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子供先生と仮面の男 第三話(ネギま!×仮面ライダー (オリ主・オリ有) 投稿者:紅 投稿日:04/08-02:17 No.27

子供先生と仮面の男

第三話 『警備員、就任』





「説明してもらえますか? 結城さん」

「ああ、勿論だ。だからそんなに睨まないでくれ」



嵐の機嫌は今、最高に悪かった。

家族と慕う相手に騙される形になればそれも仕方の無い話だろう。

しかもそれが『本郷嵐』になってからもっとも長い間、一緒にいた人物であれば尚更だ。



勿論、彼は丈二が本気で自分を騙しているとは思っていない。

軽い冗談、少し驚かせたかっただけなのだと頭ではわかっている。

とはいえ騙されていた事実は変わらないわけで、湧き上がる怒気を抑える事はできない。



早い話、嵐は拗ねているのだ。

身体が二十歳前後のソレであろうと、戦闘能力が人並み外れていようと、膨大な知識を持っていようと。

彼は精神的には十歳の子供に過ぎないのだから。



「一応、私の事を手紙で告げなかった事には理由があるのさ。……君自身に決断させる為という理由がね」



苦笑を収め、真剣な瞳で告げる丈二。

その表情と言葉に、嵐は自分の子供っぽい感情を一時的に切り離した。



「どういう意味です?」

「君は私たちを家族と慕ってくれている。それはとても嬉しい事だし、私も君の事を大切に思っている。だからもしも学園長の手紙に私の事を書けば、君がここに来るだろう事も容易に想像ができた」

「当然ですよ。家族は助け合うモノでしょう?」



丈二の言葉に即答してみせる嵐。

その言葉に学園長、そしてタカミチは「ほう」と驚嘆の息を洩らした。

他人に対して殊更に無関心な傾向にある世の中に置いて、彼のように他人の為に行動できる、あるいはその意思を持つ人種は非常に貴重である事をこの二人は良く知っている。

それ故に先ほどの嵐の発言に驚いたのだ。

そんな二人の様子とは無関係に会話は続く。



「そうだろう。だがそれは『私という存在』が君の決断を誘導してしまった結果だ。それは君の意思ではない」

「……どういう、意味です? 俺が家族を助けたいと思うこの意思が間違っていると?」

「そうではないよ。ただ君は私たちの存在に固執している所がある。自分ではわかっていないかもしれないがね。その結果、君に与えられた選択肢――この場合は学園都市に来るか来ないか――が選択ではなくなってしまう。何故ならばそこに『私』がいるからだ。君の取る道はその事実を知ってしまった瞬間に『来る』一本になってしまう。それは避けたかった」



丈二の言葉に黙り込んでしまう嵐。

それは無言の肯定。

少なくとも彼にはそれを否定する事ができなかった。



もしも学園長からの手紙に丈二の事が書かれていれば彼は内容を吟味する事も、手紙の主である学園長を不審に思う事も無くここを訪れていた事だろう。



それは敬愛する彼らに対する無意識の甘え。

彼らが間違うはずがないと、彼らならば必ず正しい事をしてくれるという妄信に近い信頼。

丈二はソレを見抜いていた。

いや、彼に縁のある人間のほとんどが薄々感じていた事だ。

彼が家族と呼ぶ人々に少なからず依存しているという事は。



だからこそ丈二は今回、ああいう形の手紙を出し、彼に自分の考えで行動するよう促した。

そうする事で彼の甘えを少しずつでも払拭したいと思ったから。



「……君を試すような事をした事は謝る。だが君には自立心と言う物が、自己という物が欠けている。他人の為に行動できるという精神は素晴らしい。だがそれは決して『他人任せ』、『他人の主観』ではあってはならない。『自分の考え』で行動し、生まれた結果にこそ意味があるのだから」



丈二の言葉が終わり、沈黙が場を支配する。

学園長とタカミチは部外者であるが故に沈黙し、丈二は彼の言葉を待つ為に沈黙する。

対する嵐は、俯きながら丈二の言葉を脳内で反芻していた。

沈黙は長く続く。



五分、あるいは十分ほど経った頃。

沈黙を破ったのは嵐だった。



「俺には……結城さんの言いたい事がよくわかりません」



沈痛な、まるで泣いているような響きの言葉。

それは彼の言葉に偽りなどない事を証明するには充分すぎる重さを持っていた。



「俺には結城さんたちが間違った事をするとは思えない。それはこの二年間、あなたたちの行動を身近で見てきて感じた事です。俺には自分の目で聞き、見て知った事を否定することなんてできない」

「……それでいいんだ、嵐。君はまだ物事を一つの視点からしか見ていない。そんな君にいきなり色々な視点で物事を見る事など出来るはずもない事はよくわかっているつもりだ。だがね……今言ったように物の見方と言うものは一つではない。誰かにとっての『善行』が誰かにとっての『悪行』になってしまう。そういう事もあるんだ。そして私たちとて絶対じゃない。誰にでも間違いや過ちというものは確かに存在し、それはこれからも起こりうる事だ。そして過ちや間違いを起こした『誰か』を止めるのもまた私たちの役目なんだよ」



彼の最後の言葉に嵐はびくりと身体を震わせる。



「私もそんな事態が起こるとは思いたくない。だがこれは最低限、必要な事なんだ。皆、普段は意識していないがもしもの場合を想定し、覚悟は決まっている。そしてその覚悟こそが私たちを繋ぎとめる絆になっていると言っても過言ではない。嵐……『仮面ライダー』として生きると言う事は自分の力とその行使に責任を持つという事だ。確固たる自己を持って力を制御するという事なんだよ」



嵐は何も言わない。

ただ小刻みに身体を震わせるだけだ。



「……今はわからなくていい。だが肝に銘じておいてくれ。そして見つけて欲しい。私たちから模倣したモノではなく、誰かに与えられたモノでもない、『君だけの正義』を……」



そう言うと丈二はゆっくりと嵐に近づき、彼の頭をそっと撫でた。



「……十歳の君にこんな話は酷だったね。すまなかった」

「謝らないで…ください。話の意味は理解できなかったけど、あなたが俺を想って言ってくれている事だけは痛いくらいに伝わりましたから……」



嗚咽を堪える嵐に丈二は「ありがとう」とだけ囁く。

嵐の中の『何か』が、ほんの少しだけ変わった瞬間だった。





それからさらに五分ほど経ち、落ち着いた嵐は丈二と共に改めて学園長と相対していた。

二人はそこはかとなくバツが悪そうな表情をしている。



事情を知らない二人の目の前で、自分たちにしかわからない会話をしてしまった事に少なからず負い目を感じているようだ。

丈二の方は若干、恥ずかしそうですらある。



「ふむ。君らがお互いを想っている事は良くわかったがの。ワシらをほっぽって話を進めるのはやめてくれんか?」

「も、申し訳ない。学園長」



ムスリとした表情で文句を言う齢六十を越すだろう老人。

それに対し、ただひたすら謝るスーツ姿の青年。



なんとも締まらない光景である。



学園長の横ではタカミチが口元を押さえて笑っている。

先ほどまでのシリアスな雰囲気は霧散していた。



「さて結城君をイジメルのはこの辺にしておくとして……本郷嵐君」

「はっ、はい!」



真剣な面持ちで名を呼ばれ、つい背筋を伸ばす嵐。

その横では丈二が肩を落として「イ、イジメ……」などと呟いているが二人は無視した。



「ああ、そんなに畏まらないでかまわんよ。……改めて名乗ろう。ワシの名は『近衛近右衛門』。この学園をまとめる立場にある者じゃ。君の事は結城君から聞いている。改めて問おう。ワシからの頼み、聞いてもらえるんか?」



キラリと光る老人の瞳を真っ直ぐに見据える嵐。

一呼吸の間を置くと彼はこう言った。



「……内容次第です」



その言葉の意味するところを察し、しょげていた丈二は微笑みを浮かべる。

自分の話の意味が無意識であっても彼に伝わっている事がわかったからだ。



丈二がここにいるという事は『学園長の頼み』には少なからず彼が関わっている事を示している。



少し前、ほんの数十分前の嵐ならば一もニもなく頼みを引き受けていただろう。

先ほどまでの会話が示すようにそこに『丈二』がいるからという理由で。



だが彼はそうしなかった。

まだ本人は自覚していないのだろうが。



それでも丈二はこの兆候を喜んだ。



「ふむ。頼みと言うのは他でもない。二週間ほど前からこの都市で起こり始めた怪事件の事じゃ」

「学園長、申し訳ないが俺はまだその怪事件の詳細を知らない。まずはそれがどういった事件なのかを話して欲しいのですが……」

「おお、それはすまんかった。事件と言うのは……殺人事件じゃよ。それも被害者が極めて異常な殺され方をする、の」



タカミチと丈二は顔を歪める。

対して嵐は一切の表情を消した。

第三者が見れば冷徹な、まるで出来のいい人形のような、そんな表情をしている。

だがそれが上辺だけの物であるという事はこの場の誰もが気づいていた。

何故ならば彼は拳を白くなるほどに握り締めていたからだ。



「続けてください」

「うむ。そのやり方を直接、見た者はいないが現場には粘着性の高い糸のような物で全身を包まれた死体が転がっていたそうじゃ。糸の中にあった死体は焼け爛れていてその原型をほとんど留めておらんかった。結城君の調査によれば死体に巻き付いていた糸に微かながら焦げた痕があったらしい……」

「それはつまり……その糸とやらで生きている人間の全身を包んだ後に中の人間を燃やして殺している、という事ですか?」

「……私たちもその仮説に行き着いた。そしてそんな真似が出来る『人間』はそうそういないだろう。出来れば外れてほしい予想ではあるが……犯人は恐らく……」

「『怪人』、ですね?」



嵐の言葉に、無言で首肯する丈二。



「結城君から君たちが戦ってきた者達については聞いていたが、それがまさかこの麻帆良の地に現れるとはのぉ……」



長く、重いため息をつく学園長。

既に何名かの犠牲者を出している事件なだけにその思いは切実だ。



「今まで襲われた者たちに共通点はない。老若男女の区別もなければその経歴にも共通点は見出せなかった。つまり完全な無差別殺人だ」

「僕たち教師も生徒たちに早めに下校するよう呼びかけると共に夜間の見回りを強化しているが、犯人はこちらの対策をあざ笑っているみたいに人を襲っている。こちらの警戒網をすり抜けてまったく気づかせずに……ね」

「生徒に被害が無い事だけが不幸中の幸いだが、それもいつ犠牲者が出るかもわからない状況だ。つい先日、最も新しい犠牲者が出た。見回りをしていた学園の警備員二名だったよ。どうやら少しずつ学園に近づいているようだ」



三人の搾り出すような声音の言葉が事態の深刻さを物語っている。

嵐はその会話の一字一句を記憶に刻み込みながら、それらの情報をまとめていた。



「……俺への頼みと言うのは、その『犯人』の逮捕、あるいは退治ですか?」

「そうじゃ。警備員にまで被害者が出てしまった以上、『普通』の人間ではこの事件に対処できんとワシは判断した。もちろんワシらの中にも『こういう事件』に対処できるだろう者たちはおる。ここにおるタカミチ君もその一人じゃ。じゃがそれでも足りんとワシは思っておる。じゃからワシは君にこの事件の捜査と学園の警備を頼みたい。正義の意味を知り、実行する者の一人である君に……」

「……」



嵐はここに来て何度目かの沈黙をする。

だがそれはただの沈黙ではない。



彼は黙して考えていた。

己は今、この事件の概要を聞いてどう思ったかを。



「(……許せないな)」



ただ一言で言い表せる言葉。

その言葉だけで嵐には充分だった。



「俺にどれほどの事が出来るかはわかりませんが……引き受けます。これからよろしくお願いします」



そう言って彼は深々と頭を下げる。



「ありがとう、本郷君。では本日付けで君はここ麻帆良学園中等部の『警備員』をしてもらう。急な話ですまんが警備員としての仕事は明日から始めてほしい。この書類に目を通しておいてくれ」



渡された書類を受け取り、もう一度だけ頭を下げて退出する。

その隣には丈二の姿もある。

ここにいる間の実質的な保護者という事になっているのだ。



「まずはこの学園の地理を把握しないといけないな。今日は道案内がてら色々と回ろう」

「そうですね。案内、よろしくお願いします。結城さん」



笑顔で話しかける丈二に嵐も笑顔で応える。

そして二人は中等部校舎を後にしていった。



この翌日、警備員『本郷嵐』が誕生し、学園都市に色々な意味で旋風を巻き起こす事になる。





おまけ

結城丈二が麻帆良にいる理由。





「そういえば結城さん。結局、あなたはなんでこの学園都市にいたんですか?」

「ああ、そう言えば言ってなかったね。私はここの大学部で教鞭を取ってるんだ」

「ええっ!?」

「正確には教鞭を取る事と引き換えに、研究室を一つ借りさせてもらっているのさ。ライダー仲間の身体チェックができる設備は幾つあっても困らないからね。学園長は我々、『仮面ライダー』の理解者でもあったから、そういう施設を作るのにココはうってつけだったのさ」

「そ、そうだったんですか……」

「秘密裏に作っていたからね。完成前に不用意に連絡を取って場所を漏洩させるわけにはいかなかった。この半年間は研究室の整理と授業、夜間の見回りと忙しくてね。完成してからもつい連絡を忘れてしまったんだ。余計な心配をかけてすまなかった」

「な、なるほど。そういう理由なら俺が怒る理由はありませんよ。気にしないでください」

「(本当は彼らが使う『魔法』の理論の研究とそれを武装に応用できないか試していたんだが……それはまだ言わない方がいいな)」





今度こそ終了。

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