第9話 幸せの行方(前編) 投稿者:TWIN,S 投稿日:04/08-04:05 No.54
夕映は必死に逃げた、幸いな事に迷路のように本棚が沢山並んでいる図書館島の構造を知っていた事からスタッグビートルアンデッドから逃げ延びる事が出来た。
そして地上に通じる通路に向って一直線に駆け抜けようとした。
しかし、彼女の行く手を遮るかのように目の前には、毒蔦植物の祖たるプラントアンデッド、蛍の祖たるファイアフライアンデッドが待ち構えていた。
その場から逃げようとした夕映であったがスタッグビートルアンデッドが追いついてきた、その場でへたれ込み恐怖の余り声が出せない夕映に向かってスタッグビートルアンデッドの剣が無常にも振り下ろされようとしていた。
ネギま!剣(ブレイド) 第9話 幸せの行方(前編)
無詠唱の魔法の射手がドラゴンフライアンデッドに向って放たれる、しかし、ドラゴンフライアンデッドは浮遊しながら余裕でかわし始に向って切りかかる。
辛うじてかわす始だったが、左腕からはアンデットたる緑色の血が流れ出す。
「マズイぜ、こりゃ勝ち目が無いぜ…。」
後方から、始の戦いを見ていたカモが呟く。
「カモ、どうにかならないのか?」
カモと共に後ろに下がっていたエヴァがカモに問い掛ける。
吸血鬼である彼女は昼間では力が抑えられてしまう為、戦う事が出来なかった。
「そ・そんな事、言われても……そうだ!!」
何やら思いついたらしいカモはエヴァに向って策を話し始める、話し終えた瞬間エヴァは顔を真っ赤にしながらカモを強く握り締めた。
「貴様、私にそんな事をしろと言うのか!!」
「ぐ・ぐるじい~~~!! で・でもこれが今一番の打開策としか…。」
問答をしている二人の前に始が吹き飛ばされてきた、始の身体は至る所が傷だらけで苦戦している状況が窺えた。
「何をしているお前達、早く逃げろ。」
受けたダメージが大きい身体を必死になって起こそうとする始はエヴァ達に向かい逃げるように言い聞かせる。
「何を言う、貴様はどうするのだ?」
「俺はアンデッドだ、死にはしない。」
「なら、私も不死の吸血鬼だ。 そんな私でもお前は助けると言うのか?」
始は尚も身体を起こしながら、エヴァ達を庇うような体勢で立ち上がる。
「……助けるのに理由は必要ない、例え君が何者であっても……剣崎ならそう言うだろう、それは今の俺も同じだ。」
「くっ…馬鹿が……仕方ない、カモ準備をしろ。」
「え!? 本当にするのかよ?」
「うるさい、良いから早く!」
策を受け入れたエヴァに驚きつつもカモは二人を囲む様に地面に模様を書き出す。
カモのやっている事が理解出来ない始はドラゴンフライアンデッドに挑もうとするがエヴァが始を抑える。
「何をするんだ?」
「すぐに終わる、少しの間此処にいろ。」
迫ってくるドラゴンフライアンデッドに身構える始だったが準備を終えたカモが叫び声が聞こえた。
「契約!!(パクテイオー!!)」
カモの叫びと共に地面に書かれた魔法陣から光が発せられ二人を包み込む。
「何だこの光は?」
「気にするな、それより私の方を向いて身体を少し屈めろ!」
戸惑いながらエヴァの言葉に従う始だったがその瞬間、エヴァと始の唇が合わさった。
二人の口付けと共に魔法陣から更に強い光が放たれると宙から始の姿を映したカードが現われた。
「何だ今のは?」
状況が理解出来ない始を余所にエヴァは始の契約カードを手にし詠唱を始めた。
「契約執行180秒間!!(シス・メア・パルス ペル・ケントウム・オクトーギンタ・セクンダース)」
「エヴァンジェリンの従者 相川始!!(ミニストラ・エヴァンジェリン アイカワハジメ)」
詠唱が終わると始の周りに光が覆う、それと共に始は身体から力が漲るのを感じていた。
「力が…一体何が起こったんだ?」
「貴様は私と契約をして私の従者になったのさ。」
今だ状況が理解出来ない始に対してエヴァは契約執行について掻い摘んで説明した。
「…つまり貴様は私が魔力を供給する事で能力が上がっているのさ。」
「それと、これも持って行け。 能力発動 相川始!!(エクセルケアース・ポテンテイアム アイカワハジメ)」
詠唱が終わると始の手には死神を連想させる大きな鎌が握られていた。
「これで奴とも戦えるはずだ、行け!」
「ああ…いくぞ!」
鎌の柄を握り締め、始は再びドラゴンフライアンデッドに立ち向かった。
スタッグビートルアンデッドの剣が振り上げられた時、夕映は身を屈めた。
そして、鈍い衝撃音と共に自分は斬られたと思っていた、しかし彼女自身痛みも何も感じなかった。
恐る恐る目を開けると彼女の前には一人の青年が立ち尽くし戸惑うアンデッド達に言い張っていた。
「お前達が何度蘇ろうと、俺が居る限り人間達には手を出させない。」
普段の夕映だったら青年に対して一言入れている所だろうが、助けが来てくれたと言う安心感からか緊張の糸が切れ気を失ってしまった。
それを確認した青年は懐からハートの中に蟷螂が入っている奇妙なカードを取り出す、それと共に青年の腹部からバックルが出現しベルトを形成する。
「変身!!」
「<CHANGE>」
掛け声と共にバックルの中央にカードをスリットした瞬間、青年はカリスへと姿を変えていた。
変身したカリスはスタッグビートルアンデッドに蹴りを放ち吹き飛ばすとプラントアンデッドとファイアフライアンデッドを階下にある湖に突き落とす。
湖に突き落としたアンデッドを追い詰める為に自らも湖に飛び込んだカリスであったがファイアフライアンデッドが火球を放って反撃をしてきた。
火球をかわしながら近づこうとするがプラントアンデッドの触手がカリスの足元に絡みつき動きを抑えられてしまった。
足を抑えられ動く事が出来ないカリスに向ってファイアフライアンデッドは火球を放とうとするが、カリスはカリスラウザーをアローに取り付けるとカードをスリットさせる。
「<BULLET>」
ファイアフライアンデッドは火球を放つが強化されたフォースアローが火球を打ち消す、その後もカリスはアローを連続で放ちファイアフライアンデッドにダメージを与える。
ファイアフライアンデッドが怯んだ隙を見てアローの刃の部分でプラントアンデッドの触手を切り落とすと湖の所々に置いてある本棚に飛び移ると次のカードをスリットさせた。
「<THUNDER>」
湖面に向って放たれた雷は水を伝ってプラントアンデッドとファイアフライアンデッドにダメージを与えた。
雷はファイアフライアンデッドには止めの一撃となり印が開くとカリスはすかさずカードを投げた。
カリスはファイアフライアンデッドを封印すると電撃攻撃でダメージが残るプラントアンデッドにカリスアローで斬りかかった。
何度かアローで斬りつけた後、止めを刺す為にカードを取り出しスリットさせる。
「<CHOP>]
強化された手刀はプラントアンデッドに直撃しアンデッドの印が開く。
カリスがプラントアンデッドを封印するとスタッグビートルアンデッドが現われ、カリスはアローをスタッグビートルアンデッドは双剣を構え睨み合った。
大学部から他の学部へ向う街道ではグレイブとペッカーアンデッドの戦いが行われていた。
ペッカーアンデッドは右腕の刀と左指のナイフでグレイブを切裂こうとするがグレイブはグレイブラウザーで受け流す。
そして、グレイブに変身している橘は訓練された動体視力で攻撃を繰り返すペッカーアンデッドの隙を見つけ出した。
グレイブは隙を見せたペッカーアンデッドをグレイブラウザーで斬り付け体勢が崩れた所に蹴りを放った。
ペッカーアンデッドが怯んだ所でグレイブはグレイブラウザーを展開させカードを取り出すとラウザーにスリットさせた。
「<MIGHTY>」
ケルベロスの力を吸収した刀身が輝き出すとグレイブはペッカーアンデッドに向って駆け出し斬りつけた。
斬られたペッカーアンデッドはそのまま倒れアンデッドの印が開く、それを確認したグレイブはカードを投げつけて封印した。
アンデッドの封印を確認したグレイブはスーツに内蔵されている通信機を使い研究室に居る広瀬達に連絡を入れる。
「橘だ、アンデッドの状況はどうなっている?」
「両方で戦いが行われてるわ、一方は剣崎君が、もう一方は始が戦ってるわ。」
「それと、剣崎君の所には3体アンデッドが居るけど1体はカテゴリーAで…今2体反応が消えた、どうやら封印したみたい。」
「…分かった、これから始の方に向う。」
一瞬剣崎の所へ向うかと迷った橘であったが始を救う為、レッドランバスを走らせた。
ドラゴンフライアンデッドの攻撃を始は鎌の柄で防ぎ、カウンターで蹴りを放つ。
完全ではないがヒューマンアンデッドの力と契約執行の力で始の身体能力はドラゴンフライアンデッドに引けを取らない位にまで達していた。
「(身体が軽い、まるでカリスに変身している時と変わらない…これなら戦える。)」
始が突然強くなった事に戸惑うドラゴンフライアンデッドは両刃のダガーで始に斬りかかる、しかし始は大鎌の柄でダガーを弾くと腹部目掛けて石突をぶつける。
腹部を押さえながら怯むドラゴンフライアンデッドに更に追い討ちを掛けるように連続で回し蹴りを放ち、持っていた大鎌をドラゴンフライアンデッド目掛けて振り下ろした。
この一撃が致命傷となったドラゴンフライアンデッドは倒れアンデッドの印が開く、始は動けないドラゴンフライアンデッドに近づき橘から貰っていた未封印のカードを取り出した。
「せっかく封印が解けたのに俺の前に現われたのが失敗だったな…。」
始は持っていたカードを手放す胸元に落ちたカードはドラゴンフライアンデッドを封印した。
封印されたカードを手にした始はエヴァ達の処へ戻る。
「ありがとう、おかげで助かったよ。」
「あれしきの敵、呪いさえ無ければ私一人で十分だったんだ、そもそも…。」
素直に礼を言う始に対して毒づくエヴァは話している途中に倒れ、始は駆け寄りエヴァの身体を抱き上げた。
「お・おい、大丈夫か?」
「こりゃ、魔力の消費による疲労だな…少し休ませれば大丈夫だよ。」
「そうか…彼女の言っていた呪いとは何だ?」
「ああ、それはな……。」
始はカモからエヴァに掛けられた呪いの話を聞いた、話を聞き終わった時、始達の下に橘が来た。
「大丈夫か始。」
「橘か、彼女は気を失っているだけだ、それにアンデッドならもう封印した。」
始は橘にドラゴンフライアンデッドを封印したカードを見せると今までの経緯を説明した。
「そうか、ならば俺は剣崎の処に向う…来るか?」
「俺は彼女を家まで送っていく、剣崎を頼む。」
「分かった…それと契約と言うヤツか、その事は他の奴等に、特に天音ちゃんには絶対に言うな…。」
契約をした事を口止めされる理由が始には分からなかった。
しかし、仮面を着けている為見えないが、それでも真剣な表情なのが読み取れたのか始は素直に返事をした。