子供先生と仮面の男 第二話(ネギま!×仮面ライダー (オリ主・オリ有) 投稿者:紅 投稿日:04/08-02:16 No.26
子供先生と仮面の男
第二話 『来訪、学園都市』
嵐が手紙の返事を書いた数日後。
再び送られてきた手紙には『麻帆良学園都市』への道筋が事細かに書かれていた。
「(そんなに向こうに行くという返事をしたのが嬉しかったのか? ……まさかな)」
迷わないように細心の注意を払って書かれたと思われるソレを見ながら、自分でも的外れだと思う推測を浮かべて苦笑する。
嵐は今、学園都市に向かう電車の中にいた。
出口に程近い手摺に掴まり、窓の外を流れていく景色に視線を移す。
電車に乗ってからかれこれ三十分ほどの時間が経過し、幾つもの駅で激しい乗り降りが繰り返されていた。
それがこの電車にとっての日常なのである。
そして本来ならこの時間、この電車の中には女性しかいなくなるはずなのだ。
先ほど止まった駅から先は、男子禁制とされる『女子中、高等部』にしか止まらないのだから。
当然、今日初めてここを訪れる嵐がそんな事を知っているわけもなく彼はそうとは知らずに「女子の中に一人だけいる男子」という状況に陥っていた。
事実、彼の周囲には中、高等部の女生徒しかいない。
こういう状況に陥った男は嬉しがるか、居心地の悪さを感じるかの二者に分かれる。
だが嵐という男の反応は違った。
無関心なのである。
周囲の状況の推移、特に『異性しかいない』という状況に対して殊更に無関心。
つまり気にしていない。
無視なのである。
さも当然のようにそこにいると言ってもいい。
だからだろうか?
彼の周囲一メートル圏内に人はいない。
その無関心な態度が周囲との間に無意識の壁を作っているのだ。
だが彼の方はそれでよくとも周りはそうはいかない。
彼を遠巻きに眺めてはヒソヒソと話し合う女生徒ら。
話題はもちろんこの異分子についてである。
「あの人、この先になんの用があるのかなぁ?」
「さぁ? でもなんか暗くて近寄りづらい人よね……」
「いいんじゃない? クールな感じでカッコイイと思うけど」
「凄く綺麗な髪してるよねぇ。……あれ地毛かな?」
などの姦しい会話が繰り広げられているのだが本人は気づいていない。
彼の頭の中ではこの後、会う事になる『近衛近右衛門』なる人物についての最終確認が行われており、そんな会話に耳を傾けている余裕がないのだ。
なにせ彼の脳内では最終的に戦闘に発展する可能性まで思案されている。
表情にこそ出ないがピリピリしていた。
「(仮に戦闘になったとして……何も知らない人達を巻き込まずに切り抜けられるか?)」
最も優先すべき事象に触れ、我知らず拳を握り締める。
誰かが傷つくのを黙ってみている事など出来ない。
出来るはずがない。
だが戦闘になれば自分には周囲を気遣う余裕はなくなるだろう。
その結果、誰かを巻き込んでしまうかもしれない。
護る為に戦った結果が、『勝ちはしたが無関係の人間を巻き込み、傷つけてしまった』では話にならない。
自分は護るために戦うのだ。
相手を殺すためでも、誰かを傷つけるためでもない。
そう自分に言い聞かせ、握り締めた拳を開く。
「(どう動くかを決めるのは俺じゃない。……相手の方だ)」
覚悟を決め、唯一の荷物であるリュックを背負い直す。
それとほぼ同時に電車が止まった。
目的地に到着したのだ。
『麻帆良学園中央駅~~、お降りの方はお忘れ物のないよう気をつけて~~~』
ドタドタドタドタ…………!!!!
ドアが開くと同時に飛び出していく人の群れ。
嵐はあらかたの人間が外に出るのを見届けてから降りる。
目的地『麻帆良学園中等部』はすぐそこまで来ていた。
「いーじゃないかよ。一日くらいさぼったってさぁ」
「いえいえ、そういう訳にはいきません。これでも皆勤賞を狙ってますから」
ニヘラニヘラと締まらない笑顔で中等部の女生徒に話しかける高等部の男子生徒。
対する女生徒も笑顔を浮かべてはいるがその物腰はかなり堅い。
構っていられないと態度で表している。
普通の男ならここで相手に脈がないと気づくだろう。
にも関わらず男には諦める様子はない。
それもそのはず。
この男、一度見初めた相手を徹底的に口説き続けるという悪癖の持ち主で、相手が折れるまでひたすら声をかけ続けるのだ。
しかも空手部に所属しており、それなりの実力者でもある。
相手が頑なに拒むならばムリヤリにでも連れて行く。
自分勝手極まりない性根をした男なのである。
「そう言うなって。楽しいところに連れて行ってあげるからさ」
「けっこうです。急いでいますのでこれで……」
馴れ馴れしく肩に手を置こうとする男を振り払い、その場を離れようとする女子。
「おい、待てよ!」
その態度に頭に来た男は声を荒げた。
女子の腕を掴み、強引にその進路に割り込む。
「おい、お前! こっちが下手に出てるからってあんま調子のんなよ?」
「(はぁ……)」
その自己中心的な発言に、とうとう閉口する女子。
これ以上は何をしても無駄だと察したのだろう。
かと言って学校をサボッてまで目の前の男に付き合うだけの価値があるかと言われれば、彼女は迷わず『NO』と答える。
当然だが。
とはいえ彼女にはこの状況を打破できる手段はない。
腕を掴まえられる前に走って逃げれば良かったのだが、今となっては後の祭り。
元々、彼女の身体能力は平均中学生よりも少し高い程度。
運動部所属の男と鬼ごっこをして勝てるかどうかは微妙な所だ。
「さ、諦めて付き合いなって。楽しいからさ」
「(どうしようもないわね。出来れば隙を見つけて逃げたいのだけど……)」
男に聞こえない程度のか細いため息をつく。
「(誰か助けに来てくれないかしら? この時間じゃ期待できないでしょうけど)」
既に登校時間を五分は超過している。
どんなのんびり屋でも学園についている頃だろう。
目の前の男と同じ人種ならばいるかもしれない。
だがその場合、最悪二人の男(おおかみ)を相手にしなければいけない。
そうなってしまえば本当に逃げる事ができなくなるだろう。
「さ、行こうぜ」
馴れ馴れしく、しかし強引に腕を引いて歩き出そうとする男。
既に彼の頭では一緒に行く事が決定しているのだろう。
そこには相手の都合を考えるという心は微塵も感じられない。
そんな傍若無人な態度にいいかげんボランティアで悪ガキ相手に鍛えられた彼女の忍耐力が限界に達しそうになったその時。
「……おい」
低めでありながら良く通る。
そんな不思議な調子の声が二人の鼓膜を振るわせた。
「あ?」
「?」
同時に声の方向を見る。
「っ!?」
声の主を見た瞬間、女生徒は目を見開いた。
そこにいたのは背の高い男だった。
彼女のクラスの上位に位置するだろう褐色肌の少女よりもさらに高い。
決して細すぎず太すぎない絶妙なバランスの体付き。
そして端整でありながらもどこか野性味を帯びた面立ち。
ほんの少しだけ青みがかった瞳が、柔らかな光を放っている。
だが彼女が目を奪われた最大の要因は流れる風にたなびく腰まで伸びている雪のように真っ白な髪だ。
一体、どういう場所の生まれならばあそこまで白くなるのか?
そう思わずにはいられない白さである。
「誰だよ、あんた?」
そんな彼女の感動にも似た驚愕に水を差したのは軟派男だ。
どうやら彼は彼女のような感銘は受けなかったらしい。
邪魔をされた事がよほど気に食わないらしく、今にも殴りかからんばかりに現れた男を睨みつけている。
「……俺の事はどうでもいい。その子の手を離せ」
先ほどまでと変わらない抑揚のない声。
男からすればただ事務的にしか聞こえないその声に。
女生徒にはほんの僅かに怒気が混じっているように感じられた。
「うっせぇな。いきなり話に入り込んできてなんなんだよ、あんた?」
「嫌がっている人間を無理やり連れて行こうとするお前こそなんだ?」
「……んだと?」
男の表情が険しくなる。
「正義の味方気取りかよ? 今時、流行らねぇぞ?」
嘲笑を浮かべる男の言葉にも無表情を保つ白髪の男。
その態度にいい加減、焦れたのか男は女生徒の手を離す。
強く握られていた彼女の腕は少し赤みを帯びていた。
「急いでいけばまだ間に合う」
「えっ?」
女生徒はその唐突な言葉が自分に向けられた言葉だと思わず、つい意味のない声を発していた。
男の方も今は女生徒よりも白髪の男の方に意識を向けているので特に振り返ったりはしない。
「これ以上、道草をしていると本当に遅刻するぞ? 行け」
「あ、はい!」
この時、彼女はもう『遅刻をする』という事などどうでもいいと感じていた。
それよりも目の前に現れた異様な男に興味を引かれたからだ。
だがここで立ち尽くしていては彼の不器用な心遣いが無駄になる。
女生徒は後ろ髪を引かれる思いを振り切ると駆け出した。
「てめぇ、人のナンパ邪魔しやがって……ただじゃ済まさないからな」
左半身を前に出し、右拳を腰の位置にまで下げ、腰を落とす。
それはまるで見本のように綺麗な正拳突きの構えだった。
「……」
殺気立つ男の様子をただ黙して見つめる白髪の男。
その態度を余裕だと捉えた男は息を大きく吸うと握り締めた右手を突き出した。
「セイッ!!」
裂帛の気合と共に放たれる一撃。
それは狙いを外す事無く男の胸へと吸い込まれていく。
彼はこの時、自分の前に無様に倒れ伏す相手の姿を思い描いていた。
その口元には笑みが浮かんでいる。
「俺の邪魔をするからそうなるんだ」と思い描いた男に嘲る。
だがその空想は空想のまま終わる事になる。
なぜなら彼が放った拳は白髪の男に苦も無く受け止められてしまったからだ。
「へっ?」
その事態を認識する前に男の身体が宙を舞う。
身体が軽くなったような錯覚を生む浮遊感を味わったそのすぐ後。
彼は背中を地面に叩きつけられて、意識を失った。
「……」
目を回している男を近くのベンチに置くと白髪の男、嵐は目的である中等部校舎を目指して歩みを再開した。
同封されていた地図を見ながら、周囲を見回し現在位置を確かめる。
頭に浮かぶのは先ほどのやり取り。
「(さっきの女の子は間に合っただろうか?)」
間に合ってくれればいいと思う。
あんな男の為に、彼女が不幸な目に合うというのは割に合わない。
出会ったばかりの名も知らぬ少女の事を真剣に考える。
と同時に先ほど『足払い』をかけて気絶させた男の事も考える。
自分が取った行動が最善であったとは思わない。
しかし自分にはああするしか解決策が思いつかなかった。
ふともしもあの場に居合わせたのが自分の家族ならばどうしただろうと考える。
「(あの人ならたぶん一喝して終わりにしていただろうな。……あの人ならたぶん有無を言わさずに殴り倒していたかも……)」
そんな仮定の話を頭に浮かべる自分に苦笑する。
「(悪い癖だな……俺は俺だろう? 本郷嵐……。今、この場にいるのは俺なんだ。なら仮定の話に意味なんてない。俺なりに考えて後悔しないように行動しろ……。あの人たちと共にいてソレを学んだんだろう? お前は……)」
軽く頭を振って思考を振り払う。
そして目前に迫った建造物を見上げた。
「ここが……麻帆良学園中等部、か」
西洋風で静謐な印象を与える建物を見上げながら呟く。
上から下まで建物を眺め終えたその瞬間、彼の脳裏に『何か』がよぎった。
「んっ?」
一瞬だけなので判然としない。
ただよぎったソレはこの建物に良く似た造りの一軒家のようだった。
「(なん、だったんだ?)」
こめかみにズキリと軽い痛みが走る。
思わず手で押さえるが痛み自体はすぐに治まった。
その感覚と一瞬、映った映像について思考を巡らそうとしたその時。
「君が本郷君かい?」
優しげでありながらどこか力強さを感じさせる声。
訝しげにそちらを見ると、無精ひげに灰色がかった髪をしたスーツ姿の男が立っていた。
「……あなたは?」
「そんなに警戒しなくていいよ。君の出迎えを学園長に頼まれた男さ」
その隙の無い立ち居振る舞いに自然と間合いを計る嵐。
だがその僅かな挙動は見抜かれていたらしく、男は苦笑いを浮かべながら自分の素性を明かした。
「そうでしたか。こちらの事はご存知のようですがあなたの名前は?」
「ああ、済まない。僕の名前は『高畑・T・タカミチ』。この学園で教師をしている者だ」
よろしくと言って差し出される右手。
嵐は急に無防備になったその男、タカミチに対してとりあえず警戒を解くと握手に応じた。
「それじゃ学園長室まで案内するよ。ついて来てくれ」
「はい」
先に歩くタカミチに続いて歩き出す。
もう既に授業が始まっているんだろう。
教師と思われる声が微かに聞こえてくる事を除けば、廊下は静かなものだ。
嵐はそんな静けさが支配する廊下を歩きながら、目に映るモノをその記憶に刻み込んでいく。
それらの一つ一つを記憶していくごとに彼の脳裏に映った一軒家の映像が鮮明になっていく。
そして同時に郷愁にも似た感情が彼の胸を締め付けるように満たしていった。
「さっきから随分、熱心に周りを見てるけどそんなに珍しいのかい?」
そんな彼の様子を不思議に思ったのか歩みは止めずに目だけを向けて質問するタカミチ。
嵐はその言葉に首を振った。
「珍しい、という事じゃないんだと思います。ただ……そう、なぜかここの空気には懐かしさを感じる。だから自然と目がいってしまうんだと思いますよ」
自分でもよくわかりませんと言うと嵐はまた周囲に視線を走らせる。
タカミチはその言葉に「なるほど」とだけ呟くと視線を前方に戻した。
そして。
「ここが学園長室だ。少し待っていてくれるかい?」
嵐が頷くのを確認してからタカミチは、両開きの木製ドアをノックする。
「タカミチ君かの? 入ってくれ」
中から聞こえてくる、しわがれた声に従いタカミチは入室した。
「(今の声が学園長……。俺に手紙を出した張本人、か)」
緩んでいた緊張の糸を張りなおし、どんな事態に陥っても対処ができるよう自分を御する。
「嵐君、入ってくれ」
中から聞こえるタカミチの声に僅かに頷くと彼はドアを開けた。
入室し目の前にある豪奢な机の先にいる三人の人間に視線を向ける。
「なっ!?」
と同時に御していたはずの彼の心が、無表情だったその顔が、驚愕に彩られた。
「ホッホッホ、君が本郷嵐君か。なかなかいいリアクションをしてくれるのぉ……」
そう言って笑う妙に後頭部の長い和装の老人。
恐らく彼が学園都市をまとめる立場にある学園長『近衛近右衛門』なのだろう。
だが嵐が驚愕したのはその微妙に人間かどうか判別に困る老人の存在ではなく。
その隣でタカミチと共に並んでこちらを見て微笑んでいるスーツ姿の男の存在のせいだった。
それもそのはず。
その男は半年もの間、まったくの音信不通であった彼の『家族』の一人なのだから。
「な、なななっ!?」
「そこまで驚かれると黙っていた身としては、笑っていいのか謝るべきなのか迷うところだね。とりあえず久しぶり、嵐」
金魚のように口をパクパクさせながら混乱の極みにある彼に苦笑いを浮かべる男。
「なんであなたがここにいるんですか!? 『結城さん』!!」
ようやく口に出した絶叫にも似た疑問の声が学園長室に響き渡った。