様子が変だったけど、アキラにも聞こえたのだろうか。
酷い、不安。
まるでこれから沈む船の中にいるような。
「大丈夫、だよね?」
独り言。何がどう大丈夫なのかまったく判らない不安の中、ただ、祈るように空を仰いだ。隣に立つアキラと一緒に。
「仕留めたんか?」
隣に立つ女に、男は問う。ただ、この質問が無意味に近い事を、男は理解していた。
「保証まではできへん。ただ、あのタイミングで生きていられる人間がいるとは」
同感だった。いくら奴でも、あの状況で生き残れるとは思えない。自分ならば生き延びられるか? 自信はなかった。そして、男よりも運動能力が劣るであろう奴が生き延びられる可能性は、さらに低いはずだった。
「なら、ええ」
紫煙を吐き出し、煙草を足元に捨て、踏み消す。
馬鹿みたいに青い空を仰ぐ。
祈るように。嘆くように。
「そのまま眠りぃ、音界の覇者。お前が望んだ、バケモノのおらん世界でな」
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