子供先生と仮面の男 第四話(ネギま!×仮面ライダー (オリ主・オリ有) 投稿者:紅 投稿日:04/08-02:19 No.28
子供先生と仮面の男
第四話 『矛盾した再会。そして……変身』
嵐はいつものように五時に目を覚ました。
掛け布団を脇に退け、身体を伸ばす。
「……今日から警備員、か」
寝巻き代わりにしていたTシャツを脱ぎ、用意しておいた警備員の制服に着替えていく。
「少しキツイな。……動きにくい」
着込んだ制服のまま試しに動いてみる。
サイズがぴったりであるにも関わらず、嵐にはその動きが微妙ながらいつものものより鈍く感じられた。
「慣れるしかないな」
そう言って自分を納得させると、彼は立てかけてあった帽子を右手に部屋を出て行った。
ここは丈二がこの麻帆良都市での住居としている二階建ての一軒家。
学園都市の中でも奥まった場所にあるここは周囲を森に囲まれている。
丈二曰く「土地の余った場所がここしかなかった」との事だ。
嵐と丈二は昨日、学園都市の主要拠点と『例の事件』の現場を廻った後、ここに来た。
丈二自身は研究室に篭もりっきりになる事が多くあまり帰って来ない場所なのだが、嵐の保護者が自分になった事もあり必然的にこの場所に来る事になったのだ。
「おはよう、嵐。よく眠れたかい?」
キッチンにはインスタントコーヒーを入れている丈二の姿があった。
基本的に仮面ライダーの面々は食事面に疎い。
作れる者もいるがほとんどの人間が不得手だ。
特に嵐の父である本郷猛(ほんごう・たけし)はその分野に置いては破滅的に駄目なのである。
以前、彼が入れたコーヒーを飲んだ面々から『台所への進入、及び料理それに準ずる行為の全面禁止』を言い渡されるほどなのだからその駄目さ加減がよくわかると言う物だろう。
「おはようございます、結城さん。インスタントはあまり美味しくありませんよ?」
「起き抜けの頭を覚醒させたいだけだからね。あまり味にはこだわらないからインスタントでいいのさ」
そう言って出来上がったコーヒーを飲む。
その様子に苦笑しながら嵐は、自分の分のコーヒーを入れ始めた。
「嵐、今日から仕事が始まるわけだがどうだい? 今の気分は?」
「……少し緊張してます。なにせこれからは出会う人の全てが赤の他人なんですから……」
嵐は助けられた当初、酷い人間不信に陥っていた。
直接、助けてくれた猛以外には藤兵衛にすら心を開かなかったのだ。
ライダーたちや滝、『ジュニアライダー隊』のメンバーや『一条ルミ』らの献身的な介護によって今ではそれなりに回復してはいるが、今でも初対面の人間相手では一線引いてしまう所が彼には残っている。
だからこその緊張であり不安なのだ。
「誰でもそういうものだよ、嵐。初対面の人間が相手ならそれも仕方がない事だ。私たちだってそうなのだからね。それは決して珍しい事じゃない。相手を信頼するにはどうしても時間が必要なんだ。そこに至るまでの過程で相手を誤解する事も、君が誤解される事もある。意見の食い違いでいがみ合う事だってあるだろう。だがそれを乗り越えなければ信頼など生まれはしない。滝さんが昔、こんな事を言っていたよ。『疑っている内は敵を見抜けるかもしれない。だが信じなければ仲間は見つからない』とね。あの人らしいセリフだと思わないか?」
「疑っている内は敵を見抜けるかもしれない。信じなければ……仲間は見つからない…」
言葉を反芻している嵐を、彼は笑みを浮かべながら見つめる。
やがて嵐はふぅーっと長めに息を吐くと丈二に釣られるように笑みを浮かべた。
「本当にあの人らしいですね……」
「そうだろう?」
彼の緊張や不安はいつの間にかほとんど消えている。
丈二はその様子を見てさらに笑みを深くした。
「それじゃ先に行きます」
「ああ、いってらっしゃい」
彼は帽子をかぶり、警備員の証である腕章をつけると結城邸を後にした。
十数分後、彼は学園長室の前に来ていた。
学園長の話によれば一度、中等部の教師と顔合わせをしておきたいらしい。
彼は一度、深呼吸をしてからドアをノックする。
「入ってよいぞ」
しわがれた声の許可を受けると彼は「失礼します」と断りを入れてから入室する。
中には十人ほどの教師が並んでいた。
その誰もが嵐の一挙一動に注目している。
彼らと対峙する形で嵐は直立姿勢をとった。
「皆、彼が新しく中等部の警備を担当する事になった者じゃ。本郷嵐君という」
視線で自己紹介を促す学園長に軽く頷いてから口を開く。
「本郷嵐です。ここには来たばかりですので何か失敗をしてしまう事もあるかもしれませんがよろしくお願いします」
一息にそこまで言い、深々と頭を下げる。
その微塵の揺るぎも感じさせない動きに教師たちは軽く驚くが、頭を下げている嵐にはわからなかった。
「うむ。嵐君、君の正面にいる彼が中等部教員と『学園広域生活指導員』を担当している新田君じゃ」
紹介されて前に出る中年の教員。
その着慣れた感じのするスーツ姿と縁のあるメガネが彼の生真面目さと勤勉さを表していた。
「よろしく。……現在、この学園都市で起こっている妙な事件については君も知っていると思う。だがこれ以上あのような事件の犠牲者を増やすわけにはいかない。……ましてや生徒に被害が出る事などあってはならない! この事件の犯人を捕まえるために、引いては生徒たちの平穏の為に! 君の力を貸して欲しい」
ガシッと嵐の右腕を取りながら熱の篭もった口調でまくしたてる新田。
背後に炎を背負うが如くの気迫だった。
それは生徒たちを想う気持ちが形になっているように嵐には感じられた。
そして漠然とこう思う。
「(ああ、この人は良い人なんだな)」
「これこれ、新田君。彼が困っておるからもう少し落ち着きなさい」
「むっ、これは失礼。最近は夜の見回りなどで忙しくてね。少し苛立っていたようだ」
「いえ、気になさらないでください。今のあなたの言葉であなたがどういう人柄なのかがわかりましたから」
生徒を本当に大事に想っているんですねと彼が続けると新田は頬を掻きながら顔を逸らした。
その様子に笑みを浮かべる教員一同。
そんな一幕を交えながら彼らの自己紹介は続く。
「彼は瀬流彦君。その隣が二ノ宮君じゃ」
「よろしくお願いします」
「よろしく。頼りにしてるよ、警備員さん」
「はい。これからよろしくお願いします」
最後の二人との挨拶を終え、その場は解散になる。
だが嵐は学園長にもうしばらく残って欲しいと言われ、その場に残っていた。
「これから上手くいきそうかの? 本郷君」
「先生方の第一印象は悪くありませんでした。……あとはこれからの俺次第です。ところで学園長、なぜ俺だけをここに残したんですか?」
「なぁにもう一人、今日からここに来る教育実習生がおってな。一応、彼とも顔合わせをさせておこうと思ったんじゃよ。今、タカミチ君が迎えにいっとる」
そんな会話をしているとドアをノックする音が聞こえてきた。
「入りなさい」
短く許可を下ろし、入室を促す。
嵐は自然と視線をドアの方に向けていた。
最初に入って来たのはタカミチ。
彼は警備員の制服を着た嵐を見て目だけで驚いて見せるがすぐに声には出さずに「似合っているよ」と口を動かした。
次に入って来たのは二人の女の子。
一人は長めの黒髪をなびかせながら、のほほんとした笑みをたたえた少女。
もう一人ははいかにも不機嫌ですと言った顔つきの少女。
気の強そうな感じのする彼女が動くたびにツインテールにしている髪を止めている鈴のアクセサリーが涼やかな音を立てている。
学園の生徒なのだろう。
黒髪の少女は制服で、ツインテールの少女はジャージだったが間違いなくこの学園のものだ。
「学園長。教育実習生の方がいないようですが?」
「ああ、嵐君。ちゃんといるよ。ネギ君、入ってきてくれ」
「はっ、はい!」
三人の後ろから聞こえてくる幼い声。
それに引き寄せられるように嵐はそちらに視線を移した。
そこにはその小さな身体に不相応な大きさのリュックサックを背負い、妙に長い布に包まれた棒のようなモノを持った少年が立っていた。
そして彼を見た瞬間。
――――――ドクン!
嵐の中で。
――――――ドクン!
『何か』が弾けた。
『■■■くん! 君の夢ってなーに?』
『夢ぇ? そうだなぁ、僕の夢は世界中を見て回る事かな!』
『へぇ~~、そうなんだぁ~~』
『そういう■■、お前はなんなんだよ?』
『えへへ! 僕の夢はね、お父さんみたいな立派な魔法使いになる事だよ!』
『へぇー、大きい夢だなぁ。じゃあさ、どっちが先に夢を叶えるか競争だな!!』
『ウン! 負けないよ、■■■くん!』
嵐の頭を駆け巡る二人の少年のやり取り。
それは彼が失くしたはずの記憶の一部だった。
「はっ!?」
嵐はベッドから跳ね起きた。
その拍子に安い造りのベッドがギシギシと音を立てる。
「はぁ、はぁ、はぁ……なにが、あったんだ? 俺は……どうしてここに、いやそれよりもここは……?」
呼吸を整え、状況を分析する。
だが未だ混乱している彼には今の状況を把握する術はなかった。
「お目覚めになりましたか?」
「えっ?」
柔らかな口調の女性の声に嵐はつい間抜けな返事をしてしまう。
声のした方に視線を向けると、そこには金髪を流れるままにした女性が立っていた。
嵐はその女性の事を記憶の棚から捜そうとするが該当する人物はいない。
「……あの、すみませんがあなたは?」
「ふふふ、すみません。私の名前は『源しずな』です。ネギ先生――今日付けでいらした教育実習生の指導教員をしています」
よろしくと言って差し出される右手を反射的に握り返す。
「俺は本郷嵐と言います。申し訳ないんですがなぜ俺がここにいるのか、その理由を教えていただけませんか?」
「あなたはネギ先生が学園長室に入るのとほぼ同時に倒れてしまったの。覚えていないかしら?」
そう言われ、ようやくマトモに機能し始めた頭をフル稼働させる嵐。
そして確かに自分は学園長室にいた事を思い出した。
「……思い出しました。なぜか急に目の前が暗くなって。……俺をここまで運んでくれたのは高畑先生ですか?」
「ええ、そうです。あの場にいた人たちはみんな、酷く慌てていたみたいですよ?」
「そうですか。初日からこんな事では先が思いやられますね……」
ふぅっとため息をつく。
軽く身体を動かし、どこにも異常がない事を確認すると彼はベッドを出た。
「もうよろしいんですか?」
「ええ。身体に不調はないようですし、とりあえず学園長の所にもう一度行ってきます。迷惑をかけてしまいましたから謝罪だけでもしないと……」
「無理はなさらないでくださいね?」
「自分の限界くらいは心得ているつもりです。わざわざ見に来てくださってありがとうございました」
しずなに深々と頭を下げると嵐は保健室を出て行った。
嵐はその後、すぐに学園長室に向かい迷惑をかけた件を謝罪した。
学園長は「特に気にしていないが今後は体調管理に気をつけてほしい」とだけ言い、学園周辺の見取り図を彼に渡すと退室させた。
そして現在、嵐は見取り図片手に学園の敷地を徘徊していた。
「ここは……周囲に障害物が多い。……要注意だな」
目に留まった箇所で周りを見回し、見取り図に書き込みを入れていく。
放課後になるまでの間、彼はずっとこの地味とも言える作業を続けていた。
そして同時に考える。
今回の事件に関与しているだろう『怪人(仮定)』の行動目的とその傾向を。
「(この学園に現れた理由……わからない。人を襲う理由……ただ単純に殺戮思考なだけ?そんな単純な怪人がこれほど見事に姿を晦ませていられるだろうか? それに昼間はまったく出てこない理由もわからない……。日光に弱いタイプなのか? 在り得る話だが確証はない。……クソッ! 情報が足りな過ぎる。だが今までのヤツの動きから少しずつこの中等部校舎に迫ってきている事は間違いない。しばらくは徹夜になるかもしれないな)」
脳内で情報を整理、それから導き出される推測を並べ、さらに自分が取るべき行動をピックアップしていく。
その情報演算能力は恐るべきもので、最終的な結論に達するまでの時間は僅か一分足らず。
これは他のライダーでもなかなか真似のできない事だ。
ただ問題点は思考に没頭する嵐はその間、完全な無防備状態になるという事だろう。
それ故に。
ドン!
「んっ?」
「あっ!?」
彼は目の前を歩いてくる山ほどの本を持った少女に気づけずに正面衝突してしまった。
だが一瞬で思考の海から立ち戻った彼の行動は迅速にして無駄なし。
衝突した衝撃で倒れそうになる少女の腕を掴み、腕を痛めないよう優しく引き寄せる。
それと同時に空いている左手で宙を舞う本を全て回収、絶妙なバランスを保ちながら片手で支える。
少女は自分に何が起こったのかわかっていない様子で目をぱちくりさせていた。
「えっ? えっ?」
「すまない。少しぼうっとしていて君に気づけなかった。怪我はないか?」
ようやく状況を掴んだのだろう、慌てた様子で嵐の手を振り解く少女。
「あ、あの! え、えっと!?」
「これだけの本を一人で持っていくのはかなりの重労働だぞ? そちらが良ければ手伝うが……」
「い、いえ! これくらいいつもの事ですから! け、けけけ結構です! ほんとにだいじょうぶです!」
そう言ってクラスメートが見たら驚くだろうほど機敏な動きで嵐が持っていた本を取り返すと少女は走り去ってしまった。
「(……俺はそんなにすぐに逃げだしたくなるほど怖い外見なのか?)」
自分のトレードマークとも言える真っ白な髪を手で弄びながら軽く落ち込む。
だがすぐに気を取り直すと、見取り図片手にまた歩き出した。
嵐は知らない。
この後、脱兎の如く逃げ出した少女が階段から足を踏み外し、その少女を助けたが為に今日来たばかりの教育実習生の秘密が一人の学生にバレてしまうという珍事を。
そして教育実習生、いや『ネギ・スプリングフィールド』の存在とその秘密である『魔法』が、彼の失った記憶に密接な関わりを持っているという事を。
夜。
それは街が姿を変える時間。
昼間あったはずのモノが消え、なかったはずのモノが現れる時間。
嵐は懐中電灯を右手に夜闇を照らしながら、道なりに進んでいく。
左手には一日かけて色々と書き込んだ見取り図。
時々、そちらに視線を向けながら彼は周囲に目を走らせていた。
「(……異常無しだな……。……さっきから感じる後ろの気配を除けば、だが……)」
チラリと背後を窺う。
さっきから……正確には二時間前、彼が夜の見回りを開始してすぐから背後に感じる人の気配は出てくる様子もなくただ嵐の一挙一動を監視していた。
「(……学園長の差し金か? 俺の能力、あるいは性格を信じきれずに行動の監視を……ありえないとは言えないな)」
結局、向こうから何かしてこないなら放っておくという結論に達した嵐は見回りを続行した。
そして彼は今宵、『敵』と遭遇する事になる。
「うわぁあああああああ………!!!!」
「っ!!!!」
聞き覚えのある男性の声。
それが耳に届いた瞬間、彼は監視者の事も忘れて駆け出した。
自分の持ちうる最高の速度で声の聞こえてきた方向を目指して走る。
そして駆けつけた現場には。
闇に溶け込むような色合いをした四メートルはあるだろう巨大蜘蛛と今、まさに襲われようとしているスーツ姿の男の姿があった。
「やめろぉおおおおおおおおおおおお!!!!」
その様を見た瞬間、怒りで嵐の視界が真っ赤に染まる。
その周囲に響き渡る怒声に巨大蜘蛛は動きを止め、嵐に視線を向けた。
「き、君は本郷君!? だ、だめだ!! 早く逃げなさいッ!!」
スーツ姿の男、新田が叫ぶ。
それはほとんど見知らぬ他人であるはずの嵐を案じての言葉。
彼はこんな緊迫した状況にありながら、そんな言葉を聞けた事を嬉しく思っていた。
「(やっぱりあなたは良い人でしたね、新田先生)。来い、化け物蜘蛛! お前の相手は……俺だ!!」
その一言を挑発と受け取った蜘蛛は新田から嵐にターゲットを移した。
その巨躯からは想像できない俊敏さで迫る蜘蛛。
その迫り来る蜘蛛の頭部、怪しく光る六つの眼球を真正面から睨みすえる嵐。
「なッ! 早く逃げるんだッ!!」
「…………」
新田の悲痛な叫びを聞き流しながら嵐は右腕を天に掲げる。
左手をキツく握り締め、腰の位置に置いた。
「……」
掲げた右手をキツく握り締め、身体の横へと下ろしていく。
ソレにあわせて腰の左腕を右手と対極になるように広げる。
蜘蛛や新田から見ればそれは正に『大の字』の形に見えただろう。
そこまでで彼の動きが止まった。
同時に彼の腰の部分が歪み、服の内側から『何か』が出現する。
それは中心に黒い宝玉を埋め込まれた『ベルト』だった。
そして彼は自分を『人ならざる者』へと変える言葉と共に、握り締めた両手を自分の眼前で叩き合わせる。
「変、身ッ!!!」
ベルトの宝玉が眩い光を発する。
その光はまるで暗い闇夜を照らすように、闇を根城にするモノたちを焼き尽くすように周囲を包み込む。
そして発光が止んだその場に『本郷嵐』という青年の姿は無かった。
代わりに現れたのは『異形』。
蒼を基調にした流線型のボディ。
丸く、紅い瞳をした頭部。
その額にある天を貫けとばかりに伸びる二本の角。
そして嵐の頃と変わらず、風になびき続ける真っ白な髪。
それは知られざる英雄の姿。
人とは呼ばれぬ身でありながらそれでも尚、人で在り続けようとする愚者の姿。
獲物の突然の変貌にその動きを止める蜘蛛。
「き、君はいったい……」
怪我をしたのだろう右腕を庇いながら、呆然と問いかける新田。
嵐だった存在は右手を握り締め、蜘蛛に向かって突き出すと今の己の名を告げた。
「俺の名は『ヴォイド』……弱き人々の楯であり、貴様のような理不尽な悪を打ち倒す者だ」