第10話 幸せの行方(後編) 投稿者:TWIN,S 投稿日:04/08-04:05 No.55
「(マズイです、ここでカテゴリーAを失うのは痛いですねえ…)」
誰も居ないはずの図書館島の地下でカリスとスタッグビートルアンデッドが戦っている光景を何者かが眺めていた。
そして、困った様な顔をしている何者かの隣に少女が並ぶように立っていた。
少女はカリスの姿を見ていたが、やがて前へ出るとレンゲルバックルを取り出した。
「(戦ってくれるのですか…そうですね、此処はあなたが適任ですね。)」
「(何故なら彼は…。)」
何者かの言葉を聞き終えぬ内に少女はバックルのベルトを腰に巻きつけ、掛け声と共にバックルを開いていた。
「変身!!」
「<OPEN UP>」
少女の前方に出現した光の壁は、少女目掛けて接近してくる。
光に壁が少女の身体を潜り抜けた時、少女は仮面ライダーレンゲルへと姿を変えていた。
ネギま!剣(ブレイド) 第10話 幸せの行方(後編)
静寂な図書館の中でスタッグビートルアンデッドの双剣とカリスのアローが交錯する音が鳴り響く。
スタッグビートルアンデッドの一閃をかわしたカリスはすかさずアローを振り下ろすがスタッグビートルアンデッドはもう片方の剣でアローを受け止めた。
しかし、カリスはアローを受けている方に蹴りを放つ、吹き飛ばされたスタッグビートルアンデッドの身体が本棚を豪快に倒していった。
スタッグビートルアンデッドを吹き飛ばしたカリスは腰のホルダーからカードを取り出しスリットに通した。
「<BULLET>」
「<FIRE>」
崩れ落ちた多くの本の中から起き上がったスタッグビートルアンデッド目掛けてカリスは2体のアンデッドの力で強化された矢を放つ。
スタッグビートルアンデッドは双剣でアローを防ぐが完全に防ぐ事は出来ず再びその身体を宙に舞う事となった。
再び本棚と共に崩れ落ちるスタッグビートルアンデッドに止めを刺す為、カリスは走り出した。
しかし、カリスの目の前に突然何かが落ちてきて床に突き刺さった。
カリスは突然落ちてきた物を見て動きを止める、先端に3枚の刃を付けた深緑の杖。
杖が落ちて来た先を見上げたカリスは大人の背丈の倍以上有る本棚の上に居る深緑の鎧に身を包んだ戦士の姿を見つけた。
「…レンゲル……。」
レンゲルは本棚から飛び降りると、床に突き刺さっている杖、レンゲルラウザーを引き抜くとカリス目掛けて振り下ろしてきた。
振りかぶったレンゲルラウザーを避けたカリスはレンゲル目掛けてアローを振るうが、今度はレンゲルがレンゲルラウザーでカリスの攻撃を防いだ。
二人の武器が幾度と無く火花を散らす中、カリスはレンゲルが自分の行動を予測している事。
そして人のものとは思えない邪悪な意思を感じ取った。
「…お前は、カテゴリーAか?」
レンゲルはカリスの問いに答える事無くレンゲルラウザーを振るってきた。
カリスはレンゲルの攻撃をジャンプして避けると背にしていた本棚を蹴った。
本棚を蹴った反動で勢いを付けたカリスの蹴りがレンゲルに決まった。
カリスの蹴りが決まり吹き飛んだレンゲルは変身が解け少女の姿に戻ってしまった。
「カテゴリーAの奴、適格者とはいえ女の子を利用するとは…。」
カリスはレンゲルバックルを外そうと少女の許に近づく、そしてバックルに手を伸ばそうとした時、突如カリスの身体は宙に舞った。
少女はカリスがバックルに手を伸ばす隙を突いてカリスに攻撃を仕掛けたからである。
カテゴリーAに支配されている少女の身体はレンゲルにならずともカテゴリーAの力を発揮できる状態になっていた。
少女は身体を起こすと再びバックルのカバーを開いて再びレンゲルに変身する。
戦闘を再開したカリスとレンゲルは先の戦いとは違い肉弾戦になった。
しかし、適格者が女の子だと知ったカリスはレンゲルの攻撃を全て防ぎ反撃できずにいた。
「(そうです、それで良いのですカリス。 相手はあなたが護るべき人間なんですから…。)」
思惑通りレンゲルに手を出せないカリスを何者かは眺めていた。
基礎能力は仮面ライダーの中で最強であるレンゲルの拳や蹴りをカリスは必死に防ぐ。
しかし隙を付かれ強烈な拳が決まり、吹き飛ぶカリスの身体が閲覧所の机を派手に破壊した。
粉々に砕けた机から起き上がるカリスの前に再びスタッグビートルアンデッドが現われ双剣を振るった。
レンゲルとスタッグビートルアンデッドの加勢によりレンゲルは窮地に立たされる事になった。
双剣の連撃に膝を付くカリスをスタッグビートルアンデッドは取り押さえるようにして立たせた。
抑えられたカリスを見たレンゲルはホルダーからカードを取り出しレンゲルラウザーのスリットに通した。
「<BITE>」
「<BLIZZARD>」
「<BLIZZARD CRASH>」
コブラの祖たるコブラアンデッドと白熊の祖たるポーラアンデッドの力がレンゲルの両足に力を与える。
高々と跳躍したレンゲルえを見たスタッグビートルアンデッドは自らも巻き込まれない為にカリスを抑えている力を弱めた。
カリスはその瞬間を逃さず、スタッグビートルアンデッドの拘束を振り解くとスタッグビートルアンデッドをレンゲル目掛け投げ付けた。
レンゲルの両足から発せられた吹雪はスタッグビートルアンデッドを凍り付かせ、その凍り付いた身体に両足で蹴りを打ち込んだ。
勢い良く吹き飛んだスタッグビートルアンデッドは地面に叩き付けられたが、深手を負いながらも立ち上がった。
それを見たカリスはカリスラウザーをアローにセットしカードをスリットに通した。
「<DRILL>」
「<TORNADE>」
2体のアンデッドの力がカリスの身体に力を与えた。
「<SPINNING ATTACK>]
「はぁあああー!」
カリスの周りに竜巻が発生しカリスの身体を宙に浮かせるとカリスの身体が急速に回転し始める。
ダメージの大きいスタッグビートルアンデッドに最早逃れる術は無く。
竜巻と螺旋の力を加えたカリスの錐揉みキックがスタッグビートルアンデッドを貫いた。
2人のライダーの必殺技を喰らったスタッグビートルアンデッドに立ち上がる力は無くアンデッドの印が開く。
未だ宙に浮くカリスはスタッグビートルアンデッド目掛けてカードを投げ付け封印した。
封印したカードを手に取り着地したカリスだったが膝を付いて崩れる。
連日の戦いにおける疲労と受けたダメージは不死たるアンデッドと云えども深刻だった。
「(レンゲル、カリスからカテゴリーAを取り戻しなさい。)」
何者かに命令されたレンゲルはカリスからカテゴリーAを取り返すべくカリスに襲い掛かろうとした。
しかし、レンゲルの目の前に突然、炎に包まれた大木が落ちてきた。
辺りを見回すと図書館の至る所で火が上がっていた。
先の戦いでカリスが放った炎の矢をスタッグビートルアンデッドが防いだ時、弾け飛んだ炎の矢が木製の机や本棚。
更に至る所に置いてある観葉植物に引火したのだ、因みに本自体には保存の魔法が施されている為に引火はしていない。
これは、トラップが発動した時に本自体が傷付かない為の処置でもあった。
突然レンゲルの動きが止まり燃え上がる図書館を見つめていた。
「いやぁあああーーー!」
悲鳴を上げたレンゲルは頭を抱えて蹲ってしまった。
レンゲルの許に近づこうとしたカリスだったが目の前から火の手が上がり行方を遮った。
その隙を付いて何者かはレンゲルを連れ去った。
「(思い入れが強い場所が燃えているショックで、一時的に支配から逃れましたか…)」
自分の計画に誤算が生じた事に、苦虫を噛んだ思いで何者かは図書館島を後にした。
レンゲルが居なくなった事に気づいたカリスは自分も脱出する為に跳躍した。
そして、自分が戦いを始める際に倒れていた少女、夕映の許に急いだ。
夕映は今だ気を失っていたが辺り一面火の海となってた、カリスは夕映を抱きかかえると地上に向って走り出した。
学校ではネギ達、教師一同の職員会議が終ったところであった。
会議室を後にする教師達の中からタカミチがネギの許に近寄ってきた。
「やあ、ネギ先生。 話は学園長から聞いたよ、また大変な事件に巻き込まれたみたいだね。」
「もし、手に負えなくなったら僕の所に来るんだよ、力になるから。」
「ありがとうタカミチ。」
タカミチの心遣いに素直に礼を言うネギだったが、電話を受けていた学園長の叫び声が聞こえた。
「な・なんじゃとー!!」
学園長の叫び声と同時に明日菜達がネギの許に駆け寄ってきた。
「ネギ君、大変や! 図書館島が火事や!」
それだけでも充分驚く事態であったが明日菜が続けて放った言葉は更なる衝撃を与えた。
「しかも、図書館島には夕映が本屋ちゃんを探しに行っちゃってるのよ!」
「な・なんですってー!」
自分の生徒の危機にネギは会議室を飛び出し、明日菜達も続いた。
夕映は夢を見ていた、幼い時、出掛けた先のデパートが火事になって取り残された時の夢。
辺り一面は火の海で、もう自分は助からないと思って泣いていたその時、火の海を掻き分けて誰かがやってきた。
その人は夕映を抱きかかえると燃え盛る炎から夕映を庇うように来た道を引き返し始めた。
途中で気を失ってしまい、気が付いた時に彼女の視界に入って来たのは泣いている両親の姿だった。
夕映は助けてくれた人の事を尋ねたがその人は夕映を救助隊に預けると何処と無く去って云ったそうだ。
夕映が目覚めると其処は火の海だった、そして身体を動かしていないのに景色が動いているのに気が付く。
自分の置かれている状況を意識が朦朧とする中、必死に理解しようとしていた。
「…さて、私はのどかを探しに図書館島へ忍び込んだらアンデッドに襲われて気を失った筈…。」
「なのに、何故こんな地獄絵図みたいな状況に…それに何故身体を動かしていないのに景色が動いているんでしょう…?」
ぼんやりとする視界の中に青年の姿が写った。
「この人は…そうです、この人がさっき私を助けてくれた人ですね…。」
夕映は記憶を呼びこしその青年がさっき自分をアンデッドから救ってくれた青年だと理解した。
何を思う事無く夕映は青年の事を見つめていると、視線に気付いたのか青年は笑顔で応えた。
「気が付いたかい…大丈夫、君は俺が絶対に助ける。」
青年の言葉を聞いた瞬間、夕映は幼い自分を助けてくれた人が同じ事を言って励まし続けてくれた事を思い出した。
何の確証も無い言葉だったが、彼の思いが伝わったのか夕映は彼を信じる事が出来た。
「…また、助けに来てくれたんですね…会いたかったです…。」
夕映は青年の胸元にしがみつくと再び気を失ってしまった。
青年は夕映の言った事が理解出来なかったようだったが、地上目指して走り抜いていった。
ネギ達が図書館島へ到着した頃には、辺りは消防車や野次馬で埋め尽くされていた。
その中から、図書館島を眺めている橘の姿を発見した。
「橘さん、どうして此処へ?」
図書館島に近づいた橘であったが辺りは既に野次馬で溢れ返っており、仕方なく変身を解いていた。
変身を解いたと同時に消防車なども到着し図書館島に入る事も出来なくなってしまった。
ネギに声を掛けられた橘は今までの経緯を話す、そしてネギも図書館島の中に夕映が居る事を話した。
橘達は夕映を助けに行くべく突入しようとした時、消防士の声が聞こえた。
「生存者だ、女の子が一人だ。」
少女を抱えてきた消防士の姿を確認すると、ネギ達は制止する消防士達を押し退けて彼女の許に近づいた。
ネギ達は顔は煤で汚れていたが彼女が夕映である事が確認できた。
橘は直ぐに夕映の容態を確認したが、命に別状は無い事を確認するとネギ達は大いに喜んだ。
程なくして夕映は意識を取り戻した、すると夕映は急いで辺りを見回し声を掛けてきたネギ達に尋ねてきた。
「…あの人は何処に行きましたか?」
ネギ達は誰の事かと尋ねると、夕映は中での出来事を話した。
橘は直ぐに助けてくれた青年が剣崎である事を理解した、橘は微笑みながら夕映に言った。
「剣崎なら大丈夫だ、それにまた会えるさ。」
図書館島が火事で大騒ぎしている頃、始はエヴァを抱えてエヴァの家に向って歩いていた。
暫く歩いているとエヴァの瞼がゆっくりと開き始めた。
「……此処は…うわっ! あ・相川始、貴様何を…!!」
「まだ動かない方が良い、少し疲れているんだからな。」
始に抱きかかえられている事に動揺するエヴァに対し始は冷静に答えた。
暫く両者無言のまま歩いていたが、始はエヴァに話しかけた。
「俺がまだジョーカーと呼ばれていた時、幸せとかそんな事考えた事無かった。」
「只、アンデッドの本能に従うまま、戦い続けるだけだった…あの日までは……。」
始は自分の過去を話し始めた、ジョーカーとして恐れられていた事。
ヒューマンアンデッドを封印して人の心を持った事。
戦いの中で天音の父親を死なせてしまい彼に天音達を託された事。
天音の父親の気持ちが理解出来ないまま天音達の前に姿を現した事。
天音と出会い人の心を理解した事。
最後の一人となり、世界を滅ぼしかけた事。
そして、剣崎の事。
「剣崎は俺に、人間の世界で生きろ、そう言って俺の前から姿を消した…。」
「そして、天音ちゃん達と過ごす事で幸せの意味を知る事が出来た。」
始の過去を聞いてエヴァは自分の境遇と似ている事を感じていた。
吸血鬼として人々から恐れられ、多くの人々を殺した事。
恐れられていた自分を助けてくれた人と出会った事。
ナギと出会い、彼から、光に生きてみろ、と言われた事。
そして、彼が自分の前から姿を消した事。
「(…そうか、私がこの男が気になった理由は、この男が私と似ているからか…。)」
「(しかし、唯一違う所と言えば、この男は自分の与えられた運命に立ち向かっている事か…。)」
「(運命と諦め、只流れるままに生きている私とは…。)」
始は更に話し続ける。
「……幸せとは成るとかじゃなくて、与え、与えられるものだと思う。」
「俺が天音ちゃんや剣崎から、君がナギと言う男から幸せを与えて貰ったように…。」
「き・貴様、誰からその事を…。」
始から発せられたナギと言う言葉に驚くエヴァだが始の話は続いた。
「ナギだけじゃない、君にはネギや他の皆が居る、彼等が君に幸せを与えてくれるから…君や俺も幸せになれる。」
「そうだとしても…坊や達はいずれは死ぬ……例え今がそうだとしても…私は長く生き続けるのだ…結局は一人なんだ…。」
俯いて喋ったエヴァの言葉は何時にも無く弱気で悲哀じみたものだった。
「それは俺も同じだ、天音ちゃんも虎太郎も橘もいずれは…そして、その後も俺は生き続ける。」
「それに、君には俺が居る…君の従者の俺が…俺は絶対に死なない。」
その言葉を聞いてエヴァは顔を上げ、始の顔を見た。
始の微笑んだ顔は、ナギが最後に見せた笑顔に似ていた。
「……貴様、それで良いのか、貴様には栗原天音と言う者が居るではないか。」
「もちろん天音ちゃんも大事だ、でもそれと同じ位君の事も大事だ。」
「…そうか、ならば少し、こうさせて貰うぞ……始。」
エヴァは始の胸に顔を埋めた、始は何も言わなかった。
始に抱きついたエヴァは始の身体から命の鼓動を感じ取っていた。
「(不思議だ……同じ不死成る存在なのに、どうして暖かいんだ…。)」
此処では静かな時が流れていた。
図書館島の火災は夕方には沈下する事が出来た。
出火の原因はアンデッドと言う報告を出せる筈も無く、原因は不明とされその結果、図書館島には暫く出入り禁止となった。
館内に居た夕映は休館中に関わらず中に入ったと言う理由で停学1日が言い渡されただけだった。
そして、一日が終わる……筈だった。
始達が学園長に言われたとおり、教職者用の寮に入り始が自分用に用意された部屋に開けた。
しかし、始の部屋は何故かボロボロに荒らされていた…。
其処に何故かエヴァがやってきて…
「これでは住む事は出来ないな、もう暫く私の家で暮らすと良い。」
…と言って始を連れて行ってしまった。
一部始終を見ていた橘は思った。
「この事が天音ちゃんにバレなければ良いが…。」